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中澤政雄著  (明治図書出版による)   

             
機能的国語教育―理論とその展開―

                 明治図書刊                
国語教育科学研究所再刊

 
はしがき  (   部は中澤敬彦による加筆訂正である。)

 機能的国語教育論は、その具体的な現われかたに、多少のちがいはあっても、戦後一貫して変わることなく、わが    T
国の国語教育のバックボーンとなって今日にいたっている。
 私は、この本で、その機能的国語教育の基本原理、基礎理論、実践の全体系を示して、その全体構造を明らかにし
ようとした。私は、これからの国語教育は、歴史的必然性をもつ未来への志向、科学的分析に堪えうる全体構造、哲
学的考察に堪えうる指導理論をもっていなければならないと思っている。
 そこで、機能的国語教育を体系化するに当たって、特に次の諸点に力を注いだ。
(1) 機能的国語教育は、人間形成(価値形成)の過程において、国語の能力を養い、国語の意識に培う国語教育であ
 ることを確認した。
(2) 国語教育の歴史的現実を明らかにし、機能的国語教育が、歴史的必然性の上に立つ歴史的志向をになっている国
 語教育であることを明らかにした。
(3) 機能的国語教育を成立させ、指導する基本原理は何か、基礎理論は何かを究明し、機能・価値・生産・主体の四
 原理・目標・内容・方法を規定する基礎理論を確立した。
(4) 機能的国語教育の諸原理、諸理論に基づく実践体系を確立した。
 こうして、私は私なりの機能的国語教育論を展開した。おおかたのご批判を得たいと思う。
        ×     ×     ×
 私たちは、戦後郷里にいて、群馬国語文化研究所を始め、言語学・国語学については現外国語大学教授金田一春彦
先生に、国語国字問題・国語政策については石黒修先生に、国語教育については輿水実先生に「それぞれご指導を仰
いだ。本書に説くところは、いずれもこれら諸先生の学恩に負うところがきわめて多い。
 特に、輿水実先生には、昭和二十四年以来機能的国語教育について、直接ご指導をいただいた。今ここに、それを
体系化するに当たって、先生に教えられたことのあまりに多く、私の消化吸収し、発展させたことのあまりにも少な    U
かったことを恥しく思う。
 いずれにしても、国語教育に思いをひそめて以来十年あまり、ようやくのことで、この階梯に達した。これを基盤
として、私は次の飛躍を試みなければならないと思っている。
        ×     ×     ×
この本が(新たに再刊)できたのは、ひとえに、国語教育科学研究会のみなさんの心からの激励と支持(と明治図書出
版の再刊の許諾)
によるものである。(原文 り、明治図書の三枝久明さん、神谷淳子さんおふたりのおほねおりによ
るものである。)
 また、索引は、鈴木博・古川良馨・黒沢孝夫・小高偉子のみなさんが作ってくださった。ともにここにしるして感
謝の意を表わしたい。
        ×     ×     ×
 終わりに当たって、謹んでこの本を、私に国語教育への道を開いてくだされ、その研究をいつもあたたかく見守っ
ていてくださる輿水実先生に捧げる。
 また、私が少年のころから、今日にいたるまで、つねに私に精進と謙虚の道を説かれ、ことし八十八の齢を重ねら
れたわが母に捧げる。
 また、この本が.できるときになって、忽然として姿を消し、私に真理追求の厳しさを教え、さらに、新しい人生
への出発を教えた、 わが愛児恭一に手向ける。
   平成二十三年十月 (昭和三十七年八月十五日)                 中 沢 政 雄

                                                        V
                    目  次

                  はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

           第一章   機能的国語教育の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

             一 機能の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
               1 機能とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
               2 機能と構造とはどんな相関関係をもっているか ・・・・・・・・・・・8
               3 機能的立場とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

             二 価値の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
               1 価値とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
               2 価値観は時代とともに動いている ・・・・・・・・・・・・・・・・・17
               3 価値内容(内実)価値体系をどう考えるか ・・・・・・・・・・・・・18
               4 事実判断から価値判断へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
               5 価値をどのようにとらえるか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20     W
               6 価値は機能的国語教育の基本原理である ・・・・・・・・・・・・・・22

             三 生産の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
               1 生産とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
               2 精神的生産の構造はどうなっているか ・・・・・・・・・・・・・・・23
               3 精神的生産力とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
               4 生産財、生産用具としての資料(教材)教具 ・・・・・・・・・・・・26
               5 ことばによる価値の生産過程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
               6 生産は機能的国語教育の学習の原理である ・・・・・・・・・・・・・28

             四 主体の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
               1 主体とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
               2 主体的行為の特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
               3 主体的行為としての学習 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
               4 主体の行為としての言語活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34

           第二章   機能的国語教育の基礎理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

             一 言語の機能的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37     X
               (一) 言語の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
               (二) 国語教育における言語観の移り変わり ・・・・・・・・・・・・・40
               (三) 機能的言語観 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47

             二 目標の機能的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
               (一) 国語教育の目標の移り変わり ・・・・・・・・・・・・・・・・・59
               (二) 国語科の目標の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
               (三) 学習指導要領の目標の機能的解釈 ・・・・・・・・・・・・・・・72

             三 内容の機能的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
               (一) 国語教育の内容の移り変わり ・・・・・・・・・・・・・・・・・85
               (二) 国語科の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
               (三) 言語経験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98

             四 方法の機能的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136
               (一) 指導法の移り変わり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136     Y
               (二) 学習指導過程の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159
               (三) 学習指導の原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・178
               (四) 学習活動の選択 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・191
               (五) 練習の原則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・193

             五 資料・教材の機能的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・197
               (一) 教科書の歴史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・197
               (二) 教材の考え方の歴史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・203
               (三) 資料・教材・教具 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・205
               (四) 教材の機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・206
               (五) 教材の機能的分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・208

           第三章   機能的国語教育の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・213

             一 単元による学習 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・213
               (一) 国語科の単元の歴史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・213     Z
               (二) 単元の本質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・219
               (三) 単元の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・224
               (四) 単元の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・234
               (五) 単元の学習指導案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・241
             二 教材研究の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・246
               (一) 教材研究の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・246
               (二) 教材研究の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・247

             三 聞くこと話すことの学習指導の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・257
               (一) 聞くこと話すことの機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・257
               (二) 聞くこと話すことの学習活動の機構 ・・・・・・・・・・・・・・263

             四 読むことの学習指導の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・273
               (一) 読むことの機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・273
               (二) 読む学習活動の機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・274
               (三) 読解活動の機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・276
               (四) 読解活動の機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・278
               (五) 知識、情報を求めるための読解指導の基本的な考え方 ・・・・・・283
               (六) 経験を広め心情を豊かにするための読解指導の基本的な考え方・・・292     [
               (七) 読むことの学習指導過程、学習指導案、学習指導の実践 ・・・・・296

             五 書くこと(作文)の学習指導の展開
               (一) 書くことの機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・306
               (二) 書くことの学習活動の機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・308
               (三) 書く活動の機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・309
               (四) 作文の学習指導の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・312
               (五) 機能的作文指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・315
               (六) 機能的作文指導の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・316
               (七) 機能的作文過程の機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・319
               (八) 機能的作文指導の実践 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・320

             六 「ことばに関する事項」の学習指導事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・331
               (一) 語句の学習指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・331
               (二) 漢字の学習指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・337
               (三) 文法の学習指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・345

                     索 引
    ・・・・361(1)    ・・・・358    ・・・・356    ・・・・355    ・・・・354
    ・・・・361      ・・357-358     ・・・・356    ・・・・355    ・・・・354
    ・・361-360(2)    ・・・・357(5)   ・・・・356    ・・・・355    ・・・・354
    ・・・・360      ・・・・357    ・・356-355(7)   ・・・・355    ・・・・354
    ・・・・359(3)    ・・357-356(6)   ・・・・355    ・・・・355
    ・・359-358(4)    ・・・・356     ・・・・355    ・・・・354(8)
    ・・・・358      ・・・・356    ・・・・355    ・・・・354











                                                      1
    は じ め に ―機能的国語教育の構想―

 機能的国語教育論は、戦後大きく取り上げられ、ずっと今日にいたるまで、一貫して変わらない、最も新しい、
最も合理的、科学的な国語教育論である。ただ、その理論、構造、方法等が、これまで、体系的に説かれることが
少なかった。そのため一般の理解が得られず、国語教育の現場に深く浸透するまでにはいたらなかった。
 ところが、昭和三十三年、学習指導要領国語が、改訂告示されたのを契機として、最近、機能的国語教育の研究
がいちじるしく進み、ようやく教育現場にその根を下ろしてきた。
 ここに、機能的国語教育の特色を大きく箇条的にあげてみると次の三点になる。
@ 機能的国語教育は、国語教育の歴史的必然性の上に打ち立てられた国語教育論である。日本の国語教育の歴史
 を背負い、未来の発展を志向している国語教育論である。
A 機能的国語教育は、機能的言語観の上に打ち立てられた国語教育論である。最も新しい言語観、言語理論を中
 核とし、人間、社会、文化の進歩発展を希求し、生きた国語の能力を養おうとする国語教育論である。
B 機能的国語教育は、国語教育に参与する心理学、生理学、社会学、言語学、哲学等を背景とし、国語教育の実
 態把握の上に組織された、最も科学的な国語教育論である。
 このように、機能的国語教育は、国語教育の歴史に導かれ、哲学に保証され、科学に裏づけられた国語教育論で
ある。その構想を示すと次のようになる。
 機能的国語教育の構造                                           2
一 機能的国語教育をささえている原理
 1 機能の原理――機能的国語教育の目標、内容、方法を一貫する原理。
 2 価値の原理――機能的国語教育の内容を貫く原理。資料(教材)選定の原理、人間形成の原理でもある。
 3 生産の原理――機能的国語教育の方法の原理。学習活動の原理でもある。
 4 主体の原理――機能的国語教育における児童・生徒の原理。学習者の原理でもある。
二 機能的国語教育を貫いている言語観
 1 機能的言語観――言語を機能とみる。
  @ 言語と思考――思想形成の機能、精神形成の機能として考える。
  A 言語と文化――文化を継承、習得、生産する機能として考える。
  B 言語と社会――社会を改造し、発展させる機能として考える。
三 機能的国語教育の目標
 1 言語による価値の習得、生産、人間性の開発をめがける。
 2 ことばの機能をじゅうぶんに働かせて価値を生産する人間を育成する。
四 機能的国語教育の内容
 1 機能的な話題・題材――言語文化、人間形成のための価値を含んでいる。
 2 機能的な言語活動――話題・題材に含まれている価値を習得し、生産する働きをもった学習活動として考える。
 3 機能的な言語能力――言語経験を処理する能力、価値を生み出す能力として考える。
 4 機能的な言語要素――機能的な発音、文字、語い、文法を学習する。                    3
五 機能的な国語教育の資料
 1 機能的な資料――人間形成にあずかる内容価値を含んでいる資料、かっばつな学習活動を誘発する資料、好ま
  しい言語能力の身につく資料を選ぶ。
 2 機能的な教材――内容価値、具体的な言語能力(指導事項―技能、態度)言語要素を含んでいるものを選ぶ。
六 機能的国語教育の方法
 1 方法原理
  ア 興味の原理  イ 価値の原理  ウ 目的の原理  エ 活動(経験)の原理  オ 統合の原理  
  カ 系統(発達)の原理 キ コミュニケーションの原理 ク 成功の原理
 2 方法
  @ 単元――児童・生徒が話題・題材に内在する価値を追求するために、聞く、話す、読む、書く言語活動を
   有機的総合的に行なう。その結果、価値が獲得されるとその言語活動は終結する。このような、児童生徒が、
   話題・題材に内在する価値を言語活動によって追求し、獲得するまでの一まとまりの学習を単元と考える。
  A 学習指導過程――児童・生徒が主体的な行為として、価値を生産する過程を指導過程と考える。
  B 言語能力の養成――主体的、目的的言語行為を通して、言語、言語能力を養成する。つまり、児童・生徒
   が、話題・題材に内在する価値を追求し、獲得する過程において、生きた言語、働く言語能力を身につける。
   学習した言語、言語能力を確実に身につけるための練習を重くみる。
 3 学習指導
  @ 聞くこと話すことの機能的指導                                    4
  A 読むことの機能的指導
  B 書くことの機能的指導
 以上、機能的国語教育論のアウトラインについて述べた。
                                                      5
           
第一章 機能的国語教育の原理

 価値の獲得、生産を目ざす中で国語の能力を養成しようとする機能的国語教育を一貫して流れ、それを特色づけ
ているのは、次の四つの原理である。
 第一の原理は、「機能」の原理である。
 第二の原理は、機能の原理から導き出される「価値」の原理である。
 第三の原理は、上の二つの原理からさらに考えられる「生産」の原理である。
 第四の原理は、「主体」の原理である。
 「機能」の原理は、機能的国語教育の全体構造のすみずみにまで、ゆきわたっている原理で、機能的国語教育を
成り立たせている、基礎的、基本的な原理である。
 「価値」の原理は、主として、機能的国語教育の内容をささえている原理である。したがって、機能の志向を規
定する原理でもあり、国語教育の目標を規定する原理、人間形成の原理でもある。
 「生産」の原理は、主として、機能的国語教育の方法の裏づけになっている原理である。したがって、機能の可
能性を増す、学習の原理でもあり、人間形成の方法原理でもある。
 「主体」の原理は、学習者である児童・生徒を規定する原理であり、児童・生徒を学習の主体者として遇する原
理でもある。                                                6
 これらの原理は、それぞれ孤立的にあるのではない。相互に有機的に関連しながら、「有機体としての言語経験
によって、価値を生産する国語教育の全体構造」が、その教育的機能をじゅうぶんに果たしうるように、科学性と
哲学性とを与えているのである。それは科学的分析に堪え、哲学的考察に堪えうる国語教育の構成原理である。

     
一 機能の原理

 1 機能とは何か
  「物象は、存在するためにあるのではない。働くためにあるのである。」
            「物象は、存在するが故に価値があるのではない。作用をもつが故に価値があるのである。」
 私たちは、物象を、いろいろな立場、いろいろな方法でとらえる。
 たとえば、「手」は、人体という全体構造の一分節である。また「手」は、指、掌部、前膊部、上膊部という分
節で構成されている。「足」もまた人体の一分節である。しかも「足」は、足指、蹠部、下腿部、大腿部という分
節で構成されている。
 このように、手、足の物的側面に着眼して、これを形体的、全体的、構造的にみる。手足それ自体を、他と切り
離してそのものをみる。こういう見方がある。
 しかし、物象をこのように、形体的、構造的にとらえてみているのでは、それをどのように詳しく分析し、総合
して、その実態を明らかにしても、その物象の存在の意味、価値は明らかにされない。では、この手や足の存在の
意味や価値は、どこにあるのであろうか。                                   7
 そこで、それとは別な立場、つまり、物象を孤立的、実態的にとらえ、構造的にみる立場に対して、関係的、流
動的にとらえ、作用的にみる立場に立ってみることが考えられる。
 たとえば、「手」は物を持つ、にぎる、そういう働きをする。手は、そのような働きを持つが故に存在の価値が
ある。つまり、「指、掌、前膊、上膊等が有機的に結合した全体構造」としての「手」が、それぞれの構成要素の
協同作用によって、他の物を、持つ、握る、というような働きをする。こういう見方ができる。
 このように、物象の、それ以外の他への働きかけ、作用的側面をとらえて、この働きを機能と呼ぶのである。
 「文章を読む」という言語経験がある。この言語経験は、構造的にみると、@文字を認知する限球運動 A文字
を音声化する発声運動 B語意を理解し、組織し、文意をとらえる思考活動などから成り立っている。これらの総
合された全体が、読むという活動となる。このように読む活動を、実態的、構造的にとらえ、その構成要素の部分
部分を明らかにしても、読む活動の価値は明らかにされない。
 読む活動の価値は、読む活動の機能が規定する。読む活動を組織している諸要素の有機的に結合した全体が、そ
れぞれの協同作用によって書かれている何かについての知識を読み手の身につける。何かについての理解を深める。
何かについての考え方や見方をわからせる。内面的な経験を得させる。そのような働きをすると考えることができ
る。これが読む活動の機能である。
 要するに、物象を他の物象とはっきり区別し、物象それ自体を、実態的、形式的にとらえ、構造的に観察する。
そのように、物象の物的側面を、静的にとらえたものが、「構造」である。
 これに対して、物象を、つねに他との関係においてとらえ、それが、それ以外のものにどのように働きかけてい
るか、どんな影響を与えているか関係的にとらえる。その働き、その作用を、価値的にとらえたものが「機能」で   8
ある。

 2 機能と構造とはどんな相互関係をもっているか
                 「機能は、構造を働きやすいように変えていく。」
                 「構造は機能が効果的に果たせるように保証する。」

 構造は実体であり、機能はその作用である。したがって、この二つは、同一のものの二側面にすぎない。実態的
側面を強調するか、作用的側面を重視するかによって、そのものの構造を主とするか、機能を主とするかの考え方
がわかれるだけである。いま、ここでは考察の便宜上、構造と機能とを分けて、その関係を考えてみることにする。
 すべて、機械、器具などは、それぞれの機能を果たすために必要で、適切な構造をもっている。人体にしても、
それぞれ手、足、目、耳、口、鼻などの諸器官があって、持つ、歩く、見る、聞く、食べる、かぐなどの物理的な
機能を果たすために必要で適切な構造をもっている。内臓の諸器官もまた、それぞれ生理的な機能を果たすために
必要で適切な構造を持っている。これらの構造は、機能によって規定されるとともに、機能が効果的に果たせるよ
うに保証している。
 新聞のニュース記事は、読み手に、必要に応じて、速かに、正確に、客観的に情報を与える機能をもっている。
この機能が、新聞記事に働きかけて、新聞記事独得の構造(文章形態)を生み出した。見出し、要約、本文という
構造がそれである。このように、機能に応じて構造が固定すると、この構造は、速かに、正確に、客観的に情報を
与えるという機能を可能にする。
 また、この構造は、その機能をさらに効果的にするために、見出しで主題を語り、要約で要点を語り、本文で詳
細を語る、いわゆるニュースは「三たび語られる。」という原則を確立した。さらに、事実を正確に、客観的に語   9
るために、いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのようにどうしたという、いわゆる五W一Hの内容構造をもく
ふうしだした。
 こうして、新聞記事の構造が、しだいに合理化されるにつれて、その機能が、いっそう効果的に働き得る可能性
を増していった。
 「集団で問題を解決する言語経験」は、問題の提出、問題に対する意見の開陳、意見の調整、発展、問題の解決
というような全体構造をもっている。この言語経験は、集団によって、思考を発展させ、よい意見を生み出す機能
をもっている。この集団の意見を調整発展させて、いい意見を生み出すという機能が、それがじゅうぶんに働くこ
とのできる会議という形態を生み出した。集団思考の機能が会議という構造体を生み出し、会議という構造体が、
その機能を可能にした。さらに、その機能に応じて、会議の構造はしだいに整えられ、いわゆる会議法にのっとっ
た一だんと整備された会議の構造を持つようになった。
 こうして整えられた会議の構造は、集団思考の機能をいっそう効果的に発揮できるようにした。
 このように、構造と機能は、つねに相関連し合って、その構造を進歩発展させ、その機能を効果的に発揮しうる
可能性を増すものである。

 3 機能的立場とは何か  「物象を機能的構造体とみる。」
               「物象をつねに他との関係においてみる。」
 前に述べたように、われわれが、物象を認識する場合に、その物的側面をとらえて、実体的、構造的にみる立場
に対して、その作用的側面をとらえて、動的、作用的にみる立場がある。これが機能的立場である。したがって、   10
機能的立場は、物象を機能的構造体としてとらえる立場であり、物象の機能を正しくとらえて、生き生きと働かせ
ようとする立場である。この立場に立って、われわれは次のような、物象のとらえ方をする。
@ 相互関係的にみること――機能は、他との相互関係の中に働いている。――
 機能的立場では、物象それ自体を孤立的にみない。つねに、それ以外の他との関係においてみようとする。物象
それ自体を構造的にみる場合でさえ、それぞれの構成要素を孤立的にみない、それぞれの構成要素の機能を考え、
それらが、相互に働きかけ合い、関連し合って、どのような有機体を構成しているかをみようとする。機能の根源
である構造をも機能的にみようとする。
 ここに、学級新聞がある。学級新聞を学級との関連においてみる。学級を構成している児童・生徒との関係にお
いてみる。学級新聞は、学級に対し、児童・生徒に対しどのような働きかけをするか、児童・生徒はどのように学
級新聞に働きかけるか、というように学級新聞と、児童・生徒、学級との相互関係をとらえ、そこに学級新聞の機
能を明確にとらえようとする。ここに機能的立場がある。
 ここに一編の文章がある。文章を書き手との関係においてみる。読み手との関係において考える。書き手は、何
を表現しようとしたか、読み手に何を与えようとしているか、何を訴えようとしているか。読み手は、書き手の意
図にどのように応じていくか。文章を書き手と読み手との関係において考える。そこに文章の機能をとらえる。こ
こに機能的立場がある。
 文章は段落を組織している。個々の段落を個々別々にみない。段落と段落との結びつきの関係を考える。前の段
落はあとの段落とどんな関係で結びついているか。個々の段落は、文章全体とどんな関係で結合しているか。文章
は、段落を分節とする有機的全体である。このように、段落を文章全体の意味との関係においてとらえることによ   11
って、段落の機能が明らかにされる。
 段落は文を組織している。個々の文を個々別々にみない。つねに文と文との関係を考える。それぞれの文がどの
ように働きかけ合っているか、段落とどんな関係にあるか、段落もまた文を分節とする有機的全体と考えることが
できる。このように、文を段落全体の意味との関係においてとらえることによって、文の機能が明確になる。
 このように、それ自体を、それ以外のものとの関係においてとらえ、関係的、作用的にみようとするところに、
機能的立場がある。
A 動的にみること。――機能は、活動、経験の中で働く――
 機能的立場では、物象を静的にみない。動的、流動的にみょうとする。機能が生き生きと働いている相をみよう
とする。
 手の働きは、手の機能をじゅうぶんに発揮しているときに、最もよくとらえることができる。万年筆で文字を書
く。手で道具を使う。手で仕事をする。そのような行動、経験の中で、手の機能を動的に、力動的にとらえること
ができる。また、そのような生き生きと働いている場において、手の機能はさらに磨かれていく。
 ことばの機能も、実際にことばを働かせている、使っているときに、最も正確に、その真実をとらえることがで
きる。辞書の中のことばには、具体的な働きがない。ことばの具体的な意味やはたらきは、そのことばが、実際に
使われることによって決められる。場がことばの意味を規定する。文脈がことばの意味を決定する。生き生きとし
た場面の中で、はじめて、ことばの生き生きとした働きをとらえることができる。また、ことばの機能は、そのよ
うな生きた場面の中で、その機能を確かにすることができる。ことばは、使うことによって伸びるのである。
 「行かない」という話しことばは、この限りでは、具体的な意味を持たない。「行かない」の意味は決まらない。
                                             
「行かない」と降調のイントネーションを使えば、それが否定の意味であることが確定する。「行かない」と昇調   12
のイントネーションを使えば、誘い、問いかけの意味が確定する。その場合でさえ、さらに具体的な場面が明らか
にされないと、さそいか、間いかけか、いずれかに決めることはできない。
 このように、機能が生き生きと発揮されている動的な相をとらえて、機能を力動的にみようとする。また、その
ような生き生きと働いている活動、経験の中で、その機能を育て磨こうとする立場が機能的立場である。
B 生産的にみること――機能はつねに他の中に価値を生み出す――
 機能的立場では、機能を生産的にみる。これは機能的立場の中でも最も重要な、本質的なみかたである。
 機能はつねに働いている。他に働きかけている。そして、他に何かを与えている。他の中に何かを作り出してい
る。そこに機能の本質をみようとする。何かというのは価値である。
 一幅の絵画がある。絵画は見る人の美的感情に働きかけて、これを刺激する。たとえば自然の実相をとらえた、
その奥深い美に心を打たれる。あるいは、模糊として措かれた抽象の世界にしばし心を奪われて、空想のはてしな
きを楽しむ。あるいは、雄渾なる気魄を感じ、力溢れる美に感動を覚える。こうして、見る人の美的情操を高め、
美意識を高揚する。一幅の絵画の機能はよく見る人の心を開発し、美的価値を生み出させる。
 校内放送のニュースがある。ニュースは校内の情報を伝える。ニュースの話題は、児童に働きかけている。訴え
ている、学校生活の実情を伝え訴えている。ここにニュースの機能がある。児童・生徒は、ニュースを聞いて学校
生活に適応する。学校生活を楽しく円滑にする。学校生活に対する関心を深める。学校生活の中の人間関係を改造
する。ニュースの機能は、児童・生徒に働きかけて、学校に対する親しみ、愛情を深め、めいめいの学校生活を改
善し、楽しい学校生活を実現しようとする態度を高めていく。こうして、ニュースは、児童・生徒の人間性を開発   13
し、学校生活に必要な価値を生み出させる。
 一編の物語がある。物語は主題をもって、読み手に訴えている。感動をもって読み手に働きかけている。そこに
物語の機能がある。
 それは、作者の意図につながっている。児童・生徒は、物語を読んで感動を覚える。心情が刺激されて、そこに
新しい何物かが加えられる。ことばによる新しい内部経験が営まれ、広げられる。物語の機能は、こうして人間性
を高める。そこに新しい価値を生み出させる。
 このように、機能は、児童・生徒に働きかけて、価値を生み出させ、その人間性を開発する。このように、機能
を価値生産のための作用とみるところに、機能的な立場がある。
C 機能と構造とを相関的にみること。――機能は構造を進歩させる――
 機能が、働きやすいようにその構造を変えることは、前に述べたとおりである。構造と機能とは相関的に発達す
る。機能も絶対的なものと考えるべきではない。構造もその機能もともに進歩するものと考えることは、機能的立
場ではたいせつなことである。
 文章を書く、文章は書き手が、その意図を実現するために書くものである。この感動を訴えたい、この事実を記
録して後の参考にしたい。この実情を、この心情を伝えたい。そうした目的、意図を実現するために、文章は書か
れる。言い換えれば、書き手が、書いた文章に訴える、参考になる、伝えるというような機能を与えることである。
 そこで、書き手が、文章に与えようとする機能によって、文章形態が決められる。文章構造が決められる。
 たとえば、あさがおの種子をまいて花を咲かせた。この事実を書き残しておいて、来年また、あさがおを栽培す
るときの参考にしようということであれば、書き残した文章を読むことによって、その年のあさがおの我培の事実   14
が確実にわかるようになっていなければならない。言い換えれば、そのような機能をもった文章を書かなければな
らない。そのような機能をもった文章は、いわゆる記録という形態の文章、また、それにふさわしい構造をもった
文章を書くことになる。
 書く目的、意図(与えようとする機能)によって、文章形態、文章構造が規定される。さらに、客観的叙述と主
観的叙述の別というように、叙述や文体までが規定されてくる。このように、機能によって構造が決定づけられ、
決定づけられた構造によって、その機能をじゅうぶんに果たすことができる。つまり記録の役目を果たすことがで
きるのである。
 また、書いた文章を推考する場合にも、与えた機能が果たせるかどうかを検討するところに、推考の意義、基礎
理論がある。従来の作文では、推考の必要性、基準が明らかでなく、その基礎理論も成立していない。
 ある問題を相談して解決したい。問題を解決するためには、その問題を中心にして、解決策を考え合う、お互い
に意見を出し合う。そして、しだいにいい解決策を作り上げていき、それを採択して問題の解決をはかる。そのよ
うな機能をもつ談話形態は討議や会議である。この討議や会議の談話形態をとることによって、集団思考の機能を
発揮することができる。
 また、そのような討議、会議の中で、自分の意見を、相手によくわかるように話す。筋道を立てて話す。すなわ
ち、話してわからせることによって、逆に話し手の思考を正確にする、思考を深めることになる。
 このように構造と機能は、相関的に発達するという立場において機能を考えることがたいせつである。
 要するに、機能的国語教育は、ことばを機能的に考えるとともに、その目標も、内容も方法も機能的立場に立っ   15
て考えようとする教育論なのである。

     
二 価 値 の 原 理

 戦後の国語教育、特に技能主義の国語教育は、価値の問題を片隅に追いやって、ほとんど取り上げなかった。国
語の内容はどんなものでもよい、国語の能力さえ身につけばよいという考え方であった。しかし、国語教育がこと
ばの教育を通して人間形成を目ざす以上価値の問題を考えないわけにはいかない。国語の教育を通して、どんな人
間を形成するか、どんな人間性を開発するかを考えないでは、人間形成の国語教育は実現しない。国語の教育を通
してどんな人間を作るか。それを決定づけるのが価値である。
 したがって、価値は、機能的国語教育の内容を規定する基本原理であり、人間形成の原理である。

 1 価値とは何か  「価値は、人々がこれを追い求めようと欲するものである。」
            「価値は、目的の実現に役立つものである。」
            「価値は、人間性を開発するものである。」

 価値ということばは、いろいろな意味に使われている。
 「この品物は百円の価値がある。」「貨幣価値が下がった。」などと使われる価値は、経済学上の用語として、
物の持つ経済的な機能(使用・交換)をとらえ、それに名づけたものである。いわゆる経済的価値である。
 「価値のある行為」などという場合の価値は、その行為の観念的側面についての性質をとらえて名づけたもので
ある。つまりそれは、「善なる性質をもつ行為」の意味であって、いわゆる倫理的価値と称するものである。その   16
価値の内容(内実)は、普通「善」とされている。
 「芸術的価値」という使い方もある。この価値は作品の感性的側面の性質をとらえて名づけたもので「美なる性
質をもつ作品」の意味である。一般に芸術的価値の内実は「美」とされている。
 また、「価値のある判断」などとも言われる。この価値は、ある判断の思考的側面の性質をとらえて名づけたも
のである。つまり、「真なる性質をもつ判断」の意味で、これを論理的価値と呼んでいる。
 また、宗教的価値と呼ばれる「聖」がある。このように、価値は、われわれが、よいと認めるもの、望ましいこ
ととして追い求めるものの性質に名づけたもので、その内容として古くから、真、善、美、(聖)などがあげられ
ている。
 また、価値はもっと広い意味にも使われている。善なるもの、美なるもの、真なるものは価値である。悪なるも
の、醜なるもの、偽なるものは反価値である。
 ところで、時代の流れは、善悪の価値観の流動、転換を余儀なくした。そこで、善をも含み、悪をも含む新しい
概念として「価値」の語を生んだ。哲学上の用語として用いられる価値がそれである。
 このように、価値にはいろいろな見方があるが、われわれは教育の立場に立ってこれを考えてみる必要がある。
 教育は、かくあるべき人間を形成する目的的活動である。そこで、われわれはまず、かくあるべき人間を想定し
なければならない。それがいわゆる教育的人間像である。
 この教育的人間像の実現に参加し、役立つものごとの性質を広く価値と考えたい。ここでは、一応それを教育的
価値と呼んでおく。したがってかくあるべき人間の形成に参加し役立つものは、教育的価値である。教育的価値は、
人間形成に参与し、人間性に培い、それを開発、発展させるものである。                     17

 2 価値観は時代とともに動いている

 価値に対する見方、考え方、つまり価値観は、時の流れに従って移り変わっていく。たとえば、忠君は、戦前に
おいては、絶対的な価値であったと言っていい。人間性の根幹に培う価値であった。ところが、戦後は、その価値
はあわのように消え去ってしまった。民主主義社会では、忠君は、人間形成に必要な価値とは認めなくなつてしま
った。これは、忠君に対する、民主主義社会における価値観が変わったからである。また、今から四十年ほど前は、
すくなくとも教育社会では、映画や小説は、少年の身を誤らせるもの、少年を軟弱にするもの、つまり反価値とし
か認めなかった。しかし現在では、小説は、経験を広めるもの、心情を豊かにするもの、価値をもつものと考えら
れている。
 封建社会によって形成された価値は、民主社会には通用しないものがある。民主社会では、民主社会を形成する
のに欠くことのできない価値を確立しなければならない。また、民主社会に生きる人間の形成に必要な価値を体系
づけなければならない。
 このように価値は、歴史的・相対的に社会とともに移り変わる側面をもっている。つまり、社会的に形成される
側面をもっている。
 しかし、人は社会的動物だと言われている。社会集団の中で形成されるものである。しかも社会は、歴史的に流
動するものであるが、その底に一貫して変わらない普遍性ももっている。集団の秩序、共通目的などはその例であ
る。このような社会集団の一員として生存する人間の形成に当たっては、普遍的価値、絶対的価値をも考えなけれ
ばならない。いわゆる真、善、美、聖などは、時代を超越し、個人を超越し、社会を越えたところに考えられた価   18
値であった。
 われわれは、現代の社会、将釆の社会をも見通した上で、新しい価値観を確立しなければならない。その価値観
にもとづいて、これからの教育的人間像を考えなければならない。この価値観が確立しないと、価値内容を選択す
る基準が立たないのである。

 3 価値内容(内実)価値体系をどう考えるか

 国語教育において考えられる価値は、ことばを通してかくあるべき人間の形成に参与し、役立つものである。そ
こで、人間形成に参与する価値は、どんな内容を持たなければならないかを考えてみなければならない。その価値
内容(内実)を規定するものは、教育すべき人間像である。その人間像が持つ人間性を分析して、その人間性を開
発し、発展させるのに必要で欠くことのできない価値内容を要素的に抽出する。たとえば.
@ 人間が持つべき性質として、時代を越え、国を越え、人類を越えた、人間の本質にもとづく普遍性、不易性を
持つもの。
A 時代に応じ、社会に応じ、国に応じて人間が持つべき性質として要請される、歴史性、特殊性、流行性を持つ
もの。
 このような性質を持った価値内容が選ばれなければならない。それをさらに具体的に考えてみると、人間が持つ
べき主たる性質として、たとえば次のようなものが考えられる。
 @ 倫理性 A 社会性(世界性) B 生産性(創造性) C 芸術性(審美性)  D 思想性  E 宗
   教性  F 論理性(合理性、科学性)                                  19
 人間の持つべきこのような性質を開発し、発展させるために選んだ価値内容を組織したのが価値体系である。具
体的な人間像の骨骼である。文部省の学習指導要領国語に示した、話題・題材選定の十か条などは、その一つの例
である。

 4 事実判断から価値判断へ

 機能的国語教育は、ことばによって価値を生産する国語教育である。それは、ことばの事実の中に、価値を発見
し、生産する教育である。つまり、言語による事実判断、事実認識から、価値判斬、価値認識へと高めるところに
国語教育がある。たとえば、
   子ぎつねは、ぬれてぼたん色になった両手を、かあさんぎつねの前にさし出しました。かあさんぎつねは、
  その手にハーッといきをふきかけて、自分の手で、やんわりと、つつんでやりながら、
   「もうすぐあたたかくなるよ。雪にさわると、あとは、あたたかくなるものだよ。」といいました。
 この文章の一節を読んで
 @ 子ぎつねがぬれてぼたん色になった両手をかあさんぎつねの前へ出したこと。
 A かあさんぎつねが、いきをふきかけてじぶんの手でつつんでやったこと。
 B かあさんぎつねが「もうすぐあたたかくなる。 雪にさわるとあとであたたかくなるよ。」といったこと。
と読み取るのは、事実判断、事実認識である。こうした事実判断、事実認識を越えて、
 @ 子ぎつねはいかにも寒そうだ。                                     20
 A かあさんぎつねは、子ぎつねをいたわってやった。かわいがってやった。
 というように読み深めるのは、価値判断であり、価値認識である。
 こうして読み取った価値、つまり価値判断が、主観的なものであるか、客観的なものであるかが問題になる。ま
た、それをどのように指導するかというところに教育の問題がある。

 5 価値をどのようにとらえるか

 価値は、どこにどのように存在するか、価値をどのようにとらえるかという問題は、むずかしいが、国語教育の
面でも一応考えておかなければならない。
 価値は主観的なものであるか、客観的なものであるか。それは、価値はわれわれが認識の対象とする事象の属性
として、事象そのものの中に、客観的に存在するものであるか、それとも、審象の中に価値ありと判断し、認める
主体の側に存在するもの、主観的判断によって、わくづけ示されるものであるかどうかという問題である。
 たとえば、一編の伝記物語がある。作者はこの物語を通して、読み手に、力に生き、信念に生きた被伝者の人生
の生き方を訴えようとしている。そこで、作者が訴えようとしている価値内容「力と信念」は、この物語の中に、
読み手のいかんにかかわらず、客観的に存在すると考えられる。
 ところが、この力と信念を価値と判断し、それを承認するかどうかは、読み手の主観にあるとも考えられる。読
み手の価値観にもとづいて、行なわれる価値判断によって、力と信念を、価値と認めるかどうか、また価値の高い
ものと認めるか、低いものと認めるかが決められてしまう。そういうことは、日常決してめずらしいことではない。
 宮沢賢治の伝記物語に、農民が肥料のことについて相談にくると、賢治は病を犯して病床に端坐し、熱心に説明   21
してやったが、間もなく、それがもとで重態におちいりやがて死んでいった場面がある。筆者は、このエピソード
を、農民に対する賢治の深い愛情として、読み手に訴えている。
 ところが、これを読んだ児童は、この価値を否定する。賢治は、農民に対する一時の愛情にかられて生命を失う
べきではなかった。病気をなおして後に指導してもよい。むしろ、早く病気をなおして、長生きをし農民のために
尽くすことが農民に対する本当の愛情だと言っている。また、ぼくは死ぬのはいやだから、ぼくなら農民を帰し、
病気を早くなおしてから相談にのってやるとも言っている。
 筆者が価値として訴えた内実を、児童は、自分の価値感情、価値判断に従って否定する。このような事実は、価
値は、主観的に、人間の中に、判断の基準として存在することを物語っているとも考えられる。
 こうした日常よくある事実によって、価値は、客観的に対象の中に存在するとも言えるし、主体自身の中に主観
的に存在するとも言えるような気がする。
 では、われわれは、日常生活の中で、どのようにして価値を身につけているのであろうか考えてみよう。まず、
われわれは、社会的動物として、社会集団の中で、生命の伸長発展をとげている事実を確認しなければならない。
次に、価値は、前に述べたように、歴史的社会的に形成され、そのおりおりの価値が、そのおりおりの人間形成に
参与している事実も認めなければならない。
 してみると、人は、社会集団の中で、歴史的、社会的に形成されている価値を、経験を通して、しだいに価値感
情として身につけていく事実を否定することはできないであろう。こうして、しだいに高められ、深められた価値
感情−価値観が、たまたま接した価値に働きかけて、主観的に価値判断をすると考えられる。
 そこで、国語教育では、教材を契機として、そこに示される児童の主観的価値を、教材に内在する客観的価値ま   22
で高める必要がある。つまり、教材に内在する客観的価値と教材を契機として形成される主観的価値とのコミュニ
ケーションによって、そこに新しい価値を生産するところに、国語教育の一面を考えなければならない。教材に内
在する価値によって、しだいに児童の価値感情を刺激して、そこに新たな価値感情を育てていく、教材に内在する
価値と児童の価値感情とのコミュニケーションによって、児童の価値を高め深める。そこに国語教育を考える。

 6 価値は機能的国語教育の基本原理である

 価値は、すでに述べたように、機能的国語教育の内容を規定する基本原理である。したがって、@ 人間形成の
原理である。A 人間形成に直接参加する話題・題材選定の基本原理である。B 話題・題材を具体的に展開する
資料、教材選定の原理である。C 教材を媒介として行なわれる言語経験選択の原理である。

     
三  生 産 の 原 理

 戦後の国語教育、特にいわゆる技能主義の国語教育は、技能の追求に心を奪われて、人間形成を忘れていたかの
観があった。時には、人間形成を阻害する学習さえ行なわれがちであった。したがって、言語活動によって価値を
生産するというようなことは、全く国語教育以外のものと考えるものさえあった。
 機能的国語教育では、言語の機能にもとづく価値の習得、生産、人間性の開発と国語の能力の養成とを一体的に
考えている。聞く、話す、読む、書く学習活動によって、価値を習得、生産することを目がけている。したがって、
その学習活動が、価値あるものかどうかは、それが生産性をもっているかどうかによって判断される。        23
 「生産」は、機能的国語教育の学習を規定する原理である。

 1 生産とは何か   「言語活動は価値を生産する。」
            「言語活動は言語能力を身につける。」
            「言語活動は精神的生産性をもっている。」

 人間が生存するために必要な物的要素、つまり衣食住に関するものを、人間が、道具や機械を使って、作り出す
こと、それが一般に考えられている生産である。それは、物質的財貨を生産する物質的生産である。
 機能的国語教育の学習原理として考える生産は、そのような物質的生産ではない。人間が生存するために必要な
精神的要素、つまり、人間形成に必要な精神的価値を、人間が言語を媒介として作り出す。そのような精神的生産
を意味する。
 たとえば、「教室を能率的に掃除をするにはどうしたらよいか。」という問題を中心にして学級会を開く。各自
それぞれの立場で意見を出し合いつつ、いい意見を作り出していく。いわゆる集団思考によって、新しい意見つま
り精神的価値を作り出す。学級会は、話し合いによって、精神的価値をめいめいの心の中に生産する。
 また、物語を読む。物語の中に含まれている価値を身につける。内部経験を広める。心情を豊かにするなどとい
うのは、人間形成に必要な価値を各自の心の中に生産することである。

 2 精神的生産の構造はどうなっているか

 次に、価値の生産活動の全体構造を考えてみる。生産の主体者は、児童・生徒である。生産の手段は、聞く、話   24
す、読む、書く等の言語活動である。生産の材料は、話題・題材を含む資料、教材である。生産されるものは価値
である。つまり、生産は、児童・生徒、言語材料(話題・題材を含む)言語活動の有機的、全体活動によって行な
われる。なお、生産に参加する諸要素をさらに分析して示すと次のようになる。
 @ 児童の意志――目的・頭脳
 A 話題・題材――教材の価値の本体
 B 言語活動――言語能力、言語要素

 3 精神的生産力とは何か

 言語活動によって価値を生産する過程で働く能力がすなわち生産力である。その生産力を要素的に分析してみる
と次のようになる。
 その一は、言語および言語を使用する態度、技能、知識等を含む言語能力である。
 その二は、思考である。言語活動を内面的にささえている思考力である。思考は言語と密接不離な関係をもって
いる。人は、主として言語によって思考する。思考は、言語の内容的側面、機能的側面として成り立つものと考え
られる。思考活動は、概念、判断、推理等の作用によって、言語的に与えられた個々の事実を認識し、それらの事
実間の関係を判断し、有機的、体制的に把握する。さらに、その全体を貫く原理原則等の法則性を発見し、その本
質をつかむ作用が、思考活動であり、思考過程である。
 要するに思考活動は、さらに進んだ、新しい思考を生み、その結果思想を形成する。したがって思考は、精神的
生産力と考えることができる。                                        25
 その三は、感情である。感情移入である。感情は、精神活動のいわゆる情的側面である。事実や現象を認識した
り、表象に直面したりする時に働く精神作用である。善悪、美醜、好悪、快不快などの心的状態である。
 この感情はまた他の感情的表情、行為、所作などを見ると.直接、それ自体から.その感情状態になる。これを
感情移入という。この感情移入は、鑑賞の基本原理でもある。
 たとえば、楽しそうに笑っている人を見る。その楽しそうな笑い声を開くまでもなく、その楽しそうな表情を見
て、直接自分も楽しさを感ずる。
 静かな自然を描写した文章がある。自然のたたずまい――林あり、水あり、歌う小鳥あり――が客観的に叙述さ
れている。そこには静かさを直接表現したことばはない、しかし、それを読んで、その自然的事象を把握し、その
言語的事実から、あたり一面をおおう静かさをひしひしと感ずる。
 ある人物の行動を表現した文章がある。犬を連れて散歩している。犬はあとになり先になりしてついていく。時
折、犬が姿を隠すと口笛を吹いて呼び返す。淡々とした行動の叙述がある。これを読んで、人と犬との関係、さら
にあふれるばかりの愛情を感じる。
 このように、言語を媒介として行なわれる感情移入が、人々の心情を豊かにし、いまだせぬ経験を内部的に追体
験させるのである。
 感動は、この感情が一時的に、急激に引き起こされたものである。感情は、価値生産の要素と考えることができ
る。
 その四は想像である。想像力である。想像は、何かを思い浮かべる作用で、いわゆる心像を作ることである。そ
のような心像を作り出す力が想像力である。過去に見聞し、経験したことを思い出して心像を作るのが、再生的想
像である。過去の経験の心像をもとにして、新しい心像を作り出すのが、生産的想像である。想像は言語に反映し、  26
言語は想像力を刺激して、新たな想像を生み出す。
 たとえば、「空」の一語によって、「はてしなく続く青空」を想像し、「青々と澄みわたる秋空」を想像する。
あるいは、「どんよりとした降りみ降らずみの空」を想像する。「さしのぼる朝日」と読んで、「さわやかなはれ
ばれとした心」を思い浮かべる。
 言語を媒介として働く想像力、生産的想像力もまた新しい心情を生み、新しい内部経験をも可能にする。
 精神的生産力を、このように、@ 言語―言語能力 A 思考力 B 感情移入 C 想像力 の四つの基本的
要素に分析した。これらのほか、知覚、記憶、知識なども参加することはいうまでもない。
 これらの諸要素の有機的、総合的な作用によって、能率的に価値を生産することができる。また、能率的な価値
生産の過程において、これらの生産力それ自体もまた伸びるものである。

 4 生産財・生産用具としての資料(教材)教具

 価値の生産は、言語材料を媒介とし、言語活動を通して行なわれる。また、言語活動を能率的、効果的にするた
めに生産用具が用いられる。
 価値生産のための言語材料が、いわゆる国語科の資料(教材)である。資料・教材の中に含まれる話題・題材の
もつ価値を発見し獲得するところに生産がある。その価値の生産と同時に、言語能力、言語要素が養成される。し
たがって、資料・教材は、直接教育的機能をもつと同時に、生産性をもっていなければならない。
 生産活動を能率的、効果的にするために用いられる用具が、いわゆる教具である。教具は、生産財と生産活動と
の間にあって、生産を容易にし、効果的にするための媒介をなすものである。したがって、教育的機能を直接持っ   27
ていないと同時に、生産性をも持っていないものである。

 5 言語による価値の生産過程

 われわれが、聞く、話す、読む、書く言語活動によって、新しい価値を身につける過程が、言語による価値の生
産過程である。
次にその概略を述べる。
 @ 目的――目的をもつ――価値の追求
   知識を得る。教養を高める。情報を求める。楽しみを得る。問題を解決する。生活に適応するなど、ことば
   によって、価値を身につけようとする目的をもつ。これは、ことばの機能に即した、生活的、機能的な目的
   である。
 A 計画――計画を立てる。方法を考える。――価値追求の計画と方法
  ア 目的を達成するための、すなわち、価値を追求するための方法、順序等を決める
  イ 資料を選ぶ。価値を追求するために必要な資料(教材・言語材料)を選定する
 B 追求――言語活動をする――価値追求のための言語活動
   価値を追求するために、聞く、話す、読む、書く等の言語活動を営む。たとえば、
  ア 価値の全体的把握のための言語活動
  イ 価値の分析的確認のための言語活動
  ウ 価値の体制的深化のための言語活動
 C 獲得――まとめるための言語活動――価値習得の確認、評価のための言語活動                28
  ア 価値に対する反応を確かめる
  イ 新しい価値をめいめいの価値体系の中に位置づける
  ウ 価値習得に対する評価をする
 D 適用――価値を適用するための言語括動――発展のための言語活動
  ア 新しい経験を処理する
  イ 経験を広げ、深める

 6 生産は機能的国語教育の学習の原理である

 すでに述べたように、機能的国語教育では、学習活動をより積極的、目的的な価値の生産活動、生産行為とみる。
ことばの機能にもとづく価値の生産を国語教育の基本原理と考えているからである。また、学習活動を生産行為と
考えるところに、国語教育の科学化、近代化の契機がある。
 @ 生産は、積極的、主体的な行為である。
 A 生産は目的的な行為である。
 B 生産は、経済的、効率的でなければならない。経済の原理が適用される。
 C 生産は、新しい価値を生み出す。強化を受ける。
.D 生産は、生みの喜びを与える。
 E 生産は、つねに進歩する。
 生産は、このような性格をもっている。ここで、国語教育に新鮮味を与え、学習者に学習の事びを感じさせ、学   29
習方法の近代化の要請を可能にする。

     
四 主 体 の 原 理

 学習活動は、ひとりひとりの児童・生徒が、みずからの意思にもとづいて行なう行為である。したがって、学習
は、児童・生徒の主体的行動であると考えられる。ここに、主体の原理が成り立つ。

 1 主体とは何か

 主体というのは、認識、思考等の作用、さまざまな欲求、行為等を統一し、主宰する人間の機能的側面に名づけ
たものである。また、人間の機能的な側面と身体的な側面とを統一的にとらえていう場合もある。この主体と他の
主体や外界とを区別する場合には、特に「自我」と呼んでいる。
 一般に、学習活動は、学習の欲求を伴い、認識、恩考等の精神活動にささえられて行なわれる行為である。した
がって、行為の主体は学習者、すなわち児童・生徒である。
 学習行為はまたすでに述べたように、価値の生産行為であるから、その主体たる児童・生徒は、生産主体と考え
ることができる。
 また、われわれの言語生活は、言語行為の連続である。この言語行為の主体が、言語主体である。聞く、話す、
読む、書く言語行為は、言語主体によって統制され、主宰される行為である。つまり、聞く、話す、読む、書く言
語活動を、主体の行為と考えることができる。                                 30
 そこで、学習活動は、その主体たる児童・生徒の行為であると同時に、その行為の結果を受けるのも主体たる児
童・生徒である。

 2 主体的行為の特性

 主体性といい、主体的というのは、次のような性格をもった行為である。
 その第一の特性は、自主性を持つことである。自主性は、主体のもつ最も重要な、主体を主体たらしめる性質で
ある。それは、自律性と呼んでもよい。それは、われの行為を、われの判断によって規定することである。自己の
意思のいかんにかかわらず、他の意志によって行為することなく、常に、みずから選択し、判断し、志向し、欲求
して行為することである。
 その第二は、個別性を持つこと、つまり個性である。個性は、主体を他の主体と区別する性質である。すなわち、
主体のあり方、独自性、特殊性に名づけたものである。
 だから、個性は、主体特有の行動のしかた(パーソナリティ)、主体特有の性格、主体特有の知能や性能、主体
特有の素質等について言われることである。こうした特殊性、独自性をもった、つまり個性をもった行為は、また
そこに独自性、特殊性を持った行為として現われる。
 その第三は、目的性をもつことである。主体の行為は、つねに、自主的行為であるとともに目的的行為でなけれ
ばならない。主体が目的を意識し、自覚し、その統制下に行為する。目的意識は、行為を一貫して、それに志向を
与える。目的は、つねに主体の内外の生活に即して設定される。設定された目的行為の全過程を通して追求される。
目的が達成されることによって行為は完結する。                                31

 3 主体的行為としての学習

 学習は、学習の主体者である児童・生徒が、自己の成長発展のために、それに役だつ価値を生産する行為である
と考えられる。価値を獲得し、生産することによって、自己の改造、自己の成長を願う主体的な学習行為であると
考えられる。
 したがって、学習行為は次のような条件によって規定される。
 @ 学習の全課程が主体によって統制されること
 たとえば、単元は、学習主体が、単元の中核である話題・題材に内在する価値を追求し獲得するための言語活動
を組織したものであるから、それらの言語活動が、学習行為として、児童・生徒によってすべて統制されなければ
ならない。ばらばらであってはならない。
 したがって、単元それ自体も、話題・題材あるいは主題によって、言語活動が有機的に統合されていなければな
らないし、その処理能力としての技能、態度も言語も有機的な関連をもっていなければならない。
 A 学習行為はすべて自主的に行なわれること
 学習は、児童・生徒がみずからの行為を、みずからの判断に基づいて推し進めるものであるから、その目的も、
その討画も、その活動も、その結果の処理も、すべて児童・生徒の自主的行為として行なわれることが考えられな
ければならない。
 B 学習行為は目的的討画的に行なわれること
 学習行為は、主体の目的的行為として行なわれる。つまり、主体が行為の目的を意識し、その目的を遂行するた   32
めの計画や方法に従って行なわれる。
 たとえば、文章を読む場合においても、読まされるのでなく、指名読などと呼ばれる、消極的な受身の読みでな
く、みずからの読みの目的を意識し、計画を立て、方法を考えた上での積極的、意欲的な読みが考えられる。
 その場合児童・生徒が意識する学習行為の目的は、ことばの機能に即した生活的、価値的な目的であって、この
目的が、学習行為のすべてを規定する。また、この目的追求の過程において行なわれるさらに分析された諸活動も、
それぞれ目的をもって行なわれる。このように、学習行為はすべて、学習者の目的追求のための行為として計画的
に行なわれるべきものである。
 C 学習行為は、学習者の生産行為であること
 すでに述べたように、学習行為は、学習者が、価値的な目的を追求するための自主的行為として行なわれる。つ
まり価値目的を達成するための行為であるから、当然その目的とする価値を身につけるための学習と考えなければ
ならない。であるから、学習行為は、その目的とする価値を獲得し生産する行為と考えられる。
 たとえば、研究発表を聞く学習の場合、これを聞く児童・生徒は、発表される事項について、知識を得たり、理
解を深めたりしようとする。みずから価値的な目的をもってこれを追求しょうと心がける。そして、聞く行為を通
して、その知識を得たり、理解を深めたりする。つまり、その価値を身につける。
 学習行為は、このような価値生産のための主体的行為であると考えられる。
 D 学習行為は、個性的、個別的に行なわれること。
 学習行為は、学習者の主体的な行為であるから、その本質として、個別的、個性的に行なわれる。
 たとえば、文章を読み、話を聞く場合、その学習行為には、常に学習者の過去の経験、身についている教養、身   33
についている行動の型などが参与して、学習者独自の読み方、聞き方をする。つまり個性的な読み方、聞き方をす
る。
 E 学習行為は、学習者の欲求に基づいて行なわれること、また、学習行為は、学習内容に対する児童・生徒の
関心、興味、必要、欲求等に応じて行なわれる。児童・生徒の興味を刺激し、必要を感じさせ内面的な欲求を起こ
させない限り、主体的な、積極的な学習行為は成立しない。学習に対する学習者の主体的な選択がそこに行なわれ
る。そのような学習者の主体的な学習の選択が行なわれないと、受身の、消極的な、押しつけの学習が行なわれる
可能性が出てくる。
 F 学習行為は、学習者の能力に応じて行なわれること。
 学習行為は、児童・生徒の能力に応じて行なわれる。児童・生徒の能力の発達に応じないあまりに高い能力を必
要とする学習行為には、児童は参加できない。つまり学習不適応者となり、いわゆる遅進児となって、学習不能に
なる。また、あまりに低い能力しか必要としない場合には、かえって学習が成立しない。学習すべき内容がそこに
ないからである。
 児童の主体的な学習が成立するためには、ほどよい価値的、能力的な抵抗が用意され、それを克服するために精
神的な努力や能力が参加することがたいせつである。困難を克服する喜び、学習に成功した喜びを感ずる所にかえ
って主体的な学習が成立することを考えるべきである。
 かくして、学習が主体的行為として成立することによって、学習者はその強化、つまりことばを通して実質的、
内容的価値を得るとともに、能力的、形式的価値をも身につけることができる。その結果、自己を改造したり、成
長させたりすることができ、また自己を含めた好ましい社会関係を成立させることもできるのである。        34

 4 主体の行為としての言語活動

 @ 言語活動は言語主体の価値の生産行為である。
 具体的な言語活動は、そのことばの使い手が、それによって価値を生産する主体的行為と考えられる。すなわち、
ことばの使い手である言語主体が、主体の持つ機能としての言語を働かせ、思想を形成したり、文化を形成したり、
社会を形成したりする行為と見なされる。だから言語括動は、言語主体が価値を生産するための行為であると考え
られる。
 A 主体の行為としての言語活動の性格
 主体の価値生産行為としての言語行為は、次のような性格をもっている。
 ア 目的性をもつ
 主体が言語行為をする場合には、つねに言語の機能に即した目的をもっている。この目的がそれ以後の言語行為
の方法や志向を決定づける。
 イ 生産性をもつ
 主体の言語行為はつねにことばを通して価値を生産する。知識が身につく。理解が深まる。人間性が育てられる。
社会関係が成り立つなど言語行為によって人間が形成される。
 ウ 社会性をもつ
 言語行為は、つねに、書き手と読み手、話し手と聞き手の間に、行なわれる。相互関係的に、相互作用的に行な
われる。いわゆる独話の場合においてさえ、話し手はつねに聞き手に働きかけたり、働きかけられたりする相互作   35
用的に行なわれる。話し手は聞き手によって規定されることが多い。したがって、言語行為そのものによっても社
会性が育てられ、社会関係が成立する。
 エ 個別性をもつ
 言語行為は、主体の目的的行為であるから、当然個々の言語主体独得の性格、能力、方法等をもって特色づけら
れる。個性的に行なわれる。
 オ 技能性をもつ
 言語行為はつねにそれを遂行するに必要な技能、態度等によって処理される。またその技能のいかんによって言
語行為が円滑にいくかどうかが決められる。つまり、言語行為は読み方、聞き方、話し方などの「方」つまり技術
を必要とする。技術によって裏付けされている行為である。ここに言語技術養成の契機がある。
 カ 言語性をもつ
 言語行為は言語によって支持されている。発音、文字、語い、文法等のいわゆる言語要素なしには成立しない。
ここに他の行為とのちがい、いわば特質がある。言語行為を通して言語要素が身につくのはそのためである。
                                                      36
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第二章 機能的国語教育の基礎理論

        
一 言語の機能的な考え方

        
(一)言語の考え方

 国語科は、言語や言語文化を、経験を通して直接取り扱う教科である。したがって、ことばの本質をどう考え、
ことばをどう扱うかにょって、国語教育の目標も内容も方法も変わってくる。そのように、ことばをどうみるか、
どう考えるかが、言語観の問題である。この言語観が、国語教育のあり方を左右するものであるから、はっきりし
た言語観をもって国語教育を考えることがたいせつである。

 1 言語観のいろいろ

 言語の本質については、古来いろいろな立場から、いろいろな考え方が行なわれている。ここでは、そのおもな
言語観――国語教育に影響を与え、または与えようとした。――を大きく三つに分けて考えておきたい。       38

 (1) 実体的な見方

 その一つは、言語を実体的にとらえてみようとする見方である。
 ア 言語を構造的にみるもの
 言語を実体的にとらえ、その構成要素を分析し抽出して、構造的に考えるもの。つまり、言語は、形式としての
音声と、その内容としての概念(意義)とから構成されているとみる見方がある。言語構造観などとも呼ばれ、言
語学者などにはこの考え方をする人が多い。
 イ 言語を手段的にみるもの
 言語は思想、感情を伝える一種の道具であるという考え方がある。言語を手段とみ、道具とみるから、言語道具
観と呼ばれている。戦後の国語教育は、この言語道具観に立って行なわれたなどという批判もあった。
 ウ 流動的にみるもの
 言語そのものを、実体的に捉えようとはするが、それを固定的、物的にみないで、流動的にみる見方がある。言
語は、話し手(言語主体)の表現過程そのもの、聞き手の理解過程そのものであるというのがそれである。これを
言語過程説と呼んでいる。

 (2) 記号的な見方

 言語とその意味するものとの関係において言語をみようとする見方がある。言語を見開くと、それが指示してい
るものが想起される。つまり、ことばは事象や観念を象徴する記号であるという考え方がある。言語を記号として   39
みる見方である。

 (3) 作用的な見方

 言語そのものを実体的、物的にみないで、言語は言語以外の他にどのように働きかけるか、つまり言語はどんな
作用を持っているか、働きをもっているかという立場から、言語を言語以外のものとの関連においてみようとする
立場がある。
 ア 言霊的にみる。
 その一つに言語を精霊的にみる見方がある。言語は霊妙不可恩議な力を持っている。よいことばを発すれば、善
事が成り立つ、優にやさしいことばを発すれば、心もまたやさしくなる。ことばは、そのような働きを持っている
と考える。いわゆる言霊観である。この考え方は、古くからわが国に行なわれていた考え方で、宣命や祝詞はこの
言語観の上に成り立っていたものと考えられる。戦前の国民学校の国語教育は、この言語観の上に構成され、国民
的思考感動を通して、国民精神を養うことが、その立場から強調された。
 イ 機能的にみる。
 他の一つは機能的な見方、言語をその働きの面からみる見方である。言語は、言語以外のものにどのように働き
かけるか、言語はどんな働きをするか、どんな作用をするか、その立場から言語をみる見方である。言語を構造的
にみる見方と対蹠的な見方である。これを機能的な言語観、あるいは言語機能観とも呼んでいる。これは新しい言
語の見方である。戦後の国語教育は、昭和二十二年度の学習指導要領国語科編以来ずっと今日にいたるまで、昭和
三十三年の学習指導要領国語をも含めて、この機能的な言語観に立って考えられていた。              40
 言語の考え方には、このように、いろいろな立場から、いろいろな見方、考え方が行なわれてきた。機能的国語
教育は、この言語機能観を根拠とし、その上に成立している国語教育論である。

    
(二) 国語教育における言語観の移り変わり

 日本の国語教育の歴史の中で、言語観はどのように移り変わってきたか、言い換えれば、日本の国語教育を支配
していた言語観はどう移り変わってきたかについて考えてみたい。

 1 戦前の言語観

 中等学校改正教授要目が、昭和十二年三月二十七日に、文章省訓令第九号として発表された。それによると、
「国語漢文」においては、「国語漢文ニ於テハ国語ノ理解反応ノ能ヲ得シメ、漢文、読方及解釈ノカヲ養ヒ、特ニ
我ガ国民性ノ特質ト、国民文化ノ由来トヲ明ニスルコトニ注意シ国民精神ノ涵養ニ資スルコトヲ要ス。」ことを規
定し、「国語漢文」の内容を示し、最後に「注意」として、次のように述べてある。
  国語講読及漢文講読ノ教授ニ於テハ、特ニ次ノ事項ニ留意スへシ。
            ooooooooooooooooooooo
  読方及解釈ニアリテハ語句文筆ト恩想内容トヲ一体トシテ把握セシメ、適宜文筆ノ妙味ヲ鑑賞セシ
  ムへシ。(以下略す)
 また、昭和十二年五月に出された、中等学校改正教授要目の趣旨についての文部省解説によれば、「改正の方針」
として、次の五項目があげてある。
  (1) 祖先の精神的遺産たる国語漢文の資料に拠って、我が国体の本義を一層明に会得させること。(解説は略す) 41
  (2) 我が国民精神に立脚して、現下の世界に於ける我が国の地位を自覚させ、大国民としての自己
   完成に向って志を立てしむること。(解説略す)
  (3) 国語愛護の熱意を喚起し、日常の言語及作文に於て、明噺にして品位ある国語の使用を修練
   させること。(解説略す)
                、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
  (4) 国語漢文に於て最も大切な形式内容不離一体の要旨を一層徹底せしむること。以前は、字句の
   解釈にのみ捉はれて、内容そのものの指導が不十分であったが、近来、その反動として、兎角形
                                  、、、、、、、、
   式を忽諸にする傾向が著しくなってきた。何れも偏った考であって、形式内容不離一体に進むべ
   きはいふまでもない。

 また、「取扱上の注意」として、次の記述がある。
  国語漢文は、教材の内容が多方面に亘り、他学科との関係が密接である為に、時に本学科目独自の
 立場を忘れて、内容教授に傾き、恰も他の学科目の如き取扱に陥る幣がないでもない。本学科目の要
 旨に鑑み、読誦、理解、書写、記文等について十分形式陶冶に力を注がなければならない。しかもそ
 れが、単なる器械的作業に陥ることなく、是等の訓練を通して、確実なる内容を把握せしめ、叉内容
 を通じて、是等訓練を行ひ、両々相俟って生徒の心性の啓発に努むべきである。 
 統いて昭和六年には、国民学校令が公布され、「国民科国語」は、「国民科国語ハ、日常ノ国語ヲ習得セシメ、
其ノ理解力ト発表力トヲ養ヒ、国民的思考感動ヲ通シテ国民精神ヲ涵養スルモノトス。」と定められ、文部省は、
言語道具観を排撃して、言語の形式内容一体観を強調した。
 「国民学校国語教育の研究.(昭和十五年刊国語文化学会編)の中で、「国民学校国語教育の問題」と題する論
文で、石山脩平氏は次のように述べている。

  国語科は、国民科の一科目であるから、かやうな国語陶冶は、国体ノ精華ヲ明ニシテ国民精神ヲ涵
 養シ皇国ノ使命ヲ自覚セシメルという国民科の要旨に統合せられ、それによって、国民錬成といふ国        42
 民学校の本旨に統合せられねばならない。この統合が即ち、国民的思考感動ヲ通ジテ国民精神ヲ涵養
                         、、、、、 、、、、、、、、、 、、、、、
 スルモノトスルと明示せられたのである。ここでは、言語を形式、思考感動を内容とし、しかも同者
 、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 を分離した、形式は内容を伝達する道具と見るような考え方を排撃し、内容は寧ろ形式によって形成
           、、、、、、、、、、、、
 せられるもの、従って内容と形式とは一体不可分のものであるといふ見解を当局は強調している。」

 と述べ、さらに、文部省の解説を次のように引用している。
        、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、
  言語を単なる思想伝達の道具と見る考え方は、極めて通俗な言語観であって、これがためにしばし
 ば教育上の過誤を生ずることがある。成程言語を結果から見ると、一種の符号であり、道具であると
 いへる。然し言語にょって表現される思想は、元来言語によって絡められたものである。換言すれば、
    、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、
 我々は言語によって思考し感動して、思想を構成するのである。思想と言語が紙の表裏の如く一体不
 、、、、、、、、、、、、、、、、
 可分であるといふのはここに存する。これを国語についていへば、我々日本人は、国語によって考え
 感じ、さうして恩想する。我々の思考なり、感動なり、思想なりは、どこまでも国民共有の――祖先
 伝来の国語を離るべからざるものがある。かくてこそ、我々は日本人特有の考え方、感じ方をするの
 である。「国民的思考感動ヲ通ジテ国民精神ヲ涵養スル」といふのは、斯うした国語観に基礎を置い
 たものである。

 わが国の国語教育は、これまで、言語をその形式と内容とに分けて考える二元観に立った構造的言語観によて国
語教育が進められてきた。したがって言語の形式を重視した時代(形式主義の時代)その反動として、言語の内容
を重視した時代(内容主義の時代)二者を心とことばとしてこれを統一した時代――垣内松三先生の形象諭(新内容
主義の時代)を経て国民学校の時代になっている。
 垣内先生によって強調された心とことばの相即不離一体の言語観は、先にあげた、当時の文部省の見解ともなっ
た。その結果、文部省の解説にもあったように、言語恩想一体観が、成立し、「我々の思考、感動、恩想は祖先伝
来の国語と離るべからざるものである。」ことが強調されたのであった。                     43
 この言語思想一体観は、当時の国家主義と結びついて、国語によって表現されている国民的思考感動を通じて国
民精神を養うことが進められ、やがて、これが、古来から伝わる言霊観と結びついていった。言霊の幸はう国を謳
歌する声もあった。こうした風潮の中で、言語道具観のはいりこむすきはなかった。こうして、結果的には、いわ
ゆる内容主義の国語教育が全国を履うていった。

 2 戦後の言語観

 ところが、太平洋戦争を契機として国語教育の姿が一変した。国家主義的な内容はきれいにぬぐい去られた。国
語教育の目標の考え方も、内容の考え方も百八十度の転換を見せた。あれほど強調された言語思想一体観も、国語
教育を支配した言霊観も、全く形をひそめて、今はただ、そこにあるものは、言語技術のみであるかの観を呈した。
 昭和二十二年度学習指導要領国語科編では、第二節国語科学習指導の目標の項で、「国語科学習指導は、・・今
後は、ことばを広い社会的手段として用いるような要求と能力をやしなうことにつとめなければならない。」こと
を述べ、話すこと、書くことの具体的な目標として、「自分を社会に適応させ、個性を伸ばし、また、他人を動か
す手段として、効果的に話したり、書いたりしようとする要求と能力を発達させること。」が説かれている。
 このように言語を社会的手段と考える考え方と言語道具観とが安易に結びついていったように思われる。その上、
戦後の教育改革の波に乗って、社会科が新設され、教育課程もいわゆるコアカリキュラムが全国を風靡したその中
で、国語科は、用具教科、道具教科としての位置づけが行なわれ、この方面からの働きかけも強かった。それに符
節を合わせるかのように、昭和二十六年度の学習指導要領国語科編 第四節「小学校における国語科学習指導の目
標は何か。」において、「小学校における国語科学習指導の目標は、小学校の児童に、ことばを効果的に使用でき   44
る能力を身につけさせることであって、一口にいえば、ことばの力を伸ばすことである。」と述べられた。
 また、同じく中学校高等学校学習指導要領においても、「国語のほうで本質的なことは、ことばを使っていく技
術であり、能力である。従釆は、あまりにことばや文字についての知識、理解の方面に重きが置かれていた。……
これからの国語教育では、こうした習慣、態度、技能、能力、鑑賞知識、理解の一面に偏することなく、常にその
全体を目がけて、言語生活の理想を高めていかなければならない。………したがって、国語学習指導の目標は、言
語の使用をより正しく、より効果的にすることであるといってよい。」と説かれている。
 こうして、学習指導要領では、言語内容については、全く触れることなく、一途に言語技能の面が強調された。
これが言語道具観と結びつかないはずはない。戦後の国語教育の反省として、これを支配したと思われた言語道具
観が、批判され、人間形成を忘れた国語教育だと非難されたのも当然であった。
 しかし、昭和二十二年度試案の学習指導要領国語科編、昭和二十六年度学習指導要領国語科編が果たして言語道
具観に立って国語教育を進めようとしたのであろうか。
 国語教育の本質として、言語技能を発見し強調したことは事実であり、正しかったと思う。それは確かに戦後の
国語教育の一大進歩であったと恩う。歴史的に見て戦後の国語教育の特徴としてあげ得るであろう。
′また、言語技能を強調するのあまり、それと内容との関係を説くことが軽く、言語の人間形成の機能を一般に認
識させる努力には、確かに吹けていたと思う。それは、当時一大転換を試みようとした当局としてはやむをえなか
ったことであった。
 そのような事情を洞察することもなく、ただ表面的に戦後の国語教育をとらえて、言語道具観と結びつけたり、
また、言語道具観が国語教育を支配したと考えたり、それを主張したりしたことは適切ではなかった。        45
 昭和二十六年度の学習指導要領では、基本的には、言語を道具的にはみていなかった。言語をつねに言語以外の
ものとの関係においてみ、関連において捉えていた事実をはっきりと指摘することができるのである。言語がわれ
われの社会生活の中において、どのような役割りを果たしているか。言語がわれわれの思想や感情とどのように結
びついているか、また、言語は、日本の文化の獲得創造に対して、どんな役割りを果たしているか。そこに国語の
性格を捉えているのである。つまり
 言語の社会的機能、精神的機能、文化的機能を明確に捉えて、そのような性格をもった国語を効果的に使ってい
くことを、国語教育の基礎としていることを見逃してはならない。
 このことは、昭和二十六年度小学校学習指導要領国語科編の「第三節 国語科学習指導の一般目標は何か。」同
じく、中学校、高等学校の「三 小学校、中学校、高等学校における国語学習指導の一般目標は何か。」の項に、
次のように述べてある。…
 「言語はどんな役割を持つか」ということについて、次の三つのことがあげられる。
 (1) 言語は、互に意志を通じ合うのに必要で、社会生活に欠くことのできないものである。
 (2) 言語は、思想や感情と深い関係を持ち、考えを進める上に欠くことのできないものである。
 (3) 言語は、どんな学問や技術を学んでいくのにも媒介をなすものであって、この意味で、文化の獲得創造に
  欠くことのできないものである。
 (1)は言語の社会的機能、(2)は言語の精神的機能、(3)は言語の文化的機能についてそれぞれ述べたものである。
 このように、言語を機能的に捉え、言語活動の目的もまたこの言語の機能に即して考えているところに、次のよ
うな記述もある。                                              46
 (1) 社会生活上自分に必要な情報や知識を得るために・・・・(聞く)
 (2) 自分の意志を伝えて他人を動かすために・・・・(話す)
 (3) 情報や知識を得るため、経験を広め、教養を高めるため、娯楽と鑑賞のため・・・・(読む)
 (4) 自分の考えをまとめたり、他人に訴えたりするために・・・・(書く)
 このことは、昭和三十三年度学習指導要領国語にも同じく述べられていることである。
 ただ残念なことには、こうして言語の機能を明確に捉え、それにもとづいた国語教育を考えながらも、技能的な
面があまりにも強調されたために、一般には機能的な言語観、機能的な国語教育が理解されなかった。したがって、
国語教育の現場に深く浸透しなかったのは、いかにも惜しいことであった。
 戦後十余年の教育の反省にもとづいて教育内容の刷新改訂が行なわれ、昭和三十三年国語の学習指導要領も国の
教育基準として改訂告示された。この場合にも、国語教育の基本的な考え方には別に変わりないことが明らかに言
われた。この学習据導要領には、国語科の総括目標として次のように示されている。
 「日常生活に必要な国語の能力を養い、思考力を伸ばし、心情を豊かにして言語生活の向上を図る。」
 この目標で、「国語の能力」と「思考力、心情」との関係をどう考えるかが重要である。形式としての国語の能
力と、内容としての思考力、心情というようにこれを二元的に考えて二者を一体不離、つまり言語、思想一体観に
立つ考え方は適切ではない。国語の能力を養うことは、同時に思考力を伸ばし、心情を豊かにすることであり、国
語科において、思考力を伸ばし、心情を豊かにすることは、同時に国語の能力を伸ばすことにはかならない。聞く、
話す、読む、書く言語活動によって、二者は統一せられ、言語が活動を通して生きて働いている時にのみ同者は一
体なのである。ことばを換えて言えば、ことばがその機能を果たしているその時が両者が一体となっているときで   47
ある。ただ観念的に、言語の形式と言語の内容が一体だといっても、それでは、言語の本質としての働きを捉える
ことはできない。二者を統一するというような構造的な見方ではなく、ことばを機能として考えるところに形式と
内容を止揚した新しい言語観が成立するのである。
 昭和三十三年の学習指導要領の言語観が、機能的立場に立っていると考えられることは、さらに国語科の目標の
第二、第三に示された言語活動の目的を考えてみれば明白である。しかしながら、この機能的な言語観によって、
学習指導要領が完全に統制されているとは言い切れない面がある。
 機能的な言語観に立って国語教育を考えるといっても、国の基準としての学習指導要領の性格上、必ずしもその
内容も方法も機能的に考えているとは言えないからである。しかしながら、その後に出された文部省の「中学校国
語指導書」小学校の「読むことの学習指導」の中には、機能的言語観に立った内容諭、方法論が随所に説かれてい
ることを見逃してはならない。
 こうした機能的な言語観に立つ国語教育が本筋として考えられてはいたが、一方にまた時枝誠記氏の言語過程説
に立つ国語教育もその立場から、いわゆる能力主義の名において主張された。

    
(三) 機能的言語観

 1 言語を機能的にみる

 戦後、国語教育は、機能的言語観に立つべきことをいち早く主張されたのは輿水実先生である。(「国語のコー   48
ス・オブ・スタディ」の中の「序説機能的言語観」昭和二十二年十二月刊。言語の機能については「ことばは伸び
る」の中で戦前すでに説かれている)
 当時は、戦前の言語思想一体観、言霊観が、世間的には、言語道具観に取ってかわられていた。しかし、国語教
育の現場では、新しい国語教育は、いずれの言語観に立つべきかに迷っていた。それに答えられたのが、この機能
的言語観である。先生は同書の中で、次のように説かれている。

 「言語を生活の全体、精神の全体、社会の全体の中にはたらくものとして見るそれが機能的なみかたです。それ
 は、言語の精神への働きかけ、生活への働きかけ、社会への働きかけの方をも認める立場です。言語と精神、言
 語と生活、言語と社会とを常に関連させて考えていく立場です。」

 これは、言語を人間の生存、精神の成長発展、生活の営みとの関連においてとらえ、考える立場である。
 目、耳、鼻、口、手、足などいわゆる五体は、われわれが生存するための物理的機能を果たしている。見る、聞
く、嗅ぐ、ふれるなど五感を通して対象を認知する。(感性的認識)手足によって、握る、歩くなど働き動く。胃、
腸、肺臓、心臓などのいわゆる内臓の諸器管は、われわれが生存するための生理的機能を果たしている。食物を消
化し、栄養を補給し、酸素を吸い取って血液を浄化するなど、生命を保持し、生存するためにその機能を果たして
いる。
 言語は、われわれが生存するために必要な精神的機能を果たしている。言語を使うことによって、聞く、話す、
読む、書く言語活動によって、お互いを知り合い、理解し合って社会関係を作っていく。社会生活を円滑にする。
民族の精神文化を獲得し、継承し、創造する。そして、われわれの生存を全うし、豊かにし、精神の成長発展に寄
与する。言語はこうして、人間が生存、発展するための精神的機能を果たしている。
 たしかに、言語は人間の精神的機能であると考えることができる。とすれば、言語自身は、どんな機能を持って   49
いるのであろうか。

 2 言語の機能

 (1) 言語は思想を形成する

 言語は、われわれの精神生活、精神活動を進める働きを持っている。言語は、その成立の過程から思考と結びつ
いている。われわれは、普通言語によって思考を進めている。
 「あした、買物に行こうか、行くまいか」そんなたわいないことを決める場合ですら、われわれは、「アシタ、
カイモノニ、イコウカ、イクマイカ」と内語しながら考えている。そして、行くことに決める場合にも、「イクコ
トニショウ」と内語し、判断して、行くことに決める。このように、言語によって、概念を得、概念を操作し、相
互関係をつかんで判断をし、ある判断にもとづいて推理する。こういう精神活動をくりかえす。つまり思考活動を
する。世に概念的思考、抽象的思考などというのは、言語による思考のことである。
 もちろん、国語教育で取り上げる思考は、それをいっそう深め、発展させるものであり、価値のあるものでなけ
ればならない。その結果そこに思想が形成されるものでなければならない。
 また、何かについて話を聞く、何かについて書いた文章を読むということは、話し手、書き手とともに、それら
について考えることである。話し手、書き手が体制化した思想を、聞き手、読み手が、自己の中に再体制化する精
神活動である。この思考活動を中心にして、そこに感情移入が行なわれ、生産的想像が働いて、感情が磨かれ、想
像力が高められるのである。たとえば
 「五月の雨が細々と降り注いでいる。しっとりと濡れたあじさいの花の複雑な紫が、この家の狭い庭いっぱいに   50
 咲き広がっている。 その一つの花かげに、さきほどから一匹のかたつむりが、――そうだ、命をかけて、しかし、
 だれもそれを知らない。―― 一心に這い続けていた。」
 この文章を読むことによって、読み手は、書き手の思考、書き手の感覚、書き手の想像に従って、みずからの中
にそれを形成していく。書き手と共に、雨の日の静けさを考え、あじさいの花の美しさに感じ、精いっぱいの力を
ふりしぼって這い統けているかたつむりに生きることのきびしさを感じる。こうして読み手は、自己の中に文章の
内容価値を作り出していく。 時にはそれに共鳴し、同意し、時にはそれに反撥し否定し、時には、それを乗り越え、
克服しながら。 その過程に生産的思考があり、生産的想像があり、感情の発展がある。
 こうした言語による精神活動によって、精神が養われ、思想が形成される。思想は、思考活動の結果として形成
されるものである。言語と思考の関係を、思想形成、精神形成の問題として発展させるところに、機能的立場があ
る。 言語が、その国の民族思想の形成に深い関連を持つのはそのためである。
 言語は、このように、その内容によって、われわれの思想を形成する働きを持っているが、言語はまたそれを働
かすことによって、思考そのものを正確にし、明噺にする働きを持っている。感情活動、想像活動そのものをかっ
ぱつにする働きを持っている。言語は、このように二重の性格を持っている。われわれは、文章に書くことによっ
て、人に話すことによって、あいまいであった判断が明確になり、ぼんやりしていた考えがはっきりとすることを
常に経験している。話そうとし、書こうとすることがらを明確適正にとらえ、筋道を正し、首尾を一貫し、話にま
とめ、文章にまとめるところに、思考の整理、思考過程の秩序化が行なわれる。また、いっぽうにおいて、表現対
象を言語化するために、対象に対する観察力、洞察力が働いて、対象そのものもいっそう明確になることもわれわ   51
れの常に経験するところである。
 また、ことばは、相手に働きかけて、相手の心を動かす働きを持っている。心の叫び、感動が言語化されると、
聞き手、読み手の心に訴え、感情に訴えて、これを揺り動かす働きを持っている。
 言語はこのように、われわれの精神生活、精神活動を支持して、思考の発展、感動の表現、思想の形成に、大き
な役割を果たしている。
 これを、言語の精神的機能、また、表現機能とも呼んでいる。

 (2) 言語は文化を形成する

 言語は文化を継承し、獲得し、また生産する働きを持っている、文化は言語によって記述される。古代の歴史、
政治、経済、地理、思想、信仰等は風土記、 古事記、 日本紀などに記述され伝承されている。芭蕉の俳諧精神は
「さび」「しをり」「ほそみ」その他の言語によって提示され、伝えられている。飛鳥、奈良時代を中心とした感動
の世界は、万葉集によって伝承されている。それぞれの時代の文化を背負った、言語文化としての多くの言語――
言語それ自体もまた長い間の民族の思考感動の結果作り上げられた文化である。――多くの作品が、今日になお生
き生きと生き統けて、人々の心を揺り動かしている。
 このように、過去の文化は過去の言語によって記述され伝承されている。
 現代文化の所産としての現代の言語は、また、現代の文化を記述し、提示している。新しい文化の獲得、生産に
大きな役割を果たしている。今日学問の研究に討議法が用いられ、研究の成果は、報告書として記述されているこ
とは周知の事実である。単に言語、文学のみではない。われわれが、現代の言語を通して現代の知識を習得し、理
解を深めていることもまた明白な事実である。                                 52
 このように、言語は文化の伝承、獲得、生産に大きな役割を果たしている。これを言語の文化的機能とも、叙述
機能、提示機能とも呼んでいる。

 (3) 言語は社会を形成する

 言語は人間の機能であると同時に社会の機能でもあると言われている。社会は言語によって成立し、其の社会関
係は言語によって結ばれるからである。
 われわれは、お互いに主として言語によって意志を通じ合い、感情を伝え合う。そしてお互いに知り合い、理解
し合う、そこに親しみが湧き、(時には反ぱつを感じ)信頼が起こり、(時には不信をいだき)社会関係が(時に
は反社会関係が)成立する。社会の構成員としての紐帯が結ばれてくる。たとえば、初対面の不安、不信が、二言、
三言話し合うことによって、お互いに何を考え、何を感じているかがわかってくる。すると、しだいに緊張感がほ
ぐれ、不安が解消し、お互いの人がらがわかり、時には言語を通して十年知己のような信頼をも持ち合うようにな
ることさえある。
 同一の国語を話す民族が大同団結し、同一方言を話す人々がお互いにお国意識を持って結び合うのは意味のある
ことである。
 また、言語が、いわゆる学級作り、人間関係の調整の上に大きな役割を果たしていることも周知の事実である。
言語ボスのいる学級がうまくいかなかったり、国語学習において、読み方がじょうずだとかへただとか、話しの声
が小さいとか大きいとかというような、あらさがし的な技能指導を行なっている学級がうまくいかなかったりする
ことも、われわれがつねに目にするところである。学級新聞や学級会が学級作りに役立つことも明らかなことであ   53
る。
 言語は、このように社会集団の中にあって、その構成員相互の社会関係を緊密にし、円滑にする働きを持ってい
る。また一方においては、マス・コミュニケーションによって、広く社会に働きかけて社会を動かし、大衆を動か
す働きをも与えられている。

 (4) 言語は経験を広げ深める

 日常生活における、直接的、具体的な経験に対して、言語による間接的な経験を代行経験と呼んでいる。また、
言語は、事物や観念などを象徴する記号であるから、言語記号による経験――記号経験とも呼んでいる。
 日常生活における具体的な経験には、その範囲、種類等におのずから限界があって、経験的に多方面にわたる知
識、理解を得たり、心情を豊かにしたり、思想を形成したりすることはむずかしいし、また、しようとしてもでき
ない場面も多い。
 そのような具体的な経験をする代わりに、言語によって、内面的、精神的に経験することによって、多くの知識、
理解を得、心情を養い、思想を形成することができる。これはことばのだいじな機能の一面である。
 たとえば、王様の生活にあこがれる幼い児童が、王様の物語を読んで、みずからその作中の人物になって、内面
的、精神的に、王様の生活や心情を経験し、また、金持ちにあこがれる児童が、金持ちの物語を読んで、その生活
や心理、心情を内面的に経験して、そこに喜びを感じ、満足感をいだくようなことは、決して珍しいことではない。
 また、炭坑を知らない児童、南の国、北の国の子どもの生活を知らない児童、あるいは富士山に登ったことのな
い児童、海で泳いだ経験のない児童など、知識もない、経験も持たない児童が、それらについての話を聞いたり、
文章を読んだりして、実際に、それらを見た、経験したりしたのと同じような経験をする。そして、それらについ   54
ての知識、理解を得たりする。このように未知の経験を言語によって経験し、経験を広めていく。
 ところが、言語は事物そのものではない、言語と事実の間には開きがある。赤い花と言っても、実在する花で、
赤いと考えられ、呼ばれる色合いはさまざまである。青いと言っても、青い空、青い海、青い草、青い顔など、青
いによって象徴されている青さは同一ではない。大きいといっても、小さいといっても、早いといい遅いといって
も、その程度、度合いはさまざまで、いずれも事実そのままを表わしていない。
 このように、事実そのものを表わさない言語によって経験する世界、――言語的世界と、それが表わそうとする
経験的世界、外在的世界とは、いちじるしく異なっている。
 ところが、われわれは、ついうっかりと、この言語的世界と外在的世界とが、同一であるかのような錯覚を起こ
してしまう。時には、そうであると信じこまされている。「彼は冷たい人だ」などと言われると、いつの間にかそ
の事実のいかんにかかわりなく、そう思いこんでしまう。「本が読めない」などとたびたび言われる。これも事実
のいかんにかかわらず、そう信じこんでしまう。そればかりではなく、当の本人までが、自信を失って読めなくな
ってしまう。そのような例は、普通の教室によくあることである。ここに、いわゆる一般意味論の存在の意味があ
る。言語魔術のはいりこむすきがある。国語教育で担当するだいじな一面がある。
 また、それだけに、言語の真実性が強く要求される意味もここにある。言語と事実の一体化の悲願もここにある。
 では、言語的世界は、つねに外在的世界の浅い、未熟な、似て非なる反映的存在に過ぎないのであろうか、いや、
必ずしもそうではない。すぐれた叡知を持ち、洞察力を持った人々のことばは、表現は、外在的世界の真実をえが
き出してくれる。その本質をつかみ出して見せてくれる。
 われわれが、何回となく、外在的世界について、具体的、感性的に経験しても、容易に得られない、その本質、   55
その質実を、いともやすやすと示してくれる。表面的、一面的にしか経験できない外在的世界を、その鋭い洞察力
によって、その奥底まで深く掘り下げて、その本質、その質実を明確にわれわれの目の前に捉示してくれる。うっ
かりしていて、見落としがちな、あるいは見誤りがちな、あるいは、その長所も短所も、残りなく、あらわに、的
確にえがき出してくれる。この事実を忘れてはならない。
 言語的経験は、感性的経験よりも、すぐれた面を持っていることのあることとを考えておかなければならない。
すぐれた言語作品を願わずにいられないのは、こういう意味からである。
 言語はこのように、経験を広げたり、深めたりする働きを持っている。

 (5) 言語は認識を広め深める

 電車に乗って車窓から外を眺める。外界の事物が、視覚を刺激しては過ぎ去る。何かが目に入りぼんやりした印
象とし心に残るがそれが何であるかはさだかでない。ところが、その刺激の原形に「家だ」「子どもだ」「ばらの花
だ」「自動車が走っている」などと、それらとことばとを結びつけると、それらにことばを充てはめると、それら
にことばを対応させると、その原形が明確に知覚される。つまり認識される。このことは、われわれが絶えず経験
していることである。
 見る(視覚)、聞く(聴覚)、嗅ぐ(嗅覚)、味わう(味覚)、触れる(触覚)など、感覚器管を通して受ける刺激
についても、その刺激の原形に、「電車の音だ」「木せいの香りだ」「あまい、からい」「かたい、やわらかい」な
どと、ことばを充てはめることによって、それが明確に認識される。が、刺激に対して、それとことばの充てはめ
をしないと、それが認識されないと、「心ここにあらざれば、見れども見えず、聞けども聞こえず、食へどもその   56
味を知らず。」ということばも、その事実を物語っている。
 われわれの周囲を取り巻く、複雑でこんとんとした外在的世界に対しても、それらの無数の刺激に、「雨が降っ
ている。八つ手の葉が濡れて光っている。その葉先にしずくが一つ一つのこっては、ぽたりぽたりと落ちる。」と、
ことばを充てはめ、わくづけ、それを切り取り、浮き出させることによって、つまり、ことばで叙述し、提示する
ことによって、刺激の原形がはじめてそれと認識される。
 このように感性的認識を成立させるのもことばの働きである。
 それはひとり外在的世界の事実や現象だけではない。われわれの脳裡を去来する心的なもの、観念にしても、感
情にしても同じである。久しぶりに友だちに出会った時の複雑な感情にしても、「うれしい」「なつかしい」などと、
その感情にことばを充てはめ、わくづけることによって、言語を対応させることによって、それが意識され、認識
される。「何と言ったらいいだろう。うれしいようなそれでいてさびしいような気持ちで……」などと、あいまい
なことばの充てはめでは、あいまいな、ぼんやりした認識しか成立しない。
見たこと、感じたことなどを正確にことばに表わす。つまり、正しく話したり、書き表わしたりする(ことばの充
てはめをする。)ことによって、その対象を正しく認識できるのもこのためである。その場合、正しく、細かに観
察した結果をことばに表わして正しく認識するというよりも、ことばに表わすことによって、ことばでわくづけし
ょぅとすることによって、観察が深まる、認識が深まると考えられる。図や絵に書くことによって物体が正しく認
識されるのと同じである。
 また、われわれが、事実を離れ、経験を越え、感覚器官による知覚を越えて、概念の操作によって思考を進める
場合においても、それをそれと認識するには、ことばを借りなければならない。芭蕉の俳諧の世界、俳諧の精神は、  57
「さび」「しをり」「ほそみ」等々のことばの充てはめによって、初めてその本質をわれわれに提示し、新たな認識
を与えたのである。つまり、ことばによる概念を操作することによって、抽象的世界の認識をも可能にするのであ
る。
 たとえば、「何か」についての話を聞いたり、「何か」について書いた文章を読んだりして、つまり、ことばを通
して「何か」についての認識を得たり、深めたりすることができるのである。
 ことばはこのように、感性的認識、概念的認識を成立させるが、また、そうしたことがらの奥にあるもの、その
ことがらを成立させている本質、原理、原則をも認識させる。五感を通し、経験を通しても容易に認識できない法
則性、本性、本質などを、ことばのわくづけによっていっそう深い認識を成立させることができるのである。感性
的認識から理性的認識へなどというのはそのことを言っているのである。
 次に、読解を中心にして具体的に考えてみたい。
 ことばによって認識を深める場合には、そこに認識活動が行なわれるが、この忍識活動は、さきに述べたように、
ことばによる思考活動によってささえられている。つまり、ことばによる思考活動によって認識が探まっていく。
ことばの概念をつかむこと、概念相互の関係を判断すること、その判断に基づいて推理する。こうした活動がくり
返えされることによって、事実が認識され、さらに、それらの事実相互の聞係が判断され、それに基づいてさらに
推理が行なわれる。こうしてことばによる思考活動を通してしだいに認識が広まっていく。
 こうして認識されたいくつかの事実について、さらにその相互関係を判断したり、推理したりすることによって、
それらの事実を総合したり、それらの事実の中に流れている共通性、統一の原理などを発見したりする。あるいは
それらに含まれている内面的な関連性、有機的関係をつかんだりする。あるいはそれらの事実の本質をつかむ。こ   58
うして認識は探まっていく。たとえば、
  (1)             (2)                         (3)
 「やがて決勝点が近づきました。先頭のフィンランドの選手がラスト・スパートしました。いや、二番目の選手
                     (4)
 が、すばらしい勢いで、追いすがりました。アメリカのヒル選手でした。」
 このような文章を読むと、まず、四つの事実が認識される。この四つの事実はばらばらでなく相互間係的にとら
えられ、その場面が認識される。これをことばによる事実認識と呼んでおく。次には、その事実を通して、「ふた
りの選手が先頭を争っている。競争している。」ということが、そのことばによって抽象化される。その事実が表
わしている意味が認識される。さらにその事実、場面を統一している性質、場面の底を流れている本質的なもの、
感性的認識、概念的認識を超えた、いわゆる洞察力によって捉えられるもの、つまり、「緊迫している状態」「息
づまるような状態」が認識される。これを理性的認識と呼んでおく。
 こうして、文章を読むことによって、認識は広げられ、深められていく。
 ことばが認識を成立させると同時に、認識を広め、深める働きをも持っていることは、ことばの大事な機能と考
えられる。

                                                      59
       
二 目標の機能的な考え方

    
(一)国語教育の目標の移り変わり

 1 国語科の目標の歴史表                                        59〜62

時代 /  法規 
  国語科の目的・目標
 言語 言語能力  人間形成
明治二四・一二−
明治三三
「小学校教則大綱」
読書及作文ハ普通ノ言
語並日常須知ノ文字・
文句・文章ノ読ミ方、
綴り方及意義ヲ知ラシ

適当ナル言語及字句ヲ用ヒテ、正確ニ思
想ヲ表彰スルノ能ヲ養ヒ
兼テ知徳ヲ啓発スルヲ
以テ要旨トス。
 明治三三・八−昭和一五
「小学校令施行規則」
国語ハ普通ノ言語、日常
須知ノ文字及文章ヲ知ラ
シメ
正確二思想ヲ表象スルノ能ヲ養ヒ
兼テ知徳ヲ啓発スルヲ
以テ要旨トス。

明治三四
中学校令施行規則
国語及漢文ハ普通ノ言
語文章ヲ了解シ
正碓且自由ニ思想ヲ表彰スルノ能ヲ得シ
メ文字上ノ趣味ヲ養ヒ

兼テ知徳ノ啓発二資ス
ルヲ以テ要旨トス。
昭和六
中学校施行規則改正
   
昭和一二
中学校改正教授要目
国語漢文ニ於テハ
国語ノ理解、及応用ノ能ヲ得シメ、漢文
ノ読方及解釈ノ力ヲ養ヒ 
特ニ我ガ国民性ノ特質
ト国民文化ノ由来トヲ
明ラカニスルコトニ注
意シ、国民精神ノ涵養
ニ資スルコトヲ要ス。
 
昭和一六−二〇
国民学校令施行規則
国民科国語ハ日常ノ国語
ヲ習得セシメ
其ノ理解力ト表現力トヲ養ヒ
国民的思考感動ヲ通ジ
テ国民精神ヲ涵養スル
モノトス。

昭和一八
中学校規定
国民科国語ハ
  
正確ナル同語ノ理解ト発表トノ能力ヲ養
フト共ニ古典トシテノ国文及ビ漢文ヲ習
熟セシメ 
国民的思考感動ヲ通ジ
テ国民精神ヲ涵養シ我
ガ国文化ノ創造発展ニ
培フモノトス。
昭和二二
学習指導要領国語科編
(小学校 中学校)
 
  一 表現意欲を盛んにし、かっばつな言語
 活動をすることによって、社会生活を円
 滑にしようとする要求と能力とを発達さ
 せること。
二 自分を社会に適応させ、個性を伸ばし、
 また他人を動かす手段として効果的に話
 したり書いたりしようとする要求と能力
 とを発達させること。
 知識を求めるため、娯楽のため、豊か
 な文学を味わうためというようないろい
 ろな場合に応ずる読書のしかたを身につ
 けようとする要求と能力とを発達させる
 こと。
四 正しく美しいことばを用いることによ
 って社会生活を向上させようとする要求
 と能力とを発達させること。
  
 
 昭和二六
小学校学習指導要領
国語科編(中・高省略)
  1 自分に必要な知識を求めたり、情報を
 得ていくために、他人の話に耳を傾ける
 習慣と態度を養い、技能と 能力をみが
 く。
2 自分の意志を伝えて他人を動かすため
 に、生き生きとした話をしようとする習
 慣と態度を養い、技能と能 力をみがく
3 知識を求めたり、情報を得たりするた
 め、経験を広 めるため、娯楽と鑑賞の
 ために広く読書しようとする習慣と態度
 を養い技能と能力をみがく。
4 自分の考えをまとめたり、他人に訴え
 たりするために、はっきりと正しくわか
 りやすく独創的に書こうと する習慣と
 態度を養い、技能と能力をみがく。
 
 
 昭和三三
小学校学習指導要領国語
(中・高省略)

  1 日常生活に必要な国語の能力を養い、
 思考力を伸ばし、心情を豊かにして 
2 経験を広め、知識や情報を求め、また、
 楽しみを得るために、正しく話を聞き文
 章を読む態度や技能を養う。
3 紅験したこと、感じたこと、考えたこ
 とをまとめ、また、人に伝えるために、
 正しくわかりやすく話をし、文章に書く
 態度や技能を養う。
4 聞き話し、読み書く能力をいっそう確
 実にするために、国語に対する関心や自
 覚をもつようにする。
言語生活の向上を図る。
時代 /  法規 
  国語科の目的・目標
言語 言語能力  人間形成
明治二四・一二−
明治三三
「小学校教則大綱」
読書及作文ハ普通ノ言
語並日常須知ノ文字・
文句・文章ノ読ミ方、
綴り方及意義ヲ知ラシ
適当ナル言語及字句ヲ用ヒテ、正確ニ思
想ヲ表彰スルノ能ヲ養ヒ

兼テ知徳ヲ啓発スルヲ
以テ要旨トス。

明治三三・八−昭和一五
「小学校令施行規則」
国語ハ普通ノ言語、日常
須知ノ文字及文章ヲ知ラ
シメ

正確二思想ヲ表象スルノ能ヲ養ヒ
兼テ知徳ヲ啓発スルヲ
以テ要旨トス。

明治三四
中学校令施行規則
国語及漢文ハ普通ノ言
語文章ヲ了解シ
正碓且自由ニ思想ヲ表彰スルノ能ヲ得シ
メ文字上ノ趣味ヲ養ヒ

兼テ知徳ノ啓発二資ス
ルヲ以テ要旨トス。
昭和六
中学校施行規則改正
   
昭和一二
中学校改正教授要目
国語漢文ニ於テハ
国語ノ理解、及応用ノ能ヲ得シメ、漢文
ノ読方及解釈ノ力ヲ養ヒ 
特ニ我ガ国民性ノ特質
ト国民文化ノ由来トヲ
明ラカニスルコトニ注
意シ、国民精神ノ涵養
ニ資スルコトヲ要ス。 
昭和一六−二〇
国民学校令施行規則
国民科国語ハ日常ノ国語
ヲ習得セシメ

其ノ理解力ト表現力トヲ養ヒ
国民的思考感動ヲ通ジ
テ国民精神ヲ涵養スル
モノトス。
昭和一八
中学校規定
国民科国語ハ
  
正確ナル同語ノ理解ト発表トノ能力ヲ養
フト共ニ古典トシテノ国文及ビ漢文ヲ習
熟セシメ 
国民的思考感動ヲ通ジ
テ国民精神ヲ涵養シ我
ガ国文化ノ創造発展ニ
培フモノトス。
昭和二二
学習指導要領国語科編
(小学校 中学校) 
  一 表現意欲を盛んにし、かっばつな言語
 活動をすることによって、社会生活を円
 滑にしようとする要求と能力とを発達さ
 せること。
二 自分を社会に適応させ、個性を伸ばし、
 また他人を動かす手段として効果的に話
 したり書いたりしようとする要求と能力
 とを発達させること。
 知識を求めるため、娯楽のため、豊か
 な文学を味わうためというようないろい
 ろな場合に応ずる読書のしかたを身につ
 けようとする要求と能力とを発達させる
 こと。
四 正しく美しいことばを用いることによ
 って社会生活を向上させようとする要求
 と能力とを発達させること。
  
 
 昭和二六
小学校学習指導要領
国語科編(中・高省略)
  1 自分に必要な知識を求めたり、情報を
 得ていくために、他人の話に耳を傾ける
 習慣と態度を養い、技能と 能力をみが
 く。
2 自分の意志を伝えて他人を動かすため
 に、生き生きとした話をしようとする習
 慣と態度を養い、技能と能 力をみがく
3 知識を求めたり、情報を得たりするた
 め、経験を広 めるため、娯楽と鑑賞の
 ために広く読書しようとする習慣と態度
 を養い技能と能力をみがく。
4 自分の考えをまとめたり、他人に訴え
 たりするために、はっきりと正しくわか
 りやすく独創的に書こうと する習慣と
 態度を養い、技能と能力をみがく。
 
 
 昭和三三
小学校学習指導要領国語
(中・高省略)

  1 日常生活に必要な国語の能力を養い、
 思考力を伸ばし、心情を豊かにして 
2 経験を広め、知識や情報を求め、また、
 楽しみを得るために、正しく話を聞き文
 章を読む態度や技能を養う。
3 紅験したこと、感じたこと、考えたこ
 とをまとめ、また、人に伝えるために、
 正しくわかりやすく話をし、文章に書く
 態度や技能を養う。
4 聞き話し、読み書く能力をいっそう確
 実にするために、国語に対する関心や自
 覚をもつようにする。
言語生活の向上を図る。

                                                      62
 2 国語科の目標の移り変わり

 国語科の目標を便宜上「言語」「言語能力」「人間形成」の三つに分析して表示した。それぞれの項目について、
明治から昭和の今日まで、ずっと見通すと、それぞれの時代の国語科の目標の考え方を明確にとらえることができ
る。次の四つに区分して、その歴史の跡をたどってみる。
 (1) 言語、文字、文章の教育の時代――「言語形式」、「言語内容」、「言語形式、言語内容」
 (2) 国民精神の教育の時代――「言語内容」                                 63
 (3) 言語能力の教育時代――「言語能力」
 (4) 言語生活の教育の時代−「言語能力、言語内容」

 (1) 言語・文字・文章の教育の時代

 わが国の国語教育は、文字や語句や文章の教育から始まった。それは、文盲をなくし、標準語を普及することを
教育政策とした当時としては、至極当然のことであった。
 明治五年の学制には、国語関係の教科として、綴字(カナヅカヒ)、習字(テナラヒ)、単語(コトバ)、会話
(コトバヅカヒ)読本、書牘、文法の八教科を、明治十三年の教育令改正には、国語関係の学科とし、読書(読書
ヲ分テ読方及作文トス)習字の二学科を、明治二十三年の小学校令には、国語関係の教科として、読書、作文、習
字の三教科を、それぞれあげている。
 そして、その目的とするところは、文字・文句・文章の読み方、書き方、綴り方を教えることであった。しかし、
制度の上にそれを明確に打ち出すまでにはいたらなかった。
 小学校教則大綱(明二四)になって、読書、作文、習字を課して、(1) 日常の言語、日常須知の文字、文句、文
章の読み方、綴り方、意義を知らせる。(2) 言語、字句を用いて思想を表彰する能を養う。(3) 兼ねて、知徳を啓
発することが述べられている。文盲をなくすために、日常の言語、文字、文章の読み書きを中心とし、兼ねて、当
時の文明開化の思潮に乗って、知識を広め道徳心を啓くことが目的とされていたのである。
 次いで、明治三十三年に小学校令およびその施行規則が出された。ここで初めて、読書・作文・習字が国語科と
して統一され、その目的は、「国語ハ普通ノ言語、日常須知ノ文字及文章ヲ知ラシメ正確ニ思想ヲ表彰スルノ能ヲ   64
養ヒ、兼ねて智徳ヲ啓発スルヲ以テ要旨トス。」と定められた。尋常小学校では、「初ハ発音ヲ正シ、仮名ノ読ミ
方、綴り方ヲ知ラシメ、漸ク進ミテハ日常須知ノ文字及近易ナル普通文ニ及ホシ又言語ヲ練習セシムべシ。」高等
小学校においては、「稍々進ミタル程度ニ於テ日常須知ノ文字及普通文ノ読ミ方、書キ方、綴リ方ヲ授ケ、又言語
ヲ練習セシムベシ。」と示されている。
 条文としては、ようやく完備してきたが、その目的は、明治二十三年の小学校令から一歩も出ていなかった。
「兼テ智徳ヲ啓発スル」といっても、その内容は漠然としたものであった。その辺の事情は、次の条文で推量する
ことができる。
  「読本ノ文章は平易ニシテ国語ノ模範ト為り、且児童ノ心情ヲ快活純正ナラシムルモノナルヲ要シ、其ノ材料
  ハ修身、歴史、地理、理科基ノ他生活ニ必須ナル事項ニ取り趣味ニ富ムモノタルベシ。」
 この間にあって、初期のころは文字、語句、文章の読み方、習き方など言語形式の教育を中心としたいわゆる形
式中心の時代であった。続いて、その反動として、国語教育は、言語形式の教育ではじゅうぶんではない、言語の
内容の教育を中心とすべきであることが説かれ、いわゆる内容中心の国語教育が行なわれた。大正時代にはいると
垣内松三先生は、国語教育は、言語の形式と内容とを一体として教育すべきであることを説かれた。そこで、言語
形式主義と言語内容主義とを止揚し、形式、内容一体の新内容主義の教育が主張された。これが、国民学校時代の
内容中心主義的な国語教育の基礎となった。

 (2) 国民精神の教育の時代

 この小学校令は、昭和十五年まで続いた。昭和六年に、中学校施行規則が改正され、当時の異常な勢いで伸びて   65
いった国家主義の思潮を反映して「国民性を涵養し」の語句が挿入された。続いて、昭和十二年、中学校改正教授
要目が発表された。ここにおいては、国語漢文の目標は、「(前略)特二我ガ国民性ノ特質ト国民文化ノ由来トヲ
明ラカニスルコトニ注意シ、国民精神ノ涵養ニ資スルコトヲ要ス。」ことがうたわれた。
 さらに、昭和十六年国民学校令が施行され、昭和十八年中学校規定が設けられて、皇国民錬成のための国語教育
の目的が確立された。
 小学校令による国語教育は、「児童ノ身体ノ発達二留意シテ、道徳教育及国民教育ノ基礎並其ノ生活二必須ナル
普通ノ知識技能ヲ授ケルヲ以テ本旨トス。」と示された小学校教育の本旨にもとづいて、その一環として行なわれ
たものであった。
 国民学校令による固語教育は、新たに修身・国語・歴史・地理等の教科を統合して設けられた国民科の精神にの
っとって行なわれた。国民科は
 「我ガ国ノ道徳・言語・歴史・国土国勢ニ付テ習得セシメ・特ニ国体の精華ヲ明ラカニシテ国民精神ヲ涵養シ、
 皇国ノ使命ヲ自覚セシムルヲ以テ要旨トス。」
 と国家主義の教育を強調した。
 国民科の一科目としての国語が、この国民科の精神に即して、目的を考えたのは当然であった。国民科国語は、
 「日常ノ国語ヲ習得セシメ、其ノ理解力ト発表力トヲ養ヒ、国民的思考感動ヲ通ジテ国民精神ヲ涵養スルモノト
 ス」と皇国民練成のための国語教育の目的を明らかにし確立した。
 国語教育は、こうして、当時の国家の要求に応じて、国民精神の涵養をめざして、すべてが統一された。そして、
内容主義の国語教育に拍車をかけた。                                     66

 (3) 言語能力の教育の時代

 太平洋戦争が終わって、国語教育が立ち直った時には、全く新しい国語教育が構成されたような様相を示した。
国家主義に奉仕した国語教育は、名残なく払い去られ、民主主義のための国語教育の名のもとに、技能中心の国語
教育が展開されたかに見えた。
 昭和二十二年、学習指導要領国語科編で新しい同語教育の方向が示され、続いて、昭和二十六年度試案学習指導
要領国語科編が、戦後の国語教育の目的を確定的なものにした。そこに、目標として示されたものは、ことばを使
う上の習憤、態度、技能、能力、理想等であった。ここに、技能の学習を中心とした新しい国語教育が確立された。
 このように、国語の技能を発見し、その学習を強調し、そこに、国語教育独自の世界を求めたことは、確かに、
戦後の国語教育の進歩発展であり、功績であった。言語形式の教育――言語内容の教育――言語能力の教育という
歴史的展開の上の必然的な方向であった。
 ここには、「兼テ智徳ヲ啓発スル。」とか、「国民精神ヲ涵養スル。」とかいうような直接人間形成に詰びつく
表現は何もなかった。これが後に、戦後の国語教育は、技能主義に走って、人間を作ることを忘れているではない
かというような批判のもとになった。

 (4) 言語生活の教育の時代

 昭和三十三年学習指導要領国語が、国の基準として告示されるに及んで、その目標の考え方もまた一歩前進した。  67
それは「日常生活に必要な国語の能力」と、「思考力を伸ばし心情を豊かにする」こととを一体的に学習し、「言
語生活の向上を図る」ことを目標とした。
 このことは、戦後の国語教育が、人間形成を忘れて、技術教育に走ったという批判に対する解答でもあり、国語
教育の目標の歴史的発展でもある。国語の能力と思考、心情とを出して、形式、内容の統一を目ざした。戦前の智
徳の啓発や国民精神の涵養に対して、言語生活の向上を図ることを掲げた。これにはとかくの批判もあるが、戦前
の内容主義と戦後の技能主義とを止揚して、内容、技能を一元的にみる機能的国語教育を打ち出したところに、国
語教育の目標の弁証法的発展として、歴史的意義を認めることができる。(この目標については後に詳説する)

    (二) 国語科の目標の考え方

  1 教育的人間像を考える

 教育の目的について、教育基本法に、次のように書かれている。
 「教育は、人格の完成をめざし、平和な国家および社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、
 勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた、心身ともに健康な国民の育成を期して行なわなければならない。」
 ここに教育のねらっている人間像が示されている。人格の完成を目ざし、平和な国家、社会の形成者を育成する
ところに教育の目的が置かれている。平和な国家社会の形成者、それはどんな人間かというと、基本法によれば、
「真理と正義を愛し」「個人の価値を尊び」「勤労と責任を重んじ」「自主的精神に満ちた」「心身ともに健康な
国民」である。                                               68
 国語教育は、国語の教育を通じて、このような人間の育成に寄与しなければならない。これは、当時の社会や国
が、こういう人間を作りたい、将来の人間はこうあるべきだという理想的人間像をえがいたものである。したがっ
て、そこには、人間の不易の面と流行の面とが考えられていなければならない。いずれの時代においても変わるこ
とのない人間性の面が不易の面である。時代の動き、時代の伸展にともなって考えられる人間への要求が、流行の
面である。
 そこで、人間性を分析して、どんな人間像を構成するか考える基礎を明らかにする必要がある。たとえば、倫理
性、思想性、審美性、論理性、文化性、社会性、言語性などに分析し、それぞれの面について、あるべき人間の相
を考えてみる。
 それとともに、その時代時代の動き、日本の置かれている世界的地位や使命などが要請される人間の持つべき条
件、現在および将来にわたって社会、が要請している人間の持つべき条件などを考慮する。
 こうして考えられた人間像の実現に当たって、国語教育は、どの面に、どの程度に寄与すべきかを考えなければ
ならない。そこに、国語教育の目的、内容を考えるべきである。人間形成に培う価値の問題もそこに基礎を求める。

  2 歴史的に考える

 国語科の目的・目標が歴史的にどう移り変わった、かについてはすでに考えてみた。
 文字、語句、文章の読み書きなど、言語形式の学習を中心とした時代には、国語科の目標は、国語科の中から一
歩も出なかった。それは、国語のための国語教育であった。国語教育が何に対し、どのように寄与するかというこ
とは忘れがちであった。小学校令による小学校教育の目的が、道徳教育、国民教育の基礎や生活に必要な普通の知   69
識、技能の教育にあったから、国語科の目標としても、兼ねて知識や道徳心の啓発を考えるというような消極的な
程度にとどまっていた。ところが、国民学校の時代には、国語の教育を通じて、国民精神を涵養する、つまり人間
形成が、国語教育の目的として強調された。国家は教育に、皇国民の練成を要請したから、国語教育もまた国語の
教育を通して皇国民の練成を目的とせざるを得なかったのである。国語教育が国家主義と結びついて、封建的な忠
君愛国思想を強調し、そのような入間を形成することを目標としたことは適切ではなかった。しかし、国語教育を
通じて人間を作る。人問形成に寄与する。それを究極の目的として国語教育を進めたことは正しかったと思う。
 国語教育が、教育の一分節として存在し、その一端として行なわれる以上、人間教育、人格形成に参与すること
は当然であって、ここに到達しなければ、国語教育にはならないのである。
 ところが、戦後の国語教育の目標は、新たに発見された国語の能力の学習に置かれた。国語の知識、技能、態度、
習慣等の学習が強調された。それを身につけることが、国語教有の目標と考えられた。国語教材の内容はどのよう
なものでもよい。国語の力がつきさえすればよいのだというような考え方も現われた。国語科は、用具教科だ、道
具教科だなどと言われだしたのも、ここに原因の一つがあったであろう。
 こうしてまた国語教育を再び狭い国語のわくの中にとじ込めてしまった。国語のための国語教育、つまり、国語
の技能を身につけることが究極の目的であるかのような誤解を生んだ。国語教育の目標は、国語教育の中の問題と
して考えるべきではなかったのである。
 戦後十年の国語教育の反省に当たって、いろいろな批判があったが、人間形成軽視の声が大きく取り上げられた。
昭和三十三年の学習指導要領国語の改訂に当たっては、特に人間形成を重視したと言われている。それは国語の教
育を通して人間を作るという国語教育の本来の目標、国語の教育を通して、国語以外の何を育成するか、何に働き   70
かけるかという、国語教育を機能的に考える考え方が、再び確立したと考えられる。
 国語科の目標を歴史的にみると、すでに述べたように、@ 言語形式の学習を目標とした時代 A 言語内容の
学習を目標とした時代 B 言語形式、言語内容を一体的に学習することを目標とした時代 C 言語能力の学習
を目標とした時代を経て、次に、歴史的必然として、言語能力と言語内容とを二元的に考えることなく技能として
学習することを目標とする時代がすでにきているのである。
 国語科の目標は、このように、その歴史的展開の跡をたどって、歴史的必然性を持った目標を考えるべきである。

  3 機能的に考える

 国語教育は、教育の目的を達成するために考えられた教科構造の一分節である。だから、固語の教育を通して、
教育の目的とする人間の育成に参与し、その力を発揮すべきことはいうまでもない。国語科の目標は、そこに打ち
立てるべきである。国語科の教育目標は、国語教育それ自体のためにあるのではない。国語の教育を通して人間形
成の一面を担当するところにある。国語教育は、そのように深いものにつながっている。人間性の奥底につながっ
ている。用具教科、道具教科などといって、言語技能の教育だけではすまされないのである。
 したがって、国語が教育の中で果たす役割を考えてみる必要がある。
 (1) 国語教育は、社会の形成にどんな役割を果たしているか。
 (2) 国語教育は、児童・生徒の生活の営みや人格の形成にどんな役割を果たしているか。
 (3) 国語教育は、日本文化の創造発展にどんな役割を果たしているか。
 (4) 国語教育は、他教科の学習を進める上にどんな役割を果たしているか。                   71
 このような観点に立って、教育の中で、国語教育が果たす役割を明確に把握し、その立場から、目標を考えるこ
とがたいせつである。
また、国語教育が、教育の中で果たす役割は、同時にことばが教育の中で果たす役割とも考えられる。ことばの機
能をじゅうぶんに果たしうるような国語教育にして初めてその役割をじゅうぶんに果たしうるからである。
 国語教育が、その役割を果たすためには、その根底に、ことばがその機能をじゅうぶんに果たすことができるよ
うにしなければならない。それがまた国語教育の大きな仕事になるのは、そこにもとづくのである。

  4 技能的に考える

 国語教育は、たびたび述べたように、ことばの教育を通して人間形成に寄与するところにその特性がある。児童
が、聞く、話す、読む、書く言語行為によって、みずから人間性を開発し、伸長し、平和な国家社会の形成者とな
るところに、国語教育の目標が考えられる。したがって、聞く、話す、読む、書く言語行為が、じゆうぶんに処理
できるようにならなければ、すなわち、言語の知識、技能、態度、習慣などの言語能力が、しっかりと身につかな
ければ、人間形成に参与することはできない。
 この意味では、国語教育は、人間形成を目ざす言語技能を身につける教育であると言える。とくに、戦後の国語
教育は、言語能力を発見し、分析し、体系づけることによって、一大進歩をとげた。
 このように、言語能力の養成をねらう国語教育の独自の立場からも、その目標を考えなければならない。そこに、
言語行為による人間形成と言語能力の養成とを具体的にどう結びつけどう調和させたちよいかということが、これ
らの大事な問題になる。                                           72
 要するに、国語教育の目標は、次のような根拠、性格、構造を持たなければならない。
 (1) 教育の目的とする人間形成に参与すること。
 (2) 国家、社会、文化、学習、児童の人格形成等における国語教育の役割を考えること。
 (3) 人間形成に参与するための言語能力を養成すること。
 (4) ことばとその教育を機能的に考えること。

    
(三) 学習指導要領の目標の機能的解釈

  1 国語科の目標の構造

 学習指導要領国語には、国語の目標として次の四か条があげてある。
 l (総括目標)日常生活に必要な国語の能力を養い、思考力を伸ばし、心情を豊かにして言語生活の向上を図
  る。
 2 (聞く、読む言語活動の目標)経験を広め、知識や情報を求め、また、楽しみを得るために、正しく話を聞
  き文章を読む態度や技能を養う。
 3 (話す、書く言語活動の目標)経験したこと、感じたこと、考えたことをまとめ、また、人に伝えるために、
  正しくわかりやすく話をし文章に書く態度や技能を養う。
 4 (ことばに関する事項の目標)聞き話し読み書く能力をいっそう確実にするために、国語に対する関心や自   73
  覚をもつようにする。
 この四ヵ条は、これを立体的、構造的にみると、その相互関係、その意義、その性格を明確にとらえることがで
きる。
 第一条には、国語科の全体的、総括的な目標が書かれている。それは日常生活に必要な国語の能力を養うこと、
思考力を伸ばし、心情を豊かにすること、そして言語生活の向上を図ることである。これを表解すると次のように
なる。


 このような国語科の全体目標を達成するためには、聞く、話す、読む、書く言語活動をしなければならない。第
二条には、その聞くこと、読むことの学習の目標が書かれている。

   
 第三条には、話すこと、書くことの学習目標が示されている。                         74

   
 このように、聞く、話す、読む、書く言語行為をするためには、その行為を内面からささえる発音、文字、語い、
文法等がなければならない。第四条は、そのようないわゆることばに関する事項の学習目標が示されている。

   
 以上の四ヵ条の関係を表解すると次のようになる。

 
                                                      75
   2 国語科の目標の解釈

 (1) 国語教育と人間像
 第一条は、国語科の目標を総括的に述べたもので、(1) 国語の能力 (2) 思考力、心情 (3) 言語生活の向上の
三つの大事な要素が含まれている。この三つの事項の相互関係をどう考えるかによって、国語教育の内容も方法も
変わってくる。(2) の思考力、心情すなわちことばの内容を重視したのは、戦前の国語教育であって、特に、国民
学校の国語教育が、それを前面に押し出していた。その結果は、内容主義の国語教育となった。
 (1) の国語の能力を重視したのは、戦後十余年の国語教育で、いわゆる技能主義の国語教育を生んだ。ここでは、
(2) の思考力、心情は軽視されがちであった。とすれば、この(1)と(2)を重視し、(3) の言語生活によって統一し
たこの日標は、歴史的必然性の上に立って考えられたものと考えることができる。いずれにしても、そういう点か
ら、人間形成を重視した国語教育を再び打ち出したと言われている。
 従来、国語科の目標の中にうたわれた人間形成につながるものは、昭和十五年まで続いた小学校令で「兼テ智徳
ヲ啓発スル」ことであった。それが、昭利十六年以後、国民学校の時代には、「国民精神を涵養する」ことがあげ
られ、その内容が具体的に示された。ところが、戦後の昭和二十二年度、昭和二十六年度に出された学習指導要領
は、目標から、人間形成につながるものを切り捨ててしまった。そして、もっぱら言語能力の教育を強調した。
 それが、昭和三十三年の学習指導要領では、「言語生活の向上をはかる」ことが示された。しかし、このような
示しかたでは、どんな人間を形成しょうとしているか、明らかでない。このことについては、後に詳説する。
 国語教育の中で、直接人間形成に参与するものは何かというと、学習内容として、取り上げられる話題・題材で
ある。この話題・題材の中に含まれている実質的な価値である。たとえば、ある話題について話し合うことによっ   76
て、話題に対する知識、理解を深める。ある題材について書いた文章を読んで、題材についての知識、理解を得る。
そこに示されている物の見方や考え方を身につける。感覚や心情がみがかれ豊かになる。このような話題や題材に
含まれている実質的な内容価値が人間形成に直接つながっていく。すると、国語教育によって、どんな人間の形成
に参与するかは、取り上げる話題・題材によって決められる。
 また、間接的には、それらの話題.題材を中心として行なわれる言語活動そのものによって育成される諸性質が
ある。たとえば、何か話題について話し合うことによって、何かについての知識、理解、心情等が養われるととも
に、その言語活動によって、それらとは別な、お互いの人間理解が深まったり、思考が正確になりたり、批判力が
身についたり、心情がみがかれたりする。詣し手と聞き手相互の人間関係が深められたり、思考が正確になったり
する。
 そこで、話題・題材を選ぶことが非常に重要になってくる。
 学習指導要領では、次のような話題・題材を避ぶときの観点十ヵ条をあげている。これを検討すると、だいたい
どんな人間を形成しようとしているかがわかる。
 (1) 常に正しく生きようとする気持を養うのに役だつこと。
 (2) 人間性を豊かにし、他人とよく協力しあう態度を育てるのに役だつこと。
 (3) 個性的、独創的精神を養うのに役だつこと。
 (4) 道徳性を高め、教養を身につけるのに役だつこと。
 (5) 想像や情緒を豊かにし、生活を明るく美しくするのに役だつこと。
 (6) 自然や人生に対して正しい理解を持たせるのに役だつこと。                       77
 (7) 論理的思考力や科学的態度を養うのに役だつこと。
 (8) 国語に対する関心や自覚を深めるのに役だつこと。
 (9) 国土や文化などについて理解と愛情を育て、国民的自覚を養うのに役だつこと。
 (10) 世界の風土や文化などに理解を持たせ、国際協調の精神や世界的視野を養うのに役だつこと。
 ここに、小学校児童に与えようとする話題・題材の範囲や内容が示されている。これによって、どんな人間像が
えがかれるか。教育基本法に示された教育の目的の中に、平和な国家、社会の形成者ということばがあるが、この
国家、社会を形成する積極的な、実行力のある人間を育てるところに重要な点がある。
 五番目の観点に、「想像や情緒を豊かにし、生活を明るく美しくするのに役だつこと」とあるが、「生活を明る
く美しくするというところに、社会の形成者としての積極性が考えられる。「国語に対する関心や自覚を高める」
「自然や人生に対して正しい理解を持たせる」「個性的、独創的精神を養う」などとある。ただ単に精神を養った
だけではだめである。育成された人間がどのように社会的に働くか、どのように自己を改造し発展させていくかと
いう点が強調されないと、しっかりした人間像はえがかれない。もっと積極的な社会的な人間を作ることがだいじ
である。たとえば、(1) の「常に正しく強く生きようとする気特を養うのに役立つこと」ということよりも、むし
ろ、「真理や正義を愛して、常に正しく生き抜く入間の育成に役立つこと」といったほうが、積極的であり、教材
の選び方も変わってくる。また、「個性的独創的精神を養うのに役だつこと」よりも、「個性を伸ばす」とか、「独創
的に自分の力で考えていくことに役だつこと」と考えたほうが、生き生きとしてくる。また「国語に対する関心や
自覚を深めるのに役立つこと」よりも、「正しいことばを正しく使う人間を育てること」と考えたほうがいい。
 こうした、積極性、独自性、主体性、機能性をもった、社会的、民主的な人間を形成することに寄与すべきだと   78
思う。
 国語教育の目標は、国語の理解力、表現力、を養うことだけをあげたのではじゅうぶんではない。
どのような人間の形成に参与するかが明確に示さるべきである。

 (2) 国語の能力と思考・心情

 国語の能力を養うことと思考・心情を育てることとは、本来一元的なものである。それを、あるときは、内容的
側面(思考・心情)を強調して、思考・心情を重くみ、あるときは、その形式的側面を強調して言語形式や言語能
力を強調したにすぎない。またあるときほ、その両側面を一体としてとらえようとしたにすぎない。
 では、国語の能力と思考力・心情とを統一するものは何か、それは聞く、話す、読む、書く活動である。言語活
動によって両者を統一的にとらえることができる。言い換えれば、ことばが生き生きと働いているときが、両者が
渾然一体となって、完全に統一されているときである。この二者の統一的な働きが、言語の機能である。したがっ
て言語を機能的にみることによって言語の二側面を同時にとらえることができるのである。たとえは、文章を「読
む活動」は当然「読む能力」によって処理され、同時に「文章の内容」が理解され、心情がみがかれ、思想が形成
される。
 童話を読むことによって、童話を読む能力が身につき、童話の心情的な内容が感得されたり、理解されたりする。
 さらに具体的にいうと、ここに「虫を食べる植物」という、いわゆる説明的な文章があるこれを指導する場合、
書かれていることがらを中心として、文章の順序を追って指導する。虫を取って食べる植物にはどんなものがある
か。それはどんなしくみになっているか。どんな食べ方をするかなどを知識として教えこんでいく。このやり方で   79
は、読みの興味は高まるが、読み方が指導されない。国語の技能の計画的な学習が行なわれない。これは戦前の内
容主義の指導法である。
 次には、まず文章を読ませて段落に分けさせる。段落の要点を中心文を中心にして言わせたり教えたりする。そ
の際、いわゆるさすことばをあげて、そのさすものを考えさせる。あるいは、つなぎことばを捜させて、その役目
を知識として教える、というように、技能をむき出しにしたり・内容と切り離したことばが扱われたりする。こう
いうやり方は、意味の機構、展開に即して学習が行なわれず、断片的な学習になるから内容が統一的に理解されに
くいし、思考力がじゅうぶんに働かない。また思考力が高まらない。発展しない。これは、戦後の誤った技能主義
の指導法である。
 では、国語の能力と思考・心情とを活動によって統一的に機能的に学習させるやり方はどうしたらよいのであろ
うか。たとえば、「虫を取って食べる植物」を読む。そして、どんなことがわかったか、文章の内容価値を追求さ
せる。わかったことがらを中心にして段落にまとめる。わかったことがらを箇条書きにする。箇条書きにしたこと
が正しいかどうかを確かめるために細部に注意して読む。読み取ったことがら相互の関係を確認めるためにさすこ
とばや接続することばを手がかりにして考えてみる。このように、文章に書かれていることがらを中心に、それを
次第に正しく、詳しく、明らかにしていく理解の過程で、段落にまとめる力、要点を読み取る力、細部を読み取る
力、ことばの機能等が、文章の内容の学習に即してみがかれる。ここでは思考はつねに、文章の内容に即して働く
から、いっそう深められ、発展していく。
 このことを言語経験に即して言えば文章の内容の理解が深まり、同時に指導しようとする能力が働く言語経験を
選んで与えるということになる。                                       80
 このようにして、国語の能力と思考・心情とを統一的に身につける方法が、機能的な学習法である。
 国語の能力と思考・心情とをどう受け止めるか、どう解釈するかによって、学習の方法はこのように変わってく
るのである。

 (3) 言語生活の向上−その機能的、本質的な考え方

 「言語生活の向上」ということは、国語教育の目標にはならないという批判がある。
 国語の能力を養い、思考力を伸ばし、心情を養えば、言語生活が向上するのはあたりまえのことで、国語科内の
同語反復では目標にはならない。国語の能力を養うことによって言語以外の何が向上し、発展するかを考えなけれ
ばならないというのが、その一つである。つまり、目標も機能的に考えなければならないというのである。
 また、言語生活は方法であって目標にはならないというのが、その二つである。われわれは言語生活をすること
によって、言語経験をくり返すことによって、国語の力を身につけている。言語生活の中でこそことばは伸びる。
一年生にはいってくる児童は、五千から七千のことばを理解すると言われている。これは、実際の言語生活によっ
て、自然に身につけたものである。電話をかけることによって、電話のかけ方やその時の心づかいが身についてい
く。図書館で本を読むことによって、読書生活を通して、読書の技術や態度が身につく。ラジオやテレビを視聴し
て語いを豊かにし、聞く力を身につける。このように、言語生活は、言語能力を身につける方法なのである。教室
における国語学習も、このような言語生活の中から、主要な経験を選んで経験させているにすぎない。このように
言語生活自体が、ことばの力を伸ばす方法なのである。
 そこで、国語科の目標には、「国語の能力を養い、思考力を伸ばし、心情を豊かにして」どんな人間を作ればよ   81
いのか、どんな社会人を作ればよいのか、それを明確に示すべきである。
 その点「国民的思考感動を通じて国民精神を養う」ことをうたった、国民学校国語科の目標の考え方は正しかっ
たと思う。その日標の内容については、いろいろ批判もあり間題もあると思うが、自標の考え方については、参考
とすべきであると思う。
 目標を機能的に考えるということは、国語の教育を通してどんな人間を形成するかを考えることである。たとえ
ば、国語の能力と思考力・心情とを育てて、「よい社会人を育成する」とか、「民主的な精神を養う」とか、「人間
性を高める」とか、「社会生活が円滑にできるようにする」とかいうように、国語の教育を通して、国語科以外の
何をねらって教育すべきかを明確に示すべきである。
 ところで、この学習指導要領に示された「言語生活の向上」をどう解釈したらよいか。
 電話がじょうずにかけられる。必要に応じて手紙が書ける。会議がうまく進められる。校内放送がじょうずにで
きる。日記や研究の記録が書けるなどというように、日常の言語生活が円滑に処理できる。言語技術を使って、言
語生活がすらすらと運ばれる。それはきわめてたいせつなことであり、ぜひそうなければならないことである。し
かし、言語生活の向上ということを、このように、形式的、言語技術的にのみ考えてはならない。それらの言語技
術を使っていく、人間そのものと切り離して考えてはならない。
 言語生活は、ことばを使う人をも含めた、ことばを使ってするわれわれの生活全体である。だから、ことばを使
ぅことによって、ことばの技術を身につけるとともに、好ましい社会関係を作る。話の相手を理解する。自己を深
め広げる。社会生活を改善し適応する。思想を深める。そのような内面的な精神生活が高められなければならない。
そこのところを「向上」として考えていかなければならない。                          82
 こう考えてくると、学習指導要領にいう「言語生活の向上」も、人間の内面的な生活と結びついた言語技術、人
間と技術が真実に結びついた言語生活、それの向上を目ざしていると解釈すべきであると思う。

 (4) 言語活動の目標

 聞く、話す、読む、書く言語活動の目標は、第二条、第三条に示されている。
 第二条には、聞くこと、読むことの学習の目標として、正しく話を聞き、正しく文章を読む態度や技能を養うこ
とが述べられている。第三条には、話すこと、書くことの学習の目標として、正しくわかりやすく話をし、文章に
書く態度や技能を養うことがあげてある。
 ここで、たいせつなことは、聞く、話す、読む、書く活動の目的が明確に示されていることである。われわれは
つねに、目的を持った言語活動をしている。何のために聞くのか、何のために読むのか、何のために書くのか、そ
れぞれ広い意味の生活上の目的を持って言語活動を営んでいる。
 第二条を見ると、話を聞き、文章を読む目的として、(1) 経験を広めるため、(2) 知識を求めるため、(3) 情報
を求めるため、(4) 楽しみを得るための四つの目的があげてある。
 これらの言語活動の目的は、何によって決められるのであろうか。それは、ことばの機能である。ことばの社会
的機能(伝達機能)、文化的機能(叙述機能)、精神的機能(表現機能)に即した目的である。
 経験を広めたり、楽しみを得たりするのは主として精神的機能に即する目的であり、知識を求めるのは、主とし
て文化的機能に即する目的であり、情報を求めるのは、主として社会的機能に即する目的である。          83
 これらの目的は、その求める人の側に立って考えれば、生存上、生活上の目的つまり生活的な目的と考えること
ができる。また使われることばの側から見れば、ことばの機能に即する目的であるから機能的な目的と呼ぶことが
できる。さらに、これを、その目的の内容(内実)つまり学習者の身につくものの側に立って考えれば、それは精
神的、内両的な価値であるから、価値的な目的と呼ぶこともできる。
 このように、言語活動は、すべて本質的には、ことばの機能に即した目的をもって行なわれる。そのような目的
的活動を処理するのが、ことばの技能や態度である。
 ところが、第三条に示された話すこと、書くことの目的は、「経験したこと、感じたこと、考えたことをまとめ、
また人に伝えるために………」と書かれている。ここには、経験したこと、感じたこと、考えたことなど、話すこ
と、書くことの話題や題材の領域や性格が示されていて、ことばの機能に即する目的が具体的に示されていない。
ただ、「まとめるため、人に伝えるため」と、漠然とした機能的な目的が示されているにすぎない。この点第二条
とは性格が違っていて、不統一である。
 これも、第二条と同様に、何のために話すのか、何のために書くのかを明確に示すべきである。次にその例をあ
げてみよう。
 (1) 知識や情報を伝えるために話したり、書いたりする。
 (2) 社会生活に適応したり社会生活を改善したりするために話したり書いたりする。
 (3) 他人に訴えるため、他人を自分の意志に従わせるために話したり書いたりする。
 (4) 考えを深めたり、個性を伸ばしたりするために話したり書いたりする。
 ほんの一例であるが、このように、話す、書く目的を、ことばの機能に即して、明確にとらえておかなければな
らない。目的を持った言語活動をするということは、機能的国語教育の本質的な考え方であって、それは学習の方   84
法をも規定するものである。

 (5) ことばの学習目標

 第四条には、いわゆることばに関する事項(言語要素)の学習の目標として、「国語に対する関心や自覚をもつ
ようにする。」ことが示されている。
 ことばに聞する事項の学習は、聞き、話し、読み、書く能力をいっそう確実にするために行なわれる。言い換え
れば、聞き、話し、読み、書く言語活動が確実に処理できるように、ことばに聞する事項を確実に身につけるため
に行なわれる。そのためには、国語に対する単なる知識を与えてもだめである。実際にことばが働いている中で、
つまり、聞く、話す、読む、書く言語活動を通して、ことばの機能に気づかせ、それを働きとして身につけなけれ
ばならない。
 発音を正確にし、イントネーションを正しくするのは、聞き手に、話の意図を正確確実に聞き取ってもらうため
である。ことばを豊かにするのは、単にことばが豊富に習得されればよいのではない。それによって、文章表現を
正確にし、文章理解を正確にするためである。文章の構造を知るのは、文章の表現、理解を確実にするためである。
しかもそれは、単に知識として与えるべきものではない。言語活動を通して、機能的に習得すべきものである。こ
のような学習を通すことによって、児童・生徒は
 (1) 正しく美しいことばを使おうと努力する。
 (2) 正しく適切なことばづかいをしようとする。
 (3) 正しい発音で話そうとする。                                      85
 (4) 文字を美しく、正しく書こうとする。
 (5) 聞き手によくわかるように話し、読み手によくわかるような文章を書こうとする。
 (6) 自分たちのことばを大事にしようと努力する。
 (7) 聞き違い、話し誤りのないように心がける。
 こうして、ことばに対する関心が深まり、自覚が高まっていくのである。それは国語愛護へ通ずる道である。


      
三 内容の機能的な考え方

    
(一) 国語教育の内容の移り変わり

 1 国語科の内容の歴史表

 国語科の内容を 1 内容の区分、2 具体的な内容、3 話題・題材の三つの要素に分けて、その歴史的変化
の跡をたどって見ると次の表のようになる。
                                                      86-89

                                                      -89
 2 国語科の内容の移り変わり

 前の表にもとづいて、国語科の内容の変遷のあとをたどってみる。

 (1) 内容区分からみた移り変わり

 国語科の内容を、どのように区分的にとらえてきたかという点からみると次のようになる。国語科の内容を、
 ア 綴字、単語、会話、読本というように要素的、語学的にとらえた時代。
 イ 読書、習字というように、総合的、経験的にとらえ、さらにそれを、読書、作文、習字と三区分して、展開   90
  した時代。
 ウ 読み方、綴り方、書き方というように、「方」(技術)としてとらえ、それをさらに、読み方、綴り方、書
  き方、話し方(聞き方を含む)と四区分として展開し、領域を広げた時代。
 エ 聞くこと、話すこと、読むこと、書くことというように、「こと」(経験、活動)としてとらえた時代。
 オ 「こと」としてとらえた内容を、さらに、技能、態度(指導事項)、言語活動の形態(文章の形態)、発音、
  文字、語い、文法(ことばに闘する事項)の三要素に分析してとらえた時代。
 というように、歴史的に展開発展している。これを、それらの背後にある内容の考えについてみると、次のよう
になる。
 前に述べたアは、語学的にとらえる。(綴字、単語のように)イは、活動的にとらえる。(読書、作文というよ
うに)ウは、技術的にとらえる。(読ミ方のように)エ、オは、経験的にとらえる。(読むことのように)

 (2) 言語からみた移り変わり

 国語科の内容を、その区分のしかたから領域的にみていくとともに、内容として扱う言語の点からみていくと、
次のような変遷のあとがわかる。
 ア 文字、単語、文章の読み書きを内容とした時代。
 イ 普通の言語、日常須知の文字、文句、文章を内容とした時代
 ウ 普通の言語、日常須知の文字、文章を内容とした時代。
 エ 言語、文字、文章を「国語」として統一し、純正な国語を内容とした時代
 オ 言語、文字、文章を言語経験の中に含めて、言語経験そのものを内容とした時代。              91
 この歴史の底に流れている考え方は、
 ア 言語を語学的、論理的、啓蒙的に扱った。(文字の読み書き中心)
 イ 言語を価値的に考えて、普通の、日常須知のという規定をした。(標準語の普及、生活的言語の学習中心)
 ウ 言語を、国家的、国民的、言語文化的立揚に立って考えた時代(国民精神の学習中心)
 これまでは、言語、文字、文章(言語文化)を教えることが中心であった。言語を教えてから読む、書くという
考え方があった。
 エ 言語を経験的にとらえた。(言語を経験することが中心)
   言語を経験する、つまり、言語は言語経験に従属する。だから言語は言語経験によって養われるという考
  えから、内容として言語経験をあげるようになった。言語、文字、文章の教育から、言語経験の学習へと発
  展した。

 (3) 題材からみた移り変わり

 国語科で扱われる題材について、内容の変遷をみると次のようになる。
 ア 啓蒙的実用的な内容を取りあげた時代
  手習草紙、童蒙必読単語編、地方往来、学間のすすめなど、当時の実用的な啓蒙書が扱われた。
 イ 知識、教養的な内容を取り上げた時代
  学術上の益ある記事、生徒の心意を愉ばしむべき文詞、近易の庶物、口上書、日用書等を取り上げた時代か    92
 ら、次第に修身をはじめ、各教科の基礎的な題材が扱われた。国語読本には、修身教材、地理教材、歴史教材、
 理科教材、文学教材などが載せられ、各方面の基礎的な知識を取り上げ、教養を高めようとした。
 ウ 国家主義的な内容を取り上げた時代
   国民精神の涵養が強調され、国体の精華、皇国の使命、忠君愛国など皇国民錬成に役だつ内容が指導された。
 エ 民主的な内容を取り上げた時代
   民主的な人間形成に役だつような題材が広く取り上げられた。小学校学習指導要領国語に示された、話題題
  材選定の十か条を参照されたい。

    
(二) 国語科の内容

 国語科の内容がどう変わってきたかは、その歴史的展望の項で詳しくみてきた。
 戦前は、一般に国語教育の内容は、言語や文字や文章であると考えられていた。しかし、教育現場では、言語や
文字、文章の読み書きなど形式面が強調された時代もあった。また言語や文章の内容面、つまりことばの意味や文
化が強調された時代もあった。また、形式、内容の両面を統一して、いわゆる新内容主義を打ち立てた時代もあっ
た。いずれにしても、文字、言語、言語文化が国語教育の内容と考えながら戦争は終わった。
 戦争が終わると、アメリカの示唆などもあって、内容の考え方が一変した。文字、言語、言語文化を学習させて、
表現力、理解力を高め、国民精神を養おうとした国語教育から「児童、生徒に対して、聞くこと、話すこと、読む
こと、綴ることによって、あらゆる環境におけることばの使い方に熟達させるような経験を与え、社会生活を円滑   93
にし、向上させようとする」国語教育へと転換した。
 そこで、国語科の内容は、あらゆる環境におけることばの使い方に熟達させるための言語経験であると考えるよ
うになった。
 この考え方は、それ以来引き続き現在に及んでいる。では、国語科の内容として選ばれた言語経験には、どんな
ものがあるか、具体的に考えてみる。

 (1) 単位説

 輿水実先生は、「国語のコース・オブ・スタディ(昭和二三・六月刊非風閣)」の中で、国語科の内容区分として、
単位説を出され、小、中学校の国語科の学習内容として、次の二十単位をあげておられる。
 一 読み方(文学をふくむ)五単位、その内訳は、 1 音読(朗読をふくむ) 2 黙読  3 辞書使用 4
  読書法 5 図書館利用法(図書選択) 
 二 話し方(聞き方をふくむ)五単位、その内訳は 6 聞き方 7 対話 8 討議 9 独話 10 劇
 三 作文四単位、その内訳は、11 記録(日記)12 手紙 13 創作 14  新聞編集 
 四 書き方(習字を含む)三単位、その内訳は、15 表記 16 硬筆(鉛筆、ペン )17 毛筆(鑑賞をふくむ)
 五 文法三単位、その内訳は、18 話しことばの文法 19 口語文法 20 文語法
 これによって、小中学校で学習すべき内容は何であるかが、明確に示されている。それにもかかわらず、教育現
場では、これを受け入れるだけの準備ができていなかったたために、これ以上発展させ得なかった。

 (2) 昭和二十六年度学習指導要領国語科編に示された内容                         94-95

    〔昭和二十六年小・中・高校学習指要領国語に示された内容としての言語経験一覧表〕

   小  学  校  中  学  校  高  等  学  校









 
1 他人の話を聞く
2 講演や説明や報告を聞く
3 機械を通して話を聞く
4 劇を見たり、朗読を聞いたりする 
1 人の話に耳を傾ける
2 報告や説明を聞く
3 講演を聞く
4 ラジオを聞く
5 電話を聞く
6 劇を鑑賞する
7 映画を鑑賞する
8 レコード(詩の朗読など)を
 鑑賞する
1 人の話に耳を傾ける
2 報告や説明を聞く
3 講義や講演を聞く
4 ラジオを聞く
5 電話を聞く
6 劇を鑑賞する
7 映画を鑑賞する
8 レコード(たとえ ば詩の
 朗読など)を鑑賞する

5 会話をする
6 話合い討論をする
7 会議に参加する
8 報告をしたり、説明したりする
9 詩を朗読したり、物語を話した
 りする
10 劇をする
11 機械を使って話をする
9  あいさつや紹介をする
10 会話をする
11 話合いをする
12 会議に参加する
13 報告や発表をする
14 詩を朗読したり、物語
 を話したりする
15 放送をする
16 劇をする
9  あいさつや紹介をする
10 会話をする
11 話合いをする
12 討論会をする
13 正式の会議に参加する
14 会議を司会する
15 報告や発表をする
16 詩を朗読する
17 放送をする
18 劇をする




12 新聞、雑誌、掲示・ポスターな
 どを読む
13 知識や情報をうるために本を読
  む
14 楽しむために本を読む
15 図書館を利用する
16 辞書や参考書を使う 
17 新聞を読む
18 雑誌を読む
19 知識をうるために本を読む
20 娯楽のために本を読む
21 掲示や広告を読む
22 手紙を読む
23 書類を読む
24 図書館を利用する
25 辞書を使う
26 参考書を使う 
19 新聞を読む
20 雑誌む読む
21 知識を得るために本を読む
22 娯楽のために本を読む
23 掲示や広告を読む
24 手紙を読む
25 書類を読む
26 図書館を利用する
27 辞書を使う
28 参考書を使う
29 日記や心覚えを書く




17 通信文を書く
18 日記、記録、報告書を書く
19 掲示、広告、ポスターを書く
20 創作をする
21 編集をする 
27 日記や心覚えを書く
28 創作をする
29 社交的な手紙書く
30 実用的な手紙を書く
31 掲示やポスターを書く
32 届書やその他の書類を書く
33 文集を編集する
34 新聞を編集する
35 会議の記録を作る
36 書物を読んで要点を抜書きす
  

30 創作をする
31 社交的な手紙を書く
32 実用的な手紙を書く
33 掲示やポスターを書く
34 届書やその他の書類を書く
35 文集を編集する
36 新聞を編集する
37 会議の記録を取る
38 講義を聞いて要点を筆記する
39 書物を読んで要点を抜き書きする

 これらの経験を与えて、ことばの使い方に執達させる。つまり、これらの経験を処理する能力をつけることが考   96
えられていた。その能力については、小学校学習指導要領では、いわゆる「能力表」として、これらの経験とは切
り離されて別に示されていた。

 (3) 昭和三十三年学習指導要領国語に示された内容

〔昭和三十三年度小・中・高校学習指導要煩国語に示された内容としての言語経験一覧表〕

   小学校 中学校    高等学校 









1  会話、あいさつをする
2 話合い会議に参加する
3 説明、発表、報告をする
4 朗読をしたり、物語童話を話し
 たりする
 (放送を開く、電話やマイクを使
 って話す、校内放送をする、劇を
 する)
1  話合い、会議などに参加する
2  会議、討議に参加して、進行司
 会などを勤める
3  発表や報告や説明をしたり聞い
 たりする
4  朗読をしたり聞いたりする
 (劇、校内放送、放送、録音機
 または電話などを利用した学習)
1  会議、討議などに参加する
2  司会をする
3  報告をしたり聞いたりする
4  主張、説明、論証などをしたり
 聞いたりする
 (応接、面接、談話、講演などの
 機会や劇、校内放送、放送録音機
 などを利用する。対話、問答、会
 話、討論などの機会を利用する) 
 




5 日記、記録、報告を読む
6 手紙、感想を読む
7 説明、解説、報道を読む
8 童話、説話、物語、伝記、詩、
 脚本を読む 
 
5  記録、報告などを読む
6  説明、論説、評論などを読む
7  詩歌、随筆、物語、伝記小説、
 脚本などを読む
(掲示、広告新聞雑誌などを利用
 する
 
5  記録、報告などを読む
6  説明、論説、評論などを読む
7  詩歌、随筆、小説、戯曲など
 を読む
 




9   日常生活に取材した文章を書く
10 記録、報告を書く
11 手紙を書く
12 感想、意見を書く
13 抜き書きをしたり要約したりす
 る
 (詩などを省く、物語などを脚本
 に書きかえる。学級の新聞や文集
 を作る)
 
8   手紙を書く
9  経験したこと、感じたこと、考
 えたことなどを書く
10 説明や報哲を書く
11 感想、感動、意見などを書く
12 記録する
 文集、新聞(学校新聞を読む)ノ
 ート、掲示、学級日記などを利用
 する
 
8  通信、記録などを書く
9  説明、報告などを書く
10 論説などを書く
11 感想、感動などを文章に書き
 表わす
  

 備考( )内の言語経験は、小学校では、望ましい事項としてあげられたもの、中学校高等学校では、指導上の   -97
   留意事項としてあげられたものである。昭和二十六年度の指導要領にあげられた内容よりも、いっそう精選
   されていることがわかる。

 昭和二十六年の指導要領では、内容として、言語経験がそのまま示されていた。この指導要領では、内容をA(1)
指導事項(態度技能)(2)活動の形態(言語経験の形態、文章の形態)Bことばに関する事項(発音、文字、語い、
文、文章、かなづかい、送りがな、くぎり符号等)の三つに分けて示してある。これは、言語経験を、(1) その形
態、(2) それを処理する技能、態度、(3) それを支持する言語要素の三要素に分析したものである。昭和二十六年
度指導要領では、言語経験と言語能力が切り離されて別々に示されたため、その言語経験によって身につく能力が
不明確であった。この指導要領では、技能、態度が、それを必要とする経験と関連させて出してある。そこに進歩
がある。
 そこで、特に注意することは、この三つの要素をばらばらに読み取らないで、いつも三者を関連させて、総合的
に読む。一つの言語経験の要素としてまとめて読み取ることである。それから、態度、技能を目標としてではなく、  98
内容として明確に位置づけていること、言い換えれば技能、態度は活動によって身につくものとされている点をは
っきりと認識しなければならない。

   
(三) 言語経験

    1 言語経験の本質

 言語経験が国語科の内容として考えられるようになったのは、戦後のことである。それは、文字、語句、文章を
学習させて、表現力理解力を高め、国民精神を涵養しょうとした国語教育から、児童、生徒に対して、聞くこと、
話すこと、読むこと、書くことによって、あらゆる環境におけることばの使い方に熟達させるような経験を与え、
社会生活を円滑にし、向上させようとする国語教育への百八十度の転回であった。こうして、戦後ずっと国語科の
内容は、あらゆる環境におけることばの使い方に熟達させるための言語経験であると考えられるようになった。と
ころで、言語経験とは何であろうか。

 (1) 言語経験とは何か

 ことばを聞く、話す、読む、書く活動、ことばを使って行なう活動そのものを一般的に言語活動と呼ぶ。したが
って、言語活動には特別な内容も、形体もない、聞く活動、読む活動、話す活動、書く活動そのものが言語活動で
ある。                                                   99
 この言語活動には、聞く、読む理解活動と話す、書く表現活動とがある。また、この活動に使うことばによって、
話しことばを使う言語活動と、書きことばを使う言語活動とに分けることもできる。
 この言語活動を、主体の行なう活動としてとらえる場合、それを言語行為と呼んでいる。
 言語経験は、そのような言語活動の具体的なものに名づけたものである。つまり、主体の行為として、ことばを
経験する場合、その経験の形態的な側面に名づけた呼び名である。
 たとえば、図書館へ行って小説を読む。それによってことばを経験する。それが、小説を読むという言語経験で
ある。読書会で、参考書を読んで調べたことを発表する。これは、参考書を読むという言語経験と、研究を発表す
るという言語経験が複合している言語経験である。
 このように、言語経験には、一つの言語活動によって成り立っているものと、いくつかの言語活動が統合されて
成立している言語経験とがある。そこで、このような言語経験を、話合いをする、研究発表をする、詩を読む、手
紙を書くというように要素的にとらえて、体系的に示したのが言語経験表である。それを発達的にとらえ、段階的
に示したのが、言語経験の発達段階表である。
 児童が、何かについて調べるために、図書舘へ行って参考書を読む経験は、「参考書を読む」という一つの経験
であるが、その本を読みながら、要点を書き取ったり、抜粋したりすると、そこに「抜粋をする」「要点を書き抜
く」という書く経験が結びついてくる。さらに読み取ったものを、他の児童に、書き取った要点や抜粋を見ながら
説明するとなると、「説明する」という話す聞く経験が加わって、いよいよ複雑な経験となっていく。
 このように言語経験が総合され、しかも、それが一つの話題を中心にして有機的に統合され、「ある話題につい
て、参考書を読んで調べたり、調べたことを脱明し合う」という読んだり、話したりする言語経験が行なわれる。   100
この一まとまりの学習が単元である。

 (2) 言語経験の機構

 では、そのような言語経験は、どんな機構をもっているか考えてみよう。
 言語経験は、(1) 何かについて、聞いたり話したり、書いたりする。何かを中心にして、ことばを経験する。そ
こで、その何かがないと言語経験は成立しない。その「何か」が「話題・題材」である。(2) 話題・題材について、
どのような形態で聞く、話す経験をするか。どのような形態の文章を読む、書く経験をするか。それが言語経験の
「形態(言語活動の形態)」である。だから言語経験は、つねに何らかの形態をもって行なわれる。(3) ある形態
をもった言語経験をする場合に、その経験を内面からささえる、経験に応じた発音、文字、語い、文法等がなけれ
ば、その言語経験は成立しない。だから、言語経験は、つねに、発音、文字、語い、文法等の言語要素によって、
内面的にささえられている。(4) そのような言語経験は、その経験を処理するのに必要な技能や態度がなければ行
なわれない。だから、言語経験を処理するのに必要な聞く、話す、読む、書く技能、態度、習慣等の言語能力が必
要になる。
 そこで、言語経験は、(1) 話題・題材、(2) 経験の形態(文章の形態)(3) 言語能力 (4) 言語要素の四つの要
素が有機的に結合して一体となったものと考えることができる。

 (3) 言語経験の機能的な見方

 ア 言語経験は目的を持つ                                         101
 われわれが、話合いをする、ニュースを聞く、新聞を読む、手紙を書くというような言語経験をする場合には、
いつも、間題を解決する、いい考えを生み出す、情報を求める、近況を報じて安否をたずねる、というような目的
をもって行なうのが普通である。このことは、児童たちが、教室で話合いをしたり、学級新聞を作ったり読んだり、
手紙を書いたりする場合でも全く同じである。
 このように、言語経験は、主体の目的的行為であると考えられる。
 イ 言語経験は価値を獲得し、生産する。
 言語経験は、主体の目的的行為であるから、つねに目的の実現、達成を目ざして行なわれる。たとえば、文章を
読むという経験によって、知識を得たり、物の見方や感じ方、考え方を育てたり、思考力を高めたり、心情を豊か
にしたりする。話合いをするという経験によって、何かの問題を解決したり、考えを深めたりする。意見を述べる
という経験によって、話題に対する知識、理解を深めたり正確にしたり、自己の欲求を満たしたりする。
 このように、われわれは言語経験によって自己を開発し、伸長発展させ、人格を形成している。つまり、言語経
験によって、人間性に培う価値を獲得し、生産している。
 ウ 言語経験によって言語能力を伸ばす
 言語経験はことばを経験する。ことばを使ってする経験であるから、その経験を実現し、処理するためには、こ
とばを使う技能や態度に頼らなければならない。ことばを使う能力がこれに参与しなければ経験は処理できない。
たとえば、手紙を書いて近況を報ずるためには、手紙を書く技能や態度ができていなければ、この経験を満足に処
理できない。
 このような言語経験をくり返すことによってその経験を処理するのに必要な言語能力の獲得を考えなければなら   102
ない。また必要な言語能力を身につけるには、その言語能力を必要とする言語経験によらなければならない。そこ
で、言語経験によって言語能力を伸ばすことが考えられるのである。
 エ 言語経験は言語要素を身につける
 手紙を書くという言語経験をするには、手紙の文字が書けなければならない。手紙に使う語句を知らなければな
らない。語句を組み立てて手紙の文にする文法の力がなければならない。このように言語経験は、発音、文字、語
い、文法のささえがないと成立しないことは、すでに述べたとおりである。したがって経験を離れ、活動を離れて
言語要素を身につけようとする。たとえば、辞書の中の語句を暗記する。辞書の中の漢字を読み書きする。ことば
を離れて発音の練習をする。いわゆる文法を暗記するというようなやり方では、生きたことばは身につかない。こ
とばや文字の用法は身につかない。
 したがって、言語要素は、それを必要とする生きた言語経験の中で、効果的に身につくものである。
 オ 言語経験は思考、感情、創造等の精神活動を盛んにする。
 言語経験は、何かについて、聞く、証す、読む、書く言語活動をするのであるから、つねにことばによる思考活
動が行なわれ、それを契機として、すでに述べたように感情移入や生産的想像が行なわれる。
 言語経験を処理するたびに、思考、感情、想像等の精神活動がかっばつに行なわれて、その力を伸ばしていく。

 (4) 言語経験の機能

 どんな言語経験は、主としてどんな機能を持っているか、機能別に言語経験を分類すると次のようになる。
                                                      103-105

 機  能   言  語  経  験
 聞くこと、話すこと  読むこと  書くこと
 社交的な機能(社会
 生活を円滑にする機
 能)
・あいさつをする
・会話をする

 社交的な手紙を読む
 社交的な手紙を書く
 
 集団思考の機能(問
 題を解決したり、考
 えや意見を深めたり
 する機能)
 
・話合いをする
・会議を開く
・討議をする
・討論をする
   
 伝達の機能(社会生
 活を円滑にする機
 能)
・説明をする
・発表をする
・報告をする
・伝達をする
・伝言をする
・指示をする
・電話をかける
  ・掲示をする
・通知を書く
・報告を書く
・実用的な手紙を書く
・かべ新聞を作る
・学級新聞を作る
・学校新聞を作る 
 大衆伝達の機能(大
 衆に周知する。大衆
 を説得する。反応さ
 せる。行動させる等
 の機能)
・演説をする
・宣伝広告する
・校内放送をする
・マイクを使って
 話す
  ・掲示を書く
・宣伝文、広告文を書く
・ポスターを書く
 自己表現の機能(自己
 を深めたり、高めたり
 する機能、感動を訴え
 る機能)
 
・感想や意見や主
 張を話す
・朗読をする

  ・感想、意見を書く
・経験したことを書く
・感動したことを書く
・詩を作る
・訴えたいことを書く
・論説を書く
・創作をする 
 研究や生活を進める
 機能(記録)
  ・参考書を読む
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・見学、研究、観察、飼育、栽
 培、読書等の記録を書く
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・研究記録を書く
・読書記録を書く
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 能

・説明や解説を聞く
・講演を聞く
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・随筆を読む
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・記録を読む
 
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・ラジオのニュー
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 経験を広め、心情
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・童話、物語を聞く
・劇を見る
・放送を聞く
 
・詩歌、説話、物語、小説、
 伝記、脚本、随筆等を読む
・雑誌を読む。
・図書館を利用する

 

                                                      -105
    2 言語経験と話題・題材

 (1) 話題・題材の本質
 ア 話題・題材とは何か
 「何か」について、知識を広げ、理解を深めるために、それを中心にして聞いたり、話したり、読んだり、書い
たりすることがある。この「何か」が話題・題材である。
 学習指導要領では、聞く、話す言語活動の対象となるものを話題と呼び、読む、書く場合の対象となるものを題
材と呼んで区別している。しかし、話題と題材との問には、本質的な区別はなにもない、ただ、これまでの用例に
従って、話しことばを経験する場合の対象を話題、書きことばを経験する場合の対象を題材と言って区別している   106
にすぎない。そこで、この二つを統一して、輿水先生は主題と呼んでいる。もちろん、それは単に用語としてだけ
の問題でなく、その考え方につながる問題である。
 イ 話題・題材は言語経験を誘発する。
 話題・題材に対する知識を得ようとし、理解を深めようとする。あるいは、考えを深めたり、味わったりしよう
とする。あるいは、話題・題材について、伝えたり、訴えたりしようとする。そのように、話題・題材に対する内
面的な興味、必要、欲求が引き出されると、そこに現実の生きた言語経験が営まれる。
 話題・題材は、言語主体を刺激して言語経験を誘発するもの、児童・生徒に密着した、生きた経験、真実の経験
の契機となるものでなければならない。
 ウ 話題・題材は、言語経験の中核となる。
 話題・題材は、話や文章の中に取り上げられる個々の素材そのものではない。たとえば、文章や会話の中に出て
くる素材――山に登った。そこには、原始林そのままの姿で大木がおい繁っていた。そのしじまを縫って、名もし
らぬ小鳥が、静かに枝から枝へ移っていた。――という文章の、原始林や、小鳥。また、「きのう、河へ泳ぎに行
った。」「ぼくは、一日中裏の雑木林で遊んだ。」という会話の、海、雑木林などは、ここでいう話題・題材では
ない。
 話題・題材は、言語経験の中核として、一貫して話され、書かれ、読まれるものである。言語経験の主題である。
その話なり、文章なりに一貫して取り上げられ、話され、読まれ、書かれるものである。
 エ 話題・題材は、その中に価値を含んでいる。――人間性に培うものを持っている。
 言語経験の中核となるものであれば、どんな話題・題材でもよいのではない。児童・生徒たちが、学習するに足
る価値をその中に含んでいなければならない。                                 107
 その話題・題材を中心として、言語経験を営むことによって、児童の知識が豊かになり、理解が深まり、心情が
豊かになり、あるいは、社会の生き方、人生の考え方などが身につくものでなければならない。つまり、話題・題
材の中に人間性に培うものが含まれている。人間形成の契機が含まれている。
 たとえば、ここに「野生のさる」という文章がある。筆者は、この文章によって野生のさるの生活やその社会生
活について知らせようとしている。この「野生のさる」が題材である。この説明的な文章を読むことによって、野
生のさるに対する知識が得られる。あるいは理解が深められる。その結果、野生のさるに対する親しみを感じ、自
然の神秘に打たれる。野生のさるに対する知識、理解、野生のさるに対して感じられた親しみ、愛情、野生のさる
を通して引き起された生物への関心、興味、それが、「野生のさる」に含まれる価値である。
 このような、話題・題材に含まれる実質的な内容価値を、聞く、話す、読む、書く等の言語活動によって追求し、
獲得し、生産するところに国語学習が成立するのである。
 オ 話題・題材は言語文化を含んでいる。
 話題・題材は、それを中核として言語活動を営むことによって、言語文化が麿かれ、創造され、伸長されるもの
でなければならない。話題・題材を中核とした言語活動によって新しいことばが習得され、ことばの機能が磨かれ、
価値ある言語が身につくものでなければならない。方言、訛語を乗り越えて、開放された言語、共通語、標準語が
学習されるもの、日本民族の思想、感動のこめられた言語が学習されるもの、新しい思想、感動を生み科学を生む
若々し日本語が学習されるもの、そして、過去の言語文化を継承するとともに、新しい言語文化を創造し、生産す
る契機となる話題・題材でなければならない。ここに国語学習の本質がこめられている。

 (2) 話題・題材の選択                                          108

 ア 話題・題材選択の条件
 話題・題材は、言語経験の中核となるものであり、人間形成に直接つながるものであり、言語文化の獲得、生産
に結びついているものであるから、どんな詰題・題材を選ぶかは、だいじな問題である。
 この話題・題材の選択に当たって考えられる条件には、次のようなものがある。
 (ア) 児童・生徒の関心、興味をもつものであること。
 (イ) 児童・生徒の生活上の必要や欲求に応ずるものであること。
 (ウ) 児童・生徒の能力の発達に応ずるものであること。
 (エ) それを中心として、かっばつないろいろな言語活動の契機となるものであること。
 (オ) 言語文化を含んでいるものであること。
 (カ) 人間性に培う価値が内在しているものであること。
 (キ ) 言語能力が高められるものであること。
 これらの諸条件に合ったものが、教育的価値のある話題・題材である。これらの条件は、言い換えれば
 (ア) 児童・生徒に働きかける(刺激する)話題・題材であること。
 (イ) 言語活動を誘発する話題・題材であること
 (ウ) 児童・生徒に価値を与える話題・題材であること。
というような働きを持った話題・題材――機能的な話題・題材を選ぶということになる。
 イ 話題・題材選定の視点                                         109
 そこで、すでに述べたような話題・題材選定の条件をふまえ、どんな価値を含んだものを選んだらよいか、具体
的に考えてみよう。
 いうまでもなく、教育的人間像を実現するのに必要な価値を含んだ機能的な話題・題材を国語科の立場から選ぶ
ことになる。従来具体的にどのようなものが選ばれてきたかについては、内容の歴史的変遷の項で、その概略を述
べた。ここでは、学習指導要領に示されたものについてそのあとをたどってみることにする。
 昭和二十二年度の学習指導要領国語科編には、次のように記述されている。(同書七〇ページ)
 児童の読書材料は、児童の興味をそそるものであり、それを読むことにょって、おのずからよい人間生活を営む
 ことができるものでありたい。次に読みかた材料をいくつか拾いあげてみよう。
  (一) 運動、競技に関するもの。(ニ) 児童のための有名な文学作品。(三) 児重を楽しませ、情感を豊かに
  するような神話、伝説。(四) 美術、建築、音楽に関するもの。(五) 文化の創造に寄与した人々の伝記およ
  びその話。(六) 宇宙の神秘、自然の法則、生物の生態など自然科学の原理に関するもの。(七)  生活環境
  を科学的に親祭したもの。(八) 協同奉仕の精神を示したもの。(九) 人類愛、国際平和、国際協調などの精
  神を啓発するもの。(十) 国語に関するもの。1 国語のはたらき、2 国語愛、3 言語の本質、4 日本
  語の成立、5 外来語、6 言語生活、(十一) 自由、平等、博愛、平和、正義、寛容の思想の理解と発達を
  助けるもの。(十二) 真、善、美に対する理解を与えるもの。(十三) 信仰心を養い、ぎせい、責任の精神生
  活を表わした物語。(十四)児童の体験記
 この観点は、読書材料を選ぶ場合のものであるが、読書を通して、どのような人間の形成を志向していたかがわ
かる。
 昭和二十六年改訂版小学校学習指導要領国語科編(三八ページ)には、「国語学習の話題にはどんなものがある   110
か。」の項に、次のようにしるされている。
  国語学習における話題や問題の範囲は広いが、これを児童の日常生活を主にして分けてみると、次のようにな
  ろう。
  l 日常生活のさまざまな断面。2 家庭、学校、社会の行事。3 四季自然のうつりかわり。4 学級、学
  校の環境や、設備。5 公共の建造物や設備。
   また、児童の興味ある活動として分けて見ると、次のようになろう。
  l 動物の生活や生態。2 遠足、旅行。3 ラジオのプログラム。4 映画。5 日々のニュース。6 さ
  まざまなごっこ遊び。7 社会活動(休日、防火、運動場、キャンプなど。)
   昭和二十二年度の「小学校学習指導要領国語科編試案」に掲げた、読むことを主とする学習材料は、この場
  合においても.よい参考になる。(次に、前に掲げた読書材料がそのまま掲載されている。)
 ここには、昭和二十二年度の学習指導要領にあげた読書材料以外に、児童の日常生活的な話題、児童の興味ある
活動的な話題がつけ加えられている。
 なお、昭和二十六年の中学校、高等学校学習指導要領国語科編の付表に、「資料としての図書一覧表」がつけて
ある。これらの図書資料の内容も参考にすることができる。
 昭和三十三年の小学校学習指導要領には、特に話題・題材選定の観点十ヵ条、があげてあることは、すでに紹介
し、解説したとおりである。中学校の学習指導要領では、話題・題材について、読むこと、書くことの指導上考慮
すべき事項の中に、断片的に書かれている。たとえば、社会や科学について書いた文章、民族や祖先の生活に取材
した文章、人生に対する希望や励ましなどを与える作品、人間の心情や自然の姿を身近に感じさせるような作品、
古典をわかりやすく書きかえた文章、意見や主張を述べた文章、わが国のことばや文学について考えさせる文章。   111
自然や身辺のできごと、学校生活の中のできごと、社会のできごとなどがあげてある。

 (3) 話題・題材に対する関心、興味の発達

 国語教育の中で、どのような話題・題材が取り上げられたかについては、簡単ではあるが、すでに歴史的にみて
きた。ここでは、前に述べた、話題・題材選定の条件や観点を参考にして考えたものを、各学年に配当してみた。
 なお、聞くこと、話すことの話題・題材と話すこと、書くことのための話題・題材との間には、かなりの開きが
ある。
 たとえば、天体のこと、宇宙のこと、自然の神秘などについては、四、五年生では、聞くこと、読むことの話題
・題材として、児童の扱った頻度はきわめて高いが、書くことの中ではあまり取り上げていない。日本の歴史、地
理などに闘する話題・題材も同じである。植物に聞するものについても同様である。また、祭りなどのように、書
くことの話題・題材には、しばしば取り上げられているが、読むことの題材としては、興味の低いものもある。こ
れは当然のことであって、聞くこと、読むことの話題・題材は、それについて知りたい、理解したいという欲求か
ら選ばれる。ところが、書くこと、話すことの話題・題材は、それについて、すでに知っている。わかっているも
の、経験したものなどに限られるからである。話題調査をすると、読みたいこと、聞きたいことの中に、高学年で
は生命、神様、人体、人間の発生、人工衛星、電波、天気予報、月世界などが、しきりに出てくるが、作文の中に
は、ほとんど出てくることはない。
 次の表は、小学校学習指導要領の展開、国語科編(明治図書出版株式会社刊)に載せたものを、その後の調査研
究にもとづいて訂正増補したものである。                                   112-114
    〔話題・主題の発達段階〕

 領域\学年 1  2   3  4 5  6 
話題発達
上の特色

@動くものA生きているものB身近かなものC行動的なものD空想的なものE想像的なものFくり返されるもの  @身近かなものA行動的なものB空想的なものC社会行事的なものD情緒的なものE親切にしあうもの  @活動的なものA集団的なものB対比的なものCユーモアのあるものD好奇心をそそるもの  @明朗なものA冒険的なものB英雄的なものC自然的なものD積極的なものE集団的なものF科学的なもの  @感動的なものA利学的なものB実際的なものC生活的なものD集団生活的なものE伝記的なものF正義的なものG自然的なもの  @思索的なものA論理的なものB科学的なものC美的なものD神秘的なものE倫理的なものF社会的なものG世界的なものH抽象的なもの 
学校生活
 先生、遠足、入学式、運動会、教室、図画 遊戯、学習、給食、運動会、新入生、遠足、教室、夏休み  学級会、当番、学級委員、学芸会、学習、学級文庫、夏休み、冬休み、プール、見学、学級会、級友、学級の係、朝礼  学級日記、観察、研究、動植物飼育栽培、音楽会、かべ新開、学級文庫、休み、プール、見学、誕生会、宿題、朝礼、学級の係り  ホームルームの間題、クラブ活動、学校図書館、読書、掲示、学級新聞、テスト、宿題、学校の係り、運動、学校放送、級友、争い、朝礼、掃除当番  児童会、クラブ活動、学級の生活、校内放送、学校の問題、卒業、学校・学級の問題、テスト、週番、運動、級友、争い、掲示、朝礼、掃除当番 
家庭生活
おとうさん、おかあさん、犬、ねこ一、うさぎ、おもちゃ、絵本、おやつ、お年玉  食事、ひなまつり、たんごのせっく、雑誌、おじいさん、おばあさん、おやつ、ごちそう、お年玉、お手伝い   家事の手伝い、一家のだんらん、夕食、るすい、漫画、兄弟 母の日、年よりの日、家族、誕生日、読み物、兄弟、父母、家事 家事、家業、家畜の世詰、農繁期、両親、家族、家事の手伝い、墓参、おぼん、家庭的行事、  家庭の生活、弟妹の世話、家庭生活の間題、父の仕事、勤労、家庭的行事、家業 
社会生活
 となりの人、ごっこ遊び、お使い、お正月、ままごと、遊園地、運転手、車掌 近所の人、お祭り、縁日、お正月、年の暮、たなばた、おつかい、遊び、運転手  村や町の人、学級の父母、郵便局、消防署、クリスマス、お祭り、お花見、旅行、公園、友だち、遊び  親類、交際、近所の人との交わり、市場、工場見学、デパート、買物、運動、公園、社会行事、交友  ○○週問、町や村の生活、年末年始、役所、町や村のできごと、野球、祭礼、大売り出し、旅行、親類、社会行事、交友、社会現象  各種の募金運動、○○週間、選挙、職業、町や県の政治、新聞の記事、産業の発達、祭礼、親類、社会行事、年末年始、交友、社会間題 
自然生活
鳥、牛、さる、草花、せみ捕り、かえる、雨、雪、川、雷、ちょう、ねずみ、かめ、動物の生活、水遊び、犬  野菜、猛獣、動物園、自然現象、桜、梅、とんぼとり、お月様、お日様、どんぐり、水遊び、虫捕り  植物、散歩、四季の自然現象、海、海水浴、たんぽぽ、遊園地、山国の生活、水泳、山、川、たねまき  つり、水泳、昆虫採集、海、自然界の神秘、公園、自然現象、たねまき、花だんの手入  天体、植物採集、自然の神秘、国立公園、日本の地理、海と山、昆虫採集、台風、取入れ、地震  登山、旅行、季節の移り変わり、国立公園、風景、日本の地理、台風、取入れ 
文化、科学、
歴史、思想、
世界 
汽車、電車、自動車、絵本、童謡  自動車、トラック、バスの車掌、絵本、童謡、雑誌   飛行機、汽船、舟、ラジオ、テレビ、昔の人の生活、伝説、郷土の歴史、物語、神様、王様、物のおこリ、雑誌、図書、読書、読書記録  探検家、すぐれた人の少年時代、ラジオ、テレビ、放送劇、広告、すぐれた人々、発明発見、世界の子どもの生活、郷士の施設、ことば、雑誌、図書、読書、読書記録 日本の歴史、ラジオ、テレビ、映画、電話、すぐれた事業家、思想家、世界の国々、ことば、文字、雑誌、図書、年鑑、図鑑、探検家、模型作り、読書、読書記録、 日本の歴史、新聞記事、ラジオ、テレビの番組、電話、映画、音楽、芸術家、絵画、世界の風俗・習慣、文化、ことば、雑誌、図書、南極、北極、電気製品、摸型作り、読書、読後感 
主題 
動物の擬人化、力くらべ、たすけ合い、正直、楽しい生活、仲よし   あわれみ、じまん、あわてる、親切、かわいがる、競争、なかのよいもの、空想、楽しい生活、仲よし 思いやり、しあわせ、動物の愛情、勇気、よくばり、すなお、正直、ユーモア、神秘、寓意、助け合う、強弱、善悪、強く生きる   父母の愛情、忍耐、苦心、研究、いつくしみ、約束、親切、勇気、友情、神秘、成功、冒険、同情心  約束、研究、努力、忍耐、友情、信義、協力、スポーツ精神、偉大さ、責任、成功、自然美、正義、勤労、助け合い運動、因果関係   勇気、協同、苦心、忍耐、努力、精進、平和、社会の進歩、人類愛、自然美、意志の強さ、世界の協調、人生の生き方、自尊心、因果関係

   3 言語経験と言語能力                                       -114

 (1) 言語能力の発見                                           115
 国語の能力を、「思想を表彰するの能」と観じた時代から、これを、理会力、表現力に分け、さらに、読解力(読
ミ方)表現するの能(綴リ方)書く力(書キ方)書写の技能、鑑賞するの能力(習字)などに分析した国民学校時
代へと進んだ。
 ところが、戦後まったく新しい立場に立って、新しい言語能力を発見した。それは、国語能力表の中に整理され
て示されている。このことによって、わが国の国語教育は、一大飛躍をとげた。国民学校時代の内容主義の国語教
育から、国語の能力の学習を中心とする技能的な国語教育へと転換した。これは、戦後の国語教育の進歩であり、
国語教育史上一時期を画するものである。この言語能力については、その後、各地で言語能力表作りが行なわれた
り、科学的な調査研究などもあって、しだいに細かく分析されて、その発達段階表なども試みられるにいたった。
そして、能力表から、能力の発達段階表へと進んでいった。

 (2) 言語能力とは何か

 実際にことばを使って、言語活動を処理していく力が言語能力である。この言語能力は、言語活動をささえるこ
とばの種類――話しことば、書きことば――、言語活動の機能――表現、理解――の面から、表現カ――話す力、
書く力、理解力――聞く力、読む力の四つの側面に分けて考えることができる。
 また、言語活動を処理するのに必要な能力を、要素的に分析してみると、聞く力、話す力、読む力、書く力につ
いて、それぞれ、次のように分析することができる。
 (1) 言語活動をささえている言語要素についての知識、理解(2) 言語活動を処理するときの技能 (3) 言語活
動を処理するに当たっての態度、習慣(4)  言語活動を処理するのに必要な知識、理解、技能、態度等を導く理想   116
など、言語能力を、知識、理解、技能、態度、埋想等に分けることもできる。これらの要素が総合されて、言語活
動を処理する能力となる。これを全体的に言語能力と呼んでいる。
これらのうち、言語要素(発音、文字、語い、文法)を駆使する技能を特に基礎能力と呼ぶ人もある。

 (3) 言語能力の機能的考え方

 戦後、国語の能力を、比較的、体系的、発達的にとらえたのは、昭和二十六年度小学校学習指導要領国語科編に
示された「能力表」である。この表は、わが国で初めて作られた価値の高いものではあるが、言語能力と言語経験
とを切り離して孤立的に考えたために、抽象的な言語能力だけをいじりまわす表作りが流行した。言語能力を経験
から切り離してむき出しにし、知識として理解させるような国語教育も行なわれた。あるいはまた、言語能力を経
験の中でとらえなかったから、言語経験をさせながらも、それによって、どんな言語能力が養われるかを考えるこ
とができにくかった。また、機能的な言語能力を含むだいじな言語経験が選びにくかった。
 言語能力は、人間の全体的成長発達の中でとらえ、言語経験の発達の中に位置づけて考えなければならない。つ
ねに、その能力を必要とする言語経験とともにとらえなければならない。ことばを換えていえば、言語能力はつね
に、言語経験に従属しているものである。さらにいえば、言語能力は、言語経験を処理し、遂行する力として、経
験の中に働いているものである。また、すでに述べたように、言語経験は、ことばによって、自他の中に、価値を
生産する活動であった。だから、言語能力は、価値を生産する力として働くものであると考えることができる。
 したがって、児童・生徒の身につけてやる言語能力は、どんなものでもよいのではない。児童・生徒の言語生活
の中の、期本的ないくつかの経験に共通に働いている能力、言語生活の中で、しばしば用いられる能力、そういう   117
能力を選んで学習させることを忘れてはならない。
 要するに、言語能力を孤立的に考えないで、(1) 言語経験を処理する力、(2) 価値を習得し生産する力、(3) 基
本的な言語経験を処理する力というように、機能的に考えることがたいせつでである。

 (4) 言語能力の分析とその発達段階

 ア 国語能力表
 昭和二十六年度の小学校学習指導要領国語科に示された「国語能力表」は、「国語のさまざまな能力を、児童の
発達段階に照して、学年別に一つの表として、組織、配列したものである。(同書四十二ページ)と書かれている。
その通りであるならば、これは、能力の発達段段階表である。ところが、実際に示されたものには、次のような内
容が取り入れられている。
 l 国語の能力が自然に発達することを予想し、学習が可能になるだいたいの力。(学習能力)
 2 学習指導にょって到達され、発達すると予想される力。(到達能力)
 3 現代の社会が要求する学習内容の種類と範囲。(言語経験)
 すなわち、(1) 辞書の引き方がわかる、敬語を適当に使うことができるというような知識、理解、(2) 内容の要
点をじょうずに読み取ることができる。要点をつかんで話すことができるというような技能、(3) ゆっくりと落ち
着いて、注意深く話すことができる。考えながら読む態度が高まってくるというような態度、(4) ひとりで本を読
む習慣ができるというような習慣、(5) 飼育栽培などの長期にわたる記録が書ける。新聞、雑誌などを読む能力が
増してくるというような言語経験などが含まれている。                             118
 しかも、それらが、それぞれの学年で主として指導する能力、それぞれの学年で初歩的、準備的に指導する能力、
それぞれの学年でいっそう助長する能力等に分けてある。これがいわゆる「継続学年」「4−6」というように示
されている。
 これに対して、国語能力の発達段段階は、それぞれの学年(年令)において、特に発達する能力、顕著に現われ
る徴候を、それぞれの学年に位置づけたものである。たとえば、三年に、要点をおさえて読むことができる。五年
に、文章の主題を読み取ることができるとあれば、それらの能力は、一般的にいってそれらの学年においていちじ
るしく伸びると考えられる能力である。このように、言語能力を発達的にとらえ、それをそれぞれの学年に配当し
たものが、発達段階表である。したがって、三年に、要点をおさえて読むことができるとあれば、要点をおさえて
読む技能は、三年のころに特に発達する。つまり、要点をおさえて読むことを学習する準備ができており、それを
効果的に学習する可能性のあることを示しているのである。
 イ 言語能力の発達段階表
 次に基本的な技能、態度とその発達を段階的に示すと次の表のようになる。これは、「小学校学習指導要領の展
開、国語科編」(明治図書)に示した、「基本的な技能、態度の発達段階表」に手を加えたものである。

  一 聞くことの技能・態度の発達段階表                                  119

技能・態度\段階  1 2  3  4  5  6 
1注意を集中し
 て聞く
 
・話し手の方を見
 て聞く
・静かにして聞く

・耳を傾けて聞く
・しんとして聞く
 
・注意を集中して
 聞く
   
2話し手の立場
 を考えながら
 聞く

  ・話し手が言い終
 わるまで聞く
・聞き取れないと
 ころは聞き返す
・話し手が話しや
 すいようにして
 聞く

・率直な態度で聞
 く
・話し手の立場を
 考えながら聞く

3話を聞いて楽
 しむ
・童話などを喜ん
 で聞く

・童話、お話など
 を喜んで聞く

・いろいろな話を
 聞いて楽しむ

・朗読を聞いて楽
 しむ 
・朗読を聞いて楽
 しむ
・朗読を聞いてよ
 しあしがわかる
4ことがらが正
 しく聞き取れ
 る
・短い話が復唱
 できるように聞
 きとれる

・指示の通りに行
 動できるように
 聞きとれる

・伝言などを誤
 りなく伝えるこ
 とができる 

・細かい所に気を
 つけて聞き取れ
 る
   
5筋や大意が聞
 き取れる
・何についての
 話かがわかる
・話の順序を追っ
 て聞くことがで
 きる

・話のくぎりを考
 えながら聞くこ
 とができる

・話を聞いて全体
 をまとめるこ
 とができる

・話をまとめなが
 ら聞くことがで
 きる 
・長い話の大意を
 聞き取ることが
 できる 

6要点や要件が
 間きとれる

    ・話の要点や要件
 が聞き取れる

・話の要点や要件
 を落とさずに聞
 き取れる 
・要点をメモしな
 がら聞くことが
 できる
・要点をおさえて
 話の内容を聞き
 取ることができ
 る
 
7要旨や意図が
 聞きとれる
 
    ・話し手が主張し
 ていること、訴
 えていることが
 聞き取れる
 
・話の要旨や話し
 手の意図が聞き
 とれる

・話し手の立場と
 意図と関係づけ
 ながら聞き取る
 ことができる
8自分の考えと
 比べて判断し
 ながら聞くこ
 とができる
 
      ・事実と意見、実例
 と結論などを 聞き
 わけることができる

・話し手の考えや
 意見と、自分の
 考えや意見とを
 聞き分けること
 ができる
・話し手の考えや
 意見のよしあし
 を判断しながら
 聞くことができ
 る 

   二  話すことの技能・態度の発達段階表                                120-121

技能・態度\段階  1  2  3  4  5  6
1進んで話す
・話の仲間入りを
 する

・恥かしがらずに
 話す
・進んで話す
・話合いなどの進
 行に協力しよう
 とする
・学級会などで意
 見を述べようと
 する
・会議の進行に協
 力的な発言をし
 ようとする
2自然な態度で
 話す
・ゆっくりと話す
・固くならないで
 話そうとする
 
・落ちついてはっ
 きりと話そうと
 する
・自然な態度で話
 そうとする
・自然な態度で話
 そうとする
 
3相手や場を考
 えて話す
・聞き手の方を見
 て話そうとする

・みんなの前で話
 そうとする 
・聞き手にわかる
 ように話そうと
 する
・話していい時と
 悪い時とを考え
 て話そうとする
・聞き手の立場を
 考えて話そうと
 する
・聞き手の反応に
 応じて話そうと
 する
4順序よく話せ
 る
・経験したとおり
 に話せる
 
・時間の経過、場
 面の変化等にし
 たがって順序よ
 く話せる
・ことがらや事件
 などの経過をた
 どって話せる

・話すことを順序
 よくまとめ整え
 て話せる
   
5要点や要件を
 おさえて話せ
 る
・何を言おうとし
 ているかがわか
 るように話せる

・話の大体をおさ
 えて話せる
・要点をまとめて
 話せる

・要点や要件を整
 理して話せる
・要点を箇条的に
 あげて話せる
・時間に応じて要
 点を取捨して話
 せる
6主旨、意図の
 はっきりした
 話し方ができ
 る
    ・考えをまとめて
 話せる
・話の中心をはっ
 きりさせて話せ
 る
・主旨のはっきり
 した話ができる
・意図がはっきり
 わかるように話
 せる
7構想を立てて
 話すことがで
 きる
    ・話にくぎりをつ
 けて話せる
・話の内容を組み
 立てて話せる 
・主旨に応じて話
 を組み立てて話
 せる
・時間に応じて内
 容を取捨し、組
 み立てて話せる
8事実と意見、
 実例と結論と
 を区別して話
 すことができる
    ・証拠をあげて意
 見が述べられる
・事実と意見や感
 想とを区別して
 話せる
・事実をあげて意
 見や感想が話せ
 る
 
相手や場に応
 じた話し方が
 できる
  ・相手に聞こえる
 ように話せる
・みんなに聞える
 ように話せる
・場に応じた声で
 話せる
・改まった場で話
 せる
・相手や場に応じ
 た話ができる
10話題を運ん
 で話すことが
 できる 
      ・話題を豊かにし
 て話せる
・話題からそれな
 いように話せる
・話題を発展させ
 ながら話せる
11朗読ができ
  る

      ・朗読ができる ・朗読がじょうず
 にできる
・理解、鑑賞に応
 じた朗読ができ
 る

                                                                                  121
  三 読むことの技能・態度の発達段階表                                  -122

技能・態度\段階  1  2  3  4  5  6
1本を読んで楽し
 もうとする

・本を読むこ
 とに意味を
 もつ
・進んで本を読も
 うとする
・本を読むことを
 楽しむ
・本を読んで研究
 に役だてようと
 する

・本を読んで生活
 に役だてようと
 する

 
2よい本を進んで
 読もうとする
    ・おもしろい本を
 選んで読もうと
 する 
・自分で本を選ん
 で読もうとする

・興味や趣味にあ
 った本を選んで
 読もうとする
・必要や目的に応
 じてよい本を選
 んで読もうとす
 る
3広い範囲の本を
 読もうとする

    ・読書の量が増し
 てくる
・読書の範囲が広
 がる

・読書の量や範囲
 がいっそう増す

・計画的に読書し
 ようとする
4大意が読み取れ
 る

・書いてある
 ことの大体
 がわかる
・書いてあること
 の大体が総合的
 に読みとれる
・段落のあらまし
 が読みとれる
・段落の関係を考
 えてあらましが
 読みとれる
・文章の精造にし
 たがって大意が
 読み取れる 
・要旨にしたがっ
 て大意が読みと
 れる
筋が読み取れる
  ・人物の行動、事
 件の展開などに
 したがって順序
 よく読みとれる
・人物、時、場面
 などの点から筋
 が読みとれる
・文脈にそって確
 実に筋をおさえ
 て読みとれる
   
6要点が読みとれ
 る
  ・文の大事なこと
 がらが読みとれ
 る
・段落の要点が読
 みとれる・細か
 い表現がわかる
・文脈にそって要
 点が読みとれる
   
7細部が読みとれ
 る
 
    ・細かい表現がわ
 かる
・語や文に気をつ
 けて細かい点が
 読みとれる 
・語句や文のはた
 らきやその相互
 関係に気をつけ
 て細かい点が読
 みとれる

 
8主題や意図が読
 み とれる
    ・主題や意図を表
 わしていること
 ばを手がかりに
 してそれが読み
 とれる
・表現に手がかり
 を求めて主題や
 意図が読みとれ
 る

・直観的に読み取
 った主題や意図
 を表現に照らし
 て読み深めるこ
 とができる

・直観的に読み取
 った意図や主題
 を文脈や構造に
 即して明らかに
 し、深めること
 ができる 
9批判的に読むこ
 と ができる

    ・書いてあること
 がら、主人公の
 行動、考え方と
 自分の考えとが
 読み比べられる
・書いてあること
 がらに対して、
 感想や問題を持
 つことができる
・事実と感想、意
 見とを読み分け
 ることができる
・事実と感想、意
 見、実例と結論
 などを読み分け
 ることができる
 
10味わいながら
 読める
  ・文章を読んで、
 場面や情最が思
 い浮かべられる
・場面や情景を思
 い浮かべながら
 読みとれる 
・リズム、感動、心
 情などを感じとり
 ながら読める

・心に強く感じた
 ものを味わいな
 がら読める

 
11要約ができる
  ・おもしろいとこ
 ろが読みとれる
    ・段落の要点をお
 さえて要約する
 ことができる

・文章の意図、主
 題に即して要約
 することができ
 る

  四 書くことの技能・態度の発達段階                                   123-124

技能・態度\段階  1  2  3  4  5  6
1進んで書こうと
 する
・書くことに興味
 をもつ
・進んで書こうと
 する
・おっくうがらず
 に書こうとする
・手まめに書こう
 とする
・必要に応じて手
 まめに書こうと
 する
 
2よく見よく考え
 て書こうとする
  ・書くことをよく 思い出して書こ うとする ・書くことをよく
 見て書こうとす
 る
・書くことをよく
 見、よく考えて
 書こうとする
・思ったこと、感
 じたことを書い
 て訴えようとす
 る
・考えたこと、感
 動したことをま
 とめたり、訴え
 たりするために
 書こうとする 
3書くことを生活
 に役だてようと
 する
・忘れないために
 書いておこうと
 する
・忘れないように
 書いておこうと
 する
・あとのために記
 録しておこうと
 する
・学習、飼育、栽
 培等に投だてる
 ために書いてお
 こうとする 
・研究に役だてる
 ために書いてお
 こうとする
・生活に役だてる
 ために書こうと
 する
4相手にわかるよ
 うに書ける 
・言おうとしてい
 ることがわかる
 ように書くこと
 ができる
・相手にわかるよ
 うにかける
・書こうとするこ
 とをはっきりさ
 せてから書くこ
 とができる
・書こうとするこ
 とがらをまとめ
 て書くことがで
 きる
・必要に応じて詳
 しく書いたり、
 簡単に書いたり
 できる
・材料を整えて書
 くことができる
5順序だてて書け
 る
・経験したことの
 だいたいが書け
 る
・経験の順序にし
 たがって書ける
・考えた順序にし
 たがって書ける
     
6要点や要件を整
 えて書ける
  ・大事なことを落
 とさずに書ける
・要点や要件を整
 えて書ける
・要旨をはっきり
 させるために要
 点を整理して書
 く
 
7主旨や意図をは
 っきりさせて書
 ける
    ・文書の中心をは
 っきりさせて書
 く
・主旨の一貫した
 文章が書ける
・主旨のはっきり
 した文章が書け
 る
・主旨を正しく書
 き表わすような
 書き表わし方が
 考えられる
8構想を立てて書
 ける
      ・書くことを段落
 にまとめて書く
 ことができる
・書くことの前後
 首尾などを考
 え、段落のはっ
 きりした文章を
 書くことができ
 る
・目的に応じて文
 章の組立を考え
 て書くことがで
 きる
9目的に応じた文
 章が書ける
      ・目的に応じた文
 章が書ける
・目的に応じたい
 ろいろな文章が
 書ける
・目的に応じた文
 章やその書き表
 わし方ができる
10推考すること
  ができる
・書いたものを読
 み返すことがで
 きる
・書いたものを読
 みかえしてoを
 つけたり、落ち
 ている文字を加
 えたりできる 
・読み直して文字
 やかなづかいの
 誤りを正したり
  、やoを打ち
 直したりするこ
 とができる
・書く目的に応じ
 た推考ができる
・表現の加除修正
 ができる 
・書く目的に応じ
 た推考ができる
・表現や内容につ
 いて推考するこ
 とができる
・書く目に応じて
 推考することが
 できる。
・書きながら推考
 することができ
 る

                                                      124
 (5) 言語能力の養成

 ア 言語能力は、言語経験を処理する過程で養成される。
 すでに述べたように、言語能力は言語活動(言語経験)に従属している。したがって、 言語能力は、言語活動
(言語経験)を処理するときに、具体的に働くものである。ここに、ある能力は、ある能力を必要とする言語経験
によって、効果的に養成されるという原則が成り立つ。
 要点を読み取る能力は、要点を読み取る必要のある文章を、要点を読み取る目的で読む場合に、最も効果的に養
われる。                                                  125
 話題からそれないように話す能力は、ある間題を解決するために、あるいは、あることがらについて、いい意見
を生み出すために、話合いや会議をする具体的な経験の中で養われる。それらの言語経験では、話題からそれない
ように話すことが要求され、それを必要とするからである。
 このように、まったくあたりまえのことであるが、読む力をつけるためには読む経験を、書く力を育てるために
は、書く経験を、それぞれ与えなければならない。読解力をつけようとする学習で、文章の内容について話し合っ
て、それを埋解させても読解力はつかないのである。さしえによって、文章の内容を感性的にわからせても、読解
力は伸びないのである。
したがって、どんな言語経験によって、どんな言語能力が養われるかを明確にしておくことがたいせつである。
 イ 言語能力は、目的をもった、生きた真実の言語経験によって、効果的に養われる。
 言語能力は、言語経験を処理することによって養われるものであるが、なんでも経験さえさせればよいのではな
い。単なる雑談やおしゃべりは、いくらさせても、話す能力を高めることはできない。
 言語経験が、目的をもった、かっぱつな生き生きとした、真実の経験である場合に、はじめて、その経験を処理
するのに必要な能力が、最も効果的に養われる。
 読む必要を感じ、欲求を持ち、読む目的を自覚した読み手は、読もうとする意欲が高まり、読もうとする構えが
できる。この読もうとする積極的な構えが、読みの速度、読みの深さを左右する要因となることは、すでに実験の
結果が明らかに示すとこらである。
 したがって、教室における言語経験も、児童の具体的な言語生活の中から、児童が積極的に参加できる、真実の
言語経験を選んで、学習するようにつとめることがたいせつである。                       126
 たとえば、学級作りに役立てる「学級新聞を作る」、飼育、栽培、研究、見学、学校生活等を記録して、後の実
践に役立てるために「観察記録、飼育、栽培記録、研究記録、見学記録、学級記録等を書く」。転校した友だちに
近況を知らせたり、安否をたずねたりするために「手紙を書く」。この楽しさ、この感動を忘れないために、人に
訴えるために、「詩や作文を書く」。遠足や運動会、学級や学校の生活などを楽しくし、うまくやるために「話合
い」や「学級会議を聞く」。見学したり、調査したりしたことを「報告する」。調べたこと、研究したことをみん
なに知らせるために「研究発表をする」。その他、聞く経験でも、読む経験でも、それぞれ児童の、生きた現実の
生活の中に、自分たちの生活を高め、思想を豊かにし、自己を開発し、学級、学校生活の向上を図るための生き生
きとした真実の経験を、できるだけたくさん設定する必要がある。
 ウ 真実の経験を離れ、言語能力それ自体を学習させようとしても、効果はあがりにくい。
 教材と関係なく、漢字だけを別に取り上げて、その読み書きを練習させても、あまり効果があがらなかった。個
々の音声を取り上げて、口の体操式に発声練習だけをしても児童の音韻を変えることはできなかった。文法的な知
識を与えても、文草を書く力は伸びなかった。聞く、話す学習で、聞き手の態度として、話し手の声が小さかった
とか、話し方が速かったとか、ことばの終わりがはっきりしなかったとか、そういうことに気を配って聞いている
のでは、ほんとうの聞く態度はできない。
 声が小さかったら、耳をそばだてて聞く。からだをのり出すようにして聞く。教室の中がしんとなって聞く。そ
のような聞く態度の学習こそ必要なのである。手いたずらをしながら聞いていた児童が、ろくろく話を聞いていな
かった児童が、声が小さかった、ことばの終わりがはっきりしなかったなどと言い出す教室は決して珍しいことで
はない。                                                  127
 そのように態度や技能をむき出しにして、学習させようとしても、ほんとうの学習は成立しない。話を聞いて、
何がわかったか、何を感じたか、何を思い考えたかなど、話の内容を聞き取ることが先行しなければ、かっぱつな
意欲的な学習は行なわれない。
 話の内容を聞き取ることを中心にして、内容がよく聞き取れたか、聞き取れなかったかを考えさせ、その原因と
して、言語能力が、経験の中で取り上げられるところに、生きた技能の学習が成り立つのである。話を聞くのに、
直接その技能に注意を向けていたのでは話の内容は聞き取れないし、それでは、思考は進まないのである。
 エ 言語能力は総合的に学習される。
 言語経験は、ただ一つの言語能力によって処理されるものでなく、いくつかの能力が、互いに闘係し合って処理
されるものである。要点を読み取る力一つをとってみても、それだけで処理できる読む経験は存在しない。文字力、
語い力、文法力、順序をたどって意味をとる能力、段落をまとめて読む能力、何がだいじで、何がだいじでないか
を読み分ける能力など、いろいろな能力が結合されて、読解は進められるのである。
 また、聞く、話す、読む、書く諸能力も、相互に関係し合って、総合的有機的に学習される。耳から得た新しい
語句、読むことによって身につけた語句は、話す、書くときに役立つであろう。文章を読んで身につけた文型は、
話すこと書くことの基礎として役立つであろう。読解によって得た、題材に対する知識理解、心情等は、作文の表
現をいっそう正確に、深くするであろう。
 このように、言語能力は総合的に学習される。単元は、言語能力の総合的、有機的学習を目ざしている。言語活
動が総合的、有機的に組織されるだけでなく、言語能力もまた有機的、総合的に学習できるところに、単元学習の
長所の一つがある。                                             128
 オ 言語能力を練習によって、確実に身につける。
 具体的な、生き生きした言語経験を通して言語能力を養成することが、最も効果的ではあるが、国語科の限られ
た時間内に、多くの経験を積むことは容易でない。そこで、学習した能力いっそう確実にに身につけるために、技
能の練習をする必要がある。
 技能の練習は、学習と別個の体系のもとに行なうことも考えられるが、現在のような国語の学習構造のもとにお
いては、学習した技能について練習することが、効果的でもあり、容易でもある。すべて、技能は、学年を追って
段階的に発達し、それを追って段階的に学習しているのであるから、それぞれの段階において学習した技能を練習
によって確実に身につけるようにする必要がある。その方法については後に述べる。

   4 言語経験と言語要素

 (1) 言語要素の再発見
 古い国語教育では、発音、文字、語い、文章そのものを教えることが中心であった。標準語の教育、文字、語い、
文章の読み書きの教育が主流であった。それが、国民学校時代には、「日常の国語」一本に統制された。それまで、
日常の言語、文字、文章という語学的、言語要素的に考えられていたのが、日本民族の伝統的精神によって作られ、
磨かれたことばとして、「国語」として統一された。同時に、国語に宿る国民的な感覚、感情、考え方、文章に示
された国民精神を教育することが中心に行なわれた。
 ところが、戦後、国語教育の内容は言語経験であることが説かれ、言語要素は経験に含まれるものとして、特別
に取り上げることをしなかった。いっぽうにおいては、単元学習が強調され、国語教育も生活学習の方向をたどっ   129
て進んだから、言語要素の学習が、必ずしもじゅうぶんに行なわれたとは言えなかった。そこで、単元学習は文字
の読み書き能力を低下させたという批判なども起こった
 それは、言語経験に対する理解が浅く、その内面的構造を分析して示すということをしなかったからであろう。
昭和三十三年の学習指導要領では、言語経験を支持する言語要素を、「ことばに関する事項」として、各学年の内
容の中に明碓に示した。そして、これらの「ことばに聞する事項」は、聞く、話す、読む、書く言語活動を通して
学習すべきことを説いている。これは、言語要素の再発見と考えていい。言語要素を言語経験との関連においてと
らえ、それをある程度系統化したところに進歩がある。しかし、こうして「ことばに関する事項」を取り出してみ
るとまたそこに、古い文法教育が頭をもち上げる心配がないとは言えない。
 (2) 言語要素
 言語経験は、すでに述べたようにこれを構造的にみれば、(1) 話題・題材、(2) 経験の形態(文章の形態)(3)
言語能力、(4) 言語要素等の統一体である。その(4)の言語要素は、そのような言語経験を内面からささえている
ものである。
 たとえば、何かについて話す、聞く場合には、(1) 音声を使う(発音)(2) 語句を使う(語い)(3) 文を組み立
てる(文法)の三つの要素が必要である。また、文章を読んだり書いたりする場合には、(1) 文字を使う(文字)
(2) 語句を使う(語い)(3) 文を組み立てる(文法)の三つの要素が必要である。この(1) 発音、(2) 文字、 (3)
語い、(4) 文法は、言語活動をささえる要素であるからこれらを言語要素と呼んでいる。
 小学校学習指導要領国語には、「ことばに闘する事項」として次のものがあげてある。
 (1) 音韻(発音)に関する事項――幼児音、正しい発音、抑揚など。                      130
 (2) 文字に関する事項――ひらがな、かたかな、ローマ字、漢字など。
 (3) 語いに関する事項――読むための語句、書くための語句、語句の組立など。
 (4) 文法に関する事項――文における主題・述語の関係、修飾の関係、文章における段落相互の関係など
 (5) 表記に関する事項――おくりがな、かなづかい、句読点、符号など。

 (3) 言語要素の機能的な考え方

 言語要素を機能的に考える場合、二つの面がある。一つは、発音、文字、語い、文法そのものの機能をだいじに
して学習させる場合、他の一つは、機能的な発音、文字、語い、文法を選んで学習する場合である。
 ア 音韻
 東北地方とか、関東地方とか、四国地方とか、狭い地域において、その機能をじゅうぶんに発揮している発音は、
方言音(その地域の音韻体系そのもの)である。しかし、地域ごとの方言音は、それぞれの地域においては、コミ
ュニケーションに不都合を感じることはないが、広く全国的にみると、方言音相互の間にかなりの抵抗がある。
 糸が〔イド〕、的が〔マド〕のように、語問語尾の無声破製音が、有声化する地域がある。この地域では、糸と
井戸、的と窓は発音上の区別がない。また、鍵と柿、海のいかとくりのいがもともに〔カギ〕〔カギ〕〔イガ〕〔イ
ガ〕と発音される。この場合、鍵、いがのように本来の濁音は鼻濁音で発音され、柿、いかは、有声破裂音で発音
される。
 また、〔イ〕と〔エ〕、〔ヒ〕と〔シ〕、〔ダ〕と〔ラ〕などをそれぞれ混同している地域がある。松や月、「…
…す」や「……ます」などの〔ツ〕〔ス〕の母音が無声化する地域、無声化しない地域とがある。語間、語尾のが   131
行音が、鼻音化する地域と鼻音化しない地域とがある。
 その他多くの方言音があって、コミュニケーションを妨げている事実を認めないわけにはいかない。そこで、全
国共通の発音、しかも標準的な発音を確立する必要が生じる。
 どれを標準音とするかは、むずかしいが、全国共通に行なわれる可能性を持っているある地域の発音を基礎とし
て、標準音を確立する必要がある。東京地方の〔シカ゜シ〕(東)、〔シカリ〕(光)は、標準音とはなり得ない。
〔クヮシ〕(菓子)〔ミズ〕(水)もともに標準音にはなり得ない。
 国語のアクセントには、一型アクセソト(水戸式アクセソト)、甲種アクセソト(京阪式アクセソト)、乙種ア
クセント(東京式アクセント)、あいまいアクセントなど、いろいろな型が、全国各地に分布していて、現状にお
いては、これらを同一の型に統一することは不可能に近い。一般的にいって、アクセントは、語義の決定的な要素
になり得ないからである。つまりアクセントによって、同音異義語の区別をしても、それが地域によって異なって
         
                         
いる。東京語では、
シ(箸)ハ(橋)であっても、京都語では、ハ(箸)シ(橋)と反対になる。また一
型アクセント地帯では、箸も橋もともにハシカ゜と平らに発音して、その間に区別がない。しかし、別に不都合は
           
                                 
起らない。東京語では、
モ(震)モ(虫のくも)と区別しないが、東京周辺の地帯では、ク(雲)モ(虫)
と発音し分けている。
 このようにアクセントは必ずしも共通語の語義決定の要素とはなり得ない面がある。異なった体系のアクセント
を聞けばそれなりに語感の上で抵抗もあるが、語義を誤るようなことはほとんどない。容易に統一できない理由も
そこにある。
 イントネーションも地域によって異なっている。たとえば、しり上がりのイントネーションを使う地域がある。   132
数文節ごとに、その末尾を上げながら発音する地域もある。しかし、話が、平らに続いている問は(平調イントネ
ーション)、語が続くことを意味し、話の終わりが下がる(降調イントネーション)場合は、そこで意味が切れる
ことを意味する。また、話の終わりが高く上がって切れる場合(昇調イントネーション)は、問いかけ、念押し、
疑いなどの意味を表わすようになっている。こうしたイントネーションの機能を生かすようにすることがたいせつ
である。
 イ 漢字
 漢字数は四万もあると言われている。その漢字を義務教育の中ですべて学習させることは不可能である。その中
から、日常の言語生活の中で、(1) 広く使われている漢字、(使用範囲の広い漢字)、(2) しばしば使われる漢字

(使用頻度の高い漢字)、(3) 新聞、雑誌、公用文等の中で、社会的に働いている漢字(社会的な漢字)、(4) 文
化を習得し形成するのに必要な漢字(文化的な漢字)、(5) 国語を表記するのに好ましい漢字、(6) 造語力の高い
漢字など、機能の高い漢字を選んで学習させなければならない。
 義務教育の中で、読み書きができるように学習させる当用漢字別表の八八一字の漢字(いわゆる教育漢字)や当
用漢字一八五〇字はその一つの試みで、機能の高い漢字が選ばれている。
 ウ 語い
 小学校の一年から六年までの、ある国語教科書に提出されている異語数(助詞、助動詞を省く)は八千九百九十
九語、中学校一年から三年までの、ある国語教科書に提出されている異語数は、一万七千五百九十一語である。昭
和二十四年六月一日―三十日の朝日新聞全紙面(広告、株式欄、ラジオ番組を除く)に使用された異語数は一万四
千語あまり、三省堂「辞海」には十三万語が収載されていると言われている。また、国立国語研究所の調査(昭和   133
三十二年)による、高等学校一年の女子十五名が理解した語数は最高三六、三三〇語、最低二三、三八一語、平均
三〇、六六四語、全部の女子が知っていた語は一二、四七五字であった。
 そこで、小学校の国語教育では、どんな語を学習させたらよいかが問題になる。従来、各種の教科書に出てくる
語の頻度を調べて度数順に並べた語い表や、名種教科書、児童読物等に出てくる語の頻度数を調べて整理した基本
語いなどは、それについての試みである。昭和三十三年に文部省が実施した、小学校六年生対象の本調査「児童・
生徒の語い力の調査」は、学習基本語を定める上の有力な資料になる。それは、調査対象語一〇、〇四七語につい
ての理解度を四段階(第一段階 よく知っていることば。第二段階 だいたいわかることば。第三段階 ぼんやり
わかることば。第四段階 知らないことば。)に分けて調査したもので、それぞれの語について、理解度に応じて
概当人数が百分率で示してある。この種の従来の調査は、いずれも教科書や読み物に使用されている語について行
なわれたものであるが、この調査は、現に児童が習得している語について行なわれたところに特色がある。
 こうした調査研究が進められているから、学習基本語いが、しだいに明らかになってくるであろう。
 国語教育では、児童・生徒の日常生活語い(談話語)を身につけるだけではじゅうぶんではない。児童・生徒の
思想を豊かにし、発展させるのに必要な語い、文化を継承獲得し、生産するのに必要な語い、社会を理解し、発展
させるのに役だつ語い等を学習させる必要がある。学習指導要領に、「読むために必要な語句を増す。」「書くた
めに必要な語句を増す。」とあるのは、そのことを言っているのである。つまり、生活に必要な、文化の獲得、生
産に必要な、機能的な理解語い、使用語いを増すことが考慮されなければならない。
 そのような機能的な語は、形式的には
 ア 使用度の高い語  イ 使用範囲の広い語  ウ 造語力の高い語  エ 基礎的な語  オ 標準的な語   134
 力 文化的な語
などが選ばれるであろう。また、語いを運択する場合の範囲としては
 ア 各種の教科書に広く、しばしば出ている語
 イ 雑誌、読み物などに広く、しばしば出ている語
 ウ 参考書などに多く使われている語
 エ 新聞、掲示、ラジオ、テレビなどにしばしば使われる語
 オ 学校、家庭、社会にあって日常の生活に必要な語
 などが考えられる。これらの範囲から、前に述べた形式的な諸条件に照らし合わせ、さらに、児童の理解力の発
達に応じて、適切で機能的な語を運ぶ必要がある。
 エ 文法
 文法は、聞く、話す、読む、書く言語活動が、正しく行なわれるように、言語を法則的に組織し、統制して、言
語や文字とともに、言語活動を内面的にささえている。
 国語教育では、言語活動が正しく行なわれるように働いている文法を学習させなければならない。機能的な文法
を機能的に学習させなければならない。
 たとえば、読解の過程において、意味を理解するために、具体的に働いている文法を意識にのぼせる。理解を正
し、深める過程において、文法的事実、すなわち、語の切れ続き、係り受けなどの関係を、語の用法として意識し、
理解し身につける。
 また、文章の構造を、意味の構造、思考の構造、過程としてとらえ、理解することを通して、段落の相互の関係   135
を理解する。
 こう考えると、文法学習は、言語形式の形式的な学習(形式文法の学習)でなく、文章の中で、生きて働いてい
る文法を、言語活動を通して、学習させることがたいせつである。
 それは、(1) いろいろな場合におけることばの用法、(2) いろいろな場合における社会的に決まっている基本的
な文型、(3)意味の構造にもとづく文章の構造上の諸関係などを学習することになる。しかもそれらは、聞く、話す、
読む、書く言語活動の過程において、機会的に学習することを原則とすべきである。
 このことは、もっと具体的に言えば小学校における文法学習は、前に述べたように言語形式の形式的な学習でな
く、(1)生きた言語活動の中で、つまり、文の前後関係、文脈、場面の中で学習すること、(2)言い誤り、書き誤り
易い言い方、書き表わし方を学習すること、(3)児童が実際に話したり、書いたりするときに(言語経験の形態、
話題の種類等に応じた)しばしば使う基本的な文型(学習基本文型−国語教育のための国語講座朝倉書店発行「文
法教育の理論と実践」のうち、「小学校の文法教育」拙稿参照)を発達的にとらえて学習すること、(4)解釈過程に
おいて意味を正確に理解するのに必要な文法的事実、意味を取り誤りやすい文法的事実について学習すること、と
いうことになる。
 このような機能的な文法を、言語活動の諸過程において、機能的に学習させることが、小学校の文法指導の本質
であると思う。
                                                      136-148

       
四 方法の機能的な考え方

    
(一) 指導法の移り変わり

   1 指導法の歴史

 国語の指導法の移り変わりを、(1) 教育法規、(2) 教育思潮、(3) 指導過程、(4) 指導法の四つに分けて、
その歴史を表にまとめてみると次のようになる。これによって、明治以来昭和の今日に至るまでの指導法の移り変
わりを大観することができる。

教育法規  教育思潮  指導過程  指導法 
明治五年
 学制
o封建制度が崩壊
 した。
o文盲をなくす教
 育政策が取られ
 た
o言語形式中心の
 語学的教育が行
 なわれた。
o教授中心で注入
 主義が取られた
   コトバノヨミカタ
1「単語読方」の教授過程
 (1) 訓読(範読)
 (2) 準誦(素読)
 (3) 意義(訓詁)
 (4) 暗誦(暗誦)
2「単語書取」の教授過程
 (1) 口誦(教師)
 (2) 聞書(生徒)
 (3) 範書(教師)
 (4) 訂正(生徒)
   (小学教則にょる)
 コトバノヨミカタ
1「単語読方」
  童蒙必読単語篇等ヲ授ケ兼テ其語ヲ盤上ニ記シ訓
 読ヲ高唱シ生徒一同之ニ準誦セシメ而シテ後其意義
 ヲ授ク但日々前日ノ分ヲ暗誦シ来ラシム
 カナヅカイ
2「綴字」
  生徒残ラス順列二並ハセ、知恵ノ糸口、うひまな
 び、絵人知恵ノ環一ノ巻等ヲ以テ教師盤上ニ書シテ
 之ヲ授ク、前日授ケシ分ハ一人ノ生徒ヲシテ他生ノ
 見エサルヤウ盤上に記サシメ他生ハ各石板二記シ記
 シ畢テ盤上ト照シ盤上誤謬アラハ他生ノ内ヲシテ正
 サシム
               (小学教則による)
明治十二年
教育令
(十三年教育
令改正)
(十四年小学
 校教則綱領)
o自由主義が強調
 され自由民権思
 想おこる
o実利主義の国語
 教育が行なわれ
 た
o単語から語句へ
 語句から文へと
 教える言語形式
 中心の論理的語
 学的教育が行な
 われた。
o開発主義が強調
 されたがその方
 法はなお教授中
 心であった。
o文字法
(letter method)
o発音法
(phonic method)
3「読方」の教授過程
 (1) 理解(言語内容の理
  解)
 (2) 修読(言語形式の読
  み)
 (3) 口説(思想開示)
 (「如民教育学」による)
4「作文」の教授過程
 (1) 庶物について理解す
  る
 (2) 庶物を題としてかな
  の単語を綴る
 (3) かなの短句を作る
 (「小学校教則綱領」に
  よる)
3 これまでは語(文字)は読み方、書き方を教えて
  から、語は意味を教えたのに対し、この時期には、
  まず、教えようとする語の意味内容を理解させてか
  ら、その語(文字)を示して、読み書きを教授する
  ようになった。
  問答法が行なわれた。
明治十九年
小学校令
o実利主義の国語
 教育が行なわれ
 た。
o単語―短句
 ―短文の順序に
 指導する
 ―形式的・諭理
 的語学教育が行
 なわれた
o間答法が定型化
 した
o注入主義、開発
 主義がともに行
 なわれた。
o単語法
(word method) 
5 単語の教授過程
 (1) 語の意味の理解(理
  解)
 (2) 文字の提出(提示)
 (3) 文字の読み(読む)
 (3) 文字を書く(書く)
 (4) 文字の読み(読む)
 (5) 意味の確かめ(理解)
 (6) 温習   (練習)
(「明治十九年改正教授術」
 ジョホノット原著 高木
 怡荘訳述−渡辺氏の国語
 教育史による)
 注 注釈学的教授過程
4 単語の指導法
  教(目ヲ指シテ問フ)此ハ何ナリヤ。
  生 目ナリ。
  教 目ハ何ノ用ヲナスモノナリヤ
  生 事物ヲ見ルノ用ヲナスモノナリ。〔理解〕
  教 誰カ此名ヲ文字ニテ記シ得ルヤ。
  生 知ラズ
  教 めトハ此ノ如ク記スナリ。
  (めト黒板ニ記シ之ヲ誦セシム)  〔提示〕
  生 読ム 各唱一斉唱       〔読む〕
  (中略)
  教(各生ヲシテ石盤ヲ出サシメ)之ヲ各生ノ石盤
   ニ書スベシ。
  生 言ノ如クス。         〔書く〕
  (中略)
  教 今各自ノ書セシハ何ノ字ナリヤ。
  生 めノ字ナリ。         〔読む〕
  教 ソレハ何ノ名ナリヤ其実物ヲ指シテ答ヘヨ
  生(目ヲ指シテ云フ)此ノ名ナリ。〔 理解〕
  (以下略)
明治二十一年















明治三十三年
小学校令改正
小学校施行規
oヘルバルト学派
 の教育学が紹介
 された。
o問答法講義法が
 行なわれた。
6 教順(ヘルバルト学
  派の五段隋法)
 (1) 準備   〔予備〕
 (2) 新物の提出〔提示〕
 (3) 新物の結合〔比較〕
 (4) 総括   〔概括〕
 (5) 活用   〔応用〕
7 教順(三段階法)
 (1) 予備(予備)
 (2) 教授(提示)
 (3) 練習(応用)
  注 心理学的教授過程
5 文章の指導法
 (雛ノ種類ハ甚ダ多ケレドモ皆一目シテ其雌雄ヲ区
 別シ得ベシ。雄雛ハ其体大ナルノミナラブ其頭ニハ
 大ナル冠ヲイタダキ、且尾ハ雌雛ニ比スレバ遥二長
 シトス)
・第一段 予備
 教 (雛ト板書シテ其読方ヲ教へ)
  今日ハ第二十一課題ノ処ヲ授クベシ。
  汝等雛ヲ見タルコトアラン。
  雄雛ト雌雛トハ如何ナル差異アルカ。
 生 雄雛ハ大キク、雌雛ハ小ナリ。
(中略)
・第二段 教授
一 摘書 種類、一目、雌雄、冠。
  (右ノ文字ニ就キテ読方及意義ヲ教フ)
二 読方
  「雛ノ種類云々」ヨリ「長シトス。」マデ、教師
  先ヅ範読ヲ示シ、然ル後生徒ヲシテ之ヲ読マシム。
三 意義
 教 今読ミタル所こ、就キテ講義ヲ授クべシ。
 (講義は略す。全文について口語訳を示す。)
 教 今ノ講義ニテ新ニハサマザマノ種類アリト言へリ。
  汝等ノ知レルモノヲ挙ゲヨ(以下略す)
 (右終リテ各生徒ニ講義セシム)
四 熟読
 (二、三ノ生徒ヲシテ之ヲ読マシメ、読振ノ悪シキ
 所ハ此際之ヲ正ス。)
・第三段 応用
  左ノ文章ヲ黒板上ニ書シテ其読方及意義ヲ言ハシメ
 ム。
  白犬ト黒犬トハ一目シテ区別シ得べシ。
 (以下略す)
大正四年



















昭和十六年
国民学校令
o垣内先生の形象諭
 が説かれ新内容主
 義が主張された。
o解釈学的国語教育
 が説かれた。
o文章法
(Sentence method)













・国家主義が強調
 され、国民精神
 の教育が中心で
 あった。
・思想、内容一体
 の言語観が行な
 われ言霊観へと
 発展した。
 
8 解釈学的指導過程
 (1) 垣内松三
  ア 一次の読み
  イ 二次の読み
  ウ 三次の読み

  ア 文意の直観
  イ 構想の理解
  ウ 語句の探究
  エ 内容の理解
  オ 解釈より創作へ
 (2) 石山傭平
  ア 通読
  イ 精読
  ウ 味読
9 教式(芦田恵之助)
 (1) 読む(全文通読)
 (2) 話し合い(わからな
  いところを教師と児童
  で話し合う)
 (3) 読む(部分の精読)
 (4) 釈く(その部分の意
  味について話し合いな
  がら、重要な語句を教
  師が板書する。)
 (5) 読む(その部分の意
  味を考えながら読む。)
 (6) 書く(板出された重
  要語旬を児童がノート
  に書く。)
 (7) 読む(全文の味読)
  注 芦田式教式 
6「冬景色」の指導(芦田恵之助)
第一時
 (1) 教師全課を通読する
   ―児童静かに聞いている
 (2) 児重全課を通読する
   ―通読の練習
   ―作者のくふうを読み取る
 (3) 児童読み取ったことを話す
   ―作者のくふうを発見した個所を言わせる
   ―まとめて言うことはできなかった。
 教 「景色を書いた絵には、遠中近の用意があるが、
   冬景色にはそれに似寄った点は見つけなかった
   か」
 児 「見えます」
「一段が遠、二段が中、三段、四段、五段が近」
 教 「さらにくふうのあとは見えぬか」
 児 「銃声のところがおもしろいようです」
 教 「万物ことごとく死せるが如き寂寞を、一発の
   銃声で破った所は実に巧妙にできている。」
 (4) 児童全課を通読する
第二時
 (1) 児童通読(自動)
    ―作者のくふうの想起
    ―語句、文章について質問事項を調べる
 (2) 児童通読(直接教授)
    ―「遠中近のくふう」「銃声による局面の一変」
     よくわかった。
 (3) 児童質問
    ―「山おろしの風」「木枯に吹きさらされて」
     など
    ―語句について指導
 (4) 児童通読(自動)
    児童絵を書く(自動)
 (5) 教師絵を板書―問答しながら
第三時
 (1) 通読(自動)
    ―三段、四段の書きぶり
    ―作者の位置
    ―作者が景色をながめていた時間
    ―書取
 (2) 教授
    ―三段は動かぬ物、四段は動く物
    ―作者は絵の外にあってながめている
    ―時間―話し合って十分内外とまとまる
 (3) 書取
    ―成績を調べる
    ―練習をする
    ―「読み方教授(芦川恵之助)」による。
昭和二十二年
学習指導要領
国語科編
・国家主義の教育
 を排し民主的精
 神の教育が強調
 された。
・初めて学習指導
 要領出され国語
 教育の考え方が
 一変した。
・機能的国語教育
 が説かれた。
 しかし一方に言語
 道具観が行なわ
 れた。
・国語科の内容と
 して言語経験が
 取り上げられ単
 元の考え方が導
 入された。
・単元とは何かに
 ついての論議が
 盛んに行なわれ
 た。
・新旧国語教育が
 混在した過渡期
 の相を呈した。

10
 (1)  新しい指導過程がま
   だ確立せず、戦前の指
   導過程が一般に行なわ
   れていた。
 (2)  単元の指導の例が参
   考として示された。
7 単元の指導法
 単元「われわれの意見は、他人の意見にょってどん
   な影響をこうむるか」
 一 問題の要旨(学習の必要のたしかめ)
 二 内容(範囲と順序)
  学習の内容とその順序が決のように示されている
  (一)  民主政治では、各個人の意見が、なぜ大
     切であるか。
  (二) 世論とは何か。また、民主政治において
     なぜ大切であるか。
  (三) 子どもの意見は、いかに両親から影響さ
     れるか。
  (四) 子どもの意見は、学校で同級生や先生か
     らいかに影響されるか。
(中略)
  (十) 批判的判断とは何か。また、それをいか
     に用いるか。
 三 目標
  (一) 民主主義の国では、各個人の意見が大切
     であることを理解させていく。
  (二) 世論とその重要性を理解させる。
     というような実質的な内容価値と
  (九) 次の事において自分の意見をいっそう効
     果的に表現できるような経験を与える。
     1 会話 2 小さなグループでの討論
     (以下略す)
     というような、そこで与える経験が示され
     ている。
 四 学習活動の例
  「二 内容(範囲と順序)」に示されている事項
    について
   (1) 参考書を読んで問題を理解する
   (2) 間題について討議する
   (3) 間題について事実や意見を発表する
   (4) 読んで調べたことを報告する
   (5) 役割を決めて演説したりこれを聞いたり
     する
   (6) 宣伝の記事を書く
   (7) 自分の態度を示す手紙を書く
   (8) 劇を書き演出する
  などの学習活動が具体的にあげられている。
 五 単元の説明
  この単元に含まれている言語活動があげられてあ
  る。
  (一) 学級の討議 (二) おおぜいの前で話をする
   こと (三) 会見をすること……(九) 映画を見
   ること (十一) 論説を書くこと (十三) 要約
   くこと………(十六) 覚え書きを書くこと
 六 評価評価の観点や方法、か示されている。
昭和二十六年
改訂版
小学校学習指
導要領国語科
編(昭和二十
九年十二月発
行)


昭和三十年
小学校学習指
導書国語科編
(文部省)
・機能的国語教育
 の考え方が確立
 し、国語教育の
 目標、内容(言
 語経験)が整理
 された。
・国語の能力表が
 作成され技能の
 教育が強調され
 た。
・人間形成の国語
 教育が一部で説
 かれたが大勢は
 人間形成と技能
 形成とが不調和
 な形で進んでい
 た。
・単元についての
 考え方が一定の
 方向を取り始め
 学習が次第に形
 式化してきた。
・単元法
(unit method)

11 単元の指導過程(指導
 要領による)
 (1) 題材
  一 この題材を取った
   わけ
  二 目標
  三 内容
  四 資料
  五 学習活動
   (一) 動機づけ
   (二) 展闘
  六 評価
 (2) 読むことの一般的指
  導過程
  1 準備
  2 読み(黙読)
  3 話合い
  4 読み(音読)
  5 練習
  6 評価(九〇ページ)
 (3) 作ることの指導過程
  イ 書く相手と書く目
   的について話し合い
   書く目標をつかませ
   る。
  ロ 取材や文の構想に
   ついて話し合い、書
   くことがらをまとめ
   る。
  ハ 文を書く。
  ニ 読み通して句とう
   点をうったりまちが
   いの文字を正したり
   する。
  ホ 読み合って楽しむ。
12 単元の指導過程(指導
   書による)
   ―指導案の形式―

  (1) 題材設定の理由
  (2) 目標
  (3) 資料
  (4) 計画
   ア 時間の配分
   イ 他教科との関連
   ウ 学習活動
    (ァ) 導入
    (ィ) 展開
    (ゥ) 整理
    (ェ) 発展
  (5) 評価(指導書による)
8 単元の指導法(指導書による)
 題材 詩を読もう(三年)
 一 題材設定の理由(略す)
 二 目標
  (1) 短いことばを通して感覚的具象的にとらえて
   いく。
  (2) 作者の、情景の確かなつかみ取り、簡潔なあ
   らわし方、細やかな愛情を味わい取る。
  (以下略す)
 三 内容
  (1) このごろの生活経験を短いことばで話し合う
  (2) 今までに読んだり作ったりした詩について話
   し合う。
  (3) 詩を読んで作者の気持や情景を味わう。
  (4) 詩の読みぶりを練習する。
  (5) ほかの詩を集めて読む。
 四 資料(略す)
 五 学習活動(五時間)
  1 経験を話し合う
  2 話し合った経験の中の一つを詩の形にまとめ
   る
  3 今までに読んだり作ったりした詩について話
   し合う。
  4 「レコード」の詩を読む。
   (1) だまって読む
   (2) 感じ取ったものを話し合う。
   (3) 音読させて遅れている児童のために語をし
    っかりつかませる。
   (4) どんなことを歌っているか話し合う。
   (5) 作者やこの詩に現われている人物の気特を
    探って見る。
   (6) 書き表わし方のうまいと思うところを話し
    合う。
   5 この詩の題をつける。
   6 音読する。
   7 練習する。
   8 このほかの詩を集めて読む。
 六 本時の指導
  1 目標
   詩の情景を碓かにつかみ取り、作者の
   心情を味う。
  2 学習指導
   o黙読して最初の印象を話し合う。
   o音読させて語を確かにつかませる。
   oどんなことを歌ったのかを調べる。
   oこの詩の情景を簡単に絵にかき表わす。
   oこの詩の作者やおかあさんの気持を考え
    てみる。
   o音読して感じを表わす。
   oグル−プでこの詩の情景をかいた絵を見
    せ合って、よいものを選ぶ。
  3 評価(略す)
昭和三十三年
小学校学習指
導要領国語








昭和三十五年
小学校国語指
導書






昭和三十七年
読むことの学
習指導(文部
省)
・国語科の目標、
 内容が国の基準
 として示され
 た。

・機能的国語教育
 が確立され、国
 語科の目標、内
 容が整理され系
 統化された。

・人間形成の国語
 教育が強調され
 国語の能力と思
 考、心情とを一
 体的に学習させ
 ることが明確に
 された。

・各学年の学習内
 容が明確に示さ
 れた。

・単元の考え方が
 明確にされた。
13 単元の指導過程(指導
  書による)
  (1) 単元設定の理由
  (2) 目標
  (3) 内容
  (4) 学習活動
    ア 導入
    イ 展開
    ウ 整理
  (5) 評価
9 学習指導の展開例(「読むことの学習指導」に
  よる)
 〔単元名〕わたしたちのつくったおもちゃ
 (1) 単元について
   ア 単元の趣旨と位置
   イ 単元の学習内容
   ウ 単元の学習内容
    ァ 学習活動
    ィ 学習事項
 (2) 単元の学習資料
 (3) 学級の実態
   ア 言語経験について
   イ 読解力について
   ウ ことばに関する事項について
 (4) 教材研究
 (5) 学習指導
   ア この教材の学習目標
   イ この教材による学習内容
    ァ 活動 ィ 学習事項
   ウ 学習指導計画
    (ァ) ぴょんぴょんがえるについて話し合う
    (ィ) 「ぴょんぴょんがえる」を読む
    (ゥ) ぴょんぴょんがえるを作るために必要
      な材料や用具を読み取る
    (ェ) 文章を読みながらぴょんぴょんがえる
      を作る
    (ォ) ぴょんぴょんがえるの飛ばせ方を読み
      取る
    (ヵ) 遊び方を相談する
    (キ) ぴょんぴょんがえるで遊び、その様子
      を話したり書いたりする
   (ク) 文字、語句の練習、テスト
   エ 学習指導(第一時)
    本時の目標
    学習活動と指導法
    o題名について話し合う
    oかえるの飛び方を動作化する
    o「ぴょんぴょんがえる」を読む
    o文字、語句の読みの練習
    o「ぴょんぴょんがえる」の文章を音読する

    2 指導法の歴史的考察                                      -148

 ア 教授から学習指導へ

 (ア) 教授                                                149
 明治の始め、国語の教育は、文字、単語、文、文章等の言語形式の教援から始まった。しかも、それらの読み方
や書き方を教授するいわゆる受動的な詰め込みの教育であった。特に初期においては、生徒の必要も能力も無視さ
れてずいぶん難解なおとなの生活に必要な文字や語句の教授が教師の模範(範読)模倣(素読)解説(暗誦)によ
って行なわれた。
 次いで、開発主義が説かれ、問答法によって、開発的教授法が取られた。
 (イ) 学習
 大正時代にはいると、自主的な自由学習が強調され、教授から学習への方向をたどった。児童の学習は、児童の
自由に任せるべきであって、これに干渉したり、教師の計画によって教授したりすることはさけなければならない。
したがって、教案のような、児童の学習の志向に聞係なく予定した案にとらわれるべきでないという考えが出され、
教案廃止の論さえ交わされた。
 (ウ) 指導
 前期においては国語の学習が、児童の自由に任され、教材を契機として喚起される児童の感情、形成される思想
が尊重され、これをみだりに強制変改すべきでないことが強調された。その結果、自学自習が行なわれるようには
なったが、その反面、学習の混乱不統一を来たし、かえって、全般的には、学習が不活発になり停滞するようにな
ったと言われる。
 児童の学習は、自由放任であってはならない。児童の学習を指導して好ましい方向に向けることがたいせつであ
る。そこで、学習内容を一定の計画のもとに、系統的に学習させるよう指導すべきである。昭和三十三年度の学習
指導要領では、特にこの点が強調されてその点から、学習内容の精選、系統化が行なわれた。

 イ 入門期の指導法の歴史

入門期の指導法の考え方の移り変わりを、教科書との関連においてみると次の表のようになる。           150-155

指導法  教科書  解説 
  l 漢字の単語から
  学習させた。
  入門期の指導法が
  確立していない。
 1  明治六年文部省。入門書
  「単語篇」
  ・いろは(ひらがな)
  ・五十音図(かたかな)
  ・四種活用図
  ・数
   一、二、三……十、百、千、万、億
  ・方
   東西南北、乾坤巽良
  ・型
   角、丸、三角、菱、短、長、
   (以下略す
2 明治十七年 集英堂
  「小学読本若林虎三郎編」
  第一課 子 此の子 
      子 其の子 
  第二課 本 此の本
      本 其の本
  第三課 見ル 此ノ子ハ本ヲ見ル。
      持てり 其の子は本を持てり
      見る
      持テリ
      見ル
 o 国語学習の基礎として、漢字
 の単語を教授した。
  2 発音法
 (Phonic method)
  発音を単位とし
  て教える
  (1) 発音の教授
  (2) 文字の教授
  (3) 単語の教授
  (4) 語句の教授
 
2 明治十四年 文学社
  「小学読本首巻」
 (1) 伊呂波図
 (2) 五十音図
 (3) 濁音図
 (4) 次清音図
 (5) 第一単語図 一字及二字篇
 (6) 第二草語図 二宇篇
 ・ 短句図 時気篇
  例ひとの。すむところを。ちきうといふ。

oいろは、五十音、濁音、半濁音
 について発音を指導してから、
 文字を教える。
 次に一字の単語、二字の単語と
 次第に多音節の単語を教え、次
 に短句を 教える。
 音節を組み立てて単語を教える。
  3 文字法
 (letter method)
  文字を単位とし
  て教える
  (1) 文字の教授
  (2) 単語の教授
  (3) 語句の教授
  (4) 文の教授
3 明治二十一年 文学社
  「尋常小学読本」一ページ ハ。ト。
  二ページ ナ。キ。ヒ。タ。
  三ページ ハナ。ヒト。ハタ。
  四ページ ハリ。ハコ。クリ。カキ。
4 明治二十四年金港堂
  「新撰日本読本」
  一ペ―ジ メ。テ。
  二ペ―ジ キ。
  六ペ―ジ タコ。コマ。
  七ペ―ジ カマ。カキ。
 三四ページ オホキイオヤドリ。チヒサ
       イヒヨコ。
       オヤドリハオホキイ。
 三五ページ アメガフル。カゼガフク。

 
5 明治三十六年文部省(国定本)
 o黒表紙本(明三六)
  一ペ―ジ イ(いすの絵)
       エ(枝の絵)
  二ペ―ジ ス(雀の絵)
       シ(石の絵)
  三ペ―ジ シ(鹿の絵)
       ヒ(人の絵)
       ズ(すずりの絵)
       ジ(にじの絵)
 十一ペ―ジ  エダ。
        カラス。
        スズリ。
        キリ。
        マリ。
        アタマ。クルマ。
 十二ページ  ヒトガイマス。
        イヌガイマス。
        カラスガイマス。
 6 明治十九年文部省
  「読書入門」
 第一課―第十一課
 事物の名称、性質、作用
 五十音図

oまず、文字の読み方を教える
 次に教えた文字を組み立てて
 単語を作って教える。
 次に単詰から連語、短文を教
 える。
 文字を組み立てて単語を教え
 る。










o「本書ハ発音ノ教授ヲ出発点
 トシテ、児童ノ学習シ易キ片
 仮名ヨリ入リタリ」
 (編纂趣意書)
  4 単語法
 (word methd)
 ことばを単位として
 教える
 (1) ことばの観念を
  明確にする
 (2) ことばを文字化
  する
 (3) ことばの読み書
  きを教える
7 明治三十三年 富山房
  「国語読本 尋常小学校用」
 巻一
  一へ―ジ トリ。二ページ ハト。アリ。
  三ページ ハタ。タコ。
 (かたかなの五十音図)
   九ペ―ジ イケニヒヨコ。キシニ
        メンドリ。
  一二ペ―ジ ウサギガヤスム。
        カメガイソグ。
8 明治四十三年文部省(国定本)
 o黒表紙本
  「尋常小学校読本」
  一ページ ハタ。
  二ページ タコ。コマ。
  三ページ ハト。マメ。
  九ページ シカノツノ。ウシノツノ。
  十ページ サルトカニ。カキノタネ。
       ニギリメシ。
 十六ページ キクノゴモソ。
       キリノゴモン。
 二十ページ アカンボガネテイマス。
       オカアサンガダイテイマス。
9大正七年文部省(国定本)
  o白表紙本
  「尋常小学国語読本 巻一」
  一ページ  ハナ。
  二ページ  ハト。マメ。マス。
  三ペ―ジ  ミノ。カサ。カラカサ
  四ページ  カラスガイマス。
        スズメガイマス。
  五ペ―ジ  ウシガイマス。
        ウマガイマス。
        ウシトウマ7ガイマス。
 
o事物の観念を十分に起こさ
 せる。
 言語に発して、発音を正す。
 発音を表わす文字を教える。
 文字の読み書きを教える。
oことばを音節、文字等の構成
 要素に分析せず単語として
 教えた。
 ことばとして教授するという
 考え方がはっきりしてきた。
 単語をじゅうぶん教えてから
 語句、文へと進んだ。












o単語の教授は僅かで、文の教授
 に早くはいった。
  5 文章法
 (Sentence method)
o文を単位として教える
(1) 最初から、まと
   まとまったた意味
   を持つ文を学習さ
   せた
10 昭和八年 文部省(国定本)
   さくら読本
   (1) サイタ (2) コイ (3) ススメ
     サイタ   コイ   ススメ
     サクラガ  シロ   へイタイ
     サイタ   コイ   ススメ
  4 オヒサマアカイ。
    アサヒガアカイ。
11 昭和二十二年 文部省(国定本)
  oみんないいこ読本
  @ おはなをかざる
    みんないいこ。
    きれいなことばみんないいこ。
    なかよしこよしみんないいこ。
o従来は、音節、文字、単語等を単位
 として教授する語学的分析的方法を
 とっていたが、垣内松三のいわゆる
 センテンス・メソッドでは意味のま
 まりとしての文を単位として全体的
 に指導する方法が取られた。
oこの指導法は、単に入門期のみの方
 法ではなく、読解指導の基礎理論と
 して広く行なわれた。 
  5 単元法
 (unit method)
 語、文それ自体だけを
 学習させるのでなく、
 その背景にある場面、
 経験等とともに学習さ
 せる。
 12 文部省検定本 o戦後は、語、文を場面、経験などの
 中核として取り上げて学習させた。
 つまり、形式的にみると、母語の学
 習からはいるようにみえるが、実
 は、その単語の背景にある場面、
 経験、生活等を明らかにしそれらと
 ともに学習させた。
 その語を中心とする経験の中で学習
 させた。ここに経験的、生活的な新
 しい指導法としての単元法が行なわ
 れた。 

 ウ 指導過程の歴史                                           -155

 (ア) 注入的教授過程(語学的教授過程)
 文字や言語を教授することを国語教育と考えた時代には、まず、模範を示してこれに従わせることが考えられた。  156
したがって教授過程も、模範を示し、それを模倣することが中心であり、また、言語形式の教授から言語内容の教
授へという過程が取られた。
 たとえば、「単語読方」の教授過程は次のようであった。
 1 範読――教師がまず訓読する。
 2 素読――生徒が範読にしたがって読む。
 3 訓詁――生徒がじゅうぶんに読めるようになってから、その意義を授ける。
 4 暗誦――生徒が暗誦できるまで練習する。
 (イ) 開発的教授過程
 このような純然たる注入主義の教授過程もやがて、単語の教授において、(1) 言語内容を理解させてから、(2)
文字を提示し、(3) その読み方を授けるという過程が取られるようになった。たとえば
 1 語の意味の理解――教えようとする語の内容を説明し理解させる。
 2 文字の提出――語を文字化して示す。
 3 文字の読み――読み方を授ける。
 4 文字を書く――板書を視写する。
 5 文字の読み――書いた文字を読む。
 6 意味の確認――語の意味を言わせる。
 7 温習――練習する。
 つまり、(1) 意味理解、(2) 文字提示、(3) 読む、(4) 書く、(5) 読む、(6) 意味確認、(7) 練習という過程が   157
とられた。
 (ウ) 心理学的教授過程
 明治二十年代にはいると、ヘルバルト学派の教育学が輸入され、いわゆる教授段階法が紹介された。これは、教
材を提示し教授するに当たって、一定の順序に従って段階的に進めるべきことを規定したもので、これを教順と呼
んだ。
 その教順決定の基礎を心理学においた。
 l 予備――生徒の既有の顧念を整理し、それと新たに教授すべき事項との関連をはかって、生徒が受け入れや
  すいようにするための諸準備。
 2 提示――新たに教授すべき事項を提示して明らかにする。
 3 比較――生徒の既有の知識体系、観念体系の中に、新たな教授事項を組み入れる。そのために、既有の知識
       観念を基礎として、差異、同一、対比、因果、主従その他の諸関係を比較し判断する。
 4 総括――新たに教授した諸事項についてその共通点、一般的事項、本質等をことばによってまとめる。つま
       り既有の知識、観念と結合させる。
 5 応用――教授した事項を、実際生活の中に自由に適用することを知らせる。
 後にこの五段階は、(1) 予備、(2) 教授、(3) 整理の三段階に整理された。
 この五段階法、三段階法は、合理的に段階を追って教授できるように考えられていたので、ひとり国語教授だけ
でなく、各教科の教授もこの五段階法をとった。
 (エ) 解釈学的教授過程                                          158
 大正十一年、垣内松三は、「国語の力」によって、それまで行なわれていた国語教育における形式論、内容論を
止揚統一した形象理論を提唱し、それ以後長くわが国の国語教育界を風靡した。しかも、形象理解の実践原理とし
て解釈学を導入し、その立場から教授過程を確立した。
 1 一次の読み 2 二次の読み 3 三次の読み
 また、センテンス・メソッドの立場から
 1 文意の直観 2 構想の理解 3 語句の探究 4 内容の理解 5 解釈より鑑賞へ
と展開した。さきにあげた芦田恵之助の「冬景色」の三時間にわたる授業も、この過程に従って展開されていると
解説している。
 また、石山傭平も、解釈学に基づいて、
 1 通読――大意を読み取る段階(解釈の第一段階)
 2 精読――大意と節意、語意などとの関係を理解してさらに読みを深める段階(解釈の第二段階)
 3 味読――それまでの読みを基礎にして味わって読む段階(解釈の第三段階)
 という教授過程を提唱し一般化された。
 また、芦田恵之助は一時間の教式(教授過程)として、いわゆる七変化の過程を確立し実践した。
 (1) 読む
 (2) 話し合い
 (3) 読む
 (4) 釈く                                                 159
 (5) 読む
 (6) 書く
 (7) 読む
がそれである。
 (エ) 単元的指導過程
 太平洋戦争後、国語教育の範囲がいちじるしく広げられ、言語経験を学習内容とする、単元よる指導が行なわれ
るようになった。
 その結果従来の読解中心の教授過程は適用できない面が多くなった。そこで、新たに単元の指導過程として、
   l 導入  2 展聞  3 終末
 という過程が確立された。この指導過程は他の教科においても同じように採用された。
 また、この指導過程は、単元全体の指導過程であるとともに、一時間の指導過程としても用いられた。

    
(二) 学習指導過程の原理

 学習指導過程は、学習者である児童・生徒と、学習する内容と、それを指導する教師との関係を統制し、それを
秩序立てるところに成り立つものである。したがって、学習指導過程を規定する諸原理は、次の中に求めることが
できる。
 (1) 本質的立場――国語学習は、ことばを扱う学習であるから、言語をどのように考えるかによって規定される。  160
  (言語観、国語教育観)
 (2) 主体的立場――学習者が、何を求めるために学習するか、その求め方によって規定される。(単元の学習目標)
 (3) 客観的立揚――学習内容がどのように組織されているかによって規定される。(単元の学習内容、学習資料)
 (4) 指導的立揚――学習指導をどのように考えるか、その考え方、方法によって規定される。(単元の学習指導
  の方法・技術)

   1 学習指導過程の基本原理

 学習指導過程の基本的な原理は、主体の言語行為が、何を、どんな順序で求めるか、その過程によって決められ
る。
 たとえば、読解の指導過程を考えるには、読解をどのように考えるかによって決めらる。(1) 「読むことは、文
章の意味を理解することである。」と考える立場では、意味の「解釈過程」「理解過程」が、その基本原理となる。
また、(2) 「読むことは、文章の書き手とともに思考することである。」と考える立場では、「思考過程」が、そ
の基本原理となる。さらに、(3) 「読むことは、ことばによって認識を深めることである。」という立場では、
「認識過程」が、その基本原理となる。あるいは、(4) 「読むことは、文章に内在する価値を獲得し生産すること
である。」という立場では、「生産過程」が、その基本原理となる。
 このように、指導過程の基礎にある諸原理を明らかにすることによって、指導の効果を能率的にあげることがで
きるとともに、指導過程の改善進歩に資することができる。

 (1) 解釈学的な学習指導過程の基本原理                                   161

 解釈学では、深い意味の理解をねらっている。そこで、意味はどのような順序によって理解されるか、また、意
味の理解は、どんな解釈過程をたどって深められていくか。つまり、意味の「解釈過程」「理解過程」を明らかに
し、それによって、学習を進めると意味が理解しやすい。

 ア 意味の構造

 文章の意味を理解する場合、意味はどのように組織され、構造化されているかを知っていると理解しやすい。そ
の構造にそって理解していけばよいからである。そこで、意味の構造について考えてみたい。
 (ァ) 意味の層的な見方
 垣内松三は、その解釈学に基づいて、意味を、叙述層、表現層、象徴層の三層に分析して、意味の深まりを層的
にとらえた。たとえば、「さるも木から落ちる。」という文の意味は、(1) 「さるも木から落ちることがある。」
という、書かれている――叙述されていることがらそのものを示している。これが叙述層である。また、「さるで
も木から落ちることがある。」という事実は、「さるのような木のぼりのじょうずなものでも油断をすれば木から
落ちることがある。」という意味を表わしている。作者は、この文によって、この事実を叙述することによって、
そのような意味を表した。これが表現層である。それはまた、「さるのような木のぼりの名人でも木から落ちるこ
とがあるのだから油断をしてはいけない。何事も油断なくやろう。」という作者の心づもりが、意図が示されてい
る。これが象徴層である。
 このような意味の層的な解釈によって、解釈手続きによって、その文の深い意味を理解することができる。     162
 この解釈過程、理解過程にもとづいて指導するところに、(1) 一次の読み、二次の読み、三次の読み。(2) 通読、
精読、味読というような、解釈学的指導過程は成立したのである。
 しかし、このような意味の構造を持った文章は、主として文学的な文章である。新聞記事とか、説明文、解説文、
掲示とか、実用的な手紙とかいうような文章は、そのような意味の構造を持っていない。戦後解釈学的指導過程が
一般に迎えられなかったのは、そのような文章の読解には適用できなかったからである。
 (イ)意味の過程的な見方
 意味を階層的構造体とみる見方に対して、意味を線条的、過程的構造体としてみる見方も考えられる。(1) 意味
を時間的経過の上に構造づける。(2) 意味を空間的変化の上に構造づける。(3) 意味を因果関係、序論、本論、結
論、などのように論理的展開の上に構造づける。(4) 意味を反複的連続の上に構造づける。(5) 意味を連鎖的呼応
の上に構造づける。(6) 意味を漸層的発展の上に構造づける。(7) 意味を独立的関係の上に構造づける。
 このように、意味がある原理を通して、線条的、過程的に構造づけられている文章がある。
 新聞のニュース記事などは、見出し、要約、本文と意味が同一平面に漸層的に組織されている。説明文の中には、
説明内容を要素的、独立的に記述しながら全体として統一されている文章がある。また、中には、事実、結論、事
実、結論、事実、結論の順序で孤立的に述べながら最後にまとめる文章もある。観察記録などのように、時間的経
過に従って、事実を書き連ねていく文章もある。
 このように、意味の構造は、それぞれの型に応じた学習指導の過程を考えることによって意味の理解を容易にす
ることができる。通読、精読、味読というような解釈学的指導過程では、意味が三層的構造を持つ文章――主とし
て文学的文章においては、この指導過程によることができるが、新聞のニュース記事や観察記録のような文章では、  163
この指導過程をそのまま適用することはできない。
 解釈学的立場に立って、過程的、線条的意味構造を持つ文章の読解過程を新たにくふうすべきである。

 イ 解釈過程、理解過程

 意味を、叙述層、表現層、象徴層の三層によって成り立つ層的構浩体とみる。この層的構造体としての意味を、
その階層から階層へと深めて解釈し理解する。そこに解釈過程、理解過程が成立する。
 したがって、意味の理解は、まず、書かれている事実の解釈、理解から出発する。次には、その叙述されている
事実を中心にして、それの表わす意味を解釈し理解する。最後にその意味を支配し統制する書き手の心づもりを解
釈し理解する。
 解釈、理解は、このような順序で行なわれる。それが、層的構造体としての意味の解釈過程、理解過程である。
 この解釈適程、理解過程を基礎として成立したのが、一次の読み、二次の読み、三次の読み、あるいは通読、精
読、味読という指導過程であると考えられる。
 ところで、情報文のように、意味の構造を層的にとらえるわけにはいかないものがある。たとえば、新聞のニュ
ース記事のように、「見出し」の中に主題がそのまま叙述され、主題の要点、要約が、「リード(要約)」にそのま
ま叙述され、主題に対する詳細が、これまた「本文」に叙述されている。主題も、要約も詳細もすべて叙述層に述
べられている。したがって、次第に読み深める、つまり読み進めるに従って意味の深い理解が得られるというもの
ではない。通読することによって、主題も要点も詳細も同時に理解される。ここに情報文の意味構造の特色がある。
 したがって、このような構造を持った意味の解釈過程、理解過程は、通読、精読、味読というような指導過程に   164
はのらない。
 そこで、情報文の読解における「通読」は、精読の前段階としての通読、あるいは、精読を予想しての通読では
ない。「通読」それ自体が読みの完成段階なのである。その前後に、他の解釈的読みを必要としないのである。
 したがって、常に「通読」「通読」である。「通読」にょって、叙述されていることがらを全体的に理解し、ま
た、「通読」によって叙述されていることがらを正確に、あるいは詳しく理解し、さらに「通読」によって、いっ
そう正しく、詳細に、叙述されていることがらを理解する。
 ここに、情報文の解釈過程、理解過程があり、ここに基礎をおいて、指導過程が成立するのである。
 このように、解釈学的指導過程は、意味の解釈過程、理解過程にその理論的根拠を求めている。

 (2) 心理学的学習指導過程の基本原理

 心理学的指導過程の基本原理は、「読むことは、書き手とともに思考することである。」と考えるところから出
発する。また、「聞くことは、話し手とともに思考することである。」とも言える。また、「話すこと、書くこと
は、ことばによってみずから思考することである。」とも考えられる。
 そこで心理学的指専過程を編成するには、思考活動は、どんな順序、どんな過程を経て進められるかを考え、つ
まり、「思考過程」を明らかにし、それをよりどころとし、基礎理論とすることが考えられる。

 ア 思考活動の構造と機能

 思考活動は、次のような構造を持っている。                                 165
 (1) 概念を得る。(概念化)
 (2) 概念と概念との相互関係を判断する。(判断作用)
 (3) 判断に基づいて推理する。(推理作用)
 思考活動はこの概念化、判断作用、推理作用の総合作用として行なわれる。
 たとえば、「きょうはよい天気だ。」という文を読む。
「キョーワ」と読んで、「きょうは」の概念(意味)をつかむ。次に、「ヨイテンキダ」と読んで、「よい」とい
う概念と「天気だ」という概念とを結合して、すでに得ている「きょうは」という概念との関係を判断する。そし
て「きょうほよい天気だ」という事実判断をする。これを文法的に言えば、修飾と被修飾、主語と述語の関係とし
て判断される。これは、書き手がすでに判断したとおり読み手が判断したことであり、書き手が組み立てた意味を
読み手が再び組み立てたことでもある。また、書き手が体制化した意味(思考)を読み手が自己の中に再体制化し
たことでもある。
 もし、「きょうはよい天気だ。外で遊ぼう。」という文章であれば、「きょうはよい天気だ」という事実判断と、
それと同様にして得られた「外で遊ぼう」という事実判断とが、因果関係として判断される。
 この場合、「きょうはよい天気だ」という事実判断が行なわれて後、「外で」と読むと、それだけで、その次に
どんな判断が行なわれるかが推理される。それは、以前の判断と次の概念との関係によって、書き手の思考の方向
(志向)が推理できるからである。(ここに文型の問題がある。)これがいわゆる文脈である。
 このように、個々の語の概念を次々と獲得しながら、その概念と概念との聞係を判断する。そして、そこに一つ
の事実判断を得る。次には、得られた事実判断をもとにして、また次の事実との関係を判断したり、推理したりす   166
る。こうして思考活動は展開していく。
 この場合判断する閻係にはいろいろある。
 文法的に言えば、すでに述べたように、主語、述語の関係、修飾、被修飾の関係、接続の関係、独立の関係など
がある。
 また、この関係を内容的にみれば、同類、差違、背反、因果、主従、対等、伏線、包含などといった諸関係があ
る。
要するに、思考活動は、(1)  概念をつかむ。(2) 概念と概念との関係を判断する。(3) その判断をもとにして推
理する。という構造過程をもっている。なお、すでに述べたことであるが、こうした思考活動の結果、思想が形成
されるということを忘れてはならない。

 イ 思考活動の特性

 このような思考活動は、次の三つの特性を持っている。
 (1) 思考は何かについて行なわれる。(即物性)
 思考活動は、つねに何かについてのみ働く。すなわち、思考活動の中核となるものが必要である。思考を働かせ
る対象としての話題・主題がなければならない。
 (2) 思考は問題がないと働かない。(課題性)
 思考は、それが働く必要がなければ働かない。ただ考えろ考えろといっただけでは思考は進まない。それを知ろ
うとする、得ようとする、興味や必要や欲求が起こらないと思考はかっばつに働かない。それを明らかにしよう、   167
解決しょう、どうしたらよいのか、なぜだろう、この困難を切り抜けようというような問題がないと、思考はかっ
ばつに働かない。
 (3) 思考は連続的に働く。(一貫性)
 好ましい思考は、何かに即して働き、連続性と一貫性を持っている。したがって、思考が断絶すると不安を感じ
る。また、何かに即して一貫的に働くことによって、思考の発展、展開が期待できる。
 (3) 思考はさらに新しい思考を生む。(生産性)
 思考の結果得られた判断を基礎として、さらに新しい判断が得られる。一つの判断を基礎にして推理を働かせ、
そこにさらに新しい判断が得られる。思考は、その本質として生産性を持っている。

 ウ 思考過程

 (ア) 書き手、話し手の思考過程
 文章や談話は、書き手や話し手の思考の結果である。文章や談話の中でどのように思考を発展展開させたか、思
考をどのように組織化したか、どんな順序によって思考を進めたかは、その文章や談話を分析することによってそ
れを明らかにすることができる。前に過程的にみた意味の構造のところであげた、意味の構造の型は、そのまま書
き手や話し手の思考の展開の型と考えてもよい。
 そこで、文章を読んだり、談話を聞いたりすることは、書き手や話し手が展開した思考の過程にそって、読み手
や聞き手が思考することであるから、あらかじめ文章を分析して、その思考の過程や型を明らかにしておけば、そ
れに応ずる読み手の思考の過程を知ることができる。ここに教材研究の新しい分野がある。             168
 たとえば、ある文章が、(1) 問題提示の段落、(2) 間題解説の段落、(3) 問題解決のための資料をあげた段落、
(4) 問題資料から考えられる解決策を述べた段落、(5) 結論の段落、(6) 結論の適用を述べた段落で組織されてい
るとしたら、そこに、この間題に対する書き手の思考の展開過程を明確に知ることができる。
 読み手は、この思考の展開過程に従って、みずからの思考を展開し、再体制化していくことになる。
 (イ) 思考の一般過程
 デューイは、思考の一般過程を次の五段階に分けている。
 (1) 感ぜられた困難。(2) その場所付けと定明。(3) 可能な解決案の暗示。(4) その暗示のもつ諸関係の推理に
よる開展。(5) その解決案の受け容れ、または、拒否に導くところの後の観察と実験――すなわち信念か、非信念
かの結論。(「デューイ心理学概説」永野芳夫による)
また、R.W.Jepson は.次の六段階に分けている。
(1) 興味や聞心をいだく。(2) 注意する――材料を集めて吟味する。(3) 暗示を得る。(4) 推理する。(5) 結論
を出す。 (6) 吟味する。(「輿水実「同語教育辞典」)による。
 そこで、心理学的指導過程は、このような「思考過程」を基礎理論として編成することになる。

 (3) 認識論的学習指導過程の基本原理

 「聞くこと、話すこと、読むこと、書くことは、それによって認識を広め深めることである。」というように、
言語活動を認識論的立場に立って考えることができる。そこで、認識はどのような順序で行なわれるか、認識はど
のような過程をたどり、どような精神活動によって深められていくか、つまり、「認識過程」を明らかにし、その
過程に従って学習を進めることによって、容易に認識を深めることができる。そこで「認識過程」を学習指導過程   169
の基礎とし、基本原理とすることができる。

 ア 認識活動

 認識活動の基礎に、それが感性的認識であれ、概念的認識であれ、あるいは理性的認識であれ、ともに言語が働
く、言語のあてはめ、わくづけが行なわれることは、前に述べたとおりである。
 認識活動は二つに分けて考えることができる。一つは、いわゆる感性的認識で、事物や現象等を見る(視覚)聞
く(聴覚)嗅ぐ(嗅覚)味わう(味覚)触れる(触覚)など、感覚器管を通して行なう認識である。もちろんこの
場合にも、感覚器管を通して、それをそれと認識するためには、ことばのあてはめをしなければならないことは前
に述べた。
 他の一つは、具体的な事物、現象そのものを感覚器管を通して認識するのでなく、具体的な事物、現象を象徴す
る記号(言語)によって、つまり概念によって、それと認識する揚合である。これを概念的認識あるいは言語的認
識と呼んでいる。
 国語教育で考える認識は、後者の言語的認識(概念的認識)である。感性的に認識を深めること――経験する。
絵を見る。物に触れるなどして――認識を深めたのでは国語教育にならない。

 イ 認識を広め深める

 認識を広め深める場合には、認識活動が行なわれる。認識活動は思考によってささえられている。つまり思考活
動によって認識が広まり深まっていくことはすでに述べた。                           170
 まず、思考活動によって事実が認識される。次にはそのようにして認識された事実相互の関係を判断する。判断
に基づいて推理が行なわれる。こうして次第に認識が広まり、深まっていく。
 こうして認識されたいくつかの事実相互の闘係を判断したり推理したりする。それらの事実を分析したり、総合
したりする。それらの事実の中に流れている共通性、統一の原理を発見したりする。あるいはそれらに含まれてい
る内面的な関連性、有機的関係をつかんだりする。あるいは、その事実の本質をつかんだりする。こうして認識は
一段と深まっていく。
 たとえば、文章を読んで書かれていることがらを認識する。次にその認識したことがらの表わす意味を認識する。
あるいは、文章の段落ごとに書かれている事実を認識する。次に認識された各段落の事実相互の聞係を判断する。
各段落の事実の共通性を認識する。統一性を認識する。こうして、次第に認識が深まっていく。あるいは、文章全
体を読んで、書かれている事実を全体的に認識する。次には全体的な認識を確かめ深めるために、表現に即して分
析的に認識する。さらに、分析的に認識確認したものを総合して一段と深い意味を認識する。

 ウ 認識過程

 認識は段階的にどんな順序、どんな過程をたどって深められていくか。また、認識は、どんな方法過程、技術過
程によって深められていくか。それを順序づけ、秩序化したものが認識過程である。認識がどのようにして深めら
れていくかはすでに述べたとおりである。これを整理してみると次のような認識過程が得られる。
 (ア)事実的認識――抽象的認識――理性的認識
 この認識過程は、(1) ことがら、(2) ことがらの意味、(3) 意味を支配する原理を理解する「理解過程」「解釈   171
過程」と似ている。これは、意味の理解という立場に立って考えるのに対し、認識過程は、認識の深化という立場
から考えている立場上の相違である。
 文章を読み、談話を聞くことによってまず、(1) 事実認識が得られる。次に、(2) その事実の意味、個々の事物
の裏にある抽象的な意味が認識される。それから、さらに、(3) 認識された事実相互の関係、事実を統一している
法則、原理、事実が物語る本質等が認識される。(1) は事実的認識、(2) は抽象的認識、(3) は理性的認識である。
このような過程を経て認識は深まっていく。またその認識の各過程において思考力が働いている。
 (イ) 概念的認識→理性的認識
 感性的認識から理性的認識へとよく言われる。感性的認識は、経験による、感覚器管等による具体的な事実認識
である。この認識は、国語教育以前の間題と考えられる。しかしながら国語教育で扱う概念的認識にしても、この
感性的認識を基礎としなければならない。経験的、感性的にとらえた事実認識に対し、それらの事実の背後にある
真実、原則、本質、統一性、共通性等を認識させるところに理性的な認識がある。
 そこで、国語教育では、概念的認識、言語的認識から理性的認識という方向をとっている。
 (ウ) 全体的認識→分析的認識――総合的認識
 これは、認識の方法過程、技術過程である。つまり、認識を次第に深めていく各過程で、どんな方法、どんな技
術に頼るかという問題である。
 全体的認識は直親的認識と置き替えてもよい。たとえば、文章を読んで全体的に直観的に書かれていることがら
のあらましを認識する。つまり文章を全体的に操作する。
 分析的認識は、全体的に認識したものを、確かめ、深めるために分析的に認識する。全体的なものを要素的、分   172
節的に分析して、観察し、考察し、確認して認識を深める。文節相互の関係を判断したり、分節を比較し合ったり
分節それ自体を明確にとらえたりする。すなわち全体的に認識したものを分析操作をする。
 総合的認識は、分析して確認した個々の分析を、原理か原則によって、あるいは共通性、統一性にょって、総合
する。総合することによって一段と深い認識に到達する。すなわち総合操作をする。
 このように、全体、分析、総合の技術過程、方法過程によって認識が次第に深まっていく。
認識論的指導過程は、この認識過程、認識の方法過程を基礎とし、よりどころとして編成されるのである。

 (4) 機能的学習指導過程の基本原理

 「聞く、話す、読む、書く言語活動は、知識や情報を得たり、心情を豊かにしたりするなど価値を獲得し生産す
る活動である。」とみるのが機能的立場である。そこで、価値はどのようにして獲得、生産されるか、どんな順序、
過程を経て獲得生産されるか、価値の「生産過程」を明らかにし、それを原理として編成した指導過程が「機能的
指導過程」である。

 ア 言語的生産活動

 言語的生産活動は、ことばによって価値を生産し人間性を開発、形成する活動である。この活動に参与する力
(生産力)は、生産的思考、生産的想像、生産的感情、言語能力、言語要素等である。
 これらの力がどのように働いて価値が生産されるかというと、
 (1) 生産財(教材)が選ばれる。                                      173
 (2) 生産財を契機として、生産的思考が働いて、事実判断が行なわれる。
 (3) 事実判断や価値判断の過程において、あるいはその結果に基づいて、生産的想像が働いたり、感情移入が行
  なわれたりする。
 (4) こうして生産財に内在する価値が獲得生産される。
 (5) これらの諸過程において、つねに言語要素の支持があり、言語能力が働く。
ということになる。
 たとえば、読解について考えてみる。
 「子ぎつねは、ぬれてぼたん色になったりょう手をかあさんぎつねのまえにさしだしました。かあさんぎつねは、
 そのりょう手に、はぁといきをふきかけて、自分の手でやんわりとつつんでやりながら、もうすぐあたたかくな
 るよ。ゆきにさわると、あとはあたたかくなるものだよといいました」
 この文章を読んで、(1) ぬれてぼたん色になった両手をかあさんぎつねの前にさし出したという事実、(2) おか
あさんぎつねが、いきを吹きかけてその手を包んでやったという事実、(3) もうすぐ暖かくなるよという事実を読
みとる。この事実判断にともなって、(1) 子ぎつねはいかにも寒そうだ。(2) かあさんぎつねは子ぎつねをかわい
がっている。というような価値判断が行なわれる。この価値判断をする時の基準が価値観である。こうして事実が
理解されるとともに心情が養われていく。つまり、あわれみ、かあさんぎつねの愛情というような価値が獲得生産
されて、人間性を培っていく。言語的事実によって価値感情が刺激されて発展し、価値観が育てられるということ
になる。
                                                      174
 イ 言語的生産過程

 一般に何かを生産するときには、次のような方法過程がとられる。

 (1) 生産目的を明確にする。
   何のために、何を生産するのか。
 (2) 生産計画を立てる。
   計画――生産量、生産方法、生産財、生産用具
 (3) 生産活動を開始する。
   活動――生産財、生産能力、生産用具
 (4) 生産完成
   製品ができる。
 (5) 製品検討、評価
 (6) 製品販売、活用、適用
 この生産過程を一般化してみると
 (1)目的  (2) 計画――方法−資料  (3) 追求  (4) 獲得  (5) 検討  (6) 適用
のようになる。

 ウ 指導過程

 これまでに述べた、価値の生産活動、生産過程に基づいて、機能的学習指導過程を考えてみる。言語活動は、そ   175
れを児童・生徒たちの価値生産活動として考えることによって、生き生きとした活動、目的的活動、同時に主体的
な活動となる。その時に働く言語能力は価値生産のための能力と考えられる。これは、言語能力を機能的にみる立
場と一致する。言語活動は、児童が、言語能力を働かせて価値を追求し生産する学習活動として、単元の中に組織
したものである。そこで、単元の指導過程も、一時間の指導過程もともに価値の生産過程を原理として編成するこ
とができる。次にそれを示す。
 (1)  生活的、価値的な目的を持つ。(2)  価値への接近を考え合う。(3)  価値を追求する。
 (4)  価値を獲得、生産する。(5)  価値を検討する。(6)  価値の適用
 の六段階とする。この指導過程は、読むことだけのものではない。国語の全領域に適用できる学習指導過程と考
えられる。必要に応じて、この過程を (1) 目的、(2) 追求、(3) 獲得というように、三段階に組織してもよい。
 (1)の 「生活的、価値的な目的を持つ。」ことは単元の学習の始めにも、一時間の学習の始めにも行なわれる。
これが学習の根本である。
 (2)の 「価値への接近を考え合う。」は、目的を達成するための計画、方法を考えたり、目的を達成するための
課題を見つけたり、出し合ったりする。
 (3)の 「価値を追求する。」は、目的を達成するために、計画に従って、聞く、話す、読む、書く等の学習活動
を展開する。ここが学習の中心になる。
主として言語能力、言語要素を身につけるのはこの段階である。
 (4)の 「価値を獲得、生産する。」は、(3) において学習したまとめをする。児童・生徒の知識体系、価値体系
の中に新たに学習した価値を位置づける。
 (5) の「価値を検討する。」は、(4) に含めてもよい。感想を整理したり、意見を出し合ったり、批判し合った   176
りする。
 (6)の 「価値の適用」は、いわゆる発展的学習、生活化である。読書生活、創作、編集、日記、掲示、研究、会
議等々、学習後の生活に適用し、言語能力を確実に身につけるようにする。

    2 学習指導過程を規定する諸条件

 学習指導過程はその基本原理だけで決定されるものではない。細かい点については、さらに他のいくつかの条件
によって規定される面がある。

 (1) 単元の目標の考え方によって規定される

 単光の目標を技能養成におくか、価値形成におくか(この場合技能は学習内容の中に位置づける)によって指導
過程が変わってくる。単元そのものの構成が違ってくるからである。単元を話題・題材で統一するか、技能で統一
するかによって、指導過程は変わってくる。また、学習の過程で技能を追求させるか、価値を追求させるかによっ
ても、指導過程はおのずから違ってくる。

 (2) 単元の内容の考え方、組織のしかたによって規定される

 単元の内容を、文字、言語、文章(言語文化)と考えるか、言語経験と考えるかによって、指導過程は変わって
くる。また、聞く、話す、読む、書く言語活動が、単元の内容として、どのように組織されているか、その組織の
しかたによっても変わってくる。                                       177

 (3) 単元の資料、教材の提出のしかたによって規定される

 単発の学習資料としてどんな教材が取り上げられ、提出されているかによって、指導過程はその影響を受ける。
たとえば教科書の作文教材をいつ扱うか、記述前に扱うか、記述後に扱うか、記述中適宜活用させるかなどによっ
て指導過程は異なってくる。また、提出されている教材の数なども影轡を与える。

 (4) 指導の考え方、形態等によって規定される

 指導過程の歴史表を見るとよくわかるように、教授するのか、学習させるのか、学習を指導するのか等によって
指導過程が変わっている。また、一斉学習か、グループ学習か、両者を適宜組み合わせるかなど、指導形態によっ
ても指導過程は変わってくる。

 (5) 技能練習の考え方、位置づけによって規定される

 練習をどう考えるか、たとえば、練習は学習の後に行なうことを原則とするか、あるいは学習前に行なうことも
ありうるかなどの考え方の違いによって指導過程は変わってくる。また、練習は学習の各過程において行なうか、
一まとまりの学習の後に行なうかなどにょっても影轡を受ける。
 以上の諸条件によって、学習指導過程は何らかの意味で左右される。しかし、基本原則それ自体を動かすことは
ないと考える。
                                                      178

    
(三) 学習指導の原理

   1 国語学習の構造と学習の原理

 児童・生徒の国語学習の過程とその全体構造の上に立って、その構造の各部分にどんな学習の原理が働いている
かを考えて、学習指導原理を体系化してみたい。
 学習にあたっては、次の過程をとる。
 (1) 児童・生徒は、生活上の必要や典味から何か(話題・題材)について、たとえば知りたい、理解したいとい
  うような内面的な欲求を持つ。
 (2) その、話題・題材に内在する価値を追求しょうとし、学習の目的を明らかにする。
 (3) 話題・題材に内在する価値を身につけるために(目的達成のために)聞く、証す、読む、習く等の言語活動
  を営む。
 (4) 言語活動を通して、目的を達成し、価値が身につく。
 これを図解すると次のようになる。
                                                      179

  
 学習は、生活上の必要、興味などに基づく内面的な欲求から出発する。ここに「興味の原理」が考えられる。こ
の児童の内面的な欲求から取り上げる話題・題材は人間形成に直接つながる。ここに「価値の原理」が考えられる。
児童・生徒は、その価値を追求し、獲得することを目がける。ここに「目的の原理」がある。この目的を達成する
ために言語活動を営む。ここに「活動の原理」が考えられる。言語活動は、経験としていくつかの言語活動や能力
が統合されて行なわれる。ここに「統合の原理」が働く。それらの言語活動は、児童の言語能力の発達に応じてい   180
かないと学習が成立しない。ここに「系統の原規」がある。また、学習は、教材を媒介とし、個別的にあるいは集
団的に行なわれる。ここに「コミュニケーションの原理」がある。こうした学習の結果、目的が達成され価値が獲得
される。ここに「成功の原理」が考えられる。
 以上八つの原理を抽出し体系づけてみた。

   2 学習の原理

 (1) 興味の原理
 単元の学習は、話題・題材を中心として、組織した児童の言語活動を中心として行なわれる。そこで、その話
題・題材に対して学習しようとする興味や必要がないと、かっぱつな言語活動は行なわれにくい。そこで、児童の
興味や必要は、話題・題材を選ぶ場合の基本原理となり、言語活動を起こす動機となり原動力となる。
 この興味は、事象に対する直接の興味と間接の興味とが考えられる。前者は、直接的、直観的興味であり、後者
は、対象を理解することによって起こる興味である。
 たとえば、前者はおもしろそうだ、ふしぎだ、何だろう、なぜだろう、珍しい、行ってみたい、やってみたい、
調べてみたい、どうしたらいいだろう、私たちの生活とどんな関係があるのだろうなど、さまざな形となって現わ
れるであろう。それを内面的な欲求にまで高めるところに指導がある。後者では、興味を引く要素が、話題・題材
の内にあって、直接児童の感情、感覚、知覚や思考に訴えない。しかし、話題・題材について理解が増すにつれて
興味を持つようになる。そこに指導がある。どんな話題・題材に興味を持つかについてはすでに述べた。
 興味や必要が内面的な欲求に欲求にまで高まらないところには、生き生きとした学習活動は成立しにくい。     181

 (2) 価値の原理

 児童は、話題・題材を中心にして、間いたり、話したり、読んだり、書いたりして、話題・題材の持つ内容的価
値を身につけると同時に国語の能力を養うことになる。したがって、取り上げる話題・題材の持つ価値を身につけ
ることによって、児童の人間性が養われ、育てられ、間発されるものでなければならない。この話題・題材に内在
する価値と・話題・題材を契機として創造される価値、それが直接児童の人間形成に参与する。つまり、人間形成
の実質的な内容となる。であるから、価値は、児童の興味とともに、話題・題材を選択する上の基本的な原理であ
り、また、人間形成の基本原理であるとも考えられる。
 話題・題材に内在する価値というのは、話し手や書き手が、聞き手や読み手に知らせようとし、与えようとし、
訴えようとしているそのものである。それは、知識や理解や情報であったり、人生観や世界観であったり、物の見
方や考え方であったり、感覚的なもの、心情的なものであったりする。
 話題・題材を媒介として創造される価値というのは、話題・題材について、聞いたり、話したり、読んだり、書
いたりすることによって、話題・題材に内在する価値とは別に身につく価値である。
 たとえば、学級の問題を解決するために話合いをする。その話合いによって、問題に対する理解が深められ、問
題に対するいろいろな意見を知ることに、各自の考えが深められ、間題が解決されることによって、生活が高めら
れ、深められたりする。こうして、問題に内在する価値が身につくと同時に、この話合いによって、お互いに理解
が深められて社会性が深められ、協力して問題を解決しょうとする精神や態度が養われる。
 要するに、国語学習は                                           182
 (ア) 教材を契機として、主観的価値を、教材に内在する客観的価値に高めることである。
 (イ) 国語学習は、教材に内在する客観的価値と、教材を契機として形成される主観的価値とのコミュニケーシ
    ョンによって、新しい価値を生み出すことである。
 こうして、価値は、人間形成の国語教育の基本原理として存在するのである。

 (3) 目的の原理

 われわれが、計画的、意識的に聞く、話す、読む、書く言語活動をするときには、必ず目的をもつ。この目的は、
それ以後の言語活動を一貫して支配し、統制する働きをもっている。学習の原理としての意味もそこにある。

 ア 目的は言語活動を規定する

 目的は、まず言語活動を規定する。
 たとえば、情報を得ようとすれば、読む、開くという言語活動をする。自分の意見を人に伝え、訴えようとする
場合には、話したり、書いたりする。また、学級の問題をみんなで解決しようとすれば、話合いや会議を聞く。見
学して聞いたことを伝えようとする場合には、報告をする。あるいは報告書を書く。余暇を楽しむためには物語な
どを読む。
 このように、目的は、言語活動の種類、形態(読む、書く場合は文章の形態)を規定する。

 イ 目的は言語能力を規定する                                      183

 目的は言語活動を規定する。したがって、その言語活動を処理するのに必要な言語能力、言語要素をも規定する。
 たとえば、知識、理解を深めるために文章を読む場合には、要点を正確に読み取る能力が必要であろう。何かに
ついて調べるために読む場合には、目次や索引を利用する、事典を利用する、大事なことを抜粋する、要点を箇条
書きにする、読み取ったことをまとめる能力などが必要であろう。何かの問題を解決するために話し合う場合は、
相手が言おうとしていることを明確に聞き取る、批判的に聞き取る、事実と意見とを区別しながら聞く、言おうと
することをはっきりさせて話す、その他いろいろな能力が必要である。
 このように、目的は言語能力をも規定している。

 ウ 目的は方法を規定する

 目的は学習の方法をも規定する。同じ脚本を読む場合でも、(1) 読んで味わおうとする場合、(2) 読んで脚色の
参考にしようとする場合、(3) 読んで演じようとする場令では、それぞれ読む方法がちがってくる。新聞のニュー
ス記事を読む場合でも、単に情報を得るために読む場合と、社会現象をとらえ、社会の動向をきわめようとして読
む場合とでは、おのずからその読み方が変わってくる。このように、目的は、学習の方法を規定する。

 エ 目的は学習者の立場を規定する

 (ア)目的は言語活動に対する構えをつくる。                                184
 言語活動は、目的を達成するために児童がみずから行なう活動である。主体的行為である。したがって、その目
的を意識することによって、言語活動に対する構えをつくる。構えをもった言語活動がかっばつに、効果的に行な
われることはわれわれの経験によっても明らかなことである。構えをもった読みが、その速さにおいても、理解の
深さにおいてもすぐれていることは実験の結果が示している。
 目的はこのように、言語活動に対する構えをつくりだす。
 (イ) 目的は自己を確立する。
 目的をもって言語活動をすることは、言語活動に対する自己の立場を確立することである。主体性を確立するこ
とである。
 たとえば、児童会の代表として出席した一児童が、その会議の結果を学級に報告する場合、学級に対して報告す
る目的を意識することによって、自己の立場が明確になる。会議の模様をできるだけ客観的に、私意を加えずに報
告しなければならない。できる限り正確にわかりやすく報告しなければならない。
 このように、目的は主体性を確立する。主体的活動というのは、主体の目的によって統制された活動である。児
童が目的を遂行するためにみずから行なう活動である。

 (4) 活動の原理

 聞く、話す、読む、書く活動は、つねにある目的を達成するために行なわれる。したがって、言語活動によって、
その目的とする実質的な価値が生み出される。
 たとえば、話を聞いたり文章を読んだりすると、知識や理解や情報が得られる。人生観や世界観が得られる。感   185
覚が磨かれたり、心情が豊かになったりする。また、話したり文章を書いたりして、思考を正しくしたり、感覚を
磨いたり、心情を豊かにしたり、社会性を増したりする。
 このように国語科の学習においては、言語活動を通して価値を獲得し生産する。
 言語活動は価値を生産するだけではない。その言語活動を処哩するのに必要な言語能力や言語要素を養成する。
したがって、読む力をつけるためには読む活動をすることが原則として必要である。聞く力、話す力をつけるため
には聞く、話す言語活動をさせることが基礎である。
 要するに、言語活動は価値を生産し、言語能力、言語要素を養成する。ここに「活動の原理」が成立する。

 ア 言語活動は、児童・生徒の内面的な欲求に基づくこと
 その活動が効果的、能率的に営まれるためには、児童・生徒の内面的欲求から出発した活動でなければならない。
目的的な活動、意欲的な活動、主体的な活動でなければならない。
 イ 言語活動は、内容的価値が確実に身につく、つまりことばが最もよくその機能を発揮できるものであること
 学習は何でも言語活動さえさせればよいというものではない。その活動によって、好ましい価値が生産され、好
ましい能力が養成されるものでなければならない。それは、目的を達成するために、ほんとうに必要な活動である。
 ある文章を読んで、要点を読み取る力をつけようとすれば、要点をおさえて読む力が、じゆうぷんに働くような
活動をさせなければならない。ただ読ませればよいのではない。敬語の使い方を身につけようとする場合には、敬
語を必要とする場面や機会において、敬語を使わせることを考えなければならない。ただ単に敬語に対する一応の
知識を与えたくらいでは、それを使うというところまではいかないのである。                   186
 要するに必要に応じて、機能的な活動をさせることを計画すべきである。
 ウ 言語活動は、言語要素に支持され、言語能力によって処理されること。
 このことは、くり返し述べてあるのでここでは省略する。
 エ 言語活動は、価値の獲得、生産を契機として、言語の内容と形式とを機能的に統一していること
 言語活動を分析して、話題、言語要素、言語能力というように、一応要素的、構造的にみているが、それは研究
考察の便宜上のことであって、学習の場においては、価値を生産する活動として統一的、機能的に考える。形式、
内容を含み、それを越えた機能としてみる。ここに機能的立場がある。垣内先生の形象諭は、形式、内容の二元観
を統一するという方向であったと思う。その主張された新内容主義も、形式主義、内容主義の対立二元観を統一す
るという立場であったと思う。
 機能的な考え方は、内容、形式の二元観を前提としない。両者の統一の方向で考えるのではない。したがって、
学習においては、つねに価値追求の言語活動として機能的に考える。

 (5) 統合の原理

 ア 単元は有機的統合体である。
 単元は、話題・題材に内在する価値を獲得生産するための言語活動を有機的、総合的に組織したものである。そ
れは、言語活動を寄せ集め的に組織したものではない。価値の獲得、生産に有機的につながる活動として統合され
ているものである。有機的というのは、分節の統合の状態、本質を示すことばである。分節が有機的に結合した全
体として、価値を生産する機能を持っている。それが機能的な単元である。ここに統合の原理か働いている。もち   187
ろん、各言語活動が有機的に統合されているだけではない。そこに必要な能力もまた有機的関係において統合され
ているのである。
 イ 言語能力は児童の全体的な成長発達の中で伸びる。
 言語能力は、児童・生徒の全体的な成長発達の中で、他の諸能力との関連において発達する。
 言語能力は、児童・生徒の生理的発達、心理的発達との関連の中で発達する。身体の発達、精神の発達とともに
発達する。言語能力だけが、孤立的に独自の発達をするものではない。であるから、われわれは、言語能力を有機
的統合体の一分節と考えたい。つまり、言語能力を孤立的に考えない。言語経験の発達、身体の成長発達、知能の
発達、情意の発達などと関連的にとらえるようにする。

 ウ 言語能力は統合的に働く
 戦後、言語能力の研究調査が進み、能力の分析が行なわれて、その実態が明らかになってきた。しだいに細分化
され、いろいろな能力それ自体がとらえられるようになってきた。しかし、言語活動の場においては、分節された
諸能力が他の能力と統合されて働いている。ある能力が孤立的にそれだけが働くということは考えられない。要点
を読み取る能力、細部を読み取る能力、語句の理解力など、そのような能力が働いて主題を読み取ることが可能に
なる。言語活動の中ではつねに言語能力が統合されて働いている。
 言語活動の中で、各言語能力が統合的に働くだけではない。言語能力と他の諸能力たとえば、判断力、推理力、
想像力、記憶力等々ともつねに統合的に働いている。これらの力の助けなしに言語能力は働かない。
 また、言語活動は、それ自体相互に内面的に深い関連をもっている。聞く、読む活動を通して身につけた語いや
知識、理解、思考力、心情などは、話す、書く場合の思想内容を豊かにし、話す、書く能力を生み出す。また、話   188
す、書くことによって、それをいっそう確かなもの、深いものにする。要旨を聞き取る能力、主題を読み取る能力
要旨を明確に話す能力、要旨を読み手にわかるように書く能力などは、それぞれの活動によって相互関連的に伸び
ていく。漢字力を身につけるためには、漢字を読むこと(音)漢字を書くこと(形)漢字の意味、用法を知ること
(義)が統合されなければ、完全には身につかない。
 このように、統合の原理は、言語活動相互の問に、言語能力相互の問に、また言語能力と他の能力との問にそれ
ぞれ働いている。

 (6) 系統の原理

 ア 教育的系統
 教育の仕事はすべて、計画的、組織的、系統的に行なわれる。系統性を持つということは、基本的な事項に対し
て関係のないものは捨てる。必要なものを整理して秩序化する。学習について言えば、ある事項を学習するとそれ
を基礎として次の事項が学習されるというように段階づけられているということである。学習内容がこのように系
統づけられていないと、学習が効果的に行なわれない。
 したがって、この系統性は、児童・生徒の発達、学習内容の発展、学習の進歩に基づいて考えられなければなら
ない。児童の心身の発達は心理的、生理的である。学習内容の発展は論理的である。学習の進歩は教育的である。
学習内容を論理的に系統立て、組織しても、生理的、心理的に発達する児童に合わせることは困難であろう。
 したがって、系統性は、児読・生徒の心身の発達段階を中心とする心理的、生理的なものに、学習内容の論理性
を加味して、そこに新しい教育的系統を立てなければならない。それは、学習結果の進歩の段階によりて示される。  189
 たとえば、漢字の習得は、絶えず見ている、使っている、親しみのある漢字(心理的)日常生活の中で広くたび
たび使われている漢字(社会的)が学習しやすい。その場合字画の多少、複雑はあまり間題にならない。ところが、
漢字そのものについては、字画の少いものから多いものへ、同類の漢字やつくりやへんのある漢字については、木
―林―森、木―交―校のように論理的に系統立てられる。この系統に従って学習させることも考えられる。しかし、
児童の心理を無視した学習が効果的でないことは一般の認めるところであろう。そこで、児童の生理的、心理的な
発達を中心にして、それに必要な論理性を加味した教育的系統を考えるべきである。
 イ 児童・生徒の発達段階を中心とする系統
 児童・生徒の心身は段階的に発達する。その発達の段階を系統的にとらえ、それに応じて学習を進める。たとえ
ば、(1) 児童・生徒の興味主題はどう発達するか。(2) 音読・黙読はどう発達するか。(3) 主題を読み取る能力は
どう発達するか。(4) 児童の話しことばの文型はどう発達するか、その他など、児童・生徒の話題の発達、言語能
力の発達、言語の発達、文章の発達などを系統的にとらえ、これに応じた学習を考える。そこに一つの系統性を考
えるべきである。
 一般に、児童・生従の発達段階は、知識、理解の論理的な系統と一致しない揚合いが多い。たとえば、文の構造
の系統は、単文、重文、複文と考えられる。時について言えば、現在型、過去型、未来型である。しかし、児童が
実際に書く文は、一語文、単文、複文、重文の方向をとる。過去型(ました)現在型(です、ます型)終止型(降
る型)未来型の方向をとる。文は、単語、文節、文と発展するが、児童の表現は最初から文である。
 そこで、学習内容の系統は、学問的な論理的な系統でなく、児童の発達に合わせて系統立てる方向に進んでいる。
言語能力においても全く同じである。                                     190
このように、系統は内容を組織する場合の基本原理である。

 (7) コミュニケーションの原理

コミュニケーションは、お互に思想、感情、感動などをことばなどの記号を通じて変換し合うことである。国語
教育は、ことばによるコミュニケーションによって、価値を獲得、生産する活動である。従来の国語学習は、教師
と児童との間における一方的コミュニケーション(教師が児童に教授する)の傾向が強かったが、今の国語学習は、
教師と児童、児童と児童、児童と学習内容との間における相互コミュニケーションが中心になって進められている。
 読解学習は、文章を媒介とする通じ合いによって、書き手(送り手)の意図を読み手(受け手)が受け取って、
自己の中に価値を生産する学習である。書き手は文章によって意図を送る。読み手はそれを読み取って反応する。
その反応が意図に反したり、意図から離れている場合に、教師が書き手、送り手に代わって言語記号に基づいて、
読み手に働きかける。そこに指導がある。聞く、話す学習がコミュニケーションによって行なわれることはいうま
でもない。広い意味では、国語学習はすべてコミュニケーションによって行なわれると言ってもよい。
 コミュニケーションでは、送り手と受け手(話し手と聞き手、書き手と読み手)の相互関係、送り手の意図と受
け手の態度、反応、送り手と受け手との立場の交換、送り手の言語記号と送りの内容との関係、言語記号に対する
送り手と受け手の理解の差などについて考えておくことがたいせつである。
コミュニケーションは、価値の獲得、生産を目ざす国語学習の基本的な方法原理と考えてよい。

 (8) 成功の原理                                             191

 国語学習は・言語活動を通して目ざす価値が獲得され、言語能力が養成されて完結する。そこで児童は成功感を
味わい、精神の安定を得る。このような成功感、安定感は、第二のかっぱつな意欲的な活動を生み出す力となる。
そこで、学習指導に当たっては、常に目的をもった活動を用意し、活動の結果、成功感が得られるものを与えるよ
うにする。それには課題の難易、発問の程度、教材の適否などを研究する必要があろう。

    
(四) 学習活動の選択

 学習効果をあげるためには、よい学習活動を選ぶ。よい学習活動とは機能的な学習活動である。価値の生産と言
語能力の養成とが効果的に行なわれる活動である。それは次のような学習活動である。
 (1) 児童の獲得すべき望ましい実質的価値、児童が習得すべき言語能力とが身につく機能的な学習活動
 (2) 意欲的なかっぱつな学習活動
   与えられる学習活動でなく、児童の興味、必要、欲求に基づく活動を選ぶ。
 (3) 目的を意識した学習活動
 学習活動はつねにその活動の目的が明確に意識されることがたいせっである。それは、大きくは、生活的、機能
的目的を持った活動であり、また、その目的を達成するための学習の過程で、さらに小さく分析された目的が考え
られる。
 (4) 問題を解決するための学習活動                                     192
 みずから問題を発見し、構成して、主体的、計画的な学習活動とする。
 (5) 主題で一貫した学習活動
 学習活動がばらばらでなく、つねに主題によって統一された学習活動を選ぶ。それは一貫して思想、心情を形成
する学習活動となる。
 6) 能力の発達に応じた学習活動
 あまり程度の高い学習活動を選んだのでは各自の言語能力によってそれが処理できない。また、余りやさしすぎ
ると学習が成立しない。一年生の児童に主題の読み取りをやっても無理である。要約などを三年生の児童に要求す
るのも無理である。
 (7)  能力が身につく学習活動
 どのような学習活動をさせれば、どんな能力が身につくかを明らかにする。たとえば、要点を読み取る力をつけ
ようとするには、要点を読み取る必要のある学習活動を選ぶ。
 このような機能的な学習活動を通して、価値の生産と言語能力の養成とが、効果的、能率的に行なわれる。
 それは、(1) 生きた言語活動は生きた言語能力、言語要素を身につける。(2) 欲求を満たし、問題を解決するた
めの言語活動は思考活動をかっばつにする。(3) 主題に統一された言語活動の中では、一貫性をもった思考活動が
行なわれる。(4) ことばの機能に即した目的をもつ言語活動は価値を生産する。(5) このような学習活動は、主体
の学習行為と考えられる。というような考え方にささえられているからである。
                                                      193

    
(五) 練習の原則

   1 練習の考え方

 国語の能力は、目的をもった生きた言語活動(経験)の中で、効果的に養成されることは衆知の事実である。読
書量の多い児童が、語いも豊富であり、表現も豊かであることも衆知の事実である。漢字の読み書きについても、
たとえば「衆」一字を取り出して、その読み方や意味を教えて記憶させるよりも、「大衆」「観衆」と語として読
み方を教え意味を考えさせるほうが、「衆」一字を出してその読み習きを教えるよりもはるかに覚えやすい。また、
「大衆」「観衆」のように語として学習するよりも、「広い運動場も観衆でうずまった」というような短句、短文
の中で学習させたほうが、はるかに覚えやすく、身につきやすい。
そこで、理想を言えば、つねにそのような具体的な言語経験の場を用意して、その中で国語の能力を養成すること
がよいのである。しかし、国語科の学習というように限られた時間内に、つねに生きた言語経験をさせることは、
事実上できない。
 そこで、練習によって一度学習した能力を確実に身につけることが必要となる。
 また、小学校六か年間に使用する国語教科書に出てくる異語数は一万語内外であるが、このうち六か年間を通し
て一度しか現われない語が五〇パーセント以上もある。
 これでも練習がいかにたいせつであるかということがわかると思う。

   2 練習の方法の原則                                         194

 そこで練習については

 (1) 学習の後に練習をする(基本原則)

 発音の練習をしてから話す。要点を読み取る練習をしてから読む、文字の読み書きを練習してから読むというや
り方をさける。話をすることを前提とし、その中で、発音が正しくないために聞き取りにくい。そこで話をする中
で発音に気をつけさせる。それから練習をする。読む学習の中で要点を読み取る学習をさせる。その後で、要点を
おさえて読む練習をする。

 (2) 興味のない機械的な練習にならないようにする

 機機機、械械械、あるいは、機械機械機械、また、思思恩(思う)、美花美花(美しい花)などのような練習に
ならないようにする。

 (3) 練習によってねらうものを明確にする

 速さを増す。正しさを増す。確かさを増す。深さを増す。美しさを増すとか、きょうは筆順についての練習をす
る。字形の取り方を練習するなど、練習でねらうものを明確にして練習させることがたいせつである。

 (4) 短時間ずつたびたび練習する                                     195

 練習はとかく形式的になりやすく、あきやすいから、長時間練習するのは好ましくない。なるべく短時間ずつく
り返し精神を集中して練習するほうが忘却率も少ない。反複することは、練習では特にたいせつなことである。

 (5) 練習による進歩を自覚させる

 練習の効果をなんらかの意味で自覚させることがたいせつである。練習の結果を評価して知らせるのもよい。

 (6) 個別指導を重くみる

 練習の時間に、読めない漢字、意味のわからない語句を書いている児童がよくある。練習中に、読み方を聞いて
みたり、筆順を観察したり、意味を言わせたり個別的な指導をする。練習では、最も個別指導がしやすいものであ
る。

   3 練習の内容

 練習というと、従来、発音発声の練習、漢字の読み書きの練習、それに僅かながら語句の練習などがその大部分
を占めていた。もちろん言語要素の練習も大事である。しかし、さらに大事なのは、技能の練習である。たとえば、
 (1) 文章を書く技能の練習――構想の練習、表現の練習、文章の視写・聴写の練習、表記の練習、くぎり符号の
練習、会話文の練習、観察表現の練習などいろいろ考えられる。
 (2) 聞く、話す技能の練習――話し方の練習、聞き方の練習、放送の聞き方の練習、報告のしかたの練習、意見   196
  の述べ方の練習などいろいろ考えられる。
 (3) 読むことの技能の練習――要点を押えて読む練習、細部に注意して読む練習、要約する練習、意図を読み取
  る練習などいろいろな技能が考えられる。
 これら練習すべき技能は、単元の学習事項としてあげてある。したがって、そこで、かならず、その技能の学習
が行なわれているから、それにもとずいて、その技能の練習をする。
 技能の練習は、単元に即して、そこで学習する技能について練習ができるようにくふうしたワーク・ブックやス
キル・ブックを使うことが望ましい。技能の練習を確実にするよう一段と努力することが望まれる。

   4 練習の機会

 学習に追われてつい練習は忘れがちになる、そこで、単元の指導計画の中に、いつ、どこで練習するかを位置づ
けておくとよい。
 練習を指導計画の中に位置づけるためには前に述べた練習の方法の原則を考えた上で計画を立てる。
 (1) 学習の都度練習するという場合には、特別に練習の時間を取らない。
 (2) 一時間の終わりに、その時問に学習した言語や技能について五分なり三分なりとって練習する。
 (3) 一教材について学習が終わったところで、そこで学習した言語・技能について練習する。
 (4) 単元の学習が終わったところで、一時間ぐらい時間をとって、その単元で学習した言語・技能について練習
  する。
 (5) 単元の学習が終わったあと発展的な学習として、文章を書いたり、図書館の本を読んだり、あるいは継続的
  に日記を書いたり、学級新聞を編集したり、掲示を書いたり、校内放送をしたり聞いたり、劇をやってみたり
  などをする。その中で学習した言語や技能を確実に身につける。そのような技能の養成も考えられる。
                                                      197-203

    
五 資料教材の機能的な考え方


    (一) 教科書の歴史

教育法規  教科書、教材  解    説 
学制
明治 五
 綴字(知恵の糸口、うひまなび等)
 単語読方(童蒙必読、地方往来、商売
      往来)
 読本読方(学問のすすめ、西洋衣食住、
      西洋夜話、窮理、問答、
      物理訓蒙、世界国尽)

o教科書は作られず、当時読まれた、往来物、
 実利主義的な啓蒙書等が教科書として用い
 られた
o「読本読方」―西洋衣食住、学間のすすめ、
 啓蒙思想の環等ヲ用テ、一句読ヅツ之ヲ授
 ケ生徒一同之に準誦ス(小学教則)
明治 六







明治 六





教育令
明治 一三 
 単語篇(文部省編纂)
 oいろはに  o方(東西南北、
         乾坤巽艮)
 oアイウエオ。o形(角、丸、三角、
           菱、長、短、高、
           低等)
        
 o四種活用図 o数(一二三……)
 小学読本(田中義廉)
  「凡世界に住居する人に、五種あり、
  亜細亜人種、 欧羅巴人種、メンイ人
  種、亜米利加人種、亜弗利加人種なり。
  日本人は亜細亜人種の中なり。」
 小学読本 近体文 三島豊三郎編
  「知ヲ聞キ才ヲ達ス。」「親ヲ敬ヒ子
   を慈ム。」「 師ノ我ヲ教フルハ我
   ヲ愛スレバナリ、父ノ我ヲ戒ムルハ
   我ヲ悪ムニ非サルナリ。故ニ我ハ常
   ニ師父ノ教戒ヲ受クルヲ厭ハス。」
 
o入門書として作られ、漢字の単語から学習
 させた。
oこれ以後明治三十五年まで、文部省編集の
 読本と民間編集の読本とが平行して用いら
 れた。ここにあげたものはほんの一部にす
 ぎない。
o教材は文語文であった。
o読書−初等科ノ読方ハ伊呂波、五十音、濁
 音、次清音、仮名ノ単語、短句等ヨリ始メ
 テ仮名交り文読本に入り兼テ読本中緊要ノ
 字句ヲ書取ラシメ、詳ニ之ヲ理解セシムル
 コトヲ務ムへシ(小学校教則綱領)
o読本ハ、文体雅馴ニシテ学術上ノ益アル記
 事或イハ生徒の心意ヲ愉ハシムへキ文調を含
 有スルモノヲ撰用スへク……(略す)
 (小学校教則綱領) 
小学校令
明治 二〇



明治 三三










明治 三五 
尋常小学読本七巻(文部省編輯局)
 「あの木の上に、大きなとりがゐます。
 あれは、からすであります、アレ、ごら
 んなされ、下のえだには小さいのがゐま
 す。」
国語読本尋常小学校用八巻(坪内雄蔵、
              富山房)
 「春がきて、あたたかになりました。
 山は一めんにあをあをとして、のには
 れんげそーやすみれやたんぽぽがきれ
 いにさいてをります。
  ひばりもおもしろそーにうたひ、ち
 ょーもたのしそーにまってゐます。
  あれおやへさんとおちよさんとがつ
 みくさをしてゐます。あそこまでかけ
 くらをしてまゐりませう。」
 尋常小学
 国語読本育英会編輯所 
o文語文と口詰文が教授された。
o読本ノ文章ハ平易ニシテ国語ノ模範トナリ、
 且児童ノ心情ヲ快活純正ナラシムルモノナ
 ルヲ要シ、其材料ハ修身、歴史、地理、理
 科、共ノ他生活に必須ナル事項に取り趣味
 ニ富ムモノナルへシ(小学校令) 
明治 三六
 −四二 
 尋常小学読本 八冊 文部省
 教材「イ・エ・ス・シ・シ・ヒ・ズ
 (以下略)」
 一年 タンポポ、サクラ、ナノハナ、
    ツバメ、ツバメトスズメ、うめ
    のみ、ホタル、せんたく等
 三年 わたくしの家、のあそび、水ノ
    タビ、むぎ、虫、たうえ、ツユ
    水ノコーヨー等
 六年 郵便、新聞紙、おふみの慈善、
    貯金、工業、焼物と塗物等
  「都会の事も。田舎の事も千里あち
   らの 他国の事も一目でわかる 
   新聞紙 あー。ちょーほーな新聞
   紙
    (巻八「新聞紙」より以下略)
  「拝復、十月二十八日附の御手紙に
   て当店専売の改良釜御注文下され
   有り難く存じたてまつり候、本日
   通運にて送り出し候間御ためし下
   され度候
    十月三十日   以上
          井上金物商店
     後藤吉兵衛殿
 ※国定本 黒表紙本(イエスシ読本)
oこれから教科書は国定本一本になった。
o口語文が独立した文体として扱われた。
o棒引きかなづかいが採用された。
o「本書ハ発音ノ教授ヲ出発点トシテ、
 児童ノ学習シャスキ片仮名ヨリ入リタリ
 (編纂趣意書)」
o入門期―文字法による
o語学的読本 
明治四三―
大正六
尋常小学読本 一二冊 文部省
 「七里が浜のいそ伝ひ、
  稲村が崎名将の剣投ぜし古戦場
 「極楽寺坂越え行けば
  長谷観音の堂近く露坐の大仏おはし
  ます。
  (以下略す。巻十二「鎌倉」より)

※黒表紙本の改訂本
o八巻が十二巻となった。
o棒引きかなづかいを歴史的かなづかいに
 改めた。
o入門期−単語法による。
o文学的な読本。
 国民的行事、国民童話、伝説、神話類が
 増した。 
大正七―昭
和七
尋常小学国語読本 文部省
 教材 巻一「ハタ、タコ、コマ、ハト、
    マメ、コトリ、タマゴ」
    巻二 ニハトリ、日ノデ、カト
   (一年)ウキヨマサ、トラトキツ
       ネ、月、水、ヨクノフカ
       イ犬、サルト月、木ノハ等
   
    巻六 四季、日本のけしき、日
   (三年)本の花、ガン、そが兄弟、
   (六年)秋の野、塩とさとう、大
       根、牛かへ、上杉謙信、
       私のくせ、杉、星等
    巻十二 明治天皇御製、我が南
        洋、天気予報及び暴風
        
警報、辻音楽、新聞、
        森林、ヨーロッパの三
        大都、水郷の秋等
 

※黒表紙本の改訂本(ハタタコ読本)
o修正ノ方針トシテハ、特ニ左ノ種類ノ教
 材ヲ増加スルノ計画ヲ立テタリ
 一、児童ノ日常生活ニ関スルモノ。
 一、田園趣味ヲ養成スへキモノ。
 一、理科及ビ実業ニ関スルモノ。
 一、経済及ビ公民ノ心得ニ関スルモノ。
 一、国勢ノ現状、世界ノ事情ニ通ゼシム
   へキモノ。 
大正七―昭
和七
尋常小学国語読本 一二冊 文部省
 教材 巻一「ハナ、ハト、マメ、マス、
    ミノ、カサカラカサ」
 巻二 ウンドウクヮイ、オキャクアソ
(一年)ビ、キクノハナ、ウシワカマル、
    カンガへモノ、犬ノヨクバリ、
    ユフヤケ、月、クリヒロヒ、木
    ノハ等
 巻六 俵の山、日本の高山、ヤクヮン
(三年)トテツビン、きのこ取、海、く
    りから谷、霜、虎と蛾、町の朝、
    弓流し等
 巻十二 明治天皇御製、出霊大社、チ
(六年) ャールス・ダーウィン、新聞、
     蜜柑山、商業、鎌倉、ヨーロ
     ッパの旅等
 

※白表紙本(ハナハト読本)
教材の分類(巻十二)
修身的教材―明治天皇御製、我が国民性の
      長所、短所など。
歴史的教材―チャールス・ダーウィン、
      間宮林蔵、釈迦など
地理的教材―出雲大社、ヨーロッパの旅など
理科的教材―十和田湖、トマスエヂソンなど
実業的教材―蜜柑山、我が国の木材など
国民的教材−新聞、国旗など
文学的教材−鎌倉、月光の曲など 
昭和八―昭
和十六 
小学国語読本 十二冊 文部省
 巻一「サイタサイタサクラガサイク。」
 巻二 山ノ上、オ月サマ、アシタハエ
    ンソク、カマキリヂイサン、サ
    ルトカニ、カラスヨイソゲ、ケ
    ンチャン等
 巻六 神武天皇、祭に招く、村祭、磁
    石、稲刈、日本武尊、山羊、林
    の中、僕の望遠鏡、神風、軍旗等
 巻十二 玉のひびき、出雲大社、古代
    の遺物、支那の印象、孔子と顔回、
    西山荘の秋、鎌倉、末広がり等 
※茶表紙本(サクラ読本)
o入門期−文章法による
o生活的、心理的、機能的立場で作られた。
o教材の内容は国家主義的な考え方でおお
 われた。 
国民学校令

昭和二二年
学習指導要
領国語科編
昭和二二−
二五
 


「こくご」 「国語」 一五冊 文部省
 巻一 「おはなをかざるみんないいこ。
     きれいなことばみんないいこ。
     なかよしこよしみんないいこ。」
 巷二 「あ」のつくことば、えにっき、
    ことはあそび、先生、おはなし、
    山びこ、かげえ、ゆめとつくえ、
    春をむかえに
 三年 小さなねじ、かかし、イソップ
  下 ものがたり、空のうた、月の里
    「かべ新聞、だれの力、つりぼ
    りのゆくえ等
 六年 まさに立つべし、大わしに乗っ
  下 た話、文字の話、めぐりあい、
    その人のことば、幸福の園、最
    後の学級日記 
 



※みんないい子読本
o戦後初めてできた教科書。
o文芸的教科書であるとともに言語教材、
 が大きく取り上げられた。
o話しことばで一貫した。
o教材は次のように分類分類提出された。
 1 詩情表現のむれ
 2 思索記録のむれ
 3 物語のむれ
 4 演劇一般むれ
 5 ことば教材 
昭和二四−
現在



昭和二六
学習指導
要領改訂


昭和三三
学習指導
要領
(国の基準)
検定教科書
(検定基準に基づく検定を受けて合格した
 教科書)
 
o単元的に編集されている。
o教材単元、作業単元、問題単元.
 話題単元、主題単元その他さまざまな
 単元が編成された。

o学習指導要領の目標内容に準拠して編集さ
 れた。



o昭和三三年度学習指導要領に話題、題材選
 定の十か条の観点があげてある。
 

                    (この表の作成にあたっては、西原慶一日本児童文章史におうところが多かった。)
                                                      -203

    
(二) 教材の考え方の歴史

    1 戦前の教材

 戦前の国語教育の内容は、文字、言語、文章、言語文化であって、それらの教える材料が教材であった。したが
って、教材を教えることが国語教育であった。しかも、その教材は明治三六年以来国定教科書として、全国的に統
一され、いくたびか改訂されながら太平洋戦争まで続いた。


    2 戦後の資料                                           204

 戦後国語教育の内容はすでに述べたように「言語経験」にかわった。同時に単元による総合的な学習指導が行な
われるようになった。
 その上その範囲も広げられ、教科書以外に新聞、雑誌、参考書、ラジオ、放送、劇、事典、年鑑その他が取り上
げられた。これでは従来の教材という概念では包含しきれなくなった。また、これらは、言語経験を課す場合の媒
介となるもの、つまり、言語経験の資料、単元の資料として考えるようになった。そこから、「教材で教える」と
いうことばがはやり出した。こうして、文部省出版の学習指導要領、学習指導書等では、「教材」という語が影を
ひそめ、「資料」という語が登場した。
 昭和三十三年の小学校学習指導要領国語や小学校国語指導書を見ても「教材」の語は使われていない。
 このように言語経験を内容とする単元による指導が行なわれるようになって、教材から資料へと変わった。この
ことは、国語敦育の内容や方法を豊かにする効果があった。しかし、一方において、その資料を媒介として学習す
べき事項が明確に規定されにくくなった。その結果学習があいまいになるおそれがあった。

    3 戦後の教材

 ところが、昭和三十六年に文部省から出た読解指導の手引書「読むことの学習指導」では、教材という語を盛ん
に使っている。ここで再び戦前から親しまれている教材の語が文部省出版の図書の中で使われるようになった。し
かし、この「教材」は、戦前の「教える材料」の意味の教材ではなく、「教育的機能をもっている材料」の意味で
ある。                                                   205
 このように教材の語に新しい意味を与えて取り上げることによって、学習における指導事項(学習事項)を明確
化し、学習効果を高めることに役だったであろう。

    
(三) 資料・教材・教具

 国語教育に参与する媒介物の中には、それ自体直接に国語教育での内容を含んでいるもの、つまり教育的な機能
を持っているもの、それ自体直接に国語教育の内容を含んでいないもの、つまり、教育的機能を持っていないもの
とがある。
 前者を「資料」と呼び、後者を「教具」と呼ぶ。
たとえば、図書館にある読み物は、それを読むことによって、内容的価値が得られるし、それを読む能力も高めら
れる。新聞はそれを読むことによって情報が得られるとともに、それを読む能力をも身につけることができる。
ラジオのニュースも、それを聞くことによって情報が得られたり、聞く力が伸びたりする。このように、国語教育
の内容を一般的に、おおまかに含んでいるもの、一般的な教育的機能をもっているもの――図書館の読み物、ラジ
オのニュース、新聞の記事等は資料である。ところが、放送施設、ラジオ、テープレコーダー、電話機等などは、
それ自体の中に国語教育の内容を含んでいない。つまり教育的機能を直接持っていない。これが教具である。
 教育的機能をもっている資料の中で、特に、(1) ある学年のある単元の資料として位置づけられ、(2) それによ
って、どんな内容的価値を身につけさせるか。(3)どんな言語能力を養成しょうとするか。(4)どんな言語要素を身
につけさせるか等を具体的に設定し、含めたものが教材である。                         206
 資料が教育的機能を一般的に、ばくぜんともっているのに対し、教材は教育的機能を具体的にもっているもので
ある。
 したがって、教材は次のような性格を持ったものということができる。
 (1) ある単元の資料として位置づけられているもの。(言い換えれば、単元の目標、単元の学習内容をになって
  いるもの。)
 (2) 学習事項を具体的に含んでいるもの。
  ァ 指導すべき技能・態度(指導事項)が具体的に含まれている。
  イ 指導すべき文字、語句、文法等が具体的に含まれているもの。
 (3) 具体的に内容価値を含んでいるもの。

    
(四) 教材の機能

 国語科の教材には、書かれた、文章や作品、話された談話等がある。そのいずれにしても、すでに述べたように、
単元の資料として位置づけられ、それ相当の教育的機能を持っている。

   1 人間形成の機能

 書き手は文章や作品にょって、読み手に何かについて知らせる、理解させる、訴える、伝えるなどの目的、意図
をもっている。                                               207
 文章や作品は、書き手のそのような目的や意図が意味として全体的に組織されたものである。
 したがって、文章や作品を読む者に対して、その意味をもって働きかけていく。
 たとえば、読み手に、知識を与える。理解を深める。教養を高める。情報を与えて生活に適応させる。考えを深
める。思想を豊かにする。心情を育てるなど、読み手に働きかけて、読み手の人間性を開発したり、育てたりする。
 談話の場合でも全く同じである。聞き手は話を聞いて、知識を求めたり、教養を高めたり、情報を得たりする。
また話を聞いて心情を豊かにし楽しんだりする。そうして自己の開発、成長に役だてている。
 教材は、このような働きを持っている。これが教材の持つ人間形成の機能である。
 教材のこのような機能を通して、読み手の内部に形成されるものが価値である。だから教材に内在する価値を読
み手の内部に形成する、生み出す働きを助け導くのが、いわゆる学習指導であると考えることができる。
 教材はこのように、具体的には価値形成の機能を持っているとも言うことができる。
 そこで、教材のもつ価値形成の機能を、内容的に規定するのが話題・題材である。話題・題材が直接人間形成に
つながる点で、その選択を慎重にすべきことは前に述べた。
 この価値は、文章、作品、談話の中に、一つの有機的全体として組織化され構造化されている。その場合全体の
中核をなすものが主題であり価値である。
 そのような構造体を、(1) ことがらの機構、(2)  意味の機構、(3) 価値の機構などと考えることもできる。ま
た、(4) 思考の構造過程としてとらえることもできる。
 指導技術としてよく「文図」を書かせる。また板書機構を大事にするなどのことも、その基礎をこの理解の上に
置かないと生きてこない。                                          208

   2 能力形成の機能

 教材は、読み手や聞き手の内部に価値を形成する機能を持っている。それは読み手、聞き手の側から言えば、教
材に内在する価値を自らのうちに生産することになる。
 この価値を形成し、生産する過程において、言語能力が働き、言語を経験する。そこで、読めない漢字の読み方
を知り、価値を生産する上に必要な語の意味を悟り、内容のあらましを理解したり、要点をつかんだりする。
 こうして、教材の内容的価値を生産する過程で、発音、文字、語句、文法などの基礎的なもの、いわゆる言語要
素が理解される。さらにことばの能力が身につく。
 このように、教材は、言語技能、言語要素を形成する機能を持っている。
 価値形成の機能(人間形成の機能)能力形成の機能の二つは、教材の持つ基本的な機能である。

    
(五) 教材の機能的分類

   1 形態的分類

 教材を分類する場合い、普通、その文章の形態に基準を置いて分類している。
 昭和二十二年度学習指導要領国語科編では、
 (1) 詩情表現のむれ――童話、童詩、抒情詩、叙事詩、和歌、俳句など                     209
 (2) 思索・記録のむれ――手紙、日記、記録、報告、論文、随筆など。
 (3) 物語のむれ――童話、ぐう話、伝説、伝記、小説など
 (4) 演劇一般のむれ――脚本、シナリオ、よびかけ、詩劇、謡曲、狂言など
 の四分類をとっている。
 なおこれをさらに小さく分類する場合には、詩、短歌、俳句、物語、伝記、小説、日記、手紙、紀行、記録、論
文、論説、評論、随筆、謡曲、狂言、脚本、台本などに分けることも考えられる。
 教材をこのように文章の形態によって分類した結果、いわゆる「ジャンル別(文種別、形態別)読解指導法」が
主張された。その根拠は、学習の方法や学習に必要な能力は文章の形態が決めるという基礎理論にあった。この指
導の考え方ほ、従来、どんな形態の文章でも、ただ一つの方法しか試みられなかったのに対し、形態に応じた指導
を考えたところに一つの進歩があった。ところが、この考え方は、学習者としての児童が軽視されて教材の文章が
重く見られるようになった。その上指導法が形式化し、固定して、読む目的、書き手の立場などに応ずる学習が忘
れられるにいたった。

   2 機能的分類

 形態的分類は、分類の基準を教材である文章の形能においた。機能的分類は、分類の基準を教材である文章の機
能におく分類法である。この文章の機能は、ことばの機能に即した機能である。そこで、文章の機能に即して、分
類してみると、次の二つの場合がある。
 (1) 書き手の立場に立った分類――機能的分類                                210
  ア 知らせるための文章
  イ わからせるための文章
  ウ 伝えるための文章
  工 訴えるための文章
  オ 考えるための文章
  力 役にたたせるための文章
 などに別けられる。文章は、書き手によってこのような機能を与えられるのである。このような書き手のねらい
は、本来ならば、そのねらいに合った文章形態を取るべきであるが、実際には、その通りにならない。たとえば、
わからせるための文章は、いわゆる解説文の形態を取ればよいのであるが、実際には、対話文によって、たくみに
細かい点まで解説しわからせてしまう文章が多い。しかもそのほうが読み手にはわかりやすい。
 (2) 内容的価値による分類−機能的分類
  ア 知識、理解を与える文章
  イ 情報を与える文章
  ウ 経験を広める文章
  工 心情を豊かにする文章
  オ 思想を深める文章
  力 感覚をみがく文章
  キ 楽しみを与える文章                                         211
 に分けることができる。このように文章の機能に基づいて教材の文章を分類するしかたは、昭和三十三年の小学
校学習指導要領国語もふじゅうぶんではあるが取り上げている。
 ア 知識や情報を与える説明、解説、報道などを読む。
 イ 経験を広め、心情を豊かにする物語、伝記、詩、脚本などを読む。
 とあるのがそれである。傍線の部分が、それぞれの文章の機能を示しているのである。
 教材の文章の形態的分類は、「文種別読解指導法」を生んだが、機能的分類からは、「読み手の目的、文章の機
能に応じた読解指導法」「知識、情報を求めるための読解指導法」すなわち機能的読解が主張された。(「これか
らの国語教育」三省堂参照)
 この指導法は、「文章読解の方法や読解に必要な能力は、読み手の読む目的と、文章の機能が決める」という基
礎理論に立つものであって、読み手の目的(ことばの機能に即した)を第一とし、それに文章の機能を大事にする
ところから出発している。


                                                       212
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第三章 機能的国語教育の展開


     
一 単元による学習



    
(一) 国語科の単元の歴史
                                                      213-219

 年代 学習指導要領
学習指導書
 単元の種類  単元例 解脱
  昭和二十二
年度(試案
(1947)
学習指導要領国語
科編(文部省)
備考 小中学校の指
   導要領
「単元」
 「単元を中心とす
 る言語活動の組
 織」
o問題単元 
「われわれの意見は、他人の意見によっ
てどんな影響をこうむるか。」
「一、問題の要旨 二、内容(範囲
と順序) 三、目標 四、学習活動の例
五、単元の説明 六、評価」
 
1 戦前は、教科書の一
 課一課が単元であった。
2 「単元による方法は、
 児童、生徒が問題を解
 くときのすべての経験
 到達した結論、達成し
 た成果をまとめていく
 ことである。」(同書)
 単元による指導法が提
 唱された。
昭和二十六
年改訂版
(1951)








昭和二十六
年改訂版
(1951)










昭和二十九

(1954)












昭和三十

(1955)









 
小学校学習指導要
領国語科編(試案)
(文部省)








中 学 校
高等学校学習指導
要領国語科編(文
部省)









単元学習の理解の
ために(文部省)













小学校学習指導書
国語科鋸(文部省)










 
「題材」
 話題・間題・言語
 経験を中心とする
 学習
o話題単元
o経験単元





 「単元」
 話題・間題を中心
 とする学習。
o問題単元。
o教科単元








「単元」
o教材単元
o経験単元












「題材」
 国語科の学習事項
 の分節を中心とす
 る学習
o教科単元
(教材単元)






 
・うんどうかい(一年)・ことばあつめ
 をしましょう(二年)
・童話を読みましょう(三年)
・手紙を書きましょう(四年)
・辞書を利用しましょう(五年)
・学校新聞を編集しましょう(六年)
 「一、この題材をとったわけ 二、目
 標 三、内容 四、資料 五、学習
 活動 六、評価」


(中学校)
・伝記の選び方と読み方(一年)
・会議の進め方(二年)
・実用的な手紙の書き方(三年)
(高等学校)
・古典はわれわれの生活とどんなつなが
 りがあるか(一年)
・短編小説(二年)
国語国字をよりよくするにはどうした
 らよいか(三年)
「一、単元設定の理由 二、目標 三、
 内容 四、学習活動の例 五、評価
 六、資料」


・教材単元―教材の体系を論理的に分節
 して生じた教材のひとまとまりを中心
 としたもの。
・経験単元−児童自身の内部、児童と環
 境との間の統一を中心とし経験の発展
 をめざすもの。



・かめのこ(言語教材として)(一年)
・かたかなを書こう(二年)
・感情のこもった短い文を書こう(二年)
・放送劇の脚本を作ろう(三年)
・物語文を読もう(三年)
・詩を読もう(三年)
見学の報告を書こう(四年)
・壁新聞を作ろう(四年)
・発明、発見物語を読もう(五年)
・論説文を読もう(六年)
「一、題材設定の理由、二、目標 三、
 内容 四、資料 五、学習活動

3 学習の中心となる話
 題、間題、言語経験を
 「題材」と呼び、題材
 による学習の方法を
 「単元学習法」と呼ん
 だ。これ以後小学校で
 は「題材」と呼び中学
 校では「単元」と呼ぶ
 ようになった。


4 小学校は、話題単元、
 経験単元の方向をとった
 のに対し、中学校は教科
 単元、高校は間題単元が
 中心であった。








・単元についての諸家の見
 解が一致せず、混乱して
 いたので、文部省の統一
 見解として出された。こ
 れ以後は、教材単元、経
 験単元の方向をとるかに
 みられた。














6 小学校学習指導要領
 では、話題、問題、言
 語経験等の題材を中心
 としていたがこの指導
 書では、国語科の学習
 事項の分節として文字
 文章形態を取り上げて、
 題材とするようになっ
 た。教科単元になって
 いた。


 
昭和二十九

(1954)






昭和三十三

(1958)










昭和三十三

(1958)





昭和三十五

(1960)










昭和三十四












昭和三十六

中 学 校
高等学校学習指導
要領国語科編(文
部省)





小学校学習指導要
領国語(文部省)










中学校学習指導要
領国語(文部省)





小学校国語指導書
 (文部省)











中学校国語指導書
 (文部省)











読むことの学習指
導(文部省)

「単元」
o教材単元
o経験単元






「指導計画」











「指導計画」







「単元」
 話題・題材を中心
 とした学習のまと
 まりを「単元」と
 呼ぶ。
 例「運動会」






「単元」
 学習指導は、指導
 事項と活動とを組
 み合わせ、ひとま
 とまりの学習活動
 として構成して実
 施する。これを
 「単元」という。





「単元」
 話題単元
o中学校
・伝記・卒業記念
・私たちの学級をもっとよくしよう
o高等学校
・1近代小説(一年)
・方言と共通語(一年)
・学校新聞の改善(二年)
・文学と人生(三年)

「学習指導にあたっては、児童の必要と
興味と 能力に 応じて 話題や題材 を選
定し、闘き、話し、読み、書く活動が、
有機的、総合的に展開されるように計画
を立てる。」







「学習指導にあたっては、生徒の必要と
能力に応じて、聞き、話し、読み、書く
活動に、有機的な関連をもたせ、それら
の 活動が総合的に 展開されるようにす
る。」



・話の内容を碓実にとらえる(四年)
・夏休みに研究したこと(六年)
・じょうずな読み方(一年)
・いろいろな本を読もう(二年)
・参考書を使って調べよう(五年)
・虫について観察したことを書こう(三
 年)
・おてつだい(三年)
「一、単元を選んだ理由 二、目標
三、内容 四、学習活動 五、評価」



「学習活動は、ただ個々にならべただけ
ではまとまりがない。生徒の関心、能

力、興味にあったものが中心を貫いて構
成されなければならない。」
「『何か』について話し、聞き、読み、
書く、『何か』がないと言語活動は展開
されない。」「『何か』について学習指
導の目標を明らかにし、それらを中心と
して内容を充実させるように、指導事項
と活動等を組み合わせてまとまった学習
が営まれるようにする。」


・わたしのつくったおもちゃ二年)
・目と耳(二年)・金魚(三年)・いろ
 いろなニュース(四年) o海の科学
(五年)・報道と広告(六年)
「一、単元の趣旨と位置 二、単元の学
習目標 三、単元の学習内容(ア学習活
動イ学習事項) 四、単元の学習資料」

7 教材単元、経験単元
 を中心としている。







8 話題・題材を中心と
 する単元の方向をとっ
 ている。ここで「題
 材」の語を用いたこと
 に注意する。従来小学
 校では「題材」を単元
 と同じ意味に使ってい
 た。
  話題単元の方向を確
 立した。


9 単元の中心が示され
 ていないところに注意
 する。これでは、有機
 的な関連を持たせるこ
 とはできない。


10 小学校でも「単元」
 の語を用いるようにな
 った。
11 指導要領では話題
 単元の方向を碓立した
 が、本書では技能を中
 心とした単元をも認め
 ている。
12 単元の考え方が再
 び混乱している。


13 指導要領で明らか
 にしなかった、単元の中
 心について明確に示し
 ている。
  単元の中心に「何か」
 をおく、話題単元を志
 向している。






14 学習指導要領に従
 って、話題単元で統一
 している。

                                                      219

     
(二) 単元の本質

   1 単元の機能的解釈

 昭和二十二年度、学習指導要領国語科編に、「単元を中心とする言語活動の組織」として、国語科の作業は、単
元を中心として組み立てることができることが提案された。そして「単元による方法は、児童、生徒が解決しなけ
ればならないような問題を出し、児童、生徒が問題を解くときのすべての経験、到達した結論、達成した結果をま
とめていくことであると定義できるであろう。」と述べている。
 それ以来、単元についての論議が湧き、教科書を通してさまざまな単元が構成された。
 そこで文部省では、昭和二十九年「単元学習の理解のために」の中で、経験単元、教材単元を説き、さらに、単
元的な学習による「練習」の不足、基礎的な能力の不振を補うために、まとめて「練習」を課することの必要性を
説いた。
 一般には、言語経験を組織した経験単元、詩、物語、記録など国語科の内容の分節を中心とした教科単元、詩を
作ろう、学級新聞を作ろうのような作業を中心とした作業単元、掃除当番を能率的にするにはどうしたらよいかな
ど問題解決を中心とした問題単元、遠足、冬の自然、ともだちなどの話題・題材を中心として組織した話題単元、
友情のように主題を中心とした主題単元、第一歩、新しい生活などのような象徴的なものを中心にした象徴単元な
どさまざまな単元が試みられた。
 しかしながら、しだいに、話題単元、主題単元の方向に落ち着き、昭和三十三年度の学習指導要領では、「指導   220
計画作成および学習指導の方針」の項目に「学習指導にあたっては、児童の必要と興味と能力に応じて話題や題材
を選定し、聞き、話し、読み、書く活動が有機的総合的に展開されるよう計画を立てる。」と述べている。学習指
導要領についで出された小学校国語指導書(文部省)ではこの「学習のまとまり」を「単元」と呼んでおくと述べ
ている。
 このように、単元の考え方が次第に整理され、話題・題材を中心とした単元の方向に進み、昭和三十六年八月発
行された「小学校国語指導資料1 読むことの学習指導(文部省)」では、一年から六年まであげた単元の例がす
べて、「話題単元」になっている。
 これまでの単元の考え方はきわめて形式的である。それは、単元の本質を追求することなくして形式的に定義づ
けようとしたからである。
 単元は、児童、生徒の必要、欲求に基づいて、児童、生徒の価値追求の行為としての言語活動を組織したもので
ある。
 たとえば、児童、生徒が「何か」について知識や理解を得たい。「何か」についての問題を解決したい。「何か」
についての考えを深めたい。このように「何か」についての「価値」を追求し、獲得するために、「何か」につい
て話したり聞いたり、あるいは、「何か」について書いてある文章を読んだりする。そして、「何か」に内在する
価値を獲得する。このような、「何か(話題・題材)」に内在する価値を追求し、獲得するために行なう、統一あ
る言語活動の全体的な、有機的なまとまりが単元である。
 要するに、児童がその生活上の必要や欲求から、話題・題材に内在する価値を追求する過程において、必然的に
聞く、話す、読む、書くという言語活動が児童の価値を追求する意識を中心として統一的有機的に営まれる。これ   221
らの言語活動が適切に営まれることによって価値が獲得されて、学習は完結する。この学習の一まとりが単元であ
る。
 単元は、このように、児童、生徒の価値生産のための言語行為のまとまりと考えることができる。

   2 単元の機構
(1) 単元の組織の中心となるものは機能的な話題・題材である。機能的な話題・題材は、次のような条件を満たす
  ものである。
 ア 児童、生徒の興味、必要、欲求を満たしその能力に応ずるもの。
 イ 児童、生徒の成長発達に役だつ価値の内在するもの。
 ウ 児童、生徒が獲得すべき言語文化を含んでいるもの。
 エ 話題・題材に内在する価値を追求するための効果的な言語活動が、それを中心として組織できるもの。
(2) 話題・題材に内在する価値を生産するための機能的な言語活動を組織する。機能的な言語活動は、次の条件を
  満たすものである。
 ア 価値を生産するために児童生徒が必然的に行なう聞く、話す、読む、書く言語活動であること。
 イ 各言語活動は、価値生産という同一目的を達成するための活動であるから、活動それ自体、また活動を処理
  する言語能力が有機的総合的に統合されるものであること。
 ウ 各言語活動は、児童、生徒の主体的行為としての目的的活動であること。
(3) 機能的な言語活動によって、機能的な言語、言語能力が養成される。機能的な言語能力、言語要素は、次の条   222
  件を満たすものである。
 ア 価値を生産するための言語能力であること。
 イ 価値を生産するための各言語活動を処理するのに必要な言語能力であること。
 ウ 価値を獲得生産するのに必要なはたらきのある言語(文化的、科学的、社会的、思索的な言語)であること。
(4) 言語活動の媒介となる機能的な資料、教材が必要である。機能的な資料、教材は、次の条件を満たすものであ
  る。
 ア 追求する価値を含んでいるものであること。
 イ 資料、教材を読む、聞くことにょって所定の言語能力が養われるものであること。
 ウ 所定の言語要素を含んでいるものであること。
 エ 児童、生徒の興味、能力等に応じるものであること。
 このように、単元は、「話題・題材」「学習資料」「言語活動」等が「学習者の欲求、日的」「言語能力、言語
要素」等の支持を得て、全体的、有機的に統合されたもので、単元それ自体が、価値生産の機能を持っていると考
えることができる。これを図示すると次のようになる。

  単元の構造図                                            223


                                                      224
   
 (三) 単元の構成

   1 単元の全体構造

 単元の構成に当たっては、単元の全体機構を考え、単元に対する考え方を明確にし、機能的な単元を構成する。
その手順は次のようにする。
(1) 機能的な話題・題材を設定する。
(2) 単元の学習目標を設定する。
(3) 単元の目標を達成するための学習活動を組織する。
(4) 学習目標、学習活動によって、学習資料を選定する。
(5) 学習活動を通して、どんな言語能力、言語要素を形成するかを決める。
(7) 学習時問を決める。
(8) 評価の観点、基準、方法等を決める。
 次に単元の構成表を参考に掲げる

月 、 週
学習時間 
単元名  学習目標   資料(教材) 内容  評価、指導上
の留意事項 
 学習活動  学習事項


o時間
単元の標
題を書く
単元の学習目標を
書く。実質的な内
容価値を書く。
教科書の教材そ
の他の資料
目標を達成するため
に児童が行なう学習
活動
知識、理解、技能、
態度を書く
ことば関する事項
を書く。
評価の観点、基
準、方法等につ
いて話し合う。

    2 単元の中心としての話題・題材                               225

 昭和三十三年度学習指導要領国語に「学習指導にあたっては、児童の必要と興味と能力に応じて、話題や題材を
選定し、聞き、話し、読み、書く活動が有機的総合的に展開されるように計画を立てる。」ことが述べられている。
この「学習のまとまり」が「単元」であることは、「小学校学習指導書(文部省)」によって明らかである。(同書
五〇ページ以下六五ページ)ところで、この単元の中心としての話題・題材は、どんな観点、どんな条件に合った
ものを選ぶべきかについては、くり返し述べてきたのでここでは省略する。ただ、「小学校学習指導書」に、「学
習活動は、(中略)児童の必要に応じて、特定の国語の能力を目がけて組織される場合もある。」と述べられている
のは、「要点をまとある」とか「あらすじをつかむ」とか「順序を追って」とか、読解の技能を中心にして、学習
活動を組織することを認めているものと思われる。しかし、これが単元と言われないことは説明するまでもないで
あろう。
 (1) 技能を単元の中心としたのでは、児童の必要と興味と能力に応じられないではないか。(2) また、聞く、話
す、読む、書く言語活動を有機的総合的に組織できないではないか。(3) 単元よる一貫性をもった、統合的な価値
を習得する学習ができないではないか。少くともそれは単元本質に合わないであろう。
 戦後の国語教育が人間形成を忘れ、技能教育に走ったという批判は、こういう点に対するものではなかったので
あろうか。
 少くとも、話題・題材については、児童、生徒たちが、それについて知りたい、もっと深く理解したい。もっと
経験を広めたい。意見を述べたい。その間題について解決したいなどという欲求を持つものでなければならない。
換言すれば、児童、生徒たちが学習する価値を含んでいなければ話題・題材として単元の中心とはなり得ない。    226
 国語教育の今日的な課題として思考力の養成が強調されている。そのためには話題・題材によって統合された単
元によって、一貫性をもった学習がなされなければ、その効果をあげにくいであろう。

    3 単元の学習目標

 単元の学習目標の設定の基準について考えてみる。
 (1) 目標設定の理論
(ア) 単元は、児童、生徒が、話題・題材に内在する価値を追求し獲得するための学習活動を組織したものである。
  ――児童、生徒の価値生産のための主体の言語行為を組織したものである。――単元の基本的理解
(イ) 単元の目標は、児童、生徒の言語行為の目標である。――目標の本質的理解
(ウ) 意欲的な、かっぱつな学習活動は、生活的価値的な目的をもったときに行なわれる。――学習活動の本質的
  理解
(エ) かっぱつな学習活動は、生きた言語能力、言語要素を効果的に身につける――技能養成の本質的理解
(オ) 児童、生徒の言語行為の目的はことばの機能に即して考えられる。――言語行為の目的の本質的理解
(カ) 言語技能、言語要素は児童、生徒の言語行為に従属するものである。――言語能力の本質的理解
 以上の諸点から、次のことが考えられる。
(ア) 国語の能力を効果的に身につけるためにはかっばつな意欲的な言語活動を行なうとよい。
(イ) かっぱつな、意欲的な言語活動は、生活的、価値的な目的をもったときに行なわれる。
(ウ) だから、言語活動の目的を単元の目標とするとよい。言語活動の目的は、ことばの機能に即した目的である。  227
(エ) したがって、単元の目標は、話題・題材に内在する価値の獲得を目標とする。
 (2) 単元の学習目標としての価植
 単元の学習目標は、話題・題材に内在する価値であるべきことはすでに述べた。
 そこで、一般に価値を追求する場合いろいろの追求のしかたがある。価値を含んでいる対象を観察して追求する
場合もある。実験によって追求し獲得する場合もある。測定したり調査したりする場合もある。しかし、このよう
な価値の追求のしかたでは、国語学習にはならない。それは、社会科や理科や算数の学習であったりする。国語科
の学習とするための絶対条件は、ことばを使って、聞く、話す、読む、書く活動によって、価値を追求することで
ある。ここに国語教育の特殊性がある。つまり、価値追求の過程において国語の学習が行なわれるということであ
る。
 そこで、その単元の学習目標は、単元の話題・題材について、聞く、話す、読む、書く言語活動によって身につ
く、知識、理解、情報、楽しみ、経験、心情、思想、感覚等である。これが、学習によって直接人間形成に結びつ
く。これは、単元の持つ実質的な内容、あるいは、単元の内容価値と呼ぶ。
 そのような知識や理解、思想や情報の背後にあって、それらを統制しているもの、それが主題である。知識や埋
解、感情、感覚等を身につけると共に、その背後にあるもの、それらを統一、規定している原則、本質等も身につ
いてくる。
 このような実質的な内容の主題化したものを含めて学習目標としての価値と考えられる。
 話題・題材に内在する学習目標としての価値とその形成の過程
                                                      228



 次に、単元の学習目標を立てるときの観点について考えてみる。(教科書の単元には、すでに学習の目標が立て
られているが、それを改めて機能的国語教育の立場で目標を立てる場合)(1)単元の中心になっている話題・題材に
即して考えること。(2)  その単元を学習して、児童の身につく実質的な内容価値は何かを考えること。そのため
には、(3) 資料や教材によって、児童に何を知らせ、解らせ、伝え、訴えようとしているかを明らかにすること。
つまり、資料、教材を媒介とする学習によって、児童の人間性に培うものは何かを知ること。こうして、つかんだ
価値を単元の目標とする。
 たとえば、単元「東京」の教材として、「吏京港」「東京めぐり」がある。前者は見学記録、後者は説明的な文   229
章である。この単元の学習にあたって、「東京港」「東京めぐり」の文章を読む。また図書館で、東京についての
参考書を読むことも考えられる。これらの読む学習によって、児童は、東京に対するいろいろな知識や理解を得る。
東京に対する記号経験をする。認識を深める。そうした東京に対する理解、認識によって湧き起こる東京への親し
み、愛着の心、愛情、そういった心情が育てられる。そこまでいかなければほんとうの国語学習にならない。ここ
に児童の単元「東京」の国語科としての学習の目標がある。
ここで社会科学習とのちがいを明確にしておきたい。 社会科学習では、文章を読むということを学習の必要条件
としない。実際に見学する。写真、絵はがき、図表などによって学習する。スライドによって学習する。テレビに
よって学習する。どれをとってもよい。しかし、国語科では、給はがきや写賞を見たり実地見学をしたりして東京
に対する認識が深められても国語学習にはならない。ことばによって、すなわち、東京について話し合ったり、東
京について書いたり、東京について書いた文章を読んだりして、東京に対する認識が深まるのでなければ国語学習
にはならないのである。
 それだけではない。そのようなことばを通して東京を理解し認識する過程で国語の学習が行なわれなければなら
ない。国語科で扱う文章には、読解する上に文字や語句や文法やその他の障害が計画的に用意されている。その障
害を学習によって乗り越えていかないと、内容を理解し、価値を獲得することはできない。文章の中に児童に学習
させる国語の能力や言語要素が読む上の障害として用意されているのである。そこで国語科では、価値を追求する
過程において、文章の読み方を計画的に指導し、それを意識づけてやらなければならない。こうして、文字の読み
方書き方が身につく、語句が理解される、読解力が養成される、聞く話す力、文章を書く力が同時に育てられる。
ここに社会科でもない、理科でもない国語科独自の学習が成立するのである。                   230
 価値的な目標をかかげて学習させると社会科や理科の学習と同じになるなどというのは国語学習の本質をわきま
えない者の言である。
 価値的な目標をかかげると戦前の内容主義の国語教育になる、国語の技能を軽視することになるなどというのも
技能学習の本質をわきまえない者の言である。技能学習を大事にし大いに国語の能力を育てようとするからこそ価
値目標をかかげて、学習活動をかっぱつにし効果的に生きた技能を身につけ、さらに練習によってそれをいっそう
確実に身につけようとするのである。言語能力、言語要素をあえて単元の目標とせず、学習活動の中に確実に位置
づけ含めて、単元の学習内容として、直接学習させようとするところに、戦前の内容主義や戦後の誤れる技能主義
を越え、それらを含めた機能的国語教育の進歩があるのである。

    4 単元の学習内容

 単元の学習内容は話題・題材に内在する価値を追求し獲得するための、児童、生徒の聞く、話す、読む、書く等
の言語活動であることは、くり返し述べてきた。
 この学習活動は、話題・題材の価値を獲得するための活動であるとともに、言語技能、言語要素を養成するため
の活動である。
 そこで、学習活動はつねに、文章の内容価値を読み取る。話の内容価値を聞き取る。書こうとすることがらや意
図が相手によく伝えられ、訴えられるように書く、話そうとすることがらや意図が聞き手によく聞き取れるように
話すことを目がけて行なわれる。つまり、つねに内容価値をめがけて学習活動は営まれる。
 そのように、内容価値を身につけたり、内容価値を伝えたり、訴えたりする過程で、読む力、聞く力,書く力,話   231
す力を育てあげ、ことばや文字や発音や文法等を身につけるようにする。
 したがって、単元の目標を達成するためにどんな学習活動をさせるか、その学習活動によって、どんな言語技能
や言語要素を身につけるかを明確に内容として位置づけなければならない。
 たとえば、四年生で、「虫を食べる植物」の文章を読む場合、その文章の内容を理解するとともに、要点をおさ
えて読む力、段落にまとめて読む力を養成することを明確に内容の中に位置づけ、それにはどんな活動をさせたら
よいかを考えて学習させなければならない。そのような場合、「どんなことが書いてあるか読んでみましょう」「ど
んなことが書いてありましたか」というような課題やその処理のしかたではだめである。「どんな植物が、どのよ
うにして虫を取って食べるかを調べて話し合ってみましょう。あとで、これだけは話したいと思うことを箇条書き
にしておきましょう。」教師はその間児童がどんなことをノートに書くか、箇条書きのできている者、いない者、
教科書の文章をそのまま書き取っている者などを机間をまわって調べておく。読み取った結果を二、三人の者に話
させる。どれがじょうずに読み取っているかを比較検討する。話し合ったり、さらに読み合ったりしながら。こう
して、読み取ったことを要点として整理しながら、内容に対する理解を深めたり、確実な要点の読み取り方を指導
する。要するに、どのような読む活動をさせれば、どんな技能が養なわれるかを教材に即して具体的に考えておか
なければならない。こうすることによって、価値の習得と言語能力の養成とが、一体として行なわれるのである。
 語句の指導の場合でも同じである。たとえば、内容の理解を深めるためにその語句の意味や働きを明らかにし、
語句の働きや意味を明らかにすることによって、内容の理解が深まるような学習活動をくふうすべきである。
 単元の学習内容のおさえ方
                                                      232

 学習活動  学習事項(態度・技能・言葉に関する事項)
1「虫を食べる植物」を読む


2「自然のふしぎ」について作文を書く
1 要点をおさえて読むこと
2 段落にまとめて読むこと
3 語句の組立について注意を向けること
4 漢字や読み方書き方に慣れること
5 段落を考えて書くこと
6 中心点をおさえて書くこと

 もっと具体的には、教材研究の際、この文章のここで主人公の心理を読み取らせる。その際、このことばの意味や
働きを理解させる、あるいは細部に注意して読む力を養うというように学習活動とそれによって養成する言語能力、
言語要素を明らかにしておく。
 なお、学習活動は
(1) 学習の各過程において、それぞれ目的をはっきり意識した学習活動を営むこと。
(2) 学習活動に目的を持たせたら、必ずその目的に応じた処理をすること。
(3) どういう学習活動をすれば、どんな技能態度が身につくかを明確にすること。
(4) 児童、生徒自身が、主体的な学習活動を計画するようにすること。
 などを考えて指導することがたいせつである。「意味のわからないことばがあったらしるしをつけておきましょ
う。」と課題して通読後、それを扱わず、「どんなことが書いてありましたか。」などという発問をすると、児童
の読む態度は、自然にくずれていく。
                                                      233
    5 単元構成の例

(1) 四年生 二学期 単元「働く人たち」

月,週,時  単元名     学習目標  学習資料
・教材 
  学習内容  学習評価 
 学習活動  学習事項
 態度・技能  ことばに関
する事項














働く人たち 社会のために
働いている人
たちに対する
感謝の気特を
育てるととも
に、自分から
進んで社会の
ために役立と
うとする心情
を育てる。
1 機関車
 (詩)
2 町の鉄工
 場(生活の
 文章)
3 すぎ皮運
 び(生活表
 現の文章)
4 Watasi
 no sigoto
 
1 働く人たちの
 ことを歌った詩
 を読む。
2 働く人たちの
 ことを書いた文
 章を読む。
3 働いている人
 たちや自分でお
 手伝いをした経
 験を主題として
 その様子や感じ
 たことを書く。
4 簡単なローマ
 字の文を読む。
 
1 詩を読み味わ
 うこと。
2 書いてあるこ
 とをまとめなが
 ら読むこと。
3 書こうとする
 ことがらをまと
 めてから書くこ
 と。
4 段落を考えて
 書くこと
5 物の見方を深
 めること 
1 文中のことば
 の係り方にいっ
 そぅ注意するこ
 と。
2 てん、まる、
 その他の記号の
 使い方がわかる
 こと。
3 新出漢字が読
 めまた書けるこ
 と。
4 簡単なローマ
 字が読み書きで
 きること。 
l 働く人たちに対
 する理解、感謝の
 気持が深められた
 か。
2 自分も社会のた
 めに働こうとする
 気特が高められた
 か。
3 段落にまとめて
 読んだり、段落を
 考えて書いたりで
 きるようになった
 か。
4 作文のとき、て
 んやまるが正しく
 使われているか。 

                    (東京都、目黒区立宮前小学校井上潤氏の単元構成による)
 この単元構成表は、単元、「働く人たち」の学習目標は何か、学習目標を達成するために、どんな教材を使って、  234
どんな学習活動をするか、その学習活動を通して、どんな技能、態度を養うか、どんな言語要素を身につけるかが 
一目でわかるようになっている。この表で、特にたいせつなところは、学習活動と技能、態度、ことばに聞する事
項とをどのように結合するかということである。言い換えれば、教材と学習活動と技能、態度とを生きた活動(経験)
として、どのように統一するかということである。

    
(4) 単元の展開

    1 単元による学習
 単元による学習は、次のような特色をもっている。
(1) 主体の学習行為――学習の主体者たる児童が、みずから目的をもち、目的実現のための計画を立てて行なう主
 体的な学習行為である。
(2) 主体の価値の生産行為――児童が、その目的とする価値の生産行為の全体を組織化したものである。学習行為
 のすべてが主体の価値生産の行為として統制されている。
(3) 統制された思考活動――話題・題材に内在する価値の生産行為としての、聞く、話す、読む、書く活動を通し
 て統制され、一貫した思考が働く。したがつて思考力を伸ばすための効果的な方法と考えられる。
(4) 総合された言語能カ――国語の諸能力が有機的、総合的に働く。話題・題材を中心にして、聞く、話す、読む、
 書く言語活動が、有機的、総合的に働いている。したがって、それらの言語活動を処狸する諸能力もまた、有機
 的、総合的に働く。                                            235
 単元による学習のこのような特色がじゅうぶんに発揮できるように指導法をくふうする。

    2 単元の学習指導過程

 単元をどのように展開するか、話題・題材を中心にして組織された言語活動をどんな順序に従って展開するかが
学習指導過程の問題である。その歴史、基礎理論については、すでに述べた。そこで、それらの歴史、理論および
単元による学習の特色の上に立って、価値の生産と国語の能力の養成とを一体的、調和的に営もうとする機能的国
語教育の学習指導過程について考えてみる。まず基本的な考え方を再確認する。
 (1) 価値の生産――生産過程を基礎とする。
 (2) 思考の発展――思考の一貫性に立つ。
 (3) 国語の能力の養成――言語行為の統合によるダイナミックな能力の養成を図る。
 (4) 主体の確立――単元の全過程が主体によって統一される。
 この四ヵ条の上に立って次の一般的な学習指導過程を編成した。
 (1) 目的――目的をもつ――生活に適応し、生活を開発するための生活的価値的な目的をもつ。
 (3) 計画――目的達成の計画を立てる――価値を生産するための計画を立てる。(価値への接近、問題発見)
 (4) 追求――目的を追求する――計画に従って価値を追求する。
 (4) 獲得――目的を達成する――目的に応じて価値を獲得する。
 (5) 検討――結果を検討する――獲得した価値を検討する。
 (6) 適用――結果を適用する――価値を生活に適用する。                           236
 この学習指導過程は、単元の学習指導過程でもあり、また、一時間の学習指導過程でもある。
(1) 目的――単元の学習にあたって、まず児童、生徒がもつ目的――それはことばの機能に即した生活的、価値的
 な目的である。単元の話題・題材について話し合う。話題・題材を中心とした経験について話し合う。話題・題
 材について調べてみる。資料、教材を通読してみる。単元全体を概観するなどによって、目的を明確にする。
(2) 計画――目的を達成するための計画――価値追求の計画を立てる。価値追求の方法、順序を考える。学習に必
 要な資料を集める。資料の整理をする。(主要資料、補助資料、教具など)資料の扱い方を考える。価値を追
 求するための学習、研究の分担を考える。学習の形態を考えるなど、価値を追求する上の計画、準備をする。
(3) 追求――計画に従って価値追求のための学習にはいる。目的に応じ、計画に従って学習活動が行なわれる。問
 題を解決するために話し合う。研究の発表を聞く。理解するために読む、調べるために読む、味わうために読む。
 研究を記録するなど、価値を追求するための言語活動が行なわれる。同時にそれらの活動によって言語能力、言
 語要素を身につける。
(4) 獲得――価値を追求するためのいろいろな学習活動が行なわれ、その結果、話題・題材に対する価値が身につ
 く。総合的に内容が理解され、深められて統一されて身につく。「遠足」について書いた文章を読んで、その内
 容価値を身につける。遠足について作文を書くことによって、認識を深める。それらを児童自身が、統一し、自
 己の価値体系の中に位置づける。
(5) 検討――獲得された価値について検討する。学習の結果に対する感想をもつ。意見をもつ。批判をする。話し合
 う。予想や目的と比べてみる。
(6) 適用――獲得された価値、養成された言語能力を適用する。さらに、発展的に新しい価値を獲得する。生活に   237
 適用する。くり返し練習して言語能力を固定する。
 次に単元の学習指導過程編成の例をあげてみる。
   二年 単元 「おてつだい」(十月)
ア 単元の構成

単元   学習目標    学習資料
教材
  学  習  内  容   学習評価
 学習活動  学習事項
 態度・技能  ことば









おてつだいの
文章を読んだ
り書いたりし
て、おてつだ
いの経験を広
げたりおてつ
だいを楽しん
だり、進んで
おてつだいを
しようとする
気特を養う。 
1 おつかい
2 いねこき
3 たきぎきり
 (以上生活経
 験を書いた文
 章)
4 水がおどる
 (生活経験を
 書いた詩)
5 児童文集 
1 おてつだい
 の経験を書い
 た詩や文章を
 読む
2 おてつだい
 の経験を作文
 に書く 
1 進んでおてつ
 だいをしようと
 する態度を養う
2 経験の順序に
 従って意味を理
 解すること
3 文章に即して
 書いてあるとお
 りに読みとるこ
 と
4 おてつだいの
 様子がわかるよ
 うに書くこと
5 経験の順序に
 従って書くこと 
1 基本的な文型
 に慣れること
2 語句の意味や
 用法を知ること
3 新しい漢字の
 読み方や書き方
 を理解すること
4 。を正しく打
 つこと
5 かなづかいに
 注意すること
6 書いたものを
 読み直すこと 
1 おてつだいの経験が
 広げられ深められたか
 (観察)
2 文章に即して正しく
 読み取れたか(テスト,
 観察)
3 順序をたどって読ん
 だり書いたりできたか
 (テスト、観察、作文)
4 おもな語句の意味や
 用法がわかったか(テ
 スト、観察)
5 拗音、促音、助詞
 は、を、へが正しく書
 けるか(作文)
6 oが正しく打てるか
 (作文) 

イ 単元の学習指導過程(単元の指導計画)                                  238
 1 学習の
目的を決める――話し合う
  (1) 「おてつだい」の経験を簡単に話し合う。
  (2) 山の子ども、海岸の子ども、農村の子ともはどんなお手伝いをしているだろう。どんな気持ちでお手伝い
   をしているだろう。
  (3) みんなのお手伝いの様子や気持ちがわかるといいなあ。
 2 学習の
計画を立てる――話し合う、読む。
  (1)  目的追求の方法を考える。
    ア お手伝いの様子や気持ちを知るにはどうしたらよいか。
    イ 教科書の文章を読んで調べる。
  (2)  資料を検討する。
    ア 教材「おっかい」「いねこき」「たきざとり」「水がおどる」の題を読ませ、板書しながら、町の子
     ども、農村の子ども、山村の子どものお手伝いであることを知る。
    イ 教材を読んで、町や農村や山村の子どもたちのお手伝いの様子や気持ちを知ることを確認する。
  (3)  学習の順序を決める。
    ア 町の子ども、農村の子ども、山村のこどもの順に教材を読んで、みんなのお手伝いの様子や気持ちを
     知ること
    イ 次に自分たちのお手伝いの様子や気持ちを書いて知らせ合うことを決める。
 3 計画に従って目的を
追求する。おてつだいの様子と気持ちを読み取る。                   239
  (1) 「おつかい」を読む――町の子ども
  (2) 「いねこき」を読む――農村の子ども
  (3) 「たきぎきり」を読む――山村の子ども
  (4) 「水がおどる」を読む――農村の子ども
 4 目的を
達成する。みんなのお手伝いの様子や気持ちをまとめて整理する。
  (1) 町の子どもは――「おつかい」――様子、気持ち
  (2) 農村の子どもは――「いねこき」「水がおどる」――様子、気持ち
  (3) 山村の子どもは――「たきぎきり」――様子、気持ち
 5 お手伝いの気持ちを
検討する。
  (1) みんなのお手伝いの様子や気持ちをどう思うか
  (2) 自分のお手伝いについてどう思うか
 6 学習の
目的を再確認する。――5までの学習の結果に基づいて各自のお手伝いの様子や気持ちを教えあうこ
  とを確認する。
 7 目的を
追求する。――お手伝いの様子や気持ちがわかるように書く。
  (1) 何のことをどんな順序に書くかを思い出す
  (2) 思い出しながら文章に書く
  (3) 書いたものを読み返す――お手伝いの様子や気持ちがわかるか。
 8 目的を
達成する。――書いた文章を読み合ってみんなに知らせる。グループで交換して読み合う。グループ   240
  の代表がみんなに読んで聞かせる。
 9 目的が達成できたかどうかを
検討する
  (1) だれはどんなお手伝いをどのようにしたかがよくわかる作文とよくわからない作文
  (2) お手伝いの順序がよくわかる作文とわからない作文
  (3) お手伝いの気持ちがよくわかる作文とわからない作文
 などについて話し合う。清書した後とじて「おてつだい」の文集を作り、さらにみんなで読む。
 この指導過程は、次のように編成されている。
 1 目的を決める――価値的な目的――お手伝いの様子や気特を知る(勤労を楽しむ精神)――をもつ。
 2 学習の計画を立てる――価値への接近の方法、順序等を決める。
 3 目的を追求する――価値を追求するための学習活動を営む。
 4 目的を達成する――価値を全体的総合的に獲得する。
 5 結果を検討する――獲得した価値についての感想、意見、批判をもつ。
 6 学習の転換――第二の目的を確認する。(価値的な目的)をもつ。
 7 目的を追求する――お手伝いの様子や気持ちをよくわかるように書く。
 8 目的を達成する――書いたものを読んで知らせる。
 9 結果の検討
 この学習指導過程は、前にも述べたように                                  241
 (1) 目的をもつ。(2) 計画を立てる。(3) 価値を追求する。(4) 価値を獲得する。(5) 価値の適用の五段階とし
てもよい。
    (五)単元の学習指導案
 単元の学習指導案には、原則として次の形式と内容を備える必要がある。
一 単元 単元名を書く。
二 単元について(単元設定の理由)
 l 単元の話題・題材に対する児童・生徒の興味、必要等について書く。
 2 単元の学習に対する児童・生徒の学習能力の実態等について書く。
 3 単元の系統すなわち、指導計画上における位置を明らかにする。縦の系統と横の系統について書く。
三 学習目標
  生活的、価値的な目的を書く。(技能、態度、知識等は学習内容に入れる。)
四 学習内容
 l 学習目標を達成するのに必要な学習活動を書く。
 2 その学習活動によって養成しようとする態度、技能を書く。
 3 学習活動を通して身につけようとする言語要素を書く。
 以上の三つが話題によって統一されると生きた言語経験となる。
五 学習資料                                                 242
 1 教科書の教材
 2 教科書の教材以外の資科・教材を書く
六 学習計画
 1 単元の学習活動を学習の順序に従って並べる。時間を学習活動に配当する。
 2 ここを見れば、単元の学習指導過程がわかるようにする。
 3 学習内容に書いた学習活動を中心として、指導の順序を示す。
七 学習評価
 1 学習内容がどの程度習得できたかを測定する。その観点、方法、基準等を考える。
 2 測定の結果に基づいて評価する。
 以上で、単元全体の構成と学習指導の計画、過程が明確に示される。さらに、その単元の全体の指導の中のある
一時間の指導の計画、指導過程は次のように考える。
八 本時の学習
 ここには、本時の学習の目標、内容、方法等がわかるように書く。
 1 本時の学習目標
  その時間の学習の目標を書く。
 2 本時の学習活動
 (1) その時間の学習指導過程がわかるように書く。
 (2) 学習活動とその学習活動によって養成される技能、態度、言語要素を書く。                  243
 (3) 各過程における評価の観点や方法を書く。
 (4) 学習指導上の留意点などを書いておく。
 次に、東京都墨田区立第二寺島小学校教諭児浦敏郎氏の単元の学習指導案をかかげる。

       
国語科学習指導案
                    指導者  児 浦 敏 郎

一 日時 昭和三十六年十一月十八日(土)           
二 児童 墨田区立第二寺島小学校六年五組           
三 単元 「アンジェラスのかね」               
四 単元について                      
 1 単元の機能                      
 この単元を学習することにょって、貧しい生活に苦しみな   
がらも、それを乗り越えて、情熱をもって芸術一途に生きた   
芸術家の人間性に感動する。その結果自分たちも日常生活の   
中で、目的に向かって精進努力し正しく力強く生きようとす   
る態度を身につける。これらを学習する過程において、読ん   
だり、感想を話し合ったり、書いたりする活動を通じて国語   
の能力を身につける。さらに、進んで他の伝記物語を読むよ   
うにする。これが、この単元の機能である。          

 2 単元の系統
  心情を豊かにするために読む学習としては、「命をかけて
(六の上)を受けて、「兄弟」(六の下)がある。
 3 児童の学習能力
 この期の児童の読み物は、冒険的なものから、感情や思想
を盛った読み物へと移行し、深い読みをするようになる。六
年になって「命をかけて」の伝記物語を学習しており、伝記
物語は図書館でよく読んでいる。また、読み取ったことを話
し合ったり、感想を話し合ったりすることもよくできるよう
になり、特に主題について深く考えようとする児童もふえて
きている。
五 学習目標
 伝記物語を読んで、芸術一途に精進努力した人間性に感動
し心情に培う。                                                244

六 学習内容

 学習活励  技能、態度  言語要素
o「アンジェラス
 のかね」を読む
o読後の感想文を
 書く。
o他の伝記物語を
 読む。 
1 文章を味わって
 読むこと。
2 主題を読み取る
 こと。
3 目的に応じた書
 き方をすること。
4 書くことによっ
 て考えを深めるこ
 と。
5 よい本を選んで
 読むこと。 
o新出漢字を読み
 また書くこと。
o意味の、わから
 ない語句を文脈
 にそって考える
 こと。 

七 学習資料、教材
 (1) 教材「アンジェラスのかね」(2) 資料 図書館にある伝記物語
八 学習計画(総時間九時間)
@目的 1 ミレーや「アンジェラスのかね」――――┐
      の絵について知っているこ       |
      とを話す。――――――――┐     | −1 価値的な
                   |― 一時間 |   目的をもつ
    2 学習の目あてを決める。  |   ――┘
                   |
                   |
A計画 3 学習の順序を考える。   |       −2 計画を立
                   |         てる
B研究 4 「アンジェラスのかね」  |       −3 価値を追
      を読む。―――――――――┘― 三時間     求し獲得す
                             る。
Cまとめ5 読後の感想を書く。―――――― 二時間   −4 価値を検
                             討する
D発展 6 他の伝記物語を選んで読む。
      ――――――――――二時間―┐
    7 他の伝記物語を読んだ感想を話|      −5 価値の適
      し合う。――――― 一時間―┘        用
九 学習評価
 1 文章を味わって読むことができたか。
 2 主題が読み取れたか。
 3 よい本を選んで読んだか。
 4 目的に応じた書き方ができたか。
 5 書くことによって自分の考えを深めることができたか。
 6 新出文字が読めまた書けたか。
一〇 本時の学習(第三時間め)
 1 本時の目標
  ミレーの人間性に感動し考えを深めるようになる。
 2 本時の学習活動
                                                      245

 過 程 時間  学 習 活 動  学 習 事 項  評価・留意点 
l 目的
 をもつ



2 価値
 を追求
 する



3 価値
 を獲得
 する


4 価値
 をまと
 め深め
 る 
5分




10分





20分




10分

1 前時の学習について話し合う。
 −(学習の目あてを決める)



2 「人々のはげましの気持ち」
 「ミレーの芸術に対する気持ち」
 を調べる。
 −(前時に直観的に読みとったも
 のを確かめるために)

3 読み取ったことを表現の上でお
 さえながら話し合う。−(自分の
 考えを縮かめるために)


4 ミレーの人がらについて根拠を
 あげて話し合う。−(考えを深め
 るために)

人々のはげましがあって、いい絵
がかけたのだが、そればかりでは
ない。

o人々の行動や気持ちを読み取るこ
 と。

oわからない語句は文脈にそって考
 えること。
(うなだれる。はてしなく。
  あいづちをうつ。)
農夫―┐
妻――┼―はげましの気もち
友人―┘
ミレーの芸術に対する気持

o読み替え漢字を読むこと。
(o万人o情けo満ちる)

o感じたことをもとに、話し合いに
 よって考えを深めること。

o学習の目あてをは
 っきりさせる。

o印をつけたりメモ
 したりしながら読
 む。

o人々の行動や気持
 ちがつかめたか。

oつねに表現にかえ
 って碓かめる。

o児童の読み取った
 ことをもとに話し
 合う。

                                                      246
       
二 教材研究の方法

        
(一) 教材研究の考え方

 従来の教材研究は、文学研究の考え方や方法をそのまま取り入れていた。
 新しい教材研究は、単元に位置づけれらた教材の教育的機能を研究する。教材は、児童・生徒に対して、どんな
働きかけをするかの研究が基本である。つまり、教材がもつ価値形成(人間形成)の機能と国語の能力養成の機能
とを研究する。
 したがって、その研究の分野も一例をあげると次のようになる。
1 価値形成の機能の研究
 (1) 全学年の教科書教材に含まれる題材(価値)の体系の研究(その教科書にょってどんな人間を育成しょうと
 するか。)
 (2) 各学年の教材の題材(価値)の系統の研究(児童・生徒の興味、関心の発達)
2 能力養成の機能の研究
 (1) 物語教材の学年的発達
 (2) 知識・情報教材の学年的発達                                      247
 (3) 劇教材の学年的発達
 (4) 聞く話す教材の学年的発達
 (5) 作文教材の学年的発達
 (6) 教材の活用の方法の研究
 (7) 教材の意味の構造的研究
 (8) 教材の言語能力、言語要素の研究
 (9) 教材の文字抵抗、語い抵抗の研究
3 教材の本質についての研究
 (1) どんなものが教材になるか教育的条件の研究
 (2) 教材の教育的機能の研究

        
(二) 教材研究の方法

 教材研究の分野はいろいろ考えられるが、ここでは、学習指導の立場から次の観点に立って教材研究の方法につ
いて述べる。
 (1) 児童との関連において
 (2) 単元の学習目標との関連おいて                                     248
 (3) 単元の学習内容との関連において
 (4) 単元の学習指導法との関連において

   1 児童と教材との関連

 (1) その教材の題材に対する児童・生徒の関心、典味の度合、必要の程度などについて研究する。つまり、その
教材に対する児童・生徒の心理的反応、生活的欲求を調べる。学習前の調査、学習中の観察、学習後の調査によっ
て比較するのもよい。
 (2) その教材と児童の言語能力(学習能力)との関係について研究する。児童・生徒の言語能力の発達と教材を
学習するのに必要な能力との関係を調べる。たとえば 、教材について、(1) 題材の内容の理解の難易、 (2) 表
現形式の難易、 (3) 文字負担、語い負担、 (4) 教材の処理能力の程度等を調べ、児童・生徒の実態と比較研究
する。 つまり、 教材に対する児童・生徒の能力的反応を調べる。学習前の調査、 学習中の観察、 学習後の調査
によって判断することも考えられる。

   2 単元の学習目標と教材との関連

 (1)  価値形成の機能の研究
 教材は、単元の目標を達成するための言語活動の媒介として用いられるものであるから、当然、単元の目標をそ
の内容として含んでいなければならない。したがって、それぞれの教材が、単元のどんな目標をどのように担当し
ているかを明らかにしなければならない。そこに教材研究の重要な部面がある。
 単元の目標はすでに述べたように、生活的価値的な目標である。その単元の学習によって、どんな価値を児童・    249
生徒の内部に形成するか、どんな人間を形成するかが示されている。そのように教材に与えられている価値形成の
機能を単元の目標との関連において研究する。
 具体的に言えば、その教材が、読み手や聞き手に、何を知らせようとし、理解させようとし、あるいは何を伝え
ようとし、訴えようとしているかなどを研究する。すなわちその教材がどんな内容価値――知識を広める、理解を
深める、 情報を与える、経験を広める、心情を豊かにする、 感覚を磨く、思想を豊かにするなど――もっている
かを明らかにする。
 (2) 価値の構造(意味の構造)の研究
 単元の学習においては児童・生徒が教材のもつそのような内容価値に接近し、獲得し生産するのであるから、そ
の内容価値が文章(談話)としてどのように組織されているか、内容価値の構造を明らかにしておくと、児童・生
徒が接近しやすく獲得しやすい。つまり学習しやすい。
 このことは従来文章構造の研究という立場に立って形式的な研究、コンポジションの研究として取り扱われてい
た。したがって、学習が形式的、技術的、知識的にかたよることが多く、形式主義、内容主義などの語を生むもと
ともなった。機能的立場では、教材の内容価値の構造(意味の構造、認識の構造、思考の構造)をみることによっ
て、同時に文章形式の構造をみようとする。俗にいう意味段落、形式段落を止揚した価値の構造、意味の構造とし
て把握する。このようなみかたができないから、読解と作文との関連などといわれるとすぐに、それがコンポジシ
ョンの問題として取り上げられてしまう。
 ア 価値の層的構造(意味の層的構造)
 文章や談話の中に、価置をどのような構造体として把握するかは、文章や談話の考え方や学習指導過程と関連す   250
る。
 文章や談話では、初めに発せられた語は、それ以後に発する語を限定し規定する。
 逆にあとから発せられた語は、それ以前に発せられた語を規定している。こうして語は相互に規定し合いながら
文を成り立たせる。初めの文はあとの文を規定し、あとの文は、その前の文を規定している。こうして一つのまと
まった思想を記述する。どの語をとってみても、その語は文に規定され、どの文をとってみてもその意味は文章に
規定されている。このように、時間的過程を取りながら文章は成立し、意味は構造づけられ、価置が記述される。
文章や談話はこのような過程的構造的全体である。
 文章や談話が、そのような過程的、構造的全体であるとすれば、当然、価値もまた、意味もまた過程的構造的全
体とみなければならない。
 垣内松三は、意味の構造を層的にとらえた。叙述層、表現層、象徴層――いわゆる意味の三層として把握した。
意味を層的な深まりとみて、叙述されていることがら、背後にあることがらの意味、(書き手が表わそうとしたこ
と)さらに、その意味を統制しているもの(書き手がねらっているもの)この三層に分析した。
 このように意味を層的にみれば、意味の解釈に当たっても当然層的操作をしなければならない。直観、自証、証
自証という解釈法はこの三層に応ずる方法論であり、第一次の読み、第二次の読み、第三次の読みというのは解釈
の方法過程として、これまた当然たどるべき過程であったように思う。
 意味をこのように層的にみるみかたは、文学的な文章にはよく当てはまるが、いわゆる説明文や新聞の文章など
には適用できない。
 イ 価値の過程的構造(意味の過程的構造)                                 251
 新聞のニュース記事か与える情報は、「見出し」によってその中核が提示され、「要約」によってその要点が述
べられ・「本文」にその詳細が記述されている。情報価値は、主題、要約、詳細の順に、層的重なりとしてではな
く同一平面上に過程的に構造づけられている。
 このように、価値が(意味が)層的な重なりとしてではなく、過程的構造として示される場合がある。
 論説文などの、序論、本論、結論も、表現に即して屑的に意味が深められるというものではなく、諭理を追って
次第に意味が明確になり、深められていく。論理の展開発展を軸として過程的に論旨が構造づけられている。
 結論を述べその根拠として事実をあげ、さらに、その事実を解説して再び結論へと導く型の文章にしても同様で
ある。
 このことは、いわゆる説明的な文章だけではなく、文学的な文章の中にも見られることである。事件の展開、時
間の経過、場面の変化、論理の発展、展開などを軸としたり、因果関係、並列聞係、くさり型関係などの形態によ
って、価値(意味)が過程的に構造づけられている。
 文学的文章の学習が中心であった時代には、意味の層的把握によって読みを展闘するだけで、じゆうぶん学習に
応じられたが、今日のように、教材が多方面、多種類にわたっているときには、それだけではだめである。意味を
過程的構造として把握する新しい型をも加えて適用しなければ、あらゆる教材の学習に応じられないであろう。
 以上のように、単元の学習目標との関連において価値形成の機能を研究する。

   3 単元の学習内容と教材との関連

 単元の学習内容は、価値形成のための (1) 言語活動、 (2) 言語活動を処理する言語技能態度、 (3) 言語活動   252
をささえる言語要素である。これらが、話題・題材によって統制組織されたものが学習内容である。
 教材は、それらの学習内容を含んでいる。つまり、教材の機能として言語能力、言語要素をもっている。
 そこで、単元の学習内容と関連づけて教材を研究するには、次の部面が考えられる。
 (ア) その教材はどんな言語活動に使われるか。
 (イ) その教材によってどんな言語技能、態度を養成するか。
 (ウ) その教材でどんなことばに関する事項を身につけようとするか。
 (エ) 語い負担、文字負担はどうなっているか。
(1)  言語活動と教材
  ア まずこの教材はどんな言語活動に用いられるかを明らかにする――作文のための教材か、聞く話すための
  教材か、読解の教材か、読書指導の教材か、いつ扱ったらよいか、などについて調べる。
(2) 言語能力と教材
  ア この教材の学習によってどんな言語技能や態度を養おうとするか。たとえば、どのような読ませ方をしてど
  んな技能を身につけたらよいかを教材に即して具体的に調べる。
  イ その教材の学習によって養おうとする技能や態度と児童の能力の実体との関係を調べる。
(3) 言語要素と教材
 ア 新しく学習するかなや漢字、ローマ字を調べる。
 イ 特に指導しようとする語句を調べる。文章の主題や要旨との関連において。
 ウ 特に指導しようとする文法事項を調べる。                                253
 エ 発音、抑揚等について調べる。
 オ それらの言語要素は、いつどんな学習をするときに指導するかを調べる。たとえば、文章の意味を深める段
  階で語句の意味用法や文法的事実の指導をするなど。
 カ 語い負担、文字負担を調べる。一ページ当たり新出漢字、読み替え漢字が何字ぐらいあるか。意味のわから
  ない語が、一ページ当たり何語ぐらいあるかなど。

   4 単元の指導法と教材との関連

 (1)  単元の学習指導過程と教材
 単元の指導の過程において、いつ教材を扱うかを、単元の指導法との関連において考える。たとえば、作文教
材の取扱いは、記述前に扱うか、記述後に扱うか、記述の過程において扱うか。「教材、記述」「教材、記述、教
材」「教材、教材、記述」「記述、教材」など、さまざまな扱い方が考えられる。聞くこと、話すことの教材に
ついても同じである。
 (2) 読むことの指導過程と教材
 読むことの指導過程に合わせて教材を研究する。たとえば、物語教材で、(1) 主題の全体的把握、(2) 主題の
分析的確認、(3) 主題の体制的深化の方法過程で指導する。その場合でも、全体的把握では、何をどの程度把握
するか、分析的確認では、主題をどのように分析し確認させるか、分析的に理解したものをどのように体制化し
深化していくかを、教材に即して研究する。
また、書き手の思考の発展、展開に即して読む場合には、前に述べたような思考過程を明確に把握しておきたい。   254
そして、その過程に応じて読み進めるようにする。

   5 教材研究のまとめ

 教材研究の結果は次のような表に整理すると便利である。

【教材研究表】「0000」の研究

展開
の型
 価値の構造  事実関係 事実関係によって
表わされる意味 
 学習事項
 身につく能力  身につくことば



         

 次に掲げたのは東京都北区立滝野川第一小学校教諭小高偉子氏が、実験授業を行なうに当たってなされた教材研
究を一枚の表にまとめたものである。
                                                      255-256
〔教材研究〕    「あらしのボートレース」 価値の構造  
                              意味の構造
                              思考の過程

 展閲の型  価値の精造  事実関係   事実によって表わ
される意味
学習事項 
身につく能力  身につくことば 
試合当
日のも
よう
 
試合に
対する
予想
 
 
 
試合に
のぞむ
心がま
え(態
度)
 
 
試合の
経過
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
試合の
結果
試合の
あと
試合の条件が
よくなかった
 
 
慶応の勝利が
ほとんど碓実
  
しかし勝敗は
わからない
  
慶応
 力いっぱい
 戦う
早稲田
 ボートをし
 ずめない
 
スタート直後
 予想通り
 
 
 
慶応
 水がはいっ
 てしずむ
早稲田
 水をくみ出
 す
 
 
 
 
早稲田の勝利
 
勝敗に対する
態度
 
 
 
スポーツマン
シップ
・目的に対し
 て全力をつ
 くした態度
・レース後の
 フェアーな
 態度 
・前夜からの雨はまだやまず
・春特有の強風
・かなり大きな波
慶応は
・前年メルボルンオリソピック大会に参加
・その時の選手が一部残っている
・しかし悪条件では勝敗はどうなるかわからな
 い
・全力をふりしぼって
・水がはいってくるかもしれないが、力を合わ
 せてこぎぬく競争だ
・ふだんの力がだせなければ相手に失礼
・力いっぱいに戦うことがスポーツマンにはた
 いせつ
・試合に負けてもボートをしずめてはいけない
・水がはいったら四人でこいで四人で水を出す
・最後までがんばってボートをしずめない
・スタ−ト〜両国橋付近慶応がだんぜんリード 
 
 
・ところが
蔵前橋をすぎる頃から
慶応         |早稲田
 しだいにおくれ   | じりじりと差をつめ
 水は腰をぬらすほど | 始め水のくみだし係
 だれひとりオールを | 少ない人数でこぐ
 はなさず力いっぱい | (前方の慶応の速さ
 こぐ        |  にくちびるをかみ
           |  ながら)
 ゴールにはいれずし | 駒形橋付近で追いぬ
 ずむ        | く
・しかし
 勝敗は逆転
・早稲田 試合のやり直しを申し出る
 真の勝利でない
 悪天候ではほんとうの力はだせない
・しんぱん員申出を採用せず
・慶応 早稲田の勝利に心からはく手を送った
 試合に対する準備が足りなかった
 早稲田の勝利は正しい
 
 
 
 
 
 
 
 
試合に対する
信念
慶応
 ぜひ勝たせ
 たい。りっ
 ぱな勝ち方
早稲田
 ボートレー
 スそのもの
 に対する信
 条
 
 
 
o早稲田の選
 手
 どんなにう
 れしかった
 ろう
 (けれども〕
o慶応の選手
 全力をふり
 しぼったの
 に
 
o早稲田の選
 手の試合に
 対する信念
 
o慶応の選手
 の試合に対
 する信念
 
 
 
o観衆の期待
 
 
o観衆の不安
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
o観衆
 予想通りで
 安心した
 勝利を信じ
 ていた
o観衆
 おや!
 
 
 
oどうしたの
 だろう
 
 
 
 やった! 
情景を読みと
る力
 
 
 
 
 
 
意図を読みと
る力
 
 
 
 
 
 
要点を抜き出
したり、全体
を要約したり
する力 
心理を読みと
 る力
 
 
情最を読みと
 る力
 
 
 
 
 
 
 
心理を読みと
 る力
 
 
 
というのは…
………からです
 
はたして
 
全力をふりしぼ
って
あくまでも
心をうばわれて
たとえ……でも
けっして……な
らない

直後(直前)
 
 
 
観衆
 
 
 
 
 
 
 
だれひとり…な

 
 
逆転
 
 
 
採用
認める
 

                                                      257
    
三 聞くこと話すことの学習指導の展開

       
(一) 聞くこと話すことの機構

    1 目的

 われわれが、聞いたり、話したりする場合には、必ず何かの目的をもつ。その目的は、われわれが生活上の関心
興味、必要(たとえば、なぜだろう。知りたい。不思議だ。何とかしなければならない。それはおもしろい。知ら
せてやりたい。訴えたいなどさまざまな)などに根ざし、ことばの機能に即して設定される。そのような目的がは
っきりと意識されると、話をしよう、話を聞こうという内面的な欲求が起こり、言語活動がかっばつになる。
 ことばの機能に即した目的というのは、たとえば、聞くこと、話すことによって
 (1) 知識を求める、理解を深める。
 (2) 教養を高める。
 (3) 情報を求める。
 (4) 生活を楽しむ。
 (5) 経験を広める。                                            258
 (6) 認識を深める。考えを深める。思想を豊かにする。
 (7) 伝え知らせる。周知させる。
 (8) 訴える、感動を与える。
 (9) 親しく交わる。
 などの目的を持つことである。また、それを別の立場から言えば
 (1) 社会に適応する。
 (2) 心情を豊かにする。
 (3) 思考を正確にする。
 (4) 自己を改造する。
 (5) 社会性を育てる。
 (6) 生活を楽しくする。
 (7) 個性を伸ばす。
 (8) 他人を動かす。
 (9) 言語生活を向上させる。
 などの目的が考えられる。このような、ことばの機能に即して生活的な目的をもって、われわれは聞く話す言語
活動を営むことになる。これらの目的を内容的にみれば、いずれも人間性の開発伸長をめざす価値を求めているの
である。したがって、一般的に内容的に言えば、人間形成に資する価値を追求し獲得する目的をもって言語活動を
営むのである。                                               259

    2 話題

 聞く、話す場合には、必ず何かについて聞き、何かについて話すのであるから、聞く、話す活動の中心になる話
題が必要である。この話題に内在する実質的価値と、話題をめぐって行なわれる言語活動によって養成される精神
面とが、人間を形成する。話題についてはすでに詳しく述べてあるので、ここでは省略する。

    3 話し手と聞き手

 話す聞く活動では、原則として、話し手と聞き手が直接相対している。機械を通して話す場合でも、原則として
話し手と聞き手は間接ではあっても同時に相対している。このように、話し手と聞き手が直接人間関係、社会関係
を結んでいる中で、言語活動が行なわれる事実を重視しなければならない。
 しかも、この話し手と聞き手の相互関係――身分の関係、親疎の関係、人数の関係、立場の関係、直接間接の関
係、位置の関係等が、話題、談話形態、用語、場面等を規定する。
また、話し手と聞き手の立場が固定して変わらない場合と、話し手と聞き手が交互に立場を変える場合とがある。

    4 活動の形態と能力、言語

 聞く、話す活動の形態は、聞く、話す目的によって規定される。たとえば、ある問題をみんなで話し合って解決
しようとする場合には、話合いや会議の形態を取る。研究したことをみんなに知らせるためには、発表の形態を取


る。児童会の結果をみんなに知らせるためには報告の形態を取る。                        260
 このように形態は、聞く話す目的によってそのどれをとるかが決められる。従来談話形態はその形式によって、
一対一とか一対多とか、独話形式とか対話形式とかいう分類が行なわれていた。発表、説明、演説、講演などは一
対多の独話形式とされていた。このような形式的な見方をしているから、発表にしろ、演説にしろ説明にしろ話の
一方通行的な理解しか得られない。それは形式は独話であっても、実際は話し手と聞き手の働きかけ合いによって、
両者の協力によって、相通によって談話は成立するのすある。話し手は、聞き手の反応を診断しながら、それに応
じて、話の精組、反複、用語の選択、内容の取捨、態度の変更、場面の構成等を考えて、聞き手に知らせ、伝え、
訴えていく。聞き手は、理解できた話には、うなづき、安心し、共鳴しそれからからだ全体で反応する。理解でき
ない話には、小首をかしげ、困惑し、不安を感じ、反撥し、ざわめき、注意を散らし、これまたからだで、雰囲気
で反応する。話し手は敏感にこれをとらえる。
 こうして、形式的には一方通行的に見える談話も、実はこのようにお互いに通じ合い協力し合って進行させてい
るのである。
 そこで、談話形態を考える場合にも、その機能に着眼し、価値形成の立場からこれを見なければならない。形態
分類もそこから出発する。たとえば、次のように考えられる。
 (1) 知識――教養――説明、発表、質問応答
 (2) 情報――適応――指示、校内放送、報告、ラジオ、テレビ
 (3) 思考――思想――話合い、会議(協議、討議、討論)
 (4) 生活――娯楽――朗読、ラジオ、放送、童話、物語
 (5) 社会性――会話                                            261
 談話形態はそれぞれ独自の機能を持っているから、目的に応じた談話形態がとられないと効果があがりにくい。
このように目的に応じ、談話形態の機能に応じた形態をとるが、その際とくに、その処理能力としてどんな談話能
力が必要であるかを明確にしなければならない。同時に、その活動をささえているどんな言語要素が身につくかを
確認することがたいせつである。

    5 場面

話題が決まり、それを中心として、話し手と聞き手が相対し、談話形態が決まると話は進行する。こうした活動に
影響し、そのあり方を規定するのが場面である。この主体的な場面を構成する諸要素――形式的要素(たとえば、
話題、話し手、聞き手、その人数、場所、席の位置など)精神的要素(話し手、聞き手の身分の関係、親疎の関係、
立場の関係、話し手、聞き手の性格など)とが有機的に結合して場面の空気、雰囲気を作り出す。つまり、それは
場面を構成する諸要素間の緊張関係である。この場面が話さない児童、話せない児童を作る大きな原因となること
が多い。またこの場面の中で人間が形成されることを忘れてはならない。
 以上、聞く話す活動を要素的に分析して考察を試みたが、次に機能的な聞く、話す活動の機構図を掲げる。
                                                       262

      機能的な聞く・話す活動の機構



     聞く話す学習活動の機構
                                                      263



     (二) 聞くこと、話すことの学習活動の機構

 聞くこと、話すことの学習活動の機構は一般的、機能的な聞くこと話すことの機構に準拠している。ただ一般的
な機構と違って学習活動では児童の人間形成と同時に聞く話す能力の養成が大きく取り上げられる。学習活動の機   264
構を前ページに示した。

    1 開くこと、話すことの学習の基本的な考え方

 「研究発表」の学習をみると従来各教室では、次のような指導をしているむきが多い。
 (1)  発表者−聞き手によくわかるような話し方(たとえば、順序よく話すこと。図表などを使って話すことな
  どがくふうされる。)をくふうする。
 (2)  聞き手――順序よく話せたか、みんなにわかるような大きな声で詰せたか。ことばの終わりまではっきり
  言えたか。図表などがじょうずに利用できたかなどに気をつけながら発表を聞く。時には評価表などを用意し
  て評価させながら聞く。
 (3)  発表が終わると、発表についての感想や意見、批評などを言わせる。時には評価の結果を発表させる。
 というような指導が目立つ。その結果、多くは、技能についての揚げ足取り的な発言が多い。話し手の立場や気
持ちなどを考えることなどは忘れられる。聞き手は話の内容を聞こうとせず、あらかじめ挙げた技能を中心に、観
念的に、よかった悪かった、じょうずだったへただったなどと批評する。技能や態度について客観的な何の基準も
なく、何となく印象的に批評している。そのため人間関係が阻害されていく。
 要するに、この学習では話し手は、相手にわからせる技術技能を中心に考え、聞き手は話し手の技術、技能の巧
拙を中心にして話を聞く。
 これに対して次のような考え方がある。
(1) 発表者――ア 話そうとすることがらに対する知識、理解をみずから深めることを第一とする。よく調べ、研   265
 究して話題の理解について自信を持つ。(価値の獲得、生産を第一とする)イ 既有の知識、理解を整理し ま
 とめ、順序立てなどして、確実化する。(思考をいっそう正確にする)ウ その上に立って、話す(わからせる)
 技術をくふうする。
(2) 聞き手――ア 発表者の発表内容を理解することを第一とする。(価値の獲得、生産を第一とする)イ 発表
 内容の聞き取り(理解)との関係において、発表の技能、態度のよしあしを考える。聞き取り方のよしあしを反
 省する。
(3) 発表が終わると、発表を聞いてわかったことは何かを話させる。発表内容がよく聞き取れている場合は、それ
 はなぜかどんな話し方をしたからかなどを考える。話す内容がよく調べられていたからだ。話がよく整理され順
 序だてられていたからだ。話の速さが適当だったからだなどと、その技術を考えて分析してみる。また聞き手の
 聞き方の技術についても考えてみる。メモを取りながら聞いた。話を少しずつまとめながら聞いた。内容をわか
 ろうとして一心に聞いたなどとその聞き取り方をあげてみる。
  また話がよく聞き取れていなかった場合にも同様にしてその原因となった技術を考え分析してみる。話し手の
 声が小さかったら、耳をすまして、あるいはからだをのり出して、さらに、教室がしんとなって聞く。その上で
 声の小さかったことを指摘する態度こそ指導すべき態度である。
  このような、話し手も聞き手もともに価値の獲得生産を基礎とする学習には次のような長所がある。
 ア 話すことはみずからの思考を正確にし、発展させ、生産する活動であるとともに聞き手に価値を生産させる
  契機を作ってやるものである。この認識が話し手の活動を主体的積極的にし、話す技術、技能をじゅうぶんに
働かせるようになる。                                            266
 イ 価値を獲得しょうとして聞くところに、主体的積極的、意欲的な活動が行なわれ、それに応じて真剣な聞く
  態度、生き生きとした技能が働く。
 ウ このように、内容価値をわからせる、内容価値を聞き取ることを中心とするから、聞く、話す態度、技能の
  よしあしが、わからせたか、わかったかを基準として判断できる。つまり判断の基準が明確に示される。
 エ 技術、技能を中心とした揚げ足取り的な学習が行なわれないから、つねに話し手の立場、聞き手の立場に立
  って話し、聞くことができ、人間関係を進める。
 オ 聞く話す技能、態度が、つねに話す内容の理解と結びつけて考えられるから、練習の必然性を自覚し、効果
  的な練習ができる。

    2 開くこと、話すことの学習指導過程

(1) 生活――関心、興味、必要
  教室のそうじがうまくいかない。時間がかかる。整理されない。怠ける者がいる。あと始末がよくできない。
 なんとかしなければならない。学級の者がそれぞれそう感じている。そんなことが話題にのぼることもある。
(2) 目的――生活目的
  教室のそうじを能率的、効果的にして、いつも教室を清潔にしておかなければならないことが話し合われた。
(3) 欲求――生活目的の内面化
  教室を清潔にしようとする内面的な欲求が高まる。
(4) 学習(目的達成のための)                                        267
 ア 学習目標――価値への志向――(目標)みんなで意見を出し合い、能率的、効果的なそうじの方法を考え合
  おう。
 イ 学習計画――価値への接近の方法――(計画)
  (ァ) 学級で話合いをする。――進行係、記録係
  (ィ) 話合いの順序を決める。
  (ゥ) 決まったことを実践してみる。
 ウ 学習活動――価価の追求、獲得――(追求、獲得)

 (ァ) 話合いをする(分析)
   oこれまでのそうじの反省。
   o反省によって問題点を明らかにする。
   o能率的、効果的な方法について意見を出し合
    う。
   oまとまったいい意見を記録する。
 (ィ) 話合いの結果をまとめる。(総合)
   o記録したことを整理する。
   oいい意見を総合してそうじの能率的、効果的
    な方法をまとめる。
 (ゥ) 話合いの結果まとまったことを検討する。(検

   討)――価値の検討。
   o実行できるか。
   o永続するか。
   o困難はないか。

 o能率的効果的なそうじのしかたとして全体的に把握
  した間題を反省などによって具体的な問題点とし、
  分析する。
 o分析した個々の間題点について考え方を深める。
 o事実を明確に述べること。
 o人の意見を正確に聞きとること。
 o相手によくわかるように意見を述べること。
 o話題からそれないこと。
 などを、具体的に指導する。
 o個々の問題について意見を述べあっていくから、そ
  の深い浅い、他の問題との関連などが考えられない
  ままに決められることが多い。
 o総合の過程では問題相互の関連に注意しながら全体
  的にまとめる。
 oとかく理想だけが述べられがちであるから、実践で
  きるかどうかという点からじゅうぶん検討する。こ
  ういう話合いの結果については実践性をもつという
  ことはきわめて大事なことである。

 エ 生活への適用――価値の適用                                      268
  (ァ) 実践してみる。
  (ィ) 反省してみる。
 この学習指導過程は次のようになっている。
 単元「教室のそらじ」
1 生活上の興味、必要等をもつ。
2 生活上の興味、必要等に基づいて目的をもつ。
3 生活上の目的が内面的な強い欲求となる。
4 目的を達成するために学習活動をする。
  (1) 学習目標をもつ。――価値への志向
  (2) 学習計画を立てる。――価値への接近の方法
  (3) 聞く、話す活動をする――価値の追求、獲得
   ア 問題の全体的把握  イ 間題の分析的研究                             269
   ウ 問題の総合的深化  工 聞題の検討――価値の検討
5 生活に通用する。――価値の適用

    3 聞くこと話すことの学習指導案

 次に東京都板橋区立中根橋小学校教諭遠藤七郎氏が実施した学習指導案を掲げる。

       
国語科学習指導案
                           指導者  遠 藤 七 郎

一、日時 昭和三十六年二月六日(月)第五校時
一、学年 五学年一組 男二七名 女二五名 計五二名
一、単元 世のために

 (一) 単元について
  1 単元の題材について
    個人差はあるが、この頃の児童は読書の対象として伝記や逸話に興味をもつようになってきている。
   世のために尽くした人々の文化的遺産の中で具体的に人間が生きていく姿や、その因果関係が次第にわ
   かったり、自分なりに批判できるようになってくるころである。本単元は「塩田の父」と「けんび鏡と
   ともに」の二つの・題材からなっている。その中で「世のために」つくした人々の伝記や逸話をとりあ
   げ、産業や科学文化の発達がいかに世のためになっているかということに関心をもたせるようになって
   いる。
    この学級の児童はまだまだ個人意識が強く社会的な関心、理解に欠けている。これは現代の世相にも
   見られるところであるが、こういった風潮に対する省察や批判の目を開かせる機会をつくることは非常
   に意義深いものと思っている。
  2 単元の学習能力について
    ここで扱う二つの題材は長文であり語法の上からも難解なものが少なくない。伝記文の代表的な作品     270
   であり、他の伝記を読むためのよい資料であるから、順序よく整理し理解をさせていくことは極めて大
   切なことである。他の題材に比較し難解であるだけに本学級の児童もこの単元には相当の抵抗を感じる
   はずである。読解や作文の指導はもちろん、発表、紹介を通じて言語活動を豊かにし国語全般の能力を
   身につけなければならないと思う。
  3 単元の系統について
   上巻 人のくふう(いねの改良)
   下巻 図書 社会科 日本の産業

 (二) 学習目標
   世のためにつくした人々の伝記や逸話を読んだり紹介し合ったりしてその人格に同意共鳴し、社会のた
  めに生きようとする気持ちを育てる。
 (三) 学習内容

 学習活動  学習事項
 知識、技能、態度  言語要素
一、 「世の
  ために」
  の伝記を
  読む


二、 読みと
  ったこと
  を書く


三、 世のた
  めにつく
  した人に
  ついて話
  しまた聞
  く
 
1 久米栄左衛門と北里
 柴三郎の産業、科学に
 尽した業績や人柄を理
 解すること。
2 読んで自分自身の感
 想や批判をもつこと
3 それぞれの要点を書
 き出したり段落ごとこ
 にまとめたりすること
4 順序を追って業績を
 まとめること
5 聞き手の気持ちにな
 ってわかりやすくくふ
 うして説明をすること
6 話し手の気持ちをく
 みとり、メモなどをと
 りおとさずに聞くこと
1 文の係り結び、主語、
 述語、修飾語などに注
 意して内容を読みとる
 こと
2 辞書を使って語句を
 しらべること
3 ことばや漢字が理解
 された上に適確に書け
 るようにすること
 

 (四) 学習資料
  1 塩田の父       2 けんび鏡とともに
 (五) 学習計画(一三時間)
  1 学校図書館で読んだ本のうち、世のためにつくした―┐
   人のものがあったらそれについて話し合う。     |
  2 「世のために」全般の学習の目あてについて話し  |…1
   合う。――――――――――――――――――――――┘
  3 「塩田の父」を読む   ……………………………………4
  4 「けんび鏡とともに」を読む  …………………………‥5
  5 読後の感想を書く   ………………………………………2
  6 世のために尽くした人の業績、人格を調べて話し
   たり聞いたりする。   ……………………………………本時                       271
 (六) 学習評価
  1 目あてをもって自主的に読もうとする態度(学習中の観察)
  2 文を段落に分けたり、要点をとらえたりする能力(学習中、学習ノート)
  3 伝記を読んで主人公の業績や人柄をとらえる能力(学習中、テスト)
  4 読んだことについて感想や批判をもつ能力(学習中の観察)
  5 本単元で習った文字や、ことばや、表記についての理解(テスト)
  6 目的にしたがって、話したり聞いたりする能力(学習中、発表)
 (七) 本時の学習
  1 本時の学習目標 文化を通じて世のためにつくした人の業績や人がらについて話したり闘いたりして
   感動するようにする。
  2 本時の学習活動

展開  学習活動  学習事項  指導  評価・留意点 
一、目的








二、計画

三、学習
一、本時の学習の目
 あてをきめる。
1今までに学習した
 ことについて話し
 合う
2教材「世のため
 に」の内容と関連
 した友だちの話を
 聞く
二、本時の学習の計
 画を立てる。
三、学習への意欲を
 高める。
 

1「世のために」
 の学習事項をか
 んたんに話させ
 る
2「世のために」
 なった人の心が
 まえを中心に話
 し合いをする
3学習事項の自覚
 と発表されるこ
 とへの期待を持
 つ
4発表の用意と、
 学習の準備を整
 える。

o本教材につ
 いてどの程
 度わかって
 いるかをた
 しかめる程
 度にする。
o率直な態度
 で聞くよう
 にすること

 
  四、「世のために」
 つくした
人の話を
 したり聞いたりす
 る。
1世の、文化発展の
 ためにつくした人
 の話を要領よくす
 る。
2話されたことを整
 理しながら聞く
3話された人の業績
 を中心としてしら
 べる
4質疑応答 をする

 
1相手によくわかるよ
 うに心がけて話す
 こと

2目的をもってじゅん
 じょよく話すこと
3メモをとりながら話
 されていることのあ
 らましを聞きとるこ
 と
4話し手の意図がつか
 めるように聞くこと
1話し方をくふう
 して聞き手にわ
 かるような表現
 をすること
2話の順序に気を
 つけてもりあが
 りのある話し方
 をすること
3話し手の意図を
 聞きとるためは
 じめのメモはで
 きるだけかんた
 んにとること
4その人の業績と
 人がらを中心に
 聞きとったこと
 を発表する
5「世のために」
 なったこととそ
 それをなしとげ
 た原動力につい
 て話し合う
  
o声の大きさ
 ことばの速
 度、きれ目
 などを観察
 する
o表現や、そ
 の補助手段
 が話をどれ
 だけ助けて
 いるかを観
 察する
o聞きとりの
 状態を観察
 する
oメモのとり
 ぐあいをし
 らべる
o結果の話し
 合いが話し
 手の意図と
 一致するか
 どうかたし
 かめる

四、
 まとめ


五、学習の結果をま
 とめる
1 聞いて感じたこ
 とを話し合いまと
 める
2自分の意見を発表
 する。
3「世のために」の
 学習のまとめをす
 る
 
l話を聞いてまとめて
 表現すること
2自分のメモをもとに
 して話ができるよう
 にすること
3人物の考え方や、話
 し手の意見、それに
 自分の意見を区別し
 ながら聞けるように
 すること
 

l話を聞いて自分
 で感じたことを
 発表する
2自分の意見は率
 直に表現するよ
 うにする
3世のためになっ
 た人についてか
 んたんに話し合
 う

o言語活動が
 よくなされ
 たかどうか
 を観察する
o自分の考え
 をメモをも
 とにしてみ
 んなの前で
 話せるかど
 うかを観察
 する
o「世のため
 に」の話し
 合いが教材
 の目標に役
 立ったかど
 うか
o本時の全般
 的な学習の
 反省をする


                                                      273


    
四 読むことの学習指導の展開

         
(一) 読むことの機構

 一般に文章を読むときには次の過程をとる。
1 興味、必要――生活上の関心、興味、必要等に基づいて本を読もうとする気持ちをもつ。
2 読む目的――生活上の興味、必要に基づいて読む目的をもつ。それは、ことばの機能に即した目的で、大きく
 分けると、(1) インフォメーションのため(知識、情報を得るため)(2) レクリエーションのため(楽しみ、鑑
 賞するため)の二つになる。
3 読む材料――読む目的に応じて読書材料が選択される。
4 読む目的、読書材料に応じた読解活動が行なわれる。
5 読書活動の結果、読書材料に内在する価値が獲得、生産される。
6 読解活動が完了して、目的が達成され満足感を覚える。
 これは主体の意識の展開に立ってみれば、(1) 価値への志向 (2) 価値の追求 (3) 価値の獲得、生産 (4) 価
値の適用の過程の上に組織された全体機構である。また、価値生産の立楊に立ってみれば、(1) 目的をもつ (2)
読書材料を選ぶ (3) 読書活動をする (4) 目的を達成するという方法過程として組織された全体機構と考えるこ   274
ともできる。次に、その読むことの機構を図示してみる。


         
(二) 読む学習活動の機構

 一般的な読みの機構と読む学習活動の機構との違いは、前者が価値生産のみをその日標とするのに対し、後者は、  275
価値生産とともに読解力の養成を重くみる点にある。
1 生活上の興味、必要にあった題材が選ばれている。
2 学習の目的――教科書の単元とその資料の機能によって、すでに決められている。

3 読書材料――原則としてあらかじめ選ばれてある。                              276
 計画的に、価値、言語技能、言語要素が読みの抵抗として教材の中に用意されている。
4 読解活動――教材の内容価値を獲得するとともに、読解力を養成する。
5 目的の完成――読解によって、価値が身につくとともに、読解力が養われる。
 したがって、読みの興味、必要等を喚起し、読みの目的を意識させ、碓立させるところに指導上の第一の問題が
ある。次に、読解活動が価値の生産と読解力の養成とを併わせもっているために、どんな読解活動をさせて、どん
な技能、態度を養成するかが明白に指摘されなければならない。読む学習活動の機構について図示すると前ページ
のようになる。

        
(三) 読解活動の機構

 「きょうはよい天気だ」という文は、書き手が「きょうは」どんな日かというと「よい天気だ」と判断した、そ
の判断を文に組み立てたものである。読み手は、まず、「きょうは」という文字を知覚する。そこに眼球運動の間
題がある。眼球は、文字の行にそって連続的に移動するものでなく、文字を凝視して停留し、いくつかの文字を同
時に知覚する。次に行にそって移行し、停留して次の文字群を知覚する。この停留、運動をくり返し文字を知覚す
る。
 そこで「きょうは」の文字を知覚して「キョーワ」と読む。つまり、文字を音声化する。ここで文字の学習が行
なわれる。
ここに音読、黙読の問題がある。
 音読、黙読いずれの場合でもそこに「キョーワ」という音声表象ができる。この音声表象とそれが表わす概念    277
(意味)とが結合して「きょうは」の意味がわかる、ここで語の理解、習得が行なわれる。
 こうして、文字・語を知覚し、音声化し、音声表象を作り、概念と結びついて(あるいは結びつけて)語の意味
がわかる。「よい」も「天気だ」も同様にし、それぞれの概念が得られ、書き手が組み立てた判断「きょうはよい
天気だ」を読み手が自己の中に再体制化する。(ここに文法学習がある。)そして、書き手と同じ「きょうはよい
天気だ」という判断が得られる。意味が理解される。これが読解活動の基本的な機構である。この活動をくり返す
ことによって、文字を習得して文字体系を、語いを獲得して語い体系を順次に組み立てていく。また語の組織によ
って文法を身につけ文法体系を作っていく。こうした読解活動の結果、思想感情が育てられ価値の体系ができあが
っていく。
 しかし、実際の読む活動はこのような単純な線条的なものではない。読む過程において得た知識を既有の知識や
経験と結びつけて自己の知識体系の中に組み入れる。思考力が働く。それから感情が結びつく、想像力が働く、記
憶力が働くというようにいろいろな精神活動と結びついて行なわれる、これらの精神活動は個性的であり、パーソ
ナリティとして読解をささえ特色づける。さらに、読み手の生活経験、教養、興味、欲求など、その歴史的、社会
的背景によってまた意味の理解を特色づけている。読解活動は、このような複雑な機構を持っている。この読解の
機構が基本となって、意味を理解し価値を生産する読解の機能を果たすのである。次にその基本的な機構を図示し
てみる。
                                                      278


        
(四) 読解活動の機能

 参考書を読んで何かについての知識、理解を得る。新聞を読んで情報を得る。物語を読んで人生の生き方を知る。
このように、文章を読むことによって、その内容価値を身につけることができる。つまり読解活動は「価値を生産
する。」                                                  279
 また、文章を読んで、価値を生産する過程で、文章を読む力が育てられる。文字の読み方もおぼえる。語句の意
味もわかってくる。このように、文章を読むことによって、読解力が身につき、言語要素が習得される。つまり、
「読解活動は読解能力を伸ばし、言語要素を身につける。」
 さらにまた読解活動は精神活動を盛んにする。読んで意味を理解する過程で思考力が働く。想像力が働いて新し
いイメージを作り出す。あるいは書かれている事実に即して感情が磨かれる。このように、文章を読むことによっ
て思考力が働き、感情移入が行なわれ、想像力が働く。つまり、読解活動は、思考、感情、想像等の力を伸ばす。

    1 読解活動は価値を生産する。

 読むことは、書き手とともに思考することである。読むことは認識することである。読むことは自己を読むこと
である。読むことは意味を理解することであるなどと言われる。と同時に、読むことは、書き手によって記述され
ている内容的価値を読み手が自己の中に再生産することである。生産財としての教材が含みもっている内容的価値
を読み手が、自己の価値体系の中に位置づけ、同化し、成長させる過程である。
 自己の中に生産する価値は、生産財としての教材がもっている内容価値を中核とするものである。その価値は、
小学校学習指導要領国語に示された、話題、題材選定の観点十か条などによって示されている。
 次に読解活動とそれによって生産される価値との闘係を考えてみる。
                                                      280

読解活動   生産される価値    読解活動 生産される価値 
(1)知識を
め理解
を深める
ために読

ア 指示を読む
イ 説明を読む
ウ 解説を読む
エ 報告を読む
オ 記録を読む
力 辞典、事典、
 年鑑等を読む
キ 雑誌等を読む
 
ア 一般的ないろいろな
 知識を得る
イ 作り方実験研究のし
 かた、行動のしかた等
 を知る
ウ 深い知識、理解をう
 る
エ 話題を豊かにする
オ 教養を高める
 
  (3)経験
を広め心
を豊かに
するため
に読む

 
ア 詩などを読む
イ 童話、説話、
 物語、小説、随
 筆等を読む
ウ 脚本、放送劇
 台本を読む
エ 伝記などを読
 む
オ 雑誌、新聞な
 どを読む
 
ア 人生や社会の生き方
 を知る
イ 物の見方や考え方を
 知る.
ウ 人生、社会、生活の
 問題などを知る
エ 愛情、感動、感覚な
 どに触れる
オ 内面的な経験を増す

 
(2)情報を
求め、社
会性を増
すために
読む

ア 掲示を読む。
イ 広報を読む
ウ 新聞を読む
エ 手紙を読む
ア生活行動、生活適応
 のしかたを知る
イ 学校、社会、世界
 等の動静を知る
ウ 社会性を増す
 
  (4)思想
を豊かに
し知性を
増すため
に読む

ア 論文を読む
イ 論説を読む
ウ 随筆を読む
エ 思索的な文
 章等を読む
 
ア いろいろな考え意見
 を知る
イ 思想を豊かにする
ウ 教養を高める
 


    2 読解活動は読解能力を伸ばし、言語要素を身につける。

読む力は読むことによって養成される。言語要素は言語活動によって伸びる。
 しかし、読みさえすれば、読解力がつきことばが伸びるというものではない。まず、前提として、文章を読んで
知識を得る、理解を深めるというように価値の獲得を目ざして読む活動が行なわれなければならない。ところが、   281
文章を読んで、知識を得、理解を深めようとしても、読めない漢字がある。意味のわからない語句がある。意味の
取りにくいむずかしい表現がある。それが抵抗となって知識も理解もじゅうぶんに得られない。そこで、漢字の読
み方を知り、語句の意味を理解し、じょうずな読み方をして、それらの抵抗を乗り越えなければならない。内容理
解のためのそれらの抵抗を克服するところにことばの学習があり、能力の養成がある。つまり、価値獲得のための
読解の障害を乗り越え、克服するところに国語の技能養成、言語習得が行なわれるのである。この障害抵抗がなけ
れば学習は成立しない。またこの障害抵抗が大き過ぎれば学習困難をきたす。語い負担、文字負担の適性化の問題
がここにある。
 また、語句の抵抗は、あらかじめ、その語句の意味を教えれば、それで読解における語句の抵抗は除かれるとい
うものではない。むしろ語句の抵抗は、文章の理解が深まるにつれて増すものである。その文章の浅い理解の過程
では、なんら抵抗を感じなかった語が、内容の理解が深まるにつれて、新たに抵抗となってくることのあるのは衆
知の事実である。語句の抵抗を前もって除いておくという考え方は妥当ではない。語句の抵抗を除くことは、内容
理解の各過程において行なわれなければならない理由はそこにある。
 そこで、特にたいせつなことは、価値生産のための学習の過程で、技能養成、言語習得のための効果的な学習活
動を計画することである。
 たとえば、「ふしぎな植物」の文章を読んで、ふしぎな植物についての知識を得るとともに自然の神秘に心打た
れる。そのような学習の過程で、「要点をおさえて読む力」を養成しょうとする。その場合、どのような読む活動
をさせて、どのような読み取り方をさせるかを考えて指導する。たとえば「どんな点がふしぎなのか、それを箇条

書きにして、あとで話し合いましょう。」という課題に答える。読んで要点を箇条書きにする。児童たちは、どの   282
ように箇条書きにしているかを観察する。話し合う時に、その要点を検討し合う。要点が確実に読み取れていなか
った者は、読み直して書き直す。こうした学習指導が行なわれなければ、ならない。もちろん原則として、単元の
学習内容の中に、どんな学習活動によってどんな技能、態度、言語要素を養成するかを確実に位置づけておく。

    3 読解活動は思考感情想像等の力を伸ばす

 思考、感情、想像は、価値を生産する読解活動の基本的な要素である。価値を生産する読解活動の中では、生産
的思考が働き、生産的想像が行なわれ、生産的感情移入が行なわれる。したがって、読解活動がかっぱつに行なわ
れることによって、思考、感情、想像などの力を伸ばすことができる。
   「やがて決勝点が近づきました。先頭のフィンランドの選手が、ラスト・スパートしました。いや、二番
  目の選手が、すばらしい勢いで追いすがりました。アメリカのヒル選手でした。」
 この文章を読むと、「決勝点近くで、フインランドの選手とアメリカの選手が先頭を争っている。」という事実
が読み取れる。その場合,「フィンランドの選手がラストスパートした。」ということと,「二番目の選手が追いすが
った。」ということを、ばらばらに、孤立的に分析的に読み取らないで、関係的、統一的に、全体的事実(意味)
として判断し認識する。ここに思考力が働く。
 思考活動によって判断し認識した事実(知覚的)あるいは、知覚的な対象を表象(記憶的)として心にえがく。
その事実や心象に基づく主観的な印象として、感情が湧き起こってくる。いわゆる感情移入が行なわれる。息づま
るような感じ、あたりに漂う緊迫感が感じられる。この息づまるような感情を直接叔述している語はないが、それ
を感じる。それは、ふたりの選手が決勝点近くで先頭を争っているという表象から引き起こされる印象すなわち感   283
情である。と同時に、走っているふたりに対し、「よし負けるものか」と思いながら走ったに違いない。いや何も
考えずにただむちゅうで走ったにちがいないとか、いろいろ想像力を働かせる。この読みをいっそう深めていく過
程においても同様である。
 書かれている事実(意味)が明確に判断され、それにともなって感情移入が行なわれ、さらに生産的想像が働く。
このように、思考、感情、想像等の精神活動が互いに関与し合いながら一段と深いところで働いて、読解が進めら
れていく。
 こうして、読解活動の各過程で、思考、感情、想像の力が伸ばされていく。

        
(五) 知識、情報を求めるための読解指導の基本的な考え

 説明文の読解、解説文の読解、記録文の読解、物語の読解、詩の読解などというのは、古くから日本に行なわれ
ている文章中心の考え方で、文章の読み方を指導する立場である。戦後は特に文章の形態別の読解指導が考えられ
るようになった。それは、文章の読み方、文章を読む能力は、文章の形態が規定するという基礎理論に基づいてい
 る。
 知識、情報を求めるための読解は、児童、生徒中心の考え方で、児童、生徒の目的(ことばの機能に即した目
的)とする知識や情報を求めるためには、何を、どう読むべきかを指導する立場である。いわゆる機能的立場であ
る。それは、読みの主体者は児童、生徒である、読むことは読みの主体者の価値生産行為である。文章の読み方、
文章を読む能力は、読み手の読む目的と文章の機能が規定するという基礎理論に基づいている。それは、文章の形   284
態に応じた読解指導ではなく、読み手の目的、文章の機能に応じた読解指導である。

   1 知識を求めるために読むこと

 (1)  本質的目的――言語の機能に即する目的――価値形成の目的
 知識を求める場合には、これを機能的にみると新知識を得る、既有の知識についてさらに理解を深める。つまり
知識を広める場合と理解を深める場合とがある。これは読むことの本質的な機能的な目標の一つで人間形成の目標
でもある。
 (2)  方法上の目的――言語生活上の目的――言語活動に即した目的
 このような知識を求める方法として、知るために読む。調べるために読む、研究するために読む。生活に役だて
るために読む、研究に役だてるために読む、説明するために読むなどが考えられる。この「00のために」という
のは、方法上の目的、言語生活上の目的と考えられる。これは、読み手の「読みの直接的な、生活的な目的」であ
る。
「知識を得るため」というのは、ことばの機能に即した本質的な目的であり、読書材料(教材)の価値形成の機能
でもある。ここに読み手の目的、文章の機能に応じた読解指導の根拠がある。
学習指導要領には、知識を求めるための読みの方法上の目的として、(1) 知るために読む。(四年)(2) 調べる
ために
読む、(五年)六年では「目的に応じて読む。」ことがあげられている。
   (1) 知識を求めるための読書材料
 ア 指示文(物の作り方、実験、研究のしかた、作業のしかた。行動のしかたなど指示を与える文章)
 イ 説明文(「一般的な知識について説きあかした文章。)                          285
 ウ 解説文(一般的な知識について、特にわからせるという意図のもとにいくつかの観点をあげて分析、表解、
  引例、比較、対照、具体化、抽象化などの方法にょって説きあかした文章)
 エ 報告文(研究報告、実験報告、調査報告など)
 オ 記録文(観察記録、実験記録、研究記録、飼育栽培記録、見学記録、など)
 カ 辞典、事典(国語辞典、漢和辞典、百科事典、社会科事典、理科事典など)
 キ 新聞、雑誌(小学生新聞、小学生のため雑誌等の中の知識的記事)

   2 情報を求めるために読むこと

 
(1) 本質的――言語の機能に即する目的――価値形成の目的
 情報を求めるために読む場合、情報的事実がわかればいい、それ以上に理解を深める必要はない。情報的事実を
知って記憶にとどめておく。それに対する心構えを持つ、用意、準備をする。それだけでよい場合がある。新聞、
雑誌などから得る情報は主としてそれである。
 ところが、情報的事実を知るだけでなく、それに適応しなければならない。行動しなければならない。作業をし
なければならない。そういう場合がある。掲示、回覧、広報、手紙、ポスターなどから得る情報は主としてそれで
ある。
 (2) 方法上の目的――言語生活上の目的――言語活動に即した目的
 そのような情報を求める方法として、適応するために読む、準備をするために読む。動静を知るために読むなど
がある。この「00のために」というのは、方法上の目的である。言語生活上の目的、言語活動に即した目的であ   286
る。
 (3) 情報を求めるために読む読書材料
 ア 掲示(学級学校内の掲示、地域社会にある掲示、駅、役場等にある掲示など)
 イ 広報(学校、官庁、役場等から出されるもの)
 ウ 宣伝、広告、ポスター(学校内、地域社会内)
 エ 新聞(小学生新聞、学校新聞、学級新聞、壁新聞など)
 オ 雑誌(小学生向きの雑誌、学習雑誌など)
 カ 手紙(社交的な手紙など)

   3 知識、情報を求めるために読む能力

 知識や情報を求めるために読む場合には、その方法上の目的として、知るために読む場合と調べるために読む、
研究のために読む場合とがある。
 (1) 知るために読む場合に必要な能力
 知るために読む場合は、書かれている内容を正確に読み取ることがたいせつである。それには(1) 要点をしっか
り押さえて読む力をつける。(2) それから、書いてあることがらを段落ごとにまとめて読む力をつける。あるいは、
必要なところを、必要に応じて細部に注意して読む力もつけなければならない。
 また、報道を読む時などのように、「速く読む能力」をつける。「通読によって正確に読み取る力」をつける必
要もある。                                                 287
 それから文章の叙述や組立に即して正確に読むこと、「文章の段落相互の関係に気をつけて読むこと、文章の要
点を押えて要約することも指導しなければならない。
 ア 要点を押えること(三年)
 イ 段落にまとめること(四年)
 ウ 細部を読み取ること(四年)
 エ 要約すること(六年)
 オ 段落のほたらきを理解すること(六年)
 カ 文章の構造を理解すること(六年)
 キ 速く読みとること。
 ク 通読によって正しく読みとること
 このような技能を能力の発達に応じて指導する。
 中学校ではその上に
 ア 要点を正確につかむこと(一年)
 イ 段落相互の関係を読みとること(一年)
 ウ 内容を正確につかみ要約すること(二年)
 エ 文章の中心の部分と付加的な部分とを注意して読み分けること(二年)
 オ 内容を速く正確につかむこと(三年)
 カ 文章の論理的な構成がわかること(三年)                                288
 などを指導する。知るために読む場合には、内容を理解させるとともに、このような能力を養成しなければなら
ない。
 (2) 調べるために読む場合に必要な能力
 調べるために読む場合には、読む活動だけで終わらない。調べて読み取った内容を、報告する。発表する、記録
するというような、話したり、書いたりする活動が続いて行なわれる。第二次の活動が予想される。したがって、
読んで説く、読んで話すというような複合した学習活動が考えられる。だから、読み取った要点を箇条書ききにす
る。読み取った内容を表解する。あるいは重要なところを抜粋するというように、読み取ったことを処理しておか
ないと次の活動がうまく進まない。おのずから知るために読む場合とは違った能力が必要になってくる。
 「調べるために読むこと」というのは、小学校五年生の読むことの指導事項の中に出てくる。「国語辞典などが
使えること」は、五学年の望ましい事項の中に出ている。
 中学校では、一年に「辞書参考書を利用すること。」二年に、「辞書、参考書の利用になれること。」「資料を
抜き書きすること。」三年に「辞書参考書、新聞、雑誌などいろいろな資料を適切に利用すること。」などの能力
について学習することになっている。
 そこで、調べるために読むのに必要な能力をあげてみると次のようになる。
 ア 文章を読んで読み取ったことを組織する能力、表にまとめる能力
 イ アウトライン(梗概)を作る能力
 ウ 要点を箇条書きにする能力
 エ 要点をつかんで要約する能力                                      289
 オ 抜粋する能力
 カ 目次や索引を利用する能力
 キ 資料を選ぶ能力

   4 知識・情報を求めるために読む方法

 知識・情報を求めるために読む方法として、文章の内容(知識・情報)に形式的に接近する方法と内容的に接近
する方法とがある。
 (1) 形式的接近の方法
 文章を読む場合に、言語形式を中心として学習を進める方法つまり、文法的に接近する方法がある。また、文章
構造を中心として学習を進める場合もある。また、読解技能を中心として学習を進める場合もある。これらは、い
ずれも形式面から接近していく方式である。
 たとえば、文章を読解する場合、(1) この文章はいくつの段落に切れるか、(2) この段落の要点は何か。(3) こ
の段落の中心文はどれか、(4) 中心語句はどれかというように言語形式、言語技能を中心に分析的に学習を進める。
 また、Aの文とBの文をつないでいることばはどれか、段落と段落とをつないでいることばはどれか、どのよう
につないでいるか。
 この文の「それ」は何をさしているか。「私も」の「も」はどういう意味を表わしているかというようにいわゆ
る文法的な事項を中心に学習を進めていく。                                  290
このような学習の方法には、いろいろな問題がある。(1)  言語的・文法的・技能的に学習を進めると児童・生徒
は読みの興味を失う。(2) 文章の形式的な学習は行なわれるが、文章の機能としての内容理解の学習が行なわれな
い。(3) 文章理解が全体的・統一的に行なわれないで、分析的に行なわれるから、内容がばらばらになったり、骨
組みだけになったりして理解が深まらない。(4) 言語形式中心に学習が行なわれるから書き手の思考過程にそった
学習が行なわれない。(5) 技能をむき出しにして学習させるために、かえって技能が身につきにくい。その技能を
必要とする学習活動のくふうがなされないからである。
 このような多くの問題点を持っているが、いかにも国語の学習指導をしているという感じがするためか、熱心な
国語教育の研究者の中に支持する者が多い。この指導法は、学習のプログラム方式や形式的な技能養成の考え方と
結びつきやすい。
 (2) 内容的接近の方法
 文章を読む場合に、内容の読み取りを中心として学習を進めて、その読み取り方を学習させようとするのが、内
容的接近の方法である。この方法は、機能的立場に立てば、当然考えられる方法である。形式的接近が、言語形式
を学習の中心としていたのに対し、これは、言語内容を中心として、価値的に学習を進める方法である。また、書
き手の思考過程(思考の発展)に応じて学習を進めようとしている。
 この学習法では、まず第一に読み手の目的を明確にすることが要求される。そして、文章の内容つまり知識、情
報を読み取ることを明らかにする。そこで、(1) どんなことが書いてあったかではなく読んでわかったことは何か
が問われる。(目的に対応する)わかったことをいくつかのまとまりとして把握する(内容と形式の統一)(2) わ
かったことを箇条的に整理する。(内容と形式、技能との統一)このように、内容を理解することを中心として、   291
内容を理解するのに必要な言語技能を学習する。たとえば、内容を箇条的に読み取る過程で、要点を読み取る技能
を学習する。児童、生徒たちが書き出した箇条書きがよいかどうかを内容と読み比べながら検討する過程で、要点
のおさえ方を学習する。
 いわゆる語句の指導も、さすことば、つなぐことばの学習も、内容を思解する過程で、その意味、用法を学習す
る。浅い読みから深い読みへ、全体的な読みから分析的な読みへ進む過程で、内容の理解を深める過程で、語句や
文法の学習を指導する。
 この方法には、次のような長所がある。(1) 児童の読む目的がつねに学習の中心となっている。(2) したがって、
主体的な学習活動が展開される。(3) 内容の理解(価値の獲得、生産)の過程で生きた、読解活動を処理する技能
が養成される。(4) 内容の学習が中心となるから、一貫した思考が働き、いわゆる言語的思考力が効果的に養成さ
れる。(5) 題材に対する知識、理解が深まり価値が形成される。(6) 内容を中心として学習を進めるからつねに児
童、生徒の学習興味をそそり、学習の意欲を高めることができる。(7) 言語活動を通して言語要素が身につく。
 この指導法では、すでに述べたように、指導すべき技能、態度、言語要素を学習内容として言語活動の中に明確
に位置づけることを前提として考えておかなければならない。学習のそれぞれの過程において特に技能を養成すべ
き学習活動を組織することを忘れてはならない。
                                                      292
        
(六) 経験を広め心情を豊かにするための読解指導の基本的な考え方


 読むことを大きく機能的に分類すると二つになる。一つは、前に述べた「知識、情報を求める読解」、他の一つ
は、「経験を広め、心情を豊かにするための読解」である。
前者は、インフォーメーションの読み、後者はレクリエーションの読みと言われている。
 楽しみを得るための読みは、読んで、楽しむ、肩のこりをほぐす。解放感を味わう。夢をえがく。楽しい気分に
なる。心にうるおいを感じる。豊かな気分にひたるなど、生活上の目的を達成する読みである。小学校学習指導要
領国語に「楽しむために本を読むこと(四年)があげてある。
 そのような生活上の目的を達成することによって、内容的な経験が広め深められ、心情が豊かに育てられる。こ
こに機能的な読みの本質的なねらいがある。
(1) 経験、心情を豊かにするための読書材料
 学習指導要領国語には、各学年の読むことの内容として「経験を広め、心情を豊かにする童話、物語、伝記、詩、
脚本などを読む。」と出ている。中学校の学習指導要領国語には、「詩歌、随筆、物語、伝記、小説、脚本などを
読む」と示されている。いわゆる文学作品が中心である。
ア 詩、短歌、俳句など
イ 童話、説話、物語、小説など
ウ 随筆、紀行など
エ 脚本(読む)など                                            293
(2) 経験を広め、心情を豊かにするための読解力
 読むことによって楽しみを求めるためには、「文章を読み味わう能力(鑑賞力)」「読み取ったことに感想をも
つ能力」「批判的に読む能力」「通読する能力」などが必要である。学習指導要領に即して言えば、
 ア 好きなところやおもしろいところを抜き出すこと(二年)
 イ 長い文章を終わりまで読むこと(三年)
 ウ 読み取ったことについて感想をもつこと(三年)
 エ 知るため楽しむために本を読むこと(四年)
 オ 自分の生活や意見と比べながら読むこと(五年)
 カ 文章の主題を読み取ること(五年)
 キ 文章を味わって読むこと(六年)
  などが、学習事項としてあげてある。これらの能力は、経験を広めたり、心情を豊かにしたりする読解活動の
中で指導することが示されている。
(3) 経験を広め心情を豊かにするための読解指導の方法
 いわゆる文学作品の指導の方法には、次のような方法が行なわれている。
 ア 形式的接近−論理的線条的接近
 文章構造や形式的な意味構造を中心として接近する方法、構成的な学習導導の方法である。
たとえば、(1)段落に分ける (2) 段落の要点を読み取ってあらすじをつかむ (3) 主題をつかむ。すなわち、
要点→あらすじ→主題の順序で学習する。                                    294
 この方法では、(1) 読みの興味を失いやすい。(2) 読解が形式化するおそれがある。(3) 読みの機能的な目的が
確立しにくい。(4) 児童の能力の発達に応じられない。(5) 児童の読みの意識が圧迫されている。
 イ 意味的接近――心理的、層的接近
 意味の構造を中心にして学習を進める方法、意味の統一的深まりに従って学習を進める心理的、層的接近による
学習指導の方法である。
 それは、(1) 梗概をつかむ (2) 詳細に調べる (3) 主題をつかむというような方法で学習を進める。

  また、意味を層的に三段階にとらえ、漠然とした意味の構造を、
 しだいに集約的、統一的にとらえ、主題を確実につかむ方法があ
 るこれらの読解はいずれも、読解の手がかリが文章の側にあり、
 しかもそれが主となっている。したがって、読み手の機能的な読
 みが無視されたり、軽視されたりするおそれがある。意味構造を
 読み手の読む目的や読み取ったものとの関連において考えようと
 しないからである。またこの方法では、読みが形式化する。いろ
 いろな機能をもった文章に通用しにくい。表現が分析的に扱われ
 
 ることが多くなり、全体的な場面とか心理の動きとかそういうものの直接的な学習が困難になるおそれがある。
 ウ 主題的接近――主体的、心理的接近
 意味の層的構造、過程的構造と読み手が、読み取って組織した意味の構造との関係を中心として学習を進める方
法である。つまり、児童が読み取ってみずから体系づけた意味(価値)の構造を、文章の意味(価値)の構造との
関連においてこれを訂正し、深めていく過程に学習活動を組織する方法である。
 たとえば、(ア) 児童は、文章を読んで全体的に読み取った意味(価値、主題)を、その限りにおいて組織する。
(イ)組織した意味を、文章の意味の構造と対照しながら、分析的処理によって、各自が組織化した意味の構造を、
補い、深め、修正し、確認し、あるいは再組織する。(ウ)分析的に確認した意味をさらに深いところで統制し、
組織する。このことは内容的に言えば、
 (ア) 児童が全体的に読み取った主題(価値)を組織する。
 (イ) 児童が全体的に読み取って組織した主題(価値)を、文章の主題の組織と対照しながら補正、修正、確認
   する。
 (ウ) 児童が読み取って組識した主題を、分析的処理によっていっそう深く、明らかにしたものを、さらに統制
   し、総合して主題(価値)を深化する。
 つまり、児童の読みとったものを中心としそれを補い、正し、深めることによって学習が進められる。このこと
を方法過程的、生産過程的にみれば
 (ア) 全体的な読み――主題の全休的把捉(価値の全体的把握)
 (イ) 分析的な読み――主題の分析的確認(価値の分析的確認)
 (ウ) 体制的な読み――主題の体制的深化(価値の体制的深化)
 の過程をとって学習が進められる。
この学習の方法は (ア)児童の読み取ったものがつねに学習の中心となること (イ)したがって主体的な読みが展開
されること (ウ)各自が読み取ったものについて、碓かめる。補う。修正する。深めるなどの過程で学習が行なわれ
ること (エ)主題についての一貫した学習が行なわれるから、思考の発展、思考の一貫性の確立が容易であることな   296
どの特色をもっている。

        
(七) 読むことの学習指導過程・学習指導案・学習指導の実践

 ここに東京都北区滝野川第一小学校の小高教諭が実践した学習指導過程(単元および一時間の)学習指導案、学
習指導の方法について紹介する。

    1 学習指導過程

 単元の学習指導過程は、(1) 目的をもつ。(2) 計画を立てる。(3) 目的を追求する。(4) 目的を達成する(まと
め)の四過程となっている。基本的には、目的確認、目的追求、目的獲得の三過程である。
 一時間の学習指導過程は次のようになっている。
  【第二時の学習の指導】
   学  習  指  導  過  程
 時 間  過   程  活  動  動 の 内 容
 5分 1 学習の目的をもつ
 (主題の全体的確認)
1話し合う 1 問題を決定する
 (1) 主題を決定する
 (2) 問題を決める
 (3) 問題解決の方法を考える
 (4) 学習の目的を碓認する
 15分 2 目的を追求する
 (主題の分析的確認)
 (1) 文章に即して主題を確かめる
2読む(黙読)
3書く
2 問題を解決するために読む
3 調べたことをノートに書く
 10分   (2) 話し合って主題を確かめる
4話し合う
4 調べてわかったことを話し合う
 話し合ったことをまとめる
 5分   (3) 読んで主題を深める   5読む(黙読) 5 主題を深めるための問題をもって読む、
 問題解決のために話し合う
 11分 3 目的を達成する
 (主題の体制的深化)
 (1) 話し合って主題を深める
6話し合う
7読む(音読)
6 問題に対する感想をもつ。問題に対する
 感想や意見を深める
7 読んでまとめる

この指導過程は、内容的にみれば、(ア) 価値への志向、(イ) 価値の追求、(ウ)価値の獲得の過程をとっている。

 2 学習指導

 この学習指導では、(ア) 児童が言語活動をするときには、必ずその目的を意識し、目的を追求する活動として行
なっていること。(イ) 学習指導の各過程に、学習事項としての技能や言語要素をどこで、どんな言語活動によって
指導するかが明確に位置づけられていること。(ウ) 問題を解決するために読んで、読み取ったことをノートに書か
せた。そのとき、どのような読み取り方をし、どのようにそれをノートしたかを観察し、それに基づいて話し合う   298
過程で要点を読み取って要約する技能の養成を計画し実践していること。(実践記録参照)(エ)指導者の発問が記
録されていて、思考の発展、展開のあとがよくわかること。特に主題を中心にして思考が統一的に深められている
ことなど参考になることが多い。
 なおこの学習指導とさきにあげた教材研究の例とを対照してみると、学習指導過程と教材研究との関連を知るこ
とができる。
 この小高さんの学習指導の裏付けになっている考え方を、参考として学習指導案のあとに添えておく。

        
国語科学習指導案
                             第六学年一組 指導者 小 高 偉 子
一 単元 「勝敗をこえて」
二 学習目標正しいスポーツ精神に感動し、それを通して国
 際協力の精神につちかう
三 単元について
 (1) 初夏をひかえて、こどもたちは屋外で運動を楽しむ機会が多くなる、また、東京オリンピックを二年後にひ
かえスポーツは、こどもの生活のなかに楽しくはいりこんで体育の時間ばかりでなく、遊び時間や校外のグループ
などで運動を楽しんでいる、早慶両校の一戦や、オリンピック精神などを知ろうとする欲求にもとづいてかっぱつ
な学習活動が予想される。
 (2) この学級では「聞くこと、話すこと」にかなり力をいれて学習してきているが、また意見を発表することを
ためらっている児童が何人かいる、この興味あるスポーツの物話を進んで読み味わおうとするかっぱつな学習活動
を通して、事実と意見を判断しながら読んだり、読みとったことについて感動をおぼえたり、感想を話し合ったり
する力を養うことが考えられる。                                       299
四 学習内容

学 習 活 動   学 習 事 項
 「あらしのボートレース」を読む

「五輪の旗」を読む

 感想を話し合ったり書いたりする
・文章の主題を正確に読みとること
・叙述に即して正確に読むこと
・事実と意見を聞きわけたり読みわけたりすること
・書くことによってじぶんの考えを深めること
・新出、読みかえの文字を理解すること



五 学習資料小学校国語「あらしのボートレース」「五輪の旗」
六 学習計画(十一時間)
 計画をたてる(1)単元を見通して学習計画をたてる    ―┐
                             |…四時間
 目的をもつ (2)「あらしのボートレース」を読む    ―┘

        ア 読んで学習の問題やめあてをきめる  ―┐
                             |…一時間
        イ 主題を全体的に読みとる       ―┘

 目的を追求す ウ主題を分析的に読みとる………………………… 一時間
 る                             (本時)

        エ主題を総合的に読みとる………………………… 一時間

        オ主題を深める             ―┐
                             |…一時間
        カ主題について感想を話し合う      ―┘

       (3) オリンピックについて話し合う     ―┐
                             |…五時間
       (4)「五輪の旗」を読む          ―┘

 目的を達成 (5) 感想文を書く …………………………………… 二時間
 する
七 評  価
  スポーツ精神を読み ┌叙述に即して正確に読みと   ―┐ 読解の
 ○         ―|れたか             |…観察、
  取ることができたか └主題が正確に読みとれたか   ―┘ テスト

  オリソピック精神を ┌叙述に即して正確に読めたか  ―┐ 読解の
 ○         ―|                |…観察、
  知ることができたか └主題が正椎に読みとれたか   ―┘ テスト

  事実と意見を聞きわけたり┐ 
 ○            |  …………………………………話し合い
  読みわけたりできたか  ┘ 

  
  主題に対して ┌主題が正しく読みとれたか ―┐
  じぶんの考。 |              | 詣し   観察、
 ○       |書くことによって自分の考  |…合い……|
  を深めること |              | 作文   テスト
  ができたか  └えが深められたか     ―┘
                                                      300
八 本時の学習(本時は第二時の学習)

 (1) 本時の目標 読みとった主題(スポーツ精神)について感動、理解を深める
 (2) 学習指導
                                                      300-304





学習指導過程    指導  学習事項
過程  活動  活動の内容

  1学習の目的を持
 つ前に読みとっ
 た主題を碓かめ
 る
 (主題の全体的
  把握)
1話し合う………
 (話し合いの目
 的を持つ)
1問題を設定する
 ア 主題を確か
  める
 イ 問題を決め
  る
 ウ 問題を解決
  するための方
  法を決める
 エ 学習の目的
  を確立する
※前時にどんなことを強く感じまし
 たか話し合ってみましょう
 ・じぶんたちが勝つたのにもう一
  度試合をしなおしてくれという
  のだから相手の心もよく考えて
  いる
 ・慶応の選手はじぶんたちの準備
  がたりなかったのだからきっぱ
  りとあきらめて早稲田の勝利に
  はく手を送ったのはよい
oなぜ早稲田の選手は試合のしなお
 しを申し出たのですか
 ・悪天候にはほんとうの力がだせ
  ない
※なぜほんとうの勝負でなかったの
 でしょう
 ・よい天気の時にはほんとうの試
  合ができるのですけれどもその
  日は条件が悪かった
oでは試合の様子がわかっていれば
 どうして試合をやりなおすかとい
 うことがわかるわけです
※試合の様子を読んで調べてみまし
 ょう
 
 
10   2目的を追求する
 (1) 文章に即し
  て主題を碓か
  める
  (主題の分析
  的確認)
2読む(黙読)
 (読む目的を持
 つ)
3書く
 (書く目的を持
 つ)

2問題について調
 べる
 (1)問題を解決す
   るためによむ
3調べたことをノ
 ートに書く
 
※どんなふうに試合が進んでいった
 か順序よくノートに書きながら読
 んでみましょう
※あとでノートを見ながらお話して
 もらいます。
 (この間に学習の実態を確かめた
 り、個別指導したりする)
   読みとりの実態
   A箇条書き 一六人
   B要約   二〇〃
   C抜萃    一〃
   D感想    一〃
   E構造的   一〃
   その他    五〃
 
叙述に即して読むこと情
景を読みとる力

要点を抜き出したり全体
を要約したりする
話し合って主題を確かめ

 
10   (2)話し合って主題
  を確かめる

 (主題の分析的確認)

  4話し合う………
 (話し合う目的
  を持つ)

4問題を解決する
 ために碓かめる

 (1) 調べてわかっ
   たことを話し
   合う
   (ノートを見
   ながら話す)















(3) 話し合ったこと
  をまとめる
 
※Sさんわかったことをお話してご
 らんなさい
 ほかの人はじぶんのかいたのを見

 ながら聞いていてごらんなさい
 ・雨と春特有の風で水面があれて
  いた、はじめ慶応がリードして
  いたが
※試合のようすをもうすこしくわし
 く調べてみましょう
oはじめの予想は
oようすはだんだんどのようにかわ
 っていったでしょう
o試合前にかんとくからどんな注意
 がありましたか
o本にはどう書いてありますか
oここでいちばん力をいれて注意し
 たと思われるところはどこですか
oこのかんとくの考え方のちがいを
 考えてみましょう
oどちらが先を考えているかんとく
 といえますか、それは本のどこに
 書いてありますか
o試合はどのように進められました
 か
oどうして差がちぢまつたのでしょ
 う
 












意図を読みとる力
叙述に即して読むこと

 5 (3) 読んで主題を深
  める
  (主題の深化)
 
5読む
(読む(黙読)
 (読む目的を持
 つ)
 
5主題を深めるた
 めの問題を持つ
 (1)問題を解決す
  るために読む
 (2)問題を解決す
  るために話し
  合う
 
※この時の早稲田の選手の気特はど
 うでしょうか
 慶応の選手の気特はどうだったで
 しょう、読んで考えてみましょう
o審判長に「勝」といわれた早稲田
 の選手の気特はどうだったでしょ
 う
o早稲田がやり直しを申し出たのは
 なぜでしょう
o早稲田の選手はほんとうの勝利で
 はないと思った、みんなだったら
 どうですか(大多数挙手)
o慶応の選手はどうでしょう
 
心情を読みとる力 
11   3目的を達成する
 話し合って主題
 を深める
 (主題の体制的
 深化)


6話し合う……… 
7読む(音読)
(読む目的を持
 つ)

6問題に対する感
 想を持つ
 (1)主題に対して
  感想や意見を
  持つために話
  し合う

 (2)主題に対する
  感想や意見を
  探めるために
  話し合う
7読んでまとめる
 (1)主題を深めな
   がら読む
※いままで考えてみたことをまとめ
 て話してごらんなさい
 ・はじめできないと思っていたこ
  とでも、やってみなければわか
  らない
  できるかもしれないか、やって
  みることがたいせつだ
 ・じぶんのことだけ考えないで相
  手のことも考え てやることが
  必要だ
(早稲田が慶応に対したように)
・早稲田と慶応の選手はス
 ポーツマン・シップがあ
 ったから、試 合が終ったあと、
 お互に相手の 立場を考えて仲よ
 くなれた
※みなさんと慶応や早稲田の選手と
 どこがちがうでしょう
 ・かんとくのいうことをよく聞い
  て、さいごまでがんばった。私
  なら腰まで水がくればくみだし
  てしまったり、少ない人数でこ
  ぐと負けると思って水をくみだ
  さないでこいでしまうかもしれ
  ない、そこがちがいます
 ・心の持ちようがちがいます
 ・それは良心です
oかんとくのいうことを最後まで守
 れるという気持ち態度、試合のあ
 と相手のことをよく考える気持、
 この二つのことはいったいなんで
 しょう、考えながら読んでみまし
 ょう
 



                                                      305
一 この学習指導の考え方
(1) 学習の目的を持つこと
 ア どんな目的を持たせるか
                                   ┌本時の目標とむすびつけてふりかえってみ
     ┌―文化を形成する _┌知識を求める       まとめ_|る
 (ア)  |(叙述、文化的な機能9└理解を深める       の段階 |つぎの学習への心がまえ、準備、展間を考
     |                            └える
 ことば |          ┌経験を広める      (イ) 指導の過程で読解の場合
 の機能―|―思想を形成する ―├心情を豊かにする            ┌全体的に取扱い何を学習
 に即し |          └考えを深める       はじめの段階―|            (内容価値
 た目的 |                               └するかのめあてをきめる  の発見)
     └―社会を形成する _┌情報を求める              ┌全体的に読みとったものを
      (伝達、社会的機能)└思想を伝える       展開の段階――|            (内容価値
                                     └分析的に取扱う      の追求)
                                     ┌展開の段階で読みとった
 (イ)  ┌知るため       紹介するため       まとめの段階―|            (内容価値の
 言語生 |楽しむため      抜き書きするため            └ものを総合する      習得、生産)
 活に即―|発表するため     忘れないため               
 した目 |報告を書くため    生活に役だてるため    身についたものを発展的に学習する    (内容価値
 的   |確かめるため     研究に役だてるため                         の転用)
     └比べるため                 (2)  一時間の学習指導過程
                              ア はじめ__学習の目__価値的な目__主題を全体的
 イ  いつ、どこで、どのようにして目的を持たせるか           的をもつ  的をもつ   につかむ
  (ア) 指導の過程で一般的に                       
     ┌単元の学習の見通しを立てる           イ 展 開__目的を追__価値を追求__主題を分析的
 はじめ―|本時学習の見通しをもつ                    求する   する     に確かめる
 の段階 └つぎの具体的な活動への目的をはっきりさ   
      せる                      ウ まとめ__目的を達__価値を生産__主題を総合的
                                     成する   し適用する  に深める
 展開の_┌目的をもった活動にはいる         
 段階  └目的〜活動〜達成(処理)このことが連関     エ 練習  練 習
                  的に進行するように
                                                      306

     
五 書くこと(作文)の学習指導の展開

        
(一) 書くことの機構

   1 書くこと――作文・書写・表記

まず始めに、書く経験を成立させる形式的要素の諸関係を図示して明らかにしておきたい。

                                                      307
   2 書くことの一般的な機構

(1) 作文も他の言語活動と同様に、生活上の興味、必要に基づく目的をもって開始される。その目的は、これもま
 たくり返し述べたように言語の機能に即した記録するため、伝達するため、自己表現のためなどである。
(2) 書く目的によって書き表わす内容(題材)が選択され決定される。
(3) 目的、内容に応じて表現形態が決まる。
(4) 表現活動が行なわれる――文章完成
(5) 書き上げられた文章は、目的に応じて処理する。
 これを図示すると次のようになる。



                                                      308
        
(二) 書くことの学習活動の機構

 一般に文章を書く学習活動は、次のような構造過程をとる。

1 ことばの機能に即した書く目的をもつ。
2 目的に応じて題材が選ばれる。                                      309
3 題材に即して書く活動が行なわれる。
4 書く活動によって、その活動の処理能力としての技能、態度、言語要素が養成される。思考力が養われる。
5 題材に内在する価値が文章の中に体制化される。
6 書いた文章は、目的に応じて処理する。
これを図示すると、前ページのようになる。
                                                      
        
(三) 書く活動の機構

    1 心的内容―――表現内容―――価値の体系
(1) 内在的世界
 書こうとする内容――内在的世界は、歴史的、民族的、社会的、心理的事実である。過去の諸経験の積み上げに
よって形成された思想、心情である。物の見方、考え方である。発展的可能性をもった未完成の価値の 体系で あ
る。それは、その内実、その形成の型、その現われかたなどに個別的特色がある。個性的である。この内在的世界
はある観点、課題からする「内省」「内観」によって把握され、表現内容としての心的内容となる。ある観点、あ
る課題が題材である。
(2) 外在的世界
 外在的世界は、経験的、社会的、自然的、現実的な事実によって形成される感性的世界である。それは書こうと
する内容――心的内容を成立させる(感性を通して)働きをもっている。感覚を通して、思考、感動を成立させる   310
働きをもっている。この外在的世界は、それを享受することによって把握され心的内容となる。外在的世界の享受
に当たっては・鋭い観察力、洞察力、鋭敏な感覚、生産的想像力、感情などが働くことが要求される。

    2 心的内容の体制化――言語体制化

 内在的世界、外在的世界における題材を契機として形成される心的内容を――思想、感情、感覚など。物の見方、
考え方、感じ方など。――表現意図に従って、整理し、秩序だて、組織化する。つまり、 心的内容を、 表現意図
(目的)に従って言語体制化する。言語的世界を形成する。

    3 言語体制化――記号化過程

(1) 語の成立――心的内容の記号化――ことばのあてはめによって(記号化)心的内容を構成する一分節としての
 概念を把握する。
(2) 文の成立――概念と概念(言語と言語)との相互関係を判断する。文のあてはめによって一事実、一思想が成
 立する。心的内容を構成する諸判断が、それぞれ文として成立する――事実認識
(3) 文章の成立――判断(文)と判断(文)とが、相互に関連しながらさらに大きな判断を形成す。るここに文章
 が成立する。判断(文)を表現意図によって秩序立て、統制し、体制化する。
 この「心的内容」を「言語体制化」して「文章の成立」にいたる全過程を図示すると、次の機構図が得られる。
 このことから、文章を書くということは、次のように考えることができる。
                                                      311


 ア 作文は、内在的世界、外在的世界を「言語的世界化する」ことである。
 イ 作文は、心的内容を「言語体制化する」ことである。
 ウ 作文は、心的内容の「言語記号化過程である」
 エ 作文は「意味の体制化、形式化である」


 オ 作文は「言語による価値の生産過程である」                               312
 カ 作文は、「心的内容」の「言語による認識過程である」

        
(四) 作文の学習指導の考え方

 機能的作文指導の考え方がどのようにして発達したか、簡単に歴史の跡をたどってみる。

    1 形式的に文を作ることを教授した

 明治十四年の「小学校教則綱領」を見ると、教科として「読書、習字」が課され、「読書」は「読方及作文」に
分けている。教授した作文は、「近易ノ庶物ニツイテ其性質等ヲ解セシメ、之ヲ題トシテ仮名ニテ単語、語句等ヲ
綴ラシムルヲ初メトシ、稍進ンデハ、近易ノ漢字ヲ交エ、次二簡短ノ仮名交り文ヲ作ラシメ、兼テ口上書類ヨリ日
用書類二及ブベシ」によってわかるように、(1) 語を中心として、形式的に文の作り方を教えた。(2) 実用的な日
用書類の書き方を教えた。(3)  したがって、児童の生活、思想、感情等を書き表わすことなどは考えられなかっ
た文の作り方を形式的に教えていた。
 明治十四年、小学校令が布かれ、読書、作文、習字の三教科目が設けられ、作文は独立したが、その内容や方法
については、教則綱領となんら変わるところはなかった。
 明治二十四年の小学校教則大綱になると、形式上では、これまで、仮名の単語、短句から漢字変りの短句、漢字
交り文の作り方を教えたのに対し、「作文ハ、仮名文、近易ナル漢字交リ文、日用書類ヲ授クベシ。」と変わり、   313
内容上では、「近易ノ庶物」について文を作らせたのに対し、「作文ハ、読書又ハ他ノ教科日ニオイテ授ケタル事
項、児童ノ日常見聞セル事項、及処世ニ必要ナル事項ヲ記述セシムル。」など、題材の範囲も広げられ、生活的、
教養的事項が取り上げられるようになった。しかし、あくまでも、模範文による文章の形式的な作り方の教授であ
った。
 この考え方は、明治三十三年小学校令改正にともなう施行規則が定められ、国語科として、読み方、綴り方、書
き方といわゆる三分科されても、少くとも法規の上では、昭和十五年の国民学校令が布かれるまで続いた。

    2 心的内容の表現のしかたを教えた

(1) 思想表現の綴り方の主張
 これまで、児童の生活、思想、感情等を無視した文章の作り方を教えたのに対し、作文は、表現の指導、つまり、
児童自身の思想の表現を教えるべきだという児童中心、内容重視の考え方が現われた。これによって、文章の作り
方の教授から、自己の思想内容の書き表わし方の学習へと発展した、明治も終わりのころであった。
(2) 形式中心の綴り方と内容中心の綴り方
 大正時代にはいると、綴る力を伸ばす計画的な指導を行なうための課題作文を強調した友納友次郎と、自己を綴
るために自由課題による綴り方を主張した、つまり、児童の自己表現の文章、態度を重視し、人間尊重を主張した
芦田恵之助とが対立して、いわゆる「課題か自由選題か」の論争が激しく行なわれた。
(3) 文学的綴り方の主張
 坪田謙治の児童文学論の主張、鈴木三重吉のいわゆる「赤い鳥」運動などがあって、文学性を強調した綴り方が
盛んになった。綴り方は、児童の真実の表現、生命の流露、感動の表現であるべきことが説かれ、綴り方もまた児
童の文学であるべきことが強調された。                                    314
(4) 生活表現の綴り方の主張
 綴り方の本質は、生活の真実を表現することによって、自己の成長、生活の改造をはかるところにあることが主
張された。そのために、赤裸々な自己の生活経験を表現することが強調された。この主張は、やがて、綴り方を人
間形成、人間改造、社会改造の方法、つまり広いいわゆる綴り方による教育方法として考えられるようになって今
日にいたっている。
(5) 科学的綴り方の主張
 文学的綴り方、生活的綴り方は、ともに主観的立場に立つ表現の指導で、文学性、人間性の教育が中心であった。
これに対して、物象の観察、実験、測定等の態度を養い、興味を喚起し、科学的精神を養うこと、科学的実践の方
法を身につけること、取材、構想、記述等表現方法を指導することなどを強調した科学的綴り方の主張がなされた。
 こうして、形式的な文章の作り方から、内面的な思想表現の綴り方へと発展し、さらに、思想表現、文学創造、
生活表現、科学的表現等が主張され、やがて国語科の綴り方から、人間教育方法としての綴り方へと発展した。

    3 機能的作文が主張された

 戦後の作文は、「書くこと」として、日常生活に必要な書く経験を与えることになった。
 従来の生活経験の表現を中心とした綴り方に対し、日常生活に必要な、日記、記録、手紙、報告、掲示、学級新
聞から、感想、意見、詩、物語、脚本などを書くことを指導するようになった。そこで、綴り方か作文か、生活教
育としての綴り方か、教科指導としての作文かの論証も行なわれた。
                                                      315
        
(五) 機能的作文指導

    1 機能的作文指導の原則

 機能的作文は、次の原則の上に成り立っている。
(1)  言語を機能的に考えること。
(2)  文章を書くことによって価値を獲得、生産し、伝達すること。
  文章を書くことによって、文化的価値を形成する。社会的価値を形成する。精神的価値を形成する。言い換え
 れば、文章を書くことによって、経験を深める。認識を深める。物の見方や感じ方を育てる。思想を深める。社
 会性を育てる。社会に適応する。個性を伸ばす、思考力を伸ばす等々。つまり書くことによって人間形成に参与
 する。
(3)  文章を書くことによって、文章を書く機能的な能力を養成すること。
  書くことによって、価値を獲得し、伝達するために計画された書く経験を処理するのに必要な諸能力を育てる。
(4)  文章を書くことによって、機能的な言語要素を身につける。
  前記の諸経験を処理するのに必要な言語をじゅうぶんに駆使し、働かせることができるようにする。
 要するに、言語の機能にもとづいて、人間性の開発と書く能力の形成とを、書く経験を通して一体的に実現する
 ところに機能的作文の本質がある。
                                                      316
        
(六) 機能的作文指導の内容

機能的作文の内容には、言語の文化形成の機能、社会形成の機能、精神形成の機能に基づく次の三つの領域がある。
(1) 記録 (2) 伝達 (3) 自己表現
   1「記録」の内容機構
記録は、言語の叙述機能、文化形成の機能に基づく活動である。その内容機構を図示すると次のようになる。


                                                      317
   2 「伝達」の内容機構

「伝達」は、言語の伝達機能、社会的機能に基づく言語活動である。その内容機構を図示すると次のようになる。


                                                      318
   3 「自己表現」の内容機構
「自己表現」は、言語の表現、精神形成や機能に基づく活動である。その内容機構を図示すると次のようになる。


                                                      319

        (七) 機能的作文過程の機構


機能的な作文を機能的に指導するには、作文活動の全過程を次のように組織するl
観点  過程  内容  意識  能力 
 1何のために
1目的を立てる
 (目的)
 
  1生活的、機能的な目的を持つ。ことば
 の機能に即して書く目的を碓立する
 (生活上の興味必要に基づく)
1価値への志向
(価値意識)
1生活態度
 2どのように
2計画を立てる
 (計画)
 2目的を達成するまでの全過程の計画を
 立てる(読むこと、話し合うこと、書
 くこと、処理など)
 
2価値の生産の
 過程
 
2計画的な考
 え方
 
 3何について
3題材を選ぶ
 (題材)
  3機能的な題材を選ぶ
 目的に応じて、題材・主題を選ぶ(価
 値あるものを選ぶ)
3価値的な見方
 
取材力
 4どんな文章で
4文章の形態を
  決める(文章
  形態)
  4機能的な文章を選ぶ。
 目的と題材に応じて文章の形熊を碓認
 する。
4文章の選択
4文章知識
 5どんな組立で
5内容を考え文
 章構造を考える
 (構成と発想)
 
  5主題・意図の展間を考える
 目的に応じて主題・意図を展開するた
 めの文章の構造、発想等を考える
5価値の体制化
5構想力
 6どのように
  書く
6書き表わし方
 をくふうする
 (表現)
  6効果的な表現をくふうする目的、題材
 等に応じて書き表わし方を考える
6価槌の体制化
 
6表現力
 
7目的が達成で
 きるか
 
7推考する
 (推考)
 7所期の目的が達成できるかどうかを考
 えて訂正する
 目的に照らして、内容、表現、表記等
 について文章を訂正する
 
7目的意識
 言語意識
 価値の確認
 
7推考力
 
 8どうする

8処理する
 (処理)
 
 8目的に従って、各自処理する。最初の
 目的に応じて、処理し生活に適用する
 
8価値の獲得

8適用力


                                                       320

       (八) 機能的作文指導の実践

   1 指導に対する基本的な考え方

 機能的作文指導で、もっともたいせつなことは、書き手の書く目的(言語の機能に即する目的)に応じた機能的
な文章を書くということである。次に二、三の例をあげる。
 (1) 記録を書く
ア 目的 植物の栽培について観察したことを記録しておいて、栽培の研究に役だてたい。(生活的、価値的な目   321
 的)
イ 文章形態 その目的を果たすためには、あとで読んで栽培の過程が的確にわかり、栽培についての参考になる
 知識が得られなければならない。そのためには、いわゆる「観察記録」「観察日記」「栽培記録」「栽培日記」
 などを書く。つまり、記録の形式をとる。(機能的な文章)
ウ 文章表現 記録の目的を果たすためには、客観的な叙述と主観的な叙述とを区別する。観察した事実は主観を
 交えず客観的に正確に叙述する。いわゆる事実そのままに書く(実際には諸事実、諸現象を純粋に客観的に言語
 化することは厳密に言えば不可能に近い。言語化、記号化には主観的判断が参与するからである。したがって、
 客観的叙述、主観的叙述と言っても比較上の問題、相対的な問題である。)叙述し記録した事実に対して、感想、
 意見、解釈、解説等を書く。この二つは、はっきりと区別する。文章は、あいまいにならぬよう的確な表現、簡
 潔な表現が要求される。(機能的な表現)
エ 獲得される価値 このような文章を書くことによって次のような価値が得られる。
 (ァ) 題材に対する知識、理解――内容価値が生み出される。
 (ィ) 科学的な生活態度
 (ゥ) 客観的な観察力
 (ェ) 論理的な思考――科学的な思想
 (ォ) 客観的な的確な表現力

                                                      322
 (2) 手紙を書く

ア 目的 夏休みに親類へ遊びに行くことを知らせて、お願いをする。(生活的な目的)
イ 文章形態 直接出向いて依頼する代りに事情を述べて、気持ちよく迎えてもらい、楽しく過ごせるようにする
 のであるから、「手紙」を書く。はがきによるか、封書による。電話があれば「電話」でもよい。(機能的な文
 章)
ウ 文章表現 そのような機能を果たすためには、(ァ) 要件を落さずに書く。(ィ) 相手に応じたことばづかい
 をする。(ゥ) 親しみ、誠意をこめて書くなどに注意して書く。(機能的な表現)
エ 獲得される価値 このような手紙を書くことによって、次のような価値が得られる。
 (ァ) 社会関係が円滑になる。
 (ィ) 社会的な態度が身につく。
 (ゥ) 機能的な言語が身につく。
 (ェ) 手紙を書く態度、技能が身につく。

 (3) 意見を書く

ア 目的 住みごこちのいい教室にするための掃除当番についての意見を書いて、みんなに訴えたい。(生活的、
 機能的な目的)
イ 文章形態 掃除当番のやり方についての考えを書いて、みんなの心に訴える。そして自分の考えに共鳴、同意
 させて、そのとおりに行動させるようにする。あるいは、それを契機としてお互いに意見を出し合って考えるよ   323
 うにする。そのためには、自己の意見を主張し、相手を納得させるような説得力のある文章を書く。「そうじ当
 番についてうったえる」というような意見書を書く。
ウ 文章表現 そのためには、何よりも、何を言おうとしているかがよくわかるように書く。相手の心に訴えるよ
 うに書く。つまり説得力をもった文章を書く必要がある。そこで、(ァ) 意見を明確に書く。(ィ) 意見の根拠
 を明らかにする。(ゥ) 事実と意見とを書き分ける。(ェ) 構想を立てて書く。(ォ) 筋道を通して書くことな
 どがたいせつである。
エ 獲得される価値 このような文章を書くことによって次のような価値が得られる。
 (ァ) 題材に対する理解が深められる。
 (ィ) 思考力が伸びる、思想が豊かになる。
 (ゥ) 構想を立て筋道を正して文章を書く力が伸びる。

    2 指導過程・指導案・実践

 次に機能的作文の指導過程・指導案・その実践について、東京都北区立八幡小学校の花見教諭、東京都文京区立
真砂小学校の伴教諭の指導例を掲げる。ともに「ともだち」を題材として実践研究をしたものであるが、指導の結
果の分析研究についてはここでは省略する。(「国語教育料学 第二巻 第三号第四号」を参照)
                                                      324
               (1)  一年の作文指導−単元「おもいでぶくろ」

                    国語科(作文)学習指導案

                                     指導者 伴  定 子
1 日時 昭和三十七年三月十七日(土)
2 児童 文京区立真秒小学校 一年二親
3 単元 「おもいでぶくろ」
 (1) 単元について
 ア 題材と一年生の特質という点から、この単元を特設し、生活単元とした。
 イ この単元を学習することにより、一年生の生活を締めくって、次の単元「二年生になったら」への素地を
  作る。
 (2) 児童について
 ア 入学以来一年の学校生活を送って、「家が近いから」「席が近いから」というだけではなく、「同じ組の
  こどもである」という意識が育ち、交友関係が広がってきた。
 イ このころの子どもは、自己中心であり注意が持続しない段階であるが、これまでの作文の指導においては、
  気持ちを散らさずに書くという点にのみふれてきた。
 (3) 題材について
 ア 作文の取材は、行事を中心に具体的な行動を取り上げたものが多く、三学期の始めごろ、学級ポストを通
  じてのお便り交換で手紙文を書いたが、人物について書くことはきようが初めてである。
 イ この租では、一学期に文集「きのうのこと」一号、二号を、二学期に文集「どうぶつえん」を作って、お
  互いの作品を読み合い、各自の作品を整理してきたが、三学期には、「思い出袋」として、ひとりひとりが、
  どのように取材し、どのように整理するかを考え、作品を保存することにした。
4 学習目標
 思い出袋を作って、これまでの作品を整理したり、思い出になるものを考えて取材し、絵や文に表現して一年
 生の思い出とし二年生になる心の準備をする。
5 学習内容                                                325

 学習活動 学習事項 
知識、技能、態度  言語要素 
1思い出袋を作る
2思い出袋にどん
 なものを入れた
 らよいかを話し
 合いカード(目
 次)に書こむ
3思い山袋に入れ
 てよい作品を整
 理する
4ともだちの絵を
 かき、ともだち
 の作文を書く
5思い出袋をカー
 ドと見比べて整
 理する
6思い出袋を友だ
 ちと交換して読
 む
 
1何を言おうとしてい
 るかが相手にわかる
 ように話すこと
2話の内容をだいたい
 聞き取ること
3はっきり返事をする
 こと
4何を言おうとしてい
 るかがわかるように
 書くこと
5書こうという気持ち
 を養うこと
 
1「、」に注意
 し、「。」を
 うつようにす
 ること
 2文字の形に
 注意し、筆順
 に従って書く
 こと
 



6 学習資料
 (1) 文集「きのうのこと」一号、二号「どうぶつえん」

各自の他教科の作品
学級ポストからきたともだちの手紙
7 学習計画(六時間)
 (1) 学習の目あてを決め、思い出袋を作る―――――――――――1時間
 (2) 思い出袋に入れるものを決め、目次を作る―――――――――1時聞
 (3) これまでの作品を整理し、思い出袋に入れるものを運ぶ―――1時間
 (4) なかよしのともだちの絵を描く(他教科)―――――――――2時間
 (5) 絵を見ながら友だちの作文を書く――――――――――1時間(本時)
 (6) 思い出袋を整理し、目次と内容を照合する―――――――――1時間
 (7) 思い出袋を交換してともだちと読み合うー―――――――――1時間

8 学習評価(省略)
9 本時の学習
 (1) 目標 ともだちの作文を書き、一年生の思い出とする。
 本時の学習活動

 過程 学習活動  学習事項  評価
1目的の
 確認


2計画














3目的の
 追求
4目的の
 達成





5まとめ

6練習
1本時の学習につ
 いて話し合う。
 きょうの仕事
 を確認する
2どのようなこと
 を書くか話し合
 う
 (1)ともだもの絵
   を見ながらど
   んなことを書
   くか考える。
 (2)どんなことを
   書くかとなり
   同志で話し合
   
 (3)どんなことを
   書くか全体で
   話し合う
3題を書いてから
 作文を書く
4書き終わったら
 よく読み直す
 (1)まちがった字
   を直したり、
   てんやまるが
   抜けていない
   かを調べる
5作品をともだち
 と交換して読む
6二、三の作品を
 読んでようすの
 よくわかるとこ
 ろを見 つ けた
 り、聴写したり
 する。
1学習の目あてを
 決めること
2書く目あてをき
 めること
3書こうとする気
 持ちを養うこと

4気持ちを散らさ
 ずに書くこと
5何を言おうとし
 ているかがわか
 るように書くこ
 と
6てんに注意し、
 まるをうつよう
 にすること
 
1書こうと
 する気持
 ちを養う
 ことがで
 きたか
 
2何を言お
 うとして
 いるかが
 わかるよ
 うに書け
 たか

                                                        325-326
        (2)  三年の作文指導−単元「わたしたちの文集」

              国語科(作文)学習指導案
                               指導者 花 見 安 憲
1 日時 昭和三十七年二月二十四日(土)                                  327
2 児童 北区立八幡小学校 三年一組
3 単元 「わたしたちの文集」
 (1) 単元について(省略)
 (2) 題材について(省略)
 (3) 児童について(省略)
4 学習目標
 グループごとに、今までの作文を整理したり、新しく友だちのことを作文に書いたりして、記念の文
 集を作ることにより、ますます友だち同志なかよくしていくようになる。
5学習内容

 学 習 活 動  学  習  事  項 
知 識・技 能・態 度  言 語 要 素 
1 「グループ文集」を読む
2 グループ文集を作る計画を立てる
3 「かあ子ちゃん」「ドッジボール」
 を読む
4 今までの作文の整理をする
5 「ともだち」について作文
 を書く
6 グループ文集を編集する
7 できた文集を発表して話し合う
 
1 要点をおさえて読むこと
2 書こうとするものをよく見よく考え
 て書くこと
3 書こうとすることがらをはっきりさ
 せてから書くこと
4 かなり長い文章を書くことだいじな
 ことを落さずに書くこと
5 文字の形を整えて書くこと
 
1 語句への関心を増すこと
2 文の中の意味の切れ目やこ
 とばのかかり方に注意するこ
 と
 


6 学習資料
 (1) グループ文集 (2) 作文教材 (3) 各自作品 (4) 学級日記
7 学習計画(十時間)
 (1) 学習の目あてを決め、学級日記 ―┐
  や今までの作品について話し合う  |
 (2) 「グループ文集」を読む     |―2時間
 (3) グループ文集を作る計画を立てる―┘

 (4) 「かあ子ちゃん」「ドッジボール」を読む―――3時間                          328
 (5) 計画に従ってグループ文集を作る。――――――4時間
  ア 今までの作品を整理する。
  イ 「ともだち」について作文を書く。―――――(本時)
  ウ 文集を編集する。
  エ でき上がった文集を発表し合う。
  オ 練習とテスト―――――――−―――――――1時間
8 学習評価(省略)
9 本時の学習
 (1) 目標
   友だちについて作文を書き、お互いに人間関係を深めて、これからもますますなかよくしていこうとする。
 (2) 学習活動

 学習過程  学習活動  学習事項  評価・留意事項
1 目的
 と計画
 の確認












目的の追求

目的の達成
 
1 本時の学習の
 目あてと計画に
 ついて話し合う
 (1) 「だれ」の
 「どんなこと」
  について書く
  か発表して話
  し合う
 (2) どのように
  書けば友達の
  ことやばや自
  分の気持ちが
  よく書き表わ
  されるか考え
  る
2 計画に従って
 作文を書く
3 書き終わった
 ら読み直す
4 書き終わった
 作品を発表して
 話し合う
 
○学習の目あてを決めること
○学習の意欲を高めること
○書こうとすることがらをはっきりさせ
 ること




○目的にあうような書きぶりを考えるこ
 と





○書こうとするものをよく思い出して書
 くこと
○書こうとすることがらや気持ちを落さ
 ずに書くこと
○かなり長い文章を書くこと
 
○学習の目あてがはっきりし、作文を書
 こうとする気持ちが高まったか。
○書こうとすることがらをはっきりさせ
 ることができたか
○具体的にいきいきと書くようにする
○友だちの発表を聞いて、自分の想が乱
 れないようにする
○記述中に想が浮かんだらはじめに考え
 たことにこだわらないようにする
○漢字の使用をあまり強く要求しない
○時間的なあせりを感じさせないように
 する
○作者の気持ちや書こうとしたことがら
 がいきいきと書けているか
○友だちの作文を書いたり、読んだりし
 て人間関係が深まったか.
○作品の発表は観点を決めて聞くように
 する。
○作者の書こうとしたことがらについて
○書き表わし方について
○記述中はできるだけ児童の想を乱さな
 いように、個人的に助言する
 

      この授業については、次に実際に行なわれた学習指導過程の記録を掲げる。                     329-330
時間  芋習指導過程  発間と学習活動の概要 
l〜2分 1 学習の心構え


2 学習の目的の確認(目的)

3 学習の計画の確認(計画)
○きょうお出での先生がたは、東京じゅうの先生です。 みなさ んのそば
 で、いっしょに勉強しますが、ふだんと同じように書いてください。
  (注授業の観察記録者がおおぜいいた)
〇四年で組替えするため、文集の中に、友だちのことを書いておくのでし
 たね。(注このことは、単元の学習計画の中ですでに決められていた)
○塩原君はどんなことを書くの
×前に出て発表――呼び名のこと、習字塾でのこと、親切だということな
 どを書くことを話す
 
3分 4 書き表わし方の確認(方法)


5 書く上の注意の確認(注意
)
○××さん言ってもらいましょう
×前に出て発表――大橋君はよく働くということ、ときどきあだ名を言う
 
 ことなどを書くことを話す
○親切なことを書くと言ったけれど、親切だ、だけでよくわかるか
×見たり、聞いたりしたことを詳しく書くとの応答あり
○いつまでも記念になるように書いてもらいましょう
 
35分  6 目的の追求
  ――記述する(追求)

 
○書いているとちゅうで思い出したことは、書き加えたり、わからない漢
 字はかなで書いておいていい
 (班長を集めて原稿用紙を配布する)
 (記述中は、個別指導と用紙の補充)

14分  7 目的達成の確認――作品の発表
  ――(獲得)









8 作品を集める
 
○どんなことが書けたか聞いてみましょう
○福山君だれについてどういうことを書いたか聞かせてください
×前に出て読む(岡田君のことが書いてある)
〇自分のと比べてどういうところがよく書けていますか
×うまいと思う場面をあげて説明する
○先生は、岡田君のことをよく知らなかったが、福山君の作文でいろいろ
 なことがよくわかった。
○今川君聞かせてください
×前に出て読む(北川君のことが書いてある)
○北川君はほめられたね、北川君のどういうところが好きなのか
×にこにこしていることなど例をあげて説明
 




                                                -330

                                                      331
         
六 「ことばに関する事項」の学習指導 
             
            
(一) 語句の学習指導

   1 学習指導上の問題

 学習指導要領国語でいう「語句」は、「雨」「雨が」「雨の日」「雨降って地固まる」など、単語・文節、連文
節、慣用語などを含む広い意味に使われている。

 (1) 語句は言語要素である

  語句は、発音、文字、文法などとともに、言語活動を内面的にささえている、いわゆる言語要素の一つである。

 (2) 語句は言語活動に従属する

  したがって、言語活動が行なわれるときにはつねに、その活動に従属して働いている。

 (3)
語句には、理解語いと使用語いとがある

 ところで、読んだり聞いたりするときに働く語い――意味のわかる語いと、話したり書いたりするとき働く語い   332
の区別がある。前者は理解語い(聴解語い)後者は表現語い(使用語い)である。学習指導要領国語に、「読むた
めに必要な語句を増す。」「書くために必要な語句を増す。」などとあるのは、この理解語い、表現語いの問題で
ある。

 (4) 語句を理解しているということ

 ある語を理解しているということはどういうことか。戦前は、言い換えができることが第一条件であった。今日
では、たとえばその語の言い換え説明ができなくても
 ア その語が自由に使える。
 イ その語の通り行動ができる。
 ウ その語によって、その象徴しているものを指示することができる。
 エ その語の、象徴しているものが想い浮かべられる。
 オ その語の反対語、対照語が言える。
 ような語は、理解していると考えられている。また、その理解にも幅がある。
 ア 自由に使える
 イ 言い換え、説明ができる。
 ウ 指示できる。
 エ 行動できる
 のような段階から、
 ア 文脈の中で意味がわかる。                                       333
 イ 大体の意味がわかる。
 ウ 聞いたこと、読んだことがあるが意味ははっきりわからない。
 エ 意味はまったくわからないが聞いたこと、読んだことがある。
 オ まったくわからない。
 のような段階まで並べることができる。この段階が語を理解し習得する段階でもある。

 (5) 語句の理解には発達の段階がある

 「牛」とは何かを言わせてみると次のような理解の段階があると言われている。
ア 牛は、角がある動物。生乳を出す動物などのように、その属性、形態などの一部、一面をとらえて、全体を包
 括的に名づけようとする段階――小学校低学年の段階
イ 牛というのは、角がある、生乳を出す、足が四本あるなどと、説明的、記述的、分析的な理解をする。――小
学校中学年の段階
ウ 牛というのは、家に飼われている動物で人のやくに立つなどと、一般的、概念的、抽象的な理解をする。――
 小学校高学年の段階
 このような理解の発達の上に立って、学習指導を考えることがたいせつである。

 (6) 語い量も段階的に発達する

 語いの量も段階的に発達する。小学校一年生の語い量は、すでに調べたものによると次のようになっている。    334

                 年 令          少――――多          平 均

     東京成城小学校     六年五月      3,500〜5,162       4,089

     千葉県長浜小学校    
六年九月      3,373〜6,072       5,019

     岡山県師範学校     六年八月            3,132(使用語い)
                                 5,230(理解語い)

     長野県師範学校     一年生             5,135(男子)
                                 5,081(女子)

 語い量の発達は、坂本一郎の調査によると語いの増加率は、四年生頃から急に伸び始め六年で最高に達し、中学
生は、それより一、二、三年と次第に減っていく。男子よりも女子のほうが発達が少し早くなっていて、時期にず
れがある。
 教科書の語いについてみると、ある教科書の総語数(異語数)は八、三八七語(助詞、助動詞は省いてある。)
その延べ使用度数は八八、五九二語になっている。その八、三八七語の僅かにO.二三%に当たる、使用度の高い
二〇語を取ってみると、その延べ使用度数は八、八六七回。僅か二〇語が、総延べ語数の一〇%に当たる最を占め
ている。ところが中には、六カ年を通じて一回しか出てこない語がたくさんある。その教科書には、[ア]から[コ]
までに所属する語が、二三九四語ある。そのうち六カ年を通じて、僅か一度しか出てこない語の数が五一%以上も
ある。練習の必要性がここでも痛感される。

 (7) 語句の抵抗ということ

 読解当たって、まず語句の意味を理解させて語い抵抗を排除するということがよく言われる。語の理解は、文章   335
の意味の理解が深まるとともに深まるものである。文章の浅い理解の段階では、語の理解も浅い。文章の意味の理
解が成立しないうちに、形式的にその語を取り上げて説明解説しても、その語の真の理解は深まるものではない。
語いの抵抗は、文章の理解が深まるにつれ増してくるものであり、その語いの理解を深めることによっ文章の理解
も深まるものである。
 文章の中で、語いが文章理解の抵抗となる度合いを語い負担という。文章の語数に対する(字数)意味のわから
ない語数の比をもって表わすようになっている。語い負担が多すぎれば理解困難をきたし、負担がなければ学習が
成立しない。この負担の多少によって指導のくふうをすべきである。

    2 語句の学習指導の原則

 語句の学習指導は「聞く、話す、読む、書く言語活動を通して学習する。」という原理の上に立って行なわれる。
(1) 原則1「ことばの具体的な意味は、文脈が決める。」――「文脈の原則」
 「若い」の具体的な意味はそれだけでは決まらない。「十九才か、君は若いね」の「若い」は年代の若さを「そ
んなことを怒っているのか、君は若いね」の「若い」は年代の若さ、低さを、「このなしはまだ若いね」の若いほ、
未熟の意味をそれぞれ表わしている。ことばの具体的な意味は、このように、文脈、場面、前後関係が決める。こ
れが、語を身につけるときの原則である。われわれが、新しい語を理解する場合にも、多くはこの方法によってい
る。
 この文脈の原則を、アメリカの言語学者ハヤカワは「言語的文脈」と呼んでいる。
(2) 原則2「ことばの意味は具体的な事物や行動を通して理解される。」――「具体の原則」            336
 語を理解する揚合、実物を見たり、経験したり、行動したりした結果その語を理解する。ここに語句理解の原則
がある。ハヤカワは、これを「社会的文脈」と呼んでいる。
(3) 原則3「ある語の意味をもとにして他の語の意味を理解する。」――「類推の原則」
 一語あるいは数語の意味をもとにして類推して他の語の意味を理解する。予定、予測、予報などの語を知ってい
て、「予知」の語を類推して理解する。この場合には、原則として、類推の基盤になる語の群れがなければならな
い。
(3) 原則4「語と語とを比較してその語の意味を理解する。――「比較の原則」
 語と語とを比較対照して語の意味を理解する。浅いと洗い。近いと違いなど比較対照してその語の理解を確実に
する。あるいは非常によく似た意味の語を区別する場合など効果的である。修理と修繕、改善と改良、運送と輸送
などそれぞれの用例をあげて、比較対照するとその意味の違いが理解される。
(5) 原則5「その語を使うことによってその語の意味を理解する。」――「適用の原則」
 ある語に出合うと、まだ理解できないうちに大胆に使ってみる。使うことによって次第に理解を深めていく。作
文の原則といってもいい。
(6) 原則6「くり返し使うことによって意味を理解する。」――「反複の原則」
 語は、いろいろな場面、いろいろな文脈の中でくり返し使うことによって理解する。一つの文脈だけではその意
味がよく把握できない場合でも、二つの文脈、三つの文脈の中でくり返し使うと(出合うと)理解される。
 これらの原則を通用して、語句の学習あるいは練習を行なう。語句の学習は、語句それ自体独立して学習される
のではなく、つねに文章の意味を深く理解するために、あるいは談話の意味を正しく聞き取るために、あるいは意   337
図を正しく書き、話すために、語句の理解を深めることを考えるのである。
 語句の学習は、聞く、話す、読む、書く言語活動を通して行なうというのは、そのことを言っているのである。


       (ニ) 漢字の学習指導

    1 学習指導上の問題

 漢字の学習指導は、漢字の読み方、漢字の書き方を指導しようとするのではない。漢字で書かれた語の読み方、
意味の学習を指導しようとする。ことばを漢字で、あるいは、漢字とかなで、どう書くかの学習を指導しようとす
る。つまり、漢字で書かれた語の読み方や意味の学習、語の漢字とかなによる書き表わし方の学習である。したが
って、読解や作文の学習の過程で漢字の学習も行なわれるのである。
(1) 形、音、義――漢字の機能的な考え方
漢字の形(字形)音(読み方)義(意味)の三つが、ことばによって統制されないと、漢字の学習は成立しない。
漢字の書き方の練習をしている児童に、その読み方を聞くと読めないことがよくある。意味のない記号は記憶して
もすぐに忘れることは、エビングハウスの忘却率が如実に示している。意味のわからない文字、読み方のわからな
い文字を書く練習をしても効果があがらない。(ア)学学学校校校式の練習、(イ)学校学校学校式の練習、(ウ)
学校の門、わたくしたちの学校、学校の庭式の練習で、(ウ)が最も効果があることも実験済みである。
(2) 読むことと書くことの相関――読み書きの相関                              338
 漢字を読むことと漢字を書くことの間にはどんな相関関係があるか、国立教育研究所の「国語の学力検査問題の
作成に関する研究」によると、漢字を読む力と漢字を書く力との間には、次のような相関関係がある。(中学校の
場合)



学年      
相関
係数
 0.72 0.64  0.59
 なお、日教組で行なった国語の学力調査の結果(日教組学力調査中間報告
書、昭和二十七年度)でも、漢字を読む力と書く力との問には、正の相関が
あることが認められている。このことは、漢字の学習指導の方法を考える上
に参考になる。
(3) 漢字と言語生活――機能的な漢字

 生活に親しい漢字はすぐ習得される。漢字の字画の多少、難易よりも、それが児童の言語生活とどれほどの関係
があるかということのほうが、その習得に大きな影響を与える。「会社」の「会」は書けても「会計」の「会」は
書けない。「興味」の「興」は書けても「感興」の「興」は書けない。「資本」の「資」は書けても「資する」の
「資」は書けない。「見物」の「物」は書けても「生物」の「物」は書けない。「学校」などは低学年でもすぐ書
けるようになる。よく目に触れ、よく使われる漢字、親しみのある漢字は覚えやすい。要するに、漢字の問題では
なく、語の問題である。
(4) 漢字の習得と教科書
 児童が身につける漢字は教科書で学習したものだけではない。新聞、雑志、掲示、友人の氏名その他生活環境の
中でつねに目に触れるものから自然に学習される漢字も多い。漢字の習得は読書生活や文字環境に左右されるから、
個人差、地域差がある。                                           339
 しかしながら一般にいって、教科書で学習される漢字が大部分であることはいうまでもない。また、教科書によ
って学習する漢字が自然に学習される環字よりも習得しやすいことも実験の結果が示している。したがって、児童
の漢宇習得は、それまでに学習した教科書に規定される。漢字力の検定などといって漢字を等級別に分け、教科書
の指導体系とは別に系統を立てて練習をする方法が取られた。最近はほとんど行なわれなくなったが、このような
練習は、一時的効果をあげても、真の漢字力として身につかないうらみがあった。
(5) 漢字と筆順――筆順の機能的な考え方
 漢字を書くときによく筆順が問題になる。筆順は、字源、字形を根拠として長い間に決められた社会的習慣であ
り、伝統をもっている。筆順に従って書くことには、次のような効果がある。
 ア 字形を整えやすい。したがって美しく書きやすい。
 イ 速く書ける。筆順が合理的になっている。
 ウ 記憶しやすい。筆順が固定しているとそれ自体が記憶の手がかりとなる。筆順はだいたい次のような場合に
 問題になる。
 ア 筆順の固定 ――同一字で伝統的にいくとおりかの筆順が行なわれている文字――馬、必などのように、
 イ 筆順の統一 ――同一の部首でも文字によって書き方が違う場合――有、右、布などと左、在、存など。
 ウ 筆順の自由 ――漢宇全体あるいはある部分の筆順は自由でよいのではないか。――田、主、上などの縦
  画と横画との関係。
 エ 筆順の複雑 ――複雑で記憶しにくい筆順の場合――飛など。
(6) 漢字の書写                                               340

 漢字を書くときに、点画について、はねるか止めるか、払うか止めるか、付けるか離すかなどがよく問題になる。
筆写する場合には用具が違ったり筆勢が加わったり、速く書いたりいろいろな条件が加わるので複雑になる。これ
については、昭和二十四年四月二十八日に内閣告示として公布された「当用漢字字体表」に「使用上の注意事項」
として次のように示されている。このことは、現在も行なわれている。「筆写体(楷書)で書く場合、点画の長短、
方向、曲直、つけるかはなすか、とめるか、はねまたはらうかについては、必ずしも拘束しない。」

    2 漢字指導の原則、方法

漢字はどのようにして習得されるか、漢宇学習の実態に基づいて箇条的にあげてみる。
(1) 語を構成している漢字は個々に記憶されず、語として全体的に学習され記憶される。
 たとえば、「住」は「住所」の「住」として「益」は、「利益」の「益」として学習され記憶される。語とそれ
を表記する漢字とが分離されない。
 したがって、漢字の背後には、つねにそれによって表記される語の観念がある。この漢字の背後に形成される語
の観念がしだいに増すことによって、語と漢字とが分解されるようになる。学校、校庭、校舎、校長などが学習さ
れると、「校」は、語から離れて抽象化されるようになる。このことは、かなの学習においてもまったく同じであ
る。
 このことから、教室に掲示される、「教育漢字一覧表」、一字一字書いて掲示する「新出漢字表やカード」など
の学習効果、「教、教、教、室、室、室」のように書かせる練習効果があがらない理由もここにある。
 この事実から漢字の学習、練習の方法も見直されなければならない。                      341
(2) 語を構成している漢字は、語義と結びついて学習され記憶される。
(3) 語を構成する個々の漢字は読めてもその読み方が、語によって統制されなければ漢字は学習されない。
 以上のことは、漢字はつねに、ある語を表記する漢字として学習される。ことばと結び付いて学習されることを、
 物語っている。
(4) 漢字の学習の初期の段階では、語を構成する漢字を読めるが、語義の理解がともなわない。
(5) 語としては読めるが、語を構成する個々の漢字に当てて読むことができない。
 ことがある。
(1)から(5)までの原則を裏付ける学習の実態を参考に示す。漢字テストの結果による。
 ア 午前(ごご)有益(りえき)勢力(あつりょく)などと読み誤る。
 イ 小半日(こはんび)数かぎり(すうかぎり)暴風雨(ぼうふうあめ)などと読み誤る。
 ウ 返事(しごと)先年(さくねん)友人(ともだち)などと読み誤る。
 エ 同日(どうび)所書き(しょがき)半ば(はんば)などと読み誤る。
 オ 住居(じゅうしょ)自筆(えんぴつ)などと読み誤る。
 カ 先人(せんにん、さきびと、さきにん)大木(たいぎ)などと読み誤る。
 これらの誤読の背後にあるものを洞察して、漢字学習の方法のくふうに役だてたい。
(6) 漢字は個々に認識されず、語全体として認識される。――語のゲシタルト
(7) 漢字はその構成部分(部首)が分析的に認識されず、漢字全体として認識される文字のゲシタルト
 漢字は漢語として、また、個々の漢字は、それ自体全体として認識される。しかし、予定、予算、予備などが学   342
習されると、さきに述べたように「予」が分析され抽象化され記憶されるようになる。
 校、村、松などが学習されると「木」が分析抽象されて構成部分(部首)として認識されるようになる。ここに
漢字学習の初期の段階から完成段階への過程がある。
 これらの原則は、次の事実によって裏付けられる。
 ア 先生を「生先」、用意を「意用」、風景を「暴風」、写生を「生写」などと書き誤る。語として全体的に認
  識され、個々の文字が分析され認識されていないからである。
 イ 漢字の誤記の実態
 (ア) へんとつくりを取り違える。――(朝)(組)(頭)など
 (イ) つくりを誤る――(校)(妹)など
 (ウ) へんを誤る――(期)(勉)など
 (エ) きゃくを誤る――(香)(笑)など
 (オ) かんむりを誤る――(電)(祭)など
 (カ) にょう、たれを誤る――庭)(屋)など
 (キ) 点画の増減――(根)(首)(初)など
 (ク) 二字の漢字構成部分を組合わせる――(せん。先と生)(あるく。歩と足)など
 これらの誤記には、(1) 無意味な誤り(字形の認識がふじゅうぶん) (2) と意味のある誤り(他の漢宇の字形
や意味が類推され、連想されたりして誤る)とがある。一般に漢字全体をばくぜんととらえているが漢字によって   343
は、その構成部分の特徴を捉えているものもある。しかし、どの部分が一般的に強く印象づけられるかは簡単には
言えない。
 一般にだれでもよく書き誤るという漢字はある。..などがその例である。
(8)  漢字の読み方(音)の学習が、意味の学習に先行する場合、読み方が強く意識され漢字を単に表音的に使う
 (書く)ことがある。
(9) 漢字の学習に当たっては、語と漢字の結び付き(語とそれを表記する漢字との意味関係など)を強固にする。
 表音文字のかなと、表意文字の漢字とによって国語を表記する複雑さが(漢字が表音的に使われていることがあ
るからなおさら)国語表記の学習を困難にしている。その実態を次に示す。
 (ア) 思しろい(おもしろい)中は(なかは)見んな(みんな)大木い声(大きい声)お日る(おひる)夜の中
 (世の中)来る(切る)
 (イ) 用(様)時業(授業)の新切(親切)大表的(代表的)寝むる(眠る)雲る(曇る)
 この誤用の傾向は一般に強い。この場合でも漢字を単に表音的にばかり使うのでなく、そこには、かすかながら
意味による漢字の選択が行なわれて、苦心のあとがしのばれる。国語の正書法の確立、漢字学習の方法などに示唆
が与えられる。
(10) 漢字の意味と字形とは結合しているが、音と漢字との結合が弱い場合には誤用される。
(11) 語義と漢字との結合が弱いため、意味の類推によって他の漢字を当てて書くことがある。
 語を表記する場合、漢字が担当する音の部分、つまりどの音までを漢字で書くかが明確でない場合(送りがなの
問題もその一部)、語義と漢字とが確実に結び付いていないために、その語義に似ている他の漢字を誤用する場合
である。漢字は意味は表わすが、ことば(音)を表わさないという漢字のもつ宿命的な短所によるものである。具   344
体的に示すと、
 ア 明した(あした〕お思う(おもう)今ま(いま)考んがえ(かんがえ)お終る(おわる)などと書き誤る。
 イ 後り(終り)輝らす(照らす)土面(地面)心っている(思っている)などと書き誤る。
(12) 字形の似ている漢字は書き誤りやすい。
 字形が似ているために書き誤る例は学年が進むにつれて増加し、六年が最も多い。学年が進むにつれて、字形の
似た漢字が増加するからであろう。高学年では特に、同類の漢字、似ている漢字などをまとめて整理する学習が計
画されなければならない。
 このことはまた、漢字が、一点一画をおろそかにしない厳密な構成の上になり立っていると同時に、一点一画の
有無はどうでもいいという矛宿した原理の上に成り立っている文字だからである。たとえば、大、太、犬、木、本、
末、未、巳、己、己、刊、刑などのように厳正な約束の上に成り立っている文字にとっては、点画の有無、長短、
離合などの変更は、その文字の生命を左右することになる。ところがいっぽうにおいて、抜、者、当、雪、達、賜、
その他多くの漢字が、点画の多少、長短などが変えられても、また誤記してもコミュニーケーションにさしつかえ
ることがない。このような矛盾した原理の上に成り立っている漢字の学習が困難をともなうことは当然である。
 たとえば、第と弟、体と休、雲と雪、特と持、捨と拾、坂と板、苦と若、持と待、次と炊、少と小などひじょう
に多い。
 以上、児童の漢字習得の実態や過程を分析して、そこに働く原則的なものを抽出してみた。
これらの原則に基づいて、漢字の学習指導の方法を根本的に改善する必要があろう。
                                                      345

        
(三)文法の学習指導

    
1 文法の学習指導の考え方

 (1)  機能文法の機能的指導

 小学校の文法教育に対する、ドイツの言語学者エルンスト=リンデの発言は傾聴すべきものが多い。(「リンデ
言語教育論(細沢竜訳、昭一六、目黒書店)」)
 「小学校における文法授業の主要目的は、実際的な目的即ち母国語の正しい使用を助成することである。」「文
法授業は即席的授業でなければならぬ、機会を逸しないようにしなければならぬ。すなわち、児童の誤れる表現と
か、標準語に対する方言的な妨害とか、語構成に現われてくる不確実とか、ある読物、詩歌における流暢ならざる
文の結合とか、または、児童の作文練習の時の誤りとか、これらすべての事は文法の時間を有効にするために妨害
となるものである。この場合に前堤となるのは、教師が文法的な諸材料の総体を概観することができるということ、
および、教師が一定の組織を頭の中に有しているということである。」「文法は、言語についての知識を伝達すべ
きではない。その最もたいせつな任務は、言語感情を育成するという点に求むべきである。それゆえに、あらゆる
概念の説明や分類なんかは不要である。」「文法は、母国語の実際的使用に役立つ。口述に役だつものである。」
 リンデのこの発言は、現在においても、われわれに多くの示唆を与えている。機能文法というのはこのようなも   346
のである。表現、理解の過程で働きつつそれ自身確実に身につけるとともに表現を助け、理解を助けるものである。
しかもその過程において言語に対する関心、意識を高めて、国語を正しく使おうとし、改良しようとする国語愛へ
と発展させるところに文法学習の目標がある。
 したがって小学校の文法学習は、
(1) 学習基本文型を通して、「正しい言語感覚」を育て、「正しい表規、理解の基礎」を養うものでなければなら
 ない。
(2) 学習基本文型を通して「ことばの機能」「ことばの用法」を理解し、「ことばに対する関心、意識を高める」
 ことが計画されなければならない。
 したがって、文法学習の原則は文法をつねに聞く、話す、読む、書く学習活動の中に含めて、学習するというこ
とである。しかもそこで、学習の対象になるものは、文法知識ではなく、文法的事実である。

    2 文法の学習指導の原則

 (1) 第一の原則――文法は言語経験を通して学習する。
 文法の学習指導は、闘く、話す、読む、書く言語経験を通して行なう。文法は、言語活動をささえているもので
あり、同時に、言語活動によって伸びるものだからである。これは文法学習の基本的な原則である。小学校学習指
導要領国語に「ことばに関する事項は、聞き、話し、読み、書く活動の中に含めて指導するのを原則とする。」と
あり、中学校学習指導要領国語に「ことばに関する事項の学習は、具体的な言語経験を通して行なうようにし、機
械的な暗記、形式的な文例の学習に陥らないように特に注意して指導する。」とあるのは、この原則に基づいてい   347
るのである。
 (2) 第二の原則――文法は、ことばの働きに即して学習する。
 ことばが実際に生きて働いている場合について学習する。機能的に指導する。機能的に指導するには、ことばが
場面の中で実際に働いているものをそのまま取り上げなければならない。抽象化した言語形式、形式的な文例を取
り上げて学習しても生きた文法の力にはならない。ただ単に「雨が降る」というような場面をもたない抽象化され
た文を取り上げて主語はどれ、述語はどれなどという学習をするのではなく、実際に場面や、文脈の中で働いてい
る語を取り上げて、その働きに即して学習する。文法的事実を重視する。具体的に言えば、文を読み誤る、話し誤
る書き誤る、あるいは、文の構造が複雑で読解が困難である、つまづいてしまう。このような機会に、その文法的
事実を取り上げて学習させ、それを乗り越えることによって読解が深まり表現が正しく行なわれる。そのような過
程で文法学習は行なわれるのである。
 (3) 第三の原則――文法は機会的に学習させ指導する。
 機会的に指導するということは、原則的には、児童の文法意識が高まったときに学習させるということである。
読解や作文の過程で文法的解明を必要とする文法的事実に出合いそれを解決しようとする意識が高まった機会に学
習する。それが原則である。その機会はできるかぎり予定を立てて置く必要がある。読解教材の研究をする際、た
とえば、文章の内容を正確に読み取らせる。理解を深める活動をさせるのに、必要な語の機能、文法的事実等を明
らかにしておく。要するに、教材の学習の中に文法的事実を、児童の読解のつまづきや読解を深める手がかりとし
て計画的、科学的に用意しておくことがたいせつである。
 (4) 第四の原則――文法能力の発達に応じて学習する。                            348
 基本的には、児童の文法能力の発達をおさえることが先決間題である。児童の談話、作文を分析することによっ
て、文型の発達、文章の発達、文末の語の発達、接続詞の発達、修飾語の発達その他の発達の実態を明らかにする
ことができる。(朝倉書店「文法の理論と教育」の「小学校の文法教育の体系と方法」拙稿を参照されたい。)各
学校の文法指導計画などを見ると、文の指導として、(1) 単文、(2) 重文、(3)  複文の順に指導計画が立てて
ある。時の指導として、(1)現在形、(2) 過去形、(3) 未来形の順に指導する計画もある。このような指導の順序
は児童の文法能力の発達の方向と合っていない。二年生のころの作文に、「それから」「そして」が使われ出すと
すぐこれを押えてしまう。これも接続詞の発達の過去を無視した指導になる。
 要するに、児童の文法力の発達を押えて、それを伸ばすような指導が考えられなければならない。

    3 文法指導の方法

 (1)  学習基本文型の学習

 文法教育が、文法知識の教育から、語の用法の教育へと転換した今日、特に大事なことは、学習基本文型の学習
である。文型は、社会的に決まっていることばの使い方、言い換えれば、ことばのきまりによって組み立てられて
いることばの使い方である。
 この文型に対する感覚をみがき、その使い方を確実に身につけてやることが文法教育の基礎であり、目標でもあ
る、この文型は、つねに児童の思考の発達とともに発達していくものである。したがって文法指導することは一面   
思考のしかたを指導するとも考えられる。                                   349
 たとえば、ある教科書の一年の童話に、「ふゆのかえる」というのがある。この文章は全部で十一の文からでき
ている。そのうち、「だれが○○といいました。」という文型が五つ、「きょう○○と○○をしました。」という
文型が一つある。この二種類の文型は、ともに低学年できわめて使用度の高い学習基本文型である。だから、この
童話は、半数以上が児童の使う学習基本文型で書かれていることになる。次にあげて見る。
 ア ぼくはおどろいて「――」といいました。
 イ おかあさんは「――−」とおっしゃいました。
 ウ ぼくは「――」といいました。
 エ ぼくは「――」とききました。
 オ おかあさんは「――」とおっしゃいました。
 カ きょう、おかあさんとかわらへすなをとりにいきました。
 この童話の筋もこれらの文型を中心にして展開させている。このアからカまでの文の内容について話し合いなが
ら学習を進める。「おかさんは何といいましたか。」と質間しながら、「おかあさんは」と板書する。児童の答え
をまって、おかあさんのことばの部分を赤いチョークで板書する。こうして、内容について話し合いながら、五つ
の文を板書すると、この童話の内容が明らかになるとともに、この文型に対する語感が正しく育てられる。児童に
読ませたり、書かせたり、またぼくやおかあさんが言ったことばだけを板書し、その前後に「00は」「といいま
した。」と補わせたりするのもよい。その場合、「いいました」と「おっしゃいました」が対比されるから、それ
ぞれの用法を理解させるのもよい。
 このように、文章の内容を読んだり話し合ったりして学習を進める過程で文型の指導をする。時には、カードに   350
作って文型のとおりに並べさせるのもよい。

 (2)  修飾語の用法と機能の指導

 これは実際に行なわれた指導例である。
 東京都内のある学校の二年の教室。作文の時間に、先日行ってきた動物園の様子を書かせた。そのうちのある作
品を先生が板書され、それをみんなで読み合った。次に実際に扱った部分を書いてみる。
 「ペンギンは、パシャンととびこんではぶくぶくとあわを出します。あかちゃんのペンギンが手をふって出てき
 ました。」そして終わりのほうに
 「もっと見ていたいのだけれど、先生はどんどん行ってしまいました。」
 先生は、ここの部分の学習で、まず初めに「ここで様子のよくわかるところはどこですか」と質間された。児童
はあそこだ、ここだという。先生は、そこに線を引いた、それから、先生は別に用意したカードに、「ペンギン
は」「とびこんでは」「あわを出します」「ペンギンは出てきました。」「先生は行ってしまいました。」と書か
れた。そして、そのカードを三枚続けて、「ペンギンは、とびこんではあわを出します」と読ませた。そして、初
めの「ペンギンはとびこんではブクブタとあわを出します。」と読み比べさせる。
 「どっちがよく様子がわかりますか。」
 「はじめに、○○が書いた文のほうがよくわかります。」
 「それはなぜですか。」
 と話し合っていく。そこで先生は、「パシャンと」と「ブクブクと」を、カードにマジックインキで書きこむ、す  351
ると、「ペンギンはとびこんではあわを出します。」では、はっきりしなかったその様子がはっきりしてくる。
 そこで、「パシャンと」「ブクブクと」ということばの働き、意味がはっきりしてくる。しかも、どこにそのこ
とばをもっていけばいいかも暗黙のうちに児童にわかってくる。子どもたちに、「パシャンと」「フクブクと」は、
副詞だ、飾りことばだなどという知識は何も与える必要はなくて、ことばに対する感覚と、ことばの意味と働きと
が一体となって身についていく。

 (3)  基本文型、修飾語の用法、機能の指導

 ある教科書の二年の教材に「ゆきにんぎょう」という童話がある。その概略を述べると、「ある雪の降る夜おそ
く自動車の運転手さんが家へ帰っで行く。早く家へ帰ろうと思うと自動車は急にスピードを増した。すると、あっ、
だれか人がいる。運転手さんは急にブレーキをかけた。ところがとうとうまちがってその人をひいてしまった。さ
あ、たいへんだ。運転手さんは急いで車を降りた。行ってみると、それは人ではなくて雪人形だった。運転手さん
は、その雪人形を作った子どもたちのことを考えて、自分でていねいに雪人形をもと通り直した。さあ、これでい
い。運転手さんほほっと安心した。そして、また自動車を運転して帰っていく。」という童話である。
 この童話は、
 ア 「はやくうちへかえろう。」
  じどうしゃは
きゅうにスピードを増しました。
 イ 「あ、だれか人がいる。」
  うんてんしゅさんは、
きゅうにブレーキをかけました。                           352
 ウ 「あ、たいへんだ。」
  うんてんしゅさんは、
いそいで車をおりました。
 エ 「ああ、これでいい。」
  うんてんしゅさん
ほっとあんしんしました。
 この四つの基本文型が中心になって筋が運ばれている。しかもこの四つの文は、この童話の運転手の心の変化を
表わしている主要な文である。したがって、これらの文を中心にして学習を進めることによって、この童話の筋も、
運転手の心持ちもはっきりとつかむことができる。この学習の中で、学習基本文型を身につけることができる。さ
らにまた、この文型の中で、「きゅうに」「いそいで」「ほっと」などの連用修飾語と、その前の「あ、だれか人
がいる」「あ、たいへんだ」「ああ、これでいい」と対比して考えさせることによって、これらの語の機能をじゅ
うぶんに理解させることができる。また、
 ア うんてんしゅさんはブレーきをかけました。
 イ うんてんしゅさんは車をおりました。
 ウ うんてんしゅさんはあんしんしました。
のように、板書したり、カードに書いたりして、の中に修飾語を入れさせたり、それを読んだり、書いたりさ
せると、修飾語の機能を感得させることができる。

 (4)  助詞の機能の指導

 六年生の教室、「和井内貞行」の伝記の学習、貞行が何回も養魚に失敗した、その場面を表わすところに「親類   353
の者
さえ相手にしませんでした。」という文がある。先生は、だんだんと読解を進めていって、「そのとき村の人
はどうだったでしょうか」と発問した。先生は、これによって一段と深い読みをさせようとしたのである。すると、
児童たちは、ずっと本を読み返していって、 すぐに手をあげた。 「もちろん、村の人たちも相手にしませんでし
た。」と答えた。「なぜか」と問い正すと、「親類の者
さえとあるから、もちろん村の人たちは相手にしませんで
した。」と、児童たちは明確に答える。
 このような読解の中で「さえ」の用法、機能を児童たちは明確に知ることができた。
 このような学習が、機会をとらえては行なわれることによって、ことばの機能、用法が身についていく。ことば
に対する聞心、意識が深まっていく。
 小学校における文法教育の真髄はここにある。

(1)                                                     361

                      学習基本語           133
                      学習基本文型          348
                      学習行為           29,31
                      学習指導過程          296
【索引】                  学習指過程の基本原理      160
                     学習主体             31
                      学習の原理           178
イエスシ読本          199    学制時代             86
生きた技能の学習        127    課題か自由選題か        313
異語数             132    価値             15,22
一次の読み           163    価値観            16,17
意味的接近           294    価値形成の機能     207,246,248
意味の解釈過程         161    価値生産             26
意味の過程的な見方       162    価値生産行為           34
意味の構造           161    価値体系           18,19
意味の層的な見方        161    価値追求のための言語活動     27
                      価値追求の計画と方法       27
                     価値的な目的       32,81,230
音韻              130    価値内容             18
                      価値の過程的構造        251
                     価値の原理          15,181
会議の構造           9     価値の構造           149
外在的世界          54,309    価値の習得,生産         22
解釈学的指導過程    140,158,162    価値の生産活動          24
概念的認識          57,169    価値の生産過程        27,175
開発的教授過程         156    価値の追求            27
取き手の感覚           50    価値判断             19
書き手の思考           50    価値を生産する国語教育      19
書き手の想像           50    活動の原理           184
書くことの技能態度の発達段階  123    過程的意味構造         163
書くことの一般的な機構     307    漢字の学習指導         337
書くことの学習活動の機構    308    漢字と言語生活         338
学級新聞の機能          10    漢字の習得と教科書       338
学習             31,149    漢字と筆順           339
学習活動            232    漢字指導の原則          340

(2)                                                     360

鑑賞の基本原理         25     機能的な資料           222
眼球運動            276     機能的な文法           134
感情              25     機能的な語い           133
感情移入            25     機能的な単元         187,224
感情の発展           50     機能的な話題・題材      108,221
感情的認識        56,57,169     機能的な目的           83
感動              25     機能的分類            209
                     機能の原理             6
聞くこと話すことの技能           機能と構造           8,13
態度の発達段階表        119     機能別言語経験          102
聞くこと話すことの学習           技能性              34
指導過程            266     技能中心の国語教育        66
聞くこと話すことの機構     257     技能主義の指導法         79
聞くこと話すことの学習           基本文型             351
活動の機構           262     客観的価値            22
聞く話す技能の練習       196     教育的価値            16
聞く読む言語活動の目標     72     教育的系統            188
記号化過程           310     教育的人間像           67
記号経験            53     教育令時代            86
記号的な見方          38     教科書の歴史           197
機能               6     教科単元           214,219
機能的言語観          47     教具               205
機能的国語教育の構造       1     数材               203
機能的国語教育の特色       1     教材単元           215,219
機能的作文           314     教材の機能            206
機能的作文指導の原則      315     教材の教育的機能         246
機能的作文の内容        316     教材研究の分野          247
機能的指導過程       172,175     教材研究のまとめ         254
機能的立場            9     教式               141
機能的な学習活動        191     教授               149
機能的な学習法         80     教順               139
機能的な言語活動        221     興味の原理            180
機能的な言語能力      116,222     記録               316
機能的な言語        134,222     記録」の内容機構         317

(3)                                                     359

                                 
                      言語経験の本質          98
具体的内容           86     言語形式             78
具体の原則           336     言語形式主義           64
黒表紙本            199     言語行為           29,99
黒表紙本の改訂         200     言語構造観            38
                      言語材料             26
                     言語思想一体観          42
                      言語主体             29
形・音・義           337     言語生活             80
経験単元          214,219     言語生活の向上        80,81
経験を広め心情を豊か            言語の真実性           54
にするための読解        292     言語生活の理想          44
経験的世界           54     言語体制化           310
経験的価値           15     言語道具観          38,43
経験の契機           106     言語的生産活動         172
形式的接近の方法      289,293     言語的生産過程         174
形式内容一体観         41     言語的世界            54
芸術的価値           16     言語的認識           169
形態分類          208,260     言語的文脈           335
系統の原理           188     言語と思考            50
研究や生活を進める機能     104     言語と事実の一体化        54
言語活動            98     言語と生活            48
言語活動と教材         252     言語と精神            48
言語過程説           38     言語と社会            48
言語活動の目的         82     言語内容主義           64
言語観             37     言語内容教育           64
言語機能観           39     言語能力           78,115
言語経験            98     言語能力と教材         252
言語経験を処理する力      117     言語能力の教育          64
言語経験と言語能力       114     言語能力の養成         124
言語経験と言語要素       128     言語能力の発達段階表      118
言語経験の機構         100     言語の機能            49
言語経験の機能         102     言語の使用            44
言語経験の主題         106     言語の精神的機能         51
言語経験の発達段階表      99     言語と経験            53
                     
(4)                                                     358

言語と思想           49     ことばに関する事頃の目標     73
言語と社会           52     ことばの充てはめ         55
言語と認識           55      ことばの学習目標         84
言語と文化           51     ことばの対応           55
言語文化          41,107     語句の学習指導         331
言語魔術            54     語句の理解           332
言語・文字,文章の教育     63     語句理解の発達         333
言語要素         115,129     語い量の発達          334
言語要素と教材         252     語句の抵抗           334
                      語句の学習指導の原則      

                     語の成立            310
                      語の用法            348
皇国民の練成          69     コミュニケーションの原理    190
構造              7     娯楽鑑賞の機能         105
構造的言語観          42     
国語愛護            85        
国語科学習指導案   243,269,298,     
             324.326     サクラ読本           201
国語科総括目標         46     作業単元            219
国語科の内容    85,89,92,94.96     再体制化            165
国語科の目標        72,81     作文,書写,表記        306
国語科の目標の歴史       59     作用的な見方           39
国語学習の本質        107     三次の読み           163
国語教育と人間像        75     
同語科の内容の歴史       85        
国語のアクセント       131     刺激の原形            55
田語能力表          117     思考活動           24,165
田語の能力と思考・心情     78     思考活効の構造と機能      164
国語の能力の養成        22     思考活動の特色         166
国定本            199     思考過程           24,167
国民科国語           41     思考過程の秩序化         50
国民学校令時代         88     思考の一般過程          168
国民精神の涵養    40,41,64,65     思考の発達           348
国民的思考・感動      41,65     思考のしかた          349
言霊観鵠            39     自己表現            316
ことばに関する事項      129     自己表現の内容機構       318

(5)                                                     357

事実判断            19     心理学的教授過程        157
思想形成            50     
実質的内容的価値        33        
実体的な見方          38     
指導法の歴史         136     生活的な目的           83
指導要領時代          89     生活表現の綴り方        314
社会的機能           45     生産               23
社会的手段           43     生産活動             26
社会的な漢字         132     生産過程            175
社会的文脈          336     生産行為           28,32
社交的な機能         103     生産主体             29
集団思考の機能      8,14,103     生産性            26,34
修飾語の用法,機能    351,352     生産的思考          50,172
主観的価値           22     生産的想像        26,50,172
主体              29     生産の原理            22
主体性             30     生産財            26,173
主体的             30     生産の主体            24
主体的行為           32     生産の手段            24
主体的行為の特性        30     生産力              24
主体の原理           29     精神形成             50
主題化            227     精神的機能            45
主題単元           219     精神的生産            23
主題的接近          294     精神的生産力           24
小学校令時代          87     精読              163
象徴単元           219     戦後の言語観           43
助詞の機能          352     戦前の言語観           40
情報を求める機能       105     
叙述機能            52        
資料           204,205     
白表紙本           201     総括目標             72
心的内容           309     想像               25
新内容主義           64     層的構造体           163
新聞記事の構造         8     
心理学的学習指導過程の              
基本原理           164     
                      代行経験             53
                      題材              215

(6)                                                     356

大衆伝達の機能        103     適用の原則           336
体制化した思想         49     伝達              316
単位説             93     伝達の機能           103
単元             219     伝達の内容機構         317
単元構成           233     
単元構成表          234        
単元の学習目標      226,227     
単元の学習内容        230     統合の原理           186
単元の機構          221     読解活動の機能         278
単元の機構図         223     読解の機構           277
単元の構成表         224     読解の機能           277
単元の全体構造        224     読解の指導過程         160
単元の指導過程    144,159,235     
単元法            155        
単語法            153     
段落の機能           11     内在的世界           309
単元の学習指導案       241     内面的な欲求         33,180
単元の学習指導過程の編成   237     内容区分             86
                      内容主義の国語教育      43,66
                     内容主義の指導法         79
                      内容的価値           181
知識や教養を増す機能     104     内容的接近           290
知識情報を求めるために          
読む能力           286        
茶表紙本           201     
抽象的世界の認識        57     二元観              42
注入的教授過程        155     二次の読み           163
                      ニュースの機能          12
                     入門期の指導法         150
                      人間形成の契機         107
通 読            164     人間形成の機能         204
通読、精読,味読       163     人間形成の基本原理       181
                      人間形成の原埋          15
                     人間性              68
                      人間性の開発           22
提示機能            52     人間像              68
手紙を書く          322     認識活動           57,169
適用              28     認識過程          168,170

(7)                                                     355

認識論的学習指導過程の           文型指導            348
基本原理           168     文章を書く技能の練習      195
                      文章形態             13
                     文章構造             13
                      文章の機能            10
能力形成の機能        208     文章法             154
能力的形式的価値        33     文章の成立           310
能力表           96,116     文の成立            310
能力養成の機能        246     文法              134
                      文法教育の基礎         348
                     文法の学習指導         345
                      文法の学習指導の原則      346
話し手と聞き手        259     文脈              165
話す聞く言語活動の目標     72     文脈の原則           335
話すことの技能・態度の          
発達段階表          120        
ハタタコ読本         200     
発音法            151     
ハナハト読本         201     味読              163
場面             261     みんないい子読本        202
反映的存在           54     
反価値             16        
反複の原則          336     
                      無声化             131
                    
                         
鼻音化            131     
比較の原則          336     目的               27
表現機能            51     目的性              34
表現対象の言語化        50     目的の原理           182
表現内容           309     目標設定の理論         126
標準音            131     目標の構造            72
                      文字              151
                     物語の機能            13
                      問題単元          213,219
文学的綴り方         313     
文化的機能           45        
物質的生産           23     
文型             348     有声化             130

(8)                                                     354
                     話題・題材選択の条件      108
                      話題・題材選定の十ヵ条      76
要点を読みとる能力      124     話題・題材に対する関心興味   111
「読方」の教授過程      137     話題・題材の本質        105
読む学習活動の機構      275     話題単元        214,218,219
読むことの技能態度の            話題発達上の特色        112
発達段階表          121     
読むことの一般的指導過程   145     
読むことの技能の練習     196     
読むことと書くことの相関   338     
読むことの指導過程と教材   253     
読むことの機構        273     
                     
                    
                     
理性的認識           57     
倫理的価値           16     
                     
                    
                     
類推の原理          336     
                     
                    
練習             193     
練習の機会          196     
練習の内容          195     
練習の方法の原理       194     
                     
                    

論理的価値16               

   

話題             259     
話題・主題の発達段階     112     
話題・題材          105     
話題・題材の選択       108     



<著者略歴>  中 沢 政 雄
  明治40年群馬県に生まれる
  小学校,青年学校,商業学校,中学校,高等学校
  教員を歴任 現在東京都教育委員会指導主事、そ
  の間,国立国語研究所地方調査員、文部省小、
  中、高校学習指導要領、学習指導書等の編集委員
  となる。
  <著書>「これからの同語教育(三省堂)「小学
  校学習指導要領の展開 国語科編(輿水実共著)」
  (明治図書)その他



機能的国語教育
一理論とその展開−         ¥880
   著 者 中 沢 政 雄 
   発行者 藤 原 政 雄
   印刷所 松沢印刷株式会社
   発行所 明治図書出版株式会社

     東京都中央区入舟町3−3
     振替 151318 TEL(551)8266
                        1962年10月初版発行