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                      国語教育近代化の理論と実践   2012年1月16日
                                         校了としますがお気づきの点がありましたら
                                        連絡いただけたら幸いです。 
                                               国語教育科学研究所 再刊
「国語教育近代化の埋論と実践」 PDF版

                          中沢政雄著








                国語教育近代化の埋論と実践





                                 三省堂



             はしがき

 国語教育を科学化し、 近代化することは、 恒内松三先生以来ずっと国語教育界が求め続けてきた一つの理想であ
る。特に最近は政治も経済も文化も教育も、あらゆる部門にわたって、その近代化が要請されている。
 わが国語教育界では、輿水実先生のその科学化・近代化の提唱があつて、活発な論議が展開され、いくたの試みが
なされている。 私どもの国語教育科学研究会でも、昭和35年以来、志を同じくする人々が集まって、国語教育の
科学化・近代化の研究と実践のために、ひたすら精進を続けている。
 その研究・実践にあたっては、近代的国語教育の理論体系を確立し、その目標・内容・方法等の科学化・近代化を
図って、その全体構造を明らかにした。本書に説くところは、すべてその理論と実践の結果である。
 第一章「国語教育の近代化」は、昭和38年1月25日、国科研の例会において、「国語教育近代化の構想」
と題して行なった講演の要領筆記である。私は、この講演で、近代化への構えと、その全体構造とを明らかにしたつ
もりである。
 第2章 「国語教育の科学化」は、 昭和38年9月23日、札幌市における北海道国語教育研究大会で行なった
講演に、手を加えたものである。この講演では、国語教育科学化の内容や方法について述べ、ここでもその全体構造
を明らかにした。
          はしがき                                                      
          はしがき                                                      
 この二つの章は、やや古くなるが、私の研究の構え・目的・方法の出発点であり、到達点でもあるので、あえて収
載した。
 第三章以下は、すべてその後の各地における講演・講義の筆記と実験結果の記録である。したがって、各章それぞ
れ独立して説かれている。そのため内容に重複する部分もあるが、今はそのままとし、講演・講義の体裁を残して編
集した。
 説くところは広い範囲にわたり、なお、ふじゅうぶんなところも多いが、ひとまずまとめて一書とした。きたんの
ないご批判を賜わりたい。
 例によって、本書も多くのかたがたのご協力によってできた・特に中津留喜美男・八田洋弥・伴定子のみなさんか
らは、貴重な原稿をいただいて本書を飾ることができた。また、国語教育科学研究会のみなさんには、講演の速記、
原稿の整理、索引の作成などひとかたならぬお世話になった。東京都の中幡小学校、新潟県の新津第一小学校、静岡
県の清水小学校からは、それぞれの研究の成果をいただいた。
 このように、多くのかたがたのご協力を得て本書はできあがった、ここに改めて敬意と感謝とを捧げたい。
 終わりに、本書を、国語教育科学の大成に生涯をかけておられる輿水実先生に捧げ、日ごろのご指導を謝するとと
もに、厳しいご批判、ご指導を賜わるようお願いしたい。
   昭和四十年十二月二十二日
                                        中 沢 政 雄


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第1章 国語教育の近代化
  1 近代の本質…………………………………………1   2 国語教育近代化の構想…………………………… 4
第2章 国語教育の科学化
  1 国語教習科学化の考え方……………………… 25   3 国語教育科学化の方法……………………………57
  2 国語教育科学化の全体構造…………………… 28   4 国語教育科学化の手順……‥……………………60
第3章 学習指導過程の科学化
  1 学習指導過程とは何か――本質……………… 64   5 機能的国語教育の生産的指導過程の編成
  2 指導過程はどのように移り変わってきたか         ――基準…………………………………………87
     ――歴史……………………・……………… 68   6 聞くこと・話すことの実践指導過程
  3 これからの学習指導過程はどうあるべきか         ――実践…………………………………………99
     ――理想……………………………………… 78   7 読解の実践的指導過程………………………… 117
  4 学習指導過程編成の原理は何か――原理…… 82
第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
          目次                                          1
          目次                                          2
  1 国語能力養成の科学化の構想…………………144   3 読解力養成の科学化……………………………169
  2 聞く・話す能力養成の科学化…………………154   4 作文能力養成の科学化…………………………216
第5章 読解教材研究の科学的方法
  1 読解教材の本質・機能…………………………226   3 読解教材の見方・考え方――文章観…………228
  2 読解教材研究の考え方…………………………227   4 読解教材研究の方法……………………………233
第6章 文学指導の近代化
  1 国語科における文学教育の歴史………………261   4 文学経験の過程――人間形成・能力養成
  2 国語科における文章教育の目標――人間性         の過程…………………………………………279
     の開発伸長と文章技術の習得………………264   5 文学経験の処理能力……………………………286
  3 機能的文学教育――文学の機能と文学経験      6 文学経験の指導過程……………………………293
     の教育…………………………………………268   7 文学経験の指導上の問題点‥…………………296
第7章 作文指導の近代化
  1 作文指導の領域…………………………………344   5 記述過程の科学的研究…………………………368
  2 作文の新しい指導過程…………………………347   6 コンポジションの指導…………………………379
  3 作文能力の発達…………………………………352   7 発想指導…………………………………………382
  4 作文教材の学習とその効果……………………359
 索   引…………………………………………………………………………………………………………………… 巻末



     第1章 国語教育の近代化



        1 近代の本質

 国語教育を近代化するために、まず、その基礎となる近代の本質を明らかにしてみたい。
 いったい、近代人はどんな生き方をしているのか。どう生きようとしているのか。どんな性格を持っているのか.
近代社会の特性、近代社会を動かしている思想・精神は何か。近代文化の特質は何か。近代建築・近代美術・近代文
学などの精神的基盤は何か。近代の諸科学の特性は何か。それはどんな方向に動いているのか。近代教育はどんな方
向をたどろうとしているのかなど、近代社会・近代思想・近代文化・近代美術・近代教育などの特性・特質を明らか
にする。
 そして、それらの底を一貫して流れているものは何か。その中核となり、基盤となっているものは何か。それらを
統制している法則・原理は何かなど、それらの背後や、中核にある法則的、原理的、基盤的なものを明らかにする。
近代の本質はそこに求める必要がある。
 このようにして得た近代性・近代精神によって国語教育を覆い、貫くところに近代化がある。
 近代の持つ特性を私は次のようにみる.
1 人間性−近代的人間像の特性
 現代は、人間疎外の時代であると言われている。機械文明の発達、科学技術の進歩によって、人間はしだいに機械  1
          1 近代の本質
          第1章  国語教育の近代化
化されようとしている。ある生産機構の一面、一部を担当する機械的存在となって、しだいに人間性を失い、考える  2
機械と化している。
 近代人は、科学を生む創造性、科学をつかさどる叡知、科学技術を駆使する心性と判断力などを備えている必要が
ある。それは豊かな人間性を持って、科学の進歩を図り、科学を支配できる人になることを意味している。
 現代ほど人間性の回復、人間性の開発・伸長の望まれる時代はない。人間性の尊重ということは近代の特性の一つ
である。人間性の開発こそ現代の喫緊事である。
2 科学性――近代方法論の特性
 近代の特性の一つは科学の進歩である。科学技術の発達である。近代ほど科学が飛躍的に、目にもとまらぬ速さで
進歩した時代はない。それは、単に科学・科学技術の面だけではない。政治も経済も文化も社会も学問も、あらゆる
部門が合理化され、客観化され、一般化されて、 つまり、 科学性を持つことによって、それぞれ長足の進歩をとげ
た。近代が科学の時代と言われるゆえんである。
 科学性は、現状認識の原理であり、現状処理の原理でもある。
3 機能性――近代精神の特性
 いろいろなことがら・現象等を機能的に考え、その機能をみようとするのは近代の特性である。機能性は、そのも
のの本質的な働きに名づけたものである。ことがらを、そのものとその作用との関連においてみる。また、作用その
ものをみるものである。つまり、ことがらそのものだけをみず、ことがらの他への働きかけをみようとする。機能と
構造とを一体としてみようとする。この考え方を機能主義と呼んでいる。
 近代建築は機能主義建築である。近代美術は、その精神的基盤として、抽象主義・機能主義をとっている。心理学
の歴史は機能主義心理学を生んだ。機能主義文学も生まれつつある。機能的言語観も成立した。
 科学も芸術も文化もその精神的基盤として機能主義をとっている。 機能性こそ近代精神の重要な基盤と考えられ
る。
4 集団性――近代社会の特性
 近代は、単位社会集団の時代である。社会活動も文化活動も研究活動も、すべて社会集団を単位として行なわれて
いる。教育も住居も生活も集団を単位として営まれている。
 個人単位から集団単位へと移行しているのが近代の特徴である。集団で思考し、集団で決定し、集団で行動する。
集団によって自己の発展を図り、自己を集団に反映して集団の発展を図る。
 集団性は、近代社会構成の基盤である。
5 批判性−近代精神形成の特性
 近代はマスコミの時代である。マスメディアによって大衆社会支配の行なわれている時代である。マスメディアに
よって送り出され、流布されることばの中には、魔術が潜んでいる。それにいかに反応するかが問題である。そこに
一般意味論の導入の問題がある。
 現代はまた、言論の自由の時代である。したがって、それぞれの意見・主張の異同を明らかにする心要がある。ま
た、言論の正否の判断が的確に行なわれなければならない。
 批判精神の確立が要請されるのはそのためである。批判精神の確立した主体性の尊重されるのもそのためである。
6 直観性――文化習得の特性
 現代は視聴覚文化の時代だと言われている。まさに文化習得の方法の革命の時代である。文字による文化の習得か  3
          1 近代の本質
          第1章  国語教育の近代化
ら、しだいに音声言語や形象による文化習得の時代へと、大きく発展した。ディスカッションや視聴覚的方法による  4
文化の獲得の方法が急速に発達した。
 したがって、直観によってその全貌をつかみ、その法則性を発見し、その本質に迫る認識力・思考力の養成が必要
である。直観によるスピーディな思考、スピーディな判断、眼光紙背に徹するほどの深い洞察力が要請される。鋭い
直観力は近代人の具備すべき資質である。
 私は、近代を分析して、人間性・科学性・機能性・集団性・批判性・直観性などをその特性とみ、そこに近代の本
質をとらえた。
 国語教育を近代化するということは、国語教育の目標・内容・方法のすべてにわたって、このような近代性を与え
ることである。近代の本質に即して、近代的性格を持たせることである。

     2 国語教育近代化の構想

(1) 近代的国語教育の持つべき性格は何か

 最近国語教育の近代化ということがしきりに言われている。しかしその全貌は明らかではない。その全体構造を提
示するものもいない。ただ読解のプログラム学習が提唱されたり、技能養成が強調されたりしている。また、いっぽ
う国語教育の科学化が説かれたりしている。
 そこで、近代的国語教育はどんな性格を持ち、どんなしくみを持つべきかについて考えてみたい。
1 歴史性――歴史的現実・発展性・志向――を持つ
 近代的国語教育は、歴史性・科学性・真理性、この三つのものを根底に持つべきだと思う。このことについては、
「機能的国語教育(明治図書)」のなかにすでに述べてある。
 まず、近代的国語教育は、歴史性を持っている。したがってそれは国語教育の歴史を背負うと同時に、将来を志向
する国語教育である。国語教育を歴史の流れにそってみると、そこには、いつの時代でも変わることのない、いわゆ
る不易の面と、その時代時代の要請によって変わっていく流行の面とがある。その流行の面についてみてもまた、歴
史的な志向を持っている。言い換えると過去を含んでいる。伝統を背負っている。しかも未来をその中にはらんでい
る。歴史的発展が約束されている。そういう国語教育でなければならない。またそれは当然歴史的現在をになう国語
教育、つまり近代性を持っている国語教育、近代社会の要請を取り入れた国語教育である。このような意味での歴史
性を持った国語教育でないと、近代化された国語教育とは言えない。
2 科学性――科学的実態・客観性・合理性――を持つ
 次には、科学性を持った国語教育を組織する。この場合にも二つの面がある。一つは、現在行なわれている国語教
育の実態を考えた場合に、そこに客観性・普遍性を持たせるようにする。つまり、科学的分析に耐えられるもの、ど
のようにこれを分析していっても、そこに整然とした内容の体系、方法の体系がはっきりしているもの、そういう国
語教育にする。
 それと同時に、実態は、当然人が組織したもの、組み立てたものであるから、そこには合理性が要求される。その
ためには国語教育の内容を組織し、理論の体系を打ちたてる場合、その基礎に科学的操作が必要である。科学的操作  5
          2 語教育近代化の構想
          第2章 語教育の近代化
を経て組織され、体系化された国語教育、生理学・心理学・教育学・社会学等の諸科学の研究の成果を取り入れて組  6
織した国語教育、われわれが科学的に実験し、 調査し、 研究したりして得た原理・原則などを適用して得た国語教
育、それが科学性を持った国語教育である。
3 真理性――教育理想・指導理論・法則性――を持つ
 次には、真理性を持っていること。これも二つに分ける。一つは国語教育の本質的なものを究明する。つまり、教
育・国語教育の本質に徹している国語教育であること。他の一つは、国語教育の実態を高め、深めていくための原理
・原則、到達すべき理想等が確立していること。しかもそれらの体系は明確であることがたいせつである。
 要するに、歴史性・科学性・真理性を持った国語教育が近代的国語教育だということである。

(2) 国語教育の近代化に社会は何を求めているか

 国語教育を近代化するのは国語教育の流行の面である。だから、当然現代社会からなんらかの要請があるはずであ
る。その要請にどうこたえるかというところに近代化の契機がある。
 そこで、現代社会は、教育に何を要請しているか。それを国語教育に関係のある面からみていくと、次の五つのこ
とが言われる。
1 科学の時代――科学技術による生産支配
 まず、近代は科学の時代、科学技術の時代、機械化の時代である。科学によって文化を高め、科学技術によって、
生産性を高めようとしている時代である。最近の工場は、非常な勢いでオートメーション化している。電子計算機の
ように、人間の頭脳とあまり変わりないような、仕事をどんどん処理していく機械ができている。人間の手、人間の
頭脳の代わりをする機械、いわゆる人工頭脳がたくさん作られている。宇宙時代もすでに人工衛星から、宇宙遊泳の
実現を見ている。まさに科学技術の勝利である。一般家庭をみても、非常な勢いで電化され機械化されてきた。さら
に、会社・工場においても経営の合理化、生産性の向上が強調されている。まさに科学の時代、科学技術の時代であ
る。こうした科学優先の社会では、科学性・合理性の尊重、科学技術の尊重、生産性・経済性の尊重、創造性・創意
性の尊重などが強調され、そういう技能や人間性を持った人間の育成が要請される。したがって、教育・国語教育の
面でも、科学性・技術性・生産性・経済性・創造性などを取り入れていかなければ近代社会の要請にこたえることが
できない。
2 マスコミの時代――マスメディアによる社会支配
 次には、現代はマスコミの時代である。マスメディアによって社会が支配されている時代だと言っても過言ではな
い。新聞・雑誌・ラジオ・テレビ、あるいは宣伝・広告・ポスター・放送、そういうマスメディアがわれわれの周囲
をぎっしりと取り囲んでいる。テレビの普及率もすでに全国平均83%(昭40)に及び東京などでは、地域によっ
ては、100%近くテレビを備えつけている家庭がある。新聞も、全国平均一人一、二種類の新聞を読んでいると言
われている。このように、マスメディアは、われわれの生活の隅々までゆきわたってきている。したがって、政治も
経済も文化も芸術もあらゆるものがマスメディアを利用して、その意図をわれわれの中に送り込んでくる。
 マスメディアによる社会支配、大衆指導が着々と行なわれている。また、これに乗った商業主義には目にあまるも
のがある。 社会は、 常になんらかのブームからブームへという形で動いている。移り変わっている。しかもそこに
は、言語魔術がはびこっている。われわれはこういう時代に対処しなければならない。マスコミにかき回され、支配
されないためには、ことばとともに事実を見る、事実と意見とを聞き分け、読み分ける、ことばと事実の関係を見抜  7
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
くなど、主体性を確立し、批判精神を旺盛にしなければならない。マスメディアから送り出されることばにどう反応  8
していったらいいか、それはこれからの国語教育にとって重大な問題である。一般意味論の導入、その面からの国語
教育の改善が考えられなければならない。そこにも国語教育近代化の契機がある。
3 単位社会集団の時代――組織による思想支配
 次に、近代は単位社会集団の時代である。組織によって、生活を、思想を、文化を支配しようとしている時代であ
る。あらゆる活動が、社会集団、組織された集団によって行なわれている。世界教育会議とか、世界数学会議などと
いい、世界各国の学者が一堂に集まって、互いにディスカッションしながら研究を深めている。発展させている。あ
るいは、日教組のような大きな組合から、小さな職場の組合まで、いずれも組織を通して生活権擁護のために活動し
ている。あるいは、原水爆禁止運動であるとか、日本国語教育学会とか、国語教育科学研究会とか、すべてこういう
社会集団を作って活動している。 社会運動も、 文化運動も、生産活動も、研究活動も、あらゆる運動あらゆる活動
が、集団を通して行なわれている。集団の文化、集団の芸術、集団の教育、集団の生活、こういう事実を私どもは見
のがすことはできない。個人から集団へ、これは近代社会の一つの大きな特色である。個人単位の時代から、集団単
位の時代へと移り変わってきたと考えられる。
 そうすると、当然、集団を組織する、集団で思考する、集団で行動することが要請される。そういう集団の中で、
個人を鍛え、集団の中で個人の成長発展を図っていく。同時に個人が集団を規制する。個人が集団の発展を考えてい
く。だから、コミュニケーションの技能をわれわれはしっかりと身につけなければならない。集団の中での意志の疏
通、思想の交換、感情の交換、その他あらゆる問題が、相互交通という形で、そこに打ち出されてくる。コミュニケ
ーションの技能をしっかり身につけていないと、いい集団が組織されない。日教組が丹頂鶴などと批判されているの
は、そのいい例である.組合員相互のコミニーケーションがじゅうぶんにできていないからである。個人個人が自分
の意志を集団に反映させる技術を持たない。そういう態度がとれない。すると自分の意志がすっかり集団のために束
縛され押しつぶされて、身動きができなくなってしまう。それではいけない。集団の中に各自の思想を、意志を反映
させることによって、自己の成長発展が約束される。個人の完成が考えられる。個人の成長や発展が社会規制の中で
行なわれる。同時に社会集団は、個人によって規定されていく。そういう関係をしっかり押えていく必要がある。そ
のためには、コミュニケーションの教育が非常に大きな意味を持ってくる。そこに集団思考の問題、共同学習・集団
学習の意味も出てくる。ここにも国語教育近代化の契機がある。
4 視聴覚文化の時代――視聴覚による文化支配
 次には、現在は視聴覚文化の時代である。 視聴覚による文化支配の時代であるとさえ言うことができるほどであ
る。かっては、文化の習得は主として文字によっていた。文字によって文化を伝達し継承し発展させてきた。ところ
が、 ラジオができ、 テレビができ、さらに話し合いの技術を習得することによって、文字文化から話しことばの文
化、話しことばによって文化を習得する、そういう方向に進んできた。あるいは話し合いによって文化を習得する、
話し合いによって研究を深めていく、そういう方向に進んできた。さらに、テレビの出現によって、形象の文化とい
うか、直接、具体的な形象を通して、文化を習得する方向に進んできた。ラジオ・テレビ・講演・協議・討論という
ような形で、文化が深められたり、伝えられたりしている。
 近代は、文化習得の方法の革命の時代だと言ってもいい。これまでは、文字文化、特に過去の漢字文化に依存しす
ぎていた。がんじがらめに縛りつけられていた。現代はそういうものから解放され、話しことばによる文化、形象に  9
よる文化の獲得伝達ということが大きな問題になっている。
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
 そのような過去の文字文化や漢字文化から脱却し、新しい話しことばによる文化の獲得、あるいは形象による文化  10
の獲得ということになると、テレビの問題が取り上げられる。テレビを視聴するさい、ことばとそれが表わす形象に
よって思考する。 それは直接的、具体的な思考、つまり感性的認識による思考であるから非常にわかりいい。しか
も、思考がてっとり早く、非常に速く進む。ことばによる思考、概念による思考と比較して、直接形象による思考で
あるから一般的に非常に正確で、しかも速い。子供たちがテレビを見ることに夢中になって、本を読みたがらない、
読んで深く考えることをしたがらないというのは、 話を聞くよりも、実際見たほうが正確にしかも速く思考ができ
る、思考にスピードが加わる、つまり経済的である。生産的である。そういう点で国語教育としての問題が出てくる
と思う。要するに、そういう視聴覚の時代に適応できるような国語文化を生み出し、国語教育を考えていかないと国
語文化、国語教育は取り残されてしまうのではないかとさえ思われる。ここにまた一つ近代化の契機がある。
5 人間疎外の時代――機械による人間支配
 現代は人間疎外の時代だと言われている。したがって、今の時代ほど人間尊重が強調されなければならない時代は
ないと思う。機械化の時代、マスコミの時代、視聴覚文化の時代、そういう時代であるから、うっかりしていると人
間がだいなしになってしまう。人間が機械の一部になったり、あるいは機械に締め出されたり、マスコミに翻弄され
たり、 あるいは集団によって個人ががんじがらめにされたり、あるいはテレビによって高度の思考が奪われたりす
る。一億総白痴化などと言われたりもする。
 そうすると、なんとしてもここで人間性を確立しなければ困る。主体性の確立した人間を作っていかないと近代社
会を乗り越えていくことができない。そこで、こういう社会に適応すると同時に、人間が人間として尊重される、文
化の高い、合理的な近代社会を形成することができるような人間を作っていく。人間が、主体性を確立して、そうい
う時代を支配し、指導し、発展させていくことができるように教育指導をする。人間性に基づいて、政治や経済や文
化や科学を支配する社会を形成する。
 以上五つの点について国語教育の近代化が要請されている。

(3) 国語教育内部ではどのように近代化を図ったか

 次に、国語教育の内部では、どのように近代化への接近を試みてきたかを考えてみよう。機能的国語教育は、これ
まで、全面的に――理論的にも、実践的にも、――近代化への接近を図ってきた。
1 近代的言語観の確立をめざした
 まず、国語教育を一貫する、国語教育のバックボーンとなる言語観について考えてみる。
 戦前の言語思想一体観から戦後の言語道具観へ、さらに言語機能観へと発展することによって、国語教育の近代化
が内部的に行なわれてきた。 この言語を機能的にみる考え方は、 科学研究の世界ではすでに早くから採用されてい
た。国語教育の世界でも、昭和26年度の学習指導要領国語科編以来一貫して、言語を社会形成・文化形成・精神形
成の機能として考える立場をとっていた。いわゆる機能的国語教育が確立されてきた。ここに近代化への第一歩があ
った。
2 言語能力を発見した
 それから戦後、言語能力が発見され、ある程度体系化された。昭和26年度の小学校学習指導要領国語に載せられ
た国語能力表は、もちろんじゅうぶんなものではなかったが、国語の能力をある程度分析して段階的に示した。これ
は、戦後の国語教育研究の一進歩であり、国語教育近代化への接近を図ったものとして特筆してよい。        11
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
3 言語技能の養成を強調した
 その次は、言語能力の養成ということである。言語能力が発見されてから、言語能力をどのようにして高めるか、  12
言語能力の養成ということが戦後強く考えられてきた。これも近代化への一つの接近であると考えてよい。
特に最近は、プログラム学習が提唱され、言語技能の養成を機械化しようとすることも考えられている。
4 コミュニケーションの技能を強調した
 その次は、コミュニケーションの技能の養成ということである。戦後一時コミュニケーションということが非常に
強調され、最近ちょっと足踏みの状態になっているが、私は、近代的な国語教育を推進するためには、コミュニケー
ションの技能を、もっともっと強調しなければならないと考えている。
5 視聴覚的方法を取り入れた
 それから、次は国語教育の中に視聴覚的方法を取り入れていることである。たとえば話しことばの重視、ラジオ・
テレビ・校内放送などによる学習あるいは話し合いや会議の学習など、話しことばの学習が、国語教育の中に大きな
位置を占めてきたということも、近代化への一つの接近であると考えてよい。
6 科学的研究を進めた
 次は、戦後は国語教育の科学的な研究が盛んに行なわれ、それが実践されつつある。国語教育科学が実質的に成立
しつつあるということ、これが何よりも、国語教育近代化への大きな働き、大きな役目を果たしている。この点につ
いては、戦前から垣内松三先生のりっぱなご研究があり、その方向へと着々進んできた。それを引き継がれて輿水実
先生が国語教育の科学化にお骨おりくださっている。私ども国語教育科学研究会が、一生懸命進めている研究も、国
語教育の近代化を実現するための努力であると信じている。
 以上のような、現代社会からの要請、さらに国語教育内部での近代化への接近の実情を踏まえ、国語教育を近代化
するにはどうしたらよいか、国語教育をどのように改造したらよいかを考えてみることにする。

(4) 国語教育近代化の観点

1 国語教育を科学化する
 まず、第一は国語教育を科学化すること。(1) 国語教育理論を体系化する。(2) 国語教育の内容を科学的に組織す
る。(3) 国語教育の方法を科学的にする。この三つの柱を立てて、科学化の実をあげる。
2 国語教育を経済化する
 第二には、国語教育の経済化を図ること。生産性の向上を図るということである。国語教育も特殊な生産活動であ
るから、そのものをもっと能率的、経済的にする。そして生産性を向上させる。また、個々の児童について言えば、
児童・生徒がことばによって価値を生産する。その児童の価値生産をもっと能率的にする。この両面から国語教育の
経済化、生産性の向上を考える必要がある。
3 国語教育を社会集団化する
 第三には、国語教育を社会集団化すること。コミュニケーションの教育、集団思考の教育、集団学習ということか
らも教育方法の改善を考えなければならない。
4 マスコミ対策を考える
 第四には、国語教育の中にマスメディアをもっと利用していくこと。マスコミを利用しながら、それに振り回され
ない、支配されない人間、それに対処できる人間を作るという面から国語教育の改造を考える。           13
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
5 国語教育の視聴覚化を図る
 第五には、文化伝達の視聴覚化に伴う国語教育の改善ということ。文化習得の方法を変えていく。そのためには、  14
話しことばの文化の確立、ことばの改善、文章の改革を必要とする。近代社会の要請に応ずる文体のくふうというこ
とはすでに試みられている。
 私は、「機能的国語教育」の本を書いたとき、その点を考慮した。あの中には、たくさんの表や機構図が載せてあ
る。表現内容を図表化する。この図表を直感的に見ることにより全体構造をつかむ。そして、その表のことばとこと
ばとの関係、ことばとことばの間の谷を探ることによって、それを支配している理論がわかるということをくふうし
たつもりである。文章にしてもできるだけ簡潔に、論理的に、読み手の思考の過程を秩序化することを考えて、すば
やく思考し理解することができるようにした。
 また、本全体としては、三、四ページの前書きに、機能的国語教育の全体構造を個条的に表にまとめあげ、それに
よって、本一冊の内容が直観できるようにした。各節は、(1)標題(2)要約(3)詳説の順序で記述し、内容の理解・把
握を容易に速くできるようにした。
 このように、文体を改善し、思考活動が活発に正確に、しかも速く行なわれて内容理解が進むようにしていかない
と、忙しい時代、機械化された時代、てきぱきと物を考え判断し処理していかなければならない時代に適応できない
と思う。また、テレビによる形象的な文化習得が強調されている。そういう感性的な、視聴覚による認識から、形象
の奥にある本質的なもの、法則的なもの、原理的なものを見抜く力、洞察するカ――理性的認識の力を養成しなけれ
ばならない。そういう点からも、国語教育の改造を考えていく。
6 国語教育の主体化を図る
 第六には、国語教育の主体化、主体性を持たせるということ。国語学習の主体は児童・生徒である。したがって、
国語学習も、児童・生徒が、自ら考え、自ら判断し、自ら計画を立て、自ら行為する方向を考えなければならない。
読まされ、書かされる学習から抜け出して、児童・生徒自らが進んで読み書く体制の中に国語学習を位置づけること
がたいせつである。児童・生徒の主体的な学習を成立させるための諸条件を明らかにし、児童・生徒の価値生産を可
能にするための努力を惜しんではならないと思う。
 以上のような観点に立って、国語教育の近代化を図るべきである。そのためには、国語科のカリキュラムの改造を
も考えてみるべきである。

(5) 国語教育の近代化の構想

1 近代人と言語能力
 国語教育を近代化するためには、国語教育が近代人形成の役割を果たせるようにその組織を改造する。つまり、近
代人の育成をめざした国語科カリキュラムを編成する必要がある。
 したがって、国語教育近代化の構想を立てるには、まず、どんな言語能力を持った人間を作るかを明らかにする。
私は現代人は、次のような性格・言語能力を持つべきだと思う。
 一つには、主体性の確立した、人間性の豊かな人間、科学技術を支配できるような人間、機械に負けない人間であ
ること。二つには、マスコミにかき回されない人間、マスコミを克服できる人間、マスコミを利用できる人間である
こと。三つには、社会集団の中でのりっぱな個人、社会集団を大いに利用し、社会集団をりっぱに作っていける人間
であること。四つには、生産性の高い人間、考える場合も、行動する場合も、物を作り出し、生み出す場合も、こと  15
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
ばをじゅうぶんに働かせて、速やかに判断し、生産性を高めることができる人間であること。五つには、合理的に考  16
える、科学的な思考の進んだ人間、しかも、創造力豊かな、非常にすばやい思考のできる人、決断力のある人間であ
ること。
 このような条件を備えた人間でないと、これからの進んだ社会には適応できないと同時にいい社会を形成すること
ができないと思う。
 以上は、ことばと関係のある点だけを述べたのであるが、国語教育は、そういう人間性・人間像を考えた上で、近
代化を進める必要がある。
2 近代的国語教育の目標
 今の指導要領の目標は、いつの時代でも変わりのない一般的な普遍的な目標である。そこで、実際にわれわれが国
語教育を行なう場合には、国語の能力も思考力も心情も言語生活もそれらを具体化する必要がある。どんな国語の能
力をつけるのか、どんな思考力を伸ばすのか、どんな心情を
豊かにするのか、すべてそれらを具体化しなければ教育
指導ができない。ここに近代化の契機がある。
 学習指導要領国語(小学校)では,話題・題材選定の十か条というのをあげて,その内容をやや具体的に示している。
 そこで、私ども現代人の持つべき性格・言語能力を具体的に考えて、近代的国語教育の具体的な目標とする。もち
ろん国語教育であるから、あくまでも、ことばの機能に即して、主体性・社会性・批判性・科学性・生産性・思想性
・文芸性、そういう人間性につちかうことばの教育を考える。たとえば思考力という点からいうと、もっと科学的な
思考、生産的な思考、創造的な思考、迅速な思考などができるようにする。心情にしても、新しい価値感情、機械に
負けない美的心情、社会集団を強固にするような社会的心情、生産的想像などを強化するそれから、言語能力にして
も、コミュニケーションの技能、生産的な言語技能、いわゆる機能的な言語能力、集団学習の技能、そういう言語能
力をしっかりと身につけていく。このような人間性や言語能力を身につけて、現代社会に適応したり、現代社会を形
成したり、改造したりできる人間、そういう人間の養成につながる国語教育を打ち立てなければならない。
3 近代的国語教育の内容
 次には、目標をはっきり具体的に考えると同時に、近代的な国語教育の内容を選んで組織する。その場合、直接人
間性につちかう話題・題材を選ぶ。同時に、話題・題材を中心として行なわれる言語経験を選定する。同時にそこで
育てようとする言語能力を考える。要するに、近代的な人間性につちかう面と言語能力を養成する面とを考えて、現
代人の国語の教育にふさわしい内容を選んで組織する。そこに国語カリキュラムの改造の問題がある。
4 国語教育近代化の方法
(1) 国語教育の科学化
 国語教育を近代化するためには、まず第一に国語教育を次のように科学化する。
 ア 国語教育理論の体系化
   国語教育理論を体系化する。国語指導理論を体系的に組織することがだいじである。具体的には、拙著「機能
  的国語教育――理論とその展開」に詳しく述べてある。目標論・内容論・方法論等が、一つの理論・理想に貫か
  れた整然たる体系を持つ。
 イ 国語教育の内容の科学化
   国語教育の内容を科学的に組織すること。                                17
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
   国語教育の内容の考え方、その全体構造を明らかにする。話題・題材の選択に当たっても、その興味・主題を  18
  調査して発達を明らかにし、児童・生徒の人間性の開発伸長に役立つ。価値のあるものを選定する。それによっ
  て活発な言語活動が営まれるものを選ぶなど機能的な話題・題材を選定する。言語経験についても、その発達を
  調べ、言語経験と言語能力との関係、言語経験と思考との関係、言語経験と心情との関係、言語経験と言語要素
  との関係、それらを明らかにした上で、これも価値のある、機能的な言語経験を選定する。言語能力にしても、
  それはどのように発達するか、発達段階を科学的に調査して、その上に立って、近代社会に適応するためにはど
  んな能力が必要かを考えた上で言語能力を選ぶ。
   こうすることによって、国語教育の内容を科学的に、合理的に編成することができる。
 ウ 国語科指導計画の科学化
   そのように、科学的処理を経て選定した内容を科学的に編成する。つまり、国語科の指導計画も科学的に編成
  しなければならない。単元の構成も科学的にする。 科学的操作を経て選ばれた機能的な話題・題材を中心にし
  て、機能的な学習活動を組織する。その学習活動によって養成される能力の系統・発達を考える。科学的に編成
  した単元を科学的に配列する。児童・生徒の関心・興味・能力等の発達に応じ、地域の実情、時代の要請に応じ
  て、国語科カリキュラムを科学的に編成する。
 エ 国語科学習指導の科学化
   次には、学習指導を科学的にする。学習指導過程の科学化もその一つである。教授過程・指導過程の歴史的変
  遷のあとを明らかにする。現に行なわれている指導過程の重ね写真をとって、客観化し、一般化する。実地授業
  を記録し分析して学習過程を明らかにし、その背後にある児童の思考活動・認識活動・生産活動の実態をとらえ
  て、その進行過程を明らかにする。つまり、学習の各過程における基礎調査をもとにし、各過程を一貫する思考
  過程・生産過程を一般化しようとしている。それによって、読むことの学習指導過程、聞くこと・話すことの学
  習指導過程、作文の学習指導過程を一般化する。
   このように学習指導過程を科学化するとともに、学習の各過程における学習活動も科学化する。たとえば、読
  解活動の全体機構、読解活動の機能、 読解過程、 読解の生理や心理などを明らかにして、読解学習を科学化す
  る。それから、指導法の科学化、たとえば漢字の学習にしても、児童が漢字を学習する過程を分析して、漢字習
  得の実態を明らかにし、そこに法則性を発見する。発見した法則―文脈・反復・具体・類推などの法則を適用し
  て漢字の指導をする。あるいは、語句の学習をする場合でも、児童たちの語句習得の過程を分析して、そこに法
  則性を発見したり、語理解の発達を調べたりして、それに応ずるように指導し、語句指導を科学化する。技能の
  学習についても、技能の発達段階を押えたり、文型の発達段階を押えたりして、それに応じた段階的な指導をす
  る。プログラム学習法の研究なども、技能養成の科学的方法の一つである。
   たとえば、二年生の「経験したことを話す」指導においても、技能の発達、文型の発達、思考の発達などを密
  接に結びつけた形で、段階的な指導が行なわれている。そのような思考の発達、能力の発達との関連において、
  技能養成を考える。そこにも科学化がある。また、そのためには、教材を科学化することも考えなければならな
  い。教材を科学化するためには、語い発達の調査、学習基本文型の調査、学習基準語の調査研究の上に立って、
  教材を選んだり、作成したりする必要がある。このような調査は最近非常に進んできた。
  以上のように、国語教育の科学化は、着々と実現の方向に進んでいる。                    19
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
(1) 国語教育における生産性の向上
 ア 生産性の向上ということ
   国語教育における生産性の向上ということは国語教育の近代化のうちで、科学化に次ぐ重要な問題ではないか  20
  と思う。国語学習は、児童たちが、ことばによって価値を生産する活動である。人間性につちかうところの内容
  的な価値と言語能力という形式的な価値とを生み出していく、身につけていく活動が、国語学習である。具体的
  に言えば、言語や言語文化は、価値や能力を生産するための生産財である。たとえば、文章や作品は、ある書き
  手がすでに生産した文化・文化財である。だれかが生産した文化を読んだり聞いたりする。いわゆる言語活動を
  することによって、それを契機として価値を生産する。その場合、当然その活動を処理する言語能力を必要とす
  る。さらに、その根底に、思考力・想像力・感情その他の精神活動が行なわれる。そのように価値の生産を進め
  る言語能力・思考力・想像力・感情・記憶力などが価値の生産力である。この生産力をじゅうぶんに働かせて、
  能率的に価値生産を行なう。この価値の生産を経済的に行なおうとするところに生産性の向上の問題がある。
 イ 生産力を伸ばす
   生産性の向上を図るためには、 言語能力・思考力・想像力・感情などの生産力を伸ばすことがたいせつであ
  る。そこで、この生産力を伸ばすための科学的方法がくふうされなければならない。
   生産過程の確立
    その方法の一つとして、当然生産過程を確立する。能率的な生産過程を編成する。これは前に述べた学習指
   導過程の問題である。 指導過程の基礎理論としては、思考・認識・理解・生産などの理論が考えられている
   が、私は生産理論・生産過程を指導過程の基礎理論として体系化している。
   言語能力の養成−プログラム学習
    生産性を向上させるためには、能率的な生産過程を編成するとともに、生産力の養成――言語能力の養成に
   努力しなければならない。国語のプログラム学習は、はじめ読解学習の方法として提唱された。説明的な文章
   の読解の方法として、さらに文学的文章の読解鑑賞の方法として強調された。しかしながら、私は、読解指導
   法としてのプログラム学習は、児童の読解の心理や態度、文章や作品の本質から考えて適切な方法ではないと
   思う。しかも、その基礎理論を条件反射に求めて、言語刺激に対する反射的反応を形成しようとしている。し
   たがって、言語刺激をできるだけ小さなまとまりとして、段階的に位置づけてたどらせようとする。いきおい、
   思考の発達段階が無視される。思考の一貫性・即物性・課題性・生産性が抑えられ、思考の飛躍、洞察力の働
   きもまた圧迫されて、文章の機能、文章の全体機構がこわされてしまう。文章の直観的認識・分析的認識・総
   合的認識――直観・分析・総合というような、文章理解への接近の過程がこわされてしまうなど、いろいろな
   問題が多い。(注、はじめは読解・鑑賞の・プログラム学習として提唱されたが、その後、輿水実先生はそれ
   を否定され、プログラム学習は・技能養成の方法として適用すべきであることを説かれた。その考え方に従っ
   て読解技能・鑑賞技能・作文技能・聞く話す技能等を養成するためのプログラムをくふうし、いわゆるスキル
   ブックを作って、実践の場に提供された。)
   生産的思考・生産的想像
    次に、生産力を高めるためには思考活動を活発にする。そして生産的思考を盛んにする。そして生産的想像
   ができるようにする。さらに、感情移入が活発に行なえるようにする。このように、言語技能の問題、生産的
   思考の問題、生産的想像の問題、感情移入の問題、記憶力の問題、知識の問題などいろいろあるが、そのよう
   な力を、ばらばらでなく、全面的に総合的に伸ばしていかないと、生きた生産力は伸びにくい。        21
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
   生産活動――言語活動                                        22
    次に、生産能率をあげるためには、生産活動(言語活動)を活発にする。生産活動を活発にするためには、
   その目的を明らかにし、自覚させる。生産活動を精選する。さらに、生産財(教材)を科学化する。そして生
   産力がじゅうぶんに、能率的に働くことのできる活動を選ばなければならない。さらに、生産力と生産活動と
   の関係、つまり、経験と能力との関係を明確に押えておくことがたいせつである。
(3) 国語教育におけるコミュニケーションの重視
  その次は、国語教育におけるコミュニケーションの重視ということ。コミュニケーションは国語教育のすべての
 面について考えられることである。文学の学習にしても、説明的文章の学習にしても、あるいは、話し合いや会議
 の学習にしても、コミニーケーションがしっかり行なわれないと学習は成立しない。 一つの研究グループの中で
 も、コミュニケーションがうまく行なわれなければ、研究も進まないし、人間関係もうまくいかない。人間関係を
 調整するためには、感情のコミニーケーションが大きな役割を果たす。また、ものの見方や考え方など、思想のコ
 ミュニケーションがうまく行なわれないと、お互いの思想が深まらない。私どもは、コミュニケーションの理論を
 国語教育の中にもっと取り入れていく必要がある。
  読解は、文章と読み手との間に行なわれるコミュニケーションと考えられる。それは、作者、作中の人物、作品
 の価値とのコミュニケーションで、感情や感覚のコミュニケーション、 知識や思想のコミュニケーション、 つま
 り、文学のコミュニケーション、思想のコミュニケーション、科学のコミュニケーションであったりする。
  コミュニケーションの教育においては、立場の交換――相手の立場に立つ、相手の場の中に自分を置いて考える
 ことが重要である。同時に相手を突き放して、 客観的に、 より高い立場に立ってこれを洞察することも重要であ
 る。相手の立場に踏み込んで、それから出ることもだいじである。
  たとえば、文章の中の人物と同じ立場に立つ。立場交換をする。その時に、一口に作中の人物の立場に立って考
 える、あるいは、書き手の立場に立って考える、その時きみならどうする、どう考えるなどと簡単に言うが、そう
 簡単に立場交換はできない。相手の立場に立つということは、作中の人物と自分とが、だいたい同じような生活の
 中にいる、生活経験をしている、同じような立場にいる、そのように、立場交換が容易にできるような場合だった
 らいい。ところが、それが簡単にできないような場で、盛んに立場交換をさせようとする。たとえば、逆境に育っ
 て、 非常に苦労しているひとりの人間の生活が書かれているとする。 この場合、きみだったらどうするかと言っ
 て、 作中の人物の立場に立たせようとする。 作中の人物の役割を背負わせて考えさせる。するとたいがいの子供
 は、自分にはとてもこうはできないとよく言う。また、非常によく働く子供のことが書いてあると、ぼくだったら
 途中であきて遊びたくなってしまうが、この人は遊ばずによく働いたというようなことになる。これではほんとう
 の立場交換はできない。というのは、本人がその立場に立てない。立場交換ができていないからである。ほんとう
 にその立場に立てたら、それができるかもしれない。それなのに安易に立場交換をさせて、自己卑下に追い込む。
 これでは、子供の自信をそこない、押えてしまって、ほんとうのコミュニケーションは成立しない。
  国語教育の中に、コミュニケーション理論を取り入れ、その技術を身につけることがだいじである。
(4) 国語教育における集団的方法の重視
  次には、国語教育における集団的方法の重視ということ。人間は社会的動物であると言われている。それが単に
 漠然とした社会の中で個人を形成するという考え方でなくて、もっと好ましい集団の中で、好ましい社会の中で、
 人間性を開発する。集団の中で考え、集団の中で育ち、また、いい集団を作っていく。集団を離れて生活できない  23
          2 国語教育近代化の構想
          第1章 国語教育の近代化
 とすれば、集団の中で考え、育ち、行動し、いい集団を作る人間を育てなければならない。集団に生き、集団を改  24
 造するにしても、コミュニケーションの技術をしっかりと身につけなければならない。必要に応じて自由に率直に
 物が言え、自己を集団に反映できる人間、話し合い・討議・会議に参加して有効なコミュニケーションのできる人
 間の育成がだいじである。と同時に、国語教育の中に新しい考え方による集団学習を取り入れて、能率的に国語教
 育を進める方法を考えていくようにする。
(5) 国語教育における人間性の開発
  次は、国語教育における人間性の開発ということ。国語教育が人間教育の一環として行なわれることは言うまで
 もない。したがって国語教育がことばの教育を通して人間性の開発・伸長をめざすことは当然である。まして、人
 間疎外の時代に対処する国語教育として、 いっそう人間性の教育に力を注がなければならない。 国語教育の本質
 は、人間性の開発・伸長をめざす過程で、国語の能力を養成するところにある。国語教育がその本質に即して近代
 人の教育に参与し得ないとしたら、国語教育はその近代性を失うであろう。特にことばの教育を通して主体性の確
 立・科学的思考力の養成、豊かな心情の育成、創意創造性の伸長、生産性の拡充、批判精神の確立等近代人の資質
 につちかう国語教育を強調しなければならない。
  ここに国語教育の目標の近代化がある。




     第2章 国語教育の科学化



       1 国語教育科学化の考え方

(1) 科学的国語教育は全体構造的に組織する

 科学的国語教育は、その各領域を科学化し、全体構造的に組織する。戦後、機能文法の学習が強調されているが、
それがなかなか実現しない。あいかわらず形式文法の指導が形式的に行なわれている。それは、国語教育全体が、機
能的言語観に基づいて、機能的に組織されず、文法だけを機能的に学習させようとしているからである。
 また、読解指導の方法として、プログラム学習が提唱されたが、これもいつの間にか消え去ってしまった。あとに
残ったのは、国語技能のプログラム学習だけである。これも、国語教育の全体構造の中に適切な位置づけが行なわれ
ず、読解指導の科学化の方法として適切でなかったからである。 しかし、 プログラム学習のねらった、学習の機械
化、学習の段階化、学習の主体化、学習の自学化、個別化など、プログラム学習の本質は、決して消え去らしむべき
ものではない。
 このような主張や提唱は、常に、国語教育全体の科学化の構想とともに行なわれず、その位置づけが明確にされて
いない。したがって、その主張なり、提唱なりの中にさえ、矛盾があったり、科学化されない部分があったりする。
つまり一方法だけの科学化を強調するから、調和の取れた、全体構造的な国語教育が組織されない。         25
          1 国語教育科学化の考え方
          第2章 国語教育の科学化
 また、現在国語科の技能養成の面が強調されている。その主張は、国語科教育の全体構造の中に、技能養成を明確  26
に位置づけ、その機能的方法・練習的方法・段階的方法との相関を明碓にし、人間形成と技能養成との関係を明らか
にしている。それにもかかわらず、一般には、そのような国語教育の全体構造が理解されず、たとえば、読解技能の
養成だけが、そのまま読解学習であるかのような錯覚を起こしている。これは、読解指導の科学的方法が一般に知ら
れず、――基本的指導過程・基準指導過程などの提唱がなされているのであるが――読解の科学が、それぞれの面で
実践に移されていないからである。
 要するに、国語教育の各面・各領域をそれぞれ科学化し、有機的に組織した全体構造を持つようにする。

(2) 科学的国語教育は理論体系を持っている

 科学的国語教育には、全体として一貫した理論体系が必要である。
 たとえば、その精神的基盤を、機能主義に求めれば、機能的言語観に基づいて国語教育を組織する。まず、目標の
原理を価値に求める。内容は機能的主題、機能的な言語活動(機能的な能力)、機能的言語によって組織する。方法
原理としては、価値生産の理論を適用する。つまり、機能主義に基づく国語教育原理の組織、基礎理論の組織、指導
原理の体系の確立など、一貫した理論を体系的に組織する。国語教育は、単なる思いつきや指導技術の末節にのみこ
だわっていてはならない。国語教育の理想を追求し、科学化するための理論を明確に組織する必要がある。

(3) 科学的国語教育は、科学性・合理性・生産性・創造性を持っている

 科学的国語教育は、目標の確立、目標を達成するための学習内容、学習資料の組織、学習内容を理解するための学
習指導法の体系、学習評価の体系などを備えている。しかも、目標を設定する場合でも、内容を選択し組織する場合
でも、指導法を組織する場合でも、常に科学的に調査研究し、科学的に操作処理をする。
 あるいは、すでに明らかになっている理論、調査研究の結果を適用する。また、国語教育は、ことばによる価値生
産の教育でもあるから、生産性の高い経済的、能率的な国語教育を組織する。
 このように、科学的国語教育は、当然のことながら、科学性・経済性・生産性・創造性を豊かに持っている。

(4) 科学的国語教育は、客観性・普遍性を持っている

 科学的国語教育は、 いつでも、 どこでも、だれでもできる客観性・普遍性を持った国語教育である。勘に頼る教
育、名人芸による教育、主観的な教育から、客観性・普遍性を持つ教育に切り換えて行くところに国語教育の科学化
がある。
 たとえば、学習指導過程を編成する場合にも学習過程・思考過程あるいは認識過程・生産過程などの諸理論に基づ
く基準指導過程を編成する。その基準に従って、具体的な学習指導過程を編成する。また、現実に行なわれている指
導過程を重ね合わせて一般的な指導過程を編成する。こうして客観化された指導過程に従えば、 だれでも、 どこで
も、いつでも適用できる指導過程に従って学習を進めることができる。
 また、語句学習について、調査研究した結果、語句の学習の原則が明らかにされている。(文脈の原理、反復の原
理、経験の原理等々。)それらの原理を適用することによって、だれでも効果的な語句学習の指導ができる。漢字の
練習にしても、いろいろな練習をさせた結果、語句として練習することが最も効果的(忘れない。適用できる。)で
あることが明らかになっている。この練習法によれば、だれでも効果的に指導できる。               27
          1 国語教育科学化の考え方
          第2章 国語教育の科学化
 このように、科学的国語教育は、いつでも、どこでも、だれでも安心してできる効果的な客観的、普遍的方法を組  28
織すべきである。


       2 国語教育科学化の全体構造

(1) 科学的国語教育の全体構造――機能的国語教育の全体構造

 科学的国語教育は、全体を覆う精神的基盤、全体を一貫する言語観・言語理論、全体を統制し、体制化する教育原
理・基礎理論・方法原理、全体を貫く目標論、目標を達成するための内容論と内容の体系、方法論と方法の体系など
が、有機的関連をもって体制化されている。
 たとえば、機能的国語教育は、次のような全体構造を持っている。
l 機能的国語教育をささえている言語観は言語機能観である。
2 機能的国語教育を貫いている原理は、機能・価値・生産・主体の四原理である。
3 機能的国語教育の目標は、ことばの機能を働かせて、価値を生産し、人間性の開発伸長を図り、その過程で、国
 語の能力を養成し、国語愛護の精神につちかうことをめざしている。
4 機能的国語教育の内容は、機能的な話題・題材、機能的な言語活動・言語能力・言語要素である。
5 機能的国語教育の方法は、興味・目的・経験・統合・発達・成功・系統・コミュニケーション等を方法原理とし
 て組織し、機能的な指導計画・指導過程・指導法等を編成し、機能的な言語能力の養成法をとっている.
 これを表解すると次のようになる。


(2) 国語教育理論の体系化――機能的国語教育の理論体系

 科学化された機能的国語教育の理論体系は次のようになっている。                       29
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
l 精神的基盤――機能主義                                        30
 国語語教育の精神的基盤を機能主義におく。機能は「体」「用」の「用」である。物そのもの、形態そのもの、こと
がらそのものでなく、物・形態・ことがらの「用」、つまり働きかけ・作用である。形態が他にどのように働きかけ
るか、働きかけそのものを見ようとする。
 「形態は機能に従う」つまり、機能が形態を決定づける。機能が働きやすいように、その形態を形づくっていく。
変えていく。また、いったん固定した形態は、機能がその本質をじゅうぶん発揮できるように保証する。
形態と機能は、そのような有機的関連を持っている。
 国語教育そのものを機能とみる。したがって、国語教育の諸要素を機能的にみ、有機的に関連づける。言語活動も
言語も機能とみる。言語は、人間の精神的機能・文化的機能・社会的機能とみる。国語教育の全面を、全基盤を、こ
の機能の考え方で覆うとき、機能的国語教育は誕生する。
 このように、ことがらを機能的にみることは、ことがらを常に他との関連においてみることである。ことがらを作
用的、流動的にみることである。常に生産的にみることである。この見方が機能的な見方である。
 機能主義は、現代の科学、現代の芸術、現代の経済、現代の技術などの基盤になっている概念である。機能主義心
理学・機能主義建築・機能主義文学・機能主義音楽・機能主義経済等々と現代の科学・芸術・経済などを支配し、特
徴づけている思潮である。われわれの国語教育もまたこの機能主義をその基盤とする。
2 言語観−機能的言語観
 国語教育の根幹をなす言語観もまた機能的に考える。言語は人間の機能であり社会の機能でもある。言語は人間の
精神・思想と深い関係を持つ。言語は人間の精神・思想を形成する機能を持つ。これが言語の精神形成の機能である。
 また、言語は人間相互の社会関係を形成する。つまり、言語は社会形成の機能を持っている。
 また、言語は日本の文化の創造・継承と深い関係を持っている。それが言語の文化形成の機能である。
 言語をこのように機能とみる。働きとみる。人間・社会・文化との関連においてみる。そこに機能的言語観が成立
する。この機能的言語観は、機能的国語教育の基本である。心棒である。
3 機能的国語教育の原理
 機能的国語教育の目標・内容・方法を規定する諸原理は次のとおりである。
(1) 機能の原理――機能的国語教育は、機能主義を精神的基盤としているから、当然、その全面にわたって機能ある
いは機能的な見方考え方によって貫かれている。
(2) 価値の原理――価値の原理は、機能的国語教育の目標の原理でもあり内容の原理でもある。つまり、機能的国語
教育は人間性の開発伸長を目ざす過程で国語の能力を養成する。したがって、人間性の開発伸長に資する価値の獲
得実現を願う。また、学習の内容として価値ある経験・学習活動を計画している。
(3) 生産の原理――生産の原理は、経済の原理であり、機能的国語教育の方法を規定する原理である。国語教育は、
人間性の開発・伸長、国語能力の養成に資する内容的価値、形式的価値の生産行動である。生産性の向上を願うゆえ
んである。
(4) 主体の原理−主体の原理は、児童・生徒の学習の原理である。児童生徒が自ら目的を持ち計画を立て方法を考え
学習活動を遂行する場合の原理である。
4 機能的国語教育の基礎理論
 機能的国語教育は、前記の基本原理に基づいて次の基礎理論の体系の上に成り立っている。            31
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
(1) 機能的な目標の理論――人間性の開発伸長をめざす。(価値論)                       32
(2) 機能的な内容の理論――言語経済、学習活動の構造、機能的な話題・題材、機能的な言語活動、機能的な言語能
 力(態度・技能・知識)(言語経験論)
(3) 機能的な方法の理論――機能的科学的な指導計画・機能的科学的な学習指導過程、学習指導法、単元論(生産論)
(4) 機能的な資料・教材の理論――機能的な資料、機能的な教材(学習事項――態度・技能・知識など)
(5) 学習の理論――学習過程・思考過程・認識過程(主体性)
5 機能的国語教育の方法原理
 児童・生徒が主体的な学習をおし進める場合、その基盤になる諸原理は次のとおりである。
(1) 興味の原理(興味・関心・必要・疑問・課題など――学習の態度形成の原理)
(2) 目的の原理(目的・計画・方法・活動・評価など、学習活動を規定し処理する原理)
(3) 経験の原理――言語能力養成の基本原理
(4) 統合の原理――単元構成の原理、学習活動の組織の原理
(5) 系統の原理――学習内容(学習活動、学習事項――態度・技能・知識など)の系統・精選・配列の原理、言語能
 力の発達と系統
(6) コミュニケーションの原埋――言語の機能、学習の構造・機能などの原理
(7) 成功の原理――学習活動の原理

(3) 目標の科学化−機能的国語教育の目標

 国語教育の目標を科学的に設定するためには、(1) 国語教育の目標の歴史的変遷のあとを明らかにし、それぞれの
時代に目標を設定した背景、基盤となっている教育思潮、国語教育の考え方を明らかにする。国語教育の目標設定の
方向を確定する。(2) 現代社会が国語教育に要請するものを明らかにする。(3) 現代国語教育の基盤になっている言
語観を明らかにし、その立場から目標を考える。(4) 近代人の人間像を考え、その実現に寄与することを考える。
1 機能的言語観と国語教育の目標
 機能主義の国語教育は、当然機能的言語観を軸として展開される。したがって、目標も機能的言語観に立脚して設
定する。つまり、言語の精神的、文化的、社会的機能をじゅうぶんに発揮できるような人間、それによって人間性の
開発・伸長を期するような目標を設定する。つまり、ことばを通して、ことばの機能を通して、知識や情報を求め、
教養を高め、経験を広め、思想・心情を豊かにし、個性を伸ばし、社会性を育て、民主的な人間性の開発・伸長をは
かる。その過程において、ことばに対する関心・意識を高め、国語愛護の精神を育てることを目ざす。
2 近代的人間像と国語教育の目標
 近代社会が要請している人間教育の目標、つまり理想とする人間像の実現を考慮する。国語の学習を通して、思想・
心情の豊かな人間、創意・創造性に富んだ人間、合理的、科学的思考力を身につけた人間、主体性の確立した、批判
精神を持った人間、集団思考の方法を身につけた人間など近代的な人間の育成について国語教育は寄与する。
3 国語教育の目標の近代化
 国語教育の目標は次のような性格を持つことによって科学化され近代化される。
 ア 機能的性格――機能的言語観に基づいて言語の機能をじゅうぶんに発揮し、人間性の開発伸長、言語文化の獲
得生産、社会の改造・発展をめがける。                                    33
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
 イ 科学的性格――国語教育の目標の変遷とその変遷の要因の明確化。近代社会の要請の調査、目標と内容の分析  34
  など科学的操作を経て設定する。
 ウ 近代的性格――近代社会の要請に応じた近代的人間像の設定、科学の時代に適応できる人間性の育成をめざす。
 エ 技能的性格――ことばを使うことは技能である。人間性の教育とともに技能性の教育を忘れないようにする。
 オ 言語的性格――国語教育には、その基盤として言語の教育がある。言語に対する関心・意識・言語理想・国語
  愛の教育がある。科学的国語教育の目標は、このような諸性格を持っている。
4 言語活動の目標の近代化
 国語教育は、聞く・話す・読む・書く活動を通して行なわれる。これらの二対四面の活動は国語教育の分節であ
る。したがって、その活動の目標は、国語教育の目標を分割担当している。したがってこの活動の目標はいわゆる価
値目標となる。(国語能力は、言語活動そのものの中に位置づけられて、国語学習の内容となる。)
5 国語教育の目標の構造
 ア 国語科の目標の構造機能的国語教育の目標は、次のような構造を持っている。

   教育__教育内容____________
   方法  教育目標      |     人間性
    |    |       |      |
  ┌――┐┌国語の能力┐    |   ┌―民主性┐
  |国語||  ↓  |    |   ├―科学性|
  |  ├┼(学習活動)┼←近代人の育成→┼―生産性|
  |教育||  ↓  |        ├―審美性|
  └――┘└思考・心情┘        └―真理性┘

 イ 言語活動の目標の構造
   機能的国語教育における言語活動の目標は次のような構造を持っている.

(4) 内容の科学化――機能的国語教育の内容
 国語科の内容を科学化するためには、次のように操作する。
 ア 歴史的にみる。国語科の内容の考え方はどのように移り変わってきたかを考える――歴史性
 イ 国語科の内容は、どんなしくみになっているかを明らかにする。――全体構造
 ウ 国語科の内容は何かを明らかにする。――言語経験・言語能力・言語要素                  35
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
 エ 国語科の内容の選び方、組織のしかたを考える。――単元の構成                      36
l 内容の近代化
 国語科の内容は、次のように移り変わって現在に及んでいる。そこに近代化の過程が見られる。
 ア 文字・語句・文章の読み方・書き方を教えた時代――形式主義の時代
 イ 文字・語句・文章の読み方・書き方を教え、その内容を教えた時代――内容主義の時代
 ウ 文字・言語・言語文化の読み方・書き方を教え、国民精神を涵養した時代――新内容主義の時代
 工 言語経験処理の態度や技能を学習させた時代――技能主義の時代
 オ 言語経験の処理を通して人間形成を強調した時代――機能主義の時代
 特に言語経験を要素的に、(1) 言語経験の形態、言語経験を処理する態度・技能、言語経験をささえる発音・文字
・語い・文法に分析して学習内容をいっそう明確にした。
 このように、国語科の内容は、言語・文章の「読み方・書き方・綴り方」、「講読・作文・文法」などの科目に分かれて
いた。つまり、「方」の教育であった。戦後は「聞くこと・話すこと・読むこと・書くこと」が国語科の内容になった。
つまり「こと」の指導・経験・活動が、学習の内容になった。経験・活動の中に含まれる、態度・技能・知識が内容にな
った。こうして、国語教育の内容は明確になり、その系統・選択・組織・配列などが科学的にできるようになった。
2 内容の構造化
 前項に述べたように、国語教育の目標を達成するために行なう児童・生徒の言語経験(学習活動)が国語教育の内
容である。
 「心情の豊かな人間」を育成するために、児童・生徒は「物語を読む・小説を読む」という言語経験(学習活動)を
行なう。 この「物語を読む・小説を読む」という学習活動が国語科の内容である。 物語や小説を読んで感動を受け
る。人生の生き方がわかる。思想が豊かになる。これは小説を読む目的である。
 この物語や小説を読む言語経験は、(1) 経験(活動)の形態(読書材料の形態)と、(2) その経験(学習活動)を
処理するために必要な読む能力 (態度・技能・知識)と、(3) 読む経験(活動)をささえている文字・語い・文法
(言語要素)とから成り立っている。
 そこで、国語科の内容は、次のように構造化される。
 ア 聞く・話す・読む・書く言語経験(学習活動)
 イ 言語経験(学習活動)を処理する聞く・話す・読む・書く態度・技能(言語能力)
 ウ 言語経験(学習活動)をささえる発音・文字・語い・文法(言語要素)
 この三つの要素によって構成されている。言語活動・言語能力・言語要素が、ある話題・題材を中核として統制さ
れたとき、そこに具体的な言語活動(学習活動)が営まれるのである。
 ここで注意すべきことは、 言語能力・言語要素は、言語活動に従属し、 そこにつまり含まれているものであるか
ら、国語教育の内容であって、目標ではないということである。
3 内容組織の科学化
 国語科の内容は、話題・題材を中心にして言語活動・言語能力・言語要素を組織したものである。
(1) 話題・題材の発達と系統
 言語活動の中核となる話題・題材の選択は、児童・生徒の興味・必要・能力などに合うものを選ぶ。また、それを
中心として活発な言語活動が行なわれ、言語能力が系統的、能率的に養成されるものを選ぶ。            37
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
  また、それによって児童・生徒の人間性が開発され伸ばされるような価値を含んだものを選ぶ。つまり、機能的  38
 な話題・題材を選ぶ。それを児童・生徒の能力や精神の発達に応じて発達的、系統的に配列する。(話題・題材の
 発達表の作成)
(2) 言語経験(学習活動)の発達と系統
  数ある言語経験の中から、機能的、基本的な言語経験(学習活動)を選んで各学年に配当する。機能的、基本的
 な言語経験というのは、児童・生徒のしばしば行なう、頻度の高い言語経験、国語能力が効果的に育てられる言語
 経験、言語生活の基本になる言語経験である。
  これらの言語経験をその機能・形態などに従って分類整理し、さらに、それらを、児童・生徒の能力の発達に応
 じて、系統的・段階的に配列して、学年の配当表を作成する。たとえば(1) 「相談する」「話し合う」「協議をする」
 「会議を開く」(集団思考の系統)、「絵やことがらの説明を読む」「指示文を読む」「現象や問題の説明を読む」
 「記録を読む」「報告を読む」「説明を読む」「解説を読む」(知識を求めるために読む経験の系統)のように系
 統的、段階的に配列する。この系統化された経験を、児童・生徒の能力(経験の処理能力)の発達に応じて配当す
 る。たとえば、一年「絵やことがらの簡単な説明を読む(書いてあることの大体を読み取る技能)」、二年「指示文
 を読む。(書いてある順序に従って意味を読み取る技能)」、三年「知識を与える説明的な文章を読む。(要点を押
 えて読む技能)」、四年「記録・説明を読む。二段落にまとめて読む技能」)、五年「説明・報告を読む。(細部
 に注意して正確に読み取る技能)」、六年「説明・解説を読む。(文章の要点を押えて要約する技能、表現に即し
 て正確に読み取る技能)」のように、各学年に言語能力の発達に応じて言語経験を配当する。
(3) 言語能力の発達と系統
  機能的、 基本的な言語経験を処理するのに必要な機能的、 基本的な態度・技能を選び、その発達の段階に応じ
 て、系統的、段階的に各学年に配当する.
 たとえば、読解・鑑賞に必要な技能・態度、作文に必要な技能・態度、聞く・話す活動に必要な技能・態度などに
 ついて、その機能的、基本的なものを選んで系続だてる。(「機能的国語教育(明治図書)」を参照されたい。)
(4) 言語要素の発達と系統
  機能的、基礎的な言語要素を選んで系統的、段階的に配当する。
   音韻――標準的な発音(アクセント)イントネーションを選ぶ。
   文字の系統――機能的な文字(漢字の学年配当表による)。一字一音の漢字から程度の高い漢字、造語力の
   高い漢字へと系統だてる。
   語い――機能的な語い。価値の獲得に必要な、 効果的な語いを選んで配当する.つまり、 使用度の高い語
   い、使用範囲の広い語い、造語力の高い語い、基礎的な語いである。もっと具体的に言えば、各種の教科書に
   広く、 しばしば出ている語、 雑誌・読み物などに広くしばしば出ている語、参考書などに多く使われている
   語、新聞・掲示・ラジオ・テレビなどにしばしば使われる語、学校・家庭・社会などで日常生活に必要な語な
   どで、 日常の生活語、 知識や情緒の獲得に必要な文化的な語、思想・心情を豊かにするのに必要な精神的な
   語、社交・情報交換などに必要な社会的な語、各教科などの学習に必要な教育的な語などである。これらの語
   いを選んで各学年に配当する。
    なお、文部省の調査による小・中学生の学習基準語や学者の調査になる基本語いなどが参考になる。(「入
   門期の国語指導(明治図書)」を参照されたい。)                            39
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
   文法――機能的な文法を組織する。学習基本文型、書き誤り、話し誤りをする文法、語の用法、語の切れ続  40
   き、文と文との関係、段落と段落との関係などを、系統的、発達的に組織する。形式的な文法でなく、児童・
   生徒の言語活動(聞く・話す・読む・書く)の中に生きて働いている機能的な文法を選んで系統的、体系的に
   組織する。
   表記――表記に関する事項――かなづかい・送りがな・句読法などについて系統的に組織し配列する。
    以上の言語活動・言語能力・言語要素などをある話題・題材などを中心に組織する。つまり具体的な聞く・
   話す・読む・書くなどの言語活動を組織する。
    このようにして、学習内容を、系統的、段階的(発達的)に組織・編成することができる。

(5) 方 法 の 科 学 化

1 学習指導の方法を規定する緒原理
 学習指導の方法は、次に示す考え方や原理・原則によって決定される。
(1) 目標・内容
  国語学習の方法は、学習の目標や内容によって決められる。たとえば、読解指導の目標に、内容的価値を設定す
 る立場に立てば、つまり価値的な目標を立てれば、読解の方法は、内容的接近法(主観的接近法)をとる。それ
 は、文章の内容的価値を読み取る過程で、読解力を育てる方法である。
  読解の目標に、技能を設定する立場をとれば、つまり、いわゆる技能目標を立てれば、読解の方法は、形式的接
 近法(言語的、技能的接近法)をとる。それは、段落はいくつに切れるか、要点は何か、接続のことばはどれか、
 中心文・中心語句はどれかなどのように、言語形式・言語技能を中心にして学習を進める方法である。
  また、会議について学習する場合、前者の立場に立てば、実際に会議を開いて、いろいろな問題を解決する過程
 で、会議に必要な技能や態度を育てる方法をとる。後者の立場をとれば、会議に必要な技能を育てることを中心と
 する方法をとる。
  このように学習の目標が、学習の方法を規定する。
  学習の方法は学習の内容によっても変わってくる。「新聞記事を読む。」「説明的な文章を読む。「物語を読む。」
 「手紙を書く。」「観察記録を書く。」「研究を発表する。」「会議を開く。」など、学習内容が異なれば、その学習
 方法もおのずから変わってくることはいうまでもない。
  学習の目標や内容は、学習の方法を規定する。
(2) 言語観――機能的方法
  言語をどのように見、どのように考えるかによって、学習の方法が規定される。
  言語思想一体観は、内容主義の国語教育を生み、内容の読み取りを中心とする内容的接近法をとった。言語道具
 観は、戦後の技能主義の国語教育へと発展させ、技能の養成を中心とする形式的接近法をとった。それらの言語観
 を止揚して得た言語機能観は、機能主義の国語教育へと発展し、内容的価値を獲得する過程で言語能力を養成する
 機能的方法をくふうした。
  ことばは、それが現実に働いている中で、その働きをとらえ、機能的に学習することによって効果があがる。会
 議の学習は、現実にある学級の問題をとらえ、それを解決する方法として会議を開き、集団思考によって問題を解
 決し、実行することによって、学級生活が改善される。このような学習方法をとることによって、会議は最も効果  41
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
 的に学習される。                                             42
  言語観が学習の方法を規定する。
(3) 学習活動−生産的方法・主体的方法
  学習活動をどう考えるか、その考え方によって、学習の方法も変わってくる。
  聞く・話す・読む・書くなどの学習活動は、児童・生徒がそれによって、内容的な価値を創造し、生産する主体
 的な行為である。したがって、生産理論・生産過程などを学習法に導入することによって、生産性の向上を図り能
 率を高めることができる。また、主体性を確立する方法を適用することもできる。
(4) 言語行動――行動的方法
  読むなどの言語活動をどう考えるかによって、学習の方法が変わってくる。読むことは行動であるという考え方
 に立てば、次のような行動過程に従って読む活動が行なわれる。(1) 目的を持つ。(2) 言語刺激を受ける。(3)
 目的に応じて言語刺激を選択する。(4) 言語刺激に反応する。(5) 目的を達成する。(6) 反応の型ができる。
  このような言語行動過程を基礎として読解過程を編成することもできる。
(5) 発達段階――段階的方法
  国語学習は系統的に能力の発達に従って一歩一歩易より難へと段階的に進めると効果があがる。つまり、生徒の
 学習能力の発達に応じて、学習事項(技能や態度や知識など)を段階的に系統的に配列し、一歩一歩学習の効果を
 確かめ、喜びながら学習を進めていく。それは、自学方法を確立するうえにも役立つ。
2 学習指導計画の科学化
(1) 単元構成の科学化
  単元は機能的な話題・題材を中心として学習活動を組織した学習のひとまとまりである。つまり、価値生産のた
 めの全体構造的な学習のひとまとまりである。 国語科の指導計画は、この単元を年間を通じて配列組織したもの
 で、したがって、年間指導計画を科学化するためには、この単元を科学的に編成しなければならない。単元の編成
 に当たっては次の諸事項を科学的に選択する。
   話題・題材の選択――児童・生徒の興味・必要・能力などに応じて選択する。児童・生徒の人間形成に役立
   つ、価値あるものを選ぶ。(単元の機能的主題・中核)(話題・題材の発達段階)
   学習目標の設定――話題・題材について学習することによって身につく価値を設定する。知識・理解・思想
   ・心情・感覚・情報などの内容的価値を学習活動の目標とする。(価値目標)(教育的人間像)
   学習活動の組織――目標を達成するための適切な、価値のある学習活動を選んで組織する。(言語経験の発
   達に応ずる)(機能的、基本的な言語経験)
   学習資料・教材――学習活動に直接使う資料・教材を選ぶ。それによって学習活動が活発に営まれるもの。
   教材は学習事項(態度・技能・言語要素)を具体的に含んでいるものを選ぶ。(機能的な教材)
   学習事項の設定――その教材で学習することによって身につけようとする態度・技能・言語要素などが学習
   事項である。この学習事項は、児童・生徒の能力の発達段階に合わせる。(機能的な能力を選ぶ。国語能力の
   発達段階表による。)
   評価――その単元で学習した態度・技能・知識について、それがどれだけ身についたか。つまり、学習効果
   を測定判断し評価する。評価の観点、評価の基準、評価の方法など、評価の体系を作る。
    以上科学的に選定された諸事項を、話題・題材を中心として、有機的、総合的に組織する。こうして、単元  43
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
   を科学的に構成することができる。                                   44
    なお、単元の構成に当たっては、次の事項について調査研究し、その発達段階表を作成しておくとよい。
  ァ 話題・題材の発達段階表――児童・生徒の興味主題の発達の調査に基づいて、価値ある機能的、基本的な話
   題・題材を選定し、各学年ごとに系統的に並べる。
   言語経験の発達段階表――児童・生徒の人間性の開発に役立つ、機能的、基本的な言語経験を発達的にとら
   えて、各学年ごとに系統的に配列組織する。
   国語能力の発達段階表――国語の態度・技能・言語要素などについて、各学年の発達段階表を作る。
    次に、科学的に考えられた単元の構成表を掲げる。これは、新潟県新津市第一小学校で構成した単元の例で
   ある。

       四年   単元   じぶんの町


時間
  学 習 目 標 学 習 資
料 及 び
教 材
  学    習    内    容
 学 習 活 動  学   習   事   項
 態度 ・技能 ことばに関する事項
十 月
上・中






U





(11時間)
「大阪」「京都」

を読んだり、自分

の住んでいる町の

特徴をとらえた説

明文を書いたりす

ることによって、

郷土の姿を再認識

し郷土を愛する心

情を持つ。
l 大阪   



2 京都




3 児童
 の作文
1 「大阪」を読
  む。


2 「京都」を読
  む。



3 日分の住んで
  いる町の特徴
  とらえた説明
  文を書く。
1 段落ごとにまとめ
  て読むこと。


2 必要なところを細
  かい点に注意し
  読むこと。


3 書こうとすること
  がらをまとめて書
  くこと。

4 段落を考えて書く
  こと。

5 中心点を押えて書
  くこと。
l 新出漢字や読み替
  え漢字を習得する
  こと。

2 文の中の意味の切
  れめやことばのか
  かり方にいっそう
  注意すること。

3 語句の組み立てに
  ついて注意を向け
  ること。 

(2) 学習指導計画の科学的編成
  科学的に編成した単元を次の点を考えて、年間に配当し組織する。
  ァ 指導計画の組織――指導計画は、目標・内容・方法・資料・評価を含む全体構造的な計画でなければならな
   い。
   近代的な指導計画の目標――近代的な指導計画は近代的な人間の育成の過程で、近代人に必要な国語の能力
   を養い、国語愛護の精神を育てることをめがける。
   近代的な学習指導計画の内容
    指導計画の内容の単位は単元である。それは、科学的操作を経て選ばれた学習活動、国語の態度・技能・言
   語要素などを各学年に配当し、それらを科学的に筋道を立てて編成組織したものである。したがって、配列さ  45
   れた単元を分析して系統だてれば、当然、次の内容を持った学習内容の体系がわかる。
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
  ア 話題・題材の系統と発達段階――どんな人間像をめざしているかがわかる。                46
  イ 学習活動の系統と発達――いわゆる言語経験の系統と発達がわかる。
  ウ 態度・技能の系統と発達
  エ 言語要素の系統と発達
  つまり、科学的に編成された学習内容の全体系が明らかになる。
(3) 近代的な学習指導計画の性格
 近代的な学習指導計画は、次のような性格を持っている。
   機能的言語観、機能的国語教育理論が一貫していること。
   近代社会の要請に応ずること。近代人の育成のための機能的な目標・内容を持つこと。
   科学の進歩に応ずる国語の機能的な能力の養成が計画されていること。
   地域の実情、学校・児童・生徒の実態に応ずること。
   科学的に編成されていること。目標・内容・方法の系統と組織を持つこと。
   機能的な能率的な言語経験(学習活動)が組織されていること。
   個人差に応ずる用意があること。
3 学習指導案の科学化
 単元の学習指導の手順・方法など、学習指導の計画を立てたものが、単元の学習指導案である。したがって、作成
された学習指導案を見れば、どんな言語観に立っているか、国語教育をどう考えているか、学習指導をどう考えてい
るか、学習指導過程をどう考えているか、児童・生徒の学習をどう考えているかが明確にわかる。学習指導案を科学
的に作成するためには、まず、学習指導案がある理論、ある考え方で一貫していること、筋道がたっていることがた
いせつである。
(1) 学習指導案の具備すべき事項
  単元の学習指導案は原則として次の事項を具備すべきである。
   「国語科学習指導案」「指導者氏名」「指導する学級名・編成」「指導年月日」
   「単元名」−たとえば「運動会」(話題単元)
   単元の学習目標――その単元全体の学習の目標を書く。人間性の開発・伸長に役だつ価値目標を設定する。
   ――たとえば「運動会の楽しさを味わったり、運動会の経験を深めたりすることができるようにする。」(価値
   目標、機能的言語観に基づく。)
   単元の学習内容――単元の目標を達成するための学習活動、その学習活動によって身につける態度・技能・
   言語要素等を書く。――たとえば、(1) 運動会について書いた文章を読む。(2) 運動会について作文を書く。
   (学習活動)。(2) 書かれている順序に従って意味を読み取ること。(2) おもしろいところを読み取ること。
   (3) 経験の順序に従って書くこと。(4) よく思い出して書くこと。(5) 新しい漢字に読み慣れること。(6)
   「。」に注意して書くことなど(学習事項――態度・技能・言語要素)。
   単元の学習資料・教材――その単元の学習活動に必要な資料・教材を書く。文集「運動会」教科書教材「た
   まいれ」「先生のかけっこ」(機能的教材、学習事項を含んでいる。)(教材の見方・解説・研究などはここ
   に書く。)
   単元の学習計画――単元全体の学習時間数、学習活動ごとの時間配当。学習活動の順序、練習の計画、評価  47
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
   の計画など単元全体の学習計画を立てる。(主体的学習の計画)                      48
   単元の学習評価――単元全体の学習評価の計画を立てる。評価の機会・方法・観点・基準などを示す。(学
   習事項に対する評価)
   単元の学習指導。それぞれの時間の学習目標・学習活動の計画を書く。――各時間の学習指導過程の編成、
   ――学習活動の順序、指導者の発間、学習事項、言語要素、学習評価などを書く。
   いわゆる研究授業などのための学習指導案を書く場合には、単元について次の事項を書く。 単元の題材
   に対する児童・生徒の学習の興味・必要など(解説の必要ある場合はそれも含める。) 児童・生徒のその
   単元の学習に必要な態度・技能の実態、 その単元の年間指導計画における位置、 縦・横の系統などを書
   く。
(2) 学習指導案の例
  次にあげたのは、東京都渋谷区立中幡小学校の大石賢治さんが、同校の研究発表会のおりに実践した一時間の学
習指導案である。
   国語科学習指導案                             指導者  大石 賢治
                                     5年4組 男22 女24 計46名
1 単元 機械の美しさ
2 単元について
 ○高学年になると、自然の風景や風景画などの美しさを感ずる気持ちがいっそう育ってきているが、自然界ばかり
  でなく、人工的な美しさや身近なものの中に美しさを見いだすことも、生活を広げるために必要である。こうし
  た時期に、たくまない美しさ、機能的な美しさを理解させ、美への関心を高め生活を豊かにすることを本単元で
  はねらっている。
 ○小見出しをつけて要点をまとめる。いわゆる要約の初歩については、徐々に能力が高まっているが、まだ要約す
  るまでにはいたらない。また、書き手の意図をとらえる技能については、「日本の歴史」の学習でやってはある
  が、内容をまとめてから意図をとらえることはじゅうぶんでない。
 ○単元の関連として、美しさということについては、五年「美しい国土」を受け、六年「民芸の美」につながるも
  のである。小見出しをつけて要点をまとめることについては、五年「本の歴史」を受けている。
3 学習の目標
  機械の働きに即した美しさを書いた文章を読んだり、 生活の中の美を調べたりして、 その独得の美しさを理解
 し、生活を豊かにし高めていくことができる。
4 学習内容

 学 習 活 動  学 習 事 項
 〇「機械の美しさ」を読む。
 ○生活の中の美しさについて調べて書く。
 ○調べたことを発表する。
 ○書き手の意図をとらえること。
 ○小見出しをつけて要点をまとめること。
 ○主旨のはっきりした話し方をすること。
 ○文章構成を理解すること。

                                                      49
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
五 学習資料 教材について                                         50
 ○美しさの概念を広げるには、適切な文章である。しかし、この教材は機械の美しさだけを知らせる文章であるか
  ら、建築の美しさ、道具の美しさなどにも目を向けさせたい。
 ○輪転機やかざりのある時計については、実際に見ていないので理解しにくい。そのために写真や絵などの資料を
  用意することが望ましい。
 ○文章構成や文章の要点を書き抜くことは、児童にとっては比較的理解しやすい。
 ○新出漢字(飯)、読みかえ(計る 求)は少ないが、語句にややむずかしいものが多い。
 (おびただしい 手のこんだ うき出しもよう 重々しい かげを ひそめる 自然 風のていこう くふうをこ
 らす……でさえ たくましく)
六 学習計画(七時間)
 (1) 全文を読んでめあてを決め、学習の計画をたてる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
 (2) 機械の美しさについてくわしく調べる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
    〇生活と機械や道具との関係を調べる・・・・・・・・・・・・・・・〇
    〇時計の美しさについて調べる・・・・・・・・・・・・・・・・・・〇
    〇飛行機の美しさについて調べる・・・・・・・・・・・・・・・・・〇
    〇輪転機の美しさについて調べ、三つの美しさを比べる・・・・・・・〇
 (3) 新しい美しさをまとめ、文章構成を理解する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
 (4) 自分たちの生活の中の美しさについて調べて発表する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
七 評価
 (1) 機械の働きに即した美しさを書いた文章を読んで、生活の中の美しさを調べたり、その独特の美しさを理解し
   たりすることができたか。
 (2) 書き手の意図がとらえられたか。
 (3) 要約がだいたいできたか。
 (4) 主旨のはっきりした話し方ができたか。
 (5) 文章構成が理解できたか。
八 学習指導
 (1) 本時の学習目標
   「機械の美しさ」の文章を読んで、働いている輪転機の美しさを理解し、時計・飛行機の美しさと比べる。
 (2) 本時の学習指導

 過程
(分)
 学習活動  学習事項  指導上の留意点  教師のおもな発開 児量の反応(予想) 
目的
(3)
1 本時の学習
 の目標を確認
 する。
    ○きょうは何の学習で
 すか。 
○輪転機
○輪転機の美しさ 
計画
(7)
2 読んで範囲
 を決め、学習
 の方法につい
  て話し合う。
  ○わかったことをノ
 ートに二段組みに
 させる。 
○輪転機のことが書い
 てある部分を読んで
 探しなさい。
○どんな学習の進め方
 をしたらよいですか。
 
〇P.4(1)〜(8)
○わかったことを書い
 て、あとでまとめる
 
追求
(15) 
3 輪転機のと
 ころを読んで
 わかったこと
 をノートに書
 く。
 〇目的
 ○働き
 ○しくみ
 ○動き
 ○たくましさ
 ○美しさ 
○要点を読
 み取るこ
 と。
○細部を読
 み取るこ
 と。 
○輪転機の目的につ
 いて考えさせる。
○わかったことをノ
 ートの下段に書か
 せる。
○輪転機の資料を用
 意する。



 
○輪転機の働きがわか
 る文をノートに書き
 なさい。
○輪転機はどんな働き
 を持っているのです
 か。
○ほかに輪転機につい
 てわかったことを書
 きなさい。

 
(二文を書く。)
○新聞を速く、正確に
 印刷する。
○新聞を大量につくる。 
獲得
(10) 
4 輪転機の美
 しさについて
 話し合ってま
 とめる。 
○輪転機の
 動きの美
 しさを理
 解するこ
 と。 
O「それら次第に思
 えてきます」の語
 句の中で扱う。
O「それは…見えて
 きます」の文は主
 ・述・修の関係を
 押えて理解させる。 
○輪転機はどのように
 できているのですか。
〇輪転機の美しさはど
 んなところにあると
 思いますか。

 
○流れるように動く。
○むだがない。
○関係し合っている。
○よけいなものがない。
○大きな生き物のよう。 
検討
(10) 
5 輪転機・時
 計・飛行機の
 それぞれの美
 しさを比べて
 話し合う。
 〇三つの美し
 さのちがいを
 考えながら全
 文を読む。 
〇三つの美
 しさのち
 がいを比
 べて理解
 すること。



 
○それぞれ、独特の
 美しさを持ってい
 ることを理解させ、
 次時の作者の意図
 に迫らせたい。



 
〇三つの美しさを比べ
 てみるとどんなちが
 いがありますか。
○同じ美しさというこ
 とばでも、それぞれ
 ちがいがあることを
 考えながら文章を読
 みなさい。 
○時計は、その役目を
 果たすところだけ美
 しさをくふうする。
○飛行機は速く飛ぶ目
 的から美しくなった。
○輪転機は流れるよう
 な動きが美しい。 


(3) 本時の学習の評価
 (1) 流れるような輪転機の美しさが理解できたか。
 (2) 三つの美しさの内容を比べ、美しさの概念を広げることができたか。
 (3) 文の主語・述語・修飾語の関係が理解できたか。
4 学習指導過程の科学化
(1) 学習指導過程編成の基礎理論
 学習指導過程は、児童・生徒の学習活動を配列組織したものである。その配列組織にあたっては、次の基礎理論の
いずれかによる。
 ア 学習過程――児童・生徒の学習の成立過程、つまり学習が行なわれる順序に従って学習活動を配列する。    53
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
 イ 思考過程――何かの課題や問題について思考を進めていき、 それが成立する過程に従って学習活動を配列す  54
  る。また、そのさい思考の特性である課題性・即物性・一貫性・生産性などを生かすことがたいせつである。
 ウ 認識過程――認識の成立・深化の過程に従って学習活動を配列する。
 エ 生産過程――話題・題材に内在する内容的価値の生産過程に従って学習活動を配列する。
 オ 行動過程――行動の成立過程(前述)に従って学習活動を配列する。
(2) 基準指導過程の編成・
 学習指導過程を客観化し一般化して、だれでも、いつでも、どんな学習にも適用できるものを編成する。つまり、
それに従って学習活動を組織・配列すれば、だれでも、いつでも、どんな学習でも安心して従える学習指導過程がで
きる。それを基準指導過程と呼ぶ。この基準指導過程は、読解・作文・聞くこと・話すことの学習指導過程を編成す
るときの基準となるものである。
   ....
 ア 目的を持つ――価値的な学習目標を立てる。
      ヽヽ    ヽヽ           ヽヽ ヽヽ
 イ 学習の計画を立て、方法を考える。さらに学習の態度・技能などを自覚する。
               ヽヽ
 ウ 目的を計画・方法に従って追求する。内容的な価値を追求するための学習活動を行なう。この過程で国語の態
  度・技能・知識が養われる。
      ヽヽ
 エ 目的を達成する。内容的価値を獲得する。追求した価値を獲得する。獲得した価値を自己の価値体系の中に位
  置づける。分析的に獲得したものを体制化する。
   ヽヽ
 オ 検討する――獲得した価値が、学習の目標に合っているかどうかを検討する。あるいは学習した内容(態度・
  技能・知識など)が身についたかどうかを評価する。練習をする。
   ヽヽ
 カ 適用する――獲得した価値を適用する。発展的な学習をする。
 このような、ア 目的 イ 計画(方法) ウ 追求 エ 獲得(達成) オ 検討 力 適用の六過程が、学習指導
過程編成の基準となる。学習の目標・内容によっては、この六過程を全部含まなくてもよい。(詳細は後述)
5 国語能力養成の科学化
 国語の能力養成には、機能的方法・練習的方法・段階的方法がある。これらを適宜組み合わせて、国語能力養成を
科学化する。
(1) 機能的方法(本質的方法)
 機能的な国語能力を、それが生きて働いている場の中で、機能的に養成する方法である。次の原則に従って行なわ
れる。
 ア 国語の能力は、開く・話す・読む・書く学習活動によって養成される。
 イ 国語の能力は、それが生きて働いている具体的な学習活動――目的を自覚し、方法を確立し、その処理能力を
  意識し,必要・興味にささえられた学習活動――の中で、生きた能力として,態度とともに効果的に養成される。
 ウ 国語の能力は、学習事項として、また、学習の抵抗・負担として (文字負担・語い負担・むずかしい技能な
  ど)学習活動の中に存在し、それを乗り越え、克服する(つまり、内容的価値を獲得する)ことによって養成さ
  れる。そのさい、その抵抗は・児童・生徒の能力の発達に応ずべきで、あまり高すぎると学習は成立しない。
 エ 国語の能力は、段階的、系統的、自覚的に養成する。段階には、同一の能力について、難易の段階、発達の段
  階、方法の段階がある。系統には、ある能力はどのように発展するか、他のどのような能力を生むか、他の能力
  とどのような関係にあるかなど、その順序・段階の系統がある。これらを考えて計画的に学習する。       55
          2 国語教育科学化の全体構造
          第2章 国語教育の科学化
(2) 練習的方法(形式的方法)                                        56
 国語能力養成の練習的方法は、機能的、経験的方法によって学習した能力を対象とする。
 ア すでに学習した能力を内容の学習と切り離して形式的に扱う。
 イ 繰り返し同じような言語刺激を与え、それに対する反応の型を固定する。つまり、同一の技能を同一の条件の
  もとに働かせるようにする。
 ウ 練習的方法は、それが独立して行なわれる場合でも、常に機能的、経験的学習と併せて行なうことを原則とす
  る。
 エ 練習の対象となるものは、発音・文字・語い・文法、開く・話す・読む・書く技能などである。練習的方法に
  よる態度の学習は困難である。
 オ どんな学習活動に必要な能力であるかを自覚し、興味を持って練習し、その結果を自ら判断し、成功感を持た
  せることがたいせつである。
(3) 段階的方法(形式的方法、いわゆるプログラム法)
 国語能力養成の段階的方法と練習的方法との違いは次の点にある。
 ア 練習的方法は、機能的、経験的に学習した能力について練習する。
 イ 段階的方法では機能的、経験的学習とは無関係に能力それ自体を取り出して学習する。
  したがって、次のような方法をとる。
 ア ある言語経験を処理するのに必要な基本的な技能を抽出する。
 イ それぞれの技能について、発達段階を押える。
 ウ それぞれの発達段階に応じた技能を含む短い文章・談話・作文などについて、その内容の理解・習得・表現と
  は無関係に技能を直接学習する。
 エ つまり、技能の系統的、段階的な直接学習をする方法である。


 このほか学習指導法の科学化は多方面にわたっている。学習指導理論の体系化、読解指導の科学化、語句指導の科
学化、文字指導の科学化、文法指導の科学化、読解技能養成の科学化など読解の面だけでも多岐にわたっている。作
文・聞くこと・話すことの学習においても同じである。それらについてはのちに詳細に述べることになっているので
ここでは省略する。


       3 国語教育科学化の方法


 国語教育を科学化する方法には次の三つが考えられる。
 (1) 教育理論・学習指導理論の適用
 (2) 研究・調査の結果の適用
 (3) 経験の総括

(1) 教育理論・学習指導理論の適用

 国語教育を科学化するためには、すでに明らかになっている教育理論・指導理論を適用することが考えられる。も  57
          3 国語教育科学化の方法
          第2章 国語教育の科学化
ちろん、その場合いろいろな立場や考え方の違う理論をばらばらに適用することはできない。前に述べたように、一  58

貫した理論体系を組み立ててそれを適用する。たとえば、戦前では垣内先生の形象理論に基づいて組織された国語教
育がそれである。また、戦後、機能的言語観に基づいて目標・内容・方法を組織した機能的国語教育の体系もそれで
ある。
 学習指導過程を編成するにあたって、思考・行動・生産などの諸理論を適用するのもそれである。
 こうして、国語教育を全体構造的に組織し、その要素・部分の本質を明らかにし、その相互の有機的関連を明確に
する。このように国語教育を科学化する。

(2) 研究・調査の結果の適用

 国語学習の諸経験・諸現象などについて、科学的に調査研究して得た原則・法則などを適用する。たとえば、児童
の書く文章を分析して書く文型の発達、思考の発達を明らかにする。その結果明らかになった一年の作文の点滴性、
二年の作文の線条性、三年の作文の平面性などに基づいて作文指導の計画・方法を立てる。あるいは経験表現の作文
の文型、話しことばの文型を発達的にとらえて、作文指導・話し方指導に適用する。
 語の意味理解の発達と実態とを調べてその結果を適用して語句指導をする。意味の理解は、低学年の包括的理解、
中学年の説明的理解、高学年の抽象的理解、また、語の意味は文脈が決定する、文章中の語の意味理解の深さは文章
の理解の深さに比例するなどが、語の理解について研究調査した結果明らかになっている。これらの原則・法則など
を適用して語句指導の方法をくふうする。
 このように研究調査の結果を適用することによって、国語の指導を科学化することができる。

(3) 経験の総合――原理・法則の発見・適用

 学習指導の経験は、それをただ漫然と繰り返していたのでは進歩がない。学習指導の経験の中に問題を発見し、経
験を分析したり総合したりして、その中に働いている共通性・法則性・原則性などを発見し、それに基づいて経験を
客観化し一般化する。つまり経験を科学的に処理して得た原則・法則を適用する。
 たとえば、漢字を書く練習をする。いろいろな練習のさせ方をし、その結果を分析して比較検討する。その結果、
漢字の練習は、その漢字を含む語とし、さらにその語を含む簡単な語句・文によって行なうことが、最もよく記憶で
き、しかも忘れないことがわかる。この経験の結果得た原則を適用して漢字を書くことの指導をする。つまり、漢字
はその形・音・義が一体となって学習されるとき効果があがることがわかる。
 学習中児童・生徒にいろいろと発言させようと努力しているうちに、そういう経験を繰り返しているうちに、指導
者が聞きじょうずになるとよく発言することがわかってくる。そこで、指導者が聞きじょうずになることに心がけて
いると、児童はしだいにじょうずに発言するようになる。
 このように、経験を繰り返す。つまり経験を総合することによって、そこに原則・法則のあることがわかる。(そ
のような洞察力を育てる。)その結果を適用することによって学習指導を科学化することができる。
 現場の私たちが国語教育を科学化する方法として以上の三つをすすめたい。この三つのうち、国語教育理論・国語
学習指導理論を適用する場合、いわゆる教条主義に陥らないように注意しなければならない。国語学習の現実は複雑
である。多岐である。一つの理論では律しきれない場合がある。例外も多い。むしろ、理論を実践によって検証し、
時にはその不備・欠陥を指摘するほどの科学的実践を持ちたい。しかし、理論に対しては謙虚でありたい。私意をさ  59
          3 国語教育科学化の方法
          第2章 国語教育の科学化
しはさむべきではないと思う。                                        60

        4 国語教育科学化の手順

 国語教育を科学化するには、どんな方法・手順によったらよいか、その概略を述べる。

(1) 国語科学習指導上の諸問題・諸経験・諸現象の科学的操作のしかた

1 観察法――−観点を決める。チェックリストを作って観察する。できるだけ客観的に見る。観察者が複数の場合
 は、観察事項、観察のしかた、記述のしかたなどをじゅうぶんに打ち合わせ、共通理解の上に立って観察する。測
 定などができないものについては主として観察法をとる。
2 記録法――事実・現象などを純粋に客解的に記録する。主観をさしはさまない。事例研究・追跡研究・授業研究
 などこれによる。
3 実験法――計画的に、課題を解決するために実験してみる。比較研究・理論の検証・実地授業などこれによる。
4 測定法――数量的に処理する場合に用いる。五分間に書ける作文の長さ。一分間の読字数など書かせたり、読ま
 せたりして測定する。機械・器具を用いることもある。
5 検査法――テスト法。課題に答えさせる。検査項目の決定、検査問題の作成。機械・器具を用いるものもある。
6 調査法――実態・実情を明らかにする。質問に答える。口問口答法・質問紙法など。

(2) 操作結果の科学的処理のしかた.

 国語科学習指導上の問題などについて、科学的に処理する方法には次のようなものがある。
l 計量する――統計処理をする。表を作る。グラフを作るなど。
2 分析する――部類分けをする。要素に分ける。観点に合わせて整理する。原因をさぐるなど。
3 総合する――総合判断をする。まとめる。原因と結果を対照するなど。操作して得た結果を集約する。
4 系統化する――発達的にみる。序列を考える。系統立てる。段階を立てる。観点で統一する。単純化する。余分
 なものを削るなど。
5 構造化する――分析した要素を組織する。全体構造的にみる。相互関連的にみる。有機的にみる。
6 客観的にみる――純粋客観的に処理する。主観をさしはさまない。本質をみる。
7 帰納的に考える――データーによって、帰納的に考える。事例を集めて比較する。同類を集めて考えるなど。
8 演鐸的に考える――理論に合わせて考える。理論・法則などに合うものを選択する。筋道を立てて考えるなど。

(3) 結果の解釈のしかたとその組織

 問題・課題・現象などの科学的操作によってその実態・実情が明らかにされる。それをどのように解釈したらよい
かが重要である。
l 洞察する――その実態・実情をみて直観的にその本質をつかむ。直観的に共通性を知る。実態・実情の背後にあ
 るもの、底を流れているものを知るなど。                                  61
          4 国語教育科学化の手順
          第2章 国語教育の科学化
2 法則・原則を見いだす――経験・現象・事実などの間にある法則・原則を抽象する。事例間相互の関係を見いだ  62
 す。
3 法則を組織する――発見された法則を組織し体系化する。

(4) 科学化の手順

l 研究の対象――国語科学習指導の問題・実態・事実・現象、国語科の授業など。
2 研究の方法過程
(1) 実態の把握――実態を客観的に明らかにする。観察法・記録法・測定法・調査法などを用いて実態を正確につか
         む。
(2) 実態の処理――調査の結果を計量処理をする。分析処理をする。総合処理をする。系統化する。
(3) 実態の解釈――構造的にみる。機能的にみる。帰納的に考える。演繹的に考える。洞察する。
(4) 法則の発見−−論理性・共通性・法則性の発見記録。
3 研究の成果
(1) 一般的法則の適用
(2) 指導の合理化
(3) 指導の能率化
4 研究成果の体系化
 研究調査の結果得られた法則性と科学性は、それが属する活動の中に組織化する。

(5) 授業研究の科学化の手順

 次に、授業研究の科学化の手順について簡潔に述べる..
1 問題設定――実験授業は普通の授業と違い、ある理論を実践してみる。ある学習指導法をためしてみる。あるい
 は、授業分析をして、学習指導における法則性を発見するなど、具体的に研究問題を設定する。その場合、その間
 題については、すでにどんな実験が行なわれ、どんな結果が得られているか。残されている問題点は何か。それに
 ついて一般にはどう考えられ,どう実践されているかなどを明らかにする。また,実験結果の予想なども立てておく。
2 実験計画――実験学年、実験のための指導計画・指導過程の作成、実験条件の設定、観察研究の観点の設定、教
 材研究・児童研究、観察記録係の分担、記録用紙・記録用具の準備、録音装置・写真撮影の準備などを行なう。
3 実験授業――指導者の経験年数・熟練度、児童・生徒の実態などを明らかにしておく。
4 研究観察――授業分析の分担、学習指導過程の観察・測定・記録、発問応答の観察記録、板書の記録、学習状況
 ・態度の観察記録、児童・生徒の活動の記録、学習効果などそれぞれ記録する、録音する、写真撮影をするなど、
 客観的に正確に記録する。必要に応じて実験事項が再現できるように記録する。
5 研究討議――各係は、観察記録事項を整理して提示し、問題点をあげる。記録された事項について、分析・整理
 ・解釈・討議する。討議の結果明らかになった点、解決された点、未解決の点、実験の裏づけになる理論、おもな
 意見などを整理記録する。授業全体についてまとめて協議する。
6 研究成果――授業記録・観察研究記録・討議記録を一回ごとに整理する。常に実験の過程・結果を反省し、その
 実績の上に立って順次実験を繰り返し、累積記録とする。
 国語教育科学化の考え方・全体構造、科学化の方法・手順についてその概略を述べた。詳細は第三章以下に述べる  63
つもりである。
          4 国語教育科学化の手順
          第3章学習指導過程の科学化
                                                      64


     第3章 学習指導過程の科学化

       1 学習指導過程とは何か――本質

(1) 学習指導過程の本質

 学習指導過程は、児童・生徒の学習の順序に従って、学習活動を配列し、組み立てたものである。
 たとえば、国語科の学習として物語を読む経験をする場合の学習活動をあげてみると、次のようなものがある。
(1) 物語全体を読んで主題を読み取る。(2) 物語を読んで感動したところを話す。(3) 主人公の気持ちや心理を読
み取る。(4) 読後の感想を話したり書いたりする。(5) 漢字の読み方や語句の意味を調べる。その他いろいろな学
習活動が行なわれる。
 また、会議の経験をする場合の学習活動を考えてみると次のようなものがある。
 (1) 学級の問題として解決しなければならない問題を持つ。(2) 会議の開き方についての知識を得る。(3) 会議
を開く。(4) 提案をする。(5) 意見を述べ合う。(6) 質問をする。(7) 採決をする。(8) 司会をするなどさまざま
な学習活動が行なわれる。
 しかも、物語や会議の学習に必要な学習活動をただ順序もなく並べたのでは学習は成り立たない。それらの学習活
動をある順序や一定の基準に従って順次に配列しなければならない。
 たとえば物語を読む場合、
(1) 物語を読む目的を明らかにする。
(2) 物語を読む計画や方法を考える。どんな読み方をすればよいかをはっきりさせる。
(3) 物語全体をよく読み通す。
(4) 作者は読み手に何について訴えようとし、考えさせようとし、感動させようとしているかを読み取る。
(5) 特に強く感動を受けたところ、印象づけられたところを話し合う。
(6) それらの感動・印象をもとにしてさらに全体を読む。
(7) 最初の計画・方法・読み方に照らして、読み取ったことを反省し、評価をしてみる。
(8) 漢字の読み方や特に感動を受けたところなどを読む練習をする。
 このような順序に従って、読む活動を順序づけ、配列すれば、物語を読む最初の時間の学習ができる。
 このように、学習活動を、ある順序、一定の基準に従って配列したものが学習指導過程である。

(2) 学習指導過程の性格と編成上の問題点

 学習指導過程は、前述のようにして成立するものであるから、次のような性格を持っている。
(1) その過程に従って学習を進めていけば、自然に学習が成り立つものであること。
(2) 児童・生徒の学習の過程(学習の成立過程)と一致すること。
(3) 児童・生徒の主体的な学習活動を配列組織したものであること。
(4) それぞれの学習活動は、一貫した考え方・思想・理論などで貫かれていること。                65
          1 学習指導過程とは何か――本質
          第3章 学習指導過程の科学化
(5) 筋道が通っていること。                                         66
(6) 知識や情報を求めるとか、ある思想や感情を表わすとか、ある問題を解決するとかなど、ある価値を生み出す、
 生産する過程であること。
 このように学習指導過程は、学習性・主体性・一貫性・生産性を持った過程である。
 そこで、それらの諸性格を持つ学習指導過程を編成する上に、次のような問題点がある。
(1) 学習活動はどんな順序・基準に従って配列したらよいか。――配列の基準
(2) 学習活動は何によって統制したらよいか。――学習指導過程の一貫性
(3) 内容的価値の学習と国語能力の養成とを学習指導過程の中にどのように位置づけたらよいか。――機能的学習指
 導過程の編成
(4) 基準的学習指導過程はどのように編成したらよいか。――指導過程の基準性・科学性
(5) 思考力を伸ばす学習指導過程の持つべき条件は何か。――指導過程と思考力
(6) 児童・生徒の学習の主体性を生かした学習指導過程はどうあるべきか――学習指導過程における主体性
(7) 学習指導過程編成の基礎理論は何か。――基礎理論

       2 指導過程はどのように移り変わってきたか――歴史

 学習指導過程はどのように移り変わってきたか。また、その変遷の裏づけになった考え方・基礎理論はなんであっ
たか。その変遷の歴史的必然性を明らかにし、新しい学習指導過程編成の方向と理想について考える基礎としたい。

(1) 注入的語学的教授過程

 明治五年、学制がしかれ、文盲をなくす教育制度がとられた。したがって、教授中心の注入主義がとられ、まず、
文字の読み書き中心、言語形式中心の語学的教育が行なわれた。すなわち、文字の読み方・書き方を形式的に教え込
む、教え授けることが中心であった。そこで、教師が読んで(範読)これを模倣させ(素読)たのち、教師がその意
味を説明し(訓話)生徒はそれを暗誦する(暗誦)という教授過程がとられた。生徒は、素読・暗誦を中心として、
ただ、教師のまねをするだけであった。
   コトバノヨミカタ
l 「単語読方」の教授過程(「小学教則」による。)
 (1) 訓読(範読)
 (2) 準誦(素読)
 (3) 意義(訓話)
 (4) 暗誦(暗誦)
 (童蒙必読ノ単語篇等ヲ授ケ兼ネテ其語ヲ盤上ニ記シ訓読ヲ高唱シ、生徒一同之ヲ準誦セシメ而シテ後ソノ意義ヲ
 授ク。但日々前日ノ分ヲ暗誦シ来ラシム。)
2 「単語書取」の教授過程
 (1) 口誦(教師)
 (2) 聞書(生徒)
 (3) 範書(教師)                                             67
          2 指導過程はどのように移り変わってきたか――歴史
          第3章 学習指導過程の科学化
 (4) 訂正(生徒)                                             68

(2) 開発的注釈学的教授過程

 明治十三年教育令が発布され、続いて明治十九年小学校令がしかれた。
 自由主義が強調され、自由民権思想が高まり、実利主義の国語教育が行なわれた。さらに、注入主義から、その発
展としての開発主義が強調され、それが教授過程を変えた。同時に、文字の読み書き教授中心から、単語から語句、
語句から文へと教える言語形式中心の論理的形式的な語学教育が行なわれた。
 このように、学習者を無視した純然たる注入教授から、学習者の内面的な開発をめざした開発主義が説かれた。そ
こで、教授過程も新たに、言語内容の理解、つまり、教授することばの意味をじゅうぶんに理解させる、それから、
ことばの読み方や書き方を教授するという過程がとられた。文字よりもことばを中心とする考えが底に流れている。
そこで、いわゆる問答法がいちじるしく進み、一つの形式が成立した。いきおい注釈学的教授過程となった。
l 「読み方」の教授過程(「如氏教育学」)
 (1) 理解(言語内容の理解)
 (2) 修読(言語形式の読み)
 (3) 口説(思想提示)
2 「作文」の教授過程(「小学校教則綱領」)
 (1) 庶物について理解する。
 (2) 庶物を題としてかなの単語を綴る。
 (3) かなの短句を作る。
3 単語の教授過程(「明治十九年改正教授術」)
 (1) 語の意味の理解(理解)
 (2) 文字の提出(提示)
 (3) 文字の読み(読む)
 (4) 文字を書く(書く)
 (5) 文字の読み(読む)
 (6) 意味の確かめ(理解)
 (7) 温習(練習)
 教 (目ヲ指シテ問フ)此ハ何ナリヤ。
 生 目ナリ。(級決・教可決)
 教 目ハ何ノ用ヲナスモノナリヤ。
 生 事物ヲ見ルノ用ヲナスモノナリ。(級決・教可決)
 教 誰力此名ヲ文字ニテ記シ得ルヤ。
 生 知ラズ。
 教 目トハ此ノ如ク記スナリ。(めト黒板ニ記シ之ヲ誦セシム。)
 生 読ム。(各唱・一斉唱)
    (中略)                                              69
          2 指導過程はどのように移り変わってきたか−歴史
          第3章 学習指導過程の科学
 教 (各生ヲシテ石盤ヲ出サシメ)之ヲ各生ノ石盤ニ書スべシ。                        70
 生 言ノ如クス。
    (中略)
 教 今各自ノ書セシバ何ノ字ナリヤ。
 生 めノ字ナリ。(級決・教可決)
 教 ソレハ何ノ名ナリヤ其実物ヲ指シテ答へヨ。
 生 (目ヲ指シテ云フ)此ノ名ナリ。(級決・教可決)
 教 (いろはノ掛図ヲ掛ケテ言フ)此中ニ今習ヒタル字ヲ見ルヤ。
 生 見タリ。
 教 誰カ来リテ之ヲ指セ。
 生 言ノ如クス。
 (右ノ教授ヲ了リテ時間ニ余リアルトキハ各生ニ命ジテめノ字ヲ石盤ニ書セシメ数回之ヲ温習セシム。)

(3) 心理学的教授過程

 明治二十年代になって、ヘルバルト学派の教育学が紹介され、その心理学に基礎を置く五段階法・三段階法の教授
過程が説かれた。
 この教授過程では、教授内容としての知識を、生徒の知識体系・価値体系の中にどのようにして組み入れるかが学
習の中心になっていた。したがって、教授過程もそこに順序段階を求めている。従来の語学的、注釈学的教授法を一
歩進めて、言語内容の整然たる体系的教授法を生み出した。
l 五段階法の教順
 (1) 準備   (予備)
 (2) 新物の提出(提示)
 (3) 新物の結合(比較)
 (4) 総括   (概括)
 (5) 活用   (応用)
2 三段階法の教順
 (1) 予備   (予備)
 (2) 教授   (提示)
 (3) 練習   (応用)
 (文章の教授法――「鶏ノ種頬ハ甚ダ多ケレドモ皆一目シテ其ノ雌雄ヲ区別シ得べシ雄鶏ハ其体大ナルノミナラズ
 其頭ニ大ナル冠ヲイタダキ且尾雌鶏ニ比スレバ遥二長シトス――)
 この三段階法は、現在の単元の指導過程、導入・展開・終末と同じである。
 第一段
  教 (鶏ト板書シテ其読方ヲ教へ)今日ハ第二十一課鶏ノ処ヲ授クべシ 汝等鶏ヲ見タコトアラン雄鶏ト雌鶏ト
   ハ如何ナル差異アルカ。
  生 雄鶏ハ大キク雌鶏ハ小ナリ。(中略)
 第二段  教授                                              71
          2 指導過程はどのように移り変わってきたか−歴史
          第3章 学習指導過程の科学化
  一 摘書  種類・一目・雌雄・冠                                    72
   (右ノ文字ニ就キテ読方及意義ヲ教フ)
  二 読方
   (「鶏ノ種類云々」ヨリ「長シトス」マデ教師先ヅ範読ヲ示シ、然ル後生徒ヲシテ之ヲ読マシム。)
  三 意義
   教 今読読ミタル所ニ就キテ講義ヲ授クベシ。(講義は略す。全文について口語訳を示す。)
   教 今ノ講義ニテ鶏ニハサマザマノ種類アリト言へリ、汝等ノ知レルモノヲアゲヨ。(以下略)
   (右終ハリテ各生徒ニ講義セシム。)
  四 熟読
   (二、三ノ生徒ヲシテ之ヲ読マシメ読振ノ悪シキ所ハ此際之ヲ正ス。)
 第三段  応用
  左ノ文章ヲ黒板上二書シテ其読方及意義ヲ言ハシム。
   白犬ト黒犬トハ一目シテ区別シ得べシ。
        (以下略)

(4) 形象論的文章法的教授過程

 大正時代の初め、垣内松三氏の形象論が説かれ、それまでの言語形式の教育(形式主義)と言語内容の教育(内容
主義)とを統一した新内容主義の国語教育が提唱された。その方法論として、文章法(センテンス−メソッド)が説
かれたことは周知のとおりである。また、文意を構造的、層的にとらえて、叙述層(ことがらの叙述)・表現層(こ
とがらの表わす意味)・象徴層(書き手の心づもり・意図)とした。したがって、教授過程もそれらの理論を基礎と
して編成された。従来の語から文、文章へという、 部分から全体への教授過程を否定して、 全体(文章)から部分
(段落・語句)へ、部分から全体への方法過程をとり、その全過程を三次的展開とした。さらに新しく開拓された解
釈学の理論を取り入れて、解釈学的教授過程の基盤となった。
1 形象論的、文章法的教授過程
 (1) 第一次の読み
 (2) 第二次の読み
 (3) 第三次の読み
      (文章読解においては、この三次的手続きを取るべきことを主張された。)
     ↓
 (1) 直観(文意の直観)
 (2) 自証(文意の自証)
 (3) 証自証(文意の確認)
     ↓
 (1) 文意の直観
 (2) 構想の理解
 (3) 語句の探究                                              73
          2 指導過程はどのように移り変わってきたか−歴史
          第3章 学習指導過程の科学化
 (4) 内容の理解                                              74
 (5) 解釈より創作へ
 これらの教授過程は、ある一時間の教授過程ではない。構造的全体としての文章全体の教授の手順を示したもので
ある。
2 芦田式教式(七変化の教式)
 (1) 読む(全文通読)
 (2) 話し合う(わからないところを教師と児童が話し合う。)
 (3) 読む(部分の通読)
 (4) 釈く(その部分の意味について話し合いながら、重要な語句を教師が板書する。)
 (5) 読む(その部分の意味を考えながら読む。)
 (6) 書く(板書された重要語句を児童がノートに書く。)
 (7) 読む(全文の味読)
 芦田式教式は、センテンス−メソッドの理論に基づきながら、完全な教授の型(教式)を生み出した。この教式の
特徴は、具体的な学習活動が組織されていること、しかも、読む・話す・書く等の学習活動が総合的に取り入れられ
ていること(ただし、現在のような話す・書く力の学習をねらったものではなく読解のための活動であった)、生活
的、経験的要素を含んでいることなどである。しかし、まだ、何といっても文章を教授する、生徒は読まされるとい
う立場を乗り越えることはできなかった。ここにこの教授過程の進歩の限界があった。

(5) 解釈学的教授過程

 形象論に続く解釈学の導入は、読解をいっそう深いものにした。そこで、教授過程も文章の深い理解、哲学的な理
解をねらう解釈過程に応ずるようにくふうされた。
 しかも、その基盤には、センテンス−メソッドの理論、意味の三層的解釈の理論があった。特に、石山脩平氏の提
唱された解釈学的教授過程は、その後長く国語教育界を風靡した。
1 解釈学的教授過程(石山脩平氏)
 (1) 通読
 (2) 精読
 (3) 味読(達読)

(5) 単元の指導過程

 戦後、国語教育は一変した。その変遷の歴史は、文部省から出された小・中・高校の学習指導要領国語に明らかに
示されている。戦後の国語教育は、この学習指導要領を中心として展開されたからである。
 戦後の国語教育は、戦前の国家主義に結びついていた内容主義の国語教育を否定し、言語道具観に基づく技能主義
の国語教育が行なわれた。しかし、やがて、学習指導要領国語に、言語機能観に基づく機能的国語教育が確立されて
今日にいたっている。
 戦後の国語教育の変動の中で特に指導過程を変革させたのは、単元の導入であった。               75
          2 指導過程はどのように移り変わってきたか−歴史
          第3章 学習指導過程の科学化
 昭和二十二年度学習指導要領国語に、はじめて「単元」の学習指導法が参考として紹介された。また、国語科の内  76
容が、従来の言語・文字・言語文化から、「言語経験」へと大きく変わった。こうして、単元学習の考え方や方法が
国語教育に導入された。
 そこで、これまで行なわれていた教授過程は、もはや単元の学習には適用できなくなってしまった。従来の教授過
程は、読解と作文だけのものであった。聞くこと・話すことの指導過程はまだ確立されていなかった。
 単元の指導過程としては、(1) 導入 (2) 展開 (3) 整理の三段階をとった。これは、過程としては、ヘルバルト
学派の三段階法、予備・教授・応用と同様であった。しかも、それが各教科に採用されたと同じように、単元の指導
過程も、どの教科でもひとしくこれを採用した。この単元の指導過程は、同時に一時間の指導過程でもあった。
 この指導過程は、その後一般化するとともに形式に流れて、しだいに軽視されてきた。
l 単元の指導過程(昭二六・学習指導要領国語科編)
(1) 題材
 一 この題材をとったわけ
 二 目標
 三 内容
 四 資料
 五 学習活動
  (1) 動機づけ
  (2) 展開
 六 評価
(2) 作ることの指導過程
 一 書く相手と書く目的について話し合い、書く目標をつかませる。
 二 取材や文の構想について話し合い、書くことがらをまとめる。
 三 文を書く。
 四 読み返して句読点をうったり、まちがいの文字を正したりする。
 五 読み合って楽しむ。
(3) 単元の指導過程
 一 単元
 二 単元設定の理由
 三 目標
 四 内容
 五 学習活動
  l 導入
  2 展開
  3 整理
 六 評価
 以上、指導過程の歴史(読解指導過程の歴史)を概観した。こうして、指導過程の移り変わりを見、その背後にあ  77
          2 指導過程はどのように移り変わってきたか−歴史
          第3章 学習指導過程の科学化
る理論の移り変わりをも見てくると、いろいろな問題が含まれていることがわかる。これからの指導過程はどうある  78
べきか、その志向すべきものが、おのずから明らかになったように思う。


       3 これからの学習指導過程はどうあるべきか――理想

(1) これまでの指導過程(教授過程)

 これからの学習指導過程のあるべき型を考える前に、これまでの指導過程のめざしてきたものは何かを明らかにす
る必要がある。個条的に述べてみる。
1 型から型へ基準を求めて
 指導過程は、 型から型へ、 新しい型を求めて動いてきた。それは常に指導の手順のより所を求める、基準を求め
る、法則を求める、合理化を求める心である。しかも、その型を型として成り立たせる理論が常にその背後に厳然と
してある。理論のささえがある。思いつきではない。しっかりした基礎理論の進歩があって、型もまた進んできたの
である。このことを第一に銘記しなければならない。
2 形式中心から内容中心へ
 初期の指導過程(教授過程)は、文字の読み書きの教授を中心とした過程であった。言語形式を機械的に習得させ
る指導過程であった(形式主義)。それが、教授内容としての知識を教授する過程へと発展した。そこには、知識の
習得――新知識の体系化――という新しい過程が加わった(内容主義)。
 この文字・言語の教授と内容知識の教授とは別々の教育であった。それが、言語形式とそれが包含する言語内容と
を一体的に学習することが説かれ、指導過程もそれに応じて発展した。文字や言語の教授、知識の教授から、言語内
容(文章の内容)の理解・解釈のための指導過程へと変わった(新内容主義)。それは形象論にささえられ、センテ
ンス−メソッドを取り入れ、解釈過程に従った指導過程であった。
 形式中心から内容中心へ、そこに指導過程の進歩の要因があった。
3 教授内容中心から学習活動中心へ
 戦前の教授過程は・それが文字や言語にしろ、言語文化にしろ、すべて教授内容の習得を中心とした指導過程であ
った。教授内容をいかにして児童・生徒に授けるか、いかにして理解させるか、そのためにくふうされた指導過程で
あった。だから、教授内容の教授の過程、解釈の過程、理解の過程が指導過程であった。ところが、戦後の学習指導
過程は、学習活動中心の指導過程となった。活発な学習活動を組織し、その活動を通して、言語内容を習得し、言語
能力を身につけることが中心になった。そこで、指導過程も、そのような活動を可能にするような過程を編成するよ
うに試みられた。 しかし、 実際には、一般にこの学習活動中心の指導過程の意味が理解されないままでいる。これ
は、これからの指導過程編成上の重要な問題点である。
 教授内容理解中心の指導過程から、学習活動中心の指導過程へと進んだところに、国語教育の一進歩があった。
4 言語活動から言語経験へ
 従来の、 読解の通読・精読・味読、作文の取材・構想・記述・批正などという指導過程は、 そこにある文章を読
む、題材を捜して文章を書くという単なる言語活動の指導過程であった。児童・生徒の言語生活とはなんのかかわり  79
もない。その意味では純粋な文章読解・文章制作の指導過程であった。
          3 これからの学習指導過程はどうあるべきか−理想
          第3章 学習指導過程の科学化
 ところが、戦後の国語教育の内容は言語経験をさせることにあった。生きた言語経験の指導が計画された。したが  80
って言語経験を処理するための指導過程を編成することが要求されてきた。
5 教授から学習へ
 初期の指導過程は、純粋な模倣の過程であり、教授の過程であった。注入主義の教育から開発主義の教育に移った
ときでも、教授過程の上にはたいした変化は見られなかった。
 教授から学習へ、学習から指導へ、さらに学習指導へと移り変わっても、指導過程の上には、これといって目立つ
ほどの変化は見られない。それは、学習過程の実態がつかめず、それを指導過程と合わせるところまで進んできてい
ないからであろう。これからの指導過程は、学習過程の上に編成すべきである。
6 形式主義から機能主義へ
 国語教育は戦前の形式主義から内容主義へ、内容主義から新内容主義へ、戦後は技能主義から機能主義へと移り変
わった。そのたびに指導過程もそれに応じて変わってきた。そこには弁証法的な進歩のあとがある。これからの指導
過程はどうあるべきかがそこに問題として提示されている。
 この変遷は、その中心をなす言語観の移り変わりとも一致しているのであるが、それについては述べるまでもない
ので省略する。

(2) これからの学習指導過程

これからの学習指導過程は、次のような性格・条件を備えるべきである。
l 言語経験の学習指導過程――経験性
 これまでの指導過程は、いずれも文章の読み方、文章の書き方だけの狭い教授過程であった。ところが、すでに述
べたように、戦後の国語教育は、もっと広い、もっと複雑な、もっと生活的な、文章を読む経験、文章を書く経験そ
のものを指導し、そのような言語経験を処理する過程で、文章の読み方、文章の書き方、つまり、言語能力を学習す
るようになった。したがって、新たに、「文章を読む経験、文章を書く経験全体の学習指導過程」を編成しなければ
ならなくなった。これは、指導過程編成の新しい考え方である。
2 主体的な学習指導過程――主体性
 従来の指導過程は、教師中心・教材中心・教授中心に編成されたものであった。これからの学習指導過程は、児童
の主体的な学習及び学習過程を中心として編成しなければならない。
3 基準的な学習指導過程――科学性・基準性
 これからの学習指導過程は、だれでも、どこでも、いつでも実践できる普遍性・客観性・合理性を持ったもの、つ
まり、科学的な学習指導過程であるべきである。具体的な実践指導過程を編成する場合、容易に学習活動を選んで、
それを配列する基準となる基準指導過程を編成する。
4 価値生産の学習指導過程――生産性
 国語の学習活動は、ことばに内在する価値を生産する行動である。したがって、能率的に価値を生産し得る学習指
導過程が望ましい。それは価値生産の過程に準拠した過程である。
5 能力養成の過程をくふうした学習指導過程――技能性
 国語能力養成の機能的方法・練習的方法・段階的方法の過程を適切に含めた学習指導過程を編成する。
6 個別化・自習化の過程をくふうした学習指導過程――個別性                        81
          3 これからの学習指輯過程はどうあるべきか−理想
          第3章 学習指埠過程の科学化
 学習の個別化・自習化の過程を考慮した学習指導過程、いわゆるプログラム学習の本質を生かし得る学習指導過程  82
を編成する。
7 思考力の養成を考えた学習指導過程――心理性
 学習過程・思考過程を生かした学習指導過程の編成――思考の特性を生かした指導過程を編成する。
8 基礎理論を持った学習指導過程――哲学性
 従来の指導過程は、センテンス−メソッド、解釈学等の文章理論・読解理論などを基礎理論としている。これから
の学習指導過程は、それらの理論のほかに、学習者の行動・経験等を規定する心理学・行動学・経験論・経済学等の
諸科学の理論を加えて基礎理論とすべきである。
 これらの諸条件を備えた学習指導過程はどんな過程であろうか。それは、機能的言語観に基づく機能主義を基盤と
する。 したがって、 児童・生徒が自ら価値を生産する主体的な学習活動・言語経験を配列組織する。その配列組織
は、児童・生徒の学習過程・思考過程・生産過程等に準じて行なう。
 こうして、学習指導過程はいちじるしく科学化され近代化される。


       4 学習指導過程編成の原理は何か――原理

 学習指導過程は、すでに述べたように、児童・生徒の学習活動を配列し組織したものである。したがって、そこに
は、配列組織の基礎になる理論・原理が必要である。

(1) 学習過程

 一年生が、文字ことばを初めて学習する場合、まず、ことばとことがらとを、いちいち対応させる。たとえば、時
計を示して、これは「トケイ」であることを教える。次に「トケイ」という話しことばと「とけい」という文字とを
対応させて、「とけい」という文字ことばを読ませて学習させる。このように、「ことがら」と「ことば」を対応さ
せ、次に、「ことば」と「文字」とを対応させる。このような過程を経て「とけい」という文字ことばが学習される。
これが、「とけい」という文字ことばの学習過程である。
 また、ことば(語句)を身につける場合、(1) ある場(文脈)の中でことばを聞く。あるいは読む。その意味の大
体を知る。具体的な意味を知る。つまり、そのことばの刺激を受けて、それに反応する。(2) このことばの刺激が反
復される。反復されるごとに、語の意味理解がしだいに深くなる。また、意味領域が広がる。そして、やがて意味が
抽象化され一般化される。(3) 次には、その語を使ってみる。その語を使うことによってことがらや思想や意志が伝
えられる。そして満足感が得られ、強化が得られる。(4) この繰り返しによって、この言語刺激に対するいい反応の
型ができあがる。
 これは自然な語の理解過程・学習過程である。 
 また、何か感動を受ける。経験をする。表現意欲が湧き起こる。伝達意識が働く。表現目的に応じて表現する。叙
述する。表現・叙述のくふうをする。推考する。清書する。保存する。伝達する。こうして表現意欲・伝達意欲を満
たして満足する。これは文章を書く経験の一過程である。文章の制作過程である。
 このように、文字や語の学習過程、文法の学習過程、文事の学習過程、文章の制作過程などを明らかにする。その  83
          4 学習指導過程縞成の原理は何か−原理
          第3章 学習指導過程の科学化
学習過程に即して学習指導過程を編成する。                                  84
「学習指導過程は、客観化され、一般化された学習の成立過程に即して編成する。」

(2) 思考過程

 一般に文章を読む場合、書かれていることがらについて考えたり、想像したりしながら読み進める。まず書かれて
いることがらを知る。ある概念を得る。次から次へと得られる概念と概念との関係を判断する。そこにさらに大きな
概念が得られる。得られた概念をもとにして、次に展開することがらを推理し予測する。こうして、しだいに観念を
形成していく。表象を形成していく。
 このような思考や想像は、基本的には書き手が組み立てた思考の過程に沿って働く。いわば、書き手が体制化した
意味を、読み手が再体制化する過程で思考が働き、想像が働くことが原則である。そこに思考の順序・筋道がある。
 こうして得た観念や表象をもとにして、さらに思考を進める。提出された課題を解決する。提示された問題に対し
て感想を述べ、意見を開陳する。叙述されたことがらに対する知識・理解を深める。知らされた情報を判断し、批判
し、それに適応する。そこには自然考える筋道・順序がある。過程がある。また、何かについて考えたことや経験し
たことを筋道に従って順序立てて書いたり話したりする。そこにも思考の筋道・順序がある。
 たとえば、学習の課題を持つ。課題解決の計画・方法等を考える。課題解決の予想や見通しを立てる。それに従っ
て、資料を集め、比べたり、判断したり、推測したりして考える。そして課題を解決し満足感・充足感を得るという
ように、全体として、筋道を立て順序に従って考える。
 その際、書いてあることがら、話されることがら、また、書こうとし、話そうとすることがらを中心にして考えを
進める。 そこに思考の課題性・即物性・一貫性がある。その結果新しい思考が生まれる。そこに思考の生産性があ
る。「学習指導過程は、思考の過程、思考の特性に従って編成する。」

(3) 認識過程

 事実・現象・形象等を認識する場合、普通その全貌を全体的に知覚し認識する。全体としてそれなりに調和のとれ
たまとまりとして、直観的、全体的な認識が行なわれる。さらに、その全体的、調和的なまとまりの構成要素が、そ
のわくの中で、まとまりの中で知覚され認識される。 他の要素との関連において、個々の要素の独自性が認識され
る。こうして、全体的に認識された全貌をさらに確実に、さらに細かに、さらに深く認識するために、構成要素の分
析的認識が行なわれる。こうして、確実に、精密に、深く認識された構成要素は、その深化のレベルで再び全体的に
総合的に組織される。体制化される。これが体制的認識である。
 このように、全体的認識・分析的認識・体制的認識の過程を経て深い認識に達する。
 また、文章を読む場合、個々の要素を文章の叙述を追って認識しながら全文章を読み終わったとき、はじめて、筆
者が訴えようとし、知らせようとし、感じさせようとしたものに、感動を覚える。強い印象を受ける。知識理解が得
られる。つまり、直観的に全体的に文章の主題や書き手の意図までも認識することができる。これは全体的認識・全
体的読解鑑賞である。
 こうして得た、全体的な感動・印象・知識をさらにその構成要素、表現叙述の要素に分析し、 その相互関連の中
で、全体的なわく――感動・印象・知識――の中で、認識を深めていく。それは感動の理解である。印象の理解であ
る。知識の確実化である。分析的認識・分析的読解である。そこに理解の深化がある。               85
          4 学習指導過程編成の原理は何か−原理
          第3章 学習指導過程の科学化
 こうして、分析的認識・分析的読解によって明らかになった、明確に認識された構成要素を、さらに再構成する。  86
全体を読むことによって、部分を全体の中に再び位置づけ、再体制化していく。感想を述べ、意見を述べ、朗読をす
る。自己の価値体系・知識体系の中に再組織する。これが体制的認識・体制的読解である。
 このように、全体的読解・分析的読解・体制的読解の過程を経て、読みは深められ、認識も深められてくる。
 また、文章を読んで、書かれていることがらを認識する。事実認識をする。書かれていることがらを認識するとと
もに、そのことがらの背後にあるもの、そのことがらを成り立たせている本質、ことがらとことがらとの間にある法
則性、ことがら全体を包んでいる場面・情景、ことがらの価値までも洞察し認識する。理性的認識である。
 このように、事実認識から理性的認識への過程に国語指導がある。
「学習指導過程は、全体的認識→分析的認識→体制的認識の過程、また、事実認識から理性的認識への過程に即して
編成する。」

(4) 行動過程

 一般に行動は、行動それ自身の目的を持つ。(欲求を持つ。)目的に応じた刺激を受ける。目的に合う刺激を選択す
る。選択した刺激に反応する。目的を達成する。成功感・満足感が得られる。刺激に対する反応の型ができる。この
ような過程を経て行動は成立し、一般化される。
「学習指導過程は、行動の成立過程に即して編成する。」

(5) 生産過程

 一般に何かについて、 読んだり、 聞いたり、書いたり、話したりすることは、児童・生徒が何かについての価値
を、自らのうちに生み出すこと、生産することだと考えられる。そこには、価値の生産過程がある。(この項はあと
に詳しく述べてある)。
「学習指導過程は、価値の生産過程に即して編成する。」

(6) 主体的行為

 他の意志によらず、自らの意志によって判断し、選択し、行動する。学習活動・学習行動がそのような主体性を持
ったものとなるとき、学習は意欲的、積極的に、活発な行為として成り立つ。学習過程全体がそのような主体性を持
ち得るように編成することがたいせつである。
「学習指導過程は、児童・生徒の主体的行為としての学習活動を組織するとともに、学習指導過程全体が主体的行為
となるように編成する。」
 以上、児童・生徒の学習活動を選択し、配列する際の原理・原則となるべきものについて述べた。これらの原理の
中から、どれをとるかは人によって異なる。
いずれにしても、学習指導過程編成の根拠となる理論のおもなものについて述べた。


       5 機能的国語教育の生産的指導過程の編成−基準              87
           5 機能的国語教育の生産的指膚過程の編成−基準
           第3章 学習指導過程の科学化
                                                      88
(1) 機能的国語教育の考え方

 ここには、次の項目について述べてある。
l 機能的国語教育は、人間形成の過程で、国語の能力を養成し、国語愛護の精神につちかう教育である。
2(1) 機能的国語教育における人間形成ということは、聞く・話す・読む・書く言語行為によって、知識・理解を得
  る、思想を形成する、心情を豊かにする、社会関係を進めるなど、人間性の開発伸長につちかう価値を身につけ
  ることである。
 (2) 国語の能力養成は、価値を追求し、生産する過程で、聞く・話す・読む・書く知識・技能・態度を養成し、発
  音・文字・語句・文法など、いわゆる言語要素(ことばに関する事項)を身につけるようにする。
 (3) 国語愛護の精神は、ことばに対する感覚を磨き、関心・意識を高め、ことばを効果的に使おうとする自覚を持
  つことによって育てる。

 機能的国語教育を命題的に述べると、「人間形成の過程で、国語の能力を養成し、国語愛護の精神につちかう」と
いうことになる。言い換えれば、人間性を開発する過程で、国語の能力をしっかり身につける。国語の能力を身につ
ける過程で、ことばに対する関心や自覚を高め、ことばをだいじにし、正しいことばを使おうとする意識を高めてい
く。そこから、国語愛護の気持ちを育てる。これが機能的国語教育の本質である。
 それをさらに具体的に考えてみる。人間形成ということは、聞く・話す・読む・書く言語活動によって、知識や情
報を得るとか、理解を深めるとか、心情を豊かにするとか、あるいは感覚を磨くとかいうように、人間性につちかう
価値を獲得することである。ここのところはよく誤解される。教材について学習したからすぐそれだけ人間性が高ま
る、また、それだけを直接ねらっていると考えがちである。そのような、教材の持つ内容的価値によって人間が作ら
れていくことはもちろんであるが、それと同時に、ことばを使うことそれ自体によって人間性が開発されていくこと
を忘れてはならない。そこに国語教育独自の働きがある。
 要するに、ことばの精神形成・文化形成・社会形成の機能に基づいて、人間性を開発し、伸長するところに機能的
国語教育の目標がある。
 人間性を開発するという場合、だいじなことは、ことばの教育を通してということ、これを忘れたら国語教育にな
らない。従来は、国語の能力をつけることと、人間形成ということを二元的に考えていた。垣内松三氏は、国語の形
式と内容とを二元的に考えていたものを、形象によって統一された。国語教育史的に言えば、それ以前に行なわれて
いた言語形式中心の国語教育と、言語内容中心の国語教育とを統一して、新内容主義の国語教育を打ちたてたと言わ
れている。そのように、国語の形式と内容とを二元的に考えて、それを統一しようという立場に立っておられた。そ
の意味での形式内容一体観、言語思想一体観の立場であった。
 機能的国語教育の立場は、人間性につちかうことと、国語の能力をつけることとを二元的に考えない。両者を一元
的に考える。だから、言語を形式・内容というように構造的にみず、ことばを働きとしてみる。機能的にみる立場を
とっている。私が今話している。話しているそれ自体はことばであり、しかもそれは私が話そうとしている内容その
ものである。したがって今私が話しているというこの事実――言語行動を形式と内容、言語と思想というようには分
けられない。それは、一つの行為、言語活動として存在するだけである。もちろん、研究観察上の便宜から、一応観
念的にこれを形式と内容として分けることも可能であるし、そうすることが研究上便利な場合もあり得る。      89
          5 機能的国語教育の生産的指導過程の編成−基準
          第3章 学習指埠過程の科学化
 しかし、ことばが現に生きて働いている時、その事実を言語の機能としてとらえざるを得ない。だから、ことばを  90
機能的にみていく立場では、人間性につちかうことと、ことばの能力とを、現象的にはことばの機能としてとらえる
よりほかはないのである。
 つまり、人間性につちかうということの中で、国語の能力をつける。段落の要点を読み取る力をつけるためには、
段落の中のだいじなことがら(内容)を読み取らせて要点を読み取る力をつける。つまり要点を読み取る具体的な活
動をしなければならない。 したがって、 内容を理解することと、内容を読み取る技能とを切り離しては考えられな
い。われわれが、人間形成と能力養成とを分けて考えるのは研究の便宜上のことであって、これを学習する場におい
ては、二元的に分けて考えるべきではない。
 文章の内容が読み取れるということは、そこで内容を読み取る能力が働いているということである。文章を読んで
知識を得るというときには、すでにそうした知識を得るための能力が働いている。だから、文章の内容をばらばらに
読み取るのではなくて、統一的にとりまとめるような読み方をさせなければならない。そういう意味で、文章の内容
価値を追求する。――知識を得る、情報を得る、物の見方や考え方を理解する、心情を豊かにするなどの過程で国語
の能力をしっかりと身につけることがだいじになってくる。そのような国語の技能や態度を身につけると同時に、文
字の読み方・書き方、語句の意味、文法の力などを身につけていく。
 次には、そのような学習の過程でことばに対する感覚が磨かれる。文型に対する感覚、文法感覚が養われ、語感が
育てられる。こうしてことばに対する関心・意識が高まってくる。それがやがて、国語をだいじにしようとか、正し
いことばを使おうとか、悪い、いやなことばは使わないようにするとか、言語意識が高まって、国語に対する自覚が
確立してくる。それがいわゆる国語愛となる。
 このような国語教育が、機能的国語教育である。この機能的国語教育を、よく戦前の内容主義の国語教育と誤解す
る。国語の技能を軽視しているのではないかと。機能的国語教育では、技能主義の国語教育以上に、国語の能力を重
視する。
 本当の技能は、技能が生きて働いている活動の中で、態度とともに身につけてやらなければ、生きた技能となりに
くいと考えて、技能養成を強調する。したがって、機能的な国語教育では、児童の人間性を開発し伸長する過程で国
語の力を養成し、ことばに対する関心・意識を高め、自覚を深めて国語愛護の気持ちを育てることを強調する。これ
を命題的にいうと、
 (1) 機能的国語教育は、ことばを通して、児童の人間性を開発する教育であり、価値を生産する教育である。
 (2) ことばによる価値生産の過程で国語の能力を養成する教育である。
 (3) 国語に対する関心・意識を高め、国語愛護の精神につちかう教育である。
 と、いうことになる。機能的学習指導過程は、このような国語教育論から出発している。

(2) 機能的、生産的学習指導過程の基礎理論

 次に、機能的な学習指導過程の基礎理論について述べる。
l 目標の理論
 機能的な学習指導過程を考える基礎の一つは、機能的な国語学習の目標に対する理論である。
 機能的国語教育では、その学習活動の目標として価値目標を立てる。(価値目標を実現するために必要な国語の能
力は、いわゆる学習事項――指導事項――として学習内容に含める。)このことはすでに述べたように、聞く・話す・  91
          5 機能的国語教育の生産的指導過程の編成−基準
          第3章 学習指導過程の科学化
読む・書く言語活動を通して、知識や情報を求める、心情を豊かにする、思想を深める、感覚を磨くなど人間性につ  92
ちかう。つまり価値を身につけることを目標としている。
ここに、機能的学習指導過程の基礎がある。
2 生産の理論
 次に、機能的国語学習の目標(価値目標)を実現するために価値の生産が行なわれる。ここに、生産の理論が、機
能的指導過程の基礎理論となる根拠がある。すでに述べたように、機能的国語教育では、人間性につちかう価値の生
産をねらっている。そこで、言語活動は、児童が価値を生産するための活動であるから、それを組織し編成した学習
指導過程は、生産の理論を基礎として編成すべきであると考える。
 私が、「価値の創造」の語を用いず、あえて「価値の生産」という語を用いたのには意味がある。最近国語教育の
近代化が提唱されている。国語教育を近代化するためには、その目標・内容・方法等全体構造(近代的国語教育の構
想)を明らかにしなければならない。たとえば、国語教育の方法を近代化するためには、現代科学の進歩の裏に働い
ている原理は何か、何が科学の進歩を規定しているか、それを考えなければ、国語教育方法の近代化の基礎理論は構
成されない。私は、国語教育方法の近代化の基礎理論を「経済の原理」に求めている。
 これまでの国語教育には、心理学・生理学・社会学・教育学等々の科学や哲学などが取り入れられて、国語教育の
実態の解釈、理論の指導等に大きな役割を果たしてきた。これからの国語教育には、その近代化を図るための方法論
として、経済、特に生産の理論を取り入れるべきだと考えている。私が特に「価値の生産」という語を使うのは、そ
のような含みを持っているからである。 機能的国語教育の発展として、生産的国語教育・経済的国語教育を体系化
し、その全体的構造を明らかにした国語教育論を展開したいと思う。
 要するに、開く・話す・読む・書くという言語活動は、価値の生産活動である。したがって指導過程を編成する場
合の基礎として生産の理論を取り入れ、その具体的な過程として、生産過程をよりどころとする。
 この生産過程を基礎として学習指導過程を編成することによって、生産的思考・生産的想像・生産的感情や児童の
思考過程の問題も認識過程の問題もすべてそのうちに収めることができる。また、内容主義の国語教育の説くところ
も、技能主義の国語教育の説くところも、なんの抵抗なしに止揚でき、また、のちに述べる主体性尊重の理論もすべ
て含めることができる。
 そういう意味で、生産過程を学習指導過程の基礎理論としたのである。
3 生産過程
 はじめに、物質的生産過程について、その筋道だけを個条的に述べてみる。
 (1) 生産の目的を立てる。(2) 生産計画を立てる。(3) 生産方法を決める。(4) 生産活動をする。(生産機械を
使う。生産財を使う。生産力を働かせる。)(5) 製品が完成する。(6) 製品検査が行なわれる。(7) 販売する。と
いうような過程をとる。
 この物質的生産過程を基礎として、精神的生産過程を考えてみると、次のようになる。
(1) 人間性を開発・伸長するための価値目標を決める。
(2) 目標に応じて、価値の生産計画を立てる。
(3) 価値の生産方法を考える。
(4) 計画・方法に従って価値を追求するための言語活動を営む。
 ア 教材を媒介として行なわれる。
 イ 教具の助けを借りる。                                         93
          5 機能的国語教育の生産的指導過程の編成−基準
          第3章 学習指導過程の科学化
 ウ 言語活動は、言語・言語能力や思考力・想像力・感情・記憶力等さまざまな精神活動にささえられて行なわれ  94
  る。
(5) 価値の獲得・生産が行なわれる。
 ア 追求する価値が、その過程において、しだいに明らかにされる。
 イ 価値が理解され、感得され、獲得される。
 ウ 知識・情報・思想・心情・感覚等が身につき、思考・想像・感情等の力が養われる.
(6) 価値を検討する。
 ア 獲得した価値に対する、感想・意見・批判等を持つ。
 イ 自己の価値体系の中に組織する。
(7) 価値を適用する。
 ア 生活への構え、生活の態度、生活の反省、生活の改造・変容等ができる。
 イ 獲得した価値をいっそう明確にし身につけるための練習を行なう。
 このような精神的生産過程は、そのまま、価値を生産するための学習指導過程となる。
4 主体性――思考過程
 学習指導過程は、 その基礎理論として、 学習目標論・生産理論とともに主体性を考慮して編成しなければならな
い。従来の指導過程(教授過程)では、学習の主体者である児童・生徒の主体性が考慮されていなかった。いかにし
て、指導内容(教授内容)を理解させるかという立場に立って指導過程(教授過程)が作られていた。
 すでに述べたように、学習活動は、児童・生徒の価値生産のための行為である。しかも、学習指導過程は、それら
の価値生産行為としての学習活動を組織し、編成したものである。
 児童・生徒の主体性が尊重され、それが、学習指導過程の基礎に一貫して流れていなければならない理由もそこに
ある。
 学習の目標も、学習の計画も、学習の方法も、児童・生徒が自ら考え、判断し、選択して実行に移すべきものであ
る。価値追求のための学習活動もまた、児童・生徒の必要・欲求に基づいて、自ら進んで行なうべきものである。
 また、児童・生徒の主体性を尊重することは、その思考過程を尊重することでもある。
 思考の課題性・即物性・一貫性・生産性等を考慮して、 学習指導過程を編成しなければならない理由もそこにあ
る。

(3) 機能的、生産的学習指導過程の基準――基準指導過程

 精神的生産過程を基準として、価値の一般的な生産過程としての、学習指導過程の基準となる型を編成した。    95
          5 機能的国語教育の生産的指埠過租の編成−基準
          第3章 学習指導過程の科学化
 目的・計画・追求・獲得・検討・適用の六過程、それを少し簡単にした目的・計画・追求・生産・適用の五過程、  96
それをさらに簡単にした目的・追求・生産・適用の四過程、目的・追求・生産の三過程などが、基準的な形式として
考えられる。この過程は、どのレベルで抽象化するかによって、精粗さまざまな過程が得られる。
 この基準指導過程を具体的な学習の中に位置づけると、次のようになる。
(1) 目的――学習の目的を立てる。
 ア 問題を解決するため、研究するため・生活に役立てるため、余暇を利用するためなど、学習活動そのものの目
  的を明らかにする。(生活目標)
 イ 知識を求めるため、情報を求めるため、思想を豊かにするため、心情を豊かにするため、感覚を磨くため、経
  験を広げ、深めるためなど学習活動のねらっている価値を明らかにする。(価値目標)
 ウ 方法として、話し合う、経験を話す、実態を調べる、学習内容に対する反応を調べる、文章を読む、問題を発
  見する等の活動を通して、学習の課題を明確にする。
 エ 指導――教師の説明、教師と児童との話し合い、児童相互の話し合い、児童の自発活動等によって、能力の発
  達に応じた指導をする。
(2) 計画――学習の計画を立てる。
 ア 立てた目的を達成し、課題を解決するための計画を立てる。
 イ 会議によって解決をする、読むことによって解決する、書く・話す・協議によって目的を達成する、研究・整
  理・発表によって課題を解決するなど、学習活動を組織する。
 ウ 方法として、単元全体を見通す、学習内容のあらましを理解する、学習の目的に照らして考え合うなどの方法
  によって計画を立てる。
 エ 指導――計画を教師が立てる、 教師と児童とが話し合いながら立てる、児童が考えた計画について協議させ
  る、計画を立てたら板書する、ノートに書かせるなどして見通しをはっきりさせる。
(3) 方法――計画に従って学習の方法を考える。
 ア 学習の方法を考える。
  (ァ) どんな学習活動をするか。――読む・書く・話す・聞く言語活動について具体的に考える。
  (ィ) どんな学習形態をとるか。――個人学習、グループ学習、先生との問答、児童の相互協議、発表、報告等
    どんな学習形態をとるか考える。
 イ 学習活動のしかたを考える。
  (ァ) 話し方・聞き方・読み方・書き方など、学習活動の方法を考える。
  (ィ) たとえば、会議はどのように進めたらよいか。――進んで意見を述べること、議題からそれないように発
   言すること、相手によくわかるように要点を押えて発言することなど、会議のしかたについて明らかにする。
  (ゥ) お見舞の手紙はどう書いたらよいか。――お見舞の心をこめて書くこと、ことばづかいに気をつけること、
   文字をていねいに書くこと、宛名・差出人について正確に書くこと等、それぞれの学習活動をするうえの注意・
   態度・技能等について考え合う。
(4) 追求――価値を追求するための学習活動を営む。
 ア 目的を達成するための計画・方法に従って学習活動を営んで価値を追求する。
 イ 方法――価値を追求するために、聞く・話す・読む・書く等の具体的な学習活動を営む。           97
          5 機能的国語教育の生産的指埠過程の編成−基準
          第3章 学習指導過程の科学化
 ウ 指導――ここの段階が学習の中心になる。特に主体的な学習が望まれる。 方法のところで考えられた学習形  98
  態、学習のしかた等に従って学習を進める。ここで特に注意すべきことは、児童には常に内容的価値を追求させ
  ながら、その過程で、国語の技能・態度・知識等を確実に身につけるように指導することである。
(5) 獲得(生産)・検討――価値を獲得する。評価する。
 ア 価値をまとめ、理解し、感動するための学習活動を考える。
 イ 価値に対する反応――感想・意見・批判等を明らかにするための学習活動を営む。
 ウ 学習事項についての検討・評価をする。
 エ 練習――学習した知識・技能をいっそう確実に身につける。
  (ァ) 知識(言語要素)を身につけるための練習。
  (ィ) 技能を養成するための練習。
 オ 方法として、朗読する、表解する、発表する、感想を話し、書く、意見を述べる、批判をする、話し合う等の
  学習活動を通して、自己の価値体系の中に位置づける。
 カ 指導――いわゆるまとめ・整理・批判の段階である。獲得した知識を秩序化したり、理解を深めたりする。ま
   た学習事項が身についたかどうか、学習効果を判定する評価の段階でもある。
(6) 適用――獲得した価値を適用し、身につけた国語の能力をいっそう確実にする。
 ア 獲得した価値を適用するための学習活動を考える。
 イ 適用――発展的学習を考える。
  (ァ) 読書生活の改善――読書態度・意欲
  (ィ) 書く生活の実践――研究記録・手紙・作文
  (ゥ) 学級会議の反省・改善
 このような学習指導過程を基準として、そこに具体的な学習活動を考えて、組織し配列すれば、実践指導過程が得
られる。この学習指導過程は、要約すれば、「生活→学習(読解・作文・聞く・話す)→生活」という過程となる。
 この学習指導過程の特色――この学習指導過程は、(1) 単元の指導過程(指導計画)、(2) ある言語経験(教材)
の指導過程、(3) 一時間の学習指導過程について、また、聞く・話す・読む・書くすべての言語経験についてもそれ
ぞれその基準過程として適用することができる。学習者の主体的な価値生産の過程で国語能力を身につけることがで
きる。主体的な、児童・生徒の学習を指導することができる。過去のどの指導過程も包含することができる。児童・
生徒の生産的思考・生産的想像・感情等をじゅうぶんに働かせることができる。この学習指導過程の基本形式は、学
習目標論・生産理論・主体性の理論・学習理論等にささえられている。


       6 開くこと・話すことの実践指導過程――実践

(1) 聞くこと・話すことの見方・考え方

 はじめに、聞くこと・話すことの学習指導過程を研究する上の、基本的な問題について考えてみたい。
 学習指導過程は、児童・生徒の学習過程を明らかにし、その上に立って考えるべきものである。
 児童の学習過程は、児童の学習活動を組織・配列したもので、その裏には、児童の思考活動・生産活動の過程があ   99
          6 聞くこと・話すことの実践指導過程−実践
          第3章 学習指導過程の科学化
って、それにささえられている。                                       100
 したがって、学習指導過程は、児童の学習活動の組織・配列に関する問題と、それを実践する上の指導、つまり、
何について、どこで、どのように指導するかの計画に関する問題とを含んでいる.
 そこでまず基本的な問題として、聞くこと・話すことの本質・性格は何かということが明らかにされなければなら
ない。
l 機能的にみた聞くこと・話すこと
 開く・話す活動は、いったいどんな目的をもって行なわれるのか。聞く・話す活動によって、話し手である自己は
どんな価値を身につけるのか。聞き手である相手には、どんな働きかけ、つまりどんな価値を身につけさせるのかと
いうことを考えてみたい。
 私たちは、聞く・話す経験を通して、知識を求める、情報を交換する、教養を高める、思想を高め、豊かにする、
経験を広める、生活を楽しくする、親しく交際する、意志を通じ合う、感動を分け合う、考えをまとめるなど、さま
ざまな価値を生産し合う。これを別の観点から見れば、社会性を増す、思考を正確にする、個性を伸ばす、認識を深
める、心情を豊かにする、感覚をみがくなど、人間性を開発する。このように聞く・話す経験は、価値を生産し、人
間性を開発することをめざして行なわれている。
 また、いっぽうにおいて、聞く・話す経験を積むことによって、それらの経験を処理するのに必要な技能や態度が
固定し、発音や語句や文法が習得される。
 きわめて平凡なあたりまえな考え方であるが、このことを正く認識することが、まず基本的にたいせつである。
2 形態的にみた聞くこと・話すこと
 では、そのような本質を持った聞く・話す経験は、どんな形態をもって行なわれるかを考えてみる。
(1) 話し手・聞き手の関係による分類(形式的)
  談話の形態的分頬については、西尾実氏がすでに発表されている。話し手と聞き手の関係によって、(ァ)一対一
 の対話、(ィ)一対多の発表・説明・報告・朗読、(ゥ)一対衆の講演・演説・放送、(ェ)多対多の話し合い・会議・
 討議・協議・会話・討論という分類がある。あるいは、話す形式によって、(ァ)独話形式の発表・説明・報告・朗
 読・放送、(ィ)対話形式の会話・話し合い・会議・討議・電話のようにも分類できる。
  このような談話形態の様式による分類も、聞く・話す経験の研究整理の一方法として必要である。 しかしなが
 ら、このような形式的、形態的考察の結果を学習の中に取り入れる場合には、これをもっと生態的に、機能的にと
 らえていかなければならない。
(2) 話題を中心とした、ことばのやりとりの関係による分類(生態的)
  このような形式的分類に対して、 話題を中心としてことばのやりとりがどのように行なわれるかという観点か
 ら、生態的、機能的に分類することも考えられる。話題を中心にして、 ことばのやりとりが直接行なわれるもの
 と、間接に行なわれるもの、つまり、話し手と聞き手が同一の場にいて行なわれるものと、機械を介して行なわれ
 るものとに分けられる。
  次に、直接ことばのやりとりが行なわれる場合、さらにそれが相互依存的に行なわれる(話し手が常に聞き手の
 態度、理解の度合い、反応の状況に応じて話す。 つまり聞き手の反応に依存して、話す内容・方法等を変えて話
 す。聞き手とともに話を構成し、話し方をくふうして話す。)発表・説明・報告と、相互交流的に行なわれる(話し
 手と聞き手がお互いにその立場を替え合う。つまりことばを直接その場でやりとりする。)会話・対話(個人的に行  101
          6 聞くこと・話すことの実践指導過程−実践
          第3章 学習指導過程の科学化
 なわれる)、話し合い・会議・討議(集団的に行なわれる)とに分けられる。                  102
  間接的に行なわれる場合には、つまり話し手と聞き手が同一の場にいないで機械を通してことばを通じ合う場合
 には、全く一方的に行なわれる放送・ラジオ・テレビなどと、相互的に行なわれる電話の応対などが考えられる。
  ここでだいじなことは、談話を生態的、機能的にみることである。ある場の中で、話題を中心にし、話し手と聞
 き手が相対し、人間的触れ合いにおいてことばのやりとりが行なわれるという事実の認識である。ことばは、常に
 人間の背景、人間を背負ってやりとりされるということである。ここに、聞く・話す経験が、人間作り・学級作り
 に大きな役割を果たしている理由がある。
  談話を形式的、 形態的にのみ見ている教室に、 人間作り・仲間作りを阻害するような学習が行なわれがちなの
 は、学問的研究と教育的研究や研究成果の適用について、じゆうぶんに考えなければならないことを示唆している
 ように思う。
(3) 機能による分類(価値的)
  以上のことから、聞くこと・話すことの経験を分類する場合に、それが主としてどのような価値を追求し、獲得
 することをねらっている経験であるかという立場から分類しておくことがたいせつになってくる。そこで個条的に
 次に述べてみる。
 ア 知識を求め、教養を高めるための言語経験――説明・発表・報告・講演・講義など。
 イ 情報を求め、これに適応するための言語経験――指示・報告・校内放送・ラジオなど。
 ウ 思想を豊かにし、思考力を高めるための言語経験――いわゆる集団思考の経験として、話し合い・会議・協議
  ・討議・討論など。
 エ 生活を楽しむ、娯楽・鑑賞のための言語経験――朗読・ラジオ・テレビ・童話・物語・校内放送など。
 オ 社交のため、お互いに親しく交わるため、社会性を増すための言語経験――会話・対話など。
  このように、それぞれの言語経験が主としてどんな機能を持っているかを考えておくと、学習過程・学習指導過
 程を編成する場合の基本的な考え方がそこから出てくる。
3 生態的、機能的にみた聞くこと・話すこと
 聞く・話す経験を生態的、機能的立場に立って、その全体構造を分析してみると次のようになる。
(1) 目的を持つこと――聞く・話す経験をする場合には、まず機能的な目的を持って行なわれる。それは、生活上の
 興味や必要や欲求に根ざすものである。
(2) 経験の中心としての話題があること――必ず目的に応じて選ばれた話題を中心にして聞く・話す活動が行なわれ
 る。この話題についての知識・理解を深める。問題を解決する。考え方・感じ方などを深める。その他話題に含ま
 れる価値を習得し、生産することになる。
(3) 話し手・聞き手がいること――それぞれ目的を持った話し手・聞き手がいる。
(4) 聞く・話す経験の形態を必要とすること――目的に応じ、話題に応じた経験の形態をとる。何かの問題を解決し
 ようとする場合には、話し合い・会議などの形態をとる。調べたこと研究したことを知らせるためには発表・報告
 などの形態をとる。
(5) 聞く・話す経験の処理能力が必要であること――これらの経験を処理するために必要な、聞く・話す技能・態度
 ・知識を必要とすることは言うまでもない。
 このように、目的・話題、話し手・聞き手、談話形態、聞く・話す能力、それらが有機的に結合して全体としての  103
          6 開くこと・話すことの実践指導過程−実践
          第3章 学習指導過程の科学化

 場が成立する。一般的に言って、聞く・話す言語経験はこのような機構を持つと考えられる。           104

(2) 開くこと・話すことの学習の考え方

 これまで述べてきたことはすべて、一般的な見方・考え方である。 次にそれらを学習という立場から見て行きた
い。
1 一般的な学習の機構
 学習内容として取り上げられる聞く・話す経験は、なんでもよいのではない。基本的には国語教育の機能を持つ経
験である。計画的、意図的に選ばれた経験で、系統性・生産性・価値性・技能性・生活性を持った経験、つまり教育
的機能を持った経験である。しかもその機能がいわゆる抵抗として、言語の上に、技能・態度の上に、価値の上に位
置づけられていなければならない。それらの言語的、技能的、価値的抵抗を排除して目的を達成するところに、はじ
めて学習は成り立つものであり、それを指導するところに学習指導が成り立つのである。
 そこで、学習活動として取り上げる聞く・話す言語経験は、次のような全体構造・機構を持っている必要がある。
(1) 目的を持つ――学習の目的を持つこと。すなわち価値的な目的を持つ。
(2) 話題を決める――学習の目的に応じて話題が選定される。この話題(問題を含む)は、その中に学習目的に応じ
 た価値を含んでいる。
(3) 話題を中心とした、聞く・話す活動を行なう。――話題の持つ価値を追求するための聞く・話す活動が行なわれ
 る。この活動は当然目的に応じた形態をとる。話し手・聞き手の立場をとる。この活動で次の事項が学習される。
 ア 場面――言語活動の形態、話し手・聞き手の立場の理解
 イ 話題・問題に含まれている価値――人間形成
 ウ 聞く・話す技能・態度     ―┐
 エ 発音・語い・文法等の言語要素  ┼――能力の養成 
 オ 聞き方・話し方の理解     ―┘
  すなわち主として、人間形成・能力養成がここで行なわれる。
(4) 目的を達成する――価値が獲得され、 能力が形成されて目的を達成し、児童にとっては成功感・満足感が得ら
 れ、強化が得られてこの活動は終わりを告げることになる。
 学習は、一般にこのような機構を持って行なわれる。
2 一般的な学習過程
 学習を前に述べたように考えると、学習の過程は次のように組織される。
(1) 目的を持つ――話題に対する価値的な目的を持つ。話題に対する課題を持つ。問題を持つ。
(2) 計画・方法を考える――目的を追求するための、課題に接近するための計画を立てる。方法を考える。態度・技
 能を自覚する。見通しを立てる。結果を予測する。
(3) 活動をする――目的を達成するための計画に応じ、方法に従った言語活動をする。課題に接近する。問題に接近
 する。課題を明らかにする。問題の構造を明らかにする。――価値を獲得する。能力を養成する。
(4) 目的を達成する。
 このように、話題について課題を持つ。課題に接近するための計画・方法・見通しを考える。課題を解決するため
の学習活動を営む。課題を解決し、目的を達成する。こうした学習過程がとられる。                105
          6 聞くこと・話すことの実践指導過程−実践
          第3章 学習指噂過程の科学化
                                                      106
(3) 聞くこと・話すことの実践指導過程

l 基準指導過程
(1) 価値的な目的を持つ………………………………………………目的
(2) 目的を追求するための計画を立て、方法を考える……………計画・方法
(3) 価値を追求する……………………………………………………追求
(4) 価値を獲得する……………………………………………………獲得
(5) 価値を検討する……………………………………………………検討
(6) 適用する……………………………………………………………適用
2 話し合い・会議の実践指導過程
 話し合い・会議などは、主として生活上の問題、言語生活上の問題等を取り上げて行なわれる。そこで取り上げら
れる問題は、多く児童の学校・学級・家庭・社会等に根ざした、つまり日常生活上の問題で、それについて、いわゆ
る集団思考によってその解決を図ろうとするものである。そこで、この話し合い・会議によって学習されるものは、
問題に対する知識・理解・認識を深める、問題に対する考え方、解決の方法を身につける、集団思考によっていい意
見を生み出すなどである。
 したがって、学習の基盤として、生活上の興味・必要を感じること、解決しようとする問題が、児童の間の関心・
興味となっている、あるいは、解決しなければならない問題として提示され、あるいは感じられている、話し合われ
ているなどのことが不可欠の条件である。そのような生活上の問題を取り上げて学習する。
 その学習に当たっては、次のような過程をとる。

 (1)
 目 的
(1) 目的を持つ。話し合い(会議)によって、問題を解決し、生活を改善するという、生活
  的、機能的な目的を持つ。この目的は児童の内面的な欲求に基づいて考えられなければな
  らない。 
(2)
  計 画
 (2) 計画を立てる。学習の目的を達成するための計画を立てる。方法を考える。
 (ア) 話し合い(会議)をすること。
 (イ) 進行係・記録係を決めること。(議長・書記)
 (ウ) 話し合い(会議)のしかたの順序・手続きなどを考えること。
 (エ) 決まったことを検討し、実践すること。
などについての計画・見通しを立てること。
 (3)
 追 求
(3) 話し合い(会議)をする。
 (ア) 問題を提示する。
 (イ) 問題を分析し、話し合うべき点を明らかにする。(どうするかを決める。どちらがよい
   かを決めるなど。)
 (ウ) 問題点について意見を述べ合う。
 (エ) 意見を総合して、次第にいい意見を生み出す。 
 (4)
 獲 得
 (4) 話し合いの結果をまとめる。
 (ア) 結論を出す。
 (イ) 結論に対する反対意見を明らかにしておく。
 (5)
 検 討
 
 (5) 話し合いの結果を検討する。
 (ア) 実行できるか。無理はないか。
 (イ) 結論に対する態度、実行についての決意などを考え合う。
 (ウ) 学習内容に照らしてそれが獲得できたかどうかを評価する。
 (6)
 適 用
 (6) 適用する。
 (ア) 話し合いの結果に従って実施する。

 この学習の各過程において指導が加えられる。たとえば、問題解決を児童の内面的な欲求に高めるための指導、学
習計画の立て方、話し合いにはいる前の問題に対する研究(理解・解釈)、話し合いの過程における指導、結論に対
する検討によって、話し合いの過程における技術上、思考上の問題を反省的に取り扱うことによる指導などが計画さ
れる。
 この学習指導過程を要約してみると、次のようになる。
(1) 生活上の問題点について関心を持つ。それを解決しようとする内面的な欲求に高める。
(2) 目的を持つ――生活的、機能的な目的を持つ。それは価値への志向である。
(3) 学習計画を立てる――目的達成のための計画や方法を考える。価値追求の計画・方法・技能。
(4) 目的を追求する――価値追求・問題解決のための学習活動を営む。
 ア 問題の提示
 イ 問題の分析
 ウ 意見の開陳
 エ 意見の総合
(5) 目的を達成する――価値の獲得、問題の解決
 ア 結論の確認・記録
(6) 目的達成の検討――結論の検討・評価
(7) 生活に適用する――実践する。価値の適用
3 発表・説明の実践指導過程
 読書したこと、研究したこと、調査したこと、経験したことなどを知らせるために、発表したり説明したりする。
この経験は、(1) 発表し説明すべきことがらについて、話し手がじゅうぶんに理解すること(話し手が価値を獲得
し、生産することが前提となる)。(2) 発表し説明する内容を、話すことによって(ことばのあてはめをすることに
よって)話し手はいっそう正確に、あるいは深く認識することができること。(3) 話し手は聞き手にわかるように発
表・説明のしかたをくふうすること。(4) 聞き手は、発表・説明の内容を聞き取って理解すること(価値を獲得する
こと)などの過程を経て成立する。                                      109
          6 開くこと・話すことの実践指導過程−実践
          第3章 学習指導過程の科学化
 つまり、(1) 話し手は発表し・説明する内容を話すことによって正確に認識し、獲得すること(価値の獲得)。(2)  110
聞き手は、発表・説明の内容を開き取って理解し、認識すること(価値の獲得)。そのような機能的な活動を通して、
話し手は、話す技能や態度を身につけ、聞き手は、聞く技能や態度を身につける。
 したがって、発表・説明の学習過程は、そのような経験がじゅうぶんに行なわれるような過程を取るべきである。
(1) 発表し、 説明する内容の理解――研究・調査・観察・実験・経験・読書したこと等についてじゅうぶん理解す
る。
(2) 発表・説明の方法をくふうする。
 (ァ) 内容を組織する。目的に応じ、時間に応じてその機能を果たせるように話を組み立てる−−目的に応じたコ
   ンポジションを考える。内容を大きく区分し、要点を個条書きにする。内容を取捨する。
 (イ) 発表・説明のしかたをくふうする.
  〇図表などを用意する。
  ○引用・抜畢・実例などを考える。
  ○話す技能・態度を考える.
  〇用語に注意する。
(3) 発表・説明をする。
 (ア) 計画に従って話す。
(4) 発表・説明を聞く。
 (ア) 発表・説明する内容を聞き取る.
(5) 開き坂ったことを中心にして話し合う.
 (ア) わかったことは何か、話し合う.
 (イ) 開き取った内容を中心にして、話し方・聞き方について検討する。
(6) 話し方・聞き方を反省する。
 (ア) 内容をよく理解して、聞き取りやすいように話したか。
 (イ) 話された内容が聞き取れたか。
   を中心にして、開く・話す技能・態度等について反省する.
(7) 練習をする。
 (ア) 指導した技能について練習する。
 (イ) 反省された技能について練習する.
   この学習指導過程を要約すると次のようになる.
(1) 目的を持つ――価値的、生産的な目的を持つ。
(2) 計画を立てる1学習の計画・方法を話し合って決める。
 (ア) 研究・調査・実験・読書などを行なう.
 (イ) 研究・調査などの結果をまとめて話す.
 (ウ) 発表し、説明されたことについて話し合う。
 (エ) 発表・説明の会の運営について考える。
(3) 発表・説明する内容を決める。                                      111
          6 開くこと・話すことの実践指導過程−実践
          第3章 学習指埠過程の科学化
 (ア) 発表・説明内容を決める。                                      112
 (イ) 発表・説明内容を研究する。
 (ウ) 発表・説明内容をまとめる。
(4) 発表・説明する内容を組織する。
 (ア) 目的に応じて内容を組織する。
 (イ) 内容を取捨選択する。
(5) 発表・説明の方法をくふうする。
(6) 発表・説明する――発表・説明を聞く。
(7) 発表・説明したこと、聞き取ったことについて話し合う.
 (ア) 発表・説明した内容と、聞き取った内容について。
 (イ) 話し方・聞き方について。
(8) 発表・説明のしかた・聞き方について反省する。
(9) 反省の結果に基づいて練習する。
4 単元の中における聞くこと・話すことの実践指導過程
(1) 基本的な学習指導事項
  単元の中で、聞くこと・話すことを指導する場合、次の事項の指導は欠くことができない.
 ア 聞く・話す言語経験についての、反省・分析・総括を行なう。
   そこで学習する言語経験についての実態をもとにして反省する。実態を分析して問題点を明らかにする.これ
  までの経験を総括して、そこに考えられる本質的なもの、法則的なものを考えてみる。学習の出発点、基盤を明
  確にする。
 イ 文章教材の学習を通して、言語経験についての知識・理解を増す。言語経験そのものに対する知識・理解を増
  すこと、言語経験の処理能力についての知識・理解を増すこと、言語要素についての知識・理解を増すことなど
  が考えられる。
 ウ 言語経験を実践する。実際に話し合いや会議を行なう。説明や発表をする。放送を聞くなど、具体的に経験す
  る。経験を処理する。そして、経験を処理する能力を身につけ、言語要素を習得し、価値を生産する。
 この三つの事項を組織し、配列するところに学習指導過程が成立する。これらは、学習指導過程を編成する場合、
最も基本的な事項であって、これを欠くことはできない。
(2) 一般的な基準指導過程
  前に述べた三つの事項をどんな順序で学習するかによって、異なった指導過程が成立する。また、単元がどのよ
 うな言語活動を組織しているかによっても、指導過程が左右される。単元の資料として、教科書に用意されている
 教材によっても、また、教科書教材(大体言語経験を記録したものと、言語経験についての知識・理解、つまり解
 説したものとがある。)の性格によっても指導過程が異なってくる。次にいくつかの型をあげてみる。
 例1 知識・理解を与えてから実践する型
  (1) 目的を持つ。
  (2) 目的を達成するための計画・方法を考える。
  (3) 言語経験や、その処理のしかたについて知識・理解を得る――教材を学習する。              113
          6 開くこと・話すことの実践指専過程−実践
          第3章 学習指導過程の科学化
  (4) 言語経験をする。                                          114
  (5) 実践した言語経験についての反省と練習。
  (6) 適用する。
 例2 生活の反省・総括――知識・理解を得る――実践する型
  (1) 目的を持つ。
  (2) 目的達成のための計画・方法を考える。
  (3) 生活の反省・総括をして問題点を明らかにする。
  (4) 言語経験や、その処理のしかたについて知識や理解を得る――教材を学習する。
  (5) 言語経験をする。
  (6) 言語経験の反省・練習。
  (7) 適用。
 例3 経験の実践――反省――知識・理解を求める――適用する型
  (1) 目的を持つ。
  (2) 目的達成のための計画・方法を考える。
  (3) 言語経験について反省・分析・総括をする。
  (4) 言語経験をする。
  (5) 言語経験を反省する。
  (6) 言語経験や、その処理のしかたについて知識・理解を得る――教材を学習する。
  (7) 練習をする.
  (8) 適用する。
  これらのうち、どの学習指導過程をとるかは、学級の実態、 単元の構成、 学習形態等を考慮して決定するとよ
 い。
 以上、聞くこと・話すことの学習指導過程を研究する上の基本間題と、一般的な指導過程、言語経験に即した指導
過程等について、その要点だけをかいつまんで述べた。
5 東京都目黒区立宮前小学校の実践指導過程
 次に掲げたのは、二年の「話し合い」の実践指導過程の例である。昭和四十年二月二十六日研究発表会のおりに実
践した学習指導過程である。

   国語科学習指導案                              教諭 赤司修子
  第二学年二組
一 単元楽しい学級(本時は二時間中の第一時)
二 本時の目標.
 学級の係で困っていることを話し合い、仲のよい秩序ある学級にする。
三 本時の学習                                               115
          6 開くこと・話すことの実践指導過程−実践
          第3章 学習指導過程の科学化
                                                      116

 過程  学習活動  学習事項  備考
目的を持
つ。
(目的・
計画・方
法)


目的を追
求する.


目的を達
成する。
1 係で困っていることについて話し
 合う。
 目的と計画を立てる。

2 係ごとに集まって、困っているこ
   とについて話し合う。

3 話し合ったことを発表する。

4 解決のための方法を話し合う。

5 決まったことをノートに書く。

6 決まったことについてさらに検討
  する。




○話の仲間入りができること。
○話そうとすることがらをまとめて話
 すこと。
○よくわかるようにはっきり話すこ
  と。
○質問したり応答したりすること。
 司会は教師がす
る。
指名は特定の児
童にならないよ
うにする。


6 東京都豊島区立雄司谷中学校の実践指導過程
 次に掲げたのは、中学校二年の「放送劇を聞く」学習指導のおりに実践した学習指導過程である。指導者は、同校
教諭遠藤勝郎さんである。(第一時間めの指導例)

 過程  時間  学習活動  学習書項  留意点
 目的の確

(計画)

(方法)

目的の追

目的の達
成(検討)


 5分



30分

    15分
l 学習のめあてを
 定める。
2 学習計画を立て
 る。
3 放送劇の聞き方
 を理解する。
4 放送劇を聞く。
5 感想を話し合
 う。
6 話し合ったこと
 を発表する。
7 学習内容をまと
 める。

 ○放送劇の主題を聞き取ること。

○人間の心情を味わうこと。

○人生の生き方について考えるこ
  と。
 ○学習のめあてと方法を明らかに
 し、むだな学習活動を省く。
○味わいながら、想像しながら聞
 く態度を育てる。
〇5の学習活動はグループです
 る。 
○改まった場での言語活動に慣れ
 させる。
○発表は録音する。



       7 読解の実践指導過程
                                                      117
          7 読解の実践指導過程

          第3章 学習指噂過程の科学化
                                                      118
(1) 基準指導過程の適用
 
 基準指導過程に従って、実践指導過程を編成する場令、特に注意すべきことは次のとおりである。
 すでにたびたび述べたように、学習指導過程は、児童・生徒の学習活動を選んで、ある原則や、ある理論のもとに
それを配列組織したものである。そこで、(1) どんな学習活動を選ぶか、学習活動の性格とその選び方、(2) どん
な考えで、どのように配列するか、配列の原則・理論等を明らかにする必要がある。
 このうち、(2) の配列の原則・理論は、すでに基準指導過程に示されているから問題はない。 そこで、主として
(1) のどんな学習活動をどんな基準で選んだらよいかについて述べる。
l 目的を持つ――この過程では、学習の目的を持つために必要な言語活動をさせる。 経験を話す。 話し合いを
 する。話を聞く。文章を読む。朗読を聞く。間答をする。その他さまざまな言語活動をさせて、学習の目的を確認
 する。
2 計画を立てる方法を考える技能を自覚する――この過程では、学習の目的を達成するためには、どんな順
 序や手順で、どんな方法で学習したらよいか計画を立て、方法を考え、どんな技能を使うかを考えるための言語活
 動を選ぶ。話し合う、説明を聞く、指示に従う、表を作る、ノートに書く、板書する、カードを作るなどさまざま
 な言語活動が考えられる。
3 目的を追求する――この過程では、学習目標・学習計画・学習法等に従って行なう学習活動を選ぶ。目的を追求
するための、また、目的を追求する各過程に必要な学習活動を選ぶ、全体的な読み、分析的な読み、体制的な読み、
主題を読み取る、知識を理解する、情報を得る、会議を開く、研究発表をする、手紙を書くとか、さまざまな学習活
動がある。
4 目的を獲得する目的を達成する――この過程では、学習内容がまとまって身につく。知識が理解される。心
 理がわかる。分析的に読み取ったものを体制化する。会議の議題が解決される。話し合いの結果いい意見がまとま
 る。このような学習活動を選ぶ。まとめて読む、学習した結果をまとめて話す、表解する、感想を話す、理解した
 結果を発表する、朗読する、予想と比べるなどさまざまな学習活動が考えられる。
5 学習の結果を検討する――この過程では、学習して得た結果がよいかどうかを検討する。あるいは、学習の目
 標に照らして、そのとおりの学習結果が得られたかどうかを評価する。そのための学習活動を選ぶ。読み返す、読
 み比べ、確かめる、話し合う、討議する、意見を述べる、自己評価する、共同評価するなどの学習活動がある。
6 学習結果を適用する――学習の結果身についた態度・技能・知識を活用する、さらに練習する、技能の学習をす
 るなどのための学習活動を選ぶ。学級文庫・図書館の本を読む、学級会を開く、文集を作る、技能の練習・学習を
 するなどの学習活動がある。

 要するに、学習指導の各過程に、各過程のねらいにあった学習活動にはどんなものがあるかを知ることが第一に必
要である。
 第二には、それぞれの過程のねらいを持った学習活動によって、どんな内容を理解し、どんな態度・技能・言語要
素等を身につけようとしているか、その学習活動によって身につけようとする能力を明らかにする必要がある。
 第三には、それらの学習活動とその処理能力とが、児童の能力の発達段階に合っているかどうかということ、つま
り、児童・生徒の能力の発達段階に合った活動を選ぶことがだいじである。                    119
          7 読解の実践指導過程
          第3 章学習指導過程の科学化
 第四には、それらの学習活動は基本的なもの、基本的な態度・技能が身につくもの、内容的価値が効果的に得られ  120
るものであって、児童・生徒が意欲的に活発に営む活動でなければならない.
 次に、読解の実践指導過程について特に研究した学校の実際を紹介したい。

(2) 東京都渋谷区立中幡小学校の読解指導過程の研究

 当校は、国語教育科学研究会会長で、国語教育・読書指導の研究に深い造詣を持っておられる渡辺正校長指導のも
とに、「知識を求めるための読解指導法」について研究している学校である。第一年度は、教材研究について、第二
年度は、区の研究協力校として学習指導過程について研究された。

1 指導過程表――
 当校の研究の特色は、「指導過程表」を作って、学習指導過程編成を科学的にし一般化したということである.

   指導過程表

 指導過程の基準  学    習    活    動     (技能)






的 
1 目的

 本時の目的を
 決める。

○学習のめあてについて教師の話を聞く。
○さしえや絵を見て話し合う。
○学習のめあてについてノートをもとにして話し合う。
○板書された本時の目的を読む。
○題名について話し合い、学習の予想を立てる。
○学習計画を見て、本時の学習の目的を確認する。
○前時の学習を考えて、本時の学習の目的をノートに書く。 
2 計画

 学習の範囲や
 方法・能力を
 自覚する。 
○教師の指示に従って文章を読む。
○目的に従い学習範囲を決めるために読む。
○全文を読んで、学習計画を話し合ったり、ノートに書いたりする。
○学習の方法について説明を聞く。
○学習の方法について話し合う。
○学習の課題を話し合って決める。
○文章の読み方について考え合う。 





求 
3 追求

 方法に従って
 読む。  
○読んで絵や写責と比べる。(大体を読み取ること)
○読み取ったことをカードで並べる。(順序。書いてあるとおりに読むこと)
○読んで動作化する。(大体を読むこと。読み深めること)
○読み取ったことをノートに書く。(大体を読み取ること。書いてあるとおり
 に読むこと。要点を押えて読むこと)
○……についてわかったことを書き出す。(順序・要点・要約)
○表の中にわかったことを書き入れる。(要点)
○読み取ったことを発表する。(正確・意図・大体)
○調べてわかったことを表に書く。(要点・段落・文章構成)
○内容を比較するために読んで話し合う。(段落・事実と意見)
○読んで必要なところに教科書に線を引く。(要点、必要な細部、中心文・中心語句) 









得 
4 獲得

 読み取ったこ
 とをまとめる。 
○読み取ったことをまとめながら絵に書く。(大体)
○わかったことを話し合い、大体をまとめる。(大体)
○わかったことをカードに書いて順序よく並べてまとめる。(順序)
〇個条書きにしたことをまとめて要点を押える。(要点)
〇個条書きにしたことをまとめて要約する。(要点・要約)
○整理するために図や表を書く。(段落・要点)
○表にまとめたことを説明する。(ことがらの変化・関係、事実と意見)
○小見出しをつける。(要約・意図・段落)
○書き手の意図を話し合う。(意図) 
5 検討

 読み取ったこ
 とを確かめる。 
○絵や図を比べて確かめ合う。
○わかったことをさらに文章を読んで確かめる。
○ノートにまとめたことがよいかどうか話し合う。
○整理した表を文章に即して確かめる。
○まとめたことが正しいかどうか考えながら文章を読む.
〇目的に合っているかどうか考え合う。
○共同で読み取った結果を確かめる。
○学習したことについて意見を述べる。感想を書く。
○学習したことについて批判する。 




6 適用

 読み取ったこ
 とを生活化す
 る。 
○学習した文字・語句・文法等を練習する。
○学習した技能について練習する。
○学級文庫・図書館の本を読む。
○読解技能の段階的学習をする。
○掲示を読む。 

                                ※適用段階は必要としない場合がある

 この「指導過程表」によって、どの過程にはどんな学習活動があるかがわかる。さらにそれぞれの学習活動によっ
てどんな技能を養成しようとするかがわかる。学習教材と児童の能力の発達とに応じて、これらの学習活動の中から
適切なものを選べばよい。なおこの表の活用について、次のとおり述べている。                  123
          7 読解の実践指導過程
          第3 章学習指導過程の科学化
 「知識を求め、国語の能力をつけるための学習を進めるとき、前に掲げた表を使用することにより、自分に合った  124
学習が進められると考える。 ただ、 各段階における活動をどれでも選んで組み立て配列してよいということではな
い。この表から活動を引き出すとき、押えなければならないいくつかの条件が満たされる必要がある。その条件は、
指導過程編成上の注意として、いろいろあるわけだが、本校では一応次に示す五つの条件が満足させられればよいと
した。
 (1) 本時の目標
 (2) 児童の能力(低・中・高の別、思考の発達の問題を含む。)
 (3) 本時でねらう学習事項
 (4) 教材の内容・形態
 (5) 単元の中の本時の位置(総時数のうち第何時)」
 このような活用上の注意があり、さらに、その活用の例が次のように示されている。

 「第三学年の教材『虫を食べる草』で、総学習時数五時間のうち、第二時扱いをするとき、学習目標は、『もうせ
んごけの虫の取り方を知る』ことであり、押えるべき技能は、『要点を押えて読むこと』である場合、次のような指
導過程が考えられる。
 目的――前時の学習を考えて、本時の学習の目的をノートに書く。
 計画――目的に従い、学習範囲を決めるために読む。学習の方法について教師の指示を聞く。読んで必要なところ
    に線を引く。
 追求――読んで、虫の取り方のわかるところに線を引く。
 獲得――読んでわかったことをわかりやすくまとめる。
 検討――まとめたことが正しいかどうか考えながら文章を読む。
 これでかなり具体的な一時間の指導過程ができる。これを軸にして、教材の内容に照らして、さらに、学級に適応
した学習活動を考えればよい。
 以上基準指導過程に従って、ある程度精選された学習活動が選ばれるから、だれがやっても、児童のねらう価値的
なもの、国語科でねらう技能が身につくような学習指導ができると考える。」
 さらに、この方法に従って、実践指導過程を編成し、実践した結果考えられた問題点が指導過程編成上の留意点と
して次のように述べてある。
 「前記の指導過程表を使うにあたって、五つの条件を考えれば一応正しい編成ができるわけだが、実際研究の際、
出された問題点を整理してみると、留意すべき事項がいくつかある。それらは主として、児童の能力、思考の発達に
よるもので、低・中・高学年での留意点である。
(1) 低学年
 ○話題や題材が身近なものが多いので、学習への関心を持たせるのに、無理に話し合いの時間を多くとる必要はな
  い。学習の方向がはっきりさせられれば短時間にとどめるべきである。
 ○学習活動の目的を自ら意識し、自覚することはむずかしいので、教師は学習活動をさせるときには、常に学習活
  動の目的を明らかに示してやる必要がある。
(2) 中学年                                                 125
          7 読解の実践指導過程
          第3草 学習指導過程の科学化
 〇教師と児童の話し合いによって学習の目標を決めることを中心に指導する。多く出た問題を話し合いによって整  126
  理する。決められた目的は板書・ノート・プリントなどして、それをはっきり意識し、自覚して学習を進めるよ
  うにする。
 ○表などに書き入れる学習は、そこにどんな書き入れ方をさせるか、文全体をまとめて書くか、キーワードと言わ
  れることばなどを書くか、作業を明確にすべきである。
 ○参考資料の使用はなんのために使うのかはっきりさせる.
(3) 高学年
 ○児童が学習内容全体の見通しをつけるとか、どんな学習活動が組織されるか、その大体をつかむことができるよ
うになっているので、学習の目的を自ら立て、目的に従って学習することができるように指導する。」
2 一時間の実践指導過程
 基準指導過程に基づいて、一時間、一時間の学習指導過程はどのように編成したらよいか。次に、東京都渋谷区中
幡小学校の樫野てる子さんの編成した実践学習指導過程に基づく読解学習の指導案と、その実践の結果を記録した授
業記録を掲げる。そのあとに添えた解説は、研究会当日一時間の学習指導過程について討議したおりに私が述べたも
のである。

   国語科学習指導案                                樫野てる子
      昭和四十年一月十九日 第三校時 五年三組 男20女24
一 単元 本の歴史
二 単元について(省略)
三 学習目標(省略)
四 学習内容
  学習活動 「本の歴史」を読む。
  学習事項 (1) 段落相互の関係に注意して読むこと。
       (2) 文章の構造について理解すること。
       (3) 要点を押えて要約すること。
五 学習資料
  教材について(省略)
六 学習計画(七時間)
  (省略)本時は第三時扱い
七 評価(省略)
八 本時の学習指導
1 目標エジプト・バビロニア・中国における本の発生を読み取って理解することができる.
2 学習活動                                                127
          7 読解の実践指導過程
          第3章 学習指導過程の科学化
                                                      128

 過程  学 習 活 動  学 習 事 項 指導上の留意点   お も な 発 間
目的
(2分) 
学習計画によって本時
の目的を確認する。 
    ○学習計画によって、きょうはど
 んな学習をするのですか。 
計画
(5分) 
前半を読んで学習の範
囲を決める。 
  世界地図を用意する。  ○きょうのめあてになるところを
 読んで見つけなさい。 
追求
(25分) 
三地方の見出しを立て
て読み取ったことをノ
ートに書く。

ノートに書いたことを
話し合いながら小項目
を整理する。 
書いてあること
を正しく読み取
ること。
「河・紀」を書
くこと。
要点を抜き出し
て、整理する
こと。 
板書しながら項目を決
めていく。
○それぞれの地方で、本について
 わかったことをノートに書き出
 しなさい。
〇三つの地方がよく比べられるよ
 うに調べたことを整理しましょ
 う。 
獲得
(7分) 
ノートにまとめたこと
を発表する。 
読み取ったこと
を比べること。 
地方別・項目別にたて
よこにわたって発表さ
せる。 
○まとまったことを、地方別や項
 目別に発表しなさい。 
検討
(6分) 
わかったことを考えな
がら文章を読む。

次時の学習を計画に従
って確認する。 
  各自黙読して時間があ
れば読みのおそい児童
に音読させる。 
○わかったことを考えながらきょ
 う学習したところを読んでみま
 しょう。 


3 学習評価
 ○要点が正しく抜き出せたか。
 ○項目別に整理できたか。
 ○河・紀が正しく書けたか。

   学習指導記録

 過程  学習活動  教  師  の  発  問  児 童 の 反 応
目的
計画
(7分) 
本時のねらい
を発表・確認
する。
学習の範図を
決める。 
○きょうの勉強は学習計画からいうとどこですか。
○もう少しくわしくいうと……。
○そのことを教科書の中でどこから勉強したらいいです
か。
○どこからどこまでのところか読んでください。
○どの辺から勉強したらいいですか。
○その間でいいかしら。三つの地方がはいっています
 か。どことどこですか。
○国でいうとどことどこですか。 
〇本のみなもと
〇三つの地方
(読む)
(10人挙手)
〇51ページ4行めから53ペ
 ージ3行め。
○ナイル川・チグリス川・
 中国
○エジプト・バビロニア・
 中国 
追求
(16分) 
学習の方法を
聞く。

読んでわかっ
たことをノー
トに書く。

ノートをもと
にして発表す
る。
○書き出した
 ことを項目
 を決めて整
 理する。 
○そこをよく読んで、三地方の本のことでわかったこと
を個粂書きにノートに書いてください。
○エジプトはこう、バビロニアではこうと書くとわかり
 やすいかもしれませんね。
○大体書けたと思う人は手をあげてください。
○山川さん、読んでください。
○山川さんの言ったことのほかにありませんか、本多君。
○ほかに気のついた人はいませんか。
○山川さんのは年代が抜けましたね。
○木村君のは、いつどこということが入れてありますね。
○今みなさんが書き出したことをもう少しわかりやすく
 整理してみましょう。それには三つのどの国にも合う
 ような項目を書き出してみましょう。
        (中略)
○(板書をさして)こういうふうに表を書きましょう。 
(読む)
(すぐ書き出す児童もい
る。)
○(1)エジプトでは木や石
   に絵文字を書き読書
   も盛ん。
 (2)バビロニアではねん
   土にくさび型の文字
   を書いた。
 (3)中国では金や石に象
   形文字を書いた。
○エジプトではパピルスと
 いう紙ができました。
○紙は中国の発明。
○紀元前五百年ごろ中国で
 用いられました。
(板書)
 紀元前。場所。
 文字。つくられたもの。
 文字を書きつけるもの。
(これらの項目を含むわく
を作る。
項目は、国・時代・文字・
材料とする。) 
獲得
(15分) 
項目に従って
表に入れる。 
〇自分のノートの中から整理して書きましょう。足りな
 ければ本を見ましょう。
○ちょっとやめて。エジプトだけ表に書けた人、中原君。
○中国はどうですか、山内さん。 
○時代…紀元前数千年
 文字…絵文字
 材料…木や石
○時代…紀元前五百年より
    前
 文字…象形文字
 材料…布・木・竹 
検討
(7分) 
表に整理した
ことを考えな
がら読む。
次時予告。
○それでは地方地方で発表してもらいましょう。
○それでは、きょうの勉強がほんとうにわかったかどう
 か、もう一度読んでもらいましょう。
○新井さん読んでください。
○ノートにまとめた結果を
 発表し合う。
(黙読)
(音読)


3 桂野さんの1時間の学習指導過程

一 学習指導過程の実際
  この授業の流れ、すなわち学習指導過程を順を追って調べてみる。
 (1) 「きょうはどんなところを勉強するのか。」というところから学習が始まった。これは、先生が課題を与えた、
  この課題に対して児童たちは、「三つの地方の本のみなもとについて勉強するのだ。」という学習の目的をはっ
  きり決めている。
 (2) その次に先生は、「どこからどこまで読んだらよいか。」という問題を出され、そこで児童たちは、この間題
  を解決するために黙読をした。そうしてどこからどこまでという、読解する範囲を確認した。換言すると、読む
  上の計画の一部をはっきりさせたということになる。
 (3) 三ばんめには、「どう読んだらよいか。」ということで、また課題を与えられた。そして先生は「読みながら、
  わかったことをノートに個条書きにしなさい。」と言われた。これは、どう読んだらよいかに対して、本来なら
  ば児童たちが答えるべきであるが、それを先生のほうで読み方を教えたのである。そういう読む方法を、先生が
  児童たちに指示した。これは、どう読んだらよいかという方法をはっきりさせたことになる。
   方法をはっきりさせたことは、そういう活動をさせて、要点を読み取る力をつける。ここで技能に対する自覚
  を児童たちに持たせたわけである。
   先生は、作業を始めてから、「エジプトではこういうこと、バビロニアではこういうこと……。」と途中でヒ
  ントを与えたが、これは途中でなく、読むはじめに、どう読んだらよいか、はっきりさせるべきである。
   これは、段落にまとめて読む技能を児童たちの身につけさせる活動である。言い換えると、三ばんめには、読
  むのに必要な技能、要点を押えて読むこと、あるいは、段落にまとめて読むこと、段落の要点をまとめるという
  技能を明らかにしたわけである。つまり、読む方法と、そこで学習する技能とを明らかにし、自覚させたのであ
  る。
 (4) 四ばんめには、「三つの国の本のみなもとについて、どんなことがわかるか。」という課題が与えられた。その
  課題に答えるために、児童たちは黙読した。言い換えると、児童たちは、読むという学習をしたわけである。こ
  の読む学習活動は、「三つの国の本のみなもとについて、どんなことがわかるか。」という知識を得るために黙
  読をしたのである。そうして、黙読をしながら個条書きにした。この個条書きをするのは、そこで読み取った要
  点を抜き出すということになる。ここで要点を読み取る技能が身につくはずである。この授業では、この技能を
  特に取り上げて指導していない。これは残念なことである。知識を身につけるときに、知識を身につけるのに必
  要な技能を、確実に身につけてやらなくては、国語の授業はじゅうぶんにいかない。
   ある児童は、lエジプト、2バビロニア、3……と項目別に分けて書いていた。中には、一、二、三、と分け
  ずに書いた児童もいる。あるいは要点と思われることを書いた児童もいる。また、要点が書けなくて文章そのま
  まを書いた児童もいた。ここでしっかり指導しないと、国語の力がつかない。
   要するに、黙読をして、知識を求めるための学習活動をして、その結果得たものを個条書きにするという活動  133
          7 読解の実践指導過程
          第3章 学習指導過程の科学化
  をしたわけである。                                           134
 (5) 五ばんめには、「わかったことは、どんなことか。」という課題が与えられた。この課題について児童たちは
  めいめい調べたことを発表した。発表した結果に基づいて、合っているもの、合わないものについて検討して、
  要点はこれとこれだとはっきり押えなければいけない。
   この学習が、多少あいまいに過ごされたが、児童の発表をもとにして、正しく要点を読み取ることができた児
  童、できなかった児童、それを明らかにして、その上で、これが要点だというものを先生は板書してやる。そう
  すると児童たちは、これが要点だということがよくわかる。
   そうした指導ののち、もう一度読んで、要点が確実に身につくようにしてやりたいものである。
 (6) 六ばんめには、「わかったことを、どうまとめたらよいか。」という課題が出された。ここで表解した。ここで
  読み取ったことを表にまとめて書くという学習活動が行なわれている。その前に、読み取ったことを発表すると
  いう学習活動が行なわれており、その次に表解して学習した事項を総括した.
 (7) 最後に、わかったことをまとめて確認するという学習活動が行なわれた。そのために児童たちに黙読させ、さ
  らに音読させた。これは、まとめたことをさらに文章に即して、それでよいかどうかを検討したものである。
 こういうふうに、ずっと一時間が流されてきた。これをずっとみると、そこに児童たちの読む学習活動が組織され
ている。うまく配列されていることがわかる。
 これが具体的な一時間の指導過程である。
二 学習指導過程の検討
  さて、この一時間の学習指導過程が、はたしてこれでいいのかどうかということを、これから検討してみたいと
 思う。
  そのためには、 この学習指導過程を組み立てる上の基礎になるいろいろな考え方がある。 この考え方に照らし
 て、学習指導過程を考えてみることにする。
 (1) まず、指導過程を組み立てる基礎になるものは、言語観や読解の考え方である。読解の考え方が指導過程を左
  右する。
   この五年生の指導過程を見ると、最初から最後まで、「三つの国の本のみなもとはどうか。」それについて知
  識を得ようとして児童たちは読んでいる。知識を身につけよう、知ろうとして、それを追求している。その過程
  で、 読みに必要な要点を押えて読む技能、 段落にまとめて読む技能、表にまとめる技能等を身につけたのであ
  る。
   知識を求めるために文章を読む過程で、それに必要な国語の力を身につけた。 それによって知識を広げてや
  る。人間性を広げてやる。こういう言語観、読解の考え方に立っている。
   これが私たちのいう、機能的国語教育の読解理論の基礎となっているのである。
   技能主義の立場での国語教育においては、国語の力をつければよい、読む力をつければよいと考えている。こ
  の立場では、このような指導過程は出てこない。「読んでごらんなさい。」「いくつの段落にわかれますか。」
  「その段落の要点を書き出しなさい。」という形で学習が進められる。これでは、正しい知識・理解を得ること
  はむずかしい。
   読解の考え方によって、指導過程が変わってくるということがわかるであろう.
   機能的国語教育の学習指導過程は、知識を求めるために読むという、指導要領の基本的な考え方に立って組み  135
          7 読解の実践指導過程
          第3章 学習指導過程の科学化
  立てられた指導過程である。                                       136
 (2) その次には、学習指導過程であるから、学習活動の並べ方が、つまり、児童たちがこの文章を読んで、知識を
  身につけ、技能・態度を身につける学習の順序・段階と、指導する順序・段階とが一致しているということが必
  要である。
   この立場からこの指導過程を見ていくと、 児童たちがこういう文章を読むときには、 まず、三つの国はどこ
  か、それはこれとこれだ、それはどこに書いてあるかを押えて、文章全体を読んで全体的に読み取り、そのうち
  でだいじなことを個条書きにし、書かれていることを要点的に分析して表にまとめ、最後に全体を読んだ。
   この学習過程は、まず全体的に読んで大づかみにつかんだ。次に要点で分析していった。それを表にまとめて
  総合して、さらにそれを全体的に読んで体系化した。
   これは、児童の読む順序と、指導の順序が合っているということである。このことは、指導過程を考える上に
  非常にだいじなことである。
   認識論的に言うと、まず、全体を読んで全体的に認識させた。次に、部分を読んで分析的な認識をさせた。そ
  して、全体をまとめて総合的な認識に導いたということができる。これは解釈のしかたであるから、どういって
  もよいが、要するに、児童の学習過程と指導過程とが一致しているということである。この理論からも、この指
  導過程はよかったと言える。
 (3) その次には、児童たちが何かについて学習する。それは、三つの国の本のみなもとについての知識を得るとい
  うことである。だから、それを中心にして考えを進めて行った。この考えが、適切に、能率的に、効果的に行な
  われるためには、いつでも、思考が何かを中心にして一貫して働いていかなければならない。そういう思考の一
  貫性ということが、指導過程ではだいじなことである。
   また、そこには課題がなくてはならない。課題を中心にしてはじめから終わりまで考えていった。ここでも児
  童の思考と指導過程とが一致していた。
   つまり思考の特性である課題性・即物性・一貫性・生産性がよく生かされた指導過程であると言える。
   ちょっと横道にそれるが、この教材全体について言えば、本時の学習は分析的な学習の段階で、教材全体の中
  心課題は、「いったい本というものは、いつごろ、世の中に生まれ、どのように発達してきたものであろうか。」
  ということである。この中心課題を明らかにするために、この三つの国の本のみなもとはと、その一部分を取り
  あげてやった授業である。
 (4) 次に、学習はあくまでも児童のものである。言い換えると、学習過程の中に児童がいつも生きていなければな
  らない。児童自らの判断・選択・実践が、学習指導過程の裏に潜んでいなければならない。つまり主体性を持っ
  た学習が行なわれていなければならない。従来行なわれたような、導入・展開・終末の中には、指導者の立場が
  あって児童たちの学習の立場がない。児童たちの主体的立場からの指導過程でなくてはならない。
   この指導過程全体の考え方として、まず、目的を持つ。その目的がそれ以後の学習活動をささえて、そこに一
  貫した学習が行なわれている。このように、児童が主体的に目的を持ち、その目的を追求するために、どの範囲
  を読んだらよいか、どんな方法で、そしてその勉強をするためには、どんな技能を使ったらよいかを考え、その
  上で読む活動をし、そこで得たものを心の中に組み立てていく。この点からもこの学習指導過程には、児童の主
  体的な学習活動が組み立てられているということができる。
 (5) 指導過程の上で考えなくてはならない問題は、だいたい以上のとおりである。このほかに指導過程を規定する  137
          7 読解の実践指導過程
          第3章 学習指導過程の科学化
  ものがある。それについて述べておきたい。                                138
   まず、読解する内容が指導過程に影響を与えるということ。
   この文章では、中心課題がはっきり与えられているから、児童たちも一貫した学習ができる。一年生の教材で
  「くじらはさかなではありません。」――ではなんだろうと中心課題をはっきりさせて、それに従って読む活動
  を進めていく。これが前に述べた思考の一貫性である。要するに、一年にしても、五年にしても、学習の中心に
  なるものがはっきりしている。これは教材そのものの内容によって、学習しやすいようにできているから、学習
  しやすいもの、中心課題等を中心とした指導過程が組まれている。
   これが文学作品になると、前記のような指導過程ではなく、また、違ったものが出てくるにちがいない。
   次に、学習する形態、授業形態によっても左右される。一般に、どの学級でも先生と児童の問の問答を中心に
  進められている。これが問答中心ではなくて、児童たちで問題を作って、その問題を解決するために、前記指導
  過程にあるような読みをしていくと、学習過程が変わってくる。
   要するに指導過程というのは、このようにいろいろな考え方を基礎にして組み立てられているわけである。
三 基準指導過程による実践指導過程
  この学習指導過程の順序・段階を抽象化すると、授業案に書かれているように、(1) 目的を持つ。(2) 計画を立
 てる。方法を考える。技能を自覚する。(3) 目的を追求する。(4) 目的を獲得する。(5) 獲得したものを検討す
 る。(6) 適用するとなっている。
  これが基準指導過程で、 この基準に従って学習活動を選んで組み立てていけば、 むずかしい理論を考えなくて
 も、理論に合った効果的な学習指導過程が組み立てられる。

(三) 新潟県新津市立第一小学校の学習指導過程の研究

 この学校は、新潟県の研究指定校として、二か年にわたって、「知識を求めるための読解指導」について研究した。
その研究の特色は、
(1) 機能的国語教育理論に徹した研究であること。
(2) 児童の主体的な学習態度の確立をめざして学習指導過程を研究したこと。
である。特に、学習指導過程の問題を、児童の主体的な学習態度の養成と関連づけて研究したことは注目に値する。
 児童の主体的な学習態度を育てるには、 学習の過程そのものが主体的な学習を可能にするものでなければならな
い。「導入・展開・整理」というような指導過程や戦前の教授過程では、児童に主体的に学習させることはむずかし
い。その意味でこの学校は早くから、基準指導過程による学習指導法を研究した。
 学習指導過程の研究に当たっては、綿密な教材研究を行ない、 その学習指導計画を作った。 次にその一例をあげ
る。


   第三学年学習指導の計画
教材 「風で走る自動車」(総時数六時間)(第四時以下は省略する)                      139
          7 読解の実践指導過程
          第3章 学習指導過程の科学化
                                                      140



?




 第一時  第二時  第三時
「風で走る自動車」について、
学習していくことを決め、単
元を概観してその学習計画を
たてる。 
「風で走る自動車」を読んで、
抵抗になる語いの理解を深め、
作り方の大体をつかむ。 
作る順序1の部分を詳しく読
み、図を参照しながら開いた
図の書き方が理解できる。 




  
目的  単元の学習目的とその学習計
画について考えていくことを
決める。 
全文を読んで、「風で走る自
動車」の作り方の大体を調べ
ることを確認する。 
作る順序1を読みながら、開
いた図の書き方を調べること
を確認する。 
計画 ○読んで作ったことについて
 話し合うことを決める。
○教材を読んでどんなことが
 わかったか、調べることを
 決める。
○学習のめあてと進め方を考
 えることを決める。 
○図や写真を見ながら作り方
 の順序、材料・道具を予想
 することを決める。

〇本を読んで作り方を碓かめ
 ることを決める。 
○開いた図の書き方を調べて
 まとめることを決める。

○ためすことを決める。 
追求  ○読んで作った経験を話し合
う。
○風で走る自動車の絵を見て
 話し合う。
O「風で走る自動車」の全文
 を読んでどんなことが書い
 てあるか調べる。
○むずかしい漢字の読みを調
 べる。
○単元の学習目的と学習計画
 を話し合う。 
○図や写真を見て、材料・道
 具・作業の順序などを話し
 合う。
○全文を読んで確かめる。

○むずかしい語句について調
 べる。
○材料・道具、作業の順序に
 ついて話し合ったことを個
 条書きにまとめる。 
○作る順序1の細部を読む。

○読み取ったことを話し合っ
 て個条書きにまとめる。

○開いた図の書き方をためす。 
獲得  ○単元の学習目的と学習計画
 を確かめる。 
○作り方の大体を確認しなが
 ら全文を読む。 
○書き方の順序や注意を確か
 める。 

 この計画では、第四・五・六時の扱いは省略した。
この指導計画表を作成しておき、これに基づいて、学習指導案を作成する。次にその一例を掲げる。


  単元ことばと文字4
教材 「話すことと書くこと」 (第一時扱い)
1 本時の目標「ことばと文字」について学習することを決め、単元を概観してその学習計画を立てる。       141
          7 読解の実践指導過程
          第3章 学習指導過程の科学化
2 学習活動                                                142

過程  時間  学習活動  活動をささえる中心発間  学習事項  留 意 点 
目的  3分 
1学習のめあて
 を決める。 
1きょうから「ことばと文字」と
 いうことについて学習する。こ
 の時間にはめあてと学習の進め
 方を決めよう。 
   
計画  3分 
2学習の進め方
 を話し合う。 
2きょうは最初に、「ことばと文
 字」について話し合い、その次
 に教科書を読んで、どんなこと
 がわかったかを調べ、学習の進
 め方を考えよう。 
 
○単元全体と本時と
 の両面の計画 
追求  32分  3ことばと文字
 について話し
 合う。








4三つの教材を
 読み、それぞ
 れどんなこと
 が書いてある
 かを調べる。

5単元の学習目
 標と学習計画
 を話し合う。 

3ことばや文字がなかったらどう
 か。
4話す時に注意されたり自分で特
 に気をつけることはないか。
5書くときに気をつけることはど
 うか。
6電話の話とふだんの話と何か違
 うことはないか。
7今まで調べたことや、これから
 知りたいと思うことはないか。
8この教科書の三つの文章を読む
 とみんなが話し合ったようなこ
 とが解決される。
9では読んでみよう。

10前の予想と比べて発表しなさ
 い。
11もっと詳しく調べていくには
 どんな順序で調べていくか。 
○話題からそれ
 ないように話
 すこと。

○率直な態度で
 聞くこと。



〇調べるために
 読むこと。

○目的に応じて
 読むこと。

○大意をつかむ
 こと。 

○事前調査の資料を
 もとにする。






〇三つの課題を板書
 し、内容を予見さ
 せる。

○予見の板書

○新出漢字の読みを
 小黒板に書いてお
 く。

〇発表事項の板書 
獲得  7分  6単元の学習目
 標と学習計画
 を確かめる。 
12これから勉強していくめあて
 と計画を確かめてみよう。 
  ○板書ノート 

 これらは、この学校の研究の一面に過ぎない。
このような学習指導過程そのものを主体化することによって、児童の主体的な学習態度の指導がきわめて効果的に行
なわれたという。それは単に国語科の学習だけではない。他教科も、教科以外の学習においても、その効果が確認さ
れたという。                                                143
          7 読解の実践指導過程
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究

                                                      144

     第4章 国語能力養成の科学的実践的研究


       1 国語能力養成の科学化の構想

 まえおき−国語能力養成の問題の意義
 国語の能力養成の問題が大きく取り上げられている意味をしっかりつかんでおく必要がある。
 歴史的に見ると、国語の能力が系統的、体系的に認識されたのは戦後のことである。昭和二十六年度の小学校の学
習指導要領国語科編に「国語能力表」がのせられ、国語能力の分析とその段階的発達が、主観的ではあったが示され
た。この能力の発見は、戦後国語教育の一大進歩であった。戦前は、まだ現在のように国語能力の分析研究が行なわ
れていなかったから、国語の能力を養成するということよりも、国語の内容を理解させるということを中心にして、
いわゆる内容主義の国語教育が行なわれていた。それに対して、戦後は、国語能力の発見を契機として、誤った技能
中心の国語教育が出てきた。国語の内容はどうでもよい。内容よりも技能を身につけることが第一だという考え方が
はびこった。これに対して、戦後の国語教育は人間教育を忘れ、技術教育の末に走ったという批判があった。そこで
昭和三十三年度の学習指導要領では、国語の能力と思考力・心情とを育てる人間形成の国語教育を重んじていると文
部省では説明した。そこで、新しい問題が出てきた。人間形成をねらいながら国語の能力を身につけるにはどうした
らよいかということ、これが私たちがこれから取り組もうとする研究問題である。
 また、いっぽうにおいては、近代社会の要請に応じて、国語教育の個別化・機械化の問題が説かれた。そこからま
た国語科の技能養成の問題が取り上げられた。私どもが、国語の能力養成の問題を取り上げる根底には、国語教育の
能率化、生産性の向上の考え方があってそのために、能力養成の問題を取り上げていることを忘れてはならない。従
来の誤った技能中心の国語教育の中の技能養成ではない。人間形成の国語教育、機能的な国語教育の中における能力
養成の科学化・近代化を計ろうとする。つまり、人間形成の過程において、いかにして能率的、効果的に国語能力を
養成するか、そして、国語教育の経済化、生産性の向上を図るかというところに、国語能力養成の課題があるのであ
る。さらに、機能的な国語教育において、分析され、認識された機能的な能力を最も効果的、能率的に養成するには
どうしたらよいかという課題がある。技能のプログラム学習の問題はここにその根拠を持っている。

(一) 国語能力の内容

 国語科の「能力」は、他教科の「能力」とその概念を異にしている。国語科で能力という場合には、(学習指導要
領では)国語の知識・技能・態度・習慣・理想等を含め、総括している。したがって、私どもが能力養成と言ってい
るのは、この意味の能力であって、技能だけの養成ではない。表示すると、

           ┌―知識――発音・文字・語い・文法
           ├―技能――聞く話す技能・読む技能・書く技能など
      国語能力―┼―態度――聞く話す態度・読む態度・書く態度など
           ├―習慣――言語行為の習慣
           └―理想――言語意識・言語理想・国語愛                        145
          1 国語能力養成の科学化の構想
          第4章国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      146
(二) 国語能力の本質

国語の能力の本質を考えるには、それがどんな場合にどのように働くかということを考えてみるとよい.
1 言語経験と言語能力
(1) 話題・題材――私たちが、聞く・話す・読む・書くなどの言語行為をする場合には、必ず、それを誘発する話題
 ・題材がある。話題・題材がないと言語行為は始まらない。
(2) 形態――話題・題材を中心として言語行為をするときは、たとえば、話し合う、説明する、報告する、会議を開
 くなど、言語行為の形態を伴う。
(3) 技能・態度(習慣・理想)――そのような言語行為をする場合には、話す技能・態度・習慣、読む技能・態度・
 習慣などができていないと活動ができない。つまり、技能・態度は、言語行為をさせるところのもの、言い換える
 と、そのような行為(経験)を処理する働きをする。理想はそのような言語行為の改善・進歩を促す働きをする。
(4) 知識(言語要素)――言語行為をするためには、それをささえる、発音・文字・語い・文法等のいわゆる言語要
 素が必要である。また、読み方・書き方など「方」に対する知識・理解も必要である。
  このように、言語行為を分析して、その相互関係・有機的関係を考えてみると、言語行為(経験)と言語能力と
 の関係がはっきりする。すなわち、@国語の技能・態度・習慣は言語行為(経験)を遂行・処理する働き、A国語
 の理想は、言語行為の改善・進歩を促す働き、B国語の知識は、言語行為を内面からささえる言語要素と、話し方
 ・聞き方・読み方・書き方などの「方」に対する知識・理解であるということが明確にわかる。ここに、言語能力
 の本質がある。このことが理解されないと、国語能力養成の方法論が出てこない。
2 言語能力
 言語行為を処理する技能・態度・習慣、言語行為を内面からささえている知識はどんな性格を持っているか。
(1) 言語活動に従属する――言語能力は言語行為の中にある。言語行為を離れては存在しない。抽象的にはそれ自体
 を取り出して考えることができるが、具体的には常に言語行為と結びついている。これはだいじな考え方である。
(2) 言語行為(経験)を処理する――言語行為を遂行・処理するために働く。したがって、言語行為をすることによ
 って伸びると考えられる。
(3) 段階的に発達する――言語能力は、言語行為と結びつきながら、それ自体、段階的に発達するものである。
(4) 総合的、有機的関連において働く――言語能力は孤立的にばらばらにあるものではなく、総合的、有機的に結び
 ついて働くものである。要点を読み取る技能は、それだけが孤立的に働くということは考えられない。常に他の技
 能と有機的に結びついて働く。このことを別のことばで言えば、次のようになる。
 @言語行為は言語の技能・態度を育てる。  A言語行為は言語要素を身につける。
 B言語行為は価値を生産する。  C言語行為は言語意識を高める。

(三) 国語能力の発達と系統

1 国語能力の分析
 国語の能力にはどんなものがあるか、分析して明らかにする必要がある。能力は、いつも総合的、有機的に結びつ
いて働き存在するものであるが、 これを科学的に研究するためには、 科学的に分析して個々別々のものに切り離し
て、観察したり、調査したり、測定したりすることがだいじである。能力を分析したものが、指導要領にも「機能的  147
          1 国語能力養成の科学化の構想
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
国語教育」にものせてあるが、これが確実に把握されないと、能力養成の方法は考え出されない。たとえば、(1) 読  148
む能力にはどんなものがあるか。(2) 聞く話す能力にはどんなものがあるか。(3) 書く能力にはどんなものがあるか
などを明らかにし、さらに、発音能力・文字力・語い力・文法力などについて、分析しておく必要がある。
2 国語能力の発達と系統
(1) 言語経験の発達――児童が現在どんな言語能力を持っているかを知るには、児童に処理できる言語経験とその発
 達を明らかにするとよい。この研究はまだじゅうぶんに行なわれていない。いい経験の発達段階表は、児童の言語
 能力の発達に裏付けられたものでなければならない。
(2) 言語能力の発達段階表――昭和二十六年度の小学校学習指導要領国語に示された国語能力表は、能力の発達、主
 要な言語経験、能力の到達目標など性質の異なったものを含んでいる。そこで、国語能力の実態調査に基づいて国
 語の諸能力の発達段階表を作る必要がある。たとえば要点を読み取る力は、一年、二年、三年とどう発達している
 か。主題を読み取る力は、三年、四年、五年、六年とどのように段階的に発達していくか。実態に基づいて能力の
 発達段階表を作る。そして能力の発達を中心として系統表を作成する。
(3) 国語能力の概念――国語の能力を分析して、その発達や系統を明らかにするとともに、分析抽出された文字力・
 語い力・文法力・要点・要約・意図・主題・言語意識とは何か、その概念を明確に規定する必要がある。
  一般には文字力というのは、文字を読み書きする力と考えられているが、私たちが文字力をどう考えるかによっ
 て、その内容が異なってくる。たとえば「資」という漢字が書けるかどうかということだけを考えがちであるが、
 実際には、「資」が書けても、それをどんな場合にも自由に使えるというわけにはいかない。昭和三十七年度の東
 京都の高校入学の適性検査で「資する」という語を書かせたら、驚くほど書けなかった。「資本」「資料」などと
 いう語で書かせたらもっと書けたと思われる。小学校四年生で、「見物」と「生物」を書かせたら、見物のほうが
 ずっと成績がよかった。ただ文字が書けるということだけでは文字力とはいえないようである。

(四) 国語能力の養成の方法原理

 国語の能力養成を考える場合、どんな方法原理の上に立ったらよいかを明確にする。
1 経験の原理――能力の学習
 言語能力は言語経験を処理するために働くものであるから経験を離れては存在しない。聞く話す能力は、聞く話す
経験の中で、読む能力は読む経験の中で働き、伸びる。つまり、言語能力は言語経験によって伸び育つものである。
2 練習の原理――能力の練習
 学習した能力について、それに習熟し、それを定着するために、経験的、生活的方法によらず、機械的、形式的方
法によって能力を身につけるのが練習である。練習は学習を前提として行なわれる。学習によって意識し自覚した能
力を反復練習して身につける。
3 成功の原理――学習・練習意欲の喚起
 学習および練習が成功したことの自覚・満足感が、次の学習・練習の意欲を呼び起こし、その基盤となる。
4 発達の原理――学習・練習の成立
 能力の学習・練習も、その発達に応じていかないと効果があがらない。やさし過ぎては進歩がない。むずかし過ぎ
ては学習が成功しない。だから能力の発達段階に応じた学習を計画する。
5 条件反射の原理――能力の形式化                                  149
          1 国語能力養成の科学化の構想
          第三章 国語能力養成の科学的実践的研究
 最近国語教育の中にもこの理論が取り入れられている。条件反射の理論を適用する場合には思考とか想像とかいう  150
精神活動を必要としない。言語刺激に対して機械的に反応する。そしてある言語刺激に対して、いい反応の型――習
慣を作っていく。たとえば、朝「おはよう」とあいさつされて、瞬間的に、機械的に、「おはよう」と反応する。こ
のように、言語刺激に対して、機械的に好ましい反応ができるような形式――習慣を身につけようとする。そこで、
技能を「刺激に対する反応の型」というふうに考えていけば、この理論を、技能養成の方法として適用できる。
 従来、読むということは、書き手が体制化した意味を読み手が体制化する、つまり語の意味を理解しながら、しだ
いに観念を積み上げていく。そしてまとまった観念・意味を構成すること、あるいは、書き手が組み立てた思考に従
って考えること、その他いろいろな考え方があったが、この考え方をそのままにして、条件反射の理論を適用しよう
としても無理である。そこで、条件反射の理論を適用するときには、読むということは、文字ことばによる刺激を受
けて、それに反射的に応じていく、と考える。たとえば、「春が来た」ということばを聞いて、言語刺激を受けて、
「春が来たのだ」という観念が機械的に反射的に形成される。あるいはそのイメージが描かれる。このように考えて
くると、そこに、いい指導の方法が考えられると思う。図示してみると、次のようになる。

 l 刺 激―――言語刺激――聞く・読む活動.
    |     ↓       |
    ↓  ┌―観念形成┐    ↓
 2 反 応―┤     ├―知識・情緒・経験・心情等の成立
    |  └―表象形成┘    |
    |     ↓       |
    ↓  ┌―成功感―┐    ↓
 3 強 化―┤     ├―知識・情緒・経験・心情等を身につけた喜び
    |  └―充足感―┘    |
    ↓     ↓       ↓
 4 反 復―――反応の形式化――反応の型ができ機械的に反応する、技能が定着する


(五) 国語能力養成の方法

1 方 法 論
(1) 機能的方法――経験の原理による
  目的に応じて文章を読ませ、その内容的価値を読み取る過程で読解力を養成する方法、目的に応じて文章を書か
 せ、その意図を実現し果たす過程で作文力を養成する方法、それが機能的方法である。この方法では言語経験(学
 習活動)の選択、言語経験を処理する言語能力、言語経験を文持する言語要素の確実な把握がたいせつである。
(2) 練習的方法――練習の原理による
  学習した能力をいっそう確実にし、定着させるために繰り返しその能力を機械的に使う方法である。
  この方法では、まず言語経験によって学習した言語技能・言語要素等を理解し、自覚する。次に、学習した言語
 技能・言語要素について、形式的、機械的に繰り返し練習する。これは、学習を前提とした能力の養成法である。
(3) 機械的方法――条件反射の原理による
  この方法には、思考も想像も参加しない。言語刺激に機械的に反応して、いい反応の型をつくる方法。したがっ
 て、言語刺激が大きすぎてはいけない。読む場合であったら、機械的に反応できるように刺激のまとまり(ことば
 のまとまり)を小さく区切る。特に、いわゆるプログラム学習――学習のオートメ化――を考えるならば、刺激の
 単位をできるだけ小さくして反応の型、反応の志向がばらばらにならないようにする。
  これは、技能養成の方法としては新しい方法なのでよく研究して、機能的方法の中に取り入れていけばよい。
2 実 践                                                 151
          1 国語能力養成の科学化の構想
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究

 以上述べたような、方法原理を適用して、方法論を考え、それに基づいて、具体的方法をくふうすることがたいせ  152
つである。たとえば、漢字や語句の指導について考えてみると、漢字力をつけるにはどんな方法があるか、語い力を
つけるにはどんな方法があるか、などについて最も能率的な方法を考える。それがこれからの研究である。
 @ 読解の過程で語句を練習する方法。  A 読解学習のあとで語句の練習をする方法。
 B 読解の過程で辞書を使って語句を学習する方泣。  C 語句の系統的、段階的学習の方法。
などというように具体的な方法を研究する。

(六) 国語の能力養成と言語経験(学習活動)

 国語の能力養成を機能的方法によって行なう場合、具体的に文章を読ませて読む能力を育てる、話を聞かせて聞く
能力を育てるということを根本に考える。そこで、どんな読む活動をさせれば、どんな読む能力がつくかという研究
が必要である。また、「説明」という話し方をさせれば、どういう話す技能や態度が身につくかということなどをは
っきりさせなければ、能力養成の方法がくふうされない。
 つまり・言語経験(学習活動)を分析して、その経験を処理するにはどんな技能・態度が必要か、どんな言語要素
が必要かということを明確にする。@話題A言語経験の形態B言語経験の処理能力C言語経験を支持する言語要素の
四つの要素に分析してそれらを明確にとらえる。従来この研究がじゅうぶんに行なわれなかったから、能力養成の研
究も本格的にはならなかったのである。

(七) 国語能力養成と教材

 教材については次のことを明らかにする必要がある。
l 教材と言語活動――どんな言語活動に用いる教材か。教材について学習する場合、どんな学習活動が考えられる
 か。
2 教材と音語能力――この教材による学習で、どんな技能・態度が身につくか。どんな学習活動をするときに、ど
 んな技能や態度が身につくか。
3 教材と言語要素――この教材によって、どんな言語要素を学習させるか。教材の負担(語い負担・文字負担)は
 どうなっているか。
4 教材と児童の学習能力――その教材の学習に対する児童の言語能力−学習能力の実態はどうなっているか。

(八) 国語能力の養成と授業

l 学習活動と能力の養成
 授業をする場合は、話したり、聞いたり、読んだり、書いたりする学習活動をさせる。どういう活動をさせればど
ういう能力がつくか、また、どのような構え、どのような態度で学習させれば効果的に能力が身につくかということ
を明らかにする。
2 指導過程と能力養成
 学習と練習とをどのように組織したらよいか。たとえば、文字の学習・練習はいつ、どこで、どのような方法で行
なうかというように学習指導過程にはっきりと位置づける。                           153
          1 国語能力養成の科学化の構想
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      154
(九) 国語能力養成と基礎研究

 国語の能力を養成する上の基礎になる事項の研究、たとえば、文字の学習について次のような比較研究をする。
 @文字の単独学習と練習 A文字の語による学習と練習 B文字の語句による学習と練習 C文字のプログラム学
習 D文字の系統的学習 E文字の生活的学習などについて研究調査をし、その結果得た法則や原則を適用する。
 また、語の学習については、@語の辞書による学習 A文脈による学習と練習 G語の直接学習 C語の比較学習
D語の分析的学習 E語のプログラム学習などの比較研究をする。
 また、態度・技能については、@聞く・話す・読む・書く態度・技能にはどんな機能的、基本的なものがあるか。
Aそれらの態度・技能はどのように発達するか。(発達段階表の作成。それらの態度・技能はどのような時に能率的
に養成されるか、機能的方法・練習的方法・機械的方法等について実験してみる。)Bどんな言語経験とどんな態度
・技能とが結びついているか。C技能学習のプログラムはどのように編成したらよいかなど、基本的、基礎的な調査
研究をする。
 開くこと・話すこと・作文等についても同じである。

       2 聞く・話す能力養成の科学化

(2) 聞く・話す経験の全体構造−技能の考え方と位置

l 技能の認識
 聞く・話す技能養成がなかなか効果的に行なわれない原因の一つは、技能は学習活動の中でどんな働きをしている
か、あるいは、どういう学習活動の中で、どういう技能が働くかということに対する先生がたの認識が浅いところに
あると思う。私が国語教室をたずねて、いつも考えさせられたことは、聞く・話す言語活動はさせているけれども、
その言語活動をさせて、どんな態度や技能を身につけさせようとしているのか、そういうことをはっきり押えて授業
をしている教室が非常に少ないことである。したがって、なんということなしに話させたり聞かせたりしている場合
が多い。そこで改めて、聞く・話す技能を学習活動の中に位置づけて指導することのたいせつさを思う。
2 話す経験の全体構造
 「聞くこと・話すことの技能養成」について話そうとする場合、どんなことをどんな順序で話すか、つまり、話の内
容とその組み立て・構成を考えてみる。では、どんな目的でこの話をするかというと、「聞くこと・話すことの技能
養成」について、聞き手にわかってもらおうと思いながら話す。そこに、どんな話す形態をとったらよいかという問
題が出てくる。仮りにこれを講義という言語経験とすると、講義をする、講義を聞く、という話の形態が成り立つ。
 次には、そのような目的・内容に応じて講義という言語活動の形態をとった場合、どのように話せば、話がよくわ
かるか、 つまり、 よくわかるように話す技能が必要である。しかも、なんとかして聞き手によくわかってもらいた
い、知ってもらいたい、そういう願いをこめて話すことになる。
 だから、話す態度が根本に確立していないと、いい話はできない。同時に聞き手を観察しながら話をする。聞き手
はメモを取りながら聞いている。そうするとあまり速くしゃべってはメモが取りにくい。だからなるべくゆっくり話
す。しかも、要点をしっかり押えて話せば、メモも取りやすいし、内容もよくわかってもらえる。そういう心づかい  155
          2 聞く・話す能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
も働かせないとうまくいかない。                                       156
 講義は一方的に話している。つまり一方交通の話だと考えられている。しかし、実際は決して一方交通の話ではな
い。話しながら聞き手の顔色・様子を見て、この話はよくわからなかったな、これは少しむずかしすぎたなどと、聞
き手の反応を診断し、それに応じて話している。一度話したことを別なことばで繰り返したり、さらに詳しく解説し
たりする。このように、講義という言語経験をうまく処理していくためには、それに必要な態度や技能を持っていな
ければならない。また、発音が不明瞭だと話がわかりにくい。一本調子で、話に抑揚がないと聞きにくい。あまり大
きな声でがんがん話されるとかえってわからなくなる。このように、発音やアクセントやイントネーション・間・プ
ロミネンス、声の大きさ、話の速さなどが適切でないと、話は聞きにくい。それだけでなく、使うことばが適切でな
いと話はわかりにくい。ことばの係り受け、切れ続き、ことばの使い方など、いわゆることばのきまりに従って話さ
ないとわかりにくい。つまり、発音・語い・文法など、いわゆる言語要素にささえられて話は進められる。
 このように話す経験を要素的に分析してみると、「技能養成」という話題について、「話題の内容――話す内容の選
択」「話す内容の組み立て」「話す目的の確立」が行なわれると、その後の話し方が決まってくる。次には、「話の
形態」、その話を処理する「態度」「技能」「言語要素」が決まってくる。
 このように、言語経験は、話題・目的・形態・態度・技能・言語要素等の諸要素で成り立っている。
 そうすると、 講義という言語経験は、 発音・語い・文法にささえられ、講義をする態度・技能によって処理され
る。つまり、講義をするのに必要な態度・技能・言語要素を含めた講義をする能力によって処理されることになる。
つまり、態度・技能は経験の処理能力と考えられる。したがって、態度や技能や言語要素は、言語経験を離れて別に
あるのではなく、経験を遂行し処理する中に働いているものと考えるよりほかはない。態度や技能は経験と結びつい
ている。経験とともにあると考えられる.
3 聞く経験の全体構造
 講義に対して、聞き手は「聞くこと・話すことの技能養成」について何か知識を得ようとし、理解を深めようとす
る。そういう目的をはっきりと持って聞いている。話す目的の裏側になる目的を持って聞いている。話題もはっきり
し、目的も確立されていて、話を理解しようと努める。
 そこで、聞き手の話を聞く態度は確立され、発音を聞き分ける。語の意味を理解する。文の意味を理解する。そう
いう技能が働いて話を聞き取って理解する。要するに、聞くことも話すことと同じように、話題がある。それを聞く
目的がある。話題・目的に応じて、聞く形態が決まる。(すでに決まっている。)さらに聞く経験を処理するための
態度・技能・言語要素を働かせる。そこで知識が得られ、理解が深まる。いわゆる価値が得られて経験は終わる。「聞
くこと・話すことの技能養成」についての知識が得られて、聞き手はいちおう満足する。強化が得られる。このこと
が、聞く・話す学習の中で、態度・技能・知識を身につけるための全体構造である。
なお、聞くことと話すこととの関係について、聞く・話す活動は一体だ。二つに分けて考えるべきではないという人
もいる。それはその限りにおいてはそのとおりであるが、二つをはっきりと違った領域、違った活動として分けて考
えることが、技能養成の上ではだいじである。なるほど、話す時には必ず聞き手がいる。しかし、話し手には話し手
の立場があり、話す技能が必要である。聞き手にも聞き手の立場があり、聞く技能を必要とする。話し合いや会議な
どのように、聞く・話す活動を交互に行なうものもあるが、放送を聞く、報告を聞くなどのように聞くだけのものも
あり、研究発表などのように話すだけのものもある。開く・話すは表裏一体だと安易に考えず、本質的な違いを理解
することが、そして、それぞれの活動に必要な態度・技能を明らかにすることが、技能養成にはだいじである。    157
          2 聞く・話す能力発成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究

                                                      158
(2) 聞く・話す経験の特殊性

 次に、聞く・話す経験の特殊性と技能養成との諸問題について考えてみる。結論的に言えば、読む・書く技能とは
おのずから違いがあるから、その違いを明らかにした上で、聞く・話す態度・技能の養成について指導すべきである。
1 場の構造と機能――構造・人間関係・全体性
 読む・書く場合は、人にわずらわされず、自分ひとりでできる。聞いたり話したりする場合は、必ず相手が必要で
ある。自分以外の相手を持つ場を常に構成しなければならない。場が重要な働きをする。読解・作文の場合でも、も
ちろん場はあるが、それは、読み手・書き手個人で処理できる場である。ところが、話す場合では、話し手個人では
処理できない面がある。つまり、ある場が組み立てられると、その場の中で言語活動が行なわれ、その場にいろいろ
な制約を受ける。たとえば、図書室という形式の中で、話し手と聞き手が向かい合って話したり聞いたりしている。
へやが広すぎても狭すぎても、温度が高すぎても低すぎても聞きにくい。話しにくい。その場の広さ・温度までが影
響を与える。また、話し手と聞き手との精神的な緊張関係、いわゆる人間関係・親密感・信頼感、そういうものが場
で大きな力を持ってくる。また、座席の取り方や人数、これも聞く・話す活動に影響を与える。
 聞く・話す活動は、こういう全体的な場の中で、場にささえられ、制約されながら行なわれる。いわゆるあがって
しまってうまく話せなかったなどというのも、声が後ろまでとおらなかったなどというのも場の問題である。
 こういう意味で、聞く・話す活動では、場の構成がだいじである。この場は、形式的な環境、精神的な人間関係に
よって構成される。
2 態度と技能
 読む・書く態度は、読む・書く技能と切り離そうとすれば、切り離せないわけではない。ところが、聞く・話す学
習は態度と技能とを切り離して考えることは困難である。態度を無視して技能を働かせることは困難である。たとえ
ば、一心に耳を澄まして聞くことをしないで、話を聞こうとしても聞き取れない。注意を集中して聞かなければほん
とうに聞くことはできない。「心ここにあらざれは見れども見えず、聞けども聞こえず……」ということばがある。
 話す場合でも、聞き手の立場を考える。 いわゆる役割交換をする。 聞き手の立場・気持ちになって話を進めない
と、ほんとうの話はできない。形式的な話ならできる。知識の切り売り程度の話ならできるかも知れないが、聞き手
の心に訴える、聞き手の心を動かすような話はできない。
 とにかく、聞く・話す場合には、態度と技能を切り離して考えることはできない。 読解・作文の場合は、 ある程
度、技能を経験から切り離し、 態度から切り離して、 技能の練習を学習をすることもできるが・聞く・話す場合に
は、経験を離れ、態度と切り離して形式的にやった技能の錬磨だけでは、おそらく真の力にはならないであろう。
3 同時性・一回性・連続性
 聞く・話す活動は、話す・聞くが同時に行なわれ、しかも、原則として一回限りのものである。しかもそれが時間
的に連続している。そのような特殊性がある。したがって、あるところだけを切り取って聞くとか、考えるとかする
ことができない。初めから順を追って最後まで聞き終わらないと話がわからない。また、同じことを二度繰り返して
聞くことも原則としてできない。
 読解の場合には、 きょうは一ばん終わりの二行から勉強しましょうなどというばかげたこともすればできる。 ま
た、読解だと、きょうは第三段落を勉強しましょうなどと、文章のまん中ごろを学習することもできる。聞く・話す
学習ではそんなことはできない。すべきではない。                               159
          2 聞く・話す能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      160
4 相互交流
 話すことは決して一方的に行なわれるものではない。形式的には一方的に話している。一方交通的な話し方をして
いる。しかし、心理的には、話し手と聞き手とは、気持ちの上で、話の理解の上で結びついている。交流している。
話し手は聞き手の刺激によって、反応に応じて話している。話し手に話したい、訴えたいという気持ち・欲求を起こ
させるのは聞き手である。聞き手が、もしも私語したり、そっぽを向いていれば、話し手が一生懸命話してもだめで
ある。また、頁剣になって話そうという気持ちは起こってこない。
5 完 結 性
 完結性、これも聞く・話す活動と、読む・書く活動などと違うところである。聞く・話す活動は、それが終わった
とたんにそれなりに完結する。読むのは途中でやめてもいい。あとでいくらでも読み継ぎ、読み返すことができる。
 話す場合は、その話が終わったとたんに完結する。聞くほうも同じである。それを二度繰り返すことはできない。
このように、聞く・話す活動は、そのままでいつも完結している。まとまっている。それをそのまま二度経験するこ
とはむずかしい。このことも技能養成を考える上にだいじである。

(3) 技能養成の考え方

1 経 験
 聞く・話す経験は、前に述べたような特殊性を持っているから、その特殊性の中で、技能を養成しなければならな
い。言い換えれば具体的な経験の中で技能を養成すべきだということになる。このことは、読む・書く場合でも同じ
だけれど、特に聞く・話す場合は、その経験・場面を与えて、その中で、技能を身につけてやらないと、ほんとうの
生きた技能、人間性を伸ばす技能、人間の裏づけのある技能、態度の裏づけのある技能は身につきにくい。
 そこで、与える経験は、基本的な態度・技能の身につく、基本的な経験でなければならない。したがって、目的の
はっきりした経験、目的を達成することによって、なんらかの形で内容的な価値が身につく経験、人間性につちかう
経験でなければならない。そういう経験をさせて価値を生み出していく。その過程で技能の養成を図る。つまり、経
験させて技能を身につけることを考えるべきである。これは学習の原理でもある。
2 態度と技能の相関
 技能養成を特別に取り出して計画的にやろうとする場合にも、読解・作文と違って、技能だけを取り上げないで、
態度と結びつけて技能を養成するようにする。そうしないとほんとうの技能は身につかない。たとえば、話の要点を
聞き取る場合でも、要点を聞き取る必要のある場・経験を与えて、精神を集中して聞くという態度とともに身につけ
るようにする。また、話の内容をわかろうとして耳を澄まして聞く。そういう態度とともに、話の内容を正確に聞き
取る技能、話の内容をまとめて聞く技能を身につけるというように、態度と技能は常に結びつけて指導するとよい。
3 経験の発達と技能の発達
 技能指導は、児童の聞く・話す技能の発達に応じて行なうことは当然である。技能の発達を知ることは、経験の発
達を知ることである。聞く・話す言語経験を選んで、発達的、系統的に並べ、言語経験の発達段階表を作ってみる。
どの学年の児童には、どんな聞く・話す言語経験ができるというように発達に応じて並べていく。そして、その経験
を処理するのに必要な言語態度・言語技能等を分析抽出して配列すれば、聞く・話す能力の発達段階表ができる。
 この聞く・話す言語経験の発達段階表と、言語能力の発達段階表とを用意しておけば、児童の経験の発達、技能の  161
発達に応じた技能養成を考えることができる。
          2 聞く・話す能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      162
4 内容と技能――真実性
 話す内容・聞く内容と切り離して聞く・話す技能を身につけようとしてもそれは困難である。話す内容がないのに
話せと言っても話せない。話し合いなどで、問題に対する理解もじゅうぶんでない。問題に対する知識も乏しい。問
題点も明らかにされていない。つまり、話すべき内容がないのに、意見を述べろ、感想を言えといっても話せない。
また、聞くべき内容のない話、興味のない話、聞く必要性のない話、そんな話を一心に聞け、耳を傾けて聞けと言っ
ても無理である。そんな学習では聞く態度は養成されないし、技能をじゅうぶんに働かせる訓練もできない。
 その話を聞き取れば、何かしら得ることがある。 たとえば、 生活に役立つ、情報が得られる、知識理解が得られ
る、楽しみが得られる。あるいは、何かしら安心が得られる、満足が得られる、充足感を覚えるなど、そのような内
容といっしょに技能を身につけていかなければ、効果的に技能を養成することはできない。内容と切り離さない形で
技能を身につける。 ことばの形式だけを聞き取らせて、 聞く技能を錬磨しようとしても効果があがらない。そこに
は、態度の学習がないからである。ある内容を話させる。ある内容を聞き取らせる。その中で技能を養成する。技能
と内容とを二元的に考えないで、機能的に考える。技能と内容を二元的に考えるから、内容がだいじか、技能がだい
じかという問題が起こる。言語活動を機能的に考えればそのような問題は起こらない。もし、二元的に考えて、内容
か技能かと言えば、 内容がだいじである。 どんなすぐれた技能・話術を持っていても、どんなうまい話し方をして
も、内容がだめだったら聞く意味がない。内容がすぐれていれば、技術はまずくても、聞き方いかんによっては、あ
る程度の内容を伝え知らせ、訴えることもできる。技能が進めば、さらによく伝えられるという可能性もある。内容
をだいじにしなければならない。話術だけが先行してはならない。真実のこもった、人聞性の感じられる話が、人の
心を打つし、説得力を持っている。内容の空虚な話術よりも、内容の豊かな責実のこもった話のほうがいい。結論的
に言えば人間性につちかう、ほんとうに人の心を豊かにする、考えを進める、そういう内容と結びつけて技能を身に
つけてやるべきであるというのが基本的な考え方である.

(4) 開く・話す技能養成の方法

l 指導法の確立――指導過程・学習活動と技能
 開く・話す指導法が確立しないと、技能養成の方法が確立しない。たとえば、聞く・話す指導として、話し方の説
明を読ませる、また、話し合い・研究発表その他の話をそのまま記録したものを読む、(実際は話しことばの記録で
はなくて書きことばである。)ラジオの国語教室の放送を聞かせる、ということで、聞く・話す学習をしていると思
っている教室では、聞く・話す技能の養成などは考えられない。そこで、まず第一に考えられるのは、指導過程の問
題である。児童の主体性を中心とした学習指導過程の中に、技能の学習をはっきり位置づけてこそ容易に能率的に技
能養成ができるのである。もし、指導過程が、児童を中心としない、思考過程をだいじにしない、学習をだいじにし
ない、機能的な考え方をしないものであるならば、技能養成も、技能・話術だけを取り出した学習に陥りやすい。
 たとえば、研究発表をさせると、さあ、きょうの発表でじょうずだったところはどこか。へただったところはどこ
か。声の大きさや、話の速さはどうかなどということだけが問題となって出てくる。それを防ぐには話の内容を中心
にして学習させるとよい。それがよく聞き取れたかどうかということの中で技能や態度を問題にする。
 そこで、指導過程を明確にし、その過程で、ここのところで、こういう技能をつけるというように、技能を養成す
る位置・段階をはっきりと押える。ところが、それが現状でははっきり押えられていない。
 次に、中学校での話す・聞く学習指導の例をあげてみる。文学の単元で、文学作品を読む。どんな文学作品を読ん  163
          2 聞く・話す能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      164
でいるか読書調査をしてその結果を発表する。 そして読書生活を改善するという学習である。 その中の一時間の授
業、学習活動が二つになっていて、一つは読書の紹介、他の一つは読書生活の反省であった。まず、三人の生徒に自
分の読んだ本を紹介させた。その時の先生の指示は、「どう紹介したらよいか、紹介のしかたを考えて、話を組み立
てて話しなさい。聞くほうでは、メモを取りながら聞きなさい。終わったら、今度は、君たちが読書した反省を発表
してもらいたい。この時もメモを取りながら聞きなさい。」ということであった。
 この学習でねらったことは、話の組み立てはどうしたらよいか。どのような話し方をしたらよいか。聞くほうは、
メモの取り方、話の内容を聞き取ってまとめる。次には、聞きながらもっとこうすればよかったというところを話す
という学習であった。
 この時のメモの学習について言えば、読書紹介の時と、読書生活の反省の時と二度メモを取らせた。ところが、読
書紹介の時には、どの生徒もほとんどメモが取れなかった。なぜかというと、読書紹介の場合は、読んだ本の作者・
梗概を話し、それについての感想・感動などを中心に話して、ぜひ読んでもらいたいと訴える。聞き手の心情に訴え
て感銘を与え、感動を与えるように話すことが要求されている。そこで、聞き手のほうは、メモを取ろうとして用意
はしていたが、いざという時になると、話に聞き入ってしまって、感銘を受けてしまう。したがってだれもメモを取
ることを積極的にしようとしない。結局メモが取れなかったのである。そういう点では失敗であった。この学習が終
わると、今度は、読書生活の反省の発表を三人がした。この時は、読書生活の実態や個人個人の反省について要点を
押えた発表があったから、メモは取りやすかった。
 また、こんな小学校の教室もあった。五年生で、「ぼうふらがかになるまで」という研究発表と「三年寝太郎」と
いうおもしろい民話を話した児童がいた。この時も先生は、メモの取り方を指導する計画を立てておられた。「三年
寝太郎」という民話はたいへんおもしろい話で、その上、実にじょうずに話したから、子供たちも、参観の先生がた
も、つい話に引き入れられて、聞きほれていた。強い感動を受けて、話が終わった時には、みんなほっとしたような
感じだった。すると・先生が「さあ、どうでしたか、メモが取れましたか。」と発問した。「あんまりおもしろかっ
たので、メモを取るのを忘れていました。」という答えであった。児童は話のおもしろさにつり込まれて、じっと話
に開きほれていたので、みんなメモを取ることなど忘れてしまっていたのである。
 このような話を聞く時に、メモを取れというのがもともと無理なことだし、また、メモなど取る必要のない話であ
る。なんでも話を聞く時にはメモを取れ、メモを取る指導をするというのでは困るのである。メモを取る指導をする
場合には、メモを取りながら聞く必要のある話、たとえば、指示だとか、伝達だとか、報告・研究発表を聞くなどと
いう時にすべきである。また、メモを取りながら聞く能力のある児童たちに対して行なうべきである。
2 場面の構成
 聞く・話す活動は、場にささえられ、場に規定される。場の影響を受けることが多いことはすでに述べた。したが
って、技能を養成する場合には、話しやすい場、聞き取りやすい場を作って指導する必要がある。意見や感想をまと
めて話すとか、何を言おうとしているかがわかるように話す指導をするといっても、児童が進んで自由に話せるよう
な場面を作っておかなければ、児童は発言しない。どんな場合に児童は話しにくいか、発言しないかという調査を参
考にして発言しやすい場を構成すべきである。たとえば、話す内容を豊かにするくふうをする。先生と児童との間の
緊張感をほぐす。先生に対しても自由に物が言えるようにしておく。先生は、聞き役・聞きじょうずになる。適当に
満足感・強化を与える。児童たちの間でも自由に物が言えるようにしておく。つまらない発言でも否定したり、軽べ
つしたり、笑ったりしない。そのほかいろいろな点に注意して、話しやすい場を構成し、その中で技能指導をする。  165
          2 聞く・話す能力我成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      166
3 技能についての反省
 聞く,話す指導では、技能をむき出しにし、内容を離れた技能だけを指導しようとすると、とかくあげ足取りや欠
点さがしに陥って、かえって人間関係をこわすような学習になりやすい。技能は常に話の内容がよくわかるように話
せたか、あるいは話の内容がうまく聞き取れたか、理解できたかということを中心にして指導する。つまり、話す目
的、聞く目的が達成できたかどうか、それを反省することから出発して、 技能に対する反省を加え、 うまく話せた
点、うまく話せなかった点(聞き手の側からの反省・批評をも加えて)等を明らかにして、技能の実情をよく知る。
そして、学習を繰り返すなり、練習を加えるなりする。聞く場合でも、内容がじゅうぶんに聞き取れたかどうかとい
うところから出発して、聞き取る技能に反省を加える。たとえば、話す声が小さかったと批評する前に、聞き手は、
耳を澄まして聞いたか、注意を集中して聞いたか、からだを乗り出すようにして聞いたかなどという自己反省、つま
り聞く態度ができていたかどうかを反省してみる。こうした反省の上に立って、それでもなお声が低かったら低いと
指摘する。このように、技能養成は技能に対する反省認識から出発するとよい。
4 技能養成の機能的方法
 技能養成の本質的方法というのは、技能の機能的方法による養成のことである。つまり価値追求・価値習得の過程
で技能を養成しようとする方法である。目的を持った聞く・話す学習活動をさせる。その学習活動によって知識なり
情緒なり経験なりが得られる。そのような価値が得られる。そのような価値を習得するとき、それに必要な技能・態
度を養成する方法である。たとえば、情報を聞く学習、情報を得て、それに適応する学習をする場合、校内放送を聞
く。伝達事項・情報事項の要点を聞き取る学習をする。そこで要点を聞き取る技能について反省を加え、実態を自覚
し、さらにその技能を定着し、伸ばすために、ラジオの「子ども新聞」を聞いて情報を求める学習を計画するなどが
それである。
 児童が実際に研究調査したことをみんなの前で発表する。話の組み立て・資料・図書などの活用、発表のしかたの
くふうなど、内容を理解してもらうということを中心にして話す。その中で、それに必要な技能を養成する。生きて
働く技能を養成する。聞き手は、内容を聞き取って理解する過程でそれに必要な技能を身につける。
5 技能養成の練習的方法
 国語科の限られた時間の中で、機能的な方法で、聞く・話す技能を身につけることはなかなか容易ではない。それ
は確かに生きた技能を身につける能率的な教育的な方法である。しかし、数多くの生き生きしたいい聞く・話す経験
を与えることには限界がある。そこで機能的に学習した技能を定着する、いっそう確実に身につけるために練習の必
要がある。わからないことは質問する、聞かれたら答える、指示に従う、はっきり物を言う、感想を話す、意見を述
べる、話し合うなどに必要な態度・技能については、毎日国語科をはじめ、各教科の学習の中で、繰り返し働かせて
いる。これらについては、各学年に応じて計画的に一技能ずつ順次指導すれば、容易に身につけることができる。研
究発表をする、報告をする、説明をする、情報を伝える、会議を開くなどに必要な技能については、それぞれ機能的
な学習をしたあとで、練習の時間をとって指導する。これらの経験をなるべく小さな活動に分析して練習させる。た
とえば六年生で研究したことをまとめて発表する学習をしたあとでは、必要に応じて次のような練習をさせる。
 (1)話の組み立ての練習(研究のまとめ方)。  (2)説明のしかたの練習。
 (3)要点を個条的に話す話し方の練習。  (4)資料を使って話す練習(地図・図表など)。
 (5)書いたものを見ながら話す練習。  (6)アウントラインによって話す練習。
 また、会議の学習のあとでは、必要に応じて(特にじゅうぶんでない技能について)、              167
          2 聞く・話す能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      168
(1) 意見の述べ方の練習
  考えをはっきりと、聞き手に理解させる述べ方の練習。まず、言おうとする考えの結論を話す。たとえば、賛成
 とか、反対とか、意見があるとか、別の意見があるとか、つけ加えることがあるとかを述べる。次にその理由はと
 か、つけ加える点はとか、前おきをして、最初に出した意見なり感想なり、事実なりの説明をする話し方をする。
(2) 議事の提案のしかたの練習――提案と提案理由の説明のしかたを練習する。
(3) 議事進行についての発言のしかたの練習
など、児童・生徒の会議の実態に即して、特にまだよく身についていない技能について、なるべく小さな活動に分析
して練習をする。この時、特に態度とできるだけ結びつけて練習するように注意する。
6 技能養成の段階的方法
 聞くこと・話すことの経験に必要な技能を、具体的な経験と切り離して別個に系統的に学習させる方法。
(1) 取り上げる技熊――聞く・話す技能のうち、最も基本的な、機能的な技能を選ぶ。現在経験的、機能的に学習し
 ている、いないにかかわらず。
(2) 技能の取り上げ方――経験を離れて、単独に取り上げる。単一の技能として取り上げる。話題の紹介のしかた、
 話題の展開のしかた、結論の出し方、要点を押えた話し方など。
(3) 計画の立て方――経験的、機能的学習とは別個のカリキュラムを作る。基本的な技能を学年ごとに配当する。配
 当された技能について、難易の段階をつけて、学習の順序を決める。(プログラムを作る。)要するに技能学習の系
 統表と具体的な問題とを用意する。
(4) 技能学習のしかた――学習の初めか終わりに五分なり十分なりを取る。その時間の学習とは別個に学習する。機
 能的、経験的学習と二本立てになる。学級の実態に即して三十分なり四十五分なりの時間を取ってもよい。
  たとえば、要点を聞き取る技能の学習について、ア ワンセンテンスの話の中から、話題を聞き取る学習。イ 
 数センテンスの話から話題を含む文を聞き取る学習。ウ 要点が述べられている文を聞き取る学習(語の初め・中
 ・終わり等に含まれている場合など)。エ 要点を二つ、次には三つというように段階的に聞き取る学習。オ 伝
 言の要点を聞き取る学習。カ 伝達事項の要点を聞き取る学習。キ 注意事項の要点を聞き聴る学習。というよう
 に、技能の難易の段階を考えて学習の順序を定めて順次学習させる。基本的な経験の難易の中に含まれる技能を系
 統立てて順次学習する。
  こうして、ある一技能を取り出して、系統的、段階的に学習させる。


       3 読解力養成の科学化

(1) 読解の機構

 読む活動はどのように組み立てられているか、次の文章を手がかりにして考えてみる。
 「あちらのけやきの下に一本,こちらの家の庭に一本,さくらが今を盛りと咲いている。西行法師が『願はくは花の下
 にて春死なんそのきさらぎのもち月のころ』とよんだのもこんな美しいさくらの春にあこがれてのことであろう。」
 まず、「あちらの」と文字(記号)を知覚し、(ここに眼球運動の問題がある。)同時に「アチラノ」と音声化する。
(内語する。)つまり音読する。(黙読する。)すると、「アチラノ」という音声表象――音声観念ができる。つまり、  169
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
                                                      170
「あちらの」という語として認知され、その概念(意味)が得られる。(ことばの意味がわかる。)このようにして読
んでいくと、それぞれの語の概念が得られ、「あちらのけやきの下に一本」という観念が組み立てられる。(意味が
わかる。)さらに、「こちらの家の庭に一本……」としだいに複雑な観念が組み立てられていく。これは、書き手が
組み立てた観念を読み手が自己の中に再構成・再体制化していくことである。
 このように読む活動は、(1) 文字の知覚 (2) 文字の音声化(音声表象――読む)(3) 語の認知 (4) 語意の理
解 (5) 観念の構成(意味の理解)の過程を経て行なわれる。これが読む活動の基本的な過程である。
 ところで、この読む活動は、次々と明らかになってくる意味への期待――生成発展する観念への期待によってささ
えられている。「アチラノケヤキノシタニイッポン」と読んでも、そのイッポンはなんだかわからない。そこになん
だろうという期待が起こる。この期待が次の読む活動をささえている。そのような期待を持って読んでいくと、それ
は、桜であり、今を盛りと咲いていることがわかる。ここにまとまった一つの観念・意味が得られて期待に答えられ
る。そして、一つの満足感・安定感が得られる。
 こうして、しだいに大きく観念を組み立てていく。「あちらのけやきの下に一本、こちらの家の庭に一本…」と読
んでいくと、そこに広さを感じてくる。高い所から見ているような気持ちになる。また、かつて見た風景(過去の生
活・経験・知識など)などが背後にあって、ことばで表わされていない空白を補い理めて、観念をいっそうはっきり
させる。また、読んでいくと、そこに美しさを感じる。きれいだなあと思う。これが読みの直観である。
 このように読み取って組み立てた観念、読み取った事実に対して、想像力が働き感情移入が行なわれる。また、そ
の事実をもとにして新しい想像が生まれ推理が行なわれる。いわゆる思考力が働く。書き手が、桜の美しさから、西
行の歌を思い出し、それは、美しい桜の春にあこがれてのことであろうとその想像・推理を述べる。読み手も書き手
の想像・推理を読み取って、同じ感慨にひたる。読むとは、このような複雑な機構を持った精神活動である。
 備考 読むことは書き手が体制化した意味を読み手が再体制化すること、つまり、文に即して語を読みながら、次々に認知する
語個々の意味を組み立てて、さらに大きな意味(観念)を作っていくことであるという考え方がある。これに対して、「雨が降っ
ている。」という文を読む場合、個々の語の観念を思い浮かべて、それを組み立てるのではない。「雨が降っている」という全体
的な音声刺激に対して、反射的に反応してその全体的な意味が喚起されるという考え方がある。このことは、平易な文章を読む時
など、常にわれわれの経験するところである。つまりそれは言語刺激に対して反応の型が成立しているからであろう。このような
好ましい型を形成することが読みの指導ではたいせつなことである。読解に当たって、個々の語のイメージを描いていたのでは思
考は進まないであろう。


(2) 読解活動に参加する諸能力

 次には、そのような読解活動には、どんな読む能力が参与するかを考えてみる。
l 読解活動をささえるもの
(1) 文字力――文字力がないと読む活動は始まらない。それは個々の文字を知覚し、音声化し(読む)、ことばとし
 て認知する。つまり、「あちら」という文字を、「アチラ」とことばとして読む力で、読みの基礎知識・技能であ
 る。
(2) 語い力――ことばの概念(意味)がわかる力。ことばを読んで意味的に反応する力。その語の意味機能がわかっ
 て、それが自由に使え、また聞いてもわかる。読んでもわかる。そのとき語い力となる。語を理解し使用する力と
 なる。読みの基礎知識・技能である。
(3) 文法力――語・文の用法、構成の法則性を理解し、語と語、文と文との諸関係を判断する力、その間にある法則
 性を理解し適用する力である。読みの基礎知識・技能である。                         171
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究

                                                      172
2 読解活動を処理するもの
(1) 読む速度――読みの速度は、読みの目的によって異なる。新聞などを読む速い読み、学習書などを読むゆっくり
 した読み、普通の速さの読みなど、読む目的に応じて速さを調節する。速さは理解と結びつけて考える。また、音
 読・黙読はその発達・機能に応じて適用する。
(2) 読む技能――読解活動を処理するためには、 読みの技能が必要である。 読みの技能は読みの目的・活動によっ
 て、大体を読み取る力、要点を読み取る力、細部を読み取る力、主題・要旨を読み取る力、要約する力、批判的に
 読む力などさまざまな技能がある。
(3) 読む態度――読解活動を効果的、能率的に処理するためには、読む態度・構え、いい読書習慣を身につけること
 がたいせつである。読みの態度・構えは、読みの技能を左右する。技能が効果的に働くかどうかは、態度によって
 決められる。
(4) 精神活動――読解の技能をささえているのは、主として判断力・推理力などの思考力、再生的、生産的想像力、
 感情活動などである。
(5) 経験・生活――読解の背後に読み手の経験・生活・教養・知識等があって、読解活動の基盤となっている。それ
 らは、読解活動を活発にしたり、効果的にしたりする。読解の興味・必要・欲求など、そこから生まれ、読解の態
 度養成の基礎となっている。
 読解活動に参加する諸能力を要素的にあげると以上のようになる。これらの諸要素が有機的に結びついて読解活動
が営まれるのである。

(3) 読解活動と読解力

l 読解活動と読解力との関係
 読解力は、すでに述べたとおり読解活動を処理する能力である。したがって、読解力は、読解活動を通して養成さ
れる。しかも、目的を持った意欲的な積極的な読解活動は、読解力を効果的、能率的に養成する。
2 読解力の分析
 読解力を養成するためには、まず、読解力にはどんなものがあるか知る必要がある。つまり、読解力を分析する。
そのためには、読む活動を要素的に分析して、文字力・語い力・文法力をあげ、次に、読む経験を分析して、読む経
験を処理するのに必要な能力を分析抽出する。たとえば、大体・要点・細部・主題・意図などを読み取る力、批判的
に読む力、よい読み物を選ぶ力、速く読む力、音読・黙読の力、知識を求めようとする態度、情報に適応する態度、
読書を楽しむ態度などさまざまな能力が考えられる。
 このように、読む活動と読む経験とを分析して、機能的、基本的な能力を求める。
3 読解力の発達
 分析抽出した読解力は、どのように発達するか、その実態・実情を知って、それに応じた指導をする。
 たとえば、要点を読み取る技能は三年生ごろから伸び始める。段落にまとめて読む力は四年生ごろによく伸びる。
主題を読み取る能力は四年生ごろからぐんぐん伸びるなど、読解力の発達を明らかにし、それに応じた指導をする。
4 読解活動とその処理能力
 どのような読解活動をするときにどのような読解力が養成されるかを明らかにする。これは特にたいせつである。
 たとえば、学習指導要領の内容に示されている学習事項(態度・技能・言語要素等)は、どのような言語経験・学
習活動をするときに身につくかを明らかにする。このことが明確にされないと、教室での読解指導が計画されない。  173
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究

どのような読解活動をさせれば、文章の内容が読み取れると同時に要点を抑えて読む力がつくか、どのような読解活  174
動をさせれば段落の内容が読み取れると同時に段落にまとめて読む力がつくかなど、読解活動とその処理能力との関
係を明らかにする。従来の学習指導案を見ると、指導すべき技能があげてあるが、それが、いつ、どこで、どんな活
動をさせて身につけるのか、読解活動・教材と結びつけて考えていない。読解技能を養成するためには、特にこのこ
とを明確にすることがたいせつである。

(4) 読解学習における読解力の所在

1 読解力は読解の抵抗として存在する
 読解力はどこにあるか、読解活動の中にどんな形で存在しているかを明らかにする。結論的に言えば、それは、い
わゆる読解の抵抗として文章(教材)の中に存在する。
 文字を読む力は、読めない文字を読むことによって身につく。つまり、文字負担として存在する。文字負担が重過
ぎれば読みの遅進児を作り、文字負担がなけれは、文字を読む力は伸びない。語句を理解する力も、新出語句・難語
句・重要語旬などという意味のわからない語を理解することによって身につく。つまり、語い力は、語い負担として
存在する。したがって、いわゆる文字や語句の抵抗を除くということが、文字力・語い力を増すことになる。
 文法力は、新しい文型・語の用法などとして存在する。文の構成が複雑で意味がとりにくい、意味が二様にとれる
文があるなど、文章の内容理解の手がかりとしての段落相互の関係など文・文章理解の抵抗として存在する。
 技能もまた文章読解の抵抗として存在する。要点を読み取る技能は、要点を読み取ることの抵抗として、困難性と
して存在する。また、文章構成の難易、思考過程の秩序・難易として存在する。態度は、題材に対する構え・興味.
欲求・必要として、存在する。要するに、読解力は、読解に抵抗のある文章を読ませることによって伸びる。
2 読解力は、読解教材の中に存在する
 読解力は、具体的には読解教材の中に学習事項として含まれている。文字・語句・文法・技能などすべて読解教材
の中に具体的に含まれている。いわゆる新出漢字・読替漢字・新出語句・新しい文型・文法事実、学習事項としての
読解技能などがそれである。つまり、教材の能力養成の機能として存在する。それらを明らかにするのが教材研究で
ある。その場合、文字・語句・文法・技能・文章構成などすべてそれを、文字負担・語い負担・読みの抵抗として研
究することがだいじである。
3 読解力は読解活動の中にある
 段落にまとめて読む力は、文章の内容のまとまりを読み取る活動によって身につく。要点を読み取る技能は、書か
れていることがらのだいじなところを個条的に読み取る活動によって身につく。 順序に従って意味を読み取る技能
は、物の作り方、実験のしかた、遊びのしかたなどを書いた指示文を読んでその順序を知る活動によって身につく。
 このように読解力は、その技能・態度・言語要素を必要とする文章を読解することによって身につく。

(5) 読解力の養成

l 読解力養成の背景
 読解力を効果的に身につけるためには基本的には、次の条件を備えるべきである。
(1) 目的的活動――読解力は、児童・生徒が読む目的をはっきりと自覚し、積極的、意欲的に読む学習活動をする場
 合に効果的に身につく。つまり、機能的に学習する。読むことによって、その目的とする知識が得られる。情報が  175
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
 求められる。知ろうとすることがわかる。心情につちかう。感動が得られる。このような目的を持った活動をさせ  176
 る。それは読みの構えができ、主体的な読みが成り立つから効果的に技能・態度の学習ができるのである。
(2) 機能的な読解活動――読みの目的を持った、ことばの機能に即する読みの目的を持った活動の中で、機能的な能
 力が養成される。つまり、技能中心の読解活動、細目的な読解活動、読まされる活動でなく、常に読むことによっ
 て価値を身につける、積極的な価値生産の読解活動の中で、生きた、機能的な能力が身につく。
(3) 機能的主題・題材――題材が、児童・生徒の関心・興味を刺激し、また、 読む必要を感じさせるものであると
 き、読みの構え・態度が確立し、効果的な読解活動が行なわれる。また、主題・題材が、児童・生徒の能力に合っ
 たもの、理解できるもの、精神発達等に合ったものであるとき、活発な読解活動が行なわれ、効果的に能力が養成
 される。
2 読解力養成の方法
 読解力養成にはどんな方法があるかを明らかにするそれぞれの方法論の特質を知って、必要に応じ、場面に応じ、
読む目的に応じて適用する。単独に、あるいは併用する。
(1) 機能的方法
  読解力養成の機能的方法は、経験的方法である。読む学習活動を重視する方法である。生きた読解活動の過程で
 能力を養成しようとする方法である。
  具体的に言えば、「野生のさる」について書いた文章を読むとき、要点を押えて読む力、段落にまとめて読む力、
 読み取ったことを組織する力など技能の学習を中心に考えない。それを読む目的と考えない。野生のさるについて
 の知識.理解を求めることを目的として読む。つまり、「野生のさる」の文章の機能に即して読む。野生のさるに
 ついての知識を身につける目的で読む。この文章のいわゆる内容的な価値を 目がけて読む。その読みの過程で、
 知識を求める過程で、その知識を求めるのに必要な、文字の読み方を身につけ、語句を理解し、文法を習得し、態
 度や技能を身につける。文章の内容としての知識の習得と態度・技能の学習とを切り離さず、一体として学習する。
 つまり、知識を求めるために生き生きと働く態度・技能を学習する。
  文学的な文章を読む場合も同じである。段落に切って読む力、あら筋を読み取る力、気持ちや心理を読み取る力
 などを読む目的としない。あくまでも、主題に感動する。共感する。場面に心を打たれる。主人公の心理や心情に
 感動する。同感し、共鳴し、あるいは反撥憎悪する。つまり、文学作品を読んで経験する。理解する。批判する。
 そういう読みの過程で――場面や心理や心情や思想や感覚等を読み取る過程で、その読みに必要な態度や技能や言
 語要素を身につける。読む活動の中で、生きて働く態度・技能を身につける。
  このようにして、態度・技能を養成するのが機能的方法である。これは、技能養成の本質的方法である。この方
 法の特色は、読む技能を態度とともに学習するということである。態度と技能とを切り離さずに学習することであ
 る。
  ところで、機能的に態度・技能を養成する――内容の学習と態度・技能の学習とを一体として、機能として学習
 する――には、学習活動の選び方がだいじである。つまり、その学習活動をすれば、文章の内容も読み寂れるし、
 同時にその読みに必要な技能も学習される。そのような学習活動を選ばなければならない。
  たとえば、「野生のさる」を読む場合、「野生のさるは、どんな社会を作っているか、それがわかるように、読
 んでわかっただいじなことを個条書きにしなさい。」というような課題を与えて学習活動をさせれば、さるの社会
 のしくみも読み取って理解されるし、同時に要点を押えて読む技術も学習できる。しかもその活動は、知識を求め
 るために読むという目的が明確に自覚できるから、主体的な学習ができる。目的的な学習活動である。       177
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
  また、文学的な文章を読む場合、「富士山頂」から見た下界の山々の様子を述べた文章で、その雄大な大自然の  178
 景観・情景を読み取る学習をする。そのとき、「富士山頂からはどんな山が見えますか、その山の名まえを書き出
 してから、それぞれの山について様子のわかることばを書きなさい。」という学習活動をさせたのでは、児童・生
 徒は、その文章に知的に接近し、理解しようとする。表現されている雄大な景観を読み取ることはできない。「富
 士山頂からのながめを心に浮かべながら読んでごらんなさい。(頭の中に絵に書きながら、あるいは、ながめを想
 像しながらなど)どんな感じがしますか。(どんな様子が頭に浮かびますか、どんな絵が描けますかなど)」とい
 う課題――学習活動をさせれば、景観も、情景も感じ取れるし、それを読み取るのに必要な、情景を想像しながら
 読む技能、直観的に情景のかもしだす感じを読み取る力などが養成される。
  このように内容の学習とともに生きて働いている態度・技能を学習するための学習活動をくふうする。従来、こ
 のような研究・くふうが現場ではほとんど行なわれていなかったと言っていい。これからの技能養成の方法として
 じゅうぶんに研究しなければならない。
  次にだいじなことは能力の発達に応じた指導をすることである。能力の発達に応じて、技能を段階的に確実に身
 につけるようにすることである。たとえば、要点を読み取る技能を養成する場合、仮りに文章が五段落で構成され
 ていれば第一段落では、いっせいに、あるいはグループで共同学習をする。そこで、学習の方法を理解する。必要
 な技能を具体的に知る。自覚する。内容の読み取りといっしょに要点の読み取り方を学習する。第二段落では、読
 み取り方(要点の押え方)についていくつかのヒントを与えてグループで、あるいは個人で学習する。第三段落で
 は、課題だけ、問題だけで、それに従って各自読解する、というように、要点を読み取る過程に難易の段階をつけ
 て学習させる。いわゆる読解のプログラムを作って、それによって学習を進める。
  次に、能力養成で特にたいせつなことは、学習を個別化することである。個別化しなければ、前に述べた能力の
 発達に応ずる、個人差に応ずることはできない。学習を個別化するためには、学習の結果について話し合うことも
 いいが、それをノートなり、プリントなりに記入する。あるいは問題紙に従つて学習を進める。要するになんらか
 の方法で学習の結果を各自記録させる。そうすれば、学習の過程においても個別指導ができるし、記録の結果に基
 づいてさらに指導もできるからである。
(2) 練習的方法
  読解力養成の練習的方法は、機能的、経験的方法と異なって、機械的、形式的方法である。一般に国語の能力は
 (国語科というわくを離れて考えれば)機能的方法によって習得されているのである。しかし、国語科というわく
 の中で、限られた時間内に、国語の能力の養成を考える場合、常に機能的方法によっていたのでは、能力養成に最
 もだいじな、能力の反復学習が容易にできない。そこで、機能的方法で学習した技能をさらに、練習的方法によっ
 て、いっそう確実に身につける必要がある。したがって、練習は常に学習を前提とする。学習した能力について、
 それを反復して、身につけるのが練習的方法である。
  まず、機能的に学習した文字・語句・文法・技能・態度等について、それをいっそう確実に身につけるために機
 能的学習、経験的学習を離れて、内容の学習と切り離して、技能それ自体を取り出して習得を図る方法である。し
 たがって、機械的に反復練習することがだいじで、技能が形式化し、型として身につくまで練習する。
  たとえば、細部を読み取る技能を練習する場合には、細部を読み取る必要のある短い文章、あるいは段落・文な
 どについて、内容の理解とは関係なく、機械的にそれを読み取る練習をする。その場合にはその他の技能にはいっ
 さい触れない。語句の理解も考えない。その技能だけを取り出して単独に練習する。また、情景や心情を読み取る  179
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
 技能の練習をする場合には、情景や心情を表現した文章の一部を取り出して、その部分について、想像しながら情  180
 景や心情を読み取る練習をする。
  語句の意味機能の理解、あるいは語句の用法の練習をする場合には、文脈を作っておいてその中に語句を適用す
 る。文脈の中にことばを入れる。語句を使って短い文を作る。あるいは同義語・反対語・対語・類似語等を集めて
 比較するなどいろいろな練習のしかたが考えられる。
  次に練習の理論・方法等についてまとめてみる。
  従来、練習の基礎理論が確立されていなかったが、条件反射の理論を適用することによって、練習の理論体系や
 方法体系が確立できると思う。
 ア 技能練習の指導過程
   技能練習は、従来あまり行なわれていなかった。 したがって、その指導過程などはほとんど顧みられなかっ
  た。指導過程の必要性についても考えられていなかった。次に練習の指導過程を示す。
   (1) 学習における技能の自覚。   (2) 技能練習の必要性の自覚。
   (3) 技能の練習−技能の反復適用。  (4)技能の定着。  (5) 学習における技能の適用。
   これまで、練習の指導過程は確立されていない。ただ無計画に、機械的に、思いついては練習するという状態
  である。練習が必要なことは言うまでもない。練習の指導過程を確立して、計画的に、系統的に実施するように
  しなければならない。
 イ 技能の練習過程
   同一技能を繰り返し適用してその定着を図る。その練習過程――技能定着の過程をよく知って、科学的に練習
  を進める。次にその過程を示す。
 (1) 練習する技能を含む単位文章を選ぶ。
   (ァ) その技能を含む基本的、典型的な文章を選ぶ。(作る。)――文章構成
   (ィ) その技能を含むひとまとまりの文章を選ぶ。(作る。)――単位文章
   (ゥ) 同一技能に対する言語刺激を一定にする。――刺激条件の固定、技能の固定、一刺激一技能
 (2) 単位文章に繰り返し触れる。(読む。)
   (ァ) 同一技能(単一の)を繰り返し適用する。――刺激に対する有意的反応
   (ィ) 機械的に反応できるまで繰り返す。――刺激に対する機械的反応
   (ゥ) 反応の型を形成する。――反応の型の成立
 (3) 技能の生活的適用
   (ァ) 新しい文章を読む。  (ィ) 内容理解に技能を適用する。  (ゥ) 内容が理解される。
 このように練習過程を明確にするとともに、練習文の選択・作成をくふうする。練習文は、次の事項に従って作
 成する。
 (1) 1文章1技能とする。1刺激1技能とする。
 (2) 1技能が1回働く単位文章を作る。――あまり思考を必要としない短い文章。
 (3) 文章構成を同一にする。
  例 ア きのう、おかあさんといせたんへ買い物に行きました。くつ下と手ぶくろを買いました。
    イ きのう、にいさんと学校へあそびに行きました。てつぼうとぶらんこをしました。           181
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
 (4) 同一の技能についてやさしいものから、しだいにむずかしいものへと練習できるような文章を作る。      182
  練習文をしだいに複雑にしたり、文章構成を変えたりして、段階的に練習できるようにくふうする。
 ウ 練習する技能の選択と配列(プログラム)
   読解学習においては、複合されたいくつかの技能が働く。したがって、一文章を読解するに当たって、第一時
  には、主題を読み取る。第二時には、段落にまとめて読む。要点を読み取る。第三時には細部を読み取るという
  ようにいくつかの技能が学習される。
   あるいは、第一時は、全体的に読んで要点を読み取る。要旨を読み収る。第二時は、段落にまとめて読む。細
  部を読み取る。語句を理解する。第三時は、第二時を繰り返す。第三時は、全体的に読んでまとめる。
   そこで、これらの技能のうち、一技能を選んで練習する。あるいは、その時間に学習した技能について練習す
  る。練習する技能は、年間を通して計画的に系統的に段階的に練習できるようにする。
   たとえば、第一単元では、AとBの技能、第二単元では、CとDの技能というように指導計画の中に位置づけ
  ておいて練習する。それによって、年間を通して技能が計画的、系統的、段階的に練習できるようにする。
 エ 練習の機会
  (1) 練習は学習後に行なう。 (2) 学習の終わりに時間をとって練習する。 (3) 毎時間学習の終わりに五分
   間ぐらい時間をとって計画的に練習する。 (4) 単元や教材の学習のあと一時間、時間をとって練習する。
   など適宜時間を設けて計画的、系統的に練習する。
 オ 練習帳の作成
   練習を計画的、系統的、段階的に行なうには、単元の学習に即して文字・語句・文法・技能等の練習帳を作成
  するとよい。もちろん前に述べた事項が生かされ、実践されるように、科学的に作成する。
 (3) 段階的方法(プログラム学習)
   段階的方法は、前の機能的方法・練習的方法が、読解学習の中で、あるいは、読解学習ののちに技能の習得を
  する方法であったのに対し、読解学習から全く離れて、――内容の学習から離れて技能それ自体を取り出して、
  形式的に、段階的に学習する方法である。
   その考え方については前に述べてある。要するに、言語要素・読解技能を取り出して系統的に、段階的に学習
  のプログラムを組んで、それによって学習する方法である。世にいう、技能のプログラム学習というのがこれで
  ある。この方法の特色は単一技能を直接学習すること、系統的、段階的に学習できること、個別学習ができるこ
  となどである。この方法の短所は、生きて働く技能の学習ができないこと、態度の学習ができないこと、人間形
  成のための学習と技能の学習と二本立ての学習になること、したがって、国語の教科構造を改めなければならな
  いことなどである。この方法では、単独の各技能について、難易の段階に従ってあらかじめ学習のプログラムを
  作って印刷しておく必要がある。このプログラムは単元の学習とは関係なく、機能的、基本的な技能を選んで、
  独自の学習のプログラムを作ればよい.
3 読解力養成の具体的方法
(1) 音読・黙読の技能養成(機械的技能)
  音読・黙読の技能は、思考を必要としない機械的技能である。
 ア 音読・黙読の学年的発達(速さと確かさなど)を明らかにし、それに応じて指導する。大体、低学年は音読を
  中心に、中学年は黙読が発達するから黙読の指導を、高学年は黙読を中心にする。低学年では黙読をしいると読  183
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究

  まなくなる。声に出してはっきりと音読する。                               184
 イ 音読・黙読の機能・性格などを明確に理解して指導する。低学年では音読・微音読を中心にして学習する。高
  学年では、内容を理解する場合には黙読、紹介する場合、リズミカルな文章、擬声語などの多い文章を読むとき
  は音読というように、学習の目的に応じて、音読したり、黙読したりする。
 ウ 音読・黙読の速さと理解との関係、その学年的傾向を明らかにしておく。速さを強調すると埋解を伴わない読
  みになる。着実な、正確な読みを第一とし、だんだん速さを増すようにする。また、目的に応じて速さが調節で
  きるようにする。速い読み、普通の読み、おそい読みが目的に応じて適用できるようにする。情報を求めるため
  の読み、リクリエーションのための読みは速く、研究書・学術習・参考書等の読みはゆっくりと確実に読む。
 エ 音読は、適当な速度・適切な声量・間・休止・プロミネンス・イントネーションなどに注意して読む。
(2) 語句を理解し使用する技能の養成
 「文字はことばで、ことばは文で」これは文字・語句学習の原則である。文字の読み書きの学習は・その文字によ
 って表わされている語によって行なう。つまり、一字二字取り出して読み書きしないで、あることばとして学習す
 る。「学」は「学」一字を取り出して読み書きしないで、「学校」「学園」「学問」というように語として学習する。
 語句も同じで「おだやか」の意味はこれこれであるというように、その語だけを取り出して学習しない。「けさは
 海もおだやかだ。」「おだやかな秋の日が続く。」というように、文として、文を構成している語として学習する。
  これが、文字や語句の学習の原則である。
  語句の意味機能を理解するためにはいろいろな方法がある。
 ア そのものをさす。示す。――語の表わしているものを、これだと言ってさす。あるいは示す。「すずらん」と
  いうのはこの花、あるいは、この花がすずらんであるというように、その物を示して理解させる。
 イ 行動化する――ことばの意味のとおりに行動する。あるいは、行動してみてことばの意味を理解する。「かけ
  こむ」というのはこうすることだと、実際にかけこむ動作をする。あわただしく行動してみて、こんな時の、こ
  んな状態を「あわただしく」というのだなと理解する。あるいは理解を深める。
   あるいは、「ひざまづきなさい。」と言われて、そのとおりひざまづく。こうして、語句の意味機能を理解する。
 ウ 言い換える――「拍手」は「手をたたく」こと、「宿舎」は「泊る家」、「校庭」は「学校の庭」というように、
  別のことばで言い換えて理解する。
 エ 説明する――その語の意味を説明し解説する。「家畜」は、「牛や馬やぶたなどのように家に飼われている動物
  のことである。」というように、説明したり、解説したりしてその意味・概念を理解させる。
 オ 経験の抽象化――経験していること、考えていること、感じていること、ある現象などをさして、それが○○
  である。○○というと教える。たとえば、コップに水を注いで、いっぱいになってこぼれる。おふろにはいると
  お湯がこぼれ出る。そういう状態を常に見ている。あれを「あふれる」というのだと教える。
 カ 文脈による理解――文の中のことばの前後関係、文脈によってその語の意味を理解する。「空には一点の雲も
  ない。」「かれには一点の非の打ちどころもない。」「一点の差でAが勝った。」「注意を一点に集中する。」
  このように、文脈の中で「一点」の具体的な意味を理解する。
 キ 対照による理解――いわゆる反対語・対照語・対語などによって理解する。「大きい――小さい」「速い――遅
  い」、「祖父−―祖母」「需要−−供給」「輸出−−輸入」など、二つのことばを対応させて、おのおのの語を理解
  する。
 ク 比較による理解――二語の意味を比較することによって、おのおの語の意味を理解する。「輸送−運送」「修  185
          3 読解力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究

  理――修繕」「改造――改革」「適当――適切」「改良――改善」など、また、「児童・生徒・学生」「父母―  186
  ―両親」などことばを比べてみてそれぞれの意味を明確にする。このように、同類の語、類似の語、同義の語な
  どを取り出して比較することによって理解を深める。
 ケ 類推による理解――「不便・不利・不用」「校舎・校庭・校地」「あざやか・にぎやか・おだやか・さわやか」
  などによって、語の意味や語の働きを類推して理解する。ある語の意味を類推する場合には、類推の基盤になる
  語の群れ(類推群)がなくてはならない。
 コ 分析による理解――語を、組み立てている文字に分け、その個々の文字の意味をもとにしてその語の意味を理
           、、    、、    、、       、、     、、
  解する。たとえば「大小の島」「遠近の差」「善悪のはんだん」「急速の進歩」「流入する」「おし流す・おし
  分ける・おし入る」など、その語を分析して各語・各部分の意味を知って、語全体の意味を理解する。
 サ 意味の拡充――場面・文脈・条件・状況に応じて、語の意味を的確に理解する。その語の意味を拡充する。充
  実する。あいまいな理解、一般的な理解、概念的な理解を避ける。
   これらの方法を使って、語の学習・練習をする。読解学習の過程で、読解学習のあとに、また、読解学習とは
  別系続で行なう。
 (3) 読解技能の養成
  読解技能の養成の考え方、機能的方法・練習的方法・段階的方法などについては、前に述べてあるので、ここで
 は省略し、次に具体的な実践例をあげることにする。

(6) 読解力養成の機能的方法の実践

1 機能的方法による一年の読解基礎技能の養成 (伴定子さんの研究による)
 次に示すのは一年入門用の読解基礎技能の養成をめがけた実験授業の記録である。
 この授業の指導者は、東京都文京区立真砂小学校の伴定子さんである。授業は、昭和四十年五月十一日午後行なわ
れた。入学後一か月ばかりの児童であるが、すでに生活訓練・学習訓練がじゅうぶんにできていた。その言語生活の
豊かさにまず目を見張った。児童の応答は自由で、話しことばの基本的な文型をすでに身につけていた。文字を書く
こともよく訓練されていた。したがって、話したり、聞いたり、読んだり、書いたりする学習が有機的、総合的に行
なわれ、それぞれの活動の基礎的な技能・態度がよく身についていた。
 児童の学習能力の実態を押え、それを基盤とし、それに応じた指樽が行なわれた。

 読字力の実態(昭和40年4月15日、調査)

文字   あ い  う  え  お  か  き  く  け  こ  さ  し  す  せ  そ  た  ち  つ  て   と


91.7 91.7  87.5  89.1  89.1  95.8 91.7  87.5  85.4  89.1  93.8  93.8  89.1  85.4  81.3  87.5  91.7  91.7  87.5  89.1 




態 



 
 


 
エンドウー・リ

ヤ 





 
 


 



 










 

 

 





 
サ・
カ・
エ・
ミ・
オ 



 



 

 

 



 

 

                                                      187


ぬ  ね  の  は 


85.4 87.5 68.7  83.3 87.5  83.3  83.3  89.1  70.9  75.0  93.8  91.7  83.3  81.3  91.7  87.5  85.4  91.7  83.3  93.8 




態 
 ス







 





 


 

 
 


 







 







 

 






 







 

 
ロク


 



 
  ハチ


 

 




91.7 81.3 89.1 81.3 87.5 83.3 85.4 81.3 81.3 83.3 79.2 83.3 83.3 72.9 72.9 83.3 85.4 81.3 77.1 81.3 77.1 77.1 79.2 62.3 68.7





 
 ロ  シ  






 

 



 
シチ・

 



 






 



 





 
ジュ



 





 

・グ
・ク
・ヤ
・ズ





 



 

 

 



 



 

・イ
・ヘ
・シ
・チ
・コ
・デ





 


ぷ  ぺ   


58.3 72.9 70.9 66.7 52.1  





 
 コ
・コ・ト・バ・ハ
・ヤ
・ペ
・ス










・ 





・プ 







・バ
 

 清音は一字一字としては、ほとんど読めている。濁音・半濁音は、が・ざ・だ行の読みはよいが、ば・ぱ行の読字  189
率は少し低い。
 これらの文字が、語・語句・文としてはどの程度読めるか、次の調査に示されている。

語・旬・文   一目読み(百分率)  拾い読み 読めない 読み誤り 誤りの例 





語  



 い ぬ  27人 (56.4)  11人  4人  6人  イネ(4)・イメ・イ 
 さ る   25   (52.1)  19  2   2  サ・マ 
 く り   26   (54.2)   16   4  2  マリ・イ
 な し   26   (54.2)   14   5  3  シ(2)・カオ




  
 み か ん  23   (47.9)  19  3   3  ミ・ア・シマザ
 ほ た る  26   (54.2)  11  5   6  タル(3)・ボタル・ポタル・ハタル
 す ず め  25   (52.1)  15  3   4  スズア・スス(2)・ヒロク 
 へ ち ま  26   (54.2)  12  4    6  チマ(3)・リクマ・チメ
句   ばらのはな   23   (47.9)  14  5   6  ラ・ハノイ・ノ・ボア・ノハナ
 ひろいみち   23   (47.9)  19  2   4  イチ・ロロイミチ・ヒロコリス
 ・ヒロイナ
 あかいくつ   21   (43.8)  21  2   5  ア・クツ・マカヒロマ・アカルイクツ
 ・アカイクモ
 文  うたをうたいましょう   19   (39.2)  19  3   3  ウタウタイマショウ(9)

  以上のうち、
  全部すらすらと読めた者     一九人
  二、三の文字を読んだだけの者   三人
  めちゃくちゃに読んだもの     一人
 この調査の結果について、伴さんは次のように述べている。
(1) 語の一目読みのできる者   四七・九%〜五六・二%
  句の一目読みのできる者   四三・八%〜四七・九%
  文の一目読みのできる者   三九・二%
(2) 読み誤りは、文字の抵抗によるものと、文脈の読み誤りによるものとがある。
(3) 読み誤りの場合も、拾い読みの場合も、語・句・文の示す意味をじゅうぶんに理解していないと考えられる。
(4) 読字調査の結果と比較してみると、個々の文字は読めないが、語としては読めている場合もある。
 以上で、この学級の読みの技能の実態はわかる。なお、伴さんは、これまでに次のような指導をしたと、あとの研
究協議の席上で話された。
(1) まず、学校生活・学習生活など、学校での生活経験や学習経験をするのに、いちばん必要なことば、機能的、基
 本的なことばを選んで学習した。たとえば、入学式の日でいちばん機能的な語、生活経験をするのに必要な語は、  191
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究
「はい」という返事と学級の象徴である「はた」という語である。そこで、「はい」「はた」を語カードにして示し  192
た。
(2) 四月二十七日に遠足をした。その遠足について話し合う中で、「○○がいました。」「○○をみました。」とい
 う文型を作ってカードに書き、読んだり話したりした。
(3) 砂場で遊んだあと、砂場で作ったものを話し合って、「やまをつくりました。」「かわをつくりました。」とい
 う学習基本文型によって話したり読んだりした。
(4) これまで、基本的には、ア 経験したことを話す。イ、話したことをもとにして、学習基本文型にまとめる。ウ
 学習基本文型をカードに書く。エ 学習基本文型に従って話す。オ 学習基本文型を読むという過程をとって指導
 をしてきた。
(5) きょうの「じゃんけん」の学習でも、その過程をたどって、遊びの経験を話すのに必要な文型、しかも基本的な
 文型について学習した。ここでは特に「○○でかちました。「○○でまけました。」「○○と○○でかちました。」
「じゃんけんをしました。」「○○とじゃんけんをしました。」というような文型を中心にして指導した。
 大体、学級の学習能力の実態に即しながら.このような学習指導をしてきた学級の学習指導の記録である。


   国語科学習指導案文京区立                     真砂小学校  伴  定 子
一 日時 昭和四十年五月十一日
二 学年 一年二組 男二七 女二一
三 単元 あそび
(1) 単元について
 入学以来、一か月余りの学校生活を送って、児童は学校にも慣れ、友だちもできた。友だちと仲よく遊びたいと
 いう気持ちも育ってきている。ここで、いろいろな遊びを通して、友だちと遊ぶ楽しさをじゅうぶんに味わわせる
 ことによって、学校生活をいっそう楽しくすることができる。
 教科書では、四月下旬の教材であり、「じゃんけん遊び」では、文字ことば「いし」「かみ」「はさみ」が提示
 されている程度であるが、これを手がかりに、児童の遊びの経験の広がりをとらえ、遊びの場面の中で経験したこ
 とを話したり、経験したことを書いた文を読んだりする学習へ発展させることができると考える。
 実態調査の結果に基づき、語や文を読むことによって、その語や文の意味をじゅうぶんに理解させる指導が必要
 であると考える。そのために、児童の生活経験の中で使われている語や文型(学習基本語い・学習基本文型)を、
 児童の言語生活の中から発見し、話したり、それを文章によって書き表わしたり、書いたものを読んだりする学習
 が必要であると考える。
(2) 単元の学習目標
  遊びについて、話したり、書いたり、読んだりして、遊びの楽しさを味わうことができるようにする。
(3) 単元の学習内容                                            193〜 

学 習 活 動  学  習  事  項 
態 度 ・ 技 能  ことばに関する事項 
l 遊びについて話す。
2 遊びに必要な語や遊びにつ
  いての文や文章を書く。
3 遊びについて書いた語や文
  や文章を読む。
1 語や文として読むこと。
2 何が書いてあるかを読み取ること。
3 語を書くこと。
4 共同で文や文章を書くこと。
5 何を言おうとしているかがわかるよ
  うに書くこと。
1 新出文字を読み書きするこ
 と
2 助詞「を」の読み方に慣れ
  ること。
3 語の意味を理解すること。
4 基本的な文型を身につける
  こと。

(4) 単元の学習計画(六時間)
  1 じゃんけん遊びをして文を作ったり読んだりする。  一時間(本時)
  2 はなはな遊びをして話したり読んだりする。     一時間
  3 「でんしゃごっこ」の文章を作ったり読んだりする。 一時間
  4 砂遊びをして、文章を作ったり読んだりする。    二時間

4 本時の学習指導
(1) 目標じゃんけん遊びについて、話したり、書いたり、読んだりして、じゃんけん遊びの楽しさを味わう。
(2) 学習指導                                               194

学習過程・学習活動  学 習 事 項(発問)  指導上の留意事項 
 学習の目的を持つ。
○語カード
  「じゃんけん」を読む。
○語として読むこと。
T きょうはこの勉強をします
○語カードじゃんけんを示す。
 経験を話しながら語
 を書く。
○語カードに、いし・か
  み・はさみを書く。
○字形を整えて書くこと。
T じゃんけんでは何を出しますか。
T いし・かみ・はさみを別々のカー
  ドに書きなさい。
T 書けた人は本と同じ順序に並べな
  さい。
○ぐう ――いし ┐は同じである
 ちょき――はさみ├ことを理解さ
 ぱあ ――かみ ┘せる。
○教科書を見て書く。
○机間巡視をして書けないものを指導
  する。
○手で、いし・かみ・はさみを示し、
 カードをささせたりする。
 (読みの確かめ、意味の確かめ)
 経験したことを話し
 たり文に書いたりする。
〇じゃんけん遊びをする。
〇じゃんけん遊びの結果
  を話す。
T じゃんけん遊びをして、この紙に
 勝ったら〇、負けたら×をつけなさ
 い。
○一回戦は手で、二回戦はカードで
  じゃんけんをしなさい。
Tじゃんけん遊びのお話をしてくだ
  さい。
○経験したことを話すこと。
○何を言おうとしているかがわかるよ
  うに話すこと。
○経験を話すための文型を身につける
  こと。
○得点用紙を配布する。
○じゃんけん遊びは隣り同志が組にな
  る。
○話したことをカードに書く。
○話したことをそのまま書けば文にな
  ることを示す。
 経験したことを書い
 た文を読む。
○文カードを読む。
○じゃんけん遊びの結果
  を文カードで示す。
○文として読むこと。
○基本的な文型を身につけること。
T こんなにたくさんのカードができ
  ました。この中から自分と同じ勝ち
  方(負け方)をしたカードを見つけ
  なさい。
○文カードは次のようなものが予想さ
 れる。
・いしでかち(まけ)ました。
・はさみでかち(まけ)ました。
・かみでかち(まけ)ました。
・いしとはさみをだしました。
・かみといしをだしました。
・はさみとかみをだしました。
○文カードをとらせ、声を出して読ま
  せるようにする。
     

 この授業は次のように進められた。                                    〜196

1T これから勉強しましょう。きょうの勉強はなんの勉強でしょう。(白カードを黒板上に掲げる。)
 T こういう勉強です。(と言いながら、白カードに「じゃんけん」と書く)
 T さあ、きょうはなんの勉強でしょう。
 P じゃんけん。(いっせいに読んで答える。)(一回読み。)
2T じゃんけんの時は何を出しますか。
 P (こぶしを出す。)
 T これをなんと言いますか。(こぶしを示して。)
 P いし。(ことがらとことばの一々対応。)
 T いしのほかに何を出しますか。
 P はい、はさみです。(文型に注意。)
 T そのほかに何を出しますか。
 P (はさみ、かみなどと一語文で答える。)
 T (答に応じて、カードに書いて掲げる。)
   じゃんけん ┐
      いし | 黒板に上のように並べる。
          >
     はさみ | 一目読みができるようにする.
      かみ ┘                                            197
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究
3T いしやはさみやかみを出しますね。さあ、本を開いてごらんなさい。                    198
 P (本を出して見る。)
 T いしを指で押えてごらん。
 P (いしと言いながら教科書の「いし」という語を押える。)
   (同じように、「はさみ」「かみ」の語を押えさせて語型を確認する。)
4T さっきカードをあげましたね、それに書きましょう。
 P (三枚のカードに、いし・かみ・はさみと書く。静かに、じょうずに書く。)
 T (机間を回って個別指導をする。鉛筆の持ち方など。)
 P (書けた児童は、カードを教科書の順に並べる。一目読みと同時に、一字一字に注意を向ける。文字分析が行
   なわれる。)
 T 正しく書けたかどうか調べてみましょう。
 P (代表者が六人、黒板のカードにいし・かみ・はさみと書く。正しいかどうかを、自分のもいっしょに確かめ
   る。)
5T カード拾いをしましょう。(いし・かみ・はさみと言って、カードを拾わせる。あるいは、いし・かみ・はさ
   みの形を示してカードを拾うなど変化のあるカード遊びをする。一目読み、意味の確認――ことがらとことば
   の対応。)
6T じゃんけん遊びをしましょう。(遊び方を説明する。勝敗を○で記録する。先生と児童とでやってみる。)
 P (隣りの者と組んで遊ぶ。記録する。喜んでやっている。始めは、手を使い、途中から、前に自分で書いたカ
   ードを使って遊ぶ。)
7T じゃんけん遊び、おもしろかった?それでは、そのじゃんけん遊びのお話をしましょう。
 P (自由に話す。次に教室の前の方へ出てきてみんなに話す。話しているうちに基本的な文型が出てきて、それ
   によって話すようになる。文型が決まると、みんな安心して活発にはっきりと話せるようになる。)
 T (児童の話す文型が、決まってくると、それをカードに書いて掲示する。児童の話したことが文になることに
   気づいてくる。次のような文型にまとめた。)

    かみをだしてかちました。
    はさみでかちました。
    はさみとかみでかちました。
    かみでまけました。

8T (カードをさして)ここに書いてあるようにして、勝った人や負けた人がいますか。「わたしは○○でかちま
   した。○○でまけました。」というように話してからこのカードを拾ってください。
 P (各自勝敗を話してから、前へ出て、それと同じカードをさす。)
9T みんなでカードを読んでみましょう。
  ((1) カードを出す。(2) カードを拾う (3) カードに書くなど、さまざまな読ませ方をする。ほとんど全員
  に読ませる。)                                             199
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究
 この指導では、(1) 語として読む。(2) 文として読む。(3) 学習基本文型で話す。(4) 学習基本文型を読む。(5)  200
共同で文を作る。(6) 語の意味充実を図るなど、入門期の国語学習の基本的な態度・技能が、繰り返し繰り返し学習
された。じゃんけん遊びの楽しさを経験する、経験を話す、話したことを書く、書いたものを読む、という一連の活
動を通して、じゃんけん遊びの楽しさを味わいながら、国語の態度・技能がじゅうぶんに学習された。
 なお、この学習指導で特に注意したいのは、学習のプログラムと学習の個別化である。文字の学習、語の学習、文
の学習が、ことばとことがらの対応、ことばと文字の対応、二語文から文へ、行動と話しことばの文の対応、話しこ
とばの文と書きことばの文との対応、そこにはっきりしたプログラムがあって、それに従って学習が進められてい
る。
 文字を書く。カードを操作する。さまざまな学習活動がいっせいに行なわれる中で、各個人の学習がはっきりとつ
かめる。個別指導をしている。個別指導と集団学習のかね合いがうまくいっている。経験を話す場合、各個人の思考
力・認識力に応じて話している。一語文で、「いし」「はさみ」と答える、「かみで勝った。」と話す児童もいる。
「はさみで勝ちました。」という児童もいる。それらが話し合っているうちに、「○○で勝ちました。」「○○でま
けました。」という文型を使うようになっていく。そこに学習がある。進歩がある。思考力が伸びていく。
 いわゆるプログラム学習の本質が生かされた授業であることを見のがしてはならない。
2 機能的方法による三年の読解技能の養成
 次に、三年の読解技能――だいじなことを押えて読む技能の学習を中心とした授業例をあげる。児童は、東京都港
区立芝浦小学校三年生。授業は昭和四十年五月二十七日行なった、飛び入り授業である。
 この授業では、(1) 主として文章の内容的価値を追求する、つまり音のあいずについての知識を求める過程で、要
点を押えて読む初歩的な技能を養成する実験、(2) 要点を押えて読む技能を段階的に指導する実験、(3) 学習の個別
化、個別指導の方法の実験、(4) 文章の内容を読み取って、段落にまとめる実験を試みた。

  国語科学習指導案

                               昭・四〇・五・二七   芝浦小学校三年
単元  あいず
一 学習目標
  音や光が、いろいろなことを知らせる働きを持っていることを理解し、音や光についての知識を深める。
二 学習内容

学 習 活 動  学習事項(態度・技能・ことばに関する事項) 

1「音のあいず」を読む。


2「光のあいず」を読む。 
 1 知識を求めようとして進んで読むこと(態度)
 2 書いてあることがらを読んでまとめること(技能)
 3 だいじなことを押えて読むこと(技能)
 4 漢字の読みに慣れ、また、書くこと(文字力)
 5 語句の意味や使い方を理解すること(語い力)
 6 基本的な文型を身につけること(文法) 

三 学習資料                                                201
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究
 (1) 教材 「音のあいず」「光のあいず」――知識を求めるための教材。                    202
 (2) 技能養成のためのプリント。
四 学習計画  六時間
 (1) 「音のあいず」を読む。  二時間(本時は第一時)
 (2) 「光のあいず」を読む。  四時間
五 学習評価
 (1) 評価の対象――学習事項が習得できたかどうかを判定する。
 (2) 評価の機会――学習の過程、学習の後
 (3) 評価の方法――観察法、テスト


 [教材] 音のあいず、

  わたしたちのくらしには、音でなにかを知らせることが、ずいぶんたくさんあります。
  学校では、ベルやチャイムやサイレンなどをならして、学習のはじまりやおわりを知らせます。 ときに
 は、そのならしかたによって、かわったできごとを知らせることもあります。
  しょうぼうしょのサイレンが、町の空にひびきます。 しようぼう自動車が、けたたましいサイレンの音
 といっしょに走っていくのを見ます。
  また、カーン、カーンと、かねをならしながらかえってくるしょうぼう自動車を、見かけることもあり
 ます.
  電車や自動車のけいてきも、よくききます.
  みんな音でなにかを知らせているのです。
  体育の時間に、先生が、ふえをふきならすことがあります。子どもたちは、先生のふえにあわせて、体
 操をしたり、行進をしたり、ドッジボールをしたりします。
  「あつまれ」「わかれ」「走れ」「止まれ」などを、ことばでいうかわりに、ふえで知らせることもあ
 ります。
            ×
 おと まち   そら  じどうしゃ   はし   でんしゃ  たいいく たい    こうしん     と
 音、町 の 空、自動車、 走る、電車、体育、体そう、行 進、 止まる。 

六 学習指導(本時は第一時の指導)
 目標 どんな音が、どんなことを知らせるかを読み取ることができるようにする。               〜203
 指導

学習過程  学 習 活 動  学習事項(態度・技能・知織)評価 

l 読む目
 的を持つ。 
l 「音のあいず」について学習することを
 話し合う。

 〇第一段落を読んで予想を立てる。 
○学習の構えができているか。

○この文章を読めばどんなことがわかるだろ
 うか。
2 読む方
 法を考え
 る。 
2「音のあいず」の読み方を考える。
 (1) 全文を読む――どんな音のあいずがあ
  るか。
 (2) どんな音が、どんなことを知らせるか
  を考えながら読む。
 (3) 読み取ったことをまとめる。 
○読む方法が自覚されたか。
○読む構えができたか。
〇第一段落を読んで立てた予想に従って、読
 む方法を考える。 
3 読む目
 的を追求
 するため
 に読む。 
3 全文を読む。
 (1) どんな音のあいずがあるかを読み取
  る。
 (2) 読み取ったことを話す。
 (3) 読み取ったことのあらましをプリント
  によってまとめる。
4 段落にまとめて読む。
 (1) なんの、どんな音がなにを知らせるか
  を読んで調べる。
 (2) 段落にまとめる。 
○漢字を読むこと。
○あらましを読み取ること。
○読み取った結果を二、三の児童に話させて
 から、各自プリントに書いてまとめる。こ
 の間に全児童の読み取りの実態を知る。
○個別指導をする。
○要点を押えて読むこと。
○書いてあることがらをまとめて読み取るこ
 と。 
4 読む目
 的を達成
 する。 
5 全文を読んで読み取ったことをまとめ
 る。
 (1) 読み取ったことを表にまとめる。
 (2) 全文を読んで読み取ったことを確かめる。
 (3) 計画のとおり読めたか話し合う。
 (4) 復習。 
○読み取ったことをまとめること。
○語の意味を理解すること。
〇プリントによって個別指導をする。
○学習のあと計画どおりにできたかどうか反
 省・評価する。 

 〔参考資料〕児童に配布したプリント                                   〜205

一 音のあいずにはどんなものがありますか。

 1 学校では、               

 2 しょうぼうしょ       しょうぼう自動車     

 3 電車・自動車     

 4 体育の時間     

二 なんの、どんな音が、なにを知らせますか。

 1 学校では、                   を知らせます。

 2 しょうぼうしょの       は、        を知らせます。

 3 しょうぼう自動車の               を知らせます。

 4 電車・自動車の       は、      を知らせます。

 5 先生の                     のあいずをします。

 6 先生の      は、  |   |   |     などを知らせることもあります。

三 ことばのれんしゅう
 l けがをしたのか、犬のけたたましいこえがきこえてきます。
 2 けたたましいなみの音がしています。
 3 カーン、カーンと、けたたましいかねの音がきこえる。
 4 あの人は町でよく見かけます。
 5 あの子は、学校のかえり道でよく見かける子です。
 6 あの犬は、ときおり家の前で見かけることがあります。

学習指導の実際


 この授業は、大体次のように進めた。
(1) 「あいず」にはいろいろな種類のあることを話し合ってどんなあいずがあるのか知りたい。そのためにまず「音
 のあいず」を読んで調べるといいということに気付く。
(2) 「音のあいず」の第一段落を読んで、どのように読んだらいいか、読み方の計画を立てる。
 ア どんな音のあいずがあるか。
 イ どんな音が、どんな合図をするか。
 の二つについて調べる。読み取ってから話す。話したら各自読み取ったことを、プリントによってまとめる。(別
 紙問題の一をやる。)――全体的な読み。直観的な読み。
(3) 読んでわかったことをもとにして、段落にまとめる。どこからどこまでが、同じなかまのことを書いたか。(書
 かれていることがらによって、段落にまとまっている。)
(4) 読んでわかったことをまとめて話させる。数人に話させて、読み取りの大体を知る。その後、問題の一をやる。
 各自プリントに読み取った結果を記録させる。これはほとんど全員が誤りなくできる。ここでだいじな音について
 確実に読み取らせる。
(5) 段落の要点を読み取る。全文を読んで、どんな音が何を知らせるかをつかませる。数人に読み取った結果を話さ
 せてから、各自プリントの二の問題をやる。机問を回って個別に指導する。
  書き終わってから、それぞれ読みあげさせて、正しいかどうかを検討する。
  ここで、要点の読み取りの初歩的な学習として、プリントのような問題をやった。
  ここで、「学習」「けたたましい」「行進をする」などの語句について指導する。
3 機能的方法による六年の読解技能の養成(この項は中津留喜美男さんの執筆)
一 はじめに
  プログラム学習・スキル学習と、近ごろ国語教育の近代化の名のもとに、言語技能の養成に力を注ぐようになっ
 てきた。もちろん、言語技能は戦後の国語教育において、新しく認識されてきたものであり、プログラム学習・ス  207
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究

 キル学習を言い出されてからのものではない。                                208
  しかしスキル学習が強調され出したのは、現在までの国語教育において、言語技能が重視されながら、児童の能
 力となっていないということが考えられる。その点、私たちは、今までの学習指導を反省しなければならない。だ
 からといって、スキル学習・プログラム学習を直ちに是とし、飛びついていくことは考えなければならない。その
 前に、自己の学習指導を反省し改善することを考えなければならない。そこにスキル学習・プログラム学習の理論
 を生かす道も開けてくるのではないだろうか。
  言語技能は、言語経験を処理する原動力であると同時に、言語技能は言語経験によって高まっていく。言語技能
 は、説明・解説することによっては身につかない。意図をつかむのは、こうするのだ、主題はこうつかむのだと、
 繰り返して説明しても、意図をつかむ技能、主題をつかむ技能は身につかないことはいうまでもないことである。
  スキル学習は、一つの技能をつけやすい、やさしい文章から順々に難かしい文章を読むことによって、その技能
 を定着させようと考えている。与えられた間題文を読むねらいは、技能練習である。文章を読むことによって生活
 を向上させる。すなわち機能的に読む場合と比べて、どちらが主体的、積極的に読むかといえば、後者のほうであ
 ろう。そうすると、言語技能も単一なものはない。よりいっそう強く働くわけになる。
  また、現在の教科構造でスキル学習を行なうには、教科書を使用した単元学習と二本立てになる。単元学習にお
 いても、言語技能を学習内容として指導しているわけであり、それを抜きにすることは考えられない。かりにスキ
 ル学習を是認しても、スキル学習でつけた技術がはたして単元学習にそのまま生きて働くかどうかは問題である。
 私たちが、現在いちばん考えなければならないことは、単元学習の中で、言語技能をどのようにして高めていくか
 ということである。
  そこで、スモールステップ、個別学習などのプログラム学習の方法原理を取り入れ、単元展開の中で言語技能を
 高める一つの方法を考え、次のように実践してみた。
ニ 実践例
 単元 のびる航空路(六年)
 l この単元の構成

単 元 目 標  学 習 活 動  学 習 事 項  教  材 
○世界各地の様子を
 説明した文章や、
 紀行文を読んで、
 各地の特色を知り、
 世界に目を開くこ
 とができる。 
○教材「のびる航空
 路」を読む。
・各地の特色をノー
 トにまとめる。
○読み取ったことを
 もとにして説明す
 る。
○その他の土地の特
 色を、図書室で調
 べる。 
○要点を抜き出した
 り、全体を要約し
 たりすること。
○調べるために読む
 こと。
○話の順序を決めて
 話すこと。 
O「のびる
 航空路」
 (三省堂 
 六年の下)

 2 この単元の指導過程
  (1) 世界の国々について話し合い、学習計画を立てる。                           209
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究
  (2) 教材「のびる航空路」を読み、どのように旅行したか読み取る。                     210
  (3) 各地の特色を読み取り、ノートにまとめる。
  (4) 全文を読んで、記録したことを確かめる。
  (5) 記録をもとにして、各地の特色を説明する。
  (6) 図書室で、その他の土地の特色を調べ、ノートに記録する。
 3 この指導に使った教材
  「のびる航空路」は、東京国際空港を飛びたち、ハワイ・サンフランシスコ・ニューヨークなど九か所の国や都
  市を巡り、その土地の様子や特色を小見出しをつけて説明した文章である。
 4 指導の方法
   指導過程の(3)の、各地の特色を読み取る段階で、次のような指導を行なって、読解技能を身につけようとし
  た。
   各地の特色を読み取るためには、読む目的に合った要点を押え、全体を要約する技能が必要である。
   この技能を身につけるには、前にも述べたように、児童に読む経験をさせなければならない。その経験も、よ
  り積極的、主体的に行なうことが望ましいわけである。そこで要点をつかむ、要約をするという目的でなく、各
  地の特色を調べ、あとで一目でわかるように記録しておくという生活的、機能的目的を持たせたのである。しか
  し、それだけでは、どうやったらよいか方法がわからない児童もいるので、その方法を話し合った。児童は次の
  ような発言をしていた。
  ○小見出しをつけてまとめる。
  〇個条書きにする。
  ○その土地の有名なところをまとめて書く。
   そこで「自分が一番見やすくまとめてみよう。」ということだけを助言して、自由にやらせた。そのとき、次
  のようなプリントを与えて、自分でまとめる欄に記入させた。

l自分でまとめる  2みんなでまとめる 
   
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
3 サンフランシスコ
 太平洋岸の       市の中心部ビルディン

  グが       している。都心部をはなれる

      
         美しい。
      
 (1) 金門橋
         を結ぶ

 長さ     
 (2) ベイブリッジ
           の橋

          と       をつなぐ

   上       下       

 
4 ニューヨーク
          の大都市

         
         |
          >代表する都市
         |
        

 (1) ナイアガラのたき
           にかかる      のたき

   はば      高さ      

 (2)        

         の建物

 (3)           

              

自由にまとめさせている間、机間巡視をして、児童がどのようにまとめているか、その実態を観察した。      〜212
大部分の児童は、文章に書いてある順序により、特色を個条書きにしていた。
一例をあげると、

l ハワイ
・一年中花がさき、くだものが実っていて、とこ夏の国といわれている。
・ホノルルの西、けしきの美しい真珠湾、さらに名高い、ワイキキのはまべがある。
・ハワイは、アメリカの五十番目の州。
・ホノルル飛行場がある。
・住民の四十パーセントが日本人系。
・さとうきび・パイナップル・コーヒーの栽培。
・漁業に従事している。 

  次に、各自でまとめたものをもとにして、もっと見やすいようにするにはどうしたらよいか、このまとめ方でよ
 いか、ということで話し合い、それを板書してまとめた。その結果は次のようになった。

 l ハワイ
 ・アメリカ合衆国の五十番目の州
 ・住民の四十パーセント 日本人系
 ・栽培
     >従事
  漁業
(1) オアフ島
  ハワイ諸島の中心部
 ・一年中花がさき、くだものが実っている。
 ・ホノルル――飛行場
  西 真珠湾  東 ワイキキのはまべ 

  まず、見出しの「ハワイ」全体について説明していることを初めに書く。次にその土地の有名な所を小見出しと
 して書き、説明を簡単に書く。このようにまとめればよくわかるということを理解させた。すなわち、読みの目的
 に添った要点の読み取り方、要約のしかたを指導し、その方法を意識化した。ただ板書しただけでは理解しない児
 童もいるし、また理解も浅いので、自分でまとめたものと比べながら、「みんなでまとめる」欄に書き写させ、そ
 の方法をより深めていった。                                        213
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究
  児童には能力差があり、一回の指導で理解し、その技能が身につくものと、そうでないものがある.そこで、次  214
 の段落(サンフランシスコの説明)は、前に示したように、わくを作り、ヒントを与えておき、読んで記入するよ
 うにした。
  また、第三段落(ニューヨークの説明)は、第二段落よりもヒントの数を少なくして、そこにまとめさせるよう
 にした。すなわち、ステップをつけたわけである。四段落以後は全然ヒントを与えず、自分のノートにまとめさせ
 た。このように、各地の特色をまとめるという目的で、九段落に分かれている文章を一段落ごとに見出しをつけ、
 読み取らせたわけである。児童にとっては、この作業は生活に役立てるための言語活動である。また一方から見れ
 ば要点をとり、要約をする技能練習を八回も繰り返して行なっているわけである。その技能練習もある程度のステ
 ップを考えているので、易より難にということがいえるわけである。(もちろん、このステップは非常にあらく、
 もっと考えていかねばならないが……)このように、単元学習において、思考力を中断しないで技能を定着させて
 いくことができるし、このような立場でいろいろな方法を考えていかなければならない。ここにスキル学習・プロ
 グラム学習の考え方のよい点をどしどしとり入れていく必要がある。
  このような学習の結果、児童の要点・要約の技能は次のように変化している。(一例であるが、ある児童の、第
 一段を自分でまとめたものと、第五段をまとめたものとを比較してみる。)

ハ  ワ  イ  ブ  ラ  ジ  ル 
 ・一年中花がさき、くだものが実って、とこ夏の
  国といわれている。
 ・ホノルルの西にけしきの美しい真珠湾がある。
 ・さらに名高いワイキキのはまべがある。
 ・ハワイは、アメリカ合衆国の五十番目の州。
 ・住民の四十パーセントは日本人系。
  さとうきび・ハイナップル・コーヒーの栽培、
  漁業に従事している。 
 ・面積世界第三位。
 ・日本全土の二十倍。
 ・住民は日本の七十パーセント。
 ・国の大部分、未開拓。
 (1) アマゾン川
   北部にあり、未開の大森林地帯。
   熱帯植物。
   熱帯特有の動物がいる。
 (2) サンパウロ州
   南部にある。
   日本からの移民三十万人。
   農場を経営。(コーヒー・綿の栽培)
 (3) リオディジャネイロ、南米一の美しい都。 

  一例しか示さないので、この点から結果を云々することはできないが、同じ児童が、第一段でまとめたものが、
 第五段では右のようになっていることから、要点・要約の技能は進歩してきたと考えられる。
三 まとめ
  技能養成の一つの方法の実践を紹介したに過ぎないが、簡単に方法を要約すると、教材を段落に分け、その各段
 落が同じ技能で読みの目的が達成できる場合に、第一段落で読み取り方の指導を行ない。第二段落では、ヒントを
 与えて自分の力で読み取る。第三段落以降は、ヒントをだんだん少なくして、自分でヒントなしに読み取れるよう  215
          3 読解力養成の科学化
          第四章 国語能力養成の科学的実践的研究
 にする。                                                 216
  この方法は、すべての読解技能をつけるのに適した方法ではない。たとえば、文章の主題や意図をつかむ能力、
 段落にまとめる能力などは、この方法ではできない。教材で学習したのちに、似かよった練習文によって技能を定
 着するよりほかにない。
  この方法のよい点と思われることは、練習を学習の中に位置づけ、練習も生活目的を達成して活動として行なえ
 ること、単元展開の途中、思考が中断されず技能養成ができること、第三にプログラム学習のように、プログラム
 を作るのに時間がかからず、また、文章をこまぎれに扱わないので、正しく文章を読んで、その技能をつけること
 ができることである。
  人間形成と言語技能の養成を一体として指導することが、機能的国語教育の基本原理である以上、その方法を開
 拓していかなければならない。


       4 作文能力養成の科学化

   まえがき
 まことにうかつな話であるが、私は、画家が行なう石膏のデッサンは石膏の形や面や線、それに当たる光、さらに
その質感から量感に至るまでを描く一般的な、形式的な技能の練磨とばかり思っていた。ところが、「アトリエ」
(一九六二・一)の「石膏のデッサンのプロセス」を見るに及んでびっくりした。
 デッサンは、単なる、形式的、一般的な技能の養成ではない。石膏に対する自己の認識を画面に定着することであ
り、石膏という題材に対する客観的把握と主観的情感とをからみあわせた表現であることを知ったからである。
 描かれた一本の線、写された淡い陰影は、石膏に反映する自己のモチーフ・情感を、個性的に表現するための、き
わめて個性的な、具体的な、その時限りの線や光である。生きた表現技能は、そのような自己表現の機能的な場にお
いてのみ、真実の自己を表現する技能として、身につき、定着するのである。
 作文においても全く同じことが言える。題材に対する自己の認識・感動を、自分のことばで、個性的に表現する。
そこに働く、その時にのみ働く個性的な、具体的な技能を獲得し、練磨する。生きた技能は、ほんとうに身につく技
能は、そのように機能的なものである。それは、形式的な、 一般的な、 自己の表現を離れて練磨できるものではな
い。題材に反映する自己を表現するという機能的、具体的な経験の中でのみ、生き生きと身につく技能、態度ととも
に身につく技能である。王陽明のいう、いわゆる事上磨練によってはじめて身につく技能・態度である。
 作文における技能養成の問題も、このように技能の本質をじゅうぶんに理解し、その本質的方法を明らかにするこ
とが根本である。技能養成の便宜的方法は、その上に立って考えるべきことを私どもは忘れてはならない。

(一) 国語の能力としての技能

 技能は、国語の能力の中でどんな位置を占めているか、始めに考えてみよう。
 昭和二十六年度の学習指導要領には、知識・理解・技能・態度・習慣・理想というのが出ている。これを総括した
ものが国語の能力である。昭和三十三年度の学習指導要領では、総括目標のところで、「国語の能力を養う」と出て
いる。そして、国語の能力を、国語の知識(発音・文字・語い・文法等の言語要素)、聞く・話す・読む・書く活動
を処理する技能、技能を使って言語活動をするときの態度の三つに分けている。                  217
          4 作文能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
 このように技能は、国語の能力の中の、言語活動を処理する力であって、文法についての知識、文字の読み方、語  218
句の意味などの言語要素にささえられている。また、同時に態度によってささえられ、裏づけされている。だから、
技能は、言語知識・言語態度と関係なしに使っていくことはできない。技能は、国語学習の内容の一部である。

(ニ) 表現技能の本質と考え方

1 文章の作り方・綴り方
 私は、三年ほど、夏に鹿島建設で、手紙の書き方、公用文の書き方などについて講習をした。手紙の形式、往復文
書の形式を追求してその書き方を指導する。そのときいつも申し上げることは、皆さんの所にある往復文書・会議な
どを種類別・文章形態別に分類整理する。それから、手紙だったら、時候のあいさつの文、要件の文、結びの文など
をそれぞれカードにとって整理し、分類整理番号をつけておく。そして、春のころの注文の手紙は、1・15と2・
16と3・18とを組み合わせる。社の発送案内だったら、1・39と2.38と3.32とを組み合わせるという
ようなカードシステムを作っておけば、手紙はカードを捜しだすだけの時間で容易に書け、事務能率も上がるという
ことである。
 私は、手紙や公用文の書き方・作り方を教え、社員は、手紙や、公用文の書き方を理解する。これは、明治時代の
「作文」教育と同じである。手紙の書き方は教えるが、教育がない。人間教育がない。また、社員は、自分を表現す
ることがない。そこで文章を書くことに人間を参加させなければ教育は成立しない。
 文章の書き方を通して自分を書き表わすことを指導する。そこに人間教育としての作文教育が成立する。つまり、
型の指導から、表現の指導へと発展した。これがいわゆる綴り方である。要するに、書くこと、作文を通して、自分
を表現するということが、今の作文では主要な要素となっている。それが作文の本質だと考えられている。
2 経験を書くことと思考・文型
 一年生の書くことの指導の時間、黒板に大きな丸を書いて「先生が今何をしたか、先生がしたことを文に書いてご
らんなさい。」という学習があった。
 ある児童は、「O」そのものをノートに書いた。ある子供は、「まる」と書いた。また、ある児童は、「まるをか
きました。」「こくばんにまるをかきました。」「せんせいがこくはんにまるをかきました。」などと書いた。一つ
の事実を表現する場合に、その能力の発達によって、書き表わし方(文型)が変わっている。認識のしかた、思考の
しかたが違っている。ここに書いた児童の文は、児童の思考力・認識力の発達と密接に結びついている。
 ところで、この場合の文型は、児童が目的を意識して書いたものではない。これをかりに「先生が今したことを書
いておうちの人に教えてあげなさい。」ということにしたら、児童の書く文型は違ってくる。「せんせいがこくばんに
まるをかきました。」という文型がずっと増してくるにちがいない。書かされて書く文型と目的を意識して書く文型
とは違ったものになる。目的を持たずに書かされる場合と、児童自身が目的を持って書く場合とでは、思考の働き方
が違う。認識のしかたが違う。その結果として、目的が達成できるような思考・認識が文型となって現われる。この
ことは、作文の技能養成を考える上に、きわめてだいじなことである。技能の本質につながる問題である。つまり、
表現対象・表現者・表現技能との関係を考える上に重要な示唆を与える。
3 画家のデッサンと自己表現
 先日「アトリエ」の特集で「石膏のデッサンのプロセス」を見た。それを見て、石膏のデッサンは、単なる技能の
練習ではないことを知った。石膏のデッサンを通して自己表現をしている。自分を描いている。石膏に対するモチー  219
          4 作文能力養成の科学化
          第4章 国語能力花成の科学的実践的研究
フ・情感を第一とし、それをどう表現するかを、懸命に学習していることがわかった。石膏に対する情感を描くとい  220
う機能的な経験の中で技能を練磨している。それは、対象そのものを描く力でなくて、対象に反映する自己を表現す
る技能である。このことは、私どもが文章を書くことによって知ることと全く同じである。書くことによって、物を
見る目を育てる。よく見て書くのではなくて、書くことによってよく見、よく考え、よく識るのである。見たまま、
感じたままを書けというけれど、見たままなどというものは、そう書けるものではない。
 だから技能を身につけることは、同時に物の見方・観察力を身につけることである。つまり、技能を身につけるこ
とと、人間性につちかうこととは一体なのである。
4 文章を書く構えと技能
 私は、文章を書く場合には、いつも書こうとする内容を考え、組織し、体系づけようとする。つまり構想を立てて
書く。それは、書く題材に接近する構えを作ることであり、書くべき文章の構成をあらかじめ考えることである。と
ころが、頭の中で抽象的に考えた文章構成――構想は、いざペンを取って、文章を書き始めると、予想しなかった新
しいことがら、いい考えが次々と出てきて、始めに立てた構想を変えなければならなくなる。
 なぜそうなるかと言うと、文章を書くということは、文脈を作っていくことである。論理を立てていくこと、ある
いは、感情をことばでうまく組み立てていくことである。だから考える拠点ができると、それを手がかりにして、具
体的に次を考える。ところが、構想の段階では、書く対象に対して抽象的にしか考えられない。
 児童たちに構想指導をすると、骨組みだけの文章しか書けない、前もって書いた個条書きの文を、いろいろな接続
語でつないでいくような文章しか書けない、というようなことは珍しくない。ここに形式的にはいろうとする構想指
導の問題点がある。

(三) 書く経験

1 書く経験の範囲
 言語経験の中の、書く経験をあげて、分類整理してみると、次の三つになる。
(1) 記録――書き残しておく。生活に役立てるため、学習や研究に役立てるため、自己反省のためなどに書く文章・
 日記・反省録・研究記録・観察記録など。
(2) 伝達――伝え知らせる。生活に適応するために、周知させるために、伝えるために書く。手紙・掲示・標語・案
 内・指示・報告・報道など。
(3) 自己表現――感動を訴える。意図を表わす。人の心を動かすため、人に訴えるため、理解してもらうためなど。
 詩歌・物語などを書く。
 これらの経験は、すべて「ことば」を借りて行なわれる。つまり、記録するために、伝達するために、自己を表現
するためにことばを使う。したがって、ことばは、記録する・伝達する・表現する、そのような働きをする。 これ
が、表わす(表現機能・精神的機能)・示す(叙述機能・提示機能・文化的機能)・伝える(伝達機能・社会的機能)
ということばの三機能である。作文教育は、ことばの機能に根ざすこの三領域に及ばなければならない。
2 書く題材と書く構え
 書く経験を成立させるのは、書く題材である。書く題材は、大きく分ければ、外在的世界と内在的世界とに分かれ
る。自分の外にあることを書く。自分の外にあることを契機として、自分のうちにあるものを書く。経験的世界を書
く。社会的世界を書くとも言える。これらの題材については、今は触れない。                   221
          4 作文能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
 題材に対する構えの問題が重要である。作文の場合だと、書き始めの文と非常に深い関係があると言われている。  222
最初のセンテンスが、それ以後の構えを決定すると言われている。そこでどんな構えを持たせるかが指導上の重要な
問題となる。題材に対する、事件的発想・総括的発想・論理的発想・知的発想・情的発想・分析的発想など、それに
よって、文体も文章構成も、叙述も変わってくる。したがって表現技能もそれにつれて変わってくる。
 花瓶の藤の花に対して、子規はある感動を持って、緊張感を持って目を注いでいる。藤の花の美しさに目を輝やか
す人、花瓶の色と花の色との対照に心を奪われている人、この花は、だれがいけたのか、どこの藤だろうかといけた
人、花を手折った人への想像をたくましくしている人、この対象に対する構えは、その人、その人によって異なる。
 作文指導では、この構えを明らかにすることが先決問題である。構えができないと表現に立ち向かえない。何を書
いていいかわからないというのは、構えができていないのである。書き進めていくうちに、構えがくずれたり、変わ
ったりしていく場合がある。これは、最初の題材全体に対する構えが確立していないために起こる問題である。それ
は、事前指導の問題と結びつく。
 この構えは、技能に影響を与える。構えの背後には人間がある。生活・性格・感情・教養等をバックとして対象に
立ち向かう。だから個性的表現が成り立つのである。

(四) 表現の本質と表現機能

 表現とは何か、ここではできるかぎり深く考えてみたい。
1 自己表現
 ある題材について書く場合、よく客観的に書け、見たまま、感じたままを書けと言う。しかし、見たまま、感じた
ままを、純粋客観的に書くことができるであろうか。一般には、その見たままが書けると信じこんでいる。
 しかし、ことばは事実を表わさない。事実そのものを表わさない。事実に近いもの、事実の象徴するものを表わす
ことはできるかもしれないが、事実そのものを表わすことはできない。どんなに客観的に書こうとしても、実は客観
的主観を書いているのであって、比較的客観的に書いているにすぎない。
 次に、「私」は個性を持っている。だから、私が認識したものは、私が認識したものであって、私以外の他の者の
認識とは同じではない。ここにまた、私とことがら、私@とことがら、私Aとことがらとの関係がある。個性的表現
が成り立つゆえんである。では、そこに表現されたものはなんであろうか。それは対象そのものであろうか。
 かめ
 瓶にさす藤の花ぶさ短ければ畳の上にとどかざりけり
 これは、子規の認識・感動の表現である。そこには子規の藤の花に対する感覚・感動が表現されている。
 つまり、子規は対象そのものを表現したつもりかもしれないが、実は藤の花に立ち向かっている子規自身の感覚・
感動を表現したのである。「文は人なり」と言う。このことばはある意味では真理である。
 目の前の扇風機について、私がそれを客観的に書き表わしたとしても、それは扇風機に反映された私自身を書き表
わしたものである。言い換えれば、扇風機に対する私の見方・感じ方、あるいは考え方を表現しているのである。
 私は、ある対象を表現する場合、実は表現対象に反映する自己を表現しているのである。だから表現されたものを
見れば逆に自己がわかると書いた。しかし、これも厳密に言えば、その間にすき問がある。ことばと、ことがらと同
じではない。ことばで表わした私は、私に近いものではあるが、私自身ではない。表現とは、そういうものである。
2 自己創造
 要するに、厳密さ・的確さに問題はあるにしても、表現とは、自己を表現することだ。表現対象を介して自己を表  223
          4 作文能力養成の科学化
          第4章 国語能力養成の科学的実践的研究
現することだ。だからそこに表現された自己は、表現対象に反映した、刺激に反応した、一歩進んだ自己である。表  224
現することによって、認識を深め、思考を正しくし、知識を確実に体得した自己である。一段と高まった、深められ
た自己である。それは、表現対象を契機として行なわれた自己創造である。自己発見である。
 表現ということは、このように対象に触発された自己を表現することである。そこにのみ学習は成立する。
3 自己創造と表現技能
 次には、そのような自己創造としての表現活動をするためには、その活動を処理する技能・態度が必要である。そ
こで、その表現に必要な技能・態度が養成される。表現活動によって、物の見方、物の感じ方・考え方、心理・思考
等内容的な価値が身につくとともに、活動処理の技能や態度が身につく。
 国語の能力と思考・心情とは一元的に考えるとだれでも言う。しかし、どうすれば一元的になるか、観念的に国語
能力と思考・心情は一体だと言っても、具体的にどうすればいいのかがわからなければ指導のしようがない。
 私は、この両者は、「活動」によって統一的に学習されると言う。「活動」は、ことばの働いている実相だからで
ある。ことばを機能的に考えることによって、この間題は解決され、そこから指導法が考えられるのである。文章を
書くことによって、内容が理解され、獲得され、技能・態度が身につくような経験を与えるくふうをすればよいので
ある。(「国語科の発間(明治図書)」参照)
 では、書く活動とは何か。それは、ことばが具体的に働いている状態である。ことばの働き、それを具体化したの
が書く活動であり、その活動によって、内容と技能が高められていく。 書く活動は発間(課題)によって行なわれ
る。課題を解決しながら書く。その課題の提出のしかたによって、どんな活動をするかが決まり、それによってどん
な技能が養成されるかが決まってくる。
 たとえば一年の指導で、「先生のしたことを文に書く。」という課題が与えられた。その課題に従って書く活動が
決まってくる。その活動によって、そこで身につく技能が決まってくる。そこで、発問(課題)する場合、子供が、
課題を解決するためにどんな書く活動をするかによってこの技能と価値が結びつくように考えなければならない。

(五) 表現技能の養成

 表現技能を養成するためには、技能を発達的、段階的にとらえることがたいせつである。つまり、技能の系統的、
段階的指導をする。そうすれば、それらの経験を処理する技能・態度が発達的、系統的に養成される。
 一年生の話すことの指導で、経験を次のように配列して指導した。この経験を処理するのに必要な話し方(文型)
を発達的、系統的にとらえて学習した。
(1) 学校めぐり(社会)――終わって「どんな遊び道具があったか。」を話す。
 (てつぼう・ぶらんこ・すべりだいもあった。)
(2) ねん土(工作)――各自、作ったものを話させる。
 「どんなものを作ったか。」
 (へび・ぞう・じどうしゃとでんしゃ。ぞうをつくりました。ぞうとへびをつくりました。)
(3) 遊び(体育)――運動場で遊ぶ。
 (「どんな遊びをしましたか。」
 (てつぼう・すべりだいであそびました。○○とぶらんこをしました。」)(以下省略)
 作文においても、このように、書く経験――そこで養成される技能を考えて――を配列して、技能を系統的、段階  225
的に指導することができる。
          4 作文能力養成の科学化
          第5章 読解教材研究の科学的方法
                                                      226



     第5章 読解教材研究の科学的方法



        1 読解教材の本質・機能



(1) 単元の資料としての教材の本質
 単元は、目標・内容・資料・評価を分節とする全体構造、まとまりを持っている。単元「運動会」の目標(運動会
についての楽しさを味わったり、経験を深めたりすることができるようにする。)を達成するために、「運動会の文
章を読む。」「運動会の作文を書く。」などという学習活動をする。
これが単元の内容である。この内容の学習に当たっては、当然、「運動会について書いた文章」を必要とする。この
文章が読解の資科である。この資料を使って学習活動をする。学習した結果について評価する。このように資料は単
元の中にはっきりと位置づけられている。
 これらの資料のうち、特にその単元の学習事項を具体的に含んでいるものを教材という。たとえば、単元に位置づ
けられた教科書の文章は、それによって、これこれの漢字を読むこと、これこれの語を理解すること、これこれの技
能を学習することなどと学習する事項が計画的に文章の中に用意されている。また、これこれの知識や理解を得る、
これこれの心情を育てるなど人間性の開発伸長に資する内容的な価値をも含んでいる。それらの文章を教材と呼ぶ。
 参考  資料・教材・教具、その中に国語学習の内容を含んでいるものといないものとがある。前者は、資料・教材で、後者が
     教具である。前者のうち、学習の内容を一般的に含んでいるものが資料、具体的に含んでいるものが教材である。図書
     館にある読み物、子供新聞などは資料。資料を国語科の学習に直接使う場合には教材化しなければならない。


(2) 読解教材の機能
 読解教材は、それを読解することによって何かについての知識や情報が得られる、理解が深められる、楽しみが得
られる、思想が豊かになる、心情が育てられる、感覚が磨かれる、あるいは思考力が伸びる、想像力が豊かになるな
ど、いわゆる人間性が開発され、育てられる。このように、読解教材は、人間形成の機能を持っている。この人間性
につちかうものは、その教材の内容的価値および内容的価値を習得する過程に身につく精神的な価値である。
 また、読解教材を読んで・内容的価値を身につける過程で、その文章の中に含まれている文字の読み方を理解する。
語句の意味・用法を理解する。ことばのきまりを理解する。読解の態度や技能を身につける。つまり、国語の能力が
養成される。このように、読解教材は、読解力形成の機能を持っている。この読解力の形成に資するものは、読解の
態度・技能・言語要素等である。読解教材はこのような二つの機能を持っている。
 一般に、この機能は、いわゆる読解の抵抗――文字負担・語い負担・技能抵抗・内容の抵抗などとして存在する。


       2 読解教材研究の考え方

(1) 読解教材の研究とは何か


 教材研究というのは、教材の持っている教育的機能を研究することである。従来の読解教材の研究は、文章研究・
作品研究であった。作者・時代的背景・作品の成立の研究、作品の主題・構想・叙述の研究、作品の批評など一般的
な文章・作品の研究であった。それがどのような教育的機能を果たすかなどという研究は行なわれなかった。     227
          2 読解教材研究の考え方
          第5章 読解教材研究の科学的方法
 読解教材の研究は、まず、その本質的な研究として、人間形成の機能の研究、能力形成の機能の研究の二側面を持  228
っている。

(2) 読解教材研究の観点

(1) 本質的な研究――人間形成の機能の研究、能力形成の機能の研究
(2) 学習者との関連の研究――児童・生徒の学習能力との関連について研究する。児童・生徒の興味・関心・必要、
 児童・生徒の能力の実態との関連について研究する。
(3) 学習指導との関連の研究――学習指導過程との関連、指導法との関連、 練習との関連、 技能の学習との関連な
 ど、学習指導との関連について研究する。
(4) 単元の目標・内容との関連の研究――単元の目標との関連の研究、学習内容との関連の研究等の研究をする。


       3 読解教材の見方・考え方−文章観


(1) 文章の見方・考え方

l 構造的全体――意味機構
 次の文章について考察してみる。
「雨が降ってきました。待ちこがれていた雨です。
 これで、かわききっていた地面もぬれて、ほこりもおさまるでしょう。空気もしめりけを帯びてくるでしょう。も
う、流感もこれ以上ひどくなることはあるまいと思います。
 ほんとうに救いの雨です。慈雨というのはこういう雨のことをいうのでしょう。」
 この文章で、「雨が降ってきました。」と読んでも、これだけでは、両が降ってきたという以外は、その深い意味
はわからない。ところが、よく世間には、すぐに「雨が降ってきました。」というセンテンスを読ませただけで、「さ
あ、どんな雨でしょう。」「どんな雨が降ってきましたか。」といって、どんな雨か推測させたり、その雨の降る状態
だとか、それについての感想だとか、イメージを描かせるとかいったことをさせる。そういうことが、どんなに意味
のないことであるか、また、そんな思考・想像の遊びをさせていたのでは、文章の理解は進まないことが、だんだん
文章を読み進めていくとわかってくる。
 「雨が降ってきました。」それはどんな雨かということは、「待ちこがれていた雨が降ってきました。」とあるから、
前から待ちこがれていた雨だということがわかる。しかし、それ以上のことはわからないが、最初の「雨が降ってき
ました。」という文の意味が少しはっきりしてくる。つまり、ばくぜんとしていて、とらえどころのなかった意味が、
抽象的な意味が、制約されてくる。少し具体化されてくる。前のセンテンスは、そのあとの文によって意味を限定さ
れる。前の文は、それに続くあとの文を呼び起こす。こうして、文は相互に限定され、限定し、制約され、制約しな
がら意味を組み立てていく。文脈を作っていく。
 次に、「これでかわききっていた地面もぬれて、ほこりもおさまるでしょう。空気もしめりを帯びてくるでしょう。
もう流感もこれ以上ひどくなることはあるまいと思います。」ここまで読んでくると、始めの「雨が降ってきました。」
という文の意味がもっと明確になり、さらに、なぜ待ちこがれていたのかもはっきりわかってくる。さらに、ほっと
した人々の気持ちまでも感じられてくる。喜んでいる情景・イメージまでも構成されてくる。            229
          3  読解教材の見方・考え方――文章観
          草5章 読解教材研究の科学的方法
 さらに、「ほんとうに救いの雨です。慈雨というのは、こういう雨のことをいうのでしょう。」と読んでくると、  230
はじめて、「雨が降ってきました。」あるいは、「待ちこがれていた雨が降ってきました。」という個々の文の意味
が明確に、しかも深いところまでわかってくる。同時に強い筆者の感動も感じられる。
 このように、個々の語の意味、文の意味は相互に関連し合い、制約し合って、有機的に総合的に結びついて一つの
全体的な機能的な仕組みを持っている。あとの文は前の文を受けて、その意味を限定したり、充実したり、発展・展
開させたりしながら、まとまった意味を表わしていく。しかも、それらは常に書き手が知らせようとし、訴えようと
する意味によって統制されている。
 「雨が降ってきました。」という意味を限定したのは「待ちこがれていた雨が降って一きました。」であった。そこに
書き手の思考の発展がある。この発展・展開の底に一貫して流れているもの、その流れを統制するもの、それがいわ
ゆる文脈である。文脈を支配する意図である。「主題の予見」ということも、やはり個々の文に即して読んでいきな
がら、それがどのように発展するかということを、文脈によってだんだんはっきりさせていく。そこに読みがある。
 文章は、主題によって統制されている有機的全一体であると言われるが、まさにそのとおりである。決して、個々
の語が寄り集まって文章を成しているものではない。語を貫き、文を貫き、段落を貫いている一つの意味、書き手が
読み手に訴えよう知らせようとする意味があって、それを中心にして有機的に結合しているのである。
 文章の表わす意味は、こういう機構を持った全体である。
2 意味機構と文章構造
 構造的全体としての文章、その全体を組み立てている分節としての意味のまとまりを考えてみよう。
 最初に、「雨が降ってきました。待ちこがれていた雨が降ってきました。」には、「待ちこがれていた雨が降ってき
た。」ということがらと、雨が降ってきた安心感と喜びの気持ちが表わされている。それが一つの意味のまとまりと
なっている。次は、前の意味のまとまりを受けて、「これで、かわききっていた地面もぬれて、ほこりもおさまるで
しょう、空気もしめりけを帯びてくるでしょう。流感もこれ以上ひどくなることはあるまいと思います。」となって
いる。最初の段落を受けて、「雨で地面も空気もしめりけを持ったから流感もこれ以上ひどくはなるまい。」という
ことがらともう大丈夫だという安心感が表わされている。また、雨の降る前の自然の状態や人の気持ちが想像される。
「待ちこがれていた雨」のあとを受けて、待ちこがれていた心の状態を想像させながら、筆者の感動がこめられてい
る。この大きな意味のまとまりが、また、一つの段落となっている。
 最後に、「ほんとうに救いの雨です。慈雨というのは、こういう雨のことを言うのでしょう。」第一段、第二段と
発展してきた意味が高潮してここで最終的のまとまりとなる。雨への感謝・感動となっておさまっていく。
 第一の段落は、雨が降ってきたことを知らせる段落、紹介する段落、第二の段落は、第一段落を受けて、雨が降っ
たあとの状態を述べ、第三段落は第二段落を受けて結び、雨への感動を述べている。
 この文章の形式上の構造は、この文章の意味の構造と一致している。このことから、文章の形式上の構造は、内容
の構造、意味の構造と切り離して考えることはできない。形式段落と意味段落とに分けて、文章の意味上の構造と形
式上の構造とを別個に考える文章観は私は正しくないと思う。意味構造の単位をどこに求めるかによって、小さな段
落にも、大きな段落にもなる。
 (1) 馬のこと (2) 牛のこと (3) ぶたのこと (4) ライオンのこと (5) とらのこと (6) ひょうのことが書い
てある文章がある。それぞれの動物についての知識が述べてあって、動物ごとに段落が別れている。この場合、意味
構造の単位をそれぞれの動物についての知識とすれば、六段落の文章になる。ところが、意味構造の単位を家畜と野  231
          3 読解教材の見方・考え方−文章観一
          第5章 読解教材研究の科学的方法

獣にすれば、二つの大きな段落となる。このように文章は、意味の構造を持った、いわゆる構造的全体であり、それ  232
が、そのまま文章の形式的構造となっている。
 一時ジャーナリズムにさわがれ、現場教師が飛びついて行った読解のプログラム学習が、意外にも読解指導法とし
て発展しなかった理由もそこにある。もちろん、プログラム学習の本質的な考えはりっぱなものである。今後大いに
取り入れなければならない。要するに、個々の文を個々の文として、言いくだいたり、説明をしたり、考えたりさせ
ても、それでは思考は発展しない。伸びていかない。

(2) 文章の機能と形態との相関

 文章は、有機的、構造的全一体である。そこで、全一体としての形態を持っている。次に、その形態と文章の機能
との関係を考えてみる。
 一般的に言って、機能と形態・構造とは切り離して考えることはできない。 機能と構造とを切り離して考えるか
ら、形式段落と意味段落などという考えが出てくるのである。 機能と形態・構造との相関を考えてみると、形態は
「体」、機能は「用」である。機能は構造によって保証され、構造は機能によって規定される。
 新聞のニュースは、ことがらや事件を、早く、正確に、客観的に知らせるという機能を持っている。ところが、そ
のような機能をじゅうぶん働かせるには、普通の形態の文章ではうまくいかない。普通の文章の形態では、ニュース
記事の機能をじゅうぶんに発揮できない。そこで、見出し・要約・本文という、ニュース記事の機能が発揮できるよ
うな文章形態となった。つまり、機能が発揮しやすい形態に変えていく。
 集団思考についても、その機能を果たすためには、話し合いという言語活動の形態をとる。さらに、集団思考の機
能を発揮するためには、いっそう意見を述べやすくしなければならない。そのために、会議法にのっとった会議とい
う言語活動の形態を生み出した。
 一般に、文章は、その機能を発揮しやすいような形態を取る。日記・記録・報告・意見・詩・物語などについて考
えてみると、そのことがよくわかる。

(3) 読む目的、文章の機能と読解

 文章を以上のように考え、理解すると、読解は、文章の種類や形態に応じて行なうべきものでないことがよくわか
る。読解は、ことばの機能に即した目的に応じて読む。文章の機能に応じて読むことである。目的に応ずる読解、機
能に応ずる読解が自然な読みである。


       4 読解教材研究の方法

 次に、読解教材研究の手順・方法等について具体的に考えてみる.

(1) 教材

1 単元テレビ(六年)  教材 「テレビと社会」
 地球はだんだんせまくなってきた――という意味は、もちろん、わたしたちの住む地上がせばまったというのでは
ありません。交通機関や通信機関がめざましく発達したので、世界の人々がかんたんに行き来できたり、自分の考え  233
          4 読解教材研究の方法
          第5章 読解教材研究の科学的方法
や意志を、直ちに伝え合えるようになったという意味であります。                        234
 ところで、わたしたちが一度におおぜいの人々に意志を伝えるのには、いろいろな方法を使います。まず、新聞や
ざっしによる方法ですが、これは新しい印刷術が発明され、教育が行きわたってからは、 急速に発展しました。 ま
た、第一次大戦後――1920年代のはじめから、えい画やラジオによって、考えを伝える新しい方法も用いられる
ようになりました。ところがその後、えい画の持つ長所と、ラジオの持つ長所とを兼ね備えたテレビジョンが発明さ
れ、最近ではさかんに利用されるようになってきました。
 では、テレビは一体、どんな特性を持っているのでしょうか。
 第一にあげられるのは、テレビを見ている人々に、事件をそのまま同時に伝えられるということであります。たと
えば、国会のテレビニュースを見ていれば、今、国会で行なわれていることが、手に取るようにわかります。また、
スポーツ放送なども、はるかに遠い土地にさえ、その場に臨んで見ているのと同じような楽しみが得られます。数年
前までほ、テレビでは、過去のできごとは、いったんえい画のフィルムに直して保存するという方法しかなかったの
ですが、今でほ、わざわざフィルムに取り直さなくても、ビデオテープなどが発明されたために、一度放送したもの
を、すぐにそのまま何回でも放送することができるようになりました。
 第二には、テレビがあれば、えい画やげき場や音楽会へ行って、見たり聞いたりしなくても、家で、小人数、ある
いはひとりで、静かに楽しむこともできます。
 第三には、目で見ながら、耳から解説を聞くという特徴を生かして、教育や宣伝には、大きな効果をあげることが
できます。
 テレビはこのように新聞やラジオと比べて、社会に対して、はるかに強いえいきょう力を持っています。その上、
カラーテレビが、ふつうのテレビと同じくらいに実用化されたら、その力は倍加されるでありましょう。
 しかし、多くの放送局から同時にいろいろなプログラムが送られてくるので、聞き手が自由にスイッチを切りかえ
れば、一日じゆう、いつでも、何かを聞くことができるために、テレビを見ていて、夜おそくまで起きていたり、仕
事が手につかないということになりがちです。また、一つのことをじっくり考えたり、それを判断したりする習慣が
だんだんなくなっていくのではないかという心配もあります。
 このようにテレビは長所と短所とを持っていますが、もはやわたしたちの考えも及ばない速さで、社会生活のすみ
ずみにまでそのえいきょうをおよぼすことになるでしょう。それは確かに、社会が発展していく上の大きな力となる
でしょうが、しかし、わたしたちほつねにテレビもその利用のしかたを誤ると、かえってわたしたちの教養や考え方
のうえに、大きな害をあたえるおそれがあるということをわすれてほなりません‥


(2) 教材研究の方法

l 単元の目標、内容と教材
 ここでは、教材は、単元のどんな目標をになっているか。どんな学習内容を含んでいるかなどについて考えてみる。
(1) どんな目標をになっているか――テレビと社会との関係についての知識・理解を深めるための教材。
(2) どんな学習活動のための教材か――読解教材・知識教材(読解して知識・理解を深める文章)
(3) どんな学習事項を含んでいるか――態度・技能・知識。
 ア 知識を求め、理解を深めようとする態度。問題を発見し、問題を解決しようとする態度。
 イ 段落の要点を読み取る技能。要約する技能。要旨を読み取る技能。                     235
          4 読解教材研究の方法
          第5章読解教材研究の科学的方法
 ウ 文字(意思、発展、兼ねる、臨む、得る、過去、保存、宣伝、効果、判断、誤る)、語句(省略))、文法(そう
  です、のです、ところで、では、しかし、このように、その他文型・文について)、表記(おおぜい、異なる、
  再び、上がる、下がる、受け持つ)など。
2 人間形成の機能の研究
 ここでは、教材の題材、内容的価値等について考える。なお、教材で学習することによって間接的に身につく価値
も考えておく必要がある。
(1) この教材の内容的価値(要旨)――「テレビの社会生活に与える影響をよく理解して、その利用のしかたを誤ら
 ないようにすべきである。」テレビと社会との関係について理解し、その考えをはっきりさせる。
(2) この教材の内容的価値の構造――この教材の内容的価値は、次のような構造を持っている。

 ここでは、特に文章の内容的価値がどのような仕組みを持っているかを明確にする。このことは、読み手に理解さ
せることを明確にする、文章の要旨を正確に明らかにつかむ、発問を構造化する基礎となる、主題や要旨の展開・論
理が明確になる、文章の意味構造が明らかになる、などのことに役立つ。
(3) 内容的価値と児童
 ア 題材に対する興味・関心・必要
 イ 内容的価値に対する興味・必要
 ウ 内容的価値の理解
 つまり、題材・内容的価値に対する児童・生徒の関心、興味の程度、学習の生活的必要度、教養的必要度等を考え
て明らかにする。これは学習の基盤となる重要な点である。この場合・単に関心や興味がある、学習の必要を感じて
いる程度ではだめである。それを手がかりとし、契機として、内面的な欲求、学習の積極的な意欲にまで高めなけれ
ばならない。
 なお、題材・価値がいかに興味のあるものでも、それが児童生徒の能力に合っているものでなければならない。
学習できるもの、理解可能のものでなければならない。知ろうとする興味・欲求と、それについて話そう、書こうと
する興味の間にはかなりの開きがある。要するに、題材・内容的価値に対する興味・必要・能力等を明らかにしてお
く。
(4) この教材で学習する場合、間接的に身につく価値――この教材の学習によって次のような価値が身につく。
 ア 筋道を立てて考える力。
 イ 社会的な問題に対する興味。                                      237
          4 読解教材研究の方法
          第5章読解教材研究の科学的方法

 ウ 科学的な物の見方・考え方。                                      238
 一般に、教材に内在する価値は、何かについての知識・理解・情報・思想・心情・経験・感覚等、人間性の開発伸
長に役立ったものである。それらは、文化的価値・芸術的価値・遺徳的価値・社会的価値・科学的価値等である。そ
こで、この教材に内在する価値は何か、それはどんな仕組みを持っているか、児童・生徒の人間性の開発にどのよう
に役立つかなどについて研究考察するのである。
3 能力養成の機能の研究
 ここでは、主として、この教材によって、どんな読解の態度・技能・言語要素等が学習できるか、また、それに対
する児童・生徒の学習能力の実態はどうなっているかなどについて考える。もっと具体的には、この教材のここの部
分で、このような読む活動をさせれば、このような技能が習得されるというように、教材に即して明確にする。
(1) 読解の態度−教材に立ち向かう(読む)児童の心的な構えについてどんな学習ができるか、どんな態度を身につ
 けさせるか等について考える。
 ア テレビと社会との間にはどんな関係があるのだろうか。
 イ テレビと社会との間にある問題はどう解決したらいいのだろうか。
 ウ どんな筋道を立てて述べているか。
 エ どんな意見が述べられているか.
 などの疑問・問題・論理・要旨等を中心にして次の態度を指導する。
 ア 疑問を明らかにしようとする態度――知的態度
 イ 問題を発見し、解決しようとする態度――創造的態度
 ウ 筋道を立てて考え読んでいく態度――論理的態度
 エ 自分の意見と比べながら読む態度――批判的態度
(2) 読解の技能
 ここでは、学習指導過程との関連において、いつ、どこで、どんな技能を養成するかを考える。
 ア 要点を読み取る技能
  (ア) 要点を読み取る技能はどこで養成するか。――「第一にあげられるのは……効果をあげることができます。」
   「しかし、多くの放送局から……心配もあります。」の部分で次のような学習活動によって要点を押えて読む
   技能を養成する。
  (イ) 要点を読み取る技能はどんな学習活動によって養成するか。次の課題によって学習する。
   @ テレビはどんな特性を持っているか読み取って個条書きにしてみよう。
    この課題による学習によって次のようにまとめる。
    ○テレビは見ている人々に事件をそのまま同時に伝える。
    ○えい画やげきや音楽などを家で楽しむことができる。
    ○教育や宣伝に大きな効果をあげる。
   A テレビは見ている人にどんなえいきょうをあたえるか個条書きにしてみよう.
 イ 要約する技能
  (ア) 要約する技能はどこで養成するか。
    要約することはなかなか困難であるから、まず、段落を要約する、文章全体を要約するの順序で学習する。  239
          4 読解教材研究の方法
          第5章 読解教材研究の科学的方法

   また、段落の要点を読み取ってから、それに基づいて要約する学習を計画する。したがって次のような学習活  240
   動を通して要約する力を育てる。 第一段落・第二段落の要旨を読み取る。 段落の要点・要旨を読み取ったの
   ち、文章全体を要約する。
  (イ) 要約の技能はどんな学習活動を通して養成するか。
   〇第一段落で、筆者はどんなことを言おうとしているのか、まとめて言ってみよう。(第一段落で、わからせ
    ようとし、訴えようとしていることは何か。)
   〇第二段落で、筆者はどんなことを知らせようとしているのか、それを短くまとめて書いてみよう。
  上の学習活動を通して、段落の内容を次のようにまとめる。
   第一段落――「交通機関や通信機関が発達して、世界の人々がかんたんに行き来し、直ちに考えや意志を伝え
    合うことができるようになった。」
  これをさらに、次のように要約する。
   「地球はだんだんせまくなってきた。」
   第二段落――「一度におおぜいに意志を伝えるには、新聞やざっ誌・えい画やラジオによっていたが、最近は
    テレビジョンが発明され、さかんに利用されるようになった。」
  これをさらに、次のように要約する。
   「最近は一度におおぜいに意志を伝えるために、テレビジョンを利用するようになった。」
 ウ 要旨を読み取る技能
   この教材では、最後の段落で要旨を結論的に述べている。まず筆者が特に、読者に訴えたいことはどの段落に
  書いてあるかを読み取らせる。次にその段落の内容を要約すれば、この文章の要旨が求められる。そこで、要旨
  を読み取る筋道を教材に即して明らかにしておく。
  (ア) 世界がせまくなってきたこと。
  (イ) 遠くの人々が考えを伝え合うのにテレビを用いるようになったこと。
  (ウ) テレビには長所があること。
  (エ) テレビには短所もあること。
  (オ) テレビは社会の進歩に役立つものであるから、その使用のしかたを誤らないこと.
  この序論・本論・結論の筋道を明確に押えておく。
(3) 言語要素(文字・語句・文法・表記)
  この教材について学習する文字・語句・文法・表記等を明らかにする.それを学習指導計画・学習指導過程の中
 にはっきり位置づけておく。漢字の読み方はいつ・語句の学習はどんな語句を、いつ、どこで、文法の学習はなに
 を、いつ、どこでというように。
 ア 文字負担――教材の総字数に対する読めない字数の比率が、文字負担率である。この文字負担率が高すぎれば
  学習は困難になり、読みの不振児を作る。一ページ当たり読めない文字、二字ぐらいが適当な文字負担であると
  言われている。文字負担は、いわゆる新出漢字、読み替え漢字だけでなく、すでに学習した文字についても読め
  ないものがあることに注意する。
   この教材の文字負担は、教科書四ページ分の一二字で、一ページ当たり三字である。
   文字負担の実態を調べて、 負担が多ければ、 文字学習の方法をくふうして、特別措置を講ずる必要がある。  241
          4 読解教材研究の方法
          第5章 読解教材研究の科学的方法
 イ 語い負担――語い負担も文字負担と同じで、負担が多すぎれば学習が困難になる。それがあまりに多すぎれば
  教材として適切でないことになる。
   この教材の請い負担は教科書四ページ分の一二語ぐらいで、一ページ当たり三語になる。この教材で特に指導
  すべき語句を選んで、その指導法、指導の機会を考えておく。
 ウ 文法
   特色のある語の用法、文型、意味の取りにくい長いセンテンス、意味をとりちがえやすい文、意味のあいまい
  な文、また、読解を深めるための語句・文法の指導など、また、送りがな・かなづかいなどについて指導すべき
  ものを明らかにしておく。いわゆる機能的な文法について学習する。たとえば、
  ○わたしたちが一度におおぜいの人々に意志を伝えるのにはいろいろな方法を使います。(主語・述語の呼応。
   意味があいまい)
  ○新しい印刷術が発明され、教育が行きわたってきてからは、急速に発展しました。(主語の省略)
  ○しかし、多くの放送局から同時にいろいろなプログラムが送られて来るので、聞き手が自由にスイッチを切り
   かえれば、一日じゆう、いつでも何かを聞くことができるために、テレビを見ていて夜おそくまで起きていた
   り、仕事が手につかないということになりがちです。(長いセンテンス。意味がわかりにくい。……たり、…
   …たり、など)
  などが取り上げられる。文法学習の内容は指導計画に基づいて、各学年に配当された文法事項について、教材に
  即して、具体的に系統的に取り上げる必要がある。
   一般に、文字・語句・文法については、特に繰り返し練習する必要があるので、その提出頻度を明らかにする
  必要がある。その際各教科書会社が作成する、その教科書の語い調査、漢字調査等を参考にするとよい。漢字に
  よっては六ヵ年間を通じて一回しか提出されないというのもある。語いにもこれが年間を通じ僅か一回しか提出
  されないものが半数以上もある。そこで、教材研究の際、それらの実態を明確に押えておく必要がある。
4 文章の研究
 ここでは主として次のことを明らかにする。
 ア 文章の構造――文章はどのように構造的に展開されているか、段落相互の関係はどうなっているか、ことがら
  とことがらの関係はどうなっているかなど。
 イ ことがらの表わす意味の構造はどうなっているか、意図はどのような構造で述べられているかなど。
 ウ 論理はどのように展開されているか、思考の過程はどうなっているかなど。
(1) 文章はどのように構造的に展開されているか。
 ア この文章は、「漸層的尾括型」をとっている。つまり、「地球はだんだんせまくなってきた。」という問題提
  起に始まって、「思想交換」の問題を発展的に提示し、「テレビ」を紹介し、その「長所・短所」を述べ、「社
  会的影響」を説き、最後に結論として「利用のしかた」を誤るなと説いている。このように、漸層的に論旨を展
  開して最後にまとめる漸層的尾括型の文章となっている。
 イ ことがらはどのような仕組みをもって述べられているか。(読み取ることがら)
  ことがらはどんな筋道を立てて述べてあるか。(読み取って考えること。論理の展開、思考過程)        243
          4 読解教材研究の方法

段落 ことがらの関係  輪理の展開 
1 
地球はせまくなってきた。

 ○交通機関・通信機関がめざまし
  く発達したので、

世界の人々が、

 ○簡単に行き来できたり、
 ○考えや意志を直ちに伝えあえる。 

 地球はせまくなってきた。 
        |
        |
 (だから)  |
        |
        ↓
 簡単に行き来でき、考えや意志を直 
 ちに伝えあえる。
        |
        |
        | 
 ところで   
 一度におおぜいに意志を伝える。 
 (まず………)|
        |
        |
        |
 (また………)|
        |
        |
 (ところが…)↓
 テレビジョンをさかんに利用する。 
        |
        |
        |
        |
        |
        |
        |
 では     ↓
 テレビジョンはどんな特性を持って
 いるか。 
 (テレビジョンの長所)
 第一……   |
        |
 第二……   |
        |
 第三……   |
        |
        |
        |
        |
        |
        |
        |
 このように  ↓
 社会に対して強い影響力を持ってい
 る。 
        |
        |
        |
        |
        |
 しかし    ↓
 (テレビジョンの短所)
 夜おそくまで |
 起きている。 |
 仕事が手につ |
 かない。   |
 じっくり考え |
 判断する習慣 |
 がなくなる。 |
        |
        |
 このように 
 社会生活にえいきょうをあたえる。
 社会が発展していく大きな力となる。 
        |
 (しかし)  ↓
 利用のしかたを誤ると教養や考えの
 上に
 大きな害悪をあたえるおそれがある 
   
2  ところで
 一度におおぜいの人々に意志を伝える。
 (まず)
  ○新開やざっ誌による方法
   新しい印刷術が発明され\
               急速に
               発達した。
   教育が行きわたって  /
 (また)
  ○えい画やラジオによる方法
 (ところが)
  ○テレビジョンがさかんに利用される。
   えい画の持つ長所\
            兼ね備えた。
   ラジオの持つ長所/ 
3  では

 テレビはどんな特性を持っているか。
 第一 事件をそのまま同時に伝える。
  ○国会のテレビーニース――手にとるよ
   うにわかる。
  ○スポーツ放送――その場に臨んで見て
   いるのと同じ。
  ○ビデオテープの発明に――何回も放送
   できる。
 第二 えい画館・げき場・音楽会へ行かな
  いで、家にいて静かに楽しめる。
 第三 教育や宣伝に大きな効果をあげる。 
4  このように

 新聞やラジオに比べて社会に対してはるか
 に強い影響力を持っている。
 カラーテレビが実用化しその力は倍加され
 る。
5  しかし
  ○多くの放送局からいろいろなプログラムが
   送られてくる。
  〇一日じゆう、いつでも何かを聞くことがで
   きる。
  ○夜おそくまで起きていたり、仕事が手につ
   かない。
  ○じっくり考えたり、判断したりする習慣が
   なくなっていく。  
6  このように
  ○長所と短所を持っている。
  ○社会生活のすみずみまでえいきょうをお
   よぼすことになるでしょう。
  ○社会が発展していく上の大きな力となる
   でしょう。
 (しかし)
  ○テレビジョンの利用のしかたを誤るとわ
   たしたちの教養や考えの上に大きな害を
   あたえるおそれがある。 

 備考 これは知識教材の研究の例である。文学教材の場合と、本質的には同じであるが、多少異なるところもある。知識教
   材では、文章展開の型、ことがらの関係(読み取るべき事項)、論理の展開、段落相互の関係などを中心に研究する。
   文学教材では、作品の展開の型、ことがらの関係、意味の構造(心理の変化、場面の変化、主人公の心理・心情、心的
   過程)、構造の展開、主題の構造、価値の構造、表現のすぐれているところ、などについて研究する。


5 学習指導との関連の研究
(1) 児童・生徒の実態との関連、教材の題材や価値に対する児童・生徒の関心・興味・必要等について、その実態を
 明らかにする必要のあることはすでに述べたとおりである。また、題材・価値に対する児童・生徒の理解・意見・
 感想・経験等について調査し考察して、その教材をどう扱ったらよいかを判断することもたいせつである。
(2) 児童・生徒の学習能力との関連
  その教材によって学習する場合、どんな国語の能力を養成するかは、あらかじめ教材に即して考えられることで
 あるが、そこで学習すべき国語の能力に対して、実際に児童・生徒が身につけている能力はどうなっているのかを
 明らかにしておかなければならない。
  たとえば、学習事項として、 要点を押えて読む技能を養成しようとするとき、 その学級の児童・生徒はどの程
 度、要点を押えて読む技能を身につけているのか、それについてこれまでにどんな学習をしたかなど、学習能力の
 実態をとらえなければならない。
(3) 単元の指導計画との関連
  この教材の学習に要する時間数、読解教材として扱うか、復習教材として扱うか、読書指導の教材として扱うか
 などについて考える。また、第一時の取り扱い、第二時の取り扱いなどにおける学習内容の配分について考える。  247
(4) 学習指導過程、学習形態との関連
          4 読解教材研究の方法
          第5章 読解教材研究の科学的方法
  教材研究の結果に即して指導過程を編成する。そのときどんな学習指導過程をとるかを具体的に考えてみる。た
 とえば、第一時にはこの文章の内容あるいは主題を直観的に読み取る全体的な学習を計画する。第二時には、この
 教材のこういうところを分析的に読解する。第三には、分析的に調べたことを体制的に読んでまとめる。
  また、この教材では、どんな学習形態を取ることが適切であるかを考える。グループで学習するのがいいか、プ
 ログラム学習によるのがいいか、あるいは問答法によるのがいいかなどを考える。
5 教材研究表の作成
  以上教材研究の各項目を含めた教材研究表を作って、その結果が一覧できるようにまとめると便利である。
 (1) A 表

  教材名   〇      〇     〇 学年・単元   〇年 〇〇〇〇
 学習時間  〇 時間
 展開の型  こ と が ら の 関 係  論 理 の 展 開  学 習 事 項
態度・技能  言語要素 
文章の展開
の形、段落
相互の関係、
主題の展開
の型など。 
書かれていることがら
と、その相互関係など。 
論理の展開、論旨
を進める筋道など。 
この教材の学習
を通して身につ
ける態度・技能。 
文字・語句・文法・
表記等に関する事項
など。 

 (2) B 表

展開の型  書かれているこ
とがらの関係 
意味の構造  主題の展開  学 習 事 項 
身につく態
度・技能 
身につく
ことば 
主題の展開
の型 
ことがらの仕組
み。 
ことがらの表わ
す意味の仕組み。 
主題の仕組み、
文脈の展開、心
的過程など。 
態度・技能を具
体的に。 
いわゆることば
に関する事項 

 (3) C 表

段落の関係  ことがらの関係  考えの筋道  ことがら(価
値)の仕組み 
学習することがら 
態度・技能  ことば 
段落とその
相互の関係 
読み取らせるこ
とがら。 
読み取って考え
させる筋道、書
いてある順序・
展開。 
知識・思想・価
値等の構造。 
技能を段階的
に。 
ことばの用法、
機能的なこと
ば・文型。 

 A・C表は知識・情報教材の研究のまとめに、B表は、文学的教材の研究のまとめに用いるとよい。項目の立て方
は適宜くふうする。いちど作成した表は、授業の結果に基づいて修正を加えて、しだいに使いやすく、正確なものに
していく。児童・生徒に与える学習用紙、学習のプログラム、評価事項、 テスト問題の作成等にも活用する。 指導
法・指導過程・指導技術のくふうの基礎にすることはいうまでもない。                      249
          4 読解教材研究の方法
          第5章 読解教材研究の科学的方法
                                                      250
(3) 知識・情報教材研究表

l 知識教材研究表(小学校)
 新潟県新津市立新津第一小学校の教材研究表と、それに基づく学習指導過程の編成表を次に示す。この学校では、
このような綿密な教材研究表とその学習指導過程表を作成している。
  第一学年 教材研究表 教材「くじらとぞう」

のべられてい
る順序 
読みとらせること  おさえさせる文やことば   おもな指導事項
身につけさせる
能力 
身につけさせる
ことば 

○くじらとりが
おこなわれてい
ること。
○くじらはさか
なではないこと。



○くじらは大き
い動物であるこ
と。 
・遠い南の海では、
くじらとりの最中で
ある。
・くじらは赤ちゃん
を生んで、おちちを
のませるので、さか
なではなく動物であ
る。
・くじらはいちばん
大きい動物である。

 
    とおいとおいみ
くじら\なみのうみ
とり /いま――さいちゅ
    う
くじら――さかなではない。
 ・たまごをうまないで
  あかちゃんをうむ。
 ・おちちをのんで大き
  くなる。
くじら−いちばん大きい
 どうぶつ。
 りく―ぞう
 うみ―くじら
 くじら―ぞう二五ひき
 ぶんくらい。 
・何が書いてある
か考えながら読む
こと。 
語法
とおい・おもい
みなみの……
−ですが |
−より  |
ずっと   > 比較
いちばん |

語句
 さいちゅう
 りく 

   上の教材の学習指導の計画――学習指導過程を次のように編成している。

時間 学習目表 学習活動   
目的  計画  追求  獲得 

時 
単元を概観して、
学習目的と計画を
決め、「くじらと
ぞう」の文章を読
んでだいたいがわ
かる。 
単元「ふゆの
はなし」の学
習目的や方法
を考えること
を決める。 
○さし絵を見たり
話し合いをしたり
して勉強していく
ことを決める。
〇「くじらとぞう」
の文章を読んでわ
かったことを話し
合う。 
○単元を概観し話
し合う。
〇「くじらとぞう」
を読んで、だいた
いを読みとる。
○読みとったこと
を話し合う。 
単元の学習目
的を確認しな
がら「くじら
とぞう」の全
文を読む。 

時 
「くじらとぞう」の
文章を読んで、く
じらの生活の珍し
い点を中心として
まとめて読みとる。 
○くじらとぞ
うのことが、
詳しくわかる
ように読むこ
とを確かめる。 
きのう調べたカー
ドにより、順に調
べていくことを決
める。 
〇「くじらとぞう」
を読む。
○詳しく調べる。
○読みとったこと
をまとめる。 
内容を確認し
ながら全文を
読む。
 

                                                      251
          4 読解教材研究の方法
          第5章 読解教材研究の科学的方法
2 教養教材(論説教材)の研究表(中学校)                                252
 次の教材研究表は、東京都中央区中学校国語教育研究部の矢尾板譲さん(紅葉川中学校教諭)が中心になって作成
されたものである。教材は、読売新聞社説「外国人に接するには」である。
 「地球はせまくなり、国際間の交流は年々ふえてくる。日本から海外へ出かける者が増大するいっぽう、外国から
の訪問者も多くなってくる。外国人の長期滞在者もふえ、東京などでは地下鉄や国電を利用する外人も多い。 そし
て、外人のなかには車内で日本人の老人や婦女子に、自分の席を譲っている人もみかける。日本の若い人々が、そう
いうことに無関心でいることが多いのと比べて、なんとなく恥かしい気持ちにさせられる。
 これは単なる一例である。欧米諸国からすれば、日本は特殊な風俗習慣を持つ国である。しかも、この伝統なり習
慣の一部は、日本固有の風俗や生活慣習として、よいものもあるが、非近代性の残存として是正していかなければな
らぬものもある。市民としての連帯感に乏しく、知人には必要以上に車内の席を譲る反面、知らぬ人には、老人や子
どもづれの婦人でも立たしたままでいる。路上に平気でたんをはき散らす。こうした環境の中で、今後外国人の来訪
も増加することが見越されるので、外国人にどのように接するかの問題が論議されるようになっている。
 一般に外国人に接する方法として、語学の練習とか、行儀作法の訓練とかいったものが行なわれている。それもも
ちろん必要だが、根本的には、外国人をどのように受け入れるかという考え方を確立するほうが先である。これを永
続的な日本の友人として受け取るのか、一時的な顧客で、利益の対象としてみるのか、それによって扱い方、したが
ってまた、接し方も大いに違ってくるだろう。率直に言って、日本の一般大衆にとっては、外国人は風習の相違や言
語もまた、外見上の相違からして、親しめない存在であり、ただ好奇心からこれを一歩退いてながめているというこ
とが実情である。友人として接するのは知識層の一部であるし、単なる取り引き相手としてみているのは一部の商業
関係者に過ぎない。しかも、いっぽうでは欧米人に対する劣等感が、ぬぐいさられていないので、一部の日本人は必  253
要以上なへつらいをもって接している。これに反して、利益を得ようとする者の一部は、これまた、逆の意味であく
らつであり、日本の信用を落とすような詐欺行為を平気で行なうといったぐあいで、中庸を得た接し方はほとんどな
い状態である。それゆえ外国人をどのように扱うかという心構えを、このさいまず確立する必要があるだろう。
 今日、われわれは、国際社会の一員として新しい日本の建設に進もうとしている。あらゆる国との善隣友好こそ、
われわれの進路でなければならない。われわれの外国人に対する理解、また、外国人の日本に対する理解を深めるこ
とが、現在のわれわれにとってたいせつであることは疑いない。まったく、外国人をもっと受け入れ、自国にあるよ
うに快適にさせ、日本に親しませ、二度三度日本を訪れたくなるようにさせたいものだ。それが友好に役立つからで
ある。そのためには、外国人を好奇の目をもってながめることなく、進んで近づき、親切と誠意をもって接しなけれ
ばならない。卑屈であることはいけないが、同時に非礼であることもよくない。お互いに手をつないで、平和を目ざ
す国際社会の一員として、おなじ人間として、同じ水準で交際することが必要である。
 要するに、友人として誠意をもって接するというのが先決で、語学その他は二義的なことであると考えたい。」

  教材研究表「外国人に接するには」(二年)

展開の型   価値の構造   事実関係  事実関係によって
表わされる意味 
学習事項 
身につく能力  身につくことば 
序論
外国人
にどの
ように
接する
かの論
議がさ
かんに
なった
理由 
○国際間の交流がふえ
 る。
車内における日本人
と外国人の相違
特殊な風俗習慣を持
つ日本
日本の風┌よい面 
    ┤是正す 
俗習慣 └べき面 
      ↓
市民としての連帯感 
の欠除 
外国人の来訪がふえる
こうした環境
   ↓
外国人に接し方の論議
起こる
 
○日本から外国へ出か
 ける者
○外国からの訪問者
 長期滞在者
 └―――┬――┘
     増大
     ↓
国電・地下鉄利用
 外国人 |日本人
 車内で老|若い人は
 人・婦女|無関心
 子に席を|
 譲る  |
 連帯感の欠除
     ↓
 ┌知人には席を譲る
 |反面他人には無関
 |心
 └路上にはたんをは 
  く 












はずかしい





困った習慣 
○事実と意見
 とを区別す 
 ること

○文と文との
 相互関係を
 つかむこと
○速く要旨を
 読み取るこ
 と
○文脈の中で
 語句の意味
 を理解する
 こと
○交流
○長期滞在者
○風俗習慣
○非近代性の
 残存
○是正
○市民
○連帯感
○来訪
○しかも
○そういうこ
 と 
本論
外国人
をどの
ように
受け入
れるか
の考え
方を確
立する
必要 
〇一般に…(方法)が行
 なわれる
○根本的には……(考
 え方)の確立
○考え方の相違
 A 永続的…友人
 B 一時的…顧客
○扱い方・接し方の相
 違

日本人の考え方
    ┌ 一般大衆
    | 知識層の
外国人→| 一部
    | 商業関係
    └ 者
しかも一方では
    ┌ 一部の日
    | 本人
欧米人→| 一部の商
    └ 業関係者
中庸を得た接し方が
ない 
     |
それゆえ |
     ↓
外国人に接する心構え
の確立が必要
 
○語学の練習・行儀
○外国人の受け入れ
 外国人に対して
〇一般大衆
 親しめない存在、好
 奇心で一歩退いてな
 がめる
○知識層の一部
 ……友人としてつき
 合う
○商業関係者
 単なる取引相手
 欧米人に対して
〇一部の日本人
 劣等感―へつらい
〇一部の商業関係者―
 あくらつ・詐欺行為 
外国人に接する
心構えの確立が
必要だ







○外国人に対す
 る日本人の悪
 い考え方はよ
 くない 
○文章の構成
 を読み取る
 こと
○早く要旨を
 読み取るこ
 と
○指示語・接
 続語のはた
 らきを理解
 すること
○文の接続を
 理解するこ
 と 
○永続的
○顧客
○率直
○好奇心
○劣等感
○へつらい
○悪らつ
○詐欺行為
○中庸
○しかも一方
 では
○これを
○存在 
結論
外国人
に接す
る望ま
しい考
え方 
○新しい日本の建設
○あらゆる国との善隣
 友好こそ日本の進路
     ↓
 日本人−外国人\
〇         >相 
 外国人−日本人/
 互理解 
○外国人を日本に親し
 ませる 
     ↓
友好に役立つ
○そのために
(改める点)(望ましい
       態度)
好奇心    親切と誠意
卑屈非礼   おなじ人間
       おなじ水準
○要するに
 友人として誠意をも
 って接する。語学そ
 の他は二義的
○外国人をもっと受け
 入れる
○自国にあるように快
 適にさせる
○日本に親しませる
〇二度、三度日本を訪
 れたくさせる 
○善隣友好こそ
 日本の進路

○相互理解がた
 いせつ







○友人として誠
 意をもって接
 しなければな
 らぬ
○段落相互の
 関係をとら
 える


○文章の内容
 を要約する
 こと


○細部に注意
 して読むこ
 と


○読み取った
 ことに対し
 て感想を持
 つこと  
○善隣友好
○卑屈
○非礼
○誠意
〇二義的
○快適
○それが
○そのために
○要するに 

                                                      257

(4) 文学教材研究表(小学校)

 次の教材研究表は、静岡県清水町立清水小学校で作成したものである。この学校は、継続的に国語教育の研究を進
めている。第一年度は、説明的文章の読解指導の研究を、第二年度は文学教材の読解鑑賞指導の研究を行なった。こ
の表はそのおりのものである。研究は綿密で理論的で、特に実践指導法の研究についてはすばらしい成果をあげた。
 この教材研究表は、六年の「アカ」を扱ったものである。たいへん長いので、始めの段落の部分だけを引用するこ
とにする。表の項目は (1) 事実の展開(場所・時)(2) 事実関係(筋 ア子とアカを中心とした事実関係)(3)
心的過程(ア子・アカの気持ちの変化・発展)(4) 発問および学習活動 (5) 学習事項(ことば)となっている。項
目の中に、態度・技能の位置づけがないのは残念である。その代わり教師の発間を構造化して添えている。これで学
習活動が組み立てられるから、技能はその中に含めてあると考えられる。

事実より展開
(場所・時) 
 事  実  関  係
(ア子とアカを中心とした) 
心 的 過 程
(アコ・アカの気
もちの変化展開)
 
 発問および学習活動  学 習 事 項
(ことば)   
(1)
あんずの花も
すももの花も
まださかない
ころ 



ア子ちゃんは
病気でねてい
る。 


アカが飼われ
るまでの経過 

 
(1) P.1




(2) P.2 
   ↑
   |
   |
   |
   |
   |
   |
   |
   |
   |
 場 |
   |
   |
   |
   |
 面 |
   |
   |
   |
   |
   |
   |
(3) P.3
   |
   |
   |
   |
   |
   |
   |
 回 |
   |
   |
   |
   |
   |
 想 |
   |
   |
   |
   |
   ↓
(4) P.4
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(5) P.6
 
ア子ちゃんはジフ
テリヤでねている
はっと目ざめた。―――

   
病気になる五・六日前から

 赤い大きな犬――とき
 どきねていた
  ↑
 |┌毛がむくむく
 ||しているくせ
 ||に
 |├手足はわり
 ||あい細く目は
 ||三角にくぼみ
 ||耳は三角にお
 ||ったち
 └┼あんまりおぎ
  |ょうぎのいい
  |かっこうじゃ
  |ない
  └人を見るとに
   げじたく=の
   ら公 
       ↑
うちのギン 対比
  ↑    ↓
 |┌血統書つきポ
 ||インターのめ
 ||す
 |┼沢田さん(犬
 ||博士)が持っ
 ||てきた
 |└りこうでやさ
 | しい 

 ┌1郎  大得意┐
 |さん  ・ぼく|
 |    のギン|
 |    公  |け
 |おとう 女桃太|ん
 |さん  郎はい|か
 |    らない|
 |ア 子 ひっぱ|
 └ちゃん りだす┘
 おとうさん―病室
   へはいってきた
 (ア子)犬ころしのこ
  とが聞きたくて口を
  もぐもぐ
 「のら犬をかうのは
  はずかしい
  人の愛情を信じない
  根性をもっているむ
  ずかしいアカをかっ
  てごらん」
 ギンにくらべてアカ
 はまがぬけていた→は
 ずかしい気がする
 ずっと大きく強そう
 幸田ア子かい犬アカ
 →ぴかぴかの首輪
   
   
   
→なんだろう(興味 |
     関心)。 |
         |
         |
         |
→よく知っていた |
   (焦点化) |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
うらやましかった犬がほしかった 




(犬一般に対する |
  欲求)     |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
         |
→アカは気が強い |
         |
         |
         |
         |
┌――――┐   |
|赤い犬が|   |
|心配  |   |
└―┬――┘   |
┌―┴―――――┐|
|アカに心をひか||
|れはじめた  |↓
└―――――――┘
  ┌――――――――┐
 ┌|少しつまらない、|
 ||だけども一つだけ|
←||気に入った    |
 |└――――――――┘
 |┌――――――┐
 └|早くよくな |
  |りたかった |
  └――――――┘ 

   
◎アカはどのように
 してア子ちゃんの
 飼い犬になったの
 ですか
○季節はいつですか
○ア子ちゃんはど
 うしていますか
○何がよくわかっ
 たのですか
○赤い犬はどんな
 犬だと書いてあ
 りますか
○アカとギンはど
 うちがいますか
○ア子ちゃんは、
 二匹の犬をどう
 思っていますか
 皆さんはどう思
 いますか
 (アカが飼われ
 る前の経過の筋
 を押える)
○おとうさんはア
 カのことをどう
 思っていますか
○おとうさんはな
 ぜア子ちゃんに
 アカを買ってや
 ったのでしょう
◎飼い始めたとき
 ア子ちゃんはア
 カのことをどう
 思っていました
 か
○アカがうちへ来
 はじめのころと
 くらべてどうで
 しょう 
○おしゃべ
 りなのに
○食べたが
 らない
○談判
○犬とりが
 来た 
○おとうさ
 んしょ
 さい
○近よる
 にげじた
 くする
○犬といっ
 しょ
○血統書
 ついてい
 る
○女桃太郎
○こじつけ
 る
○効能書き
○貧弱
○減る
○根性
○かうの
 やさしい






     第6章 文学指導の近代化




        1 国語科における文学教育の歴史



 小・中学校の国語科における文学教育を歴史的に見て、私は、文学教育は文学経験を指導することであると定義づ
けることが最も妥当だと思う。この考え方によれば、これまでに文学教育について論議されたいろいろな問題点を解
決することができる。また、実際指導に当たっても、学習指導要領にいう経験を広め、心情を豊かにする、いわゆる
人間形成、つまり文学の機能をじゅうぶんに生かすような学習指導が、効果的に能率的にできるからである。
 そこで、(1) 文学教育を歴史的に見て、文学経験の学習を文学教育と考えること、(2) 文学経験の本質、(3) 文
学経験の処理能力、(4) 文学教材のあり方、(5) 文学経験の指導法などについて考えてみたいと思う。

(1) これまでの文学教育――文学における思考・感動の教育から、文学の読み方の教育へ

 文学教育と言っても、ここでは創作や話しことばの文学には触れない。国語科における文学作品を読む学習につい
てだけ述べることにする。
 ご承知のように、戦前の文学教育は、文学教材の持っている思想・感動を子供たちにわからせる、読み取らせるこ
とが中心になって行なわれた。戦前は、国民的思考・感動を通して国民精神を養うことが国語教育の目標であったか
ら、文学教育も、自然に文学作品の内容の教育の面が強調された。しかも、その内容としての思考・感動が、国家主  261
          1 国語科における文学教育の歴史
          第6章 文学指導の近代化

義的な考え方と結びついていた。いわゆる忠君愛国の思想・感情を育てることに力が注がれた。           262
 ところが、戦争が終わると、国家主義的な考え方をぬぐい去る必要から、国語教育から、国家主義に奉仕した内容
の教育を切り離すことが強調された。そこで、国語教育は、国語の内容の教育−内容的価値の教育ではなく、国語の
能力の教育が主であることが説かれ、国語の能力を身につけることが、国語教育の目標であると考えられるようにな
った。ここに、いわゆる技能主義的国語教育が誕生し、言語道具観が世に広まった。
 したがって、文学教育においても、文学価値の問題はほとんど顧みられなくなり、取り上げる作品は、どんなもの
でもよい、優秀な作品でなくてもよい、子供に文学の読み方を教えればよいというような、文学の機能を無視した技
能主義的な文学教育が行なわれた。先年、四国へ行ったとき、ある大学の教授が、文学の機能、文学の価値を強調し
た私の話に対し、何か文学教育の故郷に帰った思いがしたと言った。この県では、文学技術の教育が盛んで、文学価
値を論ずる者は影を潜めた。文学技術の教育が文学教育の本質であるかのように考えられていた。わが意を得た思い
がしたということであった。それほどに、世をあげて文学技術の教育に専念したと言っていい状況であった。
 これに対して、戦後の国語教育は、技術の教育に走ってしまい、人間教育を忘れているという批判が出た。それは
無理のない批判であった。当時は文学の読み方、文学を読む技能の教育が中心であった。また、文学に知的に接近す
る方法がとられた。たとえば、作品のあらすじを読み取る、作品の構成を調べる、主題を知的に理解させる、主人公
の心理の変化を読み取るなど、文学作品を知的に理解させる学習が中心になっていた。
 このように、内容主義の文学教育から、戦後の技能主義の文学教育へと移り変わっていった。戦前の内容主義の文
学教育では、文学の読み方、文学を読むための技能などを計画的に段階的に指導することなどは、ほとんど顧みられ
なかった。戦後の文学教育では、文学形式の教育、文学の読み方、文学を読む技能などの教育に心を奪われている。
文学が本来持っている機能、文学の本質を忘れた、文学の持つ人間性の開発に役立つ面を忘れた文学教育が行なわれ
ている。

(2) これからの文学教育−文学経験の教育、機能的な文学教育

 文学教育の歴史的移り変わりも、ご承知のように弁証法的展開の道をたどっている。内容主義の文学教育、技能主
義の文学教育と移ってくれば、次に二元対立を止揚した、内容と技能を統一した文学教育が現われるのはきわめて自
然である。文学の機能を生かした内容の教育と、文学を読むのに必要な技能の教育とを切り離さずに一体として学習
する。これからの文学教育は、戦前の内容主義的な人間形成の面と、戦後の技能主義的な技能学習の面とを一体とし
て学習させるという考え方はきわめて自然に、また、安易に口にされる。
 しかし、現場の教室に臨んでみると、それは掛け声だけで、両者が統一された授業はなかなか見られない。学習指
導要領国語に、国語科の目標として、国語の能力を養うことと、思考力を伸ばし、心情を豊かにすることとがあげて
あるが、この二つを一元的に考えなければならないとはだれも言う。しかし、一元的に指導するにはどうしたらよい
かというと、その方法がまだ確立されていないのが現状である。それは、内容と技能を二元対立的に考えて、これを
統一し、止揚するという考え方ではだめである。基本的には、言語を働き・機能と見る立場に立って、文学教育を見
ていかなければならない。つまり、文学の機能をじゅうぶんに果たすことができるようにする。文学を読むことによ
って、文学の機能をじゅうぶんに果たさせるためには、文学を読んで経験させなければならない。文学を経験すると
いうことで、――文学経験によって、文学の内容と形式、内容と技能が一体となって働く。これが機能的立場に立つ
文学教育の基礎である。                                           263
          1 国語科における文学教育の歴史

          第6章 文学指導の近代化
 要するに、文学の形式・技能の教育でもなければ、内容そのものの教育でもない。その二面が、機能として統一さ  264
れている形で学習する。つまり、文学を経験することを指導する。そこに文学教育がある。
 文学作品の内容に感動するためには、それを読み取るその言語刺激に反応する。文学を享受する能力が働かなけれ
ばならない。しかも、その能力は、内容の鑑賞・理解――文学の経験を離れては成り立たない。
 こうして、歴史的移り変わりの跡をたどって将来を見通してみると、内容と技能とを統一的に、機能的に学習する
ためには、経験させる以外にない。文学作品を読んで、それを経験する。その経験のさせ方を指導するのが文学教育
であると考えられる.


       2 国語科における文学指導の目標
                      ―人間性の開発伸長と文学技術の習得

 文学教育は、文学そのものの指導と、文学経験の指導と二つの面を持っている。文学そのものの指導にはまた、次
の二つの面がある。一つは、文学の本質文学思潮、文学の歴史、文学作品などについての知識・理解を与える面、他
の一つは、文学の制作、文学研究の方法についての指導の面である。
 文学経験の指導は、文学を読むこと、文学を味わうこととその読み方・味わい方の指導である。
 小・中学校の国語科における文学指導は、後者を主とする。

(1) 文学指導の目標――文学的価値の形成

 小・中学校の国語科における文学指導の目標を考えることは、文学はどんな機能を持っているかを考えることと同
じだと考えていい。したがって、文学指導の目標は、文学作品を読む、文学を読んで経験することによって、文学的
価値を身につけることである。文学的価値を身につけることによって、人間性を開発し、伸長することである。
 これを学習指導要領的な言い方をすれば、文学作品を読むこと・経験することによって、心情が豊かになる、思想
が豊かになる、教養が高まる、経験が広まる、感覚がみがかれるなどということになる。つまり、文学の持っている
人間形成の機能をじゅうぶんに発揮できるようにすることである。
 それをさらにくだいて言えば、(1) 物の見方や考え方が進む。認識の力が育てられる。(2) 物の感じ方がみがかれ
る。感情が純化される。(3) 自然や人間への愛情が育つ。(4) 社会についての問題や生き方がわかる。社会性が養わ
れる。(5) 人生に対する希望や励ましが得られる。人生の生き方がわかる。(6) 思想が豊かになる、ということにな
る。
 要するに、文学指導の目標は、文学の機能に即して人間性の開発伸長に資することである。ここから、文学とモラ
ルの問題、文学と社会の問題、文学と人生の問題、文学と自然の問題、文学と科学の問題などが出てくる。それは、
文学の持つ倫理的、社会的、真理的、審美的、科学的機能の問題である。これらについては、小・中学校の文学指導
のことであるから、おのずからそこにある限界をおいて考えなければならない。

(2) 精神的諸活動の発展

 文学を読む、文学を経験する活動は、主として想像力・感覚力・思考力・感情移入などによってささえられている.
 したがって、文学経験をすることによって、文学的価値を身につける過程で、(1) 想像力が伸びる。(2) 感覚が鋭  265
          2 国語科における文学指導の目標
          第6章 文学指導の近代化
くなる。(3) 思考力が伸びる。(4) 感情が純化されることになる。文学価値が身につくとともに、それとは別に文学  266
価値を生み出すために働くこれらの想像・思考・感覚・感情などが伸ばされる。もちろん、これらは、文学価値の形
成と切り離しては考えられないものであるが、文学指導の直接の目標とはならない。

(3) 文学技能の習得

 文学指導は、 文学経験によって人間性につちかう文学価値を再生産することの指導であるとも考えられる。 だか
ら、文学経験をささえ、文学経験を遂行し、処理する態度・技能・知識などが必要である。それらの文学経験のため
の態度・技能・知識を養成しなければ、文学価値を再生産することはできない。
 この文学技能は、文学経験の過程で養成される。文学経験によって、人間性の開発伸長につちかうとともに文学を
読む態度・技能・知識を養成する。つまり、人間形成の過程で、文学を読む能力を養成する考え方は、言語機能観に
基づく機能的文学指導の基本的な考え方である。これが、新しい、近代的な文学指導であることは、――また、それ
が文学指導の歴史的必然性を持っていることは、前に述べたとおりである。


        3 機能的文学教育
               ――文学の機能と文学経験の教育

1) 機能的文学教育の特色

1 文学の機能の重視
 機能的文学教育は、ことばを機能と見る立場、つまり、言語機能観を基盤としてその上に組み立てたものである。
ことばは、(1) 文化を形成する機能、(2) 社会を形成する機能、(3) 精神を形成する機能を持っている。このこと
はまた、ことばは人間が持つ文化形成・社会形成・精神形成の機能であるとも考えられる。
 これを文学に当てはめてみると、文学――文学的言語・文学作品は、人間性を開発し伸長する機能を持っている。
文学作品を読むことによって、経験を広める、心情を豊かにする、思想を形成する、感覚をみがく、人生の考え方・
生き方がわかる、社会の問題の見方・考え方がわかる、楽しみを得るなど、文学は、そのような機能・本質を持って
いる。このような文学の持つ楔能を重視した文学教育が機能的文学教育である。
2 文学的価値の重視
 文学の機能をだいじにする立場は、当然、文学の持つ内容価値をだいじにする。言い換えると、人間性の開発伸長
に役立つような価値(反価値も含めて)をだいじにする。だから、いい作品、価値の高い作品を選ぶ。読み手に訴え
る、読み手に感動を与える文学作品を取り上げる。ここに価値観の問題がある。文学教育と道徳教育の混同や混乱が
起こるのもここの問題である。
 もちろん、文学教育における価値の問題は、小・中・高校の国語科教育における教育的価値の問題として論ずる必
要がある。だから、文学と人生、文学と社会、文学と自然というような、あるいは、学習指導要領国語に示された話
題・題材選定の十か条のような、一つのわくの中で考えなければならない。
3 文学的技能の重視
 文学を経験するのであるから、その経験がじゅうぶんにできるような能力をだいじにする。文学経験をするのに必
要な態度・技能を習得しなければ、文学価値は得られない。一般に国語科で扱う文学作品は、文学学習の抵抗・負担
として、文学的価値や文学を読む態度や技能・言語要素を含んでいる。そういう、能力的抵抗を克服し乗り越えて、  267
          3 機能的文学教育
          第6章 文学指導の近代化

文学的価値を習得する。そこに態度・技能などの学習をだいじにする必要がある。
4 主体性の尊重
 児童の主体的な学習、個性的な学習、したがって生産的な学習をだいじにする。
 それには、文学に立ち向かう主体としての児童・生徒の立場・行為・経験などを尊重する。同時に児童・生徒の発
達――精神発達・能力発達に応じていく。また、児童・生徒の生活・経験・思想・心情などを背景とする個性的な、
生産的な学習を尊重する。

(2) 文学経験ということ

1 文学的言語の経験−記号経験
 文学経験は、文学を経験すること、もっとくだいて言えば、文学的言語を経験するということである。つまり、文
学的言語の刺激を受け、文学作品を読んで、主人公の心情に触れる。人生の生き方に感動する。社会や人生の問題に
直面する。そして、同感したり、共鳴したり、反ばつしたり、批判したりする。このように、文学的言語・文学作品
について、内面的に経験する。それは、ことばを経験することであるから、記号経験と呼んでいい。具体的な経験・
現実経験の代わりに行なう経験だから、代行経験とも呼ばれる。
2 想像活動−表象を作る
 われわれが、ことばを経験する場合には、ことばの刺激を受けて、ことばの刺激を契機として、想像という精神活
動をする。想像を働かせながら文章を読んでいく。想像を働かせながら文章を読んでいって、そこに叙述されている
ことがらに対して、その表象を作っていく。イメージを作っていく。ことばを読みながら、そのことばをきっかけに
して想像力を働かせ、 まだ見ないことがら、まだ経験しないことがら、 そこに描かれている世界のイメージを作っ
て、それを経験する。そういう活動が行なわれる。
3 感情活動−感情状態にはいる
 文学経験をする場合にはまた、感情を働かせる。読み取ったことがらに対して感情を働かせる。ことばの刺激に対
して感情的に反応する。つまり、感情状態にはいる。心理学でいう感情移入が行なわれる。これが文学経験では非常
にだいじである。
4 感覚が働く
 それから感覚を働かせる。「青空に白雲が一ひら流れていく」と読んで、そのことばに従って、色感を伴う視覚表
象が作られる。ことばを通して感覚が働く。感性的な認識が行なわれる。その結果いわゆる言語感覚がみがかれ、語
感が育てられる。
5 思考が働く
 文学経験はまた、思考の助けを借りなければならない。文を読むということは本来思考活動である。 ことば(概
念)を読み取って、ことばとことばの関係を判断しながらしだいにさらに大きな概念を組み立てていく。意味を組み
立てて理解していく。そのような判断に基づきながら、推理・推測をする。このように文章を読んでいく過程で思考
力が働く。
 このように、ことばについて、想像したり、感情や感覚を働かせたり、感情状態にはいったりする。このような読
み方をすることが文学経験をすることである。次に、想像・感情を働かせながら読む例をあげてみよう。       269
          3 機能的文学教育
          第6章 文学指導の近代化
6 想像・感情を働かせながら読む
 文章に即して具体的に考えてみる。前に述べた想像する、感情・感覚を働かせる、思考するというような精神活動
を便宜上分析して個々に述べたが、実際に文学経験をするときには、これらは総合されて働く。次に「残雪」の一節
をあげる。
  「はやぶさは、その道をさえぎってひとけりけりました。ぱっと、白いはねがあかつきの空に光って散りました。
  がんのからだは、ななめにかたむきました。もうひとけりとはやぶさがこうげきのしせいをとったとき、さっと、
  大きなかげが空を横ぎりました。
   残雪です。残雪の目には、人間もはやぶさもありませんでした。ただ、救わねばならないなかまのすがたがある
  だけでした。いきなり、敵にぶつかっていきました。大きなはねで、力いっぱいなぐりつけました。
   不意をうたれて、さすがのはやぶさも、空中でふらふらとよろめきました。が、さっとしせいをととのえると、
  残雪のむなもとに飛びこみました。
   ぱっ。
   ぱっ。
   はねが白い花びらのように、すんだ空に飛び散りました。そのまま、はやぶさと残雪は、もつれあってぬま地に
  落ちていきました。」
 まず、「はやぶさは、その道をさえぎってひとけりけりました。ぱっと、白いはねがあかつきの空に光って散りま
した。がんのからだは、ななめにかたむきました。」と読むと、そのことばに応じて、(そのことばの刺激によって)
はやぶさが逃げていくおとりのがんの行く先をさえぎって、そのがんをひとけりけった。その表象が頭の中に描かれ
る。そういう情景を頭の中に浮かべていく。「ぱっと白いはねがあかつきの空に光って散りました。」と読んで、そ
のような視覚表象を作っていく。その情景が――色彩的な、印象的な――頭の中に瞬間に描かれる。
 ところで、「あかつきの空」の表象を作る場合、すでにあかつきの空を見た経験があれば、それに基づいて表象を
作る。経験がなくても、この場合には、この文章の前のほうに「東の空がまっかにもえて朝がきました。」という叙
述がある。このすでに得ている知識、そのときに作った表象、心に描いた情景をもとにして、あかつきの空の表象を
描く。「赤く輝いている空」の表象を作る。そして、「朝やけのまっかに輝いている空に、白い羽がばっと光って散
っていく」表象――情景を心に描く。それが印象として心に深くきざみつけられる。
 このようにして、見たことも、経験したこともないことがらを、ことばによって、見たと同じように、経験したと
同じように、理解する、印象を受ける、感動する。
つまり、ことばによって経験する。いわゆる記号経験をする。
 これが、ことばを契機として想像力を働かせて、全く新しい表象を作る、新しい情景を創造する、つまり、文学経
験をすることである。
 こうして、はやぶさががんをおそったときの情景が描き出され、「がんのからだは、ななめにかたむきました。」
と読んでくると、そこに描かれた情景に心を動かされて、「あっ、かわいそうに」とか、はっと息をひそめるような
気持ちや感じを持つ。このように、ことばを読んで(刺激を受けて)想像力を働かせて描いた表象――情景によって
感情状態になる。表象ができるとたんに、それが刺激になって、「かわいそうに」というような気持ちになる。ある
いは、緊張した場面が、からだに感じられる。このような状態になるのを感情状態になるという。心理学でいう感情
移入である。
 もうひとけりと、はやぶさが攻撃の姿勢をとったとき、さっと大きなかげが空を横ざる。なんだろうという疑問が  271
          3 機能的文学教育
          第6章 文学指導の近代
瞬間頭をかすめる。それが次の表現への期待――読もうという欲求・構えを作る。(読みは常に完結・発展を求めて  272
進められる。意味が完結するまで、追求の心をゆるめない。完結すればさらに大きな完結を求めて進められる。発展
を期待して進められる。こうして文脈ができ、文脈を求めて読みは進められるのである。)それは残雪であった。次
には、その残雪についての説明があり、それによって残雪の、仲間を救わなければならないという強い使命感、それ
から生まれる強さを感じながら、「いきなり敵にぶつかっていきました。大きなはねで、力いっぱいなぐりつけまし
た。」と読む。その情景が頭に描かれると、息詰まるような残雪の行動に拍手を送りたいような感じになる。と、同
時に「ああ、よかった。」「がんは救われた。」と、ほっとした感じを持つ。つまり、感情状態にはいる。このよう
に、ことばの刺激、情景・場面などの刺激に対して感情的に反応する。この状態が感情状態である。
 文学作品を読むときには、このようにことばによって表象を作る。それをもとにして感情状態にはいる。これが繰
り返される。つまり、想像力を働かせたり、感情移入を行なったりして作品を読んでいく。それが文学を経験するこ
とである。
「不意をうたれて……落ちていきました。」こう読んでくると、読みながら緊張感を覚える。手に汗を握る。やがて、
ほっとしてわれに返るという状態になる。読み進めている間は、すっかり作品の中に心身ともに溶けこんでいる。そ
して、ふとわれに返ったとき、残雪は勇気がある、残雪はあんなに仲間に対して深い愛情を持っている、というよう
なことがわかってくる。残雪の本質がわかってくる。残雪に対する理解が深まったのである。いわゆる理性的認識が
得られたのである。まとまった感想はここから湧き起こる。感想は、文学をじゅうぶんに経験したのちに生まれるべ
きものである。
 文学作品を読んで感動する。感動したことに共感する。共鳴する。あるいは反撥する。そのよって来たるところを
理解する。感想が生まれる。意見を持つ。批判する。時には行動にまで進む。これが、文学経験の過程である。この
プログラムは、文学作品の学習指導過程・指導法を考える上の基盤になる。また、いわゆる、第一次の感想、初発感
想、第一読後の感想などと称するものを書かせることの適否判断の基準ともなる。
 文学を経験する。感情状態にはいる場合に、「がんのからだはかたむきました。」と読んで、「あっ、かわいそう
に。」という気持ちが起こって、感情状態にはいる。その時、急激に感情状態にはいるのが感動である。感情状態が、
徐々に、ゆっくりと緩慢に行なわれている場合と、ある瞬間、急激に心を動かされて感情状態にはいる場合とがある。
この後者が感動である。それが文学作品を読んで感動するということである。
 したがって、文学経験をさせなければ感動は与えられない。ただ知的に、知識として、残雪は非常に勇気のある烏
だ、身を挺して仲間を救った烏だということがわかっても、それでは感動は受けない。また、物語のあら筋を聞かせ
ても、理解させても、それではなんの感動も起こらない。感情状態にはいれない。すべて、前述の情景なり、場面な
り、 あるいは人物の心理なり心情なりを想像し、表象を描いて感情状態にはいる。そうしなければ心情には訴えな
い。したがって、心情につちかうことはできない。
 だから、文学作品に対する知識や理解を与えるだけでは――作者はだれか、あら筋はどうなっているか、段落はい
くつに切れるか、人物の心理はどう変わるか、作品の構成はどうなっているかなど――また、文学を読む技能だけを
強調していたのでは、文学経験をさせることはできない。したがって、想像力を高めたり、心情につちかったりする
ことはできない。                                              273
7 想像を働かせて読む場合の問題点
(1) 新しい表象を作る場合
          3 機能的文学教育
          第6章 文学指導の近代化
  見たこともない「あかつきの空」の新しい表象を作る場合、すでに述べたように、子供たちは、空についての過  274
 去の経験――具体的な事実――を手がかりにする。過去に得た知識、あるいは、過去に作ったことのある表象を手
 がかりにする。そして、「あかつきの空」の表象を新しく作る。つまり、すでに見たことのある空、前に読んで得
 た「東の空がまっかに燃えて朝がきました。」の表象に従って、「まっかに輝いている朝の空」の表象を作る。そ
 のような視覚表象ができる。このように想像力を働かせて、まだ見ぬ「あかつきの空」の表象を新しく作る。
  このことがよくわかる例が、伴さんの発表した「さわよむどんのうなぎつり」の学習の中にある.
 「あわててさおをほうりだして……」の「あわてて」の学習で、「さかなを釣っていて、ぐいぐい引っぱったとき
 は、 ぼくもうれしかったけれど、 逃げられたときは、あわてました。」というのがある。自分がかつて魚を釣っ
 たとき、逃げられてあわてた経験を持っている。それをもとにして、具体的な経験をもとにして、想像している。
  また、その次に、「うなぎはびゅんととんで……」のところで、「重い物を振り回していたら、ぼくも振り回さ
 れて、手を離したらびゅうんととんでいったことがある。」と言って、「うなぎがびゅんととんでいく」場面を想
 像する。このように「びゅんととんでいく」表象を作るために、自分が重い物を振り回した時の経験をもとにして
 想像する。
  そこで、こうして新しく作られる表象は、おのずから過去の経験・知識・表象などに引き寄せられる。片寄って
 いく。そしてゆがめられた表象が作られるおそれがある。また、当然そこに作られる表象は読み手によって異なっ
 てくる。
  表現の本質、読むことの本質から言えば、読み手は、書き手が表現しようとしたものを、そのままに享受するこ
 とが理想である。したがって、読み手が想像を働かせて作る表象も、書き手が表現しているものと一致することが
 理想である。ところが、前述のように・読み手の作る表象は・読み手の経験・知識・表象などに左右される。した
 がって読み手によってもそこで作る表象が違ってくる。だから書き手が表現しょうとしたものを、そのままに、全
 く同じように享受して表象を作ることなどは不可能に近い。ここに問題がある。よく経験と比べながら読むとか、
 自分の気持ちと比べながら読むとか、もし自分が作中の人物だったらどうするかなどと簡単に言うが、そこには気
 をつけなければならない問題がある。
  たとえば、この地の子供は、この周辺の山を見ている。山と言えば、すぐにこの山が表象される。したがって、
 文章の中に「山」という語が出てきて、その山の表象を描く場合、ここの子供たちは、すぐに、自分が見なれてい
 るここの山によって山の表象を作る。ところが、文章の中の山は、子供たちが作った表象とは、全く異なった山で
 あるかも知れない。しかし、それを是正することはむずかしい。
  そこで、これは書き手の側の問題であるが、読み手が作る表象を規定し、限定するような記述をすることがたい
 せつである。たとえば、岩山の間を歩いている場合、「山の間を歩いている。」と表現すれば、ここの子供なら、こ
 の周辺の山のような表象を作ってしまう。そのような表象を作らせないようにするには、「岩山の間を歩いている。」
 とか、「岩石のそそり立っている山の間を歩いている。」とか表現して、書き手が知らせようとしている山の表象
 が、誤りなく作れるような叙述をする必要がある。そのためには、できるだけ具体的に、その特徴をとらえて表現
 する。そうすれば、読み手は岩山の表象を作るのに必要な過去の経験なり知識なりを動員して、 また、 辞書を調
 べ、絵を見たりして岩山の表象を描き出そうとする。
  要するに、書き手が描いた場面なり、情景なり、心理なり、心情なりに、できるだけ近い表象を作らなければな  275
 らない.
          3 機能的文学教育
          第6章 文学指導の近代化
  そのためには、原則として、書き手は読み手が作る表象を規定するような叙述をすることが第一である。読み手  276
 はまた、その叙述に即して、表象を作らなければならない。ことばを離れ、叙述を離れ、時にはそれを無視して勝
 手な表象を作ることは、ことばを経験することにはならないし、文学を経験することにもならない。(もちろん、
 文学を経験するのでなくて、文学を他の目的への手段として用いる場合、ことばを契機として自由な想像をさせる
 とか、文学の中から問題をとらえてディスカッションするとか、道徳教育のために文学を利用するとかいうような
 場合は、これは別の問題である。)それでもなお適切な表象を作ることがむずかしい場合には、挿絵を利用したり、
 図表を利用したり、実物・標本を利用したり、あるいは動作化し、行動化したりして、適切な表象を作るよりほか
はない。
(2) 表象の単位・まとまり
  表象の単位ということは、児童に表象を作らせる場合の表象のまとまりの大きさである。低学年では、大きなま
 とまりの表象をつくることはむずかしい。能力の発達に応じて表象の単位の大きさを適切にしなければならない。
 想像しながら読んでいって、表象を作ることがだいじだといっても、一語一語について、表象を作っていったので
 は、思考は進まない。また、立ち止まりとかいって、一文ごとに立ち止まって勝手な表象を作らせ、考えさせてい
 ったのでは、そんな分析をしながら読んでいったのでは、全体的な場面や情景は構成されない。全体は統制されな
 い。まして、全体場面や情景からそれを貫いている、それを覆っている感じ・気分・雰囲気などというものは読み
 取れない。洞察力を働かせて、その本質をつかむことなどはできない。したがって、経験できない。まして、感動
 を受けることなど考えることもできない。
  たとえば、「はやぶさは、その道をさえぎってひとけりけりました。」を読みながら、「はやぶさは、その道を」
 は、「さえぎって」は、「ひとけりけりました」はなどと、一語一語について勝手な想像を働かせ、自由に表象を
 作っていったのでは、文章は読めない。そのことばごとに、あるいは、その文ごとに、そのあとの文と関係なしに
 表象を作っていったら、全体としてまとまらない。だいじな全体としての印象が得られない。場面・情景は成り立
 たない。また、文章を読む態度が養成されない。読みには速さが要求される。それは、場面や情景を成立させるた
 めの、感動を受けるための、 つまり、 全体としてのまとまりを得るための適度の速さが必要である。いわゆる、
 「一読総合法」とかいう読みの技術が適切でないことは、この点からも考えることができるであろう。
  文章は、語や文の寄せ集めではない。一語、一センテンスは、それだけでその意味を完全に表わしているもので
 はない。常に、文章全体の中で、他の語、他の文との関連において、その深い意味を限定され、規定されているか
 らである。つまり、それは、全体的な場面なり、情景なり、心理なり、心情なりを組み立てている一分節に過ぎな
 い。したがって、その分節である語や文は、常にその場面・情景・心理・心情などに規定されているのである。そ
 れぞれのセンテンスは、独立してあるのではなく、それらが、全体的、有機的に結び付いて、その場面を構成して
 いる。あるいは情景を描いている。それなのに、一センテンスごとに勝手な表象を作っていたら、全体としての場
 面・情景などの表象ができない。まして、そういう全体的な場面や情景がかもし出す雰囲気とか、感じとか、感動
 とか、全体を統一する感覚的なもの、感情的なもの、思想的なもの、法則的なもの、本質的なもの、そういうもの
 を感得することはできない。
  こういう例がある。母が子供にセーターを編んでやったことを書いた作品で、その書き出しの文がこうなってい
 る。
  「A子さん、お待ちかねのセーターがやっとできましたよ。」                        277
          3 機能的文学教育

          第6章 文学指導の近代化
  「えっ、ほんとう。」                                          278
  この書き出しの文を読んで、母親はどんな気持ちでそう言ったか考えてみましょう。「お待ちかねの」というの
 はどういう意味ですか。「やっとできました。」というのはどういう意味ですかと、考えさせながら話し合う。
  ところが、この二つの文の意味は、これだけではその深い意味がわからない。後ろのほうの叙述によって、その
 意味が規定されているからである.それらを無視して、この二つのセンテンスだけで、自由に想像させ、考えさせ
 て表象を作らせたり、感情移入をしたりしたのでは、作品全体の印象・感動が得られない。このあとの部分を読ん
 でみると、子供が母親にセーターを編んでと頼む。母親は「いまに編んであげますよ。」とは言っているが、なか
 なか編んでやらない。子供は半ばあきらめている。ところが、母親は、子供が学校へ行ったあとで一生懸命編む。
 子供が寝てからまた、取り出して編む。子供に気付かれないようにして編む。だからなかなか仕事が進まない。と
 うとう一週間もかかってやっと編み上げる。そういう事実が書いてある。これがわかって初めて、「お待ちかねの」
 も「やっと」も生き生きとして心に迫る。その深い意味がはじめてわかる。このことを考えないで、お待ちかねだ
 けを取り上げていくら考えさせても、その深い意味はわからない。一週間もかかってやっとできた。そこで初めて
 「やっと」の意味が実感的にわかる。「えっ、ほんとう。」にしても、編んでくれ、編んでくれと頼んでも編んで
 くれない。半ばあきらめている。そこへ、やっとできましたよと言われたから、自然このことばが出てくる。驚き
 と、軽い疑いをこめた念押しと、子供心がこのことばに感じられてくる。
  要するに、想像させる場合でも、表象を作る場合でも、あるまとまった場面・情景・行動・事件・心理・心情、
 つまり、あるまとまった観念・表象ができるときにさせないと、正しく場面・情景などの表象を作ることはむずか
 しい。
 以上、文学経験の機能、文学経験のしくみ、文学経験のしかたなどについて述べた。

       4 文学経験の過程
                −人間形成・能力養成の過程

 小・中学校の国語科における文学指導は、文学についての知識・理解を与えることを目標としていない。したがっ
て、文学作品に知的に接近させる指導法は正しくない。文学を直接経験させることをねらわなければならない。この
ことについては前に述べた。
 そこで、 ここでは、 文学を経験するにはどんな構造過程をとるか、ということについて述べることにする。それ
は、児童・生徒に文学経験をさせる場合の基準過程となるからである。

(1) 文学経験の成立過程−文学の学習過程

 われわれが文学作品を読む、経験する場合の心的過程を考えてみると一般に次のような過程をとる。
l 構えを持つ
(1) 余暇を利用して何か小説でも読んでみよう。
(2) このごろあの小説が評判になっているから読んでみよう。
(3) 小説を読んで楽しもう。
(4) 小説を読む楽しみを味わう。
(5) ○○の作品が好きだから読んでみよう。                                  279
          4 文学経験の過程
          第6章 文学指導の近代化
(6) ○○の主題を扱った作品だから読んでみよう。                               280
(7) 人にすすめられたので読んでみよう。
 小説を読もうとする動機や興味は人によって異なるからいろいろなものがあるが、いずれも読もうとする構えを持
つ。読む必要を感じている。読む目的を持っている。
 このことは、読む経験を活発にし、経験が円滑に、能率的に行なわれるための基盤になっている。この構えが強固
であるほど、その後の経験が成立しやすい。
2 感動する
 われわれは作品を読んで感動を受ける。場面や情景、心理や心情などに感動する。そして、自ら作品の中に溶け込
んでいくこともできる。作品と一体の境地にもなり得る。作中の人物とともに貴び、悲しみ、ときに興電し、ときに
冷静になり、また、作中の人物とともに考えることもできる。
 これは、文学作品の本質である。本質的な機能である。
3 共感・共鳴する
 作品を読んで感動する。感動しながら、それに共感・共鳴する。あるいは反撥する。同感・同情する。なるほどと
同意する。あるいは、否定し、憎悪し、悲しむ。
4 理解する
 感動―→共感が繰り返されている間に、 しだいに、 全貌がわかってくる。場面のしくみや変化、人物の思想や感
情・心理の動きなどがわかってくる。筋道がわかってくる。人物の立場もわかってくる。問題がどこにあるかもわか
ってくる。事件を動かしているものもわかってくる。したがって、立場交換・役割交換も可能になってくる。
5 感想を持つ。批判を持つ
 ことがらの全貌、事件の全体、さらにその裏にあるものまで理解され、役割交換もできるようになる。すると、自
分の考えや感じ方などが、作品の主題に対決することによって明らかになる。 自分の立場もはっきりしてくる。 同
感・共鳴するにしろ、反撥・否定するにしろ、そこに感慨・感想が湧き起こる。さらにかくあるべき姿、かくあるべ
き筋道、かくあるべき心情に照らして、その可否・善悪・適否が論ぜられる。批判精神が働く。こうして、問題に対
する自己が発見され、確立される。新しい自己がそこにある。
6 行動する
 文学から読み取った新しい自己、すでに変容をとげた心情、喚起された問題意識、それがその後の自己の行動を規
定する。読後に生み出した自己、問題意識は、そのまま自己の心内にとどまっている場合もあろう。それが具体的な
実践行動となって現われる場合もあろう。それは必ずしも文学の機能にのみよるものではない。自己の環境・生活・
性格などに支配される面のあることを認めなければならないであろう。
 しかし、そこまでいけば、文学はその機能をじゅうぶんに果たし得たということができるであろう。
 私は以上のように文学経験の過程、文学の学習過程を分析して次の五過程を得た。
(1) 構えを持つ。(生活過程)
(2) 感動する。――共感、共鳴する。(感動)―――┐
(3) 理解する           (理解)―――┼―――経験過程(読解・鑑賞過程)
(4) 感想・批判を持つ。      (批判)―――┘
(5) 行動する。(適用過程−生活過程)                                    281
          4 文学経験の過程
          第6章 文学指導の近代化
 この五過程については、次に詳細に述べる。                                 282

(2) 構えを持つ

 読もうとする構えが、読みの速さや読みの深さを左右することは、 日常の読む経験によっても明らかである。 ま
た、科学的な実験によっても明らかにされている。
 読みの構えを持つことは、読みの態度を確立することである。真の読みの態度は、(1) 読みに対する興味・必要・
欲求、(2) 読んで楽しみを得ようとする欲求、(3) 読んで教養を得ようとする欲求、(4) 読んで心を豊かにしようと
する欲求、(5) 読んで知識・理解を得ようとする欲求、(6) 読んで情報を得ようとする欲求、(7) いい本や自分の趣
味や研究に合った本を読もうとする欲求、などにささえられている。これらの欲求はことばの本質に基づく欲求であ
る。同時にそれは読みの価値的な、生活的な目的でもある。だから、読みの目的が、逆に読みの構えを作ると考えて
いい。また、目的を持った読む活動(経験)が、生きた読みの態度を形成するとも考えられる。

(3) 感動する−共感・共鳴する

 文学的感動は、文学を経験することによって引き起こされる心的状態である。文学的言語・文学的表現をなかだち
として、想像力・思考力などを働かせ、その結果生じた感情状態である。
 富士山頂から眺めた下界の山々の情景を述べた文章を読むと、広々とした世界を感じる。自然の雄大さに心を打た
れる。静かに澄んだ自然の美しさを感じる。そして、私たちを景観の中にひたらせてくれる。その場合、読み手の心
を動かすものは、そこに述べられた個々の山ではない。山の状態を述べた個々の文ではない。それらをなかだちとし
て描き出される表象――情景である。描かれた情景によって直観される美である。心に描かれた情景によつて喚起さ
れる美的感情である。
 また、「このいたずらは、常川君がやったのだと、学校の帰りに友だちのひとりが教えてくれた。常川君が…….
常用君が……。 と思うと、 くやしなみだがあとからあとからとわいて来た。見つめているたき火が、なみだでうる
む。 だが、 誠の心の中で声がする。――なぜぼくは、たい焼きの店で働いていることを、そんなにきまり悪がるの
か。――決して、はずかしがることはないんだ。自分の心から、はずかしがる気持ちを追い出さなければいけない。
――よし、きょうから、はっきり追い出す。自分で自分に約束する。――そうだ、いいことがある。人のおおぜいい
る所にたい焼きを持って行って、大きな声で、『たい焼き、たい焼き。』と、どなって歩いて見せよう。」と、こう読
んでくると、読み手は、少年の心の世界に引き込まれる。少年の心とともに、心をはずませて読んでいくもいわゆる
感情状態にはいる。そして、最後に「大きな声で、『たい焼き、たい焼き。』と、どなって歩いて見せよう。」と、決
心すると、読み手もまたほっとする。少年と同じ感情状態になる。少年の強い心に心を打たれる。と同時に、少年の
たどりついた決心に同感する。共鳴する。
 このように、場面・情景・心情・心理などを読み取って感情状態にはいる。感動を受ける。それに同感する。(反
撥する。)共鳴する。これが繰り返される。しだいに部分的な感動が積まれる。より大きな感動となっていく。やが
て、主題にたどりつく。主題を直観する。主題に対する感動が起こされる。それに共感・共鳴する。そこで、読み手
の心が開かれる。読み手の心情が育てられる。と同時に、場面・情景・心理・心情・主題などを読み取る技能が身に
ついていく。                                                283
          4 文学経験の過程
          第6章 文学指導の近代化
(4) 理解する                                            284

 少年の強い、しっかりした心に感動する。共感・共鳴する。すると、また、少年はどんな性格を持っているかがわ
かってくる。人柄もわかってくる。つまり、少年に対する理解が深まってくる。少年はなぜこんな強い心になれたの
か、それもわかってくる。精神の葛藤ののちに到り着いた心境もわかってくる。場面や事態もわかってくる。結果を
考えていくと、その原因もわかってくる。筋道もわかってくる。
 このように、感動を受ける。共感・共鳴する。そこに反省が起こる。なぜだろう。どうなのだろう。感動の分析は
そこから始まる。その結果いっさいが明らかになる。そして理解が深まっていく.
 まず、作品全体を読んで感動を受ける。その感動を表現に即して分析する。感動の性格も、感動の原因も、分析に
よって明らかになる。人物の性格も,人がらも,心理も心情も明らかになる。こうして人物に対する理解が深められる。
 このような学習の中で、文意も探究される。主題もしだいに明らかになる。同時に読解の技能も身についていく。

(5) 感想・意見・批判を持つ

 感動の反省・分析によって、少年の姿がはっきりとわかってくる。
少年の性格も、少年の精神的葛藤も、それを克服していく過程も、つまり、少年の心理も心情もわかってくると、作
者が、何を読み手に訴えているかも明らかになる。そして主題がいっそうはっきりしてくる。このように少年の姿が
はっきり理解されると、そこで少年の立場に立つこともできる。いわゆる役割交換ができるようになる。そこで初め
て、少年に対する自己がはっきりしてくる。自己が確立される。自分の立場もわかってくる。感想や意見はそこから
生まれる。批判もそこから生まれる。
 少年がほんとうに理解され、作品の主題にほんとうに感動したとき、そこから感動の理解が生まれたときに、価値
のある感想が生まれる。自己を高める感想が生まれる。
 こうして、この作品の読みはいちおう終わることになる。

(6) 行動する

 作品の主題がわかり、それに対する自分の立場が明らかになる。主題に対する自己が確立される。自己の中に作品
の価値が生かされる。作品の読みは、それでいちおう解決する。が、感動があまり大きく、心の内に収めがたい場合
は、それが時に行動となって展開することもある。また、同類の作品を読んでみようという態度をとることもある。
 以上、文学経験の過程について考えてきたが、この五過程が文学の学習過程である。したがって、この学習過程を
基準として、文学の学習指導過程は編成すべきである。次に学習過程と学習活動との関係を示す。
(1) 構えを持つ。――作品を読む構えを作る。読む目的を確立する。
(2) 感動する。――作品を全体的に読んで直観する。作品の各部分を経験しながら、その主題に接近する。全体的に
 繰り返し読む。感動を明らかにする。共感・共鳴するところを明らかにする。
(3) 理解する。――感動を受けた部分、直観的にとらえた主題などについて、表現に即して検討する。分析的に読ん
 で、感動・主題を理解する。
(4) 感想を持つ。――分析的に読んで理解した部分、読み深めた部分をさらに全体的に読んで体制化する。主題を明
 確にする。 次に立場交換・役割交換をしながら読む。読み手の立場を確立する。感想を持つ。          285
          4 文学経験の過程
          第6章 文学指導の近代化
(5) 行動する。――読後の処理をする。さらに他の作品を読む。読書の態度・習慣を育てる。創作活動をする。    286

       5 文学経験の処理能力

 文学指導においては、文学経験がすらすらできるようにならないと、人間性の開発・伸長もうまくいかない。文学
の機能をじゅうぶんに働かせることもできない。
 そこで、文学経験を処理する、遂行する能力が必要である。そのような処理能力を身につけてやらないと文学経験
ができない。
 次に、文学経験の処理能力を分析して、その体系を明らかにしたい。

(1) 基礎能力の体系

 文学経験を処理するのに必要な技能をささえている、成り立たせている諸能力を明らかにする必要がある。
それは、どんな能力にささえられ、支持されて読む技能が働くのかを明らかにすることである。
l 言語刺激に反応する能力――ことばの刺激(ことばを読む。)に、知的に反応せず情的、感覚的に反応する。
2 想像する能力――ことばの刺激に応じて、想像を働かせ、新しい表象を作る。
3 考える能力――事象について判断したり、推理・推測したりする。事件の筋道を立てる。原因と結果の関係を判
 断するなど。
4 共鳴する能力――人物の思想・心情・感覚などに共鳴したり、反撥したりする。
5 直観する能力――場面や心情などを直観的にとらえ、その本質・性格・気分・情調などをとらえる。
6 感覚を働かせる能力――場面・情景などを感覚的にとらえ、視覚表象・聴覚表象などを作る。
7 感情移入をする能力――心理・心情などをとらえて、感情状態にはいる。
8 役割交換をする能力――立場交換、相手の立場に立つ。作中の人物と立場をかえて考える。
9 感想・批判を持つ能力――読み取って理解したことに対して、自己の立場を明らかにし、自己を確立する。そこ
 に、感想・意見・批判が成り立つ。
10 問題を発見する能力――事件・事象・問題などを理解して、どこに、どんな問題があるかを明らかにする。
 これらの諸能力にささえられて、読解の技能は働く。

(2) 基本的態度の体系

 文学経験をする場合、態度を確立することがたいせつである。態度を二つの面から考えてみる。一つは、文学を読
む(文学経験)に当たっての構え・態度、他の一つは、文学を読む過程における態度である。それらのうち基本的な
ものを次にあげる。
1 文学作品に接近する構え・態度
(1) 文学を読むことに興味を持つ。(2) 文学を読むことを楽しむ。(3) 文学を読んで心情につちかおうとする。
(4) 文学を読んで教養を高めようとする。(5) 文学をたくさん読もうとする。(6) 文学のよいもの、自分に合ったも
のを選んで読もうとする。(7) 文学を読んで人に伝えたり、話題として話したりしようとする。(8) 文学を読んで、
人生や社会などを知ろうとする。(9) 余暇を利用して読書しようとする。(10) 読書の習慣をつけようとする。    287
          5 文学経験の処理能力
          第6章 文学指導の近代化
2 文学経験をするときの態度                                     288〜
(1) 進んで読もうとする。(2) 最後まで読もうとする。(3) 注意を集中して読もうとする。(4) 注意深く読もうとす
る。(5) 正確に読もうとする。(6) 考えながら読もうとする。(7) 読んで問題を見つけようとする。(8) 読んで問題
を解決しようとする。(9) 必要に応じて読もうとする。(10) 読みながら記録しようとする。(11) 目的に応じた読み
方をしようとする。

(3) 基本的技能の体系

 文学経験の基本的なものを選び、その経験を処理するのに必要な基礎的な技能、基本的な技能を分析して示すと次
のようになる。
1 基本的技能の系統と段階表

基 礎 的 な 能 力  基本的な技能  基 本 的 な 技 能 の 段 階  
低 学 年(1・2)  中 学 年(3・4   高 学 年(5・6) 
一 文脈をたどりながら
 読むこと。
1 期待を持ちながら読
  む。
2 推測しながら読む。
3 関係づけながら読む。
4 筋を辿りながら読む。 
一 事件の推
 移・展開な
 どを読み取
 ること。 
1 いつ、だれが、ど
 うしたかを読み取る
 こと。
2 叙述の順序に従っ
 てことがらを読み取
 ること。 
1 事件の発端・クラ
 イマックス・結末な
 どを読み取ること。
2 筋の展開を読み取
 ること。 
1 気持ちや心理の移
 り変わりを読み取る
 こと。
2 場面や情景の移り
 変わりを読み取るこ
 と。 
二 表象を作りながら読
 むこと。
l 想像しながら読む。
2 比べながら読む。
3 思い出しながら読む。
4 考えながら読む。 
二 情景や場
 面を読み味
 わうこと。 
1 ことがらを想像し
 ながら読むこと。
2 様子を想像しなが
 ら読むこと。 
1 場面を組み立てな
 がら読むこと。
2 情景を組み立てな
 がら読むこと。 
1 場面をささえている
 ものを感じながら読む
 こと。(気分・情調)
2 情景を貫いているも
 のを感じながら読むこ
 と。(気分・情調) 
三 感情移入をしながら
 読むこと。
1 共鳴しながら読む。
2 感動しながら読む。
3 人物になりきって読
 む。
4 場面・情景にひたり
 ながら読む。 
三 心理・心
 情などを読
 み味わうこ
 と。 
l 気持ちを読み取る
 こと。 
1 同じ気持ちや心理
 になって読むこと。
2 心の動きを感じな
 がら読むこと。
1 考えや気持ちに共鳴
 しながら(反撥しなが
 ら)読むこと。
2 人物の立場になって
 読むこと。 
四 表現の裏にあるもの
 を考えながら読むこと。
1 直観的に読む。
2 ことがらの意味を考
 えながら読む。
3 ことばの深い意味を
 考えながら読む。
4 心を打つものを考え
 ながら読む。 
四 性格・思
 想・行動な
 どを読み取
 ること。
五 主題を読
 み取ること。
 
1 どんな人物である
 かを読み取ること。 
1 人物の考えを読み
 取ること。
2 人物の特色を読み
 取ること。
3 主題を表わすこと
 ばによって主題を
 読み取ること。
4クライマックスか
 ら主題を読み取る
 こと。 
1 行動の裏にあるもの
 を読み取ること。
2 ことばや行動から人
 がらや性格を読み取る
 こと。
3 構想に基づいて主題
 を読み取ること。
4作品ににじみ出ている
 主題を読み取ること。
5 直観的に主題を読み
 取ること。 
五 自分の考えと比べな
 がら読むこと。
1 自分の考えと比べる。
2 人物の立場を考えな
 がら読む。
3 役割交換をする。
4 自分の経験と比べる。 
六 読後の感
 想を持つこ
 と。
七 判断しな
 がら読むこ
 と。 
l よいことと悪いこ
 とと読み分けるこ
 と。
2 二つのことがらの
 違いを読み分けるこ
 と。 
1 自分の考えと比
 べながら読むこと。
2 人の立場を考えな
 がら読むこと。
3 自分の考えを持つ
 こと。 
1 自分の考えと違う点
 を明らかにすること。
2 自分の経験と比べな
 がら読むこと。
3 意見を持つこと。 
六 音読すること。黙読
 すること。 
八 味わうた
 めに声を出
 して読むこ
 と。 
  1 ゆっくりと味わい
 ながら黙読するこ
 と。
2 擬声語の多い文章
 リズミカルな文章を
 音読すること。 
1 速く読んで主題を読み
 取ること。
2 味わうために声に出し
 て読むこと。

                                                     〜290

2 文学の読解鑑賞力・批判力
 文学作品は、サマリーとシーンで構成されているのが普通である。もちろん、低学年の子供たちの読む作品のよう
に筋だけのものもある。
 そのような文学作品を読む経験するのに必要な技能を分析して示したのが前掲の表である.
 私は、文学を経験する基礎的な力として、
(1) 文脈をたどりながら読むこと。
(2) 表象を作りながら読むこと。
(3) 感情移入をしながら読むこと。
(4) 表現の裏にあるものを考えながら読むこと。
(5) 自分の考えと比べながら読むこと。
 この五つに分析した。これらの力は、文学作品を読む技能の基盤であり、ささえであると考える。
 次に、以上五つの力を基礎とし、ささえとして成り立つ技能、働く技能を次の七つの基本的技能とした。
(1) 事件の推移・展開などを読み取ること。
(2) 情景や場面を読み味わうこと。
(3) 心理・心情などを読み味わうこと。
(4) 性格・思想・行動などを読み取ること。
(5) 主題を読み取ること。
(6) 読後の感想を持つこと。
(7) 判断しながら読むこと。
 これらの基本的な技能があれば、文学作品を読む(経験する)ことができる。そこで七つの基本的技能をさらに、
分析して発達段階に応じて、低・中・高の三段階に配列した。 これで、 文学作品の読解鑑賞技能の体系が組織され  291
          5 文学経験の処理能力
          第6章 文学指導の近代化

た。技能を三段階に配分したが、その基本的な考え方は次のとおりである。                    292
(1) 児童の精神発達を基準とした。理解力の発達を、(ア) 総括的理解、(イ) 説明的理解、(ウ) 抽象的理解とした。
(2) 児童の表現力の発達を基準とした。(ア) 線条的表現、(イ) 場面的表現、(ウ) 主題的表現。
(3) 児童の読解の発達を基準とした。(ア) 反復的、線条的の文章、(イ) 情景・場面的な文章、(ウ) 主題的な文章。
(4) 文学作品読解・鑑賞の発達を基準とした。(ア) ことがらを正碓に読み取る段階、(イ) ことがらを関係的、事件
 的に読み取る段階、(ウ) 場面・情景・心理・心情などを読み取る段階、(エ) 内面的な精神(主題など)などを読
 み取る段階。
 これらのものさしを基準として、各技能を配分した。

(4) 基本的知識・理解の体系

 国語教育の内容としての知識・理解というのは、言語要素(ことばに関する事項)と、国語の能力に対する知識・
理解とをさしている。ここでは、言語要素と文学作品についての知識・理解とについてまとめた。言語要素について
は、はんざつなのでここでは省略した。
1 基本的知識・理解の体系

基本的な知識・理解  低 学 年  中 学 年  高 学 年 
一 作品の構成を
 理解すること。 
1 事件の順序がわかること。 1 筋の展開がわかること。
2 作品のクライマックスがわ
 かること。 
1 主題の展開としての構想が
 わかること。
2 作品の構成に気づくこと。
二 表現について
 理解すること。 
1 会話のことばがわかるこ
 と。
2 好きなところ、おもしろい
 ところがわかること。 
1 リズミカルな表現がわかる
 こと。
2 細かな詳しい表現がわかる
 こと。 
1 表現のリズムの違いがわか
 ること。
2 気持ちや情景の的確な表現
 がわかること。  
三 言語要素につ
 いて理解するこ
 と。 
1 語句の具体的な意味を理解
 すること。 
1 文脈に即して語句の意味を
 理解すること。  
1 終助詞によって微妙な気持
 ちがわかること。
2 語感を養うこと。

 以上文学経験の処理能力(読解鑑賞力)の全体構造と体系を示した。
 文学作品を読むことによって、人間性の開発・伸長を期するとともに、前掲の諸能力を確実に身につけて、文学作
品の読み方を指導しなければならない。


       6 文学経験の指導過程

 ここでは、文学の学習指導過程を編成するうえの、基礎になる考え方について述べる。

(1) 構え−感動−理解−感想−行動

 文学を読むことは、文学を経験することであるという立場に立って、その経験の過程を学習指導過程編成の基準と
する。前節に詳しく述べたので、ここでは省略する。                              293
          6 文学経験の指導過程
          第6章 文学指導の近代化
(2) 鑑賞――理解――感想・批判                                 294

 これは、文学を鑑質し、理解するという観点に立って学習過程を考える場合。学習過程を鑑賞―→理解―→感想・
批判のように組織する。戦前には、理解――鑑賞――創作という教授過程の基礎理論があった。私は戦後の鑑賞・理
解についての研究の結果を取り入れて、前記の過程をとっている。これは、前節に述べた文学経験の学習過程とも一
致する。

(3) 全体−分析−総合

 読解の文章法(センテンスーメソッド)的立場・認識論的立場に立って、読解の方法を考える場合。全体的な読み
――分析的な読み――総合的な読みという過程をとって、作品に接近する。これは別の言い方をすれば、感動(第一
次)――理解――感動(第二次)の過程をとる。垣内氏の直観――自証――証自証という過程でもある。

(4) 主題−構想−主題

 これは、作品の主題を追求する立場をとった場合。文学指導の立場に立った場合。主題をとらえる、主題の展開と
しての構想を明らかにする、主題を確かにする三過程をとる。

(5) 目的・追求・獲得・適用

 これは、学習者としての児童の主体的立場に立って考える場合。目的を持つ。目的を追求する。目的を達成する。
身につけたものを評価し適用する。これは、新しい立場である。戦前には全く考えられていなかった.

(6)  思考過程−課題性・即物性・一貫性・生産性

 これは思考過程を基準とする立場から立てる場合。思考の四つの特性(課題性・即物性・一貫性・生産性)を考
え、それを生かすような指導過程を編成する。思考過程そのものについては、いろいろな考え方がある。
 以上、文学の学習指導過程を編成する上の基礎になる考え方と過程について述べた。私は、これらの理論のどれを
も受け入れ、どれからの批判にも堪えられる学習指導過程を編成して、それを「基準指導過程」とした。読解にも、
作文にも、話すこと・聞くことにも適用できる抽象度の高い学習指導過程である。
それに基づいて、一段と抽象度を下げた、具体的に学習活動を編成した、「実践指導過程」を考えている。
つまり、「基準指導過程」の考え方に従って、「実践指導過程」を編成するのである。
これについては、「第三章学習指導過程の科学化」に詳細に述べてある。
なお、この学習指導過程を要素的に分析してみると次の過程を含んでいる。

(1) 生活過程――生活的、価値的な目的を持つ――生活
(2) 方法過程――計画・方法・技能――――┐   |
(3) 経験過程――追求          |   |
 (ア) 感動過程             |   ↓
 (イ) 理解過程             ├――学習
 (ウ) 批判過程             |   |
(4) 能力過程−能力の学習・練習     |   |
(5) 評価過程−獲得・検討ー―――――――┘   ↓
(6) 適用過程――適用・読書生活――――――――生活
 この六過程は学習指導過程の基本構造である。                               〜296〜


       7 文学経験指導上の問題点

(1) 童話の指導―― 一年生

 一年の童話指導をした際、問題になった点について述べる。
1 能力の発達に応ずること
 一年生九月ごろの読解力の発達について、指導案に、「語や文として読むことができるものは、三分の一ぐらいし
かない。あとは拾い読みである。」と書いてある。この実態を考えると、一年生に、場面を想像する、気持ちを想像
するというような高度の指導ができるかどうか疑問である。ポツリポツリと拾い読みをしたり、つかえて読めないよ
うな児童には、その意味を、ことがらを読み取ることさえむずかしい。そこで、児童の読解力の発達に即して、学習
事項を考え、指導計画を立て、指導法を考えないと、無理ができる。それだけでなく、かえって読めない児童を作る
原因にもなる。
2 書かれていることがらをはっきり読み取ること
 一年生の読みの実態、たとえば、「かにとたこがじゃんけんをしました。」と読むと、わからない語のないかぎり、
「かにとたこがじゃんけんをした。」という事実が認識される。そのようなまとまった観念が得られるこのことが一
年生の読解指導ではだいじである。ことばを読んで、そのことばの表わしている意味、ことがらを確実に読み取るこ
とが根本である。このことは、簡単にできそうでできにくいことである。語や文を読むそのことが、つまり、ことば
の刺激に対して反応することが、それ自体むずかしいのである。
 そこで、場面を想像するとか、気持ちを想像するとか言っても、まず、文を読んで――ことばの刺激に反応して――
そこにある事実・観念を得ることが前提である。 書いてあることを確実に読み取ることをしないで想像させるので
は、ほんとうの童話の読みにはならない。
3 場面・情景ということ
 場面と情景は、全体的、立体的なものである。その全体的、立体的なものから、感じられる美しさとか、明るさと
か、緊張感とか、楽しさとかいうものを読み取るのが場面や情景の読み取りである。場面や情景を構成している要素
を分析的に読み取ることではない。そこで、場面を全体的に読み取って、その場面を心に描くことが、一年生にでき
るかどうか疑問である。
 たとえば「かにはまたはさみをだしました。たこはまたいしをだしました。たいはひれをじょうずにふってかみを
だしました。」を、拾い読みして、三びきがじゃんけんをしている全体的な場面を頭に描く、つまり、表象を作るこ
とは困難である。一年生では、そのような場面の表象を作ることよりも、かにははさみを、たこはいしを、たいはか
みを出した事実が認知されればそれでいい。
 したがって、「頭の中や心の中に絵を書く。」という学習活動は無理だと思う。そこで、挿絵があって、視覚的に
全体場面をとらえるようになっている。この挿絵のような場面を想像させることは無理である。           297
                 7 文学経験指導上の問題点
                 第6章 文学指導の近代化
 児童の読み取るものは、かにがはさみを出したという事実、たこがまた石を出したという事実、たいが、ひれを振  298
って紙を出したという事実である。個々に読み取ったことを、全体的総合的にまとめて表象を作るような読みはでき
ない。
 まとまった文章を読ませても、部分的、個別的にしか反応できないのが一年生の読みである。
4 一年生の読みにおける想像ということ
 一年の子供たちに読んで想像させるとか、気持ちを感じさせるとか、感情状態にはいらせるとかいうことについて
考えてみたい。
 一年生の想像は、前に述べたような全体的な広い場面・情景などについて行なわせるものではない。たとえば「ぼ
くがかったよとたこがいいました。」というような一つの事実について想像する。想像の単位は、語や文程度の、し
かも単純なものである。たこはどんないばりかたをしたか、ぼくが勝ったよとどんな言い方をしたかなどを、実際に
言わせたり、動作化したりして、想像したり、その時の気持ちになったりすることはできる。しかも、それが過去に
経験したことがあれば、その具体的な経験をもとにして想像する。再生的想像が行なわれる。自分はじゃんけんをし
たことがある。そして勝ったことがある。その経験があれば、たこが勝った時の気持ち、その時の様子などを想像す
ることができる。
 次に、「そこへたいがきました。『ぼくもなかまにいれてね。』と、たいがいいました。」という文がある。自分
も遊びの仲間に入れてもらった経験があるから、その過去の経験をもとにして、たいが仲間に入れてねと言った気持
ちや様子を想像したり、その時の気持ちを感じたりすることができる。
 一年生のころの子供たちの読むおもしろさは、読み取ったことがらに対するおもしろさである。「うさぎがぴょん
とはねました。」という文のおもしろさは、読み取ったことがらに対するおもしろさである。そのこと自体がおもし
ろいのである。ぴょんとはねた事実の裏にある意味、 うさぎの気持ち、 それを読み取って感ずるおもしろさではな
い。
 要するに、一年生の読解における想像や感情移入は、経験的現実・事実に基づいて想像したり感情状態にはいった
りする程度の想像である。それは、全体的、総合的な大きな場面ではなく、部分的なことがらについて行なわれると
考えてよい。これが表象作りの単位である。
5 動作化ということ
 劇指導の前段階としての動作化ということがある。ここでは、読解過程における動作化・行動化について述べる。
一般に動作化は次のような場合に行なわれる。
(1) 語や文の意味を理解するために動作化する。
(2) 語や文の意味を確かめるために動作化する。
(3) 語や文の意味をいっそう深めたり、語感を育てたりするために動作化する。
(4) 語や文の意味が理解できたかどうかを評価するために動作化する。
(5) 理解した語や文の意味をことばで表わすことができない場合動作化して示す。
 動作化は、読んで理解したことを確かめるため、いっそう確実にするために行なわれる場合がある。その動作化を
見て、まだ理解がじゅうぶんでないと思ったら、もう一度もとの表現にかえって読ませてみる。そしてまた、動作化
させてみる。
 また、ある程度意味がわかっているけれど、もっとその語のニュアンスなり、表情なりをはっきりさせるために、  299
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章文学指導の近代化
動作化する場合もある。
 また、語や文の意味がわからない場合、動作を通して、その語や文の意味を理解させ、感じさせることもある。   300
 要するに、動作化は、読解を助ける一つの方法であるから、それをうまく使って読解を確かめたり、深めたりする
ことがだいじである。動作化のための動作化、つまり、動作化が目的になってしまってはならない。動作化自体に興
味を持ち、楽しんでしまって、動作化のねらいが達成されず、時には、学習を中断してしまうことなど珍しくない。
6 読み方を指導すること――文学経験のしかたを指導すること
 文学作品を読ませる場合、文章の読ませ方、ことばの経験のさせ方を指導することがだいじである。これまでの文
学指導では、児童にいかに文学を経験させるかを指導しないで、児童が読み取ったこと、知識なり、思想なり、感想
なりを扱う――話し合うことが多かった。したがって、いつも授業がすらすらと表面をすべっていく感じであった。
それは、教師の文学学習における技能性の自覚が足りないためであると思う。どのようにして文学を経験させるか、
文学を経験するためには、どんな技能が必要か、どんな精神活動が行なわれるかを確認した上で指導法をくふうする
とよいと思う。
7 読解力の実態の上に立つ授業
 従来、教材研究はしたが、児童研究、 つまり、 児童のその単元あるいは教材の学習能力の実態をはっきりつかん
で、それに応じた指導計画を立て、指導法を考えるという面が少し欠けていた。
 この指導案の終わりのほうに、読みの実態調査の結果が載せてある。それによると,「私は妹のひろ子と学校ごっこ
をしました。」と、いうように「文として読む児童」と、「私は――いもうとの――ひろ子と――がっこうごっこを
――しました。」というように、語として読むが、文のまとまりとして読めない児童、「わ・た・しは・い・もうと・
の……」というように一字一字拾い読みをする児童がいる。そして、「文として読む」ことができる児童が、三三人
中一〇人、約三〇%、「語として読む児童」が一三人、約三九%、「拾い読み」をしている児意が一〇人、約三〇%と
なっている。
 次に調査の文章の内容を読み取っている児童が一四人、約四二%、じゆうぶんではないが正答に近いものが五人、
約一五%、誤答・不答が一四人、約四二%となっている。これが、この組の読みの実態である。なお、この調査の結
果「音読できたから書いてあることが読み取れた、理解ができたということにはならないことが立証された。」と書
いてある。
 音声化できれば、すぐに内容が理解できるはずだと考えてはいけない。特に一年生は、その点を警戒しなければい
けない。そこを軽視すると、一学期にはよくできたが、二学期になったら急にできなくなったという嘆きをよく聞く
ようになる。
8 発間のしかた
 一間一答が悪いとばかりは言えない。読解力の実態に応じて適切に使えばよい。一年生の九月ごろは、考えながら
読む。何が書いてあるのかを確実に読み取る。そのような態度や習慣をつけなければならないから、一間一答であっ
てもいい。ただ問い方には問題がある。先生は、児童に「石です。」と答えろことを期待して、「たこは何を出しまし
たか。」と聞いた。児童は「たこは足の先をまるめて石を出しました。」と答えた。先生は、たこが出したのは石であ
ることを認識させようとしたが、なかなか石だという答えが出てこない。問いに対する適切な答えが得られない。こ
のような答え方は高学年になってもある。そこで、もし、「石です。」と答えさせたいなら、「何を出しましたか。」・と
聞かないで、「たこが出したものはなんですか。」と聞けば、「石です。」というように答える。低学年では、特に発問  301
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章文学指導の近代化

のしかたがだいじである。
9 読むことと書くこと
 文字を書く練習を読解学習の途中に入れると思考を中断してよくないという意見と、書くことをもっと入れたほう
がいいという意見があった。
 これは、なんのために書くかという問題と、学習過程のどこで、いつ書くかということを考えなければならない。
読みを確かめる、文として読むことを確認する、読み取ったことを明確にする、読み取った結果を評価する、個人学
習・個人指導をするなどのために書かせるのであったら、そのような読む活動をさせたあとで書かせる。
 たとえば、「たこはどんなふうにして、何を出しましたか。」と聞いたとき、「あしをまるめて、石をだしました。」
と答えたら、「では、そのことをノートに書きましょう。」と言って書かせる。書くことによって、読み取ったこと
を確認する。その文型に対する感覚を育てる。その間に個人指導をする。評価をすることもできる。それに基づいて、
その後の指導法をくふうする。
 ところが、学習活動と学習活動との間に、文字を書く練習を入れたので批判が出た。じゃんけんを中心にして読み
進め、考えさせていく中に、急に文字の練習を入れて、児童の注意を文字に向け、そちらに心をそらしてしまって、
また読みにはいった。この場合、文字を書く練習をする必然性がない。もし、練習が必要なら別のところでしたほう
がよい。
10 童話の指導過程の一例
 第一時
 全体を一、二度読み通して、おもしろいと思ったところはどんなところかを話させる。
 児童は、「勝ったよといばったところがおもしろかった。」「たこが足の先をまるめて出したのがおもしろかった。」
「なんべんやっても勝ち負けが決まらなかったこと。」などいろいろなことが話される。それを、どこにそう書いて
あるかを確かめながら、さらに全文を読む。(全体的な読み。印象をつかむ。)
 第二時
(1) きょうもじゃんけんのおもしろい話をもっと勉強してみよう。この前おもしろかったことを、もう一度読んでみ
ようと言って、最後まで音読させる。
(2) 全体を読んだあとで、まず、かにとたこがじゃんけんをした事実を読み取らせる。そして、じゃんけんの場面を
 構成させる。(分析的な読み。ことがらを正確に読み取る。)そこで、「だれとだれがじゃんけんをしましたか。」あ
 るいは「初めにじゃんけんをしたのはだれとだれですか。」と発問する。「かにとたこがじゃんけんをしました。」
 と答える。「では、そのことをノートに書きましょう。」と言って書かせ、同時に板書する。短冊カードでも結構。
 こうして、かにとじゃんけんをしたという事実を、書くことによって確認する。
(3) 次に、「どちらが勝ちましたか。」と発問する。「たこが勝ちました。」と答える。「たこは勝ったときなんと言い
 ましたか。」に対して「『ぼくが勝ったよ。』と言いました。」と答える。それを音読させて、「たこがいばりました。」
 という事実と結びつける。たこが勝ったという事実を読み取らせると同時に、たこがいばった様子と気持ちを想像
 させる。たこはどういうふうにいばったか、ぼくが勝ったよと言って胸を張って見せる。この所を言わせながら動
 作化させる。そして、具体的に勝った様子、いばった気持ちを想像させる。
(4) 次に、かにははさみを出した。たこは足をまるめて石を出したということをはっきり読み取らせる。要するに、
 かにとたこがじゃんけんをしたというまとまりをつける「そこへたいがきました。」ことを読み取らせてノートに  303
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化
 書く。板書する。
 これから次の場面が展開する。
 ここで、読み取ったことを書く作業をたくさん入れるが、この文型は、一年生の七月ごろ学習する基本的な文型で
ある。「○○が○○をしました。」「○○と○○が、○○をしました。」このような文型を書かせて、読みや読み取りを
確認し、文型に対する感覚を育てていく。これによって、学習の個別化・評価なども可能になる。

(2) 童話の指導――二年生

1 想像するということ
 想像するということは、具体的に言うと、「もうくろは、うまれてからまだ三か月のあかちゃんです。はなのさき
と、しりが白いほか、あとはまっくろです。」ともうくろのことが書いてある。これを読んで、もうくろは、こうい
う牛だという事実を読み取る。いわゆる事実認識をする。そういう事実をもとにして、もうくろの姿を頭の中に描い
てみる。そうすると、まだ見たこともない、鼻の先としりが白い、あとはまっ黒な子牛の姿が頭の中に描かれる。そ
れができるのは想像のおかげである。このように、書いてあることばを手がかりにして、その子牛の姿を具体的に描
いてみる。子牛のイメージを描いてみる。その時に想像力が働く。このように想像する場合には、かつて自分が見た
子牛、大体あんな形をして、あんな歩き方をして、あんな鳴き方をするなどのことがすでに見てわかっている。それ
を手がかりにして、まだ見たこともない、鼻の先とおしりの所が白く、あとはまっ黒な子牛の姿を描く。要するに、
過去の経験による具体的事実を手がかりにし、想像してイメージを作る、新しい表象を作る、それが想像である。
 それから、経験的事実だけではなく、すでに得ている知識、絵で見たり、話しに聞いたりして得た知識、また、文
章を読んで子牛ということばが出てきて、そのときに子牛について描いた表象、それらを手がかりにして、そこに一
つの新しい表象を作っていく。それが想像である。
2 表象ということ
 子牛ということばを聞いて、子牛の姿がほうふつとして頭に浮かぶ。それが子牛の表象である。子牛を見たり、絵
で見たりして、その姿・形が印象づけられ、やがて、子牛の姿を直接見なくても、その姿を思い出して脳裡に描くこ
とができるようになる。それが子牛の表象である。
 「イタイ」という音声を開くと、すぐに、「痛い」ということばと結びつく。それは、「痛い」ということばの音声
表象ができているからである。「フジサン」という音声を聞くと(音声刺激を受けると)、「富士山」ということばと
結びつき、富士山の姿を思い浮かべ、脳裡に描くことができる。だから、その脳裡に描いた富士山をクレヨンで紙面
に写せば、富士山の姿を(富士山を見ないで)描くことができる。これは、「フジサン」という音声表象と「富士山」
ということばが結び付き、同時に富士山の視覚表象と結びついてその姿が描かれるのである。
 私どもが、 「雪」という文字を見ると、 直ちに「ユキ」と読むことができ、「ユキ」という音声を聞いて直ちに
「雪」と書くことができるのは、「ユキ」という音声に対して、「ゆき」という語が結びつき、「ゆき」という語に対し
て、「雪」という漢字が結びついているからである。
 つまり、「ゆき」ということばの音声表象「ユキ」ができており、同時に、「ゆき」に対する「雪」という文字表象
(視覚表象)ができているからである。文字を覚える、漢字を覚えるということは、その文字の音声表象(音・訓の
読み)に対応する文字表象(視覚表象)を作ることである。そのような視覚表象が、音声刺激に対して、機械的に反
応できるようになったとき、それが技能として身についたことになる。                      305
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化
3 想像・推理・推測
 想像については前に述べた。推理は、概念・判断・推理という思考過程における一つの精神活動である。すでにわ   306
かっていること(判断)をもとにして、まだわかっていないことをあれこれとおしはかることである。
 「(1)風はいよいよ勢いを加えて吹き荒れている。(2)雲も動きをいっそう速め、しかも厚味を加えている。」という文
章を読む場合、まず、(1)の文を読み進めるに従って、「風は、いよいよ、勢いを加え……」というように語の概念(意
味)を得、その概念と概念との関係(語の意味相互の関係)を判断して一つのまとまった観念(風が勢いを加えて吹
き荒れているという事実)が成り立つ。それに加えてさらに、(2)の文によって、概念(ことは)相互の関係を判断し
て一つの観念が加えられる。(雲が動きを速め厚みを加えたという事実。)
 このように明らかになっている二つの事実に基づいて考え、これから先の天候は、雨になるだろうと、未来のこと
を筋道を正しておしはかる。それが推理である。このように推理する場合には、当然想像も働く。いわゆる生産的思
考はこの推理の結果によることが多い。推理は、心理学・哲学上の術語である。
 推測・推量などは、文字どおりおしはかることである。あの人はこんなつもりで言ったのに違いない。これまでの
ことを考えると、この先はこうなるであろう、この文章の主題は親子の愛情であろうなど、未知のこと、将来のこと
などに対して、前もって判断することである。したがって、この推測・推理の結果は、その後の思考・研究・検討・
討議などによって承認されたり、修正されたり、変更されたりすることが考えられる。予測する、予想を立てる、見
通しを立てるなども同様に考えてよい。
 文や文章について考えてみると、このような役目をするのが陳述の副詞である。「けっして」と言えば、否定の語
が結びにくる。したがって、「けっして」という語を読むだけで、その語の思想の展開が予測できる。「たぶん・た
とえ・おそらく」など、それぞれの語のあとの論理なり、事実なりが推測・推定できる。いわゆる予測のことばとい
うのがそれである。
 また、前を受けて、そのあとを起こす接続詞や接続語などもその働きを持っている。感動詞「はい・いいえ」など
も同じである。
4 二年生の読解と想像
 低学年の段階では、そこに書いてあることがらを正確に、はっきりと読み取ることを学習の中心にしなければなら
ない。それを手がかりにして、想像させる必要のあるもの、想像できるものについて想像させる。
 指導案に、「てるおの気持ちを想像すること。」「てるおの生活を想像すること。」というのがあるが、これは無理で
はないかと思う。
 場面や情景は広がりがある。全体構造的、立体的で複雑である。低学年の児童には、そのような場面や情景を全体
的に把握して、聞いたり、話したり、読んだり、書いたりすることはほとんどできない。説明的に表現したり、説明
的に判断したりすることはむずかしい。そのような能力が発達してくるのは三年生ころからだと思う。
 低学年では、そのような場面や情景(そのような文章は、低学年の児童の読み物として必ずしも適切ではない。)
を組み立てている個々のことがらをポッリポッリと読み取っていく。または書いていくのが実状である。そのような
個々のことがらを全体としてまとめて読み取ったり、説明したりすることは非常にむずかしい。したがって、全体的
な気持ちや場面や情景を想像するというのではなくて、ことばや文に即して想像する程度にすべきである。それもそ
の必要のある時である。うれしいということばがあれば、それを手がかりにして想像させる。子牛の鼻が白く、おし
りが白くて、あとはまっ黒だという事実に基づいて、その子牛の姿を想像してみるという程度にすべきである。    307
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化
 低学年で、場面や気持ちを想像するということをあまり強調すると、具体的な事実から離れて、書かれていること  308
がらから離れて、勝手な想像をさせることになってしまう。それよりも、低学年では、書かれていることがらを正確
に読み取る指導がだいじである。
 想像することと、事実認識とを関係的にみていけば、低学年では、書かれていることがらを読み取る、つまり、事
実認識を中心にする。三年生のころになって、事実の読み取りを中心にして、それをさらに広い場面なり、情景なり
に移していく。場面や情景を全体的に読み取ることを中心にして想像させる。 高学年では、 事実を読み取るととも
に、その事実の裏にある意味がかなりはっきりわかってくる。抽象化できるようになる。このような能力の発達に応
じた想像のさせ方をしないと、文学作品を経験させることはむずかしい。
5 童話の学習能力について
 二年生の童話教材を学習する能力の実態が指導案に載せてある。それは、「赤いろうそく」の三時間めの読解につ
いて調査したものである。
(1) 気持ちを読み取る力――さるの気持ちのわかったものが、49人中6人、12%。
(2) 童話の内容を全体的に読み取っているものが、49人中9人、18.4%。
(3) 童話の内容を部分的に読み取っているものが、49人中38人、77.5%となっている。
(4) 「おもしろかったこと」として、児童が読み取っていることは、アさるがろうそくを花火と思いこんだこと、
 イ かめの首がひっこんでしまって出て来なかったこと、ウ 草むらに飛びこんで耳や目をふさいだこと、エ い
 たちがきょろきょろしたこと、オ ポンとも言わずろうそくが燃えていたこと、などである。
 これらの調査の結果は、二年生の童話の学習能力の実態をよく表わしている。場面や気持ちを読み取る能力の実
態、童話を全体的に一つのまとまった話として読み取ること、主題を読み取ることなどの能力の発達していないこ
と、二年生の「おもしろいこと」の内容とその読み取り方の実態などを如実に物語っている。特に、おもしろいこと
について,具体的な事実そのもののおもしろさ・に着目していること,しかも、それらが孤立的にとらえられているこ
と(関係的にとらえられていないこと)などは、注目すべきことである。
6 童話への接近のさせ方
 童話にどのような構えで接近させたらよいか。この授業では、次の点から作品に接近させ理解させようとした。
(1) どんな人が出てくるか。――てるおと先生とみんな。
(2) いつ、どこのお話か。――てるおの学校、四時間めの国語の時間。
(3) どんなことが起こったか。――牛の声がした。
(4) てるおはどう思ったか。――もうくろの声に似ていると驚いた。
(5) 驚いたことがどこでわかるか。
(6) どうして驚いたか。
 このような過程で、この童話に接近して行ったが、童話への接近のさせ方として適切ではないようである。あまり
に知的に接近させすぎる。 この童話は、 だれが、いつ、どこで、どうした、というような構造を持った童話ではな
い。したがって、そのような観点から読解していけば、よくわかるような童話ではない。また、そのような観点から
読解させたのでは、学習がばらばらになってしまって、童話の読みの態度が養成されない。

3) 詩の指導――三年                                        309
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化
1 鑑賞と理解ということ                                          310
 はじめに鑑賞と理解の本質的な違いについて考えてみる。
 「子供がころんだ。」という文を読んで、――そのような言語刺激を受けて――子供がころんだということを知っ
て、それにどう反応するか、反応のしかたの型を分けてみる。
 第一は、ころんだのはだれか。けがをしたかしないか。傷は浅いか、深いかというように、情緒的に、知的に受け
止める型がある。つまり、知的に反応する型が考えられる。
 第二は、子供がころんだ、かわいそうにどんなに痛かったろうというように、情的に受け止める型がある。つま
り、情的に反応する(感情状態になる)型が考えられる。
 第三は、子供はどしんところんだのかな、強くころんだのかななどと感覚的に受け止める型がある。つまり、感覚
的に反応する型が考えられる。
 このように、文を読んで――ことばの刺激を受けて――知的に反応する型、情的に反応する型、感覚的に反応する
型などがある。この反応の型のうち、情報的、知的に反応する型は、知的理解の方向をとる。これに対して、感情的
(感情移入)、感覚的(感性的)に反応する型は鑑賞の方向をとる。つまり、感情的、感覚的、想像的な反応が鑑賞の
基礎である。そこで、鑑賞力を分析すると、言語刺激に対して想像する力、感情移入をする力、感覚を働かせる力、
に分けることができる。このような力が総合的に働いて鑑賞は成り立つものと考えられる。これが文学経験である。
 かめ
 瓶にさす藤の花ぶさ短ければ畳の上にとどかざりけり
 これは正岡子規の歌である。これを読むと「花瓶にさした藤の花ぶさが短いので、畳の上まで届かない。」という
事実はわかる。事実認識はできる。しかし、それはあたりまえではないか、それがどうしたというのだろうというよ
うに、知的にしか反応できない人がいる。事実を理解することしかできない人がいる。
 また、この写実的な、的確なゆるみない表現を通して、ほうふつとしてその姿を思い浮かべ、葉の緑、花の紫を想
像してそこに美を発見する、美を創造する人もいる。
 あるいは、花瓶の藤の花ぶさをじっと見つめている作者の姿に、作者が藤に注いでいる深い愛情までも感じ取る人
もいる。
 この歌の受け止め方、反応のしかたには、やはりいくつかの型がある。そのうち、感性的、心情的に反応する型の
上に鑑賞は成り立つものである。知的に反応するところには鑑賞は成り立たない。
 法隆寺の百済観音、私はいつもあの少しうつむきかげんな、すらりと高い姿に、飾り気のない清純さ・けだかさ・
つつましさ・親しさをしみじみと感じる。ほんとうに拝するたびに深い感動を覚える。
 このように、刺激に対して心情的に感覚的に反応するところに鑑賞は成り立つ。この私の感動を反省し、分析して
みると、それは、わずかに傾いている頭部、後頭部からかかとにかけて伸びている垂線を中心にして、前方に差し出
された両手の角度、肩から裾にかけて流れるような裳の線、衣のひろがり、それらが実によく調和している。いささ
かの不安も感じさせない。これも一つの知的な見方、仏像の構造的な見方であって、これによって私はその全体構造
を理解し、そのすぐれた技術に驚嘆の目を見張る。こうして、 私は、 仏像の外部構造を線と面、マスとして理解す
る。このように仏像を構造的に理解しても、私の最初に感じ取った情純さ・つつましさなどはさらに深まることはな
かった。鑑賞はそれによって左右されない。むしろ、分析して知的に理解したことによって、その点が強く意識され
て、その後の鑑賞を妨げたのではないかとさえ感じる。このように、知的に反応するのと、心情的、感覚的に反応す
るのとでは、質的な違いがある。一方、知的に深まれば、他方、情的に深まるものではない。相互関連的に深まるも  311
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

のではない。これが、現在までの私の考え方である。ここに鑑賞と理解の本質的な相違があると思う。        312
2 詩に対する児童の反応と詩の指導
  おかあさんのたいいん               あたりはしんとしずかだ。
 でんぽうがきて                   とおくで犬がほえている。
 おとうさんとふくおかへ行った。           「一つ、二つ、三つ、四つ……。」
 おかあさんは元気になったかな。           百かぞえると、手がだるくなった。
 長いろうかをとおって                「おかあさん、もういい。」
 びょうしつにはいった。               ときいたが、返事がない。
 二か月ぶりにおかあさんを見た。           そっとのぞいてみると、
 わたしははずかしかった。              おかあさんはいつのまにかねむっていた。
 そして、とてもうれしかった。
                            母の日
  かたたたき                    母の日なので、
 「かたをたたいて。」                プレゼントをしてあげた。
 と、おかあさんがいった。              おかあさんはだまって、
 「はい。」                     なきそうなかおで、わたしを見た。
 といって、うしろへまわった。            わたしはスカートで
 夕ごはんのすんだあと、               かおをかくしてしまった。

 この三編の詩を読んで、児童はどのように反応したか。先生は、それぞれの詩について、どこが好きか、好きなと
ころに線を引かせた。その結果を発表した児童が八人いる。この八人が線を引いたところを見ると、そこに型がある
ことがわかる。
 「かたたたき」では、「かたをたたいてと、おかあさんがいった。はいといってうしろへまわった。」に線を引い
た児童がいる。すぐに言うことをきいてやったのがよいというのである。もうひとりは、「母の日」の「母の日にフレ
ゼントしてあげた。」がいいという。前のと同じ型である。これらは、観念的に、倫理的に反応した児童たちである。
 これに対して、「母の日」の詩で、「わたしはスカートで顔をかくしてしまった。」ここに線を引いた児童もいた。
それから、「おかあさんのたいいん」の詩で、「二か月ぶりにおかあさんの顔を見たとき、わたしははずかしかった。
そしてうれしかった。」のところに線を引いた児童もいた。心情的に反応している児童である。感情移入をしている
児童である。また、「かたたたき」の詩で、「あたりはしんとして、遠くで犬がほえている。」に線を引いた児童もい
る。あたりはしんとして犬が吠えている。その静けさに感じた児童である。これは感覚的に反応している。
 このように知的に観念的に反応する児童、心情的に反応する児意、感覚的に反応する児童がいる。そこで、鑑賞指
導というのは、何よりもまず、児童たちの心情的、感覚的反応を重視し、知的、観念的に反応する児童を、しだいに
心情的、感覚的に反応できるようにする。つまり、鑑賞できるように育てていくことである。
3 詩の鑑賞指導
 詩の鑑賞指導では、(1) やさしい詩(児童の鑑賞力に応じた。)で、(2) しかもすぐれた詩を、(3) 数多く読むと
いうことが原則である。一年に一編や二編の詩を読ませただけでは、鑑賞力は高まらない。この授業のように、一時
間に四編の詩を読ませたことは、そういう意味でよかった。                           313
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化
 鑑賞指導でだいじなことは、鑑賞の結果をめいめいに言わせることである。同じ詩なのに人によっていろいろな感  314
じ方をする。他の人の鑑賞を聞いて、いろいろな感じ方、その浅さ・深さのあることを感じ取るようにする。そうし
て詩の味わい方を感得させる。
 全体的に直観的に読んで、その詩の情景を頭に描く。場面を想像する。ある感じを持つ。心情を感じる。感動を覚
える。躍動・リズムを感じる。それらは、あくまでも全体的、総合的な読みである。局部を強調したり、部分を取り
出した分析的な読みは避けなければならない。詩は、一編だけを鑑賞するよりも数編の詩を読みながら比較するほう
が鑑賞しやすく、また、有効である。
4 詩の鑑賞の指導過程
 従来、詩の鑑賞は、理解から鑑賞へという指導過程を組んでいた。まず表現されていることがらをじゅうぶん理解
させてから鑑賞するという方向をとっていた。
 しかし、前に述べたように、理解と鑑賞とは本質的に異なっている。しかも、理解を越えて鑑賞は成立する。理解
とは別に鑑賞力は働くことが明らかにされている。
 そこで鑑賞の指導過程は、鑑賞、鑑賞、鑑賞、つまり、鑑賞に始まって鑑賞に終わるべきだと思う。ところが、現
在の教科書の詩教材では、詩の学習を通して、文字・語句の学習を計画している。ことばの教育を考えている。だか
ら鑑賞、鑑賞だけで学習を終わるわけにいかない。鑑賞から理解へという指導過程を取らざるを得なくなっている。
 その詩から得た感動、その語によって描いた表象、それをさらに表現に即して確かめていく。分析していく。その
感じは、この語、この文によく表わされている。その情景は、この語句、この文で的確に表現されている。情景・場
面・心情・感覚・リズムなどを分析して確認する学習を計画しなければならないようになっている。

(4) 物語の指導−四年

1 文学経験をさせること
 小学校の文学指導のように、心情や感覚に訴える学習、つまり、文学経験をさせる学習においては、いかにすばら
しい技術を駆使して、活発な学習活動が行なわれても、それが想像を刺激し、感情を刺激し、感覚を刺激して、心情
に訴えるものがなければ、心を動かすものがなければ、学習の価値は薄い。
 それは、作品に知的に接近し、客観的に正確に読解する、いわゆる科学的な文章の読解とは異なっている。
 童話や物語や脚本などを読むときにたいせつなことは、作品を知的に理解することではなくて、――あら筋はこう
だ、人物の性格はこうだ、気持ちはこう変わったなどというように――それらを手がかりとして、それらを刺激とし
て、想像したり、感情状態にはいったりする。つまり、内部経験をすること、作品が訴えているものに感動すること
である。
 「おかあさんの手のひら」の学習で、「なるほど、おかあさんの手は、えこひいきがないんだなあ。」と感じて捧げ
る母への恋慕の情に感動し共鳴するところがなければならない。表現を通して、書いてあることがらをもとにして、
想像したり、感情を働かせたり、考えたりして、表象を描いたり、心を動かす学習がなければならない。
 たとえば、「おかあさんはどんな人か。」の問いに対して、「働くことの好きなおかあさん」「くわを持って山へたき
ざを取りにいくおかあさん」と、知的に、観念的にわかっても、それではじゅうぶんではない。「お天気さえよけれ
ば……」働き続ける母を見落としてはだめである。このようなことばを手がかりにして、働き者のおかあさんを描い  315
てみる。
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

 また、「おかあさんの手はどんな手か。」の問いに対して、「ふしの高い、指の太い、ひふのかたいおかあさんの手」  316
という答えだけではじゅうぶんではない。これらの表現を通して、ごつごつしたおかあさんの手を想像してその表象
を心に描いてみ、その表象から働き手のおかあさんを感じる。それができてはじめて、「でも、やさしくて、きよう
で、えこひいきのない」の「でも」のことばも生きてきて、おかあさんの姿がはっきりと印象づけられ、実感として
心に訴えてくるのである。
 こうした学習によって、心情につちかい、感覚をみがくことができ、その基礎としての想像力を伸ばし、感受性を
育てることができるのである。それと同時に、情景・場面を読み取る力、人物の気持ちや心理を読み取る力などの文
学作品読解・鑑賞の技能が養われる。
 っまり、心情を育てることと、その基礎能力としての想像力・感受性、さらに鑑賞の技能などが一体として機能的
に学習されるのである。
2 文学作品の読解・鑑賞と発問
 文学作品の読解・鑑賞の中心の部分の発問を順を追って記録した。
(1) はじめに、たきざをしょいに行ったときの様子を調べましょう。どこまで読めばいいか。
(2) そこまでを読んで、たきぎ取りに行ったときの様子が現われている所を見つけなさい。(黙読二分)
(3) 大体どんなところ。(答えなし。)もう少し読んで。(黙読一分)
(4) どうでしょうか。(答えなし。)先生の言い方が悪かったかな。一つは島の様子、もう一つはたきぎ取りがこん
 なふうに楽だったとか、ほねが折れたとか、二つに分けて読んでください。
(黙読二分)
(5) 島の様子がわかった人。(山がどっかりとすわりこんでいる。)
(6) 島の大きさはわからなかったか。(答えなし。)山がどっかりとすわりこんでいるとどこに書いてありますか。
 読んでみてください。(その部分紹介読み。)
(7) 山の形は大体わかったでしょう。そうすると、今度はしょい出しに行くのでしょう。どんな仕事ですか。(くろ
 うな仕事。)
(8) くろうな仕事だということがどこでわかりますか。(山坂を登ってたきぎ取りに行く。山は四キロメートル。平
 らな道を車を引いて走るのとちがって、くろうな仕事だった。)
(9) そんなにたいへんな仕事でした。それで、いつもたきざを取りに行くときどんなことがありましたか。(道中で
 一度ぐらいおやつを食べます。)
(10) それでは、おやつの所をこういうふうに読んでください。子供たちがおやつをもらう時の気持ちはどうだった
 か、もらってからどうしたか。あとで何を考えたか。そういうことに気を付けながら読んでください。(板書、も
 らうとき。黙読二分)
(11) もらうときはどうでした。(いい気持ち。)
(12) どこでわかりますか。(もらうときいい気持ち。)
(13) いつもおやつをもらうときどうしましたか。(自分の分け前がもしかしたら少ないかと目を光らせて数えた。)
(14) どこに書いてありますか。(四ページ四行)
(15) その日は何が出ましたか。(そらまめをいったの。)
(16) おかあさんはどんなふうにおやつを出してくれましたか。(ひとにぎりずつ。)
(17) そしたら兄弟は。(多いだの、少ないだのと文句を言った。)                       317
          7 文学経験指専上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

(18) おかあさんはどうしましたか。(数を数えてごらん。少ないほうにはそれだけ足すから。)
(19) 兄弟はどうしましたか。(ひいふうと数えた。)
(20) そしたらどうしましたか。文句をつけたねうちがありましたか。(文句をつけたねうちがなかった。数が同じ
 だったから。)
 以上、指導過程にそって、発問と児童の答えを参考に記録した。これらの発問について次のことを考えてみるとよ
い。
ア 情景や場面を想像しながら読むための発問――どの発問をどのように変えればよいか。
イ 人物の気持ちや心理を想像しながら読むための発問――どの発問をどのように変えればよいか。
ウ 感情移入が行なわれるような発問――どの発問をどのように変えればよいか。
エ 事実を理解するだけの発問
 要するに、文学作品の読解・鑑賞のための発問として適切なものはどれか。適切でないものはどれかを明らかに
し、児童の心情を刺激し、想像や感受性を伸ばし、読解・鑑賞の技能を一体的に学習させるための発問をくふうする
とよい。

(5) 伝記物語の指導−−六年

l 主題の読み取り方
 学習指導案に書く文学教材の学習の目標は、その教材を読んだ読み手のとらえ方いかんによって変わるべきもので
はない。浅い読みしかできなかった先生は浅い目標、深い読みをした先生は深い目標を掲げるというようなものでは
ない。その作品の主題、文学的価値を目標とすべきである。その作品によって、作者が読み手に訴えているもの、感
動させようとしているもの、 つまり、 その作品の主題をできるだけ客観的にとらえて目標とすべきである。ところ
が、実際には、読み手の違いによって、読み取った主題も違う場合がある。
 たとえば、「命をかけて(野中到が富士山頂で高層気象観測を敢行した物語)」を読んで、Aは、夫婦協力して観測
事業を成し遂げた夫婦間の愛情を主題として考えている。しかし、この作品には、それを特に強調して書いていると
ころはない。もし、作者が、夫婦協力して仕事を完成したということに感動させようとしたとするならば、その点に
ついて、心情なり、心理なり、場面なりを強調して書くはずである。ところが、それが少ない。
 また、 妻が夫を助けに山頂へ登ってきたときの気持ちを考えさせると言っても、 それのわかる具体的な表現がな
い。ただ、観念的に命をかけた夫の仕事を助けるために、登ってきたという記述があるだけである。したがって、そ
れ以上に妻の気持ちを想像することはできない。 もし、 それを想像させるとすれば、かってに想像するだけであっ
て、記述が不備だから、立場交換などはできない。妻の気持ちは、夫の仕事を助けるというよりも、いても立っても
いられない、そのような気持ちだったかもしれない。
 とにかく、表現に即してすなおに読む。すなおに感動する。そこから主題も読み取るべきである。
 私は、この作品で一番だいじなことは、野中到の使命感だと思う。はじめのほうに書いてあるように、「高い所の
気象がわからなければ、漁業や農業・交通など、たいせつな仕事に役立つ正しい天気予報はできない。どうかして日
本にも高山気象観測所を造りたい。」という使命感を持った。この使命感をいだいたから、この仕事に対する強い情
熱がわいた。その強い情熱にささえられて、不撓不屈の精神が働いた。それに感動して妻も協力する。和田技師も後
援する。こう読み取っていけば、そこにこの作品の底を流れている感動がはっきりしてくる。要するに、表現に即し  319
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

てすなおに読んでいけば、作者が読み手に訴えているものを読み取ることができる。                320
 到の観測事業に対する使命感、そこから湧き起こる激しい情熱、事業遂行のための強い忍耐力、不撓不屈の精神が
主題となって、作品の底を流れている。それに感動することが、この作品を読む上に一番だいじである。
 もちろん、この作品の学習の目標が、そこにあると言っても、すべての読み手にそのとおりに読み取らせる、そこ
へ連れ込んでいくというのではない。読み手には能力の差がある。経験の差、生活の差、思想の差がある。したがっ
てその受け取り方が読み手によって違う。これが、一般の文学の読みならばそれでいい。その作品からどのような感
動を受け、どのような心情が育てられようと問題ではない。ところが国語科における文学指導は、主題の読み取り方
を学習させなければならない。
 読み手によっては、到に協力した妻の心に打たれたというものもあろう。山頂の労苦、観測の激しさ、そういうも
のだけに感動を受けるものもあろう。このような断片的な、部分的な感動をもとにして、主題との間に、コミュニケ
ーションさせるところに指導がある。
 このように、主題に接近するための指導はするが、そこにはおのずから読み手の能力の差のあることを忘れてはな
らない。
2 文学経験をさせるための発聞
(1) 場面・情景を読み取らせる発問
  富士山頂から下界を見おろした時の情景が写されている部分がある。その情景を読み取る場合、「富士山頂から
 は何が見えますか。」「富士山頂から見た景色はどんなですか。」というような発問が一般に多い。この発問には、
 読む方法や読むために必要な技能が示されていない。このような場合、児童は、「北には富士五湖が、南には伊豆
 の山々が見えました。」とあるひとりが答え、他のひとりが、「山すそには、静浦、田子の浦、三保の松原、清水港
 が見えます。」と答える。
  このように、全体的な景観に知的に接近する。知的に読み進めて、読み取った知識として答える。これでは、あ
 の雄大な美しいながめが読み取れない。到の心を楽しませてくれる景観としては読み取れない。こんな場合には、
 「富士山頂からのながめを想像しながら読んでみよう。」「富士山頂からの美しいながめを頭の中に描きながら読ん
 でみよう。」あるいは、「富士山頂から下界を見おろした到はどんな気持ちになっただろうか。」「富士山頂から見お
 ろしたときどんな感じがしましたか。」というように、読み取る内容(山頂からの美しい景観)と、その読み方、読む
 技能(全体的、直観的に読む。情意を想像しながら読む技能)とを規定する発問をくふうすることがたいせつであ
 る。
  このような発問だと、児童たちは、知的、分析的に読まず、全体的に、情景を頭に描きながら読んでいって、そ
 の景観の表象を作っていく。つまり、情景を想像しながら読んでいって、きれいだなあ、すばらしいなあ、雄大だ
 なあといった感動を覚える。また、それらを表わすことばがあれば、それらのことばも想像的に経験する。そこで
 初めて、「ひとりぼっちの到の心を楽しませてくれました。」ということが、感情的、感動的にわかってくる。
  それが、知的に読むような発問だと、山頂からは、○○が見えました、○○も見えました、という事実だけを読
 み取って、それを知的に理解する。そこには、景観・情景の全体的な美しさ・雄大さというようなものは感じられ
 ない。
(2) 心情や心理を読み取らせる発問
  心理や心情を読み取らせる場合に、「到の気持ちはどうか。」「妻の気持ちはどうか。」というような発問をする  321
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

 と、気持ちを調べるということが先に立ってしまう。知的に読むようになってしまう。              322
  「妻が山頂へ到をたずねてきた。その時の様子を想像しながら読んでみよう。どこに一番感心したか。(心を打た
 れたか。)」という発問をし、そこから心情に接近する。生徒は全体を直観的に読んで、その場面の表象を作る。そ
 して感情状態にはいる。児童は「ここで妻がこう言っている。」あるいは、「こうしている。このことばによって、
 妻の気持ちに心を打たれました。」「感心しました。」などと答える。
  課題を与える発問が、「感想を話し合おう。」「妻の気持ちを読み取ろう。」のような形で行なわれるから、生徒は
 知的に接近するようになる。「ここを読んで強く心に感じたのは、どんなことか。」「感心だなあと思ったことはど
 んなことか。」「なるほどそうだと思ったことはどんなことか。」というようなことをまず先に読み取る、感じ取る
 ことを第一にする。感想はそれからである。
3 文学経験のさせ方
 児童たちが作品を読んで得た浅い知識・理解、それに基づいて感想を言わせたり、書かせたりする。それは、作品
に対する知識の指導であって、真の文学の学習にはならない。文学の学習は、文学を経験する、ことばを経験するこ
とである.
 たとえば、「千代子は命をかけた夫の仕事を助けたいと、かたい決心でここまで登ってきました。」ということを知
的に読み取る、理解することが文学の学習ではない。その前に書いてある「いいえ、あなたのそばで働きます。私だ
ってきっと何かのお役に立つでしょう。」ということばを読んで、このことばを経験させる。そうすればおのずから
千代子は、かたい決心で、山頂に登ってきたということが、実感的にわかってくる。作者が客観的に説明しているこ
とに児童の心を向けて、 それを知的に読み取らせるのではなく、 その前の妻の心が直接妻のことばで描写されてい
る。そのことばを経験させなければならない。たとえば、「いいえ」ということばの中に妻のかたい決心を感じる。
「あなたのそばで働きます。私にだって……」の「私にだって」ということばの中に、妻の自信のほど、かたい決意
のほどがうかがわれる。
 このようにことばを読んで、ことばを経験して、その時の妻の心を想像し、感情状態にはいる。ここに児童の心を
向けないで、ただ妻千代子は、夫の仕事を助けに山頂に登ってきたのだという説明だけを扱っているのでは、文学の
学習はできない。このような理解は、妻の心を直接表わすことを中心にして学習させる。経験させればおのずからそ
のような知識は導き出される。
 また、到は、はじめ妻が山頂に登ってきたことを迷惑に思っていたが、だんだん変わって感謝するようになったと
いうことを知的にわからせることではなくて、 書いてあることばを経験することによって、 場面や情景を読み取っ
て、児童自身が、妻が登ってきてしまって困ったというような気持ち、驚いた時の気持ちになる。ああ、妻が来てく
れてよかったと児童が思うように反応していく。そこを指導し、それに基づく理解なり、感想なりを指導する。そこ
に文学の学習指導がある。
 一般に、事実なり、場面なり情景なりが、じゆうぶんに認識されていない、非常にぼんやりした理解であるにもか
かわらず、そこから生まれた感想や知識について問答をする。それではいけない。児童も作中の人物と同じような経
験をする。そして、ときどきわれに返って、ああ、妻はこんなに夫を思っていたのだ、到は妻に感謝していたのだと
いうことが頭に浮かぶ。これが理解である。文学を経験してのちに得た理解、それに対する感想・批判でないとほん
ものではない。ここのところが文学の学習ではだいじである。
 このことがよくわからないと、「感想をいっそう深める。」のような学習が計画される。文学学習の直接のねらい  323
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

は、感想を深めることではなくて、 まず、 児童に感動させる。いっそう深く経験させる。それが文学の学習であっ  324
て、その結果として、理解が深まって感想が出てくる。感想は、直接文学学習の対象にはならない。文学学習の内容
は、そこに書かれていることば、表現内容そのものである。この表現を経験させて、感動を深め、認識を深め、知識
・理解を深める。
そこに文学の学習があり、その結果感想が深まるものである。
 感想を深めることを、直接学習の対象とすると、表現をじゅうぶんに経験しないままに得た感想や観念を言わせな
がら授業が進められてしまう。
4 気持ちの読み取り方
 同じ場面に、相互関連的に述べられている到と妻の心の交流を――ふたりの間の問答によって――「到の気持ちは
どうか。」を読み取らせ、次に「妻の気持ちはどうか。」を読み取らせる。それをまとめて一元化しようとした。これ
は逆である。はじめに場面を全体的に読んで、ふたりの心の交流を、ことばのやりとりを通して、全体的、相互関係
的に読み取らせる。場面として読むことは一元的な読みである。それを先生が、妻の立場、夫の立場で読ませて、そ
れぞれの気持ちを読み取らせようとした。
 しかし、児童は決して二元的には読まない。ふたりのことばが対になっている。この対になっている会話を二分し
て、ひとり分の会話、片ほうだけの会話、妻だけのことばを抜き出して、妻の気持ちを読み取らせる。夫だけのこと
ばを選び出して夫の気持ちを読み取らせるなどということは不可能である。そんな読み方では、場面を読み取ること
はできない。まず、会話のやりとりを相互関連的に読み取って、ふたりの心の交流を、気持ちの変化を感じ取って理
解する。もし分析してふたりの気持ちを意識させることが必要であれば、それ以後に扱えばよい。それはあくまでも
知的に扱う場合である。

(6) 語句の指導

1 語句指導の二側面
(1) 語いの拡大――語を増す
  語句の学習には、二つの面がある。 その一つは、語いの拡大、つまり語の数を増すことである。指導要領にい
 う、「読むために必要な語を増す。」「書くために必要な語を増す。」がそれに当たる。前者はいわゆる理解語い、後
 者は表現語い(使用語い)である。学習教材に即して言えば、「新出語句」に当たる。たとえば三年生で、初めて
 「県道」「こらえる」という語の意味を理解して、知っている語の数を増す。このように、文章を理解したり、表現
 したりするための語を新しく身につけて、その数を増す。語の範囲を拡大していく。
(2) 語の働きの理解――意味の充実
  他の一つは、語の働きを理解することである。語の働きの理解は、さらに二つの面に分けられる。一つは、意味
 機能の理解、つまり、語の意味の理解を深める。意味の範囲を広げるための学習である。たとえば、六年のある教
 材に「簡素の美」という語があるが、これを辞書に説明されている程度のおおまかな理解から、具体的な表現に即
 し、事物に即しながらその語の意味をいっそう深く、 確実に理解するための学習がある。 いわゆる意味充実であ
 る。また用例に即しながら、「若い」という語には、「年齢が若い」「教養が若い」「よく熟していない」などの
 意味があること、つまり、語の意味の範囲を広げるための学習がある。
  また、語の学習を、場面・状況との関係において学習する、いわゆる一般意味論を取り入れて学習することがだ
 いじである。たとえば、マスコミにのせられた「ふとる薬」という、うたい文句に対して、日常生活に使う、やせ  325
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

 る、ふとるという語としてこれに反応したのでは、マスコミに乗ぜられてしまう。これを、広告・宣伝という状況  326
 の中で使われている語として理解し反応する、そういう学習がだいじである。ここにも、そのような意味での語句
 の学習がある。
  他の一つは、語の形式的な機能の理解、つまり、語と語、文と文とどんな関係を持って結びついているか、その
 語の機能についての学習である。 たとえば「赤い花」の赤いは、 アカイという意味(概念)を表わすとともに、
 「花」がどんな花であるかを修飾し限定する働きを持っている。「しかし」という語は、その前に述べられている
 ことを受けて、それとは逆な、反対な、あるいはその否定の事実を導き出す働きを持っている。したがって、「し
 かし」は、そのあとに否定的なあるいは逆な記述がくることを予想させる働きを持っている。これらは従来文法学
 習として指導してきたものである。
  語句の学習には、このような二側面がある.
2 特に指導すべき語句の選定
 どんな語句について学習したらよいか、読解教材を中心にして考えてみると、次のような指導語句がある。
(1) 意味のわからない語句――いわゆる新出語句などと言われている語句で、学習の負担(抵抗)になる語句(語い
 負担)。これらについては、その意味を理解させて習得させる。
(2) 意味を深めたり、広げたりする語句――ある程度意味のわかっている語句について、その意味を深めたり、それ
 を使えるようにしたりする。また、児童が理解している意味とは異なった意味に使われている語句、つまり、新し
 い意味で使われている語句について、その新しい意味を理解させて、その意味範囲を広げる。
(3) 重要な働きをしている語句――機能的な語句、いわゆる重要語句などと言われているもの、その文章で重要な意
 味をになっている語句、主題・要旨につながっている語句、それらの語句のうち、それを取り上げて学習すること
 によって、いっそう意味の理解が深まる、あるいは、意味範囲が広がも語句について指導する。
(4) 語の働きについて指導する語句――つまり、指示する働き、接続する働き、修飾する働きなど、語句の働きを理
 解させるのに適切な語句について指導する。
(5) 語の構造、語の種類、語の由来などについて指導するのに適切な語句などについて指導する。
 要するに、それぞれの教材を読解するのに負担になる語句について、その意味・機能などを学習する。
3 語句理解の段階
 一般に語句は、それを読んだり、使ったりしている間に次第に理解される。はじめはぼんやりした理解から、次第
に深い、正確な理解へと進み、いわゆる語感ができるようになる。はじめから深い理解に到達するものではない。
(1) 文脈の中で、大体の意味がわかる。
(2) 文脈の中で、具体的で正確な深い意味がわかる。
(3) 文脈の中で、いろいろな異なった意味がわかって意味範囲が広がる。
(4) 文脈を離れて、語の意味がわかる。語の意味が抽象化され、一般化される。
(5) その語が使える。
(6) いろいろな文脈の中で自由に使える。
(7) 語感が養われる。
 その語が使えるということは、必ずしもその語の理解が深いとは限らない。児童は理解のじゅうぶんでない語でも
大たんに使うものであり、使っているうちに、その意味の理解を深めていることも多い。              327
          7 文学経験指尊上の問題点
          第6章 文学指導の近代化
 語句の理解にも深浅・段階があることを知らなければならない。それは語句指導の方法・程度などを考える上に深
い関係を持っている。
4 語句学習の方法
 語句の学習指導にはいろいろな方法が考えられる。その主要なものを次に掲げてみる。
(1) 文脈の原理に基づく方法
  その語が使われている文脈の中で、文脈にそってその意味を理解する。
  たとえば、「若い」という語の意味を、その語が使われている文脈にそって、文脈に当てはめて理解する。「十九
 歳か、きみはまだ若いね。」「そんなことを怒っているのか、きみはまだ若いね。」「このかきは青くて、まだ若い。」
 これらの「若い」の意味は、それぞれその文脈によって「年齢の若さ」「教養の若さ」「くだものがまだじゅくして
 いないこと」などを表わしている。このように、語句の意味を文脈にそって理解する。つまり、語の具体的な意味
 は文脈が規定するという原理に基づく学習法である。この場合、その語の理解の深さは、その文や文章の理解の深
 さに比例する。このように文脈の中で、その語の具体的な意味を理解する。こうして、いろいろな文脈の中で働い
 ているその語の意味を理解していくと、その語の意味が抽象化され、一般化される。このように文脈の中で、場面
 の中でその語を理解するということは、つまり読解の過程でその語を理解するということである。
(2) 具体の原理に基づく方法
  具体の原理に基づく語句指導の方法としては、 いわゆる動作化とか、 具体的な事物を示すとか、絵を見せると
 か、そのものを指示させるとか、経験し行動してみるとかして、感覚を過して具体的に理解させる方法である。
(3) 経験の原理に基づく方法
  この原理に基づく語句指導の方法としては、実際に使わせてみて理解する。つまり、短文を作る、話す、使って
 みるなど、その語を経験させて理解させる。
(4) 比較の原理に基づく方法
  語と語とを比較・対比することによって理解する方法。たとえば、反対語とか、対になっている語とか、あるい
 は 意味の似ている語とか、同類の語とか、そういう語を相互に比較・対比することによって、相手の語を理解す
 る。また、語の整理をする。「多い・少ない」「需要・供給」「輸送・運送」「学生・生徒」のように語と語とを比較
 して理解する。この場合には、どちらか一方の語の意味は理解していることを原則とする。ただし、両方とも理解
 している場合、それを集めて語の系列・体系を作ることは有効である。 いわゆることば集め、 辞書作りなどの場
 合、語と語とを比較・対比する方法は低学年ではかえって理解を困難にすることが調査の結果わかっている。
(5) 言い換え、説明による方法
  「校庭――学校の庭」「家畜――家にかわれている動物」というように、言い換え、説明によってその意味を理解
 する方法。この場合次のような方法がある。
 ア 「校庭」を「学校の庭」、「誕生」を「子供が生まれること」というように、その意味(概念)を別のやさしい
  (すでに理解している)ことばで説明する方法。
 イ 「人間」を「人」、「生物」を「生き物」、「午後」を「ひるすぎ」、「前後」を「あとさき」のように、同じ意味
  (概念)の他の語で言い換える方法(同位概念の言い換え)。
 ウ 「生物」を「動物や植物のこと」、「人類」を「日本人・アメリカ人・イギリス人・ソ連人などのこと」などの
  ように、それより下位の概念で説明する方法(下位概念による言い換え)。                  329
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

 エ 「大小」を「大きい小さい」、「前後」を「前と後」などのように、その語を表わしている漢字の意味をもとに  330
  して言い換える方法。
(6) 反復の原理に基づく方法
  繰り返し使うことによって理解する方法。同じ語をさまざまな文脈の中で繰り返し使って、その語の意味を確実
 に理解する方法。たとえば「ひとりでるす番をしているのはさびしい。」「暗い夜道を歩くのはさびしい。」「木の葉
 の音が聞こえてくるのはさびしい。」というように、異なった文脈の中で、繰り返し、その語に触れたり、その語
 を使ったりすることによって理解する。
  このように、語句の理解のしかたはいろいろある。これらのうち、どの方法を使うかは、児童の理解力の発達に
 応じ、語句によって、選ぶようにする。
5 語句学習指導の過程と方法
(1) 語句指導の過程
 語句の学習を指導する過程は、
 ア 文脈の中で語の具体的な意味を理解する。
 イ 文脈の中で、意味のわかっている語とわからない語とを区別する。
 ウ 意味のわからない語を文脈(文の前後関係)の中で考える。
 エ 意味のわからない語を選んで辞書で調べる。
 オ 辞書で調べた語の意味を文脈に適用する。文脈に当てはめて考える.
(2) 語句指導の方法
 ア 語句学習の本質的方法――機能的方法
   ことばは、本来使うことによって、それに触れることによって、つまり、ことばを経験することによって理解
  され、身につくものである。入学前の児童が数千の語を理解し、使用することができるのは、それらの語をたえ
  ず、聞き話す経験を通して身につけてきたからである。ここに語句学習の本質がある。このような語句学習の本
  質に基づいて指導するのが、本質的方法である。これは、その語が、その機能をじゅうぶんに発揮している文脈
  の中で、その語が生きて働いている場の中で、しかも読解の過程において、学習させようとする方法である。
  (ア) 文章の大体の意味や、内容のあらまし、あるいは、直観的に要旨や感動を読み取る場合における語句の学習
   ―― ―般的に言って、その文章の理解の深さに相当する語の理解が行なわれる。
  (イ) 文章の深い意味や主題や要旨を読み取る場合における語の学習――深い読み、注意深い読み、細かい読みに
   相当する語の深い理解が行なわれる。
 イ 語句学習の便宜的方法――機械的方法
   読解学習の時間に、適切な文脈・場面の中で、生きて働いている語句について、繰り返し学習する機会は容易
  に得られない。 特に現行の国語教科書では、 六か年を通じてわずか一回しか提出されない語が五〇%以上もあ
  る。だから、そこで学習した語句を確実に身につけるためには、繰り返し練習を重ねる必要がある。
  (ア) 読解学習が終わったあとで、そこで学習した語句を取り上げて、その時間に練習する。
  (イ) いくつかの教材について学習した語句を、時間を特別に設けて、整理する。
  (ウ) 毎時間、何分かの時間をとって、学習した語句について系続的に練習する。
  (エ) 教材の学習と別個に、指導すべき語句を選定し、学習のプログラムを作って学習する。           331
          7 文学経験指導上の問題点
          第8章 文学指導の近代化
 練習の方法には、次のようなものがある。(ア)短文を作る。その語句を使って、いろいろな文脈の短文を作る。(イ)  332
文脈を作っておいて、その中に語を入れる。(ウ) 語旬を組み合わせて文を作る。(エ) ことば遊びをする(しりとりな
ど)(ことばの整理)。(オ) ことば集め(同類の語を集める。からだのことばを集めるなど)。(カ) 辞書作り。(キ)
反対のことば、対になっていることば。(ク) 関係のあることば(手……持つ、にぎる。足……歩く、走る)など。
 最近は、語句のプログラム学習というような方法も考えられている。機能的な基本的な語を読解学習とは別に取り
上げて系統的に学習させる方法である。
6 語句指導の実践(この項は八田洋弥氏の執筆)
(1) 学年の発達と語句指導のねらい
  語句指導のねらいは、一年から六年まで、すべて同じように当てはまるというものではない。一年生は一年生な
 りに、五年生は五年生なりに、学年、児童の発達段階に応じて、語句指導のねらいは設定され、位置づけられなけ
 ればならないと思う。
  そのことを考える方法として、次の三つの観点に基づいて、考えることにした。
 ア 学習指導要領に明示されている語句に関する学年目標は、どのような段階をおっているのか。
 イ 低学年・中学年・高学年の文学教材の中に提出されている語句は、どういうものであるか。
 ウ 低学年・中学年・高学年の児童の読書生活はどういう傾向にあると言えるのか。
  まず、語い量という面について、指導要領と読書生活の傾向とを関連づけて考えてみると、次のことが言える。
  低学年では、指導要領に、
 一年――読むために必要な語句を身につける。
 二年――読むために必要な語句を確実に身につける。
 とある。これを読書生活の傾向から見ると、低学年は、児童の生活に、はじめて新しく読書生活というものがはい
 って来て、語いの増加というよりも、まず、読書語いを一つ一つ獲得していく段階なのではないかと考える。
  中学年では、指導要領に、
 三年――読むために必要な語句を増すようにする。
 四年――読むために必要な語句をいっそう増すようにする。
 とある。これを読書生活の傾向から見ると、このころから、学校図書館を利用するようになり、急激に読書量が増
 加してくる。それによって、読書語いの増加を図る段階と考えられるのではないかと思う。
  高学年では、指導要領に、
 六年――読むために必要な語句の範囲を拡げ、その量を増すようにする。
 とある。これを読書生活の傾向から見ると、このころは、読書範囲が多方面に広がり、専門語・社会用語・抽象語
 など、語いも多方面に広がり、量もそれに伴って増加していく段階なのではないかと考える。
  次に、語句の理解という面から考えると、これは、低学年・中学年・高学年の文学教材を検討し、どのような語
 句が、どのような形で提出されているかということを調べた結果であるが、一般に、次のことが言える。
  低学年の教材に提出される語句は、その語句本来の意味で提出されている。たとえば、「赤い鳥」「青い鳥」とい
 うように、「赤い」「青い」は、それぞれ個人によって色のイメージは異なるだろうが、「赤」「青」本来の色の意味
 で使われている場合がほとんどである。「あの人の思想は赤い」のように、「赤」をイデオロギーの意味に、また
 「青二才のくせに」のように「青」を若さの意味に使うような提出のしかたは、まずないということである。
  したがって、低学年での語句の理解ということは、「赤い」というのは、この色のことなのだ、「青い」というの
 は、この色のことをさしているのだというように、具体的に理解することがだいじになってくる。         333
          7 文学経験指導上の閉経点
          第6章 文学指導の近代化

  中学年になると、持っている語い量は増加してくるが、教材に提出される語句は、しばしば、今まで知っていた  334
 語句の意味とは異なった意味に使われて、出されている場合がある。たとえば、
 「ある日、おとうさまが、やにあたって、なくなったのです。」(三年)
 「子ぎつねは、おかあさんぎつねの待っているほうへ、とんでいきました。」(三年)
  この二つの文で「なくなった」「とんでいきました」は、語句本来の意味では、それぞれ「物が失せる」「飛んで
 いく」であるが文脈から判断すると「死亡した」「走っていきました」という意味に使われている。このように、
 語句本来の意味とは異なった使い方をしている例である。
  このような語句は、文章の文脈から、その使われている 意味を推測し、理解していかなければならない。そし
 て、そういう力をつけていくことが、中学年の語句指導としては、だいじなねらいになってくるのである。
  高学年では、教材に提出される語句は、量的に多方面からであり、 意味的には、 広い意味範囲から使われてい
 る。また、指導要領では、
 五年――わからない語句の意味を自分で調べることができるようにする。
 とあり、また、「国語辞典などが使えることなどにづいて指導することも望ましい。」と付言してある。
  このことから、文脈によって語句を理解する力とともに、もう一つ、わからない語句を辞書で調べたら、それを
 文脈に照して、文脈に合った語句の意味を選び出すことができる。
  たとえば、「毎日、朝から晩まで、自分の働く口をさがして歩いていた。」という文があるとき、もし「口」とい
 う語がわからないとして、辞書を利用すると、次の意味が出てくる。@動物のくち。Aものを話すことば。B出は
 いりする所。Cもののはじめ。Dつとめさき。この五っの意味から、この文脈にもっとも合った、「つとめさき」と
 いう意味を選び出すことができる。そういう力が、高学年では、中学年より進んだ段階として必要になってくる。
  また、語句の使い方ということが、指導要領の五年生に出てくるので、このころから、語句の形式的働きについ
 ての理解ということも、必要になってくるであろう。
  以上、学年の発達に応じた、語い量、語句の理解ということを簡単に述べたが、このことから、低・中・高学年
 と並べたときの、語句指導のねらいを、次のように整理してみた。
  低学年(一・二年)
 ア 読書語いの穫得。 イ 語句の具体的理解。
  中学年(三・四年)
 ア 読書語いの増加。 イ 文脈の中で語句の意味を理解する。
  高学年(五・六年)
 ア 読書語いの増加。 イ 文脈の中で語句の意味を理解する。 ウ 文脈に合った語句の意味の選択。 エ 語
  句の形式的働きの理解。
(2) 指導すべき語句
  さて、このような学年的ねらいの上で、実際に教材に当たって指導する場合、どのような語句を指導すればよい
 のかということが問題になる。新出語句が必ずしも指導する語句とはならない。たとえば、ある教科書では、一年
 生の二学期のはじめに「おとうさん」という語句がはじめて教材に出てくるけれども、これも新出語句として指導
 するのかというと、問題がある。また、新出語句と言っても、人によって新出である場合も、他の人にとっては必
 ずしも新出でない場合もある。したがって、新出ということだけで、指導すべき語句を決めることはできない。   335
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

  まず、文学作品を読解する場合に、指導しなければならなくなってくる語句には、どういうものが考えられるか
 というと、次のことがあげられる。
 ア 新出などで意味のわからない語句
   読解する中で、はじめて経験する語句とか、経験の浅い語句、そういう語句は、正しく理解させなければ読解
  が進まない。
 イ 新しい意味に使われている語句
   今まで知っていた意味とは別の意味に使われていて、文または文章の意味が理解しにくいというとき、その語
  句は指導しなければならない。たとえば「暗い」という語を、今までは「光のささない暗さ」ということで理解
  していたのに「学問の道に暗い。」という文で出されて、どうも、今までの意味では、この文の意味が理解でき
  ないというとき、その語句は指導しなければならない。
 ウ 文章で重要な役割をしている語句
   たとえば、読解の中で、人物の気持ちを読み取る。あるいは、人物の心理を読み抜く。あるいは、場面や情景
  を読み取る。そういう読解技能を働かせる場合、その語句を取り上げて学習することによって、いっそう読解技
  能がスムーズに働き、文章の内容が深く読み取れるという場合である。要するに、文章の主題につながる語句と
  いうことができる。ただし、その語句には、前項に挙げた1・2あるいは、語句の意味を深めるという指導内容
  が含まれていなければならない。
   たとえば、
  「ボロージャは、もう、その分かれめの所まで登って、足をぶらぶらさせながら、こしをかけていました。」(五
  年)
   この文で、「ぶらぶらさせながら」ということばは、高いしらかばの木に登ったボロージャの得意な気持ちを
  表現する語句である。読解を進める上で、当然この語句については注意して学習をする。しかし「ぶらぶらさせ
  る」とは、足をどのようにするかとは、 五年生としては、 指導するまでもなく理解していることである。つま
  り、語句指導としては、指導の内容を持たない。文理解としては重要であるが、語句指導の対象とはならない語
  句である。語句指導では、この辺の見極めがたいせつである。
 エ 語の働きがわかると文章の理解が深まる語句
   修飾する働き、接続する働き、強意を表わす働きなど、語の働きについてわかると、文章の理解も深まるとい
  う語は、指導しなければならない。
   要するに、語句指導とは、それぞれの教材を読解する上で障害となる語句について、その意味や働きを指導す
  ることなのである。
   さて、低・中・高それぞれの学年段階において、指導すべき語句の選定の観点や方法についてその試案を示す
  と、次のとおりである。
   低学年
   具体物・行動による理解の方法が中心になる。さらに、文脈による理解の方法、説明・言い換えによる理解の
  方法も、場合によっては行なうことができる。
   中学年
   文脈による理解の方法を中心にしたい。しかし、具体物・行動による理解の方法、説明・言い換えによる理解  337
          7 文学経験指導上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

  の方法も多く行なわれる。さらに、比較による理解の方法も、場合によっては行なうことができる。       338
   高学年
   文脈による理解の方法を中心とし、類推による理解の方法、比較による理解の方法も多く行なわれる。場合に
  よっては、説明・言い換えによる理解の方法、あるいは、具体物による理解の方法もとられるであろう。
(3) 文学教材読解における語句指導の実際例
  今まで述べてきたことが、実際の指導の上で、どのように当てはめられ、生かされていくのかということについ
 て、例を述べることにする。
 1 指導学年 第三学年
 2 教材「手ぶくろを買いに」
 3 教材の概要
   雪が降って、野も山もまっ白になった。 森の子ぎつねは、 うれしくなって遊びに出たが、手がすっかりひえ
  て、赤くなった。おかあさんぎつねは、子ぎつねに手ぶくろを買ってあげようと思い、夜、町へ出た。しかし、
  途中で、ふと、子ぎつねひとりを町に行かせようと思いついた。おかあさんぎつねは、人間のおそろしいことを
  子ぎつねに話し、子ぎつねの片方の手を、人間の手にかえた。そして、手ぶくろを買う時は必ずその手を出し、
  決して、きつねの手を出してはいけないと、言いふくめた。子ぎつねは町に出て、店を見つけた。ところが、戸
  からさす光にびっくりして、あわてて、きつねの手の方を出してしまった。しかし、ぼうしやは、手ぶくろを売
  ってくれた。子ぎつねは、人間は、そんなにこわくないと思った。帰り道、子ぎつねは窓の下で、人間のおかあ
  さんが、やさしく子どもに話しかけている声を聞いた。
   (以下、本時の指導に当たる部分)

  それを聞くと、子ぎつねは、いっときも早くおかあさんに会いたくなり、おかあさんぎつねの持っている
 方へ、とんでいきました。
  かあさんぎつねは、心配しながら、ぼうやの帰ってくるのを、今か今かと待っていました。ですから、子
 ぎつねが帰ってくると、あたたかいむねにだきしめてよろこびました。
  親子のきつねは、森の方へ帰っていきました。月が出て、きつねの毛なみが、銀色に光り、その足あとに
 は、こい青色のかげがたまりました。                  (学図三年下より引用) 

 4 本時(教材の引用文の所で)のねらい。
   この引用文の部分では、次の三つのことを読み取らせたいと考えた。
  ア 子ぎつねが、おかあさんぎつねに会いたくなったその心情。
  イ かあさんぎつねの心配と、子ぎつねが帰ってきた喜びの心情。
  ウ 親子のきつねが去っていく美しい情景。
   上のねらいで読解を進めていく過程で、どのような語句を、どのような方法で指導すればよいかということ
  を、解明したい。
 5 指導すべき語句
  ア 新出などで意味のむずかしい語句
   「いっときも早く」「今か今か」「毛なみ」「だきしめる」                        339
          7 文学経験指専上の問題点
          第6章 文学指導の近代化

  イ 新しい意味に使われている語句                                    340
   「とんでいく」「たまりました」
  ウ 文章で重要な役割をしている語句
   @子ぎつねの心情を読み取るために、
    「いっときも早く」「とんでいく」
   A母ぎつねの心情を読み取るために、
    「今か今か」「だきしめる」
   B情景を読み取るために、
    「毛なみ」「たまりました」
   指導すべき語句の観点が、語句によっては重複することは当然である.
  「だきしめる」という語句は、三年生として、すでに理解されている語句だという考えもある。しかし、次の、
  語句理解の方法の例としてこの語句を示したいので、挙げておいた。
  「あたたかい」の語句を、母ぎつねの愛情のあたたかさと解するならば、新しい意味の語句として、取り上げな
  ければならないし、体温的なあたたかさと解するならば、語句指導として取り上げる語句にはならない。どち
  らの意味に解するかは、問題が残る。
 6 語句理解の方法
   方法は、一般的にどの種類の語句には、どの方法が適しているというように規定することはできない。同じ語
  句であっても、文章の中で、どのように働いているかということによって、方法も決められてくるのである。
  ア 文脈による理解の方法
   「とんでいく」「今か今か」「たまりました」
  イ 具体物・行動による理解の方法
   「だきしめる」
  ウ 言い換え、説明による理解の方法
   「いっときも早く」「毛なみ」
 7 展開の例

発  問  例  応 答(C)   語 句(○◎) 
 前 略
T 人間のおかあさんの声を聞いた子ぎつねは、ど
 んな気持ちになったと思いますか。
T それは、どのことばから考えましたか。
 
T なぜ、いっときも早く会いたくなったのだと思
  いますか。
T 「いっときも早く」には、子ぎつねのどんな気
  持ちが表われていますか。
 「いっとき」をほかのことばで言ったら。
T そういう子ぎつねの気持ちから、子ぎつねが 
  「とんでいく」ようすを思いうかべてごらんな
  さい。どんなようすですか。
 中 略
T おかあさんぎつねは、どんな気持ちで待ってい
  たのですか。
T それほどのことばでわかりますか。
T なぜ心配していたのだと思いますか。
T そうすると、「今か今か」というのは、どうい
  う気持ちの現われだと思いますか。
T 子ぎつねが帰ったときのよろこびのようすは、
  どのことばでわかりますか。
T どうやったのでしょう。何か言ったとしたら、
  どう言って。
 中 略
T 親子の帰っていくようすを、思いうかべてごらん
  なさい。
T どのことばから、そううかびますか。
 
 
 
 
T 毛なみとは……。
T 毛なみが銀色に光っている姿を想像してごらん
  なさい。
T 足あとのようすも想像してどらんなさい。
  かげがどうなっているのでしょう。
T 親子の帰っていく場面を読みかえして、そのよ
  うすを頭にうかべてみましょう。
 後 略
 
 
C いっときもはやくおかあさんに会いたくなり、
C おかあさんの方へとんでいきました
○ ――の語句に気づかせる。
 
○ 前の文章から考える。
 
 
◎ 「いっときも早く」……言い換えによる理解。
 
◎「とんでいく」……文脈による理解。
 
 
 
 
〇 「心配しながら」「今か今か」に気づく。
○ 前の文章から考える。
 
◎ 「今か今か」……文脈による理解。
 
〇 「だきしめて」に気づく。
◎ 「だきしめて」……行動による理解。
 
 
C きれい。
C 美しい。
C 静か。
 
C 仲よさそう。
C 毛なみが銀色に。
C こい青色のかげがたまりました。
◎ 「毛なみ」……説明による理解。
 
 
 
◎ 「たまりました」……文脈による理解。
 

  以上、六つの語句の指導例を書いたが、実際問題として、一ページにも足りないこれだけのところで、六語も語
 句指導をするということはありえない。もしありえたとしたら、その教材は学習を困難にし、不適当と言わねばな
 らない。
  あえてここで六語を挙げたのは、前半で述べたことがらが、できるだけ指導例の中で生かされるようにと考えた
 結果であることを付言しておく。
  最後に、
  文学教材における語句指導は、 あくまでも読解をささえるための語句指導で、 語句そのものだけの指導ではな
 い。読解の中で、語句の生きて働いている姿で、その語句を理解していくことが、読むために必要な語句を理解し
 身につけていくことの、本質的方法である。
  また、指導の具体的方法は、その語句の働き・意味に応じ、児童の理解・発達の程度に応じて変わっていかなけ  343
 ればならない。
          7 文学経験指導上の問題点
          第7章 作文指導の近代化

                                                      344


     第7章 作文指導の近代化


 現在の国語教育のなかで、作文指導がいちばんほねがおれると言われている。事実、作文指導は、教師の非常な熱
意と努力にのみささえられていると言っても言い過ぎではないであろう。それは作文指導にとっては不幸なことであ
る。だから、教師が、だれでも、どこでもできる作文指導を願ってやまないのは当然である。
 そのためには作文指導の構造・考え方を近代化し、その方法を科学化する必要がある。

        1 作文指導の領域

 作文指導は、文章や作品を書くことによって、価値を生み出す(自分自身のことばや、自分自身のことばの文化を
生み出したり、自然や社会や自らの生活・思想を観察し、反省し、内観することによって、認識力や思考力を高めた
り、人間性を開発伸長したりする。)過程で、その価値を生産するのに必要な作文力を養成することをねらっている。
 そこでまず、作文指導の領域や範囲を明確にする必要がある。従来、作文指導は、生活作文のように人間教育・人
間改造をねらいながらも、その指導の領域は、生活を表現するという狭い領域に限られていた。この作文指導の領域
をもっと広げる。そのためには、児童・生徒の書く経験にはどんなものがあるか、書く生活の全体にわたって列挙し
てみる。それらの書く経験の中から、最も基本的なものを選んで学習する。こうして作文指導の内容を明確にする。
 児童・生徒が文章を書く経験には次のようなものがある。
(1) このことはだいじなことだから、忘れないように書き残しておく。たとえば、何かについて研究したこと、調べ
 たこと、読んだこと、また、毎日毎日の生活、学級・学校の生活、また、何か栽培したり、飼育したり、観察した
 りしたことなどを記録して、あとの研究や調査、生活の反省や改善、飼育や栽培などの参考にする。また、その成
 果として保存する。そのために書く生活がある。そのためには研究記録・観察記録・飼育栽培記録・読書記録・生
 活日記・学級日記、遠足・運動会・学芸会・見学等の記録、週番の記録などさまざまな記録類を書く経験がある。
(2) このことは、友だちや親類の人々にぜひ知らせたい、伝えたい、また、広く人々に伝えたい、あるいは、お互い
 に生活や心のつながりを求めたい、そのために書くという生活がある。たとえば、安否をたずねたり、消息を通じ
 たり、依頼・照会・招待などをしたりすること、学級・学校の生活について伝え知らせて、いい学級・学校社会を
 作ること、 広報のため、 周知のため広く伝え知らせること、広告や宣伝のために広く知らせること、経験したこ
 と、旅行したこと、研究したことなどを知らせることなどのために書く経験をする。
  そのためには、社交的な手紙、実用的な手紙、掲示・ポスター・図書館案内・読書紹介・かべ新聞・学級新聞・
 学校新聞・宣伝・広告・経験情報・研究報告・見学報告・生徒会・児童会報告・説明等多くの書く経験がある。
(3) また、 この楽しさや嬉しさを、この努力や苦しさを、あるいは、この感動を、この感想や意見を、あるいはま
 た、この問題を、この生活を、広く人々に訴えたい、書き残しておきたい、あるいは書かずにはいられない、その
 ために書くという生活もある。たとえば、遠足・運動会などの楽しいこと、移り変わる自然や自然現象の美しいこ
 と、不思議なこと、書中の知識を得、書中の人と語る喜びとあこがれ、しばしば心に描く夢の世界のこと、毎日毎
 日の生活の喜び、生きる喜び、また、学校・家庭・社会等にある問題に対していだく感想・意見など、書く経験は  345
 たくさんある。
          1 作文指導の領域
第7章 作文指導の近代化
  そのためには、家庭の生活、学校の生活、社会の生活などの生活を表現した詩や文章、自然の情景、自然現象、  346
 自然の中の生活などを表現した文章・詩・俳句・短歌、学級の問題、学科の問題、社会の問題などを書く感想・意
 見・批判、読書の喜び・楽しみなどを書くいわゆる読後の感想・読書のすすめ、あるいは生活や環境から引き起こ
 される感動などを書かずにはいられないで書く詩や文章や脚本、あるいはまた、希望や夢やあこがれなどを書く童
 話や物語など、さまざまな書く経験がある。
 これらの諸経験を、書く文章の目的や機能に応じて分類すると、次の三つの類型ができる.
 (1) 日記・記録・説明などの群れ。
 (2) 手紙・案内・新聞・情報・紹介・報告などの群れ。
 (3) 詩・短歌・俳句・脚本・感想・意見・論文・論説などの群れ。
            oo                  oo
  (1)は、事実の正確な叙述をその本質とし、(2)は、事実を正椎に伝達することをその本質とし、さらに、(3)は、
       oo
 思想や感動を表現すること、つまり自己表現がその本質となっている。
  そこで、作文指導においては、文章や作品を書くことによって、人間性の開発・伸長に必要な価値を生み出すと
 ともに、ことがらを叙述する力、伝達する力、思想や感動を表現する力を養成することをその目あてとしている。
  したがって、作文指導の領域も、叙述・伝達・表現の力を伸ばすのに必要な経験を学習の内容とし、その領域を
 定めなければならない。なお、このほかに作文指導の内容として、新聞・文集・雑誌などの編集を加えるとよい。
  ところで、この三領域は、ことばの機能に根ざしている。ことばには、次の三つの機能があると言われている。
  その一つは、叙述機能である。ことがらを提示し、叙述する機能であるから、文化的機能――文化を創造し、継
 承する機能とも言われる。二つめは伝達機能である。ことがらを伝える、心を伝える、通じ合う機能である。その
 結果、社会関係を形成する。そこで社会的機能とも言われる。三つめは、表現機能である。ことがらや心を表わし
 訴える機能である。したがって精神的機能・精神形成の機能とも言われる。
  このように、ことばには、表わす・示す・伝えるという三つの機能がある。作文指導における「記録」の群れの
 指導は、ことばの叙述機能・文化的機能に基づくものである。「伝達」の群れの指導は、ことばの伝達機能・社会
 的機能に基づくものである。「表現」の群れの指導は、ことばの表現機能・精神形成の機能に基づくものである。
 作文指導に当たっては、 ことばの三機能に基づくこの三領域の学習が調和のとれたものでなければならない。 従
来の生活作文は、この表現機能に基づく、自己表現が中心に指導された。また、いわゆる教科作文は、広い範囲にわ
たる作文指導を計画したが、基本的な経験の選択やその本質がじゅうぶんに理解されないで、中心のない、むしろ、
技能主義的な指導へと偏していった。作文指導の三領域を確立し、その基本的経験を選んで学習させ、調和のとれた
指導をすることがたいせつである。そこで、さまざまな書く経験の中から、基本的なものを選び、それを、小・中学
校の各学年に配当し、系統的、発達的に学習ができるようにする。


       二 作文の新しい指導過程

(1) 現在の作文の指導過程

 作文の指導過程は、ご承知のように、取材・構想・記述・批正という過程が、戦前戦後を通じて一般に行なわれて
いる。ところが、最近は、記述前の指導、記述中の指導、記述後の指導と作文活動を三分した指導過程が行なわれて  347
          2 作文の新しい指導過程
          第7章 作文指導の近代化

いる。 しかし、 これは指導過程ではない。作文活動を、始めとまん中と終わりに三区分したにすぎない。指導過程
は、子供たちの学習活動を、 ある考え、 ある基準に従って配列したものである。始めとか中とか終わりとかいうの
は、学習の順序を示していない。そこには順序を規定するなんの法則も基準もない。ところが、世間には、それを指
導過程と感違いしている人がたくさんいる。

(2) 作文の新しい指導過程

 従来の指導過程は、文章を書く活動、作文活動そのものだけの指導過程であった。新しい指導過程は、生活上の必
要や欲求に基づいて書く経験をする。その書く経験の全過程を一定の考え方・基準によって編成する。つまり、作文
経験の全体の指導過程を編成する。作文を書く必要を感じて、書く目的を明らかにし、文章を書き終わって、それを
目的に応じて処理するまでの指導過程を考える。そこに指導過程の新しさがある。
l 書く目的を持つ
 われわれが文章を書く場合には、まず書く必要を感じ、書く目的を持つ。目的なしに文章を書くことは考えられな
い。この書く必要を感じ、書く目的を持つことが、作文指導の最初・出発であると同時に、これが最後まで一貫して
作文活動をささえている。
 二年のある学級で、お飾りを作ったり、たなばたのお話をしたりして、たなばた祭りをした。 そのあとで、 先生
が、「この間、楽しいたなばた祭りをしましたが、そのことをおとうさんやおかあさんにお話しましたか。」とたずね
たが、ひとりも話した者はなかった。
 そこで、では、その楽しかったたなばた祭りの様子をうちの人に知らせようということになった。子供たちは、た
なばた祭りの様子を両親に知らせるという目的をはっきり持って、作文を書くことになった。
2 目的に応じて内容を選ぶ
 そこで、では、どんなことを知らせようかという話し合いになった。結局、たなばた祭りの中で、いちばん楽しか
ったこと、おもしろかったことを書いて知らせようということになった。目的に応じて書く内容が選ばれた。
3 目的・内容に応じて書き方を考える
 それでは、どんな書き方をすれば、たなばた祭りの様子がおとうさんやおかあさんにわかるだろうかと、書き方に
ついて話し合った。そこで、たなばたまつりにしたこと、おもしろかったことが、読んでわかるように書くこと、や
ったことを順序よく書くこと、「、」や「。」に気をつけて書くことを決めた。特に、順序よく書かないとお祭りの
様子がわからない。「、」や「。」をつけないとおとうさんやおかあさんが読みにくいということを明らかにした。
4 文章の書き方に従って書く
 児童は、目的と内容にふさわしい書き表わし方をいちおう理解し、たなばた祭りを思い出しながら書く。
5 書き終わった文章を推考する
 書き終わったら、これで書く目的が達成できるかどうかを考えて推考する。おとうさんやおかあさんによく読める
かどうか読み直してみる。読みやすいように句読点がついているかどうかを確かめる。抜けている文字を書き足す。
二年ではこの程度。推考はその必然性をはっきりさせて行なう。その間に教師は個別指導をする。
6 清書する
 うちへ持って帰って見てもらうのだから、読みやすいようにきれいに清書する。二年生ぐらいだと、清書するとき
に、写し誤るものがいるから注意する。両方とも提出する。                           348
          2 作文の新しい指導過程
          第7章 作文指導の近代化
                              349
7 処理する。家庭へ持って帰る
 書いた作文は、目的に応じて処理する。持ち帰って両親に見せる。先生は、児童が作文を見せに持ち帰るからよく
読んでほしいこと、読んだら感想を話してやることなど、家庭へのお願いをプリントして、作文とともに持ち帰らせ
る。翌日は、両親がなんと言ったか、それを話し合う。児童はこれで目的を達して満足する。作文経験は終了する。
 従来、作文の処理は教師がした。句読点・誤字・脱字・表現の不備なところなどに朱を入れて返す。これは教師が
児童の学習内容を奪うようなものである。教師が書かせた作文だから、自ら処理してやる責任があった。
 この作文では、児童が目的を持って、主体的に、自ら書いた文章だから、自分で目的に応じた処理をすればよい。
それを原則とする。従来、児童は先生の、作品に対する丸や、はめことばなどを期待して書き、それを得ることで満
足した。作品が返されなかったり、検閲などという印が押されて返ってきたりするとがっかりする。知らせ合う作文
ならお互いに読み合ったり、綴じて回し読みをしたりする。手紙などは可能だったら投函する。報告書だったら回し
読みをする。新聞だったら掲示する。読書紹介文だったら掲示するなり、回し読みなりする。このように書く目的に
応じて処理すれば、児童はそれで満足し喜ぶ。指導は作品を書く過程で行なう。評価は、提出した下書きで行なう。
 この学習指導過程を整理すると次のようになる。

指 導 過 程  学  習  活  動  学 習 能 力 
 l 目   的
 
 2 計画・方法
 
 
 
 3 追   求
 4 検   討
 
 5 獲   得
 6 適   用 
 1 目的を持つ。書く必要を感ずる。
   書く目的をはっきりさせる。
 2 計画を立て、方法を考える。
   目的を達成するための計画や方法を考える。
   書く内容を決める。
   書き方・書く技能をはっきりさせる。
 3 書き方・書く技能を考えながら文章を書く。
 4 推考する。
   書く目的・内容に従って推考する。評価する。
 5 清書する。
 6 処理する。
   目的に応じて処理する。 
 1 価値への志向、生活態
   度、書く構え
 2 計画・方法・技能の自
   覚、取材力、構想力
 
 
 3 表現力
 4 推考力
 
 
 
 6 処理力 


(3) 新しい作文指導過程の編成

 前に掲げた作文指導過程は、私の基準指導過程に基づいて整理した実践指導過程である。これは、単に文章を書く
だけの指導過程ではない。前に述べたように生活――表現――生活、あるいは、経験――表現――経験の指導過程で
          ヽヽヽヽ                         ヽヽヽヽヽヽ
ある。それは、現在のある生活を基底とし、そこに表現活動による認識のメスを加え、あるべき生活を生み出す過程
でもある。
 この作文の指導過程は、次の要素によって編成されている。
(1) 生活過程――ことばの機能に基づく生活的、価値的な目的を確立する過程。生活や研究などの必要や欲求に基づ
 いて考えられる表現の目的。現在の児童・生徒の生活を基底とする。――目的.
(2) 方法過程――目的を達成するために行なう学習活動(作文活動)の計画・方法を確立する過程。目的に応じた文  351
          2 作文の新しい指導過程
          第7章 作文指導の近代化

 章形態の決定、表現方法の決定、学習計画の決定――計画・方法                        352
(3) 能力過程――作文能力の自覚、作文能力の学習と練習。目的に応じた表現内容の選択、表現内容の構成、表現技
 能の自覚、表現態度の確立、作文教材による学習(表現内容・表現態度・表現技能・表現方法等)――態度・技能。
(4) 表現(記述)過程――記述する。目的を実現するための追求過程――追求
(5) 評価過程――目的に照らして推考する過程(自己批正・共同批正等)。目的が達成できたかどうかを評価する過
 程(自己評価・相互評価・グループ評価・共同評価等)――獲得・検討
(6) 適用過程――目的に応じて作文を処理する過程。生活に適用する過程。作文を読み合う、回覧する、掲示する、
 文集を作る、保存する、投函する、人に見せる等、書くときの目的に照らして処理する。――適用
 作文の指導過程は、この六つの過程を組織し編成する必要がある。
 この第一過程(生活過程)は最後の第六過程(適用過程)に対応し、ここに、生活から表現――表現から生活へと
 いう方向を明示している。
  なおこの六過程の組織・編成に当たっては次の事項が考慮され、実現されるようになっている。
(1) 全過程が児童・生徒の主体的な学習によって統制されるようになっている。
(2) 全過程が児童・生徒の思考過程に合っていて、特に、すべての学習が目的の実現のために行なわれるようになっ
 ている。つまり思考の一貫性・課題性・即物性・生産性が発揮できるようになっている。
(3) 生活から――学習――生活への指導理念が一貫している。
(4) 科学的、能率的な指導過程になっている。

       三 作文能力の発達

 作文力の発達は、理解力の発達、思考力の発達、認識力の発達と深い関連を持ち、密接に結びついている。したが
って、文章を書く力は、理解・思考・認識の発達と結びついていかなければ、ほんとうの力とはならない。
 いま、「ともだち」という題材で書く実験をした結果に基づいて作文力の発達について考察してみたい。一年は、
文京区立真砂小学校の伴定子さん、三年は、北区立八幡小学校の花見安憲さん(現板橋区指導主事)、六年は目黒区
宮前小学校の井上潤さんの教室で、それぞれ実験したものである。

(1) 「友だち」の認識の発達

 友だちを題材にして文章を書く場合、友だちをどう受けとめるか、どう認識しているか、つまり、友だちに対して
どのような構えをもって文章を書くかを知ることがだいじであり、それは、友だちに対する発想を知ることである。
 実験の結果によると、一年では、友だちを客観的に、自分から突き放して見ることはできない。常に、自己中心的
で、自己との関係において見ること、とらえること、認識することしかできない。
 言い換えると、「○○さんとなわとびをしました。」「○○さんと本を読んだ。」「○○さんとけんかした。」「○○
さんと電車ごっこをしました。」というように、自分を中心とした遊び・行動・生活・学習等の具体的な経験の中で
しか、友だちを認識することができない。友だちを客観的に、自分から切り離して見ることができない。だから、書
く文章はすべて、友だちと遊んだこと、友だちとしたことという型で書かれている。これを、事件的発想ということ
にすると、児童の87%までが、経験的、事件的発想をとっている。次に、はっきりわからないのが10%、それか
らただ一例だけ「○○さんとわたしはなかよしです。」というのがある。これは3%に当たる。
 三年になると、友だちを自分から切り離して、客観的に、自分の向こう側においてながめることができるようにな  353
          3 作文能力の発達
          第7章 作文指導の近代化

る。友だちを友だちとして、経験の中で具体的に、客観的に、私の大好きな人だというように、友だちを取り出して
説明できるようになる。その客観的にながめることでも、接し方が二つある。一つは「○○と○○は、私の友だちで
す。」他の一つは、「私は○○と仲よしです。」である。このような説明的発想で書き始めた児童が59%、それに対
して、「○○さんは親切です。」「○○さんは非常にやさしい人です。」「○○さんはすぐおこります。」のように、
純粋に客観的に友だちを認識できるもの、紹介的発想で書いたものが18%、それからあとの20%が、一年生と同
じ経験的、事件的発想で書いている。あとの3%は不明である。
 ところが六年になると、友だちを客観的に見ているだけではなく、論理的に抽象化してみることができるようにな
る。言い換えると、「友だちとは何か。」「どういう友だちが真の友だちか。」というように、友だちを抽象的に、論
理的にとらえることができるようになる。これは非常な進歩である。そこで、経験的、事件的発想で書いているもの
17%、「○○は私の友だちです。」と説明的発想で書いているもの5%、「○○は親切です。」と純粋客観的に、紹
介的発想で書いているもの53%、「友だちというのはどういうものか。」「どんな友だちがよい友だちか。」と抽象
化し、論理的発想で書いているもの14%、その他11%となっている。これをまとめてみると次のようになる。

学年\型  事件的発想  説明的発想  紹介的発想  論理的発想  その他 
 一年  87%   3%      10%
 三年  20%  59%  18%     3%
 六年  17%   5%  53%  14%  11%

 この表を見ると、大体において、一年は事件的発想、三年は説明的発想、六年は紹介的発想が中心になっている。

(2) 理解の発達

 作文の指導では、児童たちが、表現すべき対象(内容)をどのように認識し、理解するか、その認識・理解のしか
たの発達を知っておくことがたいせつである。
1 低学年の認識・理解――たとえば、「牛はどんな生き物か。」と聞いてみると、低学年の児童は「牛には角がある
の。」というように、牛の属性や形態の一部である「角」を取り出して、牛を代表させる。このように包括的な総体
的な認識・理解のしかたをする。たとえば、「お使い」の作文を書くと、「おかあさんとおつかいにいきました。」と
いうことで、お使いの経験全部を代表させてしまう。総括的に理解し表現する。
2 中学年の認識・理解――中学年の児童は、「牛には角がある。牛乳を出す。足が四本ある動物だ。」というよう
に、その形態や属性を、関係的に取り出して説明する。つまり、分析的に認識し理解する。たとえば、「お使い」の
作文を書くと、「きのうの朝のことです。とつぜんおかあさんが、『君子、あなたの洋服を買いに行きましょう。』
とおっしゃいました。私はいそいで服を着かえて出かけました。」というように、説明的、分析的な書き方をする。
3 高学年の認識・理解――高学年の児童は、「牛は家に飼われる動物で人の役に立つ。」というように抽象的に理解
する。つまり、牛を抽象的、論理的に認識し、理解することができるようになる。たとえば「お使い」の作文で、
「私はお使いが大すきです。何か買う時でも、自分ですきなものを選ぶことができるからです。」などと書く。
 このような認識・理解の発達は、作文の題材に対する構え――書こうとする対象に対する構え・態度・発想――の
発達となっても現われる。このことは前に述べた。ここに発想指導の根拠がある。                 355
          3 作文能力の発達
          第7章 作文指導の近代化

(3) 作文力の発達

 一般に子供たちはどんな文章を書くか、その発達の状態を明らかにして、それに応じた指導をすることがだいじで  356
ある。その実態を知らないために児童に無理な要求をし、無理な指導をすることは珍しくない。構想指導がだいじだ
からといって、一・二年生に、いわゆる構想メモなるものを使わせるというようなことも往々にして行なわれる。
 次に、児童の認識し理解する力、叙述し表現する力等の発達を明らかにし、その結果作られた作品の発達などを明
らかにする。
1 一年生の作文
 一年生の書く文章は、羅列的だとよく言われる。私のことばでいうと「点的な文章」である。ぽっん、ぽっんと経
験したことの部分部分を包括的にとらえて並べていく。ちょうど点を並べたような状態になっている。これが一般の
一年生の文章の特色である。
 二年生ぐらいになると、経験の諸要素を関係的にとらえることができるようになる。だから、これをしてからこう
した。本を読んでから遊んだというような表現ができるようになる。これを私は、線条的な文章、線的な文章と呼ん
でいる。広がりもなければ深みもない。次々と線的につらねていく文章である。これは二年生の文章の特色である。
 次に具体的に考察してみる。
  でんしゃごっこをしました。こうど(講堂)のよこでしました。たかぎくんとやりました。ふじもとくんとやり
 ました。あたしとやりました。しみずさんとやりました。
 これは、一年生の作文指導の初期の代表的な文章である。このように、電車ごっこをやった経験を書く場合、その
経験の要素(部分部分)を関係的にとらえることができない。だから「でんしゃごっこをしました。こうどのよこで
しました。たかぎくんとしました。……」のようにポツリポツリと書く。これを「こうどのよこで、たかぎくんとで
んしゃごっこをしました。」とは書けないのである。
 これが少し進むと、「だれとだれとやった。」「だれとなにをしました。」というように関係的にとらえて表現でき
るようになってくる。
  てっちゃんとぼくとででんしゃあそびをしました。ぼくが前で、てっちゃんがあとになりました。ぼくがまえに
 なりました。おきゃくさんは、やまだくんです。えきもとまりました。てっきょうもわたりました。せんの上もの
 っかっていきました。ようちえんせいもみていました。それからならのだいぶつさんもやりました。でんでんむし
 もやりました。
 かなり線条的な文章になっているが、なお包括的な表現の域を脱していない。これは、一年生の作文の典型的なも
のである。
2 二年生の作文
 二年生の作文は、経験の諸要素を関係的にとらえて表現するから勢い文章が連続的、線条的になる。
  ooooooo ヽヽヽヽヽヽヽ   oooooo ヽヽヽヽヽヽ
〇 本をよみました。本をよんでからそとであそびました。あそんでからおやつをたべました。
                                     oooooooo ヽヽヽヽヽヽ
○ かえりにおばあちゃんが、ふたりにあめとチョコレートとキャラメルといかを買ってくれました。買ってもらっ
 ヽヽヽ
 てからうちへかえりました。
                            ooooooo ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
○ きょうは、さよちゃんと、ゆみちゃんと、ゆみちゃんちでべんきょうして、べんきょうがおわったら、おかねを
     oooooo oooヽヽヽヽヽヽヽヽ         oo
 もらってあそびました。そしてすこしあそんだら、つまんなくなったので、三人であたしんちのうちでうたをうた
      ooo                          oo
 いました。そしておとうさんからおっかいにいっていらっしゃいといわれたのでわたしはゆみ子ちゃんと五人でい  357
          3 作文能力の発達
          第7章作文指導の近代化

 きました。
 これらの作文は、一般の二年生の特色をよく表わしている。 文を続ける場合、 いろいろな続け方をくふうしてい
る。「あそびました。あそんでから……」のように前の経験を受けて次の経験を書き起こす。「すこしたってから…
…」と時間をおいて次の経験を書き起こす。経験のつながり、事実のつながりをそのまま文の接続にする。「それか
ら」のように接続詞を使う。 「……から……ので」 など、理由や原因や時間の経過等を表わす接続助詞を盛んに使
う。こうして線条的文章、情報的文章ができる。関係的な認識を関係的に表わすことばや表わし方をくふうし会得し
て、だんだん長い文章が書けるようになる。書く内容をぐんぐん広げてくる。豊かにする。作文力は急速に伸びる。
つい、接続詞や接続助詞を乱用するようになる。すると、教師はその適切な使い方を指導しないで、それを押えてし
まう。それでは作文力は伸びない。このように作文力は、認識・思考力と密接に結びついている。
3 三年生の作文
 二年生に遠足の作文を書かせると、朝起きてから、遠足に行って、帰ってくるまでの線条的な文章、情報的な文章
を書く。いちばん楽しかったところだけ、お昼にお弁当を食べた時のことだけ書きなさいと言ってもなかなか書けな
い。やはり始めから終わりまでのことをだらだらと続けて書いていく。これが普通なのである。
 遠足に行って山の頂上から眺めたときのことだけ書きなさい。というような経験や感情の一部を抜き出して、それ
を中心にして書くことが可能になるのは三年のころからである。それは経験したこと、考えたこと、見たこと聞いた
こと、あるいは自然現象・社会現象などを、客観的に分析的に認識することができるようになり、しかも、それを客
観的に説明し、描写することができるようになるからである。
 「朝起きて顔を洗ってご飯を食べてから学校へ行きました。」という文章から、いつのまにか、「朝起きて顔を洗い
ました。おかあさんが台所でごほんをたいていましたごほんがぶっぶっにえていました。」のような文章に変わる。
全体的にとらえた場面を、その要素に分析してとらえ、認識することができ、それを説明的に描写することができる
ようになる。こうして、点的な文章、線条的な文章から、場面や情景を描写する文章――広がりのある文章、面的な
文章へと発展する。経験情報的な文章から、経験を深める、経験を広げる文章へと発展する。
  いなかは、朝早く起きてごはんをたいて、大いそぎで食べてからくわつみに行きます。かごいっぱいつんできてか
 ら、かいこにえさをあげます。私もかいこの手つだいをしてあげました。みんな終わるころは、先にあげたほうが
 ほとんどなくなっています。でも時間になるまではあげません。一日に五回ぐらいあげます。夜になってなんだか
 さあっと雨がふっているような昔がしたから、びっくりして起き上がったら、「かいこが、くわをたべているよ。」
 と、おばあちゃんがおっしゃいました。まい日まい日くわばたけから取って来てあげます。はじめいなかへ行った
 ときは三センチぐらいでしたが、かえるころには五センチぐらい大きくなりました。かいこは白いねずみ色をした
 毛の生えていないやわらかい虫でした。ものすごくたくさんいるので、気もちわるいくらいでした。いなかのとく子
 ちゃんはへいきでかいこをつかまえています。さとるにいちゃんとおなじ五年生ですが、よくお手伝いをします。
 このように、場面や情景を説明的に書き表わすことができるようになってくる。しかし、場面を描写するといって
も、表面的で広がりはあるが、深みはまだ出てこない。このように文章表現の発達は、児童の認識力・思考力の発達
と密接に結びついていることがわかる。                                    359

       4 作文教材の学習とその効果
          4 作文教材の学習とその効果
          第7章 作文指導の近代化

(1) 作文教材を読ませる意義

 四年生の作文教材として「ハイキング」という文章がある。子供たちは、これを読んで、書いてあることがらにつ
いて内面的に経験する。ピクニックを具体的に経験する代わりに、ことばによって、言語記号によって内面的に経験
する。私たちは、すべてのことを具体的に経験するというわけにはいかない。そこで具体的に経験する代わりにこと
ばで書き表わされたものを読んだり、 あるいは人の話を聞いたりして、 実際に経験したと同じような内部経験をす
る。これをことばという記号、すなわち言語記号によって経験するから記号経験という。また別の言い方をすると、
直接経験をする代わりにことばによって経験するから、代行経験などという人もある。要するに文章を読むことは、
子供たちが代行経験・記号経験をするということになる。
 子供たちはこのように、 文章に書かれている知識、 物の見方・考え方あるいは心情などをことばによって経験す
る。「ピクニック」の文章でいうと、自然に対する感覚、自然の見方・感じ方、つまり、自然の認識のしかたという
ものを、文章を読むことによって内面的に経験している。そこにこういう文章を読ませる一つの意義がある。
 そうすると、こういう教材を作文を書く前に読ませるということは、子供たちに自然の感じ方、自然の認識のしか
たをことばを通して身につけさせることになる。そういう力を身につけさせた上で、遠足にいったり自然を経験した
りする。 その場合このような文章を読まないで経験するよりも、 読んでから経験するほうが経験がより深まってく
る。この深まった経験を書き表わすことになる。つまり、目で見たり、あるいは具体的に歩いたり、実際に経験した
りしたことを、じぶんのことばで書き表わすことによって、その経験をいっそう深く認識する。あるいはじぶんがば
くぜんと感じ取ったりしたものをはっきりとことばで書き表わす。じぶんのした経験にことばを当てはめていく。そ
れによって、また経験が深まっていく。物の見方・感じ方が深まっていく。 そういう働きをするのがこの教材である。
 したがってその教材に表現されているものは、四年生らしい見方・感じ方、あるいは感覚であるのが理想である。
おとなの感覚、おとなの感じ方というものがそこに表わされているとしたら、おとなの感じ方を児童が経験するわけ
であるから、これは能力的、精神発達的にみて適切ではない。つまり、そこに表現されているものが子供の感覚、子
供たちの感じ方、子供たちの自然の見方、 認識のしかた、 認識そのものであればそれがいい教材だと言える。この
「ハイキング」という教材が適当かどうかは、そのような観点についてみていけば、自然にわかってくる。

(2) 作文教材によって学習すること

 次に、作文教材を読んで学習することについて考えてみる。
1 書く興味・欲求を起こすこと
 子供たちが作文教材を読んだときに、自分も書いてみたいという気持ちを起こすことがだいじである。教材を読ん
で、こんな文章はとても書けない。おもしろくないと感じさせてしまっては、せっかくの文章を読んでも学習の効果
があがらない。作文活動がしたくなるような感動を受ける。このくらいなら自分にも書けるという自信を持つように
なる。そのような教材がいい。だから、その教材が、おとなの思想や感情・感覚で、表現だけを子供らしく見せかけ
ているのはよくない。
2 教材の内容について認識を深めること
 次には、その文章を読むことによって、自然の認識のしかた――感じ方・見方などを身につける。このことについ
ては前に述べてある。                                            361
          4 作文教材の学習とその効果
          第7章 作文指導の近代化

3 文章の構造を理解すること
 その文章の構造(しくみ)を理解して、文章構成の方法を知る。したがって、そこで扱う教材は、児童の書いたも
のを扱うことを原則とする。おとなが構成した文章は適切ではない。また、それによって文章構造を形式的に理解さ
せようとしても、それは無理である。
 たとえば、この文章の組み立ては、作者がほんとうにきれいだった、楽しかったと強く感じたことを中心として、
それがよくわかるように書いた結果、必然的にこのような文章の構造になったことを理解させる。
 このように、ここの所にいちばん感動した、それを訴えたい、あるいは、このことをぜひ知ってもらいたいと考え
た時に、どのように書けば、その目的が達成できるかという立場から文章構成の問題は考えるべきである。
4 表現のしかたを理解すること
 次には、個々のことばの使い方、書き表わし方、いわゆる叙述のしかたについて理解する。たとえば、この書き表
わし方の中には、作者の気持ちがにじみ出ている。この書き表わし方によって、情景が目に見えるような感じがする
というように、正確な叙述、的確な叙述、味わいのある叙述、じょうずな書き表わし方などについて理解する。この
ような書き表わし方をすれば、場面や情景や心情がよく表現できることがわかる。
 以上述べたように、作文を書く前に作文教材を読ませることによって、内面的なもの――子供たちの心情なり、観
察力なり、認識力なりにつながる面と、そのような感覚・感動・認識などの書き表わし方の面との両面について学習
する。ところが、ややもすると、内面的な面の学習が軽視され、書き表わし方だけが強調されるおそれがある。表現
内容や表現目的が問題にされないで、文の中心点をはっきり書くということだけが強調される。また、構想というこ
とで、文章の組み立ての面だけが強調される。このように文章の形式面、表現技術の面だけが強調され、取り扱われ
やすいから注意すべきである。
 作文教材によって学習することを一般的に述べた。実際の指導に当たっては、次の点から具体的に学習事項を決定
する。
 (1) 教材の学習後書く作文で、どんな内面的な人間性の開発伸長に役立たせようとするか。たとえば、経験を深め
  る、自然の認識力を高める、自分をみつめる力を伸ばす、思想を豊かにする、感覚をみがく、観察力を伸ばす、
  その他さまざまなねらいが考えられる。これらのうち、どれについて学習させようとしているかを明確にする。
  その点から教材を見て、学習させる。
 (2) 作文を書く場合、どんな態度や技能を身につけようとしているか。たとえば段落を整えて書くこと、要点を落
  とさずに書くこと、情景を描写すること、気持ちを書き表わすこと、中心点をはっきりさせて書くこと、相手に
  応じて文章を書くことなどさまざまな技能がある。これらの技能のうちどの技能について指導するかを明らかに
  する。その上で、その技能が教材のどこにどのように使われているかを理解する。

(3) 作文教材学習の効果

 次に、三年生が、作文教材「かあこちゃん」を読んでから「友だち」について作文を書いたおりの教材と作品との
関係を考察してみる。指導者は、東京都北区立八幡小学校花見安憲さん(現板橋区指導主事)で、ここに引用する諸
調査も同氏がまとめたものである。                                      363
1 学習した教材
  かあ子ちゃん
          4 作文教材の学習とその効果
          第7章 作文指導の近代化

 かあ子ちゃんは、わたしの、なかよしです。かあ子ちゃんの ほんとう の名まえは かず子ちゃんですが、お友
だちは、みんな「かあ子ちゃん、かあ子ちゃん。」といいます。
 かあ子ちゃんのおかあさんも「うちのかあ子がね。」といって、お話をなさいます。
  かあ子ちゃんのうちは、わたしのうちのちかくなので、学校が終わると、いつもふたりでいっしょに帰ります。
 わたしが、かあ子ちゃんのうちへ遊びに行ったり、かあこちゃんがわたしのうちへ来たりして、いつも、いっしょ
にいます。ときどき、ふたりで けんかも します。 わたし のうち でけんかすると、かあ子ちゃんは、
 「わたし、もう、まち子ちゃんとなんか 遊ばないわ。」
 といって、おこって、帰って行きますが、また、すぐに、
 「まち子ちゃん、遊びましょう。」
 と いって わたしの うちに 来ます。
 もし、来ないときには わたしの ほうから遊びに 行きます。
 かあ子ちゃんは、わたしよりも おそ生まれなのに、おねえさんぶって せわをやきます。わたしの おかあさ
んは、
 「かあ子ちゃんは しんせつな いい子だね。」
 と いつも おっしゃいます。
 わたしは、いつまでもかあ子ちゃんとなかよしでいたいと思います。
2 学習事項
 上の教材について、次の事項を学習した。
(1) 作者は友だちについて、どんな気持ちを書こうとしたか.
(2) 作者の気持ちはどんなところに詳しく書き表わされているか。
(3) 作者は友だちのどんな所をよく見て書いているか。
(4) 作者はどんなことがらをどんな順序で組み立てて書いているか。
(5) 生き生きとした書きぶりはどんなところか。
3 内容面から受けた影響
 教材を読んで内容的にどんな影響を受けたか、つまり、友だちの認識のしかた・見方・考え方にどんな影響を受け
たかについて考察してみる。詳しいことはわからないが、教材の内容と同じか、または同じような事項について書い
たものを調べてみると次のようになる。

教 材 の 内 容   作品に現われ
 た回数 
作品に現われた例 
 1 かあ子ちゃん
  はわたしのなか
  よしです。 
 15
(52%) 
 わたしと○○はなかよしです。○○とわたし
 はなかよしです。(友だちです。しんゆうで
 す。すきです。)など。 
 2 けんかもする
  が、すぐなかよ
  くなる。 
 12
(40%) 
 ときどきけんかもします。けれども、すぐな
 かなおりします。口だけのけんかですがすぐ
 なかよしになります。など。 
 3 あ だ な    9
(30%) 
 〇〇〇のあだなは○○です。○○は○○と言
 われています。など。 
 4 し ん せ つ    6
(20%)
 ○○はとてもしんせつです。○○はしんせつ
 でやさしくてとてもいい人です。など。 
 5 おかあさんど
  うしのこと 
  3
(10%)  
 うちのおかあさんと00のおかあさんは○
 ○なので……など。  
 6 おかあさんの
  ことば    
 2
(7%) 
 「いい友だちをもってよかったわね。」など。 
 7 友だちの外見
  的な特徴  
  4
(13%) 
 ○○は小さくてにこにこしています。○○は
 とてもふとっています。など。 
 8 よ び 名
  (かあ子ちゃん) 
 2
(7%) 
 きいちゃん。たえぼう。 

                                                     〜365
          4 作文教材の学習とその効果
          第7章作文指導の近代化

 なお、この影響を受けたものを、能力別に見ると次の表のようになる。                     366


能力\   
影響を受けた個所数        計
0   1  2  3  4  5
 上      3  2  1  1   7人
 中  5    6  3  3    17人
 下  6  1  1         8人

 作文教材の影響は、当然のことながら、能力の高い者ほど大きく、低い者ほど小さいことがわかる。この影響の内
容はこれ以上に分析できないから、それが単なる形式的な模倣なのか、それぞれの観点に立って認識した結果の表現
であるかどうかはここではわからない。
4 形式面から受けた影響
 次に、表現形式や文章構造等について、どんな影響を受けているか、考察してみる。
(1) 書き出しとまとめ
 ア 書き出しとまとめの文両方が、教材と大体同じになっているもの。   21名
 イ 書き出しの文だけ影響を受けたもの。                 5名
 ウ まとめの文だけ影響を受けたもの。                  3名
 エ どちらにも関係ないもの。                      3名
(2) 文章の組み立て
 ア 内容を一応まとめて書いているもの。                13名
 イ ほとんどまとめていないもの。                   19名
(3) 改行                                                  367
          4 作文教材の学習とその効果
          第7章作文指導の近代化

 ア いちおう改行しているもの。                    29名
 イ ほとんどしないもの。                        3名
(4) 会話の挿入
 ア 挿入してあるもの。                        26名
 イ 挿入してないもの。                         6名
 もっとも影響を受けているのは、書き出しとまとめである。書き出しを「○○はわたしのなかよしです。」「○○は
わたしの友だちです。」などと、紹介的発想で書き始め、終わりを「いつまでもなかよしでいたいと思います。」式に
まとめているものが圧倒的に多い。
 文章の組み立てについては、いちおう内容をまとめて書いている者が、13人、まとまっていない者が19人で、
段落にまとめて書く能力はきわめて低い。いちおうまとめて書いているものでも、ある事件や経験を、ある主題のも
とに統一してまとめて書くことは、ほとんど見られない。
 作文教材からどんな影響を受けるか、内容面と形式両に分けて考察してみた。まだ作文を書く前に教材文を読ませ
る可否の問題、つまり、受けた影響の可否の問題が残されている。これらについては、このような調査研究に基づい
て科学的に解決すべきであると思う。

       5 記述過程の科学的研究

 児童・生徒が文章を書く各過程の実態を明らかにし、記述中の指導内容・指導法をくふうする。そのために必要な
事項についての研究の一部をここにまとめてみた。

(1) 記述時間と記述内容

 作文の時間に児童・生徒に与えられた記述の時間は、どのように使われているか。また、時間と記述内容との関係
はどうなっているかについて調べてみる。
1 一年の記述時間と文章の長さ
 題材「ともだち」    児童数五〇名    (文京区立真砂小学校伴定子さん指導)
  記述時間と文章の長さ(能力別)

 能力  児童\  単位時間
     \経過時間
5 分 間 内 に 書 い た 文 字 数       
  5  10  15 20   25  30  35  計 
  上  A(女)  77  66  70  75  78  96  0  462
 B(男)   84  122  122  164  0  82  0  574
 C(女)  98  138  95  115  0  51  0  497
 平均    86  109  96  118  26  78  0  511
  中 D(女)  77  28  26  31  44  52  0  248
E(男)   98  103  88  51  77  102  0  517
F(男)   82  69  101  42  62  97  0  453
 平均    86  67  72  41  ll  80  0  406
  下 G(女)   53  69  109  83  86  105  58  563
H(男)   80  118  65  0  0  0  0  263
I(女)   35  54  36  40  42  51  0  258
 平均    56  80  70  41  43  52  19  361

 備考BとCは二〇分でいったん書き上げ、読み返してのちさらに書き加えた。

2 三年の記述時間と文章の長さ
 題材 「ともだち」    児童数四二名
             (北区立八幡小学校花見安憲さん指導)
  記述時間と文章の長さ(能力別)

能力  児童\  単位時間
    \経過時問
五 分 間 に 書 い た 文 字 数        
5  10  15  20   25 30  35 計  
 上   A(女) 15  60  36  69  87  49  58 374 
 B(男) 80  143  75  80  120  101  134 733 
 C(男) 43 47  20  49  43  59  122 383 
 平均   46  83 44  66  83  70  105 497 
 中   D(男) 35  86  69  98  48  67  81 484 
 E(男) 20  48  63  189  100  100  99 619
(完成) 
 F(女) 27  46  36  49  46  27  50 281 
 平均   27  60  56  112  65  65  77 461 
下    G(男) 52  53  59  79  73  96  78 490 
 H(女) 88  87  42  64  97  26  38 442 
 I(男) 96  109  81  104  91  45  52 578 
 平均   79  83  61  82   87 56  56 504 

3 六年の記述時間と文章の長さ
 題材 「ともだち」  児童数  三六名
                 (目黒区立宮前小学校井上潤さん指導)
  記述時間と文章の長さ                                          371
          5 記述過程の科学的研究
          第7章 作文指導の近代化

能力  児童\  単位時間
    \経過時問
      五 分 間 に 書 い た 文 字 数 
 5  10  15  20  25  30  35 計 
 上   A(女)  118  131  105  51  88  70  89  652
 B(女)  132  178  72  75  17  42  0  516
 C(男)  127  164  85  0  0  0  66  442
平均   141  158  87  42  35  37  52  552
 中  D(男)   86  109  96  95  89  93  3  571
 E(男)   125  124  138  187  175  125  0  874
F(女)   50  103  126  81  114  68  101  643
 平均    87  112  120  121  126  95  35  696
 下  G(女)   73  114  127  132  85  25  0  556
 H(男)   90  112  84  73  83  103  13  558
 I(男)   55  40  57  96  55  80  3  386
 平均    73  89  89  100  74  69  5  499

4 六年生の記述時間と文章の長さ                                    〜372 
 題材 感想文    児童数 四六名
          (板橋区立志村第一小学校吉沢義弘さん指導)
  記述時間と文章の長さ(能力別)

 能力  児童\   単位時間
    \ 経過時問 
    五 分 間 に 書 い た 文 字 数  
 5 10  15  20  25  計 
 上  A  95  94  55  31  (22分)
 21
 296
 中  B  103  127  80  0  36  346
 下  C  64  82  103  (18分)
64
 0  313

 これらの表を見ると次のことがわかる。
 ア 一般的にいって書く速さは、書き始めてから10分〜20分までぐらいが山で、それ以後は低下する。
 イ 記述には、型がある。始めから同じような速さでゆっくり書き進める型。始め10分〜20分ぐらいの間に急
  速に書いてしまう型、徐々に書き始め、終わりのほうへ行って速さを増す型。
 ウ いわゆる成績のいい児童が、一般的にいって速く書く。
 エ 書く速さは、児童の書こうとする欲求、書く目的の自覚、書く構え等に左右される。             373
          5 記述過程の科学的研究
          第7章 作文指導の近代化

 オ 一般に、作品が主題で統一されていない。雑多なことが書き並べられている。途中から横道へそれている。木  374
  に竹をついだような文章ができる。まったく新たなことがらが書き加えられる。文章の中心が二つできるなどの
  ことは、多くは、文章の後半や終わりの部分に現われる。つまり、ある時間一気に書いたあとに起こっている。
 これらの実態から、記述中の指導の考え方や方法が考え出される。
 上の六年生の場合についてさらに考察してみる。
 この作文は、「分銅屋のえんとつ」の読後の感想。書く時間は25分。書く分量は、四百字詰原稿用紙一枚。
 この場合、25分間に、書き終わったと児童が意識し、しかも、実際に文章が完結しているものが、46人中32
人。14人が書き終わっていない。書き終わったものは、20字詰め20行の原稿紙に、13行、15行、16行な
どで、最高20行になっている。書き終わらない14人のうち10人は、原稿用紙一枚に満たない状態で、あとの4
人は、一枚いっぱい書いているが、内容が書き終わっていない状態である。
 このような調査は、記述の時間をどの程度とったらよいか、どの程度の時間で、 どの程度の内容が書けるか、 ま
た、一定の時間を定めて、その範囲内で文章をまとめる指導をする場合などについて考えるときの参考になる。

(2) 記述中の停止時間

 記述中に書くことをやめて他のことをしたり、考えたりする時間がある。 児童はなんのために停止するのか、ま
た、その時間はどのくらいか、その時間をなるべく少なくして、書くことに専念させるにはどうしたらよいか、など
能率的な記述をさせたり、記述中の指導をしたりする場合の参考資料を求めようとするのが、この調査である。
1 停止時間はどのくらいか
 一年生の上・中・下の能力の代表者をひとりずつ選んで観察した結果、
 A(上の児童)は、与えられた記述時間30分のうち、22分で書き上げ、497字の文章を書いている。この記
述時間22分のうち、延べ5分間停止、17分書いている。
 B(中位の児童)は、30分かかって517字の文章を書いている。停止時間は、30分のうち、延べ7分30秒。
 C(下位の児童)は、30分かかって258字の文章を書いている。停止時間は、30分のうち、延べ15分40
秒。実に半分以上停止している。
 次は、六年生の場合、記述時間は35分与えられた。
 A(上位の児童)は、35分かかって、652字の文章を書いた。停止時間は、延べ12分30秒。
 B(中位の児童)は、35分全部使って、531字の文章を書いた。停止時間は延べ4分55秒。
 C(下位の児童)は、30分で書き上げ、文字の長さは556字、停止時間は、延べ4分2秒。
 このように児童は、記述時間中に相当時間、多いのは半分も書くことをやめて考える。この停止時間には、いろい
ろ意味があり、価値がある。しかし、それは短いほどいい。この停止時問を短くするにはどうしたらいいか。 これ
は、書く構え、書く内容、書く技術などと深い関係がある。つまり、書く前の指導と関係がある。たとえば、六年の
Aは、35分のうち延べ12分30秒という長い停止があるが、この児童は、 書き始めるまでに二分間かかってい
る。書く内容が明確でなく、また、どう書き出したらいいか考えていたためであろう。 なお、このほかにゴムを使
う、鉛筆をけずる、わからない文字をきくなどに要する時間があるから、実際に記述する時間はもっと少なくなる。
2 停止時間には伺をするか
 次に六年(中位)の記述中の停止時間の実態を参考に掲げてみる。                       375
          5 記述過程の科学的研究
          第7章 作文指導の近代化

                                                      376

記述中の経過時間(分)    5 10  15  20  25  30  35 計 
5分間に書いた文字数    86  109  96  95  89  93  3  571
記述中の停止回数     50  8  8  6  4  5    36

 

 

 

 
的              


る   
想の展開のため   2  3  3  1        9
文字を思い出すため           1      1
句読点について             2    
事実を思い出すため             2    2




使

   
文字の誤りを直す   2  4  1  3    1    12
語・文の誤りを直す   1    3  1  1      7
記号の誤り     1  1          2
文字をきれいにする                 
友だちと話す           1      1
友だちに文字を聞く                 
友だちに物を借りる                 
疲れたので休む           1      1
原稿紙をかえる         1        1
先生に聞く                 
  計 1分30秒  50秒 1分20秒  30秒  30秒  35秒    4分55秒

 上の表で、どんな場合に、なんのためにいつ停止するかがわかる。一般に停止する場合について考察してみる。
(1) 消しゴムを使う
 消しゴムを使うために停止することがある。文字や語句や文を書き直すために消しゴムを使う。よく、記述中にゴ
ムを使わせてはいけない。ゴムばかり使っていてなかなか書き進まないという人がある。それは、ゴムを使う心理を
知らない人である。記述から消しゴムを取り上げたら、一・二年生はうまく書けない。彼らは潔癖で、文字がゆがん
でいる、書き誤りをした、文字が大き過ぎたというような場合、書き直さずにはいられない。書き直さないと思考が
進まない。落ちつかない。安心して文章が書けない。だから、消しゴムを禁止しないで、それを効果的に使うように
指導する。三年生でも、ゴムを使っていいと言われるとほっとし、思わずよかったと嘆声を洩らす。消しゴムを使う
心理を明らかにして指導する。
 なお、作文における文字を書くことの抵抗、特に漢字を書くことの抵抗がどんなに大きいかは、想像以上である。
漢字を書く直前に大部分の児童が必ずといっていいくらい一旦停止する。
(2) 想の展開――これからどう書き進めたらよいか、考えるために休む。 この時間はかなり長く、しかも回数も多
 い。前のほうを読んで、次に書くべきことを考える。
(3) 推考する――書きながら推考するために休む。すでに書いた部分を読み返すために休む。主語・述語の呼応の誤
 りを正す。文脈に合うように語句や文を修正する。書きながら推考することは三年生ごろから現われ始める。五・
 六年生では、指導すれば相当にできる。作文を書くことは、文脈を作ること、場面を構成すること、思考を整えて
 いくことでもある。 文脈がしだいに作られていくと、前のほうに書いたことが文脈に合わなくなることがある。
 そんな場合には、前へもどって訂正する。また、はじめ「かあ子ちゃん」と書いていくうちに文脈が改まってくる。
 そうすると「かあ子ちゃん」では、あとの文としっくりしない。そこで「かつ子さん」というように改めて書き直
 す。このように読み直しては訂正し、訂正しては文脈を作って書き進める。そのために休むことも多い。      377
          5 記述過程の科学的研究
          第7章 作文指導の近代化

(4) 疲れを休める――疲れを回復するために停止する。背のびをする。胸を張る。手首を振ったり回したりする。こ  378
 うして疲れを回復しようとして停止する。この疲労は、筆圧・鉛筆の持ち方、書く姿勢等に関係がある。疲れを少
 なくするためには、作文の基礎練習として、手指の運動、視写・聴写などをして、書き慣れる、力を不当に入れず
 に書く、薬な姿勢で書くことなどができるようにする。
3 記述中の指導の機会
 これまで考察したように、記述過程における心理や生理が明らかになると、記述中に、 いつ、 どんなことについ
て、どんな方法で指導したらよいかがわかってくる。能力の上・中・下の三人の児童の、記述時間と、単位時間に書
く文章の長さとの関係をグラフにすると、次のようになる。
 上位の児童は、書き始めてから10分ぐらいのところに山がくる。この山はかなりゆるやかなカーブである。10
分以後だんだん低くなっている。下位の児童は、始めの5分も次の5分とあまり違わない。非常にゆるやかなカーブ
で進む。15分から20分までぐらいだらだら上って、そこから下がり始める。
 上・中・下平均したもので見ると、始めの5分間が、93字、次の5分間(10分)が119字、次の5分間(1
5分)が99字、次の5分間(20分)が84字、次の5分間が(25分)80字、次の5分間(30分)が67字、
最後の5分間(35分)が31字となっている。
 これによって、児童たちが夢中になって書いている時間は、大体始めから10分〜15分〜20分ぐらいまでであ
る。そのころまでに、自分の書こうとすることが大体書けている。それ以後は、まとめとか、もう書くことがなくな
って、付けたりを書いているのがある。実際に児童の書いた文章を見ると、15分から20分ぐらいのところまでで
一貫した文章が書けている。そのころになって、突然、全然関係のないことを書き出すこともよくある。書き終わっ
て、それ以上に書くことがなくて困っている。まだ時間があるから、時間をつぶすために、何か書き加える。児童の
作文を分析してみると、その辺の事情がよくわかる。
 かりに、35分書かせると、15分ぐらいたったところがちょうど山になる。したがって、それ以前にいっせいに
記述を中止させて指導するのはよくない。二年生の「たなばた祭り」の作文で、書き始めた初めの5分間に、先生が
机間を回りながら二度指導している。「書くことのない人は、先生に相談してください。」「書くことのよく見つか
らない人は先生の所へ来て相談してください。」がそれである。児童は一心に書いている。それなのに児童の注意を
そらすようなことをいう。このような指示は、書き始める前にすべきである。
 記述中の個人指導は、15分ぐらいたっていちおう書き終わったころ、あるいは一気に書いて、さて次に何を書こ
うかと考えるころにすべきである。書く内容がまだあるときに指導しようとしても無理である。

       6 コンポジションの指導

 最近コンポジションの問題が取り上げられている。これは、文章をどのように組み立てたらよいか、文章の構成の
しかたの問題である。
 たとえば、論文は、序論・本論・結論の形式に従って書かれている。文章は、起承転結の展開の型に従って書くと
いい。論説文は、頭括式がいいとか、尾括式がいいとか、さまざまな文章構成の型が考えられている。
 昔の作文では、手紙の文章は、拝啓から始まって敬具までの構成を、前文・本文・末文という型に当てはめて書か
せるといったことが、コンポジションの問題であった。                             379
          6 コンポジションの指導
          第7章 作文持場の近代化

 最近、コンポジションの問題が取り上げられて論議されているのは、国語教育における思考力養成の問題から出発
している。ここで注意すべきことは、文章構成の型がまずあって、手紙はこう書く、感想文はこう書く、記録文はこ
う書く、日記はこう書くという一つの型があって、その型を教えるのではないということである。ところが、とかく
その型を教えたがる。
 文章の構成は、書き手が、読み手に訴えたい、知らせたい、わかってもらいたいと思うことがらを、読み手に読み
取りやすいように、理解しやすいように、能率的な、機能的な形式にまとめて書くのがいちばんいい。
 コンポジションの基本問題は、書き手が読み手に知らせたいことが、そのままに、しかも効果的、能率的に読み取
れるように書き表わすには、どのように形式化したらいいかという問題として考える。それが基礎理論になる。
 文章の構成を決める基本は何かというと、その文章を書く目的である。別のことばで言えば、文章の機能・働きの
問題である。目的・機能と構造との関係である。文章を書く場合、必ず書く目的がある。その目的がじゅうぶんに達
せられるように考えて文章を構成すればよい。
 ハイキングの楽しさを表現しようとする場合、なるほど楽しかったのだと感じさせるような書き表わし方をするの
がいちばんいい。そのためには、朝起きて顔を洗ってご飯を食べてというような書き方では、読み手は感動を受けな
い。いちばん楽しかったことが読み手に訴えられるように、それを中心にして書く。目的が達成できるような書き表
わし方を、文章の構造の問題としてくふうする。
 書く目的に応じ、機能に応じた書き表わし方をする。そこから自然に文章の組み立てはどうしたらいいかというこ
とが出てくる。あっさり書いておくところ、詳しく細かく書くところ、文章の中心などすべて書く目的によって決ま
ってくる。ここは、読み手に強く訴えなくてもいいというところはあっさり書く。みんなによく知ってもらいたいと
ころは詳しく書くし、文章の中心・肝どころとして力をこめて書く.
 あるいは、こういう考えを訴える。主張しようとする。そのためには、その考えがしだいに成り立っていく過程に
そって、事実・意見・事実・意見のように漸層的、・過程的に書き進めて最後にまとめて結論を述べる。それがいち
ばん読み手の頭の中に、筋道に乗りやすい。この考えは、初めに結論を出し、次にその解説を書き、実例をあげ、再
び結論を述べて確認する方法であり、それが読み手に訴えるいい形式である。
 このように、書く目的、文章の機能、表現内容等に応じて、文章の組み立てを考える。それを指導するのが構想指
導の問題である。
 文章を読ませて段落に分け、初めの段落にはこう書いてあった。次の段落にはこう書いてあった。この文章の組み
立てはこうなっている。さあ、みなさんもこう書くのだというのが、コンポジションの指導ではない。まず、子供た
ちの書く目的を明確にする。その目的を達成するにはどう書いたらいいかを考えて書かせるところにコンポジション
の指導がある。比喩的に言えば、コンポジションは表現者の心の中にある。児童の心のうちにある表現する目的や、
内容の中にある書く目的の中に文章構成の基礎がある。
 いわゆる構想を立てて書かせると、児童の文章は縮んでしまうことがよくある。骨組みだけの文章になってしまっ
たり、伸び伸びした文章が書けないことがよくある。それは、形式的な構想を強調するからである。構想を立てて書
くということはだいじであるから、それができる学年では機能的に指導する。
 コンポジションの指導に当たっては、子供たちに書く目的をはっきり持たせる。目的を達成するには、文章をどう
組み立てて書けばよいかを話し合って考えさせる。そして、書く目的と書く内容に応じた構成を考えさせるように指
導するのがいいと思う。                                           381
          6 コンボジションの指導
          第7章 作文指噂の近代化

 あるいは、子供らしいいい構想をもった文章を読ませて指導する。あくまでも児童が書いた文章で構成の指導をす  382
る。それが基本的にだいじである。それをうっかりすると、読解と作文との関連とかいうことで、おとなの書いた文
章――非常に程度の高い構成・組み立てを形式的に教えてしまうおそれがある。ある付属中学校で、「読解と作文の
関連」というテーマで研究していたが、ある学級で、論説文の読解をしていた。そのおりに、この論説文は、序論・
本論・結論というように文章が構成されている。この次には、論文を書いてもらうが、このように序論・本論・結論
の順序に書くようにしなさいという指導があった。
 このように、コンポジションは、外部に形式として存在するものと考えず、児童の表現の目的、表現の内容に即し
て、意図的、可変性をもった内部形式と考えるようにする。コンポジションが、思考力養成の問題として取り上げら
れた意味もそこにある。一定の形式に当てはめて書くことを指導するのであれば、コンポジションの指導はたいした
意味はない。ただし、児童・生徒の書く文章の構成の類型を求め、それを発達的にとらえて得た形式であるならば、
それによって書かせることは能率的であるし、的確な指導ができる。

       7 発想指導

 文章を書く場合、書こうとする題材に対して、どのように立ち向かうか、どのような構えで書くか、題材に対する
構えの指導が発想指導である。したがって、発想は、文章を書く目的、題材の種類・性格、文章を書く態度・技能等
に左右される。また、発想は、文章の構成・叙述に志向を与え、その様式を決定する。つまり、発想は、児童の認識
力・思考力・理解力・技能の発達などと密接に結びついている。
 この発想は、いろいろな立場・観点からとらえることができる。私は次のように発達的にとらえている。
(1) 事件的発想――経験・経験情報等の表現に用いられる構え。その特色は、文章が点的、線条的であること。関係
 的認識、連続的認識等を基礎とする。
(2) 説明的発想――ことがら・場面・情景等の表現に用いられる構え。その特色は、文章が、面的、叙述的であるこ
 と。全体的、客観的事実認識を基礎とする。
(3) 感動的発想――心理・心情・感覚等の表現に用いられる構え。その特色は、文章が立体的、表現的、感動的であ
 ること。直観的、理性的認識を基礎とする。
(4) 論理的発想――筋道・思想・法則・批判等の表現に用いられる構え。その特色は、抽象的、論理的叙述であるこ
 と。分析的、論理的、理性的認識を基礎とする。
 ところで、この発想は、作文の書き出しの文によってその大体を知ることができる。だから、発想指導は、記述前
の指導の全体が関係する。

(1) 事件的発想

 一般に経験情報を書く場合はこの発想をとる。日曜にだれとどこへ行った。きのうおかあさんとお使いに行った。
学校から帰って○○さんと電車ごっこをしたというような書き出しで経験が報告される。
 この発想だと、多くは経験したことを順序を迫って書いていくから書きやすい。長い文章が書ける。いつどんなこ
とをした、だれがどうした、だれと何をした、どこで何をした、だれとだれとどこで何をしたのように、所・日時・
人物・行動などが記述される。 したがって文型も、それに応じた基本的なものが現われる。勢い文体は線条的にな  383
          7 発想指導
          第7章 作文指導の近代化

る。接続のことばがたくさん使われる。そこでは主として事件・ことがらの順序・関係――接続・相互依存・原因結
果・並列等――を叙述する技能が働く。
 たとえば、一年生の書いた「ともだち」の作文の書き出しの文を見ると次のようになっている。
ア 「わたなべくんときょうそうしました。」「こがとくんととみおくんとたみやくんとすもうしました。」の型―18
 人(21%)
イ 「たにざわくんとぼくでかんけりをしました。」「しみずさんとしおたにさんとわたしがこうえんでボールつきをし
 ました。」の型――2人(5%)
ウ 「ぼくはかんけりをしました。」「ぼくはにいさんとあそびました。」の型――5人(38%)
エ 「しみずさんがあそびにきました。」の型――2人(5%)
オ 「ながいくんのうちですもうしました。」――2人(5%)
 などで、その全部が事件的発想で書かれている。
 このような発想は、指導する技能を強調すると、それによって曲げられることがある。
 二年生の 「たなばたまつり」 の作文で、たなばた祭りの楽しかったことをうちの人たちに知らせることを指導し
た。主題は、楽しかったことであった。記述の事前指導に当たって先生は 「順序にしたがって書くこと」 を強調し
た。すると児童は、たなはた祭りの楽しさよりも、どんな順序にお祭りをやったかという構えで作文にとりかかって
しまった。その時、私の近くにいた10人の児童の書き出しの文を記録した。それは、「わたしはさいしょにくさり
をつくりました。」「ぼくはふじもとくんとおぐらくんでつくりました。」「ぼくは、いちばんさいしょにくさりを作
りました。」「わたくしたちはさいしょたなはたのうたをうたいました。」「はじめうたをうたいました。」など、10
人中5人が、いちばんはじめとか最初とかいうことばを使って書いている。 先生が、 順序をあまり強調しすぎたた
め、児童の構えがゆがめられ、それがそのまま叙述の型を作っていった。
 なお事件的発想の書き出しには、 「 がっこうで先生とありがさんとあけみちゃんといっしょになわとびをしまし
た。」「こうえんのちかくのはらっぱでどっちぼうるをしました。」「わたしが朝学校へ来るときながつか君は外に出
てあそんでいました。」「ずうっと前、ぼくは大橋君とローラースケートをたばこやの道でやった。」「私が松下さん
にあったのは四月六日でした。」など、さまざまな型がある。この書き出しの文は、低学年の場合は事件やことがら・
経験の発端というよりは、事件やことがらや経験の総括的叙述になっている。したがって、それ以後の叙述は、事件
やことがらや経験の要素的なものを順序を追い、関係をたどって叙述することになる。つまり、書き出しの文が、文
脈の起点となり、また、それが、その文章を一貫する立場や観点や書く構えとなっていく。

(2) 説明的発想

 表現内容を客観的に見る。それとの問に距離を置いて見る。向こう側において見る。このような見方や考え方がで
きるようになると、説明的発想をとる。また、表現内容を相手にわからせる。相手に訴える。事情や関係や状態を理
解させる。正しく認識させる。そのような意識を持って書く。目的を持って書く場合にも説明的発想をとる。
 この発想もまた書き出しの文の特徴となって現われる。事件的発想の書き出しが、主として表現内容の全体的総括
的叙述をもって始まるのに対し、説明的発想は、分析的、説明的叙述で始まる。
 三年生の「友だち」の作文の書き出しの文をあげてみる。
ア 和子ちゃんはしんせつで、私が学校へ行きましょうといって行くと、待っててねといって来ます。        385
          7 発想指導
          第7章 作文指導の近代化

イ 富田君とぼくは、ときどきあそんだり、勉強したりして、いつもふたりでいます。               386
ウ ぼくと村木君はなかがいいのですが、おもしろくないときはときどきけんかをします。
 これらの書き出しの文を見ると、書き手の構え――発想がよくわかる。「和子ちゃん」を向こう側において、客観
的に説明している。また、「富田君とぼく」の間がらを、客観的に説明している。この客観的態度・説明的態度は一
貫してこの作文の表現のささえとなっている。
 このような発想で書く文章は、一般に平面的で、いわゆる広がりがある。場面や情景や心情・ことがらなどを叙述
する場合に適切な発想である。情景がよくわかるように書く、様子がよくわかるように書く、事情がよくわかるよう
に書く、見たままを書く、感じたままを書く、客観的な認識の結果を書く、実験・観察の結果を叙述する、ことがら
を説明する、ことがらとことがらの関係を書くなどの場合の発想である。
 この発想で書かれる文章には、おのずから修飾語の使用が目立ってくる。観察が細かく、したがって細かい叙述に
なってくる。叙述が正確になってくる。そのような態度や技能が育てられる。

(3) 感動的発想

 説明的発想が表現内容に対して客観的な、どちらかといえば分析的な構えをとるのに対して、感動的発想は、主観
的な、全体的な構えをとる。「きのうのピクニックはとても楽しかった。」「幕があくと私ははっと思った。」「あた
りは静かで小鳥が楽しそうに鳴いていた。」というような書き出しで、その感動が書き出される。
 ある場面・ある情景・ある感情・ある感覚・ある心情、それらを直観して得た感動を表現する場合に取られる発想
である。こんな場合には、ああ楽しかった、何と静かなのだろう、ああ驚いたというように直接に、まず書き出す。
それが書き出しの文となる。そうすると書きやすいから自然そのような書き出しの文の型ができる.
 この発想は、事象の全体的、直観的な認識と、事象がかもし出す雰囲気、事象の裏にあるもの、意味するものなど
が感じられるようになると、しだいに現われてくるものである。たとえば、「私は、前から西武デパートにあるコア
ラのぬいぐるみがほしくてたまりませんでした。(四年)」「パーン、ピストルがなった。私はスタートラインから
ころがるようにとび出した。(四年)」「『でも……』『だめかいおねがいだからさ。』『ううん。でも、こまるな。』久
夫は考えている。(六年)」「『ワハハハ……。』きょうも私の家庭に笑い声がもれた。(六年)」など。
 このような感動が反省され理解されると感想となって現われる。
 たとえば、「私は、おじいさんはとてもやさしい人だと思います。(六年)」「わたしは、おじいさんを、動物で
も人間でもなんでもかわいがる人だと思う。(六年)」「ぼくがいちばん感じたところは、おじいさんが町の人たちにお
とぎ話を作ってやって、あの悪いどろばうをたすけてやったことだ。(六年)」のような書き出しの文となる。

(4) 論理的発想

 高学年の児童になると、この発想をとるものが出てくる。この発想をとることができるものは、抽象的な思考が進
み、ものごとの一般性・普遍性が直観できるようになったものである。六年生になると14、5パーセントのものが
この発想をとることができるようである。
 この発想で文章を書くと、しぜん抽象的、理論的、論理的になるから、長い文章は書けなくなる。簡潔な、“筋道
の通った、抽象的な文章になる。したがって、まとまりのある、形式の整った、筋道の通った、どちらかといえば思
想性のかった文章になる。それだけにうっかりすると味のない、観念だけの文章になる。しかし、それも精神発達の一  387
          7 発想指導
          第7章 作文指導の近代化
過程として認めるべきである。                                        388
 これは前にも述べたが、「友だち」について作文を書かせたら、低学年では、事件的発想――だれと何をしたの類
をとり、中学年では説明的発想――だれとこんなことがあったの類――をとり、高学年では、紹介的発想――だれは
こんな人であるの類――、論理的発想――友だちはお互いに助け合うものだの類――をとった。
 論理的発想は、事象の中にある本質や性格や論理などを取り出して叙述する構えである。この発想もやはり書き出
しの文の特色となって現われる。
 たとえば、「ある時ぼくは、友だちということで辞書を引いたことがあった。」「友だちというものはいいものだ。」
「私はまず初めに学校での友だちについて考える。」「友だちと一口に言ってもたくさんいる。」(以上六年)など、
いずれも、友だちの意義・価値・性格等について論じた文章の書き出しの文である。
 また、「じわり、じわりと、この一年が過ぎ去ろうとしている。」「私は幸せになることと、りっぱな正しい、よい
心の持ち主になることがきぼうだ。」(以上六年)のように、一年間の反省を、私の希望を、筋道を立てて述べている
文章の冒頭の文もある。


 以上、発想の発達について述べた。発想指導は、児意の作文能力や精神発達に応じて、作文の態度を指導すること
である。従来この指導は一般に省みられていなかったが、今後いっそう科学的に計画的に指導する必要がある。
 なお、作文指導の近代化については、その全体構造・理論・計画・実践が、「機能的作文指導 全三巻」(明治図
書刊)に詳細に述べてある。参照していただきたいと思う.



   おわりに

 これまで、国語教育の近代化について、部分的に述べてきた。それらを総括する意味で、ここに、国語教育の近代
化について、その全体的な構想をまとめて置きたい。
 私は次のような近代的な国語教育を組織したいと念願している。
1 国語教育近代化の構想
 (1) 近代の本質を国語教育の原理とする。
  l 近代的人間像の特性  ――人間性
  2 近代の精神的基盤の特性――機能性
  3 近代方法論の特性   ――科学性
  4 近代文化習得の特性  ――直観性
  5 近代精神形成の特性  ――批判性
  6 近代社会の特性    ――集団性
 (2) 近代化の構想−近代的国語教育の全体構造
  1 近代的国語教育のあり方
   ――歴史性・科学性・真理性――
  2 近代的国語教育の構造                                        389
          おわりに
          おわりに

   (1) 機能的言語観に基づく、機能的国語教育の組織――理論・目標・内容・方法――             390
   (2) 人間性の開発伸長をめざす国語教育の確立――目標諭
   (3) 科学的国語教育の組織――目標・内容・方法の科学化
   (4) 国語教育方法の集団化、視聴覚化
   (5) コミュニケーションの国語教育
 このような全体構造を持った国語教育を組織しようというのが私の念願である。
 このことについては、すでに前著「機能的国語教育――理論とその展開――(明治図書刊)」によって、近代的国語
教育の理論・目標・内容・方法の体系・組織について世に問うた。
 その後さらに機能的国語教育の近代化を求めて次のような構想のもとに研究を進めている。
二 機能的国語教育の科学化
 (1)国語教育科学化の理論の組織
 (2)国語教育科学化の全体構造
 (3)国語教育理論の体系化
 (4)国語教育の目標の科学化
 (5)国語教育の内容の科学化
 (6)国語教育の方法の科学化
   1 学習指導の方法論の組織
   2 学習指導計画の科学化
   3 学習指導過程の科学化
   4 国語能力養成の科学化
   5 学習教材研究の科学化
   6 国語授業研究の科学化
   7 学習評価の科学化
 (7)学習指導の科学化
   l 読解指導の科学化
   2 文学指導の科学化
   3 作文指導の科学化
   4 開く・話す指導の科学化
   5 言語要素指導の科学化
 本書では、ページ数の関係で、これらのすべてについては述べることができなかった。特に国語教育の内容の科学
化、学習評価の科学化、授業研究の科学化、聞く・話す指導の科学化等については、僅かに触れた程度、あるいは全
く触れることができなかった。それらについては、改めて述べる機会を持ちたいと思う。
 なお、これらの研究の具体化は、国語教育科学研究会のみなさんの協力を得た。                 391
          おわりに
                      索引

         あ
芦田式教式………………………………74
新しい作文指導過程の編成…………351
新しい表象……………………………273
         い
言い換え,説明による方法       
         ………329,341
一時間の実践指導過程………………126
一般的な学習過程……………………105
一般的な学習の機構…………………104
意味機構と文章構造…………………230
意味の拡充……………………………186
         お
音 韻……………………………………39
音読・黙読…………………183,184
         か
解釈学的教授過程………………………75
開発的注釈学的教授過程………………68
科学的国語教育の全体構造……………25
科学的国語教育の理論体系……………26
書き始めの文…………………………232
書く経験の範囲………………………221
学習活動と能力の養成………………153
学習活動の選び方……………………177
学習活動の目標…………………………91
学習過程…………………………53,83
学習事項……………………173,175
学習指導案の科学化……………………46
学習指導案の具備すべき事項…………47
学習指導過程…………………………350
学習指導過程の科学化…………………53
学習指導過程の基礎理論………………91
学習指導過程の基本構造……………296
学習指導過程の性格と編成上の問題点  
  ………………………………………65
学習指導過程の本質……………………64
 
学習指導計画の科学的編成……………45
学習指導計画の性格……………………46
学習指導の方法を規定する諸原理……40
学習資料………………………………201
学習内容………………………………201
学習評価………………………………202
学習目標………………………………201
書く題材………………………………221
価値生産の学習指導過程………………81
価値的な目標……………………………40
カードシステム………………………218
構えを持つ…………………279,282
感覚的に反応する型…………………310
感情移入………………………………272
感情状態…………272,273,310
鑑賞一理解…………………294.310
感想・意見・批判を持つ……………284
感 動……………273,280,282
感動的発想…………………383,386
        き
機械的技能……………………………183
機械的方法……………………………151
聞く経験の全体構造…………………157
聞く・話す経験の全体構造…………154
記号経験………………………………268
記述過程………………………………368
記述時間と記述内容…………………369
記述時間と文章の長さ
 ………369,370,371,373
記述中の指導と機会…………………378
記述中の停止時間……………………374
基準指導過程……………54,95,96
基礎能力の体系………………………286
機能主義……………………………2,30
技能主義………………………………262
 
機能的・基本的な能力………………173
機能的言語観……………………………30
機能的言語観と国語教育の目標………33
機能的国語教育
 …………28,29,31,32,35
機能的主題・題材……………………176
機能的,生産的学習指導過程の基準…95
機能的な語い……………………………39
機能的な読解活動……………………176
機能的な文学教育……………………263
機能的な文法……………………………40
機能的にみた聞くこと・話すこと…100
機能的方法
 ……………41,55,151,176
機能と形態……………………………232
機能による分類………………………102
技能の認識……………………………155
技能のプログラム……………………183
技能の練習過程………………………180
機能文法…………………………………25
技能目標…………………………………40
技能養成の機能的方法………………166
技能養成の段階的方法………………168
技能養成の本質的方法………………177
技能養成の練習的方法………………167
技能練習の指導過程…………………180
基本的技能の系統と段階表…………288
基本的技能の体系……………………288
基本的態度の体系……………………287
基本的知識・理解の体系……………292
基本的な経験…………………………161
教育的機能……………………………227
教材研究の観点………………………228
教材研究表
 …………………248,252,254
教材と言語活動………………………153
教材と言語能力………………………153
教材と言語要素………………………153
教材と児童の学習能力………………153
教材の本質……………………………226
教授内容中心から学習活動中心へ……79
記 録…………………………………221  
記録法……………………………………60
近代人と言語能力………………………15
近代精神形成の特性………………………3
近代的言語観の確立……………………11
近代的国語教育の内容…………………17
近代的国語教育の目標…………………16
近代的国語教育の持つべき性格…………4
近代的な学習指導計画の性格…………46
近代的人間像と国語教育の目標………33
近代方法論の特性…………………………2
具体の原理に基づく方法……………328
具体物・行動による理解の方法……341
語の一目読み…………………………191
        け
経験を書くことと思考・文型………219
経験・生活……………………………172
経験の原理…………………149,328
経験の総合………………………………59
経験の抽象化…………………………185
経験の発達と技能の発達……………161
形式主義から機能主義へ………………80
形式中心から内容中心へ………………78
形式的接近法……………………40,41
形象論的,文章法的教授過程…………72
形態的にみた聞くこと・話すこと…100
研究・調査の結果の適用………………58
言語活動から言語経験へ………………79
言語活動の目標の近代化………………34
言語活動の目標の構造…………………35
言語機能観………………………11.41
言語技能の養成…………………………12
言語経験と言語能力…………………146
言語経験の学習指導過程………………80
言語経験の発達………………………148
言語思想一体観…………………………41
言語道具観………………………………41
言語能力………………………11,147
言語能力の発達段階表…………………14
言語要素………………………………241
言語要素の発達と系統…………………39
         こ
語いの拡大……………………………325
語い負担……………………174,242
語い力…………………………………174
高学年の認識・理解…………………355
構想指導………………………………220
構造的全体……………………………228
行動過程…………………………54.86
行動する……………………281.285
行動的方法………………………………42
国語科学習指導案…48,192,201
国語科学習指導の科学化………………18
国語科指導計画の科学化………………18
国語教育科学化の手順…………………60
国語教育科学化の方法…………………57
国語教育近代化の方法…………………17
国語教育におけるコミュニケーション
  ………………………………………22
国語教育における集団的方法…………23
国語教育における生産性の向上………20
国語教育における人間性の開発………24
国語教育の内容の科学化………………17
回誹教育の目標の近代化………………33
国語教育理論の体系化…………17.29
国語能力の内容………………………145
国語能力の発達と系統………………147
国語能力の本質………………………146
国語能力の養成の方法原理…………149
国語能力表………………………………11
国語能力養成と教材…………………152
国語能力養成の科学化………55,144
国語の能力養成と言語経験…………152
語句学習の方法……………328.330
語句指導…………325,330,332
語句の意味機能………………………184
語句理解の段階………………………327
語句理解の方法………………………340
語句を理解し使用する技能の養成…184
個性的表現……………………………222 
五段階法の教順…………………………71
語の一目読み…………………………191
コミュニケーションの技能………8,12
これからの文学教育…………………263
これまでの指導過程……………………78
これまでの文学教育…………………261
コンポジションの指導………………379
        さ
作文教材を読ませる意義……………360
作文教材学習の効果…………………363
作文教材によって学習すること……361
作文教材の影響………………………367
作文指導の三領域……………………347
作文指導の内容………………………344
作文の指導過程…………‥347.351
作文力の発達………………353.356
三段階法の教順…………………………71
        し
視覚表象……………………271.274
事件的発想……………………………353
思考過程………………54,84,295
自己創造………………………………223
自己創造と表現技能…………………224
自己表現……………………221.222
視聴覚的方法……………………………12
実験法……………………………………60
指導過程と能力養成…………………153
指導過程表……………………………120
指導すべき語句……………335.339
詩の鑑賞指導…………………………313
詩の鑑賞の指導過程…………………314
集団性…………………………a………・3
授業研究の科学化の手順∵……………62
主体性の尊重…………………………268
主体的行為………………………………87
主体的な学習指導過程…………………81
主体的方法………………………………42
主題の読み取り方……………………318
紹介的発想……………………………354
条件反射の理論……………150.180
 
情的に反応する型……………………310
叙述機能………………………………346
資 料…………………………………226
心理学的教授過程………………………70
真理性………………………………………6
         せ
生活過程………………………………351
成功の原理……………………………149
生産活動…………………………………22
生産過程…………………54,86,93
生産性の向上……………………………20
生産的思考………………………………21
生産的方法………………………………42
生産の理論………………………………92
精神活動………………………………172
生態的,機能的にみた開くこと・話す
  こと………………………………103
説明的発想……………………………354
線条的な文章…………………………356
         そ
想像を働かせて読む…………………273
想像活動………………………………268
想像・感情を働かせながら読む……270
想像・推理・推測…………………………3
測定法……………………………………60
         た
態度と技能…………………158,161
単位社会集団…………………………3.8
単位文章………………………………181
段階的方法……………42,56,183
単元構成の科学化………………………42
単元の学習目標………………………193
単元の指導過程…………………………75
単元の編成………………………………43
         ち
知識・情報教材研究表………………250
知的に反応する型……………………310
中学年の認識・理解…………………355
注入的語学的教授過程…………………67
直 観…………………………………3,4

 
        て          
低学年の認識・理解…………………355
適用過程………………………………352
伝 達…………………………………221
伝達機能………………………………346
点的な文章……………………………356
        と
動作化…………………………………299
同時性・一回性・連続性……………159
童話の学習能力………………………308
童話の指導過程………………………302
読解活動とその処理能力……………173
読解活動と読解力……………………172
読解活動に参加する諸能力…………171
読解教材の機能………………………227
統解の機構……………………………169
読解の技能……………………………239
読解の実践指導過程…………………117
読解の態度……………………………238
読解の抵抗……………………………174
読解力……………173,174,175
読解力の所在…………………………174
読解力養成の機能的方法…………‥176
読解力養成の練習的方法……………179
読字力の実態…………………………187
        な
内容主義の文学教育…………………262
内容的価値……………………………236
内容的接近法……………………40.41
内容と技能……………………………162
内容の近代化……………………………36
内容の構造化……………………………36
        に
入門期の読解基礎技能の養成………187
人間形成の機能……………228.236
人間疎外の時代…………………………10
認識過程…………………………54.85
認識の発達……………………………353
        の
能力過程………………………………352
 
能力形成の機能………………………228
能力養成の機能………………………238
         は
発想指導………………………………382
発達の原理……………………………149
発表・説明の実践指導過程…………109
発問のしかた…………………………301
話し合い・会議の実践指導過程……106
「話し合い」の実践指導過程………115
話す経験の全体構造…………………155
場の構造………………………………158
場面・情景……………………………297
場面の構成……………………………165
         ひ
比較による理解………………………185
比較の原理……………………………329
批判性………………………………………3
評価過程………………………………352
表現(記述)過程……………………352
表現機能………………………………347
表現技能……………………218.225
表現の本質……………………………222
表象…………………………276.305
         ふ
プログラム学習…………………21.25
文学教材研究表………………………257
文学経験               
  ………268,273,279,  
    286,293,315,322
文学指導の目標………………………264
文学的価値の形成……………………264
文学的技能……………………………267
文学の学習過程………………………279
文学の読解鑑賞力・批判力…………290
文化習得の特性……………………………3
文化的機能……………………………346
文 型…………………………………219
文章を書く構えと技能………………220
文章を書く経験………………………344
文章の意味の構造……………………231
文章の改革………………………………14
 
文章の機能と形態……………………232
文章の形成上の構造…………………231
文章の構造……………………………243
文章の見方・考え方…………………228
文の一目読み…………………………191
文 法…………………………………242
文法力…………………………………174
文脈による理解……………185.341
        は
方法過程………………………………351
本時の学習……………………………194
        ま
マスコミの時代……………………………7
マスメディア………………………………7
        め
面的な文章……………………………359
        も
目的的活動……………………………175
目標の理論………………………………91
文字の系統………………………………39
文字負担……………………174.241
文字力…………………………………174
        よ
要旨を読み取る技能…………………240
要点を読み取る技能…………………239
要約する技能…………………………239
読む技能………………………………172
読む態度………………………………172
        り
理 解……………280,284,355
        れ
練習帳…………………………………182
練習的方法…………56,151,179
練習の機会……………………………182
練習の基礎理論………………………180
練習の原理……………………………149
        ろ
論理的発想…………………………‥354
        わ
話題・題材の発達と系統………………37
 


 索引 1




































 索引 2










































 索引 3









































 索引 4









































 索引 5



















































  (奥付)

  著者紹介
明治40年,群馬県生まれ。小・中・高校教諭東京都指導主事等を歴任現在東京都中央
区立文海中学校長。その間.文部省小・中・高校指導要領、指導書等の委員となる。
著書に,「小学校学習指導要領の展開国語科編」「機能的国語教育――理論と実践」「機能
的作文指導(全三巻)」「国語科の発問」「入門期の国語指導」(以上明治図書刊)などがあ
る。


                     N.D.C.
                     分頬番号375
                     A5判総ページ400
               ===================

                  国語教育近代化の理論と実践

                    定価1000円
                昭和41年3月20日初版発行
                著作権
                著 者  中 沢 政 雄
                発行者  株式会社三省堂
                     代表者小倉正風
                ―――――――――――――――
                東京都千代田区神田神保町1のl
                発行所株式会社三省堂
                電話東京(293)3441(大代表)
                振 替 口 座 東京54300
               ===================
                         (中沢国語教育)