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         増補版



       完全習得をめざす

       読解指導の展開


            中沢政雄 著





             国語教育科学研究所






     は し が き


 この本は、書名が示すように、完全習得をめざす読解指導展開の理論と方法について、私見を述べたものである。

完全習得学習を展開するためには、

 @ 学習目標として、どの児童もここまで到達させるという、科学的に分析された目標と、その目標に到達したか

  どうかを判断する基準、いわゆる評価基準を、貝休的・行動的に記述し設定する。

 C 学習内容として、どの児童にも完全に習得させる基本的技能・基礎的技能を設定する。

 C 学習方法として、どの児童にも処理できる、基本的技能を習得するための基本的学習活動を組織する。

 C 学習評価として、学習活動ごとに、その結果について自己評価し、その実状を自覚するための評価法を明らか

  にする。

 D 学習調節として、学習結果の状況に応じて、どの児童も学習調節をし学習目標が達成できるようにする。

 E これらの基本的事項をシステム化した、評価・調節過程を内蔵する学習指導過程を編成する。

などについての総合的なシステマティックな研究が必要である。

 わたしどもは、これらの事項について、すでに二十年来、国語教育科学研究会の同志とともに、順次実験研究を重

ねてきた。その研究の成果については、最近のものは、「実践国語科教育工学入門(明治図書刊)」 「新国語科の
よい授業モデル (明治図書刊)」などによって、その全貌を明らかにして世に問うた。

 こうした永年の研究の上に立って、一昨年からは、「完全習得をめざす機能的国語学習の理論と実践」 の研究に
着手し、すべての児童が完全習得を可能にするための研究の深化と実践化を図ってきた。

 それは、実践的には、すべての児童が学習目標を自覚し、学習方法を考え、学習技術を駆使して、主体的・積極的

に学習を進め、学習の結果は、自己評価・自己調節して、学習目標に到達することができるようになる
ことを意図している。

要するに、この研究は、困難ではあるが、教師ならだれしも願ってやまない完全習得学習への道づけである。こん

な考えで、こんな学習指導過程をたどって、こんな方法でやれば、いちおうだれでも指導できるという道の一つを開

発したものである。おおかたのご批判ご指導を仰ぎたい。

ところで、ここに収載した各論は、「国語教育科学」 「国語情報」等に膏いたものや講演の記録である。したがっ

て、それぞれ独立した体をなしていたり、重複する部分や文体を異にするものがあったりするが、すべてそのままに

した。お許しいただきたい。

なお、この本をまとめるに当たって、固科研会員の小野寺櫓希子・斎藤文・立尾保子・水田清子のみなさんからは、

貴重な授業記録をいただいた。また、堀口由美さん・斎藤洋子さんには、原稿の整理・浄書などめんどうな仕事を引

き受けていただいた。あわせ記してお礼を申し上げたい。

 終わりに、この木もまた、わたしどもの研究を温かく見守っていてくださる輿水実先生に捧げます。

  昭和五十七年五月九日  母の日に 中沢政雄



増補に当たって

 再版を機に、文学作品の指導例を増補し、研究者の要望にこたえることにした。指導例はいずれも国科研の会員

青木勉・長谷川恵美子・藤井英子・弓家靖絵のみなさんからいただいた貴重な授業記録である。厚くお礼を申し上げ
たい。


  目次


T 完全習得をめざす読解指導の構想

は し が き


T 完全習得をめざす読解指導の構想

  一 完全習得学習とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

  二 完全習得をめざす読解指導のシステム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

   1 到達目標・到達基準としての行動目標の設定  完全習得をめざす

    学習評価と学習調節 3 完全習得をめざす学習指導過程の編成

U 完全習得をめざす学習目標はどのように設定するか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

  一 到達目標・到達基準は行動日標として記述する 

  二 行動目標はどんな性格をもっているか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

     1 行動目標のシステムと学習者 2 行動目標と学習のシステム化

     3 行動目標と学習活動の精選 4 行動目標と学習法の学習

     5 行動目標と学習評価・学習調節

  三 行動目標はどのようにして成立したか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

  四 行動目標はどのように設定するか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

     1学習単位の設定と目標分析 2 学習目標細目分類表の作成

     3 行動目標設定の手続きとそのシステム 4 行動目標の設定

     5 行動目標の記述の仕方V完全習得をめざす学習評価はどのように行うか

V 完全習得を目指す学習評価はどのように行うか

  一 学習評価研究の新しい方向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
  二 診断的評価の考え方と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

    1診断的評価とは何か 2 診断的評価では何を評価するか

    3診断的評価はどのように行うか 4 診断的評価はどのように活用するか
  三 形成的評価の考え方と方法

    1形成的評価とは何か 2 形成的評価では何を評価するか

    3形成的評価の方法

W 完全習得をめざす学習調節はどのように行うか 
  一 完全習得をめざす自己評価・自己調節 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73

  二 学習調節のシステムはどのように組み立てられているか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74

    1学習調節とは何か 2 学習制御系 3 学習の評価・調節過程は
    どのように編成するか

  三 学習の調節条件設定の原則は何か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81

  四 学習の調節条件を設定する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84

    1学習に不適応の条件を知る 2 学習の調節条件を設定する

  五 学習調節を行う ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88

  六 学習に成功したものの学習指導をどうするか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89

X 完全習得をめざす授業設計はどのように行うか

   単元のシステム設計をする ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93

   教材の機能・システムを研究する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96

   学習目標の分析をする―その手順・方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101

   単元展開のシステムを編成する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104
    目標細目分類表

  五 本時の授業を設計する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107

Y 完全習得学習の心理

  一 完全習得学習とそのシステム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112

  二 完全習得学習過程のシステムとその心理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113

     1主体的学習2目標の自覚 3 学習課題設定の心理

     4 学習課題の心理と論理 5 学習方法設定の心理6学習

     行動の心理 7 学習評価の心理 8 学習調節の心理

Z 完全習得をめざす読解指導の実際

  一 「事柄の大体」を正しく理解する完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135

  教材「はやいのりもの」(一年)

  二 「要点と細部の関係」を理解する完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141

  教材「人間とチンパンジー」(三年)

  三 「事実と感想・意見とを読み分ける」完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155

  教材「波にたわむれる員」(六年)

  四 「要旨」を正確に理解する完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・164

  教材「魚の感覚」(五年)

  五 「場面の様子や気持ちを想像しながら読む」完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・175

  教材「赤いろうそく」(二年)

  六 「場面の様子や心情を想像しながら読む」完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・189

  教材「太郎こおろぎ」(三年)

  七 「場面の様子や心情を想像しながら読む」完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・199

  教材「ごんぎつね」(四年)

   「心理・心情を想像しながら読む」完全習得学習の展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・207

  教材「最後の授業」(六年)



 I  完全習得をめざす読解指導の構想                          P1

 

     完全習得学習とは何か



 完全学習(Masterly Leraninng)の理論は、アメリカ・シカゴ大学教育学部のブルーム教授(Benjamin S Bloom)
が提唱した学習理論である。
これまでにブルーム教授の提唱された教育理論には、三つの要な柱がある。その一つは、目標分類(目標分類学)
である。教育において達成されるべき目標を分類して、認知的領域、情意的領域、運動技能的領域の三領域とした。

その上でそれぞれの領域において、最終的な目標(国語科で実践的に言えば、単元の目標−知識や情報や思想などを
習得したり、感覚や感情や意志などを啓培したり、それに必要な技能を養成したりする)を達成すべき過程で、順次
習得されなければならない目標(国語科では、国科研流に言えば、直観読みの過程で学習する目標・分析読みの過程
で学習する目標・体制読みの過程で学習する目標などに当たる)の系列を明らかにしている。
その二つは、評価理論の体系化である。
学習を始める前に行う診断的評価(従来の学習前の評価)、学習の過程で
行う形成的評価(従来の学習中の評価)、学習が一応終わったあとで行う総合的評価(従来の学習後の評価)をシス
テム化して、評価理論を体系化した。
その三つは、ここで取り上げた完全学習の理論である。この三つのブルーム理論は、完全学習を成り立たせるため


の基本的な理論で、学習における到達目標・到達基準を設定するための目標分類理論と、学習の結果の評価,調節を     P2
行うための評価理論の体系化を抜きにしては、完全学習理論は成立しない。

 ところで、完全学習というのは、特に研究され考慮されて設定された、客観性をもつ学習の到達目標に対し、特定
の子どもだけでなくどの児童も究極において、完全にその目標に到達させる、学習に成功させる、学習事項を習得さ
せるというもので、それが、教師の工夫、指導によって可能だという説である。

 本来、児童は、厳密に言えば、一人一人異なった環境に育ち、それぞれ異なった性格・感情、異なった能力・態度
をもっている。したがって、学習の態度も、学習の能力も、学習の方法もまた個性的で、だれ一人同じということが
ない。それにもかかわらず、よく考慮し設定するとは言え、一定の能力を完全に学習させ習得させるというのである
から、それは決して容易なことではない。そのような困難な学習指導にわれわれは今取り組もうとしている。だから
教師は、一人一人の児童の性格・感情・能力・態度などをよく知って、それぞれに応じて、学習指導法を工夫し、学
習の興味・意欲を喚起し、学習の必要性を自覚させ、自主性・机極性を発揮して主体的に学習が行われるようにする。

その上、学習の時間を、全員が学習・習得するのに必要なだけ用意し、さらに、学習指導の方法を適切にする必要が
ある。そうすれば、実験の結異九五パーセントの者が、完全に学習目標(到達目標)に到達することができる。つま
り、学習内容を理解させ習得させることが可能だと、ブルームは主張する。

 これが、いわゆるどの児童も、完全に到達目標に到達させる、つまり、完全習得をめざす完全学習の考え方である。
このような完全習得をめざした国語科の読解指導法−国語科読解の授業展間はどのようにしたらいいかを研究するの
が、われわれに課せられた研究問題である。

二 完全習得をめざす読解学習のシステム



 1到達目標・到達基準としての行動目標の設定                                   P3

 完全習得をめざす授業を計画し設計し指導するためには、まず第一に、何をどこまで学習させ習得させるかという、
児童が学習の結果到達すべき目標、いわゆる到達目標と、そこまで到達できたかどうか、到達度を評価し判断する基
準、いわゆる到達基準とを、明確に設定することが大事である。

到達目標が、児童の能力と比べてあまり高すぎたのでは、全員習得というわけにはいかない。そうかといって低すぎ
たのでは学習に進歩がない。そこで、どんな目標を到達すべきものとして設定したらよいか、また、その到達目標を
どのように記述すれば、到達できたかどうかを、観察し、測定して評価する基準を明確に示すことができるか、それ
が最初に考えなければならない問題である。

 このことについては、わたしどもは、すでに到達目標と到達基準とを明確に示す学習目標として、行動目標を設定
し、その習得状況を観察し測定し評価する基準を中に含めて記述することに成功している。しかも、その行動目標設
定のシステムモデルを編成している。が、前に述べたように、同じ学級の児童でも、学習への興味や関心を異にし、
したがって学習意欲にも高い低いの差がある。さらにそれぞれの能力の働かせ方にも差があり、これまでに学習して
きた学習法の理解・適用にも違いがある。このような児童のすべてにここまで到達させるという目標を設定するので
あるから、そこには、十分な研究と調査と考慮とを加えなければならない。では、どんな手順・どんな方法で、どの
ように到達目標を設定したらよいか、それについては後に述べる。


(1)学習目標の分析


 この到達目標としての行動目標設定の原則は、最終的な学習目標、つまり、単元の学習目標を追求する過程、過程
で順次習得しなければならない目標(行動目標)を分析して系列化するということである。このことを貝体的に考え
てみる。単元の目標は一気に到達できるものではなく、何時聞かの学習を積み重ねた結果、つまり、一歩一歩の目標


を達成しては、順次目標に近づいていって最後に到達するものである。                         P4
 ところで、単元の学習は、読解では教材としての文章・作品を媒介として行われる。したがって、この教材による
学習が完了したときに、単元の学習目標は達成され習得されたことになる。この単元は・カリキュラムの単位である
から、大きなまとまった学習単位である。この大きな学習単位を、何時聞かに分けて学習できるように区分し、分節
してより小さな学習単位を設定する。この学習単位ごとに到達目標(行動目標)を設定する。こうして立てた到達目
標を順次達成して最柊の目標・単元の目標に到達する。このように単元の分節としての学習単位ごとに立てる行動目
標を系列化したものが、「終極としての単元の目標を分析して系統化した目標」で、いわゆる「学習目標細目分類表」
である。次に目標分析の手順を簡単に述べてみる。

 @教材(文章・作品)の「構造過程」表を作成する。

 A単元の学習目標(最終的な目標)を設定する。

 B単元の学習方法−単元の目標を追求する過程(目標追求のシステム)

   ア直観過程−文章全体を読んで概略(要旨・主題)を理解する「直観読み」の過程・・・(学習単位全文)

   イ分析過程−文章を段落や場面に区切って理解する「分析読み」の過程・・・・・・・(学習単位段落・場面
   ウ体制過程−部分的に理解した段落や場面を体制的に理解する「体制読み」の過程・・・(学習単位全文)

 C単元の学習内容−学習する基本的態度・基本的技能・基礎的技能(言語事項)

 上の手順に従って読解の過程に応じた学習単位を設定する。この分節した学習単位ごとに、そこで学習する技能を
考え合わせて、行動目標を設定する。それは、「学習範囲」+「学習すべき基本的技能」+「外部行動化」+「内容
的理解事項」=行動目標ということになる。この行動目標を順次達成することによって最終の学習目標(単元の目標)
に到達することになる。

 このように「学習目標細目分類表」は、単元の学習目標(価値目標)、単元の学習内容(基本的技能・基礎的技能)
単元の学習方法(基本的学習活動)のシステム、つまり、目標・内容・方法の全体のシステムによって規定されるも



のである。このうち、単元の学習内容としての基礎技能(言語事項)は、発音・文字・語い・文法を含んでいる。こ     P5

れらの事項は、具体的に文章や作品に即して設定する。

 
(2)学習目標細目分類表


 前記のような手順方法で作成した学習目標細目分類表のモデルを次に掲げる。

この表に示されているように、縦軸

         
                      学習目標細目分類表モデル

学習目標       単元の目標        学習方法
 学習過程  直感過程    分析過程   体制過程
 学習活動  直感読み     分析読み  体制読み
 学習範囲  全文  段落1  段落2  段落3  段落4  段落5  全文
 時間  2  1 1  1   1 1 
 行動目標  目標・基準  ←  ←    ←   ←  ←    ←
学習内容  態度 (本質的態度)(方法的態度)   ○  ○  ○   ○ ○  ○   ○ 
技能   (基本的技能1)      ○  ○   ○ ○  ○   ○ 
(基本的技能2)     ○  ○   ○ ○  ○   ○ 
(基本的技能3)      ○  ○   ○ ○  ○   ○ 
 言語事項  (文字)    ○  ○  ○  ○  ○  ○   ○ 
( 語い)     ○  ○  ○  ○   ○ 
(文法)      ○  ○  ○  ○  ○   ○ 


に、学習目標と学習内容(態度・技能・言語事項)をとり、横軸に学習方法(学習活動)をとってマトリクスを作る。    P6

学習内容に示す基本的技能・基礎的技能は、到達基準としてできるだけ貝体的に記述する。学習方法の中には、学習
過程・学習活動・学習単位・学習時問を、教材に即して設定する。なお、学習時間は学習単位を学習するのに必要な
時間を記入する。完全習得をめざすのであるから、十分に時間をとる必要がある。これまでよく行われているような
学習活動が完全に終わらないのに、次の学習に移るようなことは許されない。

 こうして、それぞれの時間の到達目標・到達基準が行動目標として貝体的に設定されると、次にそれをめがけて学
習活動が展開される。

  2完全習得をめざす学習評価と学習調節


 完全習得をめざして、学習の終わりにここまで到達させるという到達目標と到達基準が、行動目標として具体的に
設定されると、その行動目標をめがけて学習活動を開始する。が、そこで重要なことは、学習に先立って児童は学習
にどれだけの興味をもち、どれだけ学習意欲が喚起されているのか、行動日標を追求するのに必要な学習能力をどれ
だけもっているのかなどを知る必要がある。それらがわからないと適切な生産的な学習指導が行われない。また、行
動目標をめがけて学習活動を行うのであるが、その結果どれだけ行動目標に接近できたか、あるいは到達できたか、
学習の結果の状況を明らかにする。さらに、学習の結果行動目標に到達できなかった場合には、学習の結果の状況に
応じて、学習法を工夫させ目標に到達できるようにする。
 完全習得学習で、最も重要なことは、この学習に先立って行う診断的評価と、学習活動ごとに学習中に行う形成的
評価と、その結果にもとづいて行う学習の調節、フィードバックと学習の展開とである。この学習結果の評価と調節
のくり返しによって、しだいに学習目標に接近し、やがて、すべての児童が完全に行動目標に到達することが可能だ
からである。



(1)診断的評価                                                 P7               

 
 この診断的評価と形成的評価と、評価の結果にもとづく学習調節については数年前から研究を続けてきた。これま
でも診断的評価を行って児童の学習能力の実態を把握して、そこから学習を出発させる授業がなかったわけではない。

が、到達目標が明確でなかったために、目標に対する児童の能力の現在の位置づけがあいまいであった。完全習得学
習における診断的評価は、到達目標に対して、学習能力の位置づけを明碓にしなければならない。

 たとえば、「文章の叙述に即して正しく内容を理解する技能」の指導をする場合、二年生では、どの程度の理解が
できればいいのか、その到達目標を明らかにした上で、その技能の現状を評価して、目標への位置づけをする必要が
ある。二年生で「叙述に即して正しく内容を読みとる」というのは、「書いてある通りに読みとる」、自分の経験や
既有の知識によって読んで、叙述されていないことまでもあげるような読みをしないことである。読み加えや読み落
としをしないように読むことである。従来行われていた診断的評価はこのような考慮が足りなかった。

 いずれにしても、学習前の能力の諸状況が明らかになっていなければ、適切な学習指導も行われないし、学習の結
果どれだけ進歩したのかを明確にすることもできない。


(2)形成的評価と評価基準


 もちろん、この形成的評価は、原則としては、行動目標に対して行うものであるが、学習の終わりに到達すべき行
動目標への過程に、さらに習得すべき下位行動目標を設定した場合には、その行動目標についても評価する。しかし、
その時間の最終到達目標への過程を細分化して、学習活動を細切れにすることは、国語科の学習としては必ずしも適
切とは言えない。
 それは、表現の理解には、段階的・分析的理解を越えた由観的理解が成立するからである。文章の中に一文や二文
意味のよく理解できない文があっても、それを越えて、文章全体の意味は直観的に理解することができるからである。


 また、学習に当たっては、基本的技能を学習するための基本的活動を設定する必要があるからである。学習活動も     P8
また細分化しないほうがいいからである。

 @到達基準・評価基準の設定

 次に問題になるのは、到達目標に到達できたかどうかを判断する到達基準・評価基準の立て方である。
 その一つは、そこで学習する技能について、ここまで到達させるというように、技能自体について設定する場合で
ある。たとえば、二年の言語事項の中に「文や文章の巾における指示語の役割と使い方に気づくこと」というのがあ
る。これを「これ・それの指示している事柄に気づくこと」「こんな・そんなの指示する状況(様態)に気づくこと」
というように、技能自体の記述の中に到達基準を明経に立てておくのがそれである。それはそのまま評価基準になる。

この方法は、抽象的に高いレベルで記述してある技能を分析して、細分化したり、(下位目標を立てたり)貝体化し
たりして示す方法である。
 他の一つは、その技能が正しく働けば、当然このような理解が得られるはずだと考えられる内容(埋解事項)を、
具体的に記述し、それを到達基準とし、したがって評価基準とする場合である。これは、その技能が正当に働けば、
当然それに応じた内部行動としての理解が成り立つ。その内部に成り立った、他者にはうかがい知ることのできない
理解の内容を、話すなり、書くなり、図示するなり、表解するなりして、外部に示したものである。

 このように外部に表した(外部行動化した)話す・書くなどの言語行動、図示し、絵にかくなどの絵画行動(絵画
行動化)は、それらを直接観察したり測定したりして、その内部行動・理解した内容の状況を、これこれだと想定す
ることができる。であるから、この外部行動化された内容的事項を到達基準とし・評価基準とすることが可能になる。

この考え方は、いわゆる行動主義理論・行動学の助けによるもので、行動目標論の基礎となっている望冊である。

 A到達基準・評価基準の提示

 ところで、実際に学習活動を行って、その結果を評価する場合に、評価基準をどのように提示するかという問題と
それをどのように理解させるかという問題がある。
 



 一つは、教師が提示し、それにもとづいて児童が自己評価する場合である。この場合には、評価基準に対する理解     P9
を十分に与える必要がある。他の一つは、児童たちが、学習の結果について話し合いながら評価基準を設定する場合
である。その話し合いによって設定された評価基準は、児童たちがすでによく理解しているから、それにもとづいて
自己評価することができる。この基準の提示の仕方にはいろいろな方法があるが後に述べる。

 (3)学習調節

 評価が行われると、その結果の状況・情報を教師も児童も知ることができる。これがいわゆる学習の結果の知識
(KR)で、次の学習・調節学習の動機を新たに喚起することになる。これらについても後に詳細に述べる。

 いずれにしても、重要なのは、さまざまな違いをもっている評価後の処理である。@完全に学習に成功したもの、
A学習につまづきがあって失敗したもの。この中にも段階がある。B学習が成り立たなかったものなどがあるが、こ
れらをどう類別化し、どう指導するかが、完全習得学習の研究の山になる。

 こうして、学習に成功したものは、さらに学習を進める。学習につまづいたものは、それぞれに応じた学習調節
(フィードバック)を行う。その場合、どのように調節条件を設定し、どのように調節学習を行うかがまた、むずか
しい問題である。これらについても後に詳説する。


 3完全習得をめざす学習指導過程の編成

 
 完全習得をめざす授業は、当然完全習得を可能にする請条件を備えた学習指導過程を編成し、それによって指導し
なければならない。それには、学習指導過程自体が、完全習得学習の鍵である学習制御系――学習のコントロールシ
ステム(Control System)を内蔵している必要がある。

 このことについて、わたしどもはすでに、学習の評価理論・調節理論にもとづいて、綿密な計画と工夫と実験とに


よって、学習制御系を導入した学習指導過程モデルを編成した。それは、学習指導過程の中に、その一過程として、     P10   
評価・調節過程を取り入れた、内蔵したもので、次のように編成されている。
 @目標過程−学習課題を設定し、学習目標を碓定する過程

 A方法過程−目標追求の計画・方法を工夫し決定する過程

 B学習過程−学習活動を展間し能力を形成する過程−能力過程

  ァ 直観過程−直観読みの過程イ分析過程−分析読みの過程り体制過程−体制読みの過程

 C評価・調節過程−学習の結果を評価し、学習調節を行う過程

 D獲得過程−学習目標に到達し獲得する過程

 要するに、完全習得をめざす読解学習は、@到達目標を細密に科学的に設定する。A「学習−評価−調節」という
学習のコントロールシステムに従ってくり返し学習する。B完全習得を可能にする学習指導過程に従って学習する、
というシステムによって可能なものになる。

 こうして、いわゆる優秀な児童たちだけでなく、すべての児童が、それぞれ、@どこまで、A何を、Bどんな方法
で、Cどのように学習するかを自覚し、主休的に学習を進め、どの児童も所定の学習目標に到達する。教師は、その
ため、児童の自己学習・共同学習・教師の指導・教授を適切にシステム化し・その指導法を工夫し、十分に時間をか
け、すべての児童が、学習目標に到達できるように努力するところに、完全習得学習は成り立つものである。


 U 完全習得をめざす学習目標はどのように設定するか                    P11

     
   一 到達目標・到達基準は行動日標として記述する


 国語科の読解学習における到達目標は、その時間の学習の終わりには、ここまで学習させたい、ここまで到達させ
たい、あるいは、これだけは習得させたいという内容、到達度を示している。従来、その時間にここまで学習習得さ
せるという限界が、目標として明碓に示されなかったから、自然学習指導もあいまいになり、教師も児童も、学習の
結果どこまで進歩したのかよくわからなかった。また、たとえ学習に成功したとしても、目標を達成したかどうか、
目標に到達したかどうかを判断する基準も、明確には示されなかったから、これも判然としなかった。
 しかし、学習目標を到達すべき目標として設定する以上、目標に到達できたかどうかを評価し判断する基準・到達
基準をも明確に示さなければならない。では、到達域準・到達目標は、どのように設定し、どのように記述したらい
いか、貝体的に考えてみよう。

 ここに「サロマ湖の変化」という読解教材がある。
「北海道のサロマ湖で、海への新しい水路を作ったために、潮にも、付近の部落にも大きな変化が起こった」という
情報文である。この情報の情報事項(要点)を押さえて、その概略を理解する学習つまり、段落の要点を押さえて文
章を要約する学習を指導する場合を例にとってみる。


 情報の概略を読みとって書く学習指導過程                                     P12-13

  1学習目標

 「サロマ湖の変化」から、次の情報事項(要点)を含めた情報概略を読みとって、四百字ぐらいの文章にまとめて
書くことができる。

 @昭和四年のころ。 Aサロマ湖は、北海道のオホーツク海に而した海岸にある。 Bサロマ湖と海との間に、
 新しい水路を作った。
 C満ち潮、引き潮による海水の出入が自由になって、きたない水がなくなった。 D湖
 の水の成分が海水に近くなった。
 E湖底のまっ異ないやなにおいのするどろがなくなった。 Fにしんが自由
 に泳ぎ回り、卯を産むようになり、いろいろな魚やあざらしまで泳ぎ回るようになった。
 G古い水路の近くの
 部落の人が減って、新しい水路のそばに町ができ始めた。




          2学習指導過程

学習指導過程
学習過程  学習活動  児童・教師 
1 情報表示

2 目標の確認


3 目標追求
  の方法の
  決定
  @範囲
  A内容
  B方法

4 目標追求
  @収集
  

  A発表
  B整理
  C組織



5 評価
  @観点
  A基準
  B方法

6 調節
  @条件
  A調節



7 目標の達成  ・獲得
  @組織
  A方法
  B叙述





8 学習成果の  検討
  @見本提示
  A観点基準
  B評価
  C確認




9 まとめ
  終了

  
1 「サロマ湖の変化」を提示する。

2 「どんな情報を伝えているか、その概略を読みとって書く」
   ことを決める。

3 学習方法を話し合って次のように決める
  @全文を読むこと
  A情報の概略は、いつ、どこで、どうして、どうなった、
   を含んでいること。
  B情報事項にサイドラインを引くこと。
  C情報の概略をまとめて書くこと。

4 全文を黙読する
  @段落ごとにまとめながら読む
  A情報事項にサイドラインを引く

5 収集した情報事項を発表
  @いつごろ・・・・・一事項
  Aどこで・・・・・・一事項
  Bどうした・・・・・一事項
  Cどうなった・・・・五事項

6 収集した情報事項について自己評価・グループ評価
  @情報事項の不足
  A情報事項の誤り
  B情報事項の不的確

7 情報事項を選択・修正するために黙読する。
  @調節読みの条件を各自決定。
  A情報事項の選択修正するためサイドラインを引き直す。
  B情報事項を確認、いつ・どこ・どうした・どうなった。
  C情報事項ごとに箇条的にカードに書く(8枚)。。

8 情報事項をまとめて概略を書く。
  @カードをいつ・どこで・どうして・どうなったの順に並
   べて番号をつける。
  A情報事項のまとめ方を話し合って決める。
    ◎1・2・3のカードの情報事項は一文にまとめる。
    ◎ひとつの文と4以下の情報事項を続ける文を考える。
    ◎情報事項をおさえて四百字ぐらいに概略を書く。



9 書いた概略について自己評価、あるいはグループ評価をする
  @評価見本としての概略を提示する。
  A評価の観点を決め評価基準を提示する。
    ◎情報事項が洩れなく入っているか。
    ◎概略の文章構成はいいか。
    ◎情報事項1・2・3のまとめ方はいいか
    ◎情報事項の書き方はいいか。
  B観点に従ってグループ評価をする。
  C評価の結果を確認する。

10 学習のまとめ
1 教材 

2 話し合い
  ・板書

3 話し合い
  ・板書
  ・OHP




4 黙読
  ・段落
  キーセンテンスにチェ  ック   
5 発表
  ・板書組織
  ・OHP



6 評価
  ・観点@AB
  ・基準@ABC


7 調節
  ・ノート
  ・赤線
  ・加える
  ・訂正

8 概略
  @組織(カード)
  A概略
  昭和4年北海道・・
  サロマ湖で・・水路
  を作った・・そのた
  めに・・サロマ湖に
  ・・部落に・・
  変化が起こった。 

9 評価
  @目標に照らしての
   評価
  A児童各自について
   の評価





10 進歩の確認




この学習指導における目標は、この学習の‥最後には、この文章の内容を要約して、そこに示されている情報事項八     P14
っを含めた四百字ぐらいの概略を書くことを求めている。この学習で到達すべき目標をこのように設定し記述したの
である。また、この目標の中には、この目標に到達できたかどうかを判定する基準、いわゆる到達基準をも含んでい
る。それは、情報事項八つを含んでいること、四百字ぐらいの長さに縮約すること、構成された文章であることとい
う条件である。この条件を満たした要約文が書ければ、この時間の学習目標に到達できたと判断していい。その条件
が到達基準であり、評価の基準である。
 このように到達目標・到達基準は、基本的に、行動的に記述する必要がある。そしてめがける目標と、その判断の
基準とが同時に記述されなければならない。このように記述した目標が、行動目標である。

    二 行動目標はどんな性格をもっているか

 1行動目標のシステムと学習者

 前記の行動日標自体についてみると、@一時間の学習の終わりに理解し獲得する「内容的価値としての情報の概略」
と、Aその情報概略を読みとるときに働く「文章を要約して概略を読みとる技能」「読みとった情報事項をまとめて



概略を書く技能」とが、はっきりと具体的に示されている。また、このように目標が貝体的に行動的に記述されてい     P15
るから、それが習得できたかどうかを、たやすく観察したり、測定したりして、評価できるようになっている。
 それとともに、この行動目標は、学習の結果を測定・観察・評価する場合の到達基準をも示している。だから、学
習の各過程での評価基準を設定することも容易である。たとえば、児童が学習の過程、あるいは‥最後に吾いた概略
を記述されたこの目標と照らし合わせてみれば、いつ、どこで、どうして、どうなったというような情報事項の数と、
その情報事項の内容とが、足りないか、余分のものが書いてあるか、あるいは適切でないか、正しく書けているかな
どが明らかになるから、「概略の読みとり」がどの程度成功しっつあるか、「概略を書く技能」がどれだけ学習でき
たかを容易に、観察し評価することができる。
 このように、行動目標は、学習者が、学習の終わりに確実に身につける、理解する内容的価値と技能とを一体的に
具体的に明確に示している。しかも、この行動目標は、学習に当たっては、それをめがける、獲得するための課題と
して設定され、児童の課題意識と置き換えられる。そのために児童の学習意欲がいっそう喚起され、学習態度が確立
される。さらに学習の進歩を容易に自覚することができるから、学習の成功感が得られ、学習の強化が得られ、学習
者としての意識、主体性が碓立される。

 2行動目標と学習のシステム化

 また、いっぽうにおいては、学習目標が前記のように行動日標として、具体的に、行動的に明確に設定されている
から、目標の追求獲得の過程が、科学的に分析されて容易にシステム化される。たとえば、前記のように、情報の概
略を読みとる場合の行動目標の内容は、いつ・どこで・どうして・どうなったという情報事項を押さえ、それをまと
めて概略としたものになっている。つまり、各段落の情報事項(要点)を含めて概略は組み立てられている。と同時
に、要点を押さえて文章を要約する技能が裏づけられている。そこで、そのような行動目標を獲得する過程を、次の
ように分析することができる。



 @情報事項にサイドラインを引きながら全文を読む。                                P16
 A読みとった情報事項を評価し、取捨選択、修正する。
 H収集した情報事項を組織する。
 C収集した情報事項をまとめて概略を書く。
 この分析した四つの過程をシステム化すると、概略を読みとって書く学習過程がシステム化される。このシステム
の過程をたどって学習を進めれば、碓実に目標に到達することができる。こうして、学習過程は、明確に、段階的に、
科学的に編成される。
 
 3行動目標と学習活動の精選

 学習活動を科学的に、システマティナクに編成するということは、むだな学習活動を省いて、ほんとうに目標を追
求し推得するのに必要で、欠くことのできない、基本的な学習活動だけを選んで編成することである。こうして、学
習が合理化されると、学習活動が精選されて、授業がはっきりしたものになる。これまで、一時間の授業が非常にあ
いまいで、何をめがけて、どんな学習活動をしたのか、また、児童は何を学習したのかはっきりしない授業が多かっ
た。が、行動目標を立てて、それを追求することによって、授業が明確になり、児童も何をめがけてどんな学習をし、
どんな結果を得ようとするかがはっきりする。こんな点でも授業改造が行われる。

 4行動目標と学習法の学習

 こうして、学習過程とそれぞれの過程における学習活動とが、明確にシステム化されると、各過程での学習技術も
明確になる。たとえば、概略を読みとる過程が、前記のようにシステム化されると、それぞれの過程で、サイドライ
ンを引く技術、情報事項をカードに書き出す技術、収集した情報事項を評価し学習を調節する技術、惜報事項を選択
・修正する技術、情報事項をまとめて書く技術、学習過程をたどる技術などが学習され開発される。
 



 これらの科学的に設定された学習技術が、前記の学習過程に位輿つけられ、システム化される。このように科学的に    P17
編成された学習過程、科学的に考えられた学習技術が、システム化されると、児童はこの中で、学習過程と学習技術の
組織、つまり、学習法の学習ができるようになる。

 5行動目標と学習評価・学習調節
 
 学習目標が、行動的に具体的に設定されると、そこに到達する過程で行われる学習活動のめがけるものが、具体的
に決められる。学習活動の一つ一つが、みなここまで到達する、このことができるようになるという目標を段階的に
決めることができるようになる。そこで、学習活動を行うごとに、その日標にどれだけ近づいたか、どれだけのこと
が学習できたかを、教師も児童も確実に観察し測定することができる。
 たとえば、情報概略の中に含める情報事項を収集するために、情報事項にサイドラインを引きながら、全文を読む
学習活動をする。その結果を評価する場合、次の観点・基準に照らして評価する。この観点は、行動目標の中に記述
されている「情報事項(要点)を読みとる技能」「概略を書く技能」であり、基準は、行動目標の中に記述されてい
る「内容事項」、つまり、そこにあげられている情報事項である。また、その情報事項を含めて書いた四百字ぐらい
の長さの要約文である。ここでは、情紬事項を読みとる学習活動であるから
 @評価の観点――情報事項(要点)を読みとる技能
 A評価の基準――ア いつ……情報事項一つ イ どこで・・・・情報事項一つ ウ どうした……情報事項一つ
         エ どうなった・・・情報事項五つ
 上の評価の観点(技能)と評価の基準に照らして、サイドラインを引いた情報事項を観察して、児童自身でチェッ
クする。この観察・評価の結果によって、各自情報事項の正否・多少・適否などを明らかにする。そこで、前にもど
って、再び全文を読んで情報事項の読みとりの修正をするのであるが、そのとき、児童はどんな読み方をするか、調
節読みの条件を決める。その調節読みの条件にしたがって読む。この場合は、情報事項を補正し修正するに必要な部


分を選んで読むことになる。                                            P18
 このように、学習目標が、貝体的に客観的に記述されているから、評価の観点・基準も、これを客観的に設定する
ことができ、それと児童の学習結果とを照合してみれば、容易に客観的に評価することができる。この評価の結果に
もとづいて、学習の調節条件を定め、それによって調節読みをする。いわゆる学習調節(学習制御・フィードバック)
である。この評価・調節条件の設定、調節読みの過程が、フィードバック回路、いわゆる学習制御系(学習のコント
ロールシステム)である。この学習制御系を学習過程の中に容易に組み入れることができる。
 このような学習調節の回路(学習制御系)をもつ学習過程こそ、主体性を確立し、ひとりひとりを生かし、伸ばし、
すべての児童が学習目標に到達できる学習過程ということができるのである。

     三 行動目標はどのようにして成立したか

 1行動とは何か

 行動日標は、学習の到達目標を、観察・測定できるように、貝体的に行動的に記述したものであることをしばしば
述べてきた。が、行動とは何であろうか、以下しばらく考察を加えてみることにする。

 (1)行動の概念

 行動というのは、命題的に言うと、「人間(生休)が能動的に起こす反応や変化が行動である」ということになる。
たとえば、強い光を受けると、ひとみが小さくなる。暗い所で、目に入る光が弱いとひとみが大きくなる。目に異物
が入ろうとすると、まぶたを閉じる。食べる物を見ると、唾液が出る。急に冷たい空気に触れると、とりはだが立つ。
悲しい思いをすると涙が出る。このように刺激を受けると、反射的にひとみが大きくなったり、小さくなったりする。


                                                         P19
まぶたを閉じる。つばが出る。とりはだが立つ。涙が出る。このような刺激に対する反応が行動である。
 また、算数の問題を解く。そのとき、あれこれと筋道を立てて考える。いわゆる思考活動をする。本を読んで、知
識や情報を得るときにも心が働く。心的活動をする。外へ出て、「桜の花がきれいに咲いている」と思う。認知する。
庭にいるありを見つけて、「ありは黒い小さな虫だ」と思う。ところが、あかありを見つけて、「ありは黒いのも、
赤いのもいる」と改めて認知する。この場合、「ありは黒い」という得られた知識・認識が、「ありは黒いのも赤い
のもいる」というように、認識の変化をきたした。このような刺激に対する心的な反応や変化もまた行動である。
 いわゆる考える・認識する・理解する・感じる・思うというような感性的な、心的な働きはすべて行動である。

 (2)あらわな行勤とあらわでない行動

 ここまで考えてくると、「行動」に二つの異なったものがあることに気づく。一つは、筋が変化したこと(光の刺
激によって、ひとみが変化するなど)や、腺の変化したこと(食物の刺激によって唾液が出るなど。腺分泌が行われ
るなど)など、直接観察したり測定したりすることができるものである。(1)の初めのはうにあげた行動がこれに属す
る。このように、刺激に対する反応が、直接観察し測定できる行動を「あらわな行動」と呼んでいる。
 他の一つは、算数の問題を解くときに、どのように考えを進めて問題を解いたか、その考える働きは、外から観察
し測定することはできない、そういう種類のものである。つまり、問題を解決する思考の行動は、それがどのような
ものであったかは、全く外部からはうかがい知ることはできない。また、文章を読んで、段落の要点を読みとる場合、
要点を読みとる技能がどのように働いて、どのような要点を理解したかを、直接観察することはできない。あるいは、
話を聞いて、どのように聞きとったか、また、その話によってどんなことを理解したか、どんなことを感じたか、そ
れらも直接に観察したり測定したりすることはできない。このように、直接観察したり測定したりすることのできな
い行動を「あらわでない行動」と呼んでいる。


 (3)生得的な行動と習得的な行動                                         P20

 行動を、あらわな行動(外部行動)と、あらわでない行動(内部行動)とに分けて考えると、また、そこに二つの
類別があることが分かる。一つは、ひとみの反射、唾液の分泌、鳥肌が立つというような行動で、生まれてから経験
を積まなくても生ずる行動である。このような行動は、生まれながらにもっている反射的・本能的な行動である。
この類の行動を「生得的行動」と呼んでいる。
 他の一つは、お早ようとことばをかけられて、お早ようとあいさつを返す。百円持って行って、四十円使ったが、
まだ六十円残っていると判断する。算数の文章題を解く。文章を読んで概略をつかむというような行動である。これ
らの行動は、人間が生まれてから経験したり、学習したりして得た行動である。このような行動を「習得的行動」と
呼んでいる。
 この習得的行動の中には、ことばによって行動化されるものがある。それが「言語行動」である。言語によって形
成される行動である。この習得的行動を得る行動を、普通に「学習行動」と呼んでいる。

 2内部行動の外部行動化

 学習の結果、行動が変容される。が、変容された行動には、「あらわな行動」と「あらわでない行動」がある。た
とえば、読解で得た知識は、あらわでない行動、内部に形成され、変容された行動であるから、外部からはうかがい
知ることはできない。そこで、その内部行動を、貝体的に、客観的に操作できるような行動として説明し定義づける。
そうすると、それを観察したり、測定したりすることができるようになる。この内部行動を操作的に説明し定義づけ
る過程が、内部行動の外部行動化である。次に内部行動を外部行動化する方法について考察してみる。
 
(1)言語行動化


                                                         P21
 内部に起こった行動を、具体的に客観的に、ことばによって定義づげ、操作可能にする方法が言語行動化である。
たとえば、「百円で一本三十円の鉛筆を二本買った。いくらおつりがくるか。」という問題を解いて答えを得た。し
かし、その解答を得た筋道−−論理過程は、それが内部行動であるから、どのようにして答えを出したかは、全くう
かがい知ることができない。
 そこで、@「百円から三十円引くと七十円残る。七十円からまた三十円引くと四十円残る。だからおつりは四十円
くる。」A「三十円に三十円足すと六十円になる。百円から六十円引くと四十円になる。だから、おつりは四十円く
る。」B「三十円の二倍は、六十円である。百円から六十円引くと四十円になる。おつりは四十円である。」という
ように、問題を解いた筋道−論理過程を、具体的に客観的に話したり、書いたりする。その話しや書いた文章を観察
すれば、どのようにして問題を解いたか、その内部行動を推定することができる。
 また、「北の国では、大雪が降ると、人通りが絶えてしまう。自動車も電車も止まってしまう。このように、大雪
が降ると、交通が止まってしまう。」という段落の要点を読みとる。この場合も、読みとった要点はどのようなもの
であるか、これも内部行動であるから、外部からうかがい知ることはできない。
 そこで、@「北国では大雪が降ると交通が絶える。」A「北国では大雪が降ると、人も自動車も電車も止まってし
まう。」というように、理解した要点―内部行動を話すか、書くかして、言語行動化すれば、どのよう読みとったか、
どんな行動が形成されたかを、具体的に客観的に知ることができる。そこで、具体化され、客観化された言語行動を
観察することによって、要点を読みとる技能がじゅうぶんに働いたかどうかを推定することができる。
 たとえば、@のように、内部行動が形成されたものは、要点を読みとる技能がじゅうぶんに働いたと推定できる。
Aのような内部行動が形成されたものは、それは要点ではないから、要点を読みとる技能が、じゆうぶんに働いてい
なかったことが推定できる。このように、内部行動を言語行動化するには、話して言語行動化する場合と、書いて言
語行動化する場合とがある。
 なお、内部行動を、話したり書いたりして言語行動化する場合には、「何を(変容した行動)」「どのように(貝


体的・客観的に操作可能なように)示すかが問題になる。おもな方法を次にあげてみる。                 P22
 @ 説明する――内部行動はこれこれであると、具体的・客観的に説明する。たとえば、前記の読みとった要点を
  「北国では、大雪が降ると交通がたえる」というように説明したのがそれである。この場合、説明する内容(行
   動)が、貝体的に客観的に、過程的に操作できるように説明されている必要がある。
 A 組み立てる(構成する)――内部行動は、このように組み立てられている。構成されているというように、具
  体的にその構成と、構成の過程(論理)とを説明してみせる。たとえば、段落の要点と細部との関係を理解する
  学習の結果形成された内部行動を組み立てて外部行動化してみる。
                     A人通りが絶える
   @北国では大雪が降ると交票絶える<
                     B自動車も電車も止まる
  上の組み立ては、@が段落の要点、ABが段落の細部である。この@とABとの関係は、抽象と具体の関係にな
  っている。つまり、ABの貝体的な事項を、「交通が絶える」というように抽象化したものが、@の要点である
  ことを示している。
 B 組み換える(構造変換・等価変換)――構造変換というのは、学習対象の構造(たとえば、文章の内容の構造)
  を、学習者が、よく理解した上で、より簡明で、より価値のある構造に変換して、新しい構造を形成する創造的
  学習である。等価変換は、学習対象の内容的価値を、別種の同じ価値に変換して表す、これらも創造的な学習で
  ある。組み換えた構造は、これをその構造がわかるように説明する。あるいは表解する。これを観察して内部行
  動を推定する。
 C 表解する――変容した内部行動を、その状況・構造・過程などを具体的に客観的に表解して示す。
 D 例をあげる――内部行動をそのまま外部行動化して示すのではなくて、内部行動を形成した技能を操作して、
  新たに形成した他の行動を例として示す場合である。たとえば、学習によって理解した原則・法則・論理などを
  適用した事例をあげる。あるいは、内部行動と同等の他の行動をあげる。


 (2)具体行勧化                                                P23

 一般に動作化とか劇化とか言われている方法である。内部に形成された行動を、貝体的な行動に置き換えて示す方
法である。たとえば、前の算数の問題を解いた論理過程、筋道を、鉛筆とお金の模型を使って買物のシミュレーショ
ン、ごっこ遊びをさせる。その買物のシミュレーションを観察して、内部行動・問題解決の筋道を推定することがで
きる。また、「うさぎがぴょんぴょんとはねました」という文を読んでその意味を理解する。が、果たして、どのよ
うに理解したかわからない。そこで、その理解・内部行動を、具体行動化して、「ぴょんぴょんとはねる」動作、行
動をさせ、その状況を観察して、理解のほどを推定することができる。

 (3)記号行勧化

 内部に形成された行動を、記号によって、貝体的・客観的に外部行動化する方法である。読解や聴解によって形成
された内部行動を、いろいろな記号によって外部行動化することも可能である。
 (4)絵画行動化
 形成された内部行動を、絵や図によって、具体的に客観的に外部行動化する方法である。これは、一般によく使わ
れている。読みとった場面の情景、事実の説明、ことばの意味などを、その理解の状況に応じて絵にかいたり、図示
したりして、内部行動を貝体的・客観的な外部行動として示すことができる。このかいた絵や図を観察して、形成さ
れた内部行動を推定することができる。
 以上述べたように、学習の結果変容され形成された内部行動は、話したり・書いたり、絵や図にかいたり、あるい
は、行動や動作に表したり、記号で示したり、表に書き表したり、構造変換したりすることを通して、それをあらわ
な行動にする。つまり、外部行動化することができる。それらの外部行動を、観察したり、測定したりすれば、内部


行動が、どのようなものであるかを推定することができる。このことは、早くから行動学・行動理論が教えていると     P24
ころである。行動目標は、この考え方を基礎理論として成り立っている。

      四 行動目標はどのように設定するか

 1学習単位の設定と目標分析

 単元は年間指導計画−カリキュラムーの「単位」である。何時問かかかって学習が完了する単元の目標は、なるべ
く具体的に行動的に設定するとは言っても、何時間分かの行動日標が、順次達成されて後に獲得される目標であるか
ら、操作性の低いものである。
 そこで、各時間の行動日標を設定する場合には、まず、その包括的・抽象的な単元の学習目標を分析し、分節して
貝体的な操作的な目標を行動目標として設定しなければならない。
 ところで、読解学習では、一般に単元に位置づけられた教材を、何時問かかけて学習する。その場合、学習の指導
計画に従って、学習する教材の範囲を限定する。たとえば、六時間かけて学習する場合、一時間めには、直観的に全
文を読む学習をする。二、三、四時間めには、文章の段落や作品の場面を、学習しやすいようにいくつかに区切って
分析的に学習する。最後には、学習の総まとめとして、全文を体制的に学習する。このように、学習過程に応じて学
習単位を設定すると便利である。直観読みでは、全文を扱うから学習単位は全文、分析読みでは、文章・作品をいく
つかの段落や場面に分節して学習するから、学習単位は段落や場面、体制読みでは、文章・作品全体を扱うから、学
習単位は、全文とする。
 こうして設定した学習単位は、それらを順次学習することによって、単元の目標を達成するものであるから、それ
ぞれ次の事項を内包していなければならない。



 @ 学習範囲―−学習する教材の範囲(全文・段落・場面等)で学習の対象                      P25
 A 学習目標―−その教材の範囲の学習によって到達すべき行動目標
 B 学習内容―−その教材の範囲を学習することによって身につける基本的技能と言語事項
 C 学習方法―−その教材の範囲を学習するための基本的な学習活動
 D 学習時間―−その教材の範囲を学習するのに必要な時間
 E 教材の内容―−その教材の範囲内に含まれている知識・情報・思想・心情等の内容的価値の区分・分節
 つまり、学習単位というのは、それについて、基本的な学習活動を行うごとに、内容的価値を習得し、基本的技能
と言語事項を身につけて、行動目標を達成することができるようなシステムを持っていなければならない。
 上の@の学習範囲というのは、学習の対象となるもので、教材全文とか、数段落とか、ある場面とかいうように教
材区分をする。この教材区分は、Eの内容的価値−知識・情報・思想・心情等−によって区分することはいうまでも
ない。この内容的価値の区分・分節は、教材の形式や学習時間による制限を受けるのが実情である。
 Aの学習目標・到達目標としての行動目標については、後にさらに詳説するが、およそ学習を計画する場合には、
どんな場合でも、学習目標(行動目標)を立てる。学習はつねに目標追求・目標獲得のための学習活動として実施さ
れなければならないからである。以下は、この目標追求のために必要な基本的事項である。
 Bの学習内容は、学習技能で、行動目標を追求し挫得するための技能であり、同時にその学習活動を適してそこで
学習し身につける技能である。したがって、そこに限られた教材範囲内に含まれる内容的価値の組織に働きかけて、
それを理解する技能である。もちろん、それは基本的技能であるが、発音・文字・語い・文法などの言語事項、基礎
的技能も含まれている。この技能の自覚が一般には薄い。もっと重視すべきである。
 Cの学習方法としての学習活動というのは、行動目標を追求し獲得する方法である。この活動を通して技能が働き
内容的価値が身につく。つまり、内部行動が形成され変容されるのである。これが基本的活動である。
 Dの学習時間は、学習単位の大きさを決める重要な条件となる。もちろん、学習単位の本質から言えば、その大き



さは、学習時間に左右されるべきものではない。しかし、現状では、学習を二時間単位でまとめるように仕組まれて     P26
いるから、一時間か二時間ぐらいで学習できる範囲を一学習単位とするほうが何かと便利である。
 以上、@学習教材(内容的価値) A行動目標 B学習内容(技能・言語事項) C学習方法(学習活動) D学
習時間の五つの要素を内包する学習のシステムが学習単位である。

 2学習目標細目分類表の作成

 これまでに考察したことによって、単元の学習目標は、次の手続きを経て、学習単位ごとに行動日標を設定するこ
とができる。(「目標細目分類表」の概念は、ブルームの「教育評価法ハンドブック」による。)
 @ 読解過程を、直観過程・分析過程・体制過程として組織する。
 A 読解過程に応じて、直観的に読む(直観読み)、分析的に読む(分析読み)、体制的に読む(体制読み)の学
  習活動を組織する。
 B 読解過程・読解活動に応じて学習単位を設定し、教材の学習範閲を限定し、内容的価値を分節する。
 C 学習単位に応じた学習活動(直観読み・分析読み・体制読み)と、教材範囲とを考慮して、そこで学習する読
  解技能を分析して配列する。
 D 学習範囲内で学習する言語事項(発音・文字・語い・文法)を選択し配列する。
 E 学習単位内の内容的価値・読解技能・読解活動を考え合わせて行動目標を設定する。
以上の手続きを踏むと、国語科読解の学習目標細目分類表を作成することができる。

               「説明を読む」学習目標細目分分類表(五年)


                                                         P27

学習目標        (単元の目標)               学習方法
学習過程 直感過程 分析過程    体制読み 
学習活動 直感読み 分析読み   体制過程 
学習単位  全文 段落1〜2  段落3〜4 段落5   全文
 時間 1   1  1 2 
行動目標 (行動目標)  (行動目標)  (行動目標)  (行動目標) (行動目標)
学習内容       態度  筋道を立てて内容を理解しようとすること   ○       ○ 
 技能 要旨を正確に理解すること        ○ 
文章の構成を理解すること   ○       ○ 
要点と細部の理解をすること    ○  ○   ○  
語彙を文脈に即して理解すること     ○ ○   ○  
自分の発想で文章を再構成すること          ○ 
 言語事項 段落の構成と段落相互の関係を理解すること     ○ ○   ○ ○ 
語句の範囲を増すこと    ○  ○   
 読める漢字の数を増やすこと ○         
                 


 次に前ページの「学習目標細目分類」のマトリクスの作り方を簡単に説明してみる。                  P28
@ まず、縦軸に「学習目標」「学習内容」をとり、横軸に「学習方法」をとって、目標・内容・方法を要素とする
 学習のシステムを編成する。
A 縦軸の学習目標には、単元の学習目標を設定し、学習内容には、態度・技能・言語事項の欄を設け、それぞれそ
 の単元で学習する基本的態度・基本的技能・発音・文字・語い・文法に関する基礎的事項をそれぞれ配列する。
B 横軸の学習方法には、直観・分析・体制の読解過程を押さえ、それぞれの過程ごとに、酷観読み・分析読み・体
 制読みの学習活動を配列する。次に、学習活動どとに学習する範囲を押さえて学習単位を設定する。全文、あるい
 は何段落かに分ける。学習単位ごとに学習時間を配分する。
C 縦軸の学習内容−態度・技能・言語事項−と、横軸の学習単位−全文・段落−との交わるところに、態度・技能
 ・言語事項を位置づけて、学習指導システムを編成する。
D最後に、学習目標の分析をするために設定した学習単位ごとに、教材範囲内の知識・情報・思想・心情の分節と、
 教材範囲内で学習する技能・言語事項とを考察して、行動目標を設定する。
 こうして、学習目標細目分類表は完成する。

 3行動目標設定の手続きとそのシステム

 行動目標は、どのように設定するかは、これまで述べてきたことで明らかなように、@学習単位(学習範囲)を押
さえ、Cそれを学習するために必要な読解技能を働かせて、H読解活動を行う。その結果C内容的価値が理解され習
得される。それで、その学習単位の学習の目標は達成されることになる。が、学習の結果形成され変容されるべきそ
のような内部行動は、外部からは認められないから、それを話したり書いたり、絵画化したり動作化したりして、外
部行動として示す。それを観察したり、測定したりして、どんな内容的価値が、どのように理解されたかを具体的に
示す。そのような手続きによって行動目標は設定される。つまり、学習の結果、変容され形成されるべき内部行動を、


                                                         P29
外部行動化して、そこまで到達させることを明らかに示したのが行動目標である。
 そこで、設定された行動目標を、要素的に分析してみると、次の四つの要素が取り出される。
 @ 学習する対象の範囲(形成すべき内容的価値を含む)
 A 学習する技能(技能・言語事項)と活動(形成された技能・言語事項)
 B 学習の結果変容され形成された内部行動(理解された内容的価値)
 C 内部行動を外部行動化した記述・絵画・表解・貝体行動(行動日標の内容的事項・内容的価値――評価基準)
 上のBの学習の結果、形成され変容される内部行動というのは、学習単位と、そこで学習される技能とによって規
定される。この形成され変容された内部行動が、行動目標の中核、目標そのものである。この内部行動の内容・内実
について考えてみる。
 一つは、聴解・読解を通して得られる知識や情報である。これが、ブルームの「教育目標分類学(タキソノミー)」
でいう「認知領域(認知面)」に属する目標である。
 二つは、文学の読解・鑑賞などを適して身につく感覚・感情・思想などである。これが、タキソノミーの「情意領
域(情意面)」である。
 これらの二つは、従来価値目標と呼んできたもので、直接人間性の開発伸長に参与するものである。なお学習結果
の「所産」と呼ばれるのもこれである。
 三つは、Aに示されている技能面である。前述のように、内部行動は学習対象と、そこで働く技能とによって規定
される。したがって、学習の結果、変容され形成された内部行動は、そこで学習する技能が、完全に行使され機能し
た場合に成り立つものである。つまり、内部行動は、その技能が働いた結果であるから、その内部行動が形成された
ことは、学習する技能が完全に働いたことを意味する。その技能が学習され身についたことを保証することになる。
 このように考えることは、技能と内容とを一体と考える機能的立場である。
 Cは、変容され形成されたBの内部行動、つまり、理解し鑑賞した知識・情報・思想・心情などの内容・内実(所


産)を、説明したもの、文や文章に書いたもの、絵や図に雷き表したもの、表解したものなどである。つまり、外部     P30
行動化したものである。
 この外部行動化された、説明・絵画・表解∴付動動作などを観察したり測定したりして、内部行動を形成した技能
がどのように働いたか、その状況を推定する。つまり、学習する技能が働いて、行動目標が達成できたかどうかを判
断する。その基準となるのが、この外部行動である。行動目標は、それが達成されたかどうかを判断する基準、評価
基準を含んでいなければならないというのはこのことである。

  4行動目標の設定

 (1)行動目標の設定の仕方

次の学習単位を読解する場合の行動目標を設定してみる。
 深海にすんでいる魚の中には、ずいぶんめずらしいものがいます。
 たとえば、たいていの深海魚は、自分のからだから光を出しています。これは、深海がまっくらなためです。
 そのうえ、大きい口やいぶくろ、それにじょうぶな菌を持っています。これは食いだめをしたり、ほかのさかなに
おそいかかったりするのにべんりです。
 また、目のないもの、目のたいへん大きいもの、せんぼうきょうのようにつき出た目を持っているものなどがあり
ます。
 上の文章を、@文章の要旨を理解する技能、A文章の概略を読みとる技能、B段落の要点を読みとる技能、C文章
の内容を構造的に読みとる技能を、それぞれ働かせて読んだ結果形成されるべき内部行動、つまり、理解すべき内容
を、外部行動化、文章化してみると次のようになる。
 @ 深海に住んでいる魚の中には、深海に住むのにつどうのいい、めずらしい仕組を持っているものがいる。



 A 深海に住んでいる魚の中には、自分のからだから光を出すものや、大きい口、いぶくろ、じようぷな歯などを     P31
  持っているものや、日がないもの、目が大いへん大きいもの、つき出ているものなど、めずらしいものがある。
 B ア 深海にはめずらしい魚が住んでいる。 イ たいていの深海魚はからだから光を出す。 ウ 大きい口や
  いぶくろ、じようぶな歯を持っているのがいる。 エ 目がないもの、大へん大きいもの、つき出たものなどが
  いる。
            からだから光を出すもの   
 Cめずらしい深海魚<−大きい口やいぶくろ、じようぶな歯を持っているもの
            目がないもの、大きいもの、つき出ているもの
 上は、前記の四つの技能を働かせて読解した内容(内部行動)を、それぞれ言語行動化(文章化)して示したもの
である。あらわでない読解の結果形成された行動(理解した内容)を、観察し、測定できるあらわな行動、文章とし
て示したものである。
 したがって、それらの言語行動(文章)を観察することによって、@では、内容的価値の「要旨を読みとる技能」
が働いた状況を推定することができる。つまり、@は、この文章の要旨として正しいものであるから、要旨を読みと
る技能が正確に働いたと判断することができる。同様に考えて、Aでは、内容的価値の「概略を読みとる技能」が正
確に働いたと推定することができる。Bでは、文章の各段落の「要点を読みとる技能」が、Cでは、内容的価値を
「構造的に読みとる技能」が、それぞれ正確に働いたと推定することができる。
 このように、それぞれの技能が、それぞれ正確に働いたことを、文章を観察することによって推定することができ
る。そこで、具体的に行動目標として、文章の要旨を読みとる学習の目標を設定してみると、次のようになる。
  「深海に住む魚」の文章の要旨を読みとって次のように書くことができる。
   深海に住んでいる魚の中には、深海に住むのに都合のいい、めずらしい仕組を持っているものがいる。


 この行動日標は、@読む範囲(全文・段落・場面の内容的価値)と、A読む技能と、B読みとるべき内容事項とに     P32
よって組み立てられている。
 また、「文章の内容を構造的に読みとる技能」を働かせて文章を読む場合の行動日標を設定してみる。
  「深海に住む魚」の文章の内容を理解して次のように組み立てて書くことができる。(説明することができる)

              からだから光を出すもの
    めずらしい深海魚<−大きい□やいぶくろ、じようぶな歯を持っているもの
              目がないもの、大きいもの、つき出ているもの

 この行動目標も、@読む範囲、A読む技能、B読みとるべき内容事項の組み立ての三つの要素によっそシステム化
されている。これらの行動目標に書き出すBの内容事項は、行動目標に到達できたかどうかを判断する基準・尺度と
なるものであるから、だれが読んでも正しく読めば、このように読みとるべきだという客観性を持ったものでなけれ
ばならない。言い換えれば、児童たちにこのように読みとらせたいという内容を客観的に提示する。
 
(2)行動日棟の記述の仕方

 行動目標は、前述のように、@学習する対象の範囲(学習する内容的価値)と、A学習する技能を働かせる活動
(学習活動)と、B学習の結果理解した内容事項(内部行動)を示す文章とによって構成されるが、その大きさは、
一時間の学習の終わりに到達できる。達成できるほどの目標として記述するのが適切であり、便宜である。以下、い
くつかの例をあげてみる。
 @ 文章の概略を読みとる技能(要約の技能)の学習における行動目標(四、五年)
 o 「……」の文章の概略を、次の事項を含めて、三百字ぐらいにまとめて書くことができる。
 ・〇〇のこと・〇〇のこと・〇〇のこと・〇〇のこと
 o 「・・・」の文章の各段落の次の要点を押さえ、○○字ぐらいにまとめて書くことができる。
   @〇〇〇のことC○○のことG○○のことC○○のこと



 A 段落の要点と細部との関係を読みとる技能の学習における行動目標(三、四年)                  P33
  o 段落Aの要点と細部との関係を次のように表示して説明することができる。

                     人通りが絶える
  ・北国では大雪が降ると交通がとまる<−自動車も走らなくなる
                     電車も止まる

                           ひとでは、手を広げた形をしている
  ・名まえには、ものの形によってつけたものがある<−いもむしは、いもの形をしている
                           こうもりがさは、こうもりの形をしている 

 B 書いてあることの大体を読みとる技能の学習における行動目標(一、二年)
  o 「きりん」の文章を読み、きりんの行動の大体を理解し、次のように「何がどうした」「何が何をどうした」
   の文型で書くことができる。
   ・きりんがあるいてきました。・きりんがみずをのみました。
  o 「はやいのりもの」を読んで、話題(ひこうき)についての大体を理解し、次のようにまとめて書くこと(話
   すこと)ができる。
   ・ひこうきは、いちばんはやいのりもので、人やにもつをとおくへはこぶことができます。
 C 書いてあるとおりに正しく読みとる技能の学習における行動目標(二年)
   6〜7段落を、書いてあるとおりに正しく読みとって、次のように書いたり話したりすることができる。


      ・キャベツは、新しく出る葉がまるくなったところを食べるやさいです。                  P34
      ・カリフラワーは、花のつぼみが一かたまりになっているところを食べるやさいです。
 以上、行動目標とその設定の仕方、記述の仕方について詳細に述べた。この考え方と方法によれば、だれでも容易
に、貝体的・客観的に行動目標を設定することが可能になると思う。


                                                         P35
 V 完全習得をめざす学習評価はどのように行うか

     学習評価研究の新しい方向

 学習評価は戦後導入され研究されてきたが、最近また複興して、新しい方向に向かって研究が進められている。

     一 学習過程における評価機能と調節機誰の重視

 学習は、学習者の内部行動の変容・進歩の過程であると言われている。その学習は、一般に目標を追求するいくつ
かの学習活動が、次々に組織されていく、連続的組織、システムとして行われる。それが、いわゆる目標追求の学習
過程、学習システムである。
 そこで、従来この@学習活動を計画する過程、A学習活動を進める過程、B学習活動を完了した過程で、それぞれ
評価を行ってきた。この@が、いわゆる学型刑の評価、Cが学習中の評価、Bが学習後の評価である。
 学習前の評価は、学習活動の計画を立てる段階での評価であるから、@学習者の学習対象(話題・題材・主題)に
対する興味・関心・学習の必要性等を評価して、その実態・実状を明らかにする。A学習の対象に対して、そこで学
習するのに必要で、また、そこで学習する技能をどの程度身につけているかを評価して、学習能力の実態を明らかに
する。たとえば、文字力・語い力・文法力などの基礎的知識・技能、要点を読みとる技能、要旨を読みとる技能など


の基本的技能の実態を明らかにする。                                        P36
 これらの評価は、観察・測定・調査・テストなどによって、学習にとりかかる時点での請状況を明らかにする。つ
まり、学習の準備がどの程度整っているかを教師も児童も自党し認識する。
 このような評価の機能に名づけて、診断的評価と呼んでいる。この名づけによって、学習を開始する前に、何を、
どのように評価し、何を明らかにすべきかが明確になってきた。したがって、その状況に応じて目標を追求するため
の最も適切な学習活動を組織したり、最も生産的な学習活動の方法を工夫することができるようになった。つまり、
診断的評価の後にくる、評価の結果に応じた指導、診断的指導が可能になってきた。
 学習中の評価は、前記のような適切な学習活動が組織され、実践されると、つまり、学習が開始されると、学習活
動ごとに、その結果に対して、連続的に行われるものである。この場合の評価は、学習活動の目標――内容的な価値
を獲得する技能の形成―−に照らして行うべきものであるから、その目標から、@評価の観点、評価の基準が分析
抽出され設定される。こうして、学習する知識・技能がどれだけ身についたかが評価される。この評価の機能に名づ
けて形成的評価(ブルーム)と呼んでいる。能力形成のための評価である。
 この形成的評価によると、学習活動の結果の状況が明らかに認識される。児童の学習についての情報が詳細に得ら
れる。どの程度目標に接近できたかが認識され、反省されると、そこで、学習を成功に導くための工夫や学習の仕直
しが行われる。これが、いわゆる学習調節、世にいうフィードバックである。学習が調節されて、学習に成功すると
学習活動は完了する。
 学習後の評価は、こうして、一まとまりの学習、単元の学習が終わると、そこで学習した所産や技能がどれだけ獲
得されたかを総合的に評価するものである。この評価を通して、これこれの知識が獲得された。これこれの技能がこ
れだけ身についたと認定される。そこで、この評価の機能に名づけて認定的評価と呼ぶ。(ブルーム=総合的評価)
 以上のように、学習の診断的評価(診断的指導)、形成的評価(学習調節)、認定的評価(学力認定)を、学習過
程に位置づけ、システム化するのが、評価研究の新しい方向である。


                                                         P37                                             

 2 学習制御系−学習のコントロールシステムとして

 評価を取り出して、評価自体のシステムを明確にすることは、もちろん重要なことである。が、また、評価を学習
過程に位置づけ、学習過程のシステム要素として、評価全体のシステムを考えることはさらに重要である。
 それは、学習目標――学習活動――学習評価――学習調節――目標獲得という一連のシステムである。このように
学習目標を追求するために、システム化した学習・学習評価・学習調節を行うことによって、児童自身の学習のコン
トロールシステムを強化する。
 評価を、学習のコントロールシステムの要素として考えるのも、評価研究の新しい方向である。

 3 学習者の自己認識・自己調節の方法として

 従来、評価は主として、教師が学習指導に必要な情報を得ることに重点が置かれていた。したがって、教師が、児
童の学習の結果の状況を判断して、できたかできないかを児童に知らせる方法がとられた。だから、学習心理学が開
発した、児童の学習結果の知識・状況の取り扱いや、学習強化の心理の適用や劣等感の取り扱いなどを、この評価の
過程に導入することができなかった。したがって児童は、いつも自分の学習の結果の処理に受身になっていた。
 そこで、学習の結果の評価は、児童自身が主体的になすべきものであることを、原則と考えるようになってきた。
診断的評価によって、児童は自身の学習能力の状況を知る。それにもとづいて学習を計画する。学習の方法を考える。
最も自分に通した方法、活動で学習する。学習した結果に対しては、自分で評価の基準を立てて自分で評価する。評
価の結果、自分はどこまで学習ができたか、学習の結果の状況を明らかに知る。それにもとづいて、学習の調節条件
を考えて、学習の自己調節を行うようにする。
 このように、学習の結果の評価を、児童の自己評価・自己調節を原則として考えるようになったのも評価の新しい
方向である。


                                                         P38 
4 評価の科学化・システム化                                      

評価は、本来科学的・工学的なものであるが、実際には、※観的に、非科学的に行われていた。そこで、まず、評価
の対象、評価の原点としての学習目標を分析して、貝体的に、観察ができる・測定ができるような目標を設定する、
その目標をめがけて学習活動を行った結果、知識・理解などの所産、学習の結見身についた技能などの能力が獲得さ
れる。このように、学習の結果形成された内部行動を、絵画行動化・記号行動化・貝体行動化、話す・書くなどの言
語行動化によって外部行動化する。外部に表す。それを観察したり測定したりして、評価するための基準を、目標に
照らして設定する。その基準の設定の仕方には、見本法・条件法・選択法・品等法などいろいろな方法が考えられる。
それらの基準に従って自己評価する。
 このように、学習目標・評価基準・評価方法を、科学的・工学的に設定し、システム化して評価を実施するのも、
評価の新しい方向である。

 5 学習過程における評価の重視

従来、評価の中で、いちばん研究が後れ、いちばん主観的に、気分的に行われていたのが、学習の過程で行う評価で
あった。それも、学習者ひとりひとりを評価するというのでなく、何人かの学習の結果を、主として教師が評価して
学習を進めるというのが実状である。
 しかし、何といっても、学習における評価の中心は、学習する能力が学習活動ごとに適切に形成されているかどう
かを評価する、能力形成のための評価である。そこで、学習の過程で評価すべき能力を明確にし、学習活動ごとに、
評価して、能力の形成される状況を明らかにし、一歩一歩能力を形成していって、目標に到達する。能力の形成に成
功する。このような科学的・工学的な能力形成のための評価の研究もまた、新しい傾向である。
 要するに、従来行われていた評価の批判の上に立って、新しい評価研究は再興したのである。


                                                         P39
     二 診断的評価の考え方と方法

 1 診断的評価とは何か

健康診断ということばがある。人間の健康状態を、いくつかの観点をあげ、条件に照らして調べ、その健康状態を明
らかにする。診断の結果異常がなければ、そのまま健康生活を続ける。健康状態が思わしくない場合は、健康増進の
方法を講じる。病人の場合は、さらに科学検査をしたり、レントゲン写真をとったり、聴打診をしたりしてその病状
をよく調べる。その上で、病気の程度・進行・停滞の状況を判断し、それに応じて応急処置をしたり、治療の方法を
講じたり、投薬したりする。
 学習における診断的評価というのもこれとよく似ている。学習者が、新しい単元の学習を始めるときにも、学習開
始前に、この診断的評価を行う。普通、単元は、学習目標・学習内容(態度・技能・言語)・学習方法(学習活動)
・学習資料(学習教材)・学習評価の五つの要素によってシステム化されている。
 この単元の学習に当たっては、まず、学習者に学習の準備ができているかどうか、その準備の状況を明らかにする。
っまり、診断的評価を行う。その評価の結果にもとづいて、その単元の学習目標を設定したり、学習内容を選んだり、
学習方法を考えたりするなどして学習計画を立てる。このように、診断的評価によって、教師は、学習計画・学習活
動・学習方法の設定・改善に必要なさまざまな情報を集めることができる。また、ひとりひとりの児童について、学
習に必要な諸条件が、現在、学習前にどの程度整っているかなど、学習指導に必要な諸情報を集めることができる。
 さらに、児童たちは、その学習に必要な講条件についての実状を、ひとりひとり認識することができ、これからの
学習の計画を立てたり、学習活動を遂行したり、学習方法を改善したりするのに必要ないろいろな情報を求めること
もできる。こうして、児童は、学習に対する構えを碓立することができる。


学習前に、児童も教師も、上のような諸情報を得ることができて、学習の構えを確立したり、学習計画を児童の能力     P40
に応じて適切に立てることができる。このような機能をもつ評価が、診断的評価である。

 2 診断的評価では何を評価するか

 新しく学習を始める場合、特に診断的評価をする必要のある事項――評価の対象となるものは何であろうか。以下
それらの事項について考えてみることにする

 (1)学習括題・学習課題に対する興味・関心

 学習を内部から喚起し誘発するものは知的好奇心だと言われている。それは、話題・課題に対して疑問をもつ、問
題をもつ、あこがれる、願望をいだくなど、いわゆる興味をもち関心をいだくことである。
 そこで、学習に当たっては、学習話題・学習課題に対する興味・関心のあるなしや、その度合いを調べる。興味・
関心の強いものであれば、学習意欲が湧き起こるから、すぐに学習が開始される。興味や関心の乏しいものであれば、
それを引き起こす計画・工夫をしなければならない。
 学習は、直接的には、右のような一次的興味にささえられて出発するが、それだけではじゅうぶんではない。学習
を進める過程で、つねに二次的興味の開発を心がける必要がある。また、学習は、直接的な興味・二次的な興味・関
心によっては始められない場合がある。一次的な興味や関心のない場合である。その場合には、学習を指導し、学習
対象に対する知識や理解を得させる。すると、対象を知ることによって、対象に対する知識・理解を増すことにより
学習興味が湧き起こってくる。
 この対象を知ること、理解することによって初めて喚起される学習興味がいわゆる二次的興味である。それによっ
て学習意欲が喚起され、学習が積極的に進められる可能性が出てくる。なお、この二次的興味を学習の全過程で、つ
ねに喚起することが、学習を自主的にするためのこつである。


                                                      
 (2)学習話題・学習課題に対する学習の必要性                                  P41

 単元の話題・題材・主題の中には、そこで学習する知識・情報や思想・心情などが含まれている。それが、内容的
価値である。
 内容的価値というのは、言語教材でいえば、児童の言語生活に必要な、ことばの知識・ことばの倫理・ことばの使
い方の知識などである。つまり、児童の言語性に培うものである。
 また、知識・情報教材でいえば、教養としてのさまざまな知識や社会的・文化的・科学的・自然的・生活的ないろ
いろな情報である。それは、児童の文化性や社会性や倫理性など、人間性に培う価値である。
 また、思想・心情教材・文学教材でいえば、日常の生活感情や、人間の生き方や社会的な考え方や、あるいは、民
主的な考え方や平和へのあこがれ、願望などである。これらもまた、児童の思想性‥心情性・審美性・倫理性・平和
性など、人間性に培う価値である。
 これらの価値は、いずれも児童の人間性の開発伸長に欠くことのできない必要性のあるものである。そこで、学習
に当たっては、まず話題・題材に内在する内容的価値が、児童にとってどの程度の必要性をもっているかを診断する
必要がある。ところが、これらの知識・情報・思想・心情の中には、児童が直接学習する興味を示さない場合もある。
しかし、それらが、児童にとって学習する必要性のあるものであれば、児童がその学習の必要性・必然性を感じてい
るか、認めているかどうかを明らかにしておく必要がある。
 そういう心情の自覚は、おのずから主体的・精極的な学習の構えを確立することにつながるものである。

 (3)学習対象に対する学習者の内情報

 国語科の学習は、前にあげたような話題・題材に含まれている内容的価値(知識・情報・思想・心情)を、直接体
系的に学習することを目的とはしていない。しかし、国語科は、国語の学習を通して人間教育に参与する教科である


から、学習活動を通して国語の能力と、内容的価他が一体として身につくように考えられている。その中で特に内容     P42
的価値の学習も取り上げて「価値目標」としている。
 そこで、その内容的価値に対して、児童が、学習前にどれだけ知っているか、どれだけの経験をもっているか、ど
の程度の内情報をもっているかを知ることは大事である。昔は、よく既存知識の整理ということをやった。それは、
内容主義の国語教育が行われていたからである。戦後はよく、読んだことがあるか、見たことがあるか、経験したこ
とがあるかなどということが問われた。戦後は、経験主義・活動主義の同語教育が行われたからである。
 要するに、これからは、学習しようとする内容的価値――外情報・文献情報としての知識や情報や思想や心情のシ
ステムと、それらについて、児童がもっている内情報とを比べて、その相違点・不足・不備などを明らかにする。そ
の不足・不備・未知・疑問・問題などを、学習活動を通して、新たに獲得したり、補習したり、修正したりして、新
たな、学習者の認知構造を形成する。そのために児童の内情報を明らかにする。それが、児童の内情報の評価である。
 以上は、主として、学習対象に対する興味・関心や必要や知識など、学習者の学習の構えや学習者の認知面の状況
を明らかにし、学習準備ができているかどうか。整っているかどうかを診断するための評価である。

 (4)学習する基礎的技能と基本的技能

 次は、学習者の能力面の診断のための評価である。単元で学習する知識・技能の中には、発音・文字・語い・文法
等に関する知識・技能がある。たとえば、発音の技能・漢字を読み書きする技能・語句を理解する技能・文法を適用
する技能などがある。これらは、言語事項と言われているもので、言語活動を裏から支えている技能であるから、基
礎的技能と呼んでいる。
 また、要点を読みとる技能、細部を読みとる技能、要旨を読みとる技能などのように、言語活動を行うための技能
がある。これらの技能は、言語活動を処理する場合の基本になる技能で、基本的技能と言っている。これらの基礎的
技能(支持技能・言語事項)、基本的技能(処理技能)のうち、その単元で学習する技能が「学習技能」である。


 
それらの学習技能が、どれだけ、どの程度身についているか、その状況を診断するのが学習能力の診断的評価である。    P43
 @ 文字負担と文字力
 文章や作品を読む場合に、その読みを妨げるもの、つまり、読みの抵抗・負担となるものの一つに文字がある。そ
れを普通「文字抵抗」とか、「文字負担」とか呼んでいる。抵抗・負担となる文字は、主として学習するかな文字と
漢字である。そこで、初めて学習するかなや漢字(新出かな・新出漢字・読替漢字)が多すぎると、読みの抵抗・負
担が大きくなって、読めない子ども、読みの遅進児を作ると言われている。
 たとえば、一ページに新しく出てくる漢字や読替漢字の数と、一ページ当たりの文字数との比を「漢字負担」とい
う。一ページに六字も七字も新出漢字を提出するというように、漢字負担(漢字抵抗)が高すぎると、読めない児童
ができる。
 そこで、学習前にこの漢字負担を調べておく。最近の国語教科書は、ページ数が減らされた上に、読む漢字が千字
ぐらいと急増したために、いっそう漢字負担が高く、読めない子どもの出る可能性が増している。だから、漢字負担
を調べて、学習法を考え、工夫する必要がある。
 漢字負担を調べたら、次は、新出漢字・読替漢字の一字一字について、児童はどの程度読めるか、どんな読み方を
するかを診断し評価する。こうして、漢字負担の実状と、漢字を読む力の実態とを明らかにする。
 A 語い負担と語い力
 文章や作品を読んで、理解したり鑑質したりする場合、その妨げとなるもの、抵抗・負担になるものに語句がある。
それが、「語い抵抗」「語い負担」である。この語い負担が多ければ多いほど、それだけ文章作品の理解や鑑賞が困
難になる。そうかと言って、全く語い負担がない、意味のわからない語句がなければ、読むために必要な埋解語いを
増すことができない。だから、語い負担も、ほどほどに適切にあることが必要である。
語い負担というのは、一ページ当たりの意味のわからない語数と、一ページ全体の語数との比のことである。これ


も漢字負担と同じように、語い負担が高すぎると、理解困難をきたすといわれている。普通に児童がむずかしいと言     P44
う文章は、漢字負担が大きく、意味のわからないことばも多い。語い負担の高い文章である。これも、漢字の場合と
同じように、学習前に、その文章の語い負担を調べて、文章の難易を診断しておく必要がある。
 次には、その文章・作品の読解を通して学習させようとする語句、学習語いを選定する。学習語いは、そこで初め
て学習する語句、意味のわからない語句(俗に難語句という)、特に文章を理解する上に重要な意味や働きをする語
句(俗に重要語句という)、その語本来の意味とは異なった意味や働きをしている語句、情用語などを含んでいる。
これらの語句のうち、特に学習前に、負担になると患われる語を抽出して、その一語一語について、児童の理解状況
を診断して、その実態を明らかにする。なお、これらの語は理解のつまずきとなる語と考えておくとよい。
 ここで、この診断と側係があるので、語句の理解について触れておきたい。一般に単語として、単独に取り出して
は意味のわからない場合でも、基本的な文脈(その語の基本的な意味を表しやすい文脈)の中に位置づけられると、
その語の意味がわかってくるという事実を知っておく必要がある。また、文章について、二語や二語意味の通じない
語があっても、文章全体の意味をとらえる場合には、抵抗・負担にはならないという事実−−直観的理解が成り立つ
ことも知っておく必要があろう。
 B文法力と文型
 戦後のある時期、機能文法が重視され、作文における表現文法・用法の指導が言われ、読解における文法指導が強
調された。今日、小学校での文法指導が、文型の指導・用法の指導に電点が置かれているのもそのためである。小学
校の読解学習の中では、用法としての文法指導、文法感覚を育てる指導、感覚的な文法を意識化する指導が必要であ
る。文の言い回しや文型に憤れないために理解につまずくことも、困難になることも少なくない。
 「(かえるは)たまごをうむと、またしばらくの間・・。」と、「かえるは、また土の中へもぐっていきます。」
「また」の意味の違い、働きのちがい、「かえるは、さむさによわいので」と、「…よくそだつからです」の「の
で」と「から」の使い方や意味の違いを知ることはやさしくない。しかも、それは理解の差や適否にかかわってくる。


                                                         P45
これらの.語の意味の違いや用法の違いを、説明して知的に理解させることよりも、その違いが感覚的にわかる、感
覚的に用法として区別できるはうが、はるかに重要である。つまり、そこに初めて出てくる文型や用法について、児
童は、どの程度の感覚や意識をもっているかを、あらかじめ知っておく必要がある。
 
 (5)学習能カ――読解技能

 文章や作品を読む場合、何といってもいちばん大事なものは、文章や作品の内容−知識・情報・思想・心情などの
内容的価値を、読み手自体が、主体的に積極的に読みとる、理解する技能である。児童は、これまでの読解学習にお
いて、必要なたくさんの読解技能を学習・習得して、いわゆる「反応目録」として保持しているものである。
 そこで、新しい文章や作品を読む場合には、必要に応じて「反応目録」の中から適切な技能を迷んで適用して、理
解活動・読解活動を営むものである。だから、これまでに習得した技能を働かせて、どの程度読みとれ、どの程度理
解でき、その技能をどの程度進歩させる可能性があるかを調べる必要がある。
 もちろん、児童がもっているすべての読解技能について、その準備状況を調べるわけではない。これから、文章や
作品を読むのに特に必要な技能、これから新しく学習しようとする技能(学習技能・その単元で学習させようと計画
している技能)、また、l度学習したが、さらにそれを高め、確実に定着させようとする技能について、それらが、
どの程度身についているかを調べて明らかにするのである。

 (6)学習態度――方法的態度

 学習を開始したり、持続したり、学習をかっぱっにしたりする行動を、支えたり保証したり原動力となったりする
のは、学習の心構え・身構えである。この心構え・身構えは、一時的に、学習に即して出現するものであるが、この
構えがくり返されると、一種の習慣となる。それが学習態度である。
 ところが、一般には、学習の興味・題材についての関心、あるいは学習の必要というような、いわゆる本質的態度


に関心が向いていて、それが問題となる。ところが、実際に授業を進めるのに必要な技能の行使を保証する、その後     P46
ろ楯となる、いわゆる方法的態度については、一般的に関心が薄く、ほとんど顧みられていない。しかし、現場で授
業に当たって苦労するのは、この方法的態度をいかに持続させるかということである。
 たとえば、あきずに長い文章でも終わりまで読み通す、注意深く読む、いつも疑問を持ちながら読む、どうなるだ
ろうどうなるだろうと、不安をもったり期待をもったりして読むなどの構え、いわゆる読解学習中の読みの構えが、
読解活動を保証し進める上には特に重要である。
 この読解の構えが、くり返されて定着し、固定し習憤化されたのが方法的態度である。日ごろこういう児童の構え
を観察し記録しておいて、文章や作品の読解ごとに、児童がどんな構えをとるか、その状況を明らかにする。もっと
具体的に言ってみれば、意味のわからない語句に出会った場合、
 ア ただその意味を考えている。
 イ 文を読み返し、文脈の中でその意味を考える。
 ウ 反対語・対照語・同義語・語の構成などと対比しながらその意味を考える。
 エ 先生や友だちに聞こうとする。
 オ 辞書を使って調べようとする。
など、さまざまな態度を示す。これらを日ごろよく観察してチェックリストに記録する。
 (7)学習スタイル・学習環境
 学習というのは、言ってみれば、学習しようとする対象――いわゆる外情報をどのように取り入れるか、どのよう
に同化していくか、どのように体制化していくか、あるいは、外情報に対して、自分をどのように自己調節していく
か、その過程であると考えられている。「学習は過程である」というのは、そのことを意味している。
 であるから、児童はいつもどんな外惜報の中にいるのか、学習状況の中にいるのかを明らかにしたり、外情報に対



して、どんな構えをもっているのか、どんな個性的な働きかけをしているのか、同化の仕方をしているのか、自己調     P47
節の仕方をしているのかなどを、教師も児童も知っていることが大事である。
 この前者がいわゆる学習環境であり、後者がいわゆる児童の個々の学習スタイルである。この両者のかかわり合い、
緊張関係が、学習を成り立たせる上に重要な要因となる。読書学習をする場倉、学習者が日ごろどんな読書生活をし
ているか、読書態度をとっているか。また、どんな読書環境の中にいるかなどを知ることや自覚することの重要さは
言うまでもない。
 また、直観的に考えることは得意だが、分析的・論理的に考えることは得意ではない。行動的・作業的な学習の仕
方は得意だが、思索的・概念操作的な学習は不得手である。学習は着実ではあるが、時間がかかる。学習は早いが綿
密ではない。そのような学習上の個人の特性を、教師も児童も知っていて、それを有効に適切に働かせることの重要
さも、いまさら言うまでもない。
 以上、診断的評価で、評価すべき事項をあげたが、要するに、これらは、読解学習を適切に生産的にし、しかも、
児童が主体的に自己診断・自己評価・自己学習をするのに必要な準備すべき諸要素を分析し抽出したものである。
 もちろん、具体的な学習の計画に当たっては、これらの事項の中から、必要なものを適切に選択して評価すべきこ
とは言うまでもない。

 3 診断的評価はどのように行うか

 (1)診断的評価の対象とその認知

 前にも述べたように、診断的評価の対象の一つは、音読する・文章を書く・話す。作業する、行動・動作をする。
また、絵にかく、図にかく、記号を操作するなどで、どれも目で見て、その実態・状況を観察し判断することができ



る。いわゆる可視的行動である。外部に現われている外部行動である。                         P48
 その二つは、文章を読んで得た知識や情報、文学作品を読んで培われた感覚や感噂育てられた心情や情操や思想な
どである。これらは、それ自体見ることも、触れることも、想定することもできない。いわゆる内情報、心的行動
(内部行動)と言われているものである。
 その三つは、文章や作品を読んで、知識や情報を求めたり、思想や心情を育てたりする力、ことばの意味を理解す
る力、文法に従って話したり書いたりする力、要点を読みとる力、要旨を読みとる力、段落にまとめて読む力などで
発達的・段階的に個々に身につけている。これらの技能もまた児童の内部に国語の力として育成され保持されている。
 これらの三つの中には、感性的に認知できるもの、内税・内省によって認知できるもの、そのままでは認知できな
いものとがある。そこで、それらを診断するためには、具体的に認知できるものは、それに応じた方法を講ずるし、
貝体的に認知できないものについては、それを変形・変容して認知できるものとしなければならない。そこに、診断
的評価の方法の工夫がある。

 (2)診断的評価の方法

 @ 観察による診断的評価――観察法
ア 観察記録による方法――毎日毎日の授業の中で、態度に関する事項、学習スタイルに関する事項、学習興味に関
 する事項、読み誤りに関する事項、音読・朗読に関する事項、話合いや発表などに関する事項など、必要な事項に
 ついて、その都度、その状況を記録しておく。そして、学級全体における傾向、あるいは個人個人についての状況
 などを累積記録によって明らかにし、必要に応じて、学習計画・学習法の改善・指導に活用する。
イ 評価チャートによる方法――学習前にあらかじめ評価しようとする観点を設定し、それを縦軸にとり、学習者の
 個人名を横軸にとったチャートを用意し、その事実・状態・状況などを観察し、チェックする方法である。個人の
 学習スタイルを知る上に有効である。もちろん、診断的評価だけでなく、形成的評価に用いても有効である。


                                                         P49 
 この場合、評価の観点をどのように分析し、どのように設定するかが重要である。ただ実態を押さえるというので
 なく、それが、その後の学習の計画・学習の方法・学習活動の組み立てなどの設計、改善に役だつものでないと意
 味がない。また、学習者がそれを自覚することによって、自己学習が進められ、強化が得られるものでなければな
 らない。なお、評価の観点ごとに、上・中・下とか、よい・普通・悪いとか、能力がある・能力が芽生えている・
 能力が低いとか、興味がある・やや興味がある・興味がないとかいうように、観点に応じた評価の基準を設けてお
 くことは言うまでもない。
 A アンケートによる診断的評価――質問紙法
 あらかじめ診断しようとする事項について質問し、それに答えさせる。その結果にもとづいて評価する方法である。
たとえば、読書学習をする前に、読書量・読書の内容・読書範囲・読書環境・読書記録・読書生活(読書会・読書紹
介・読書感想・図書館利用・読書時間等)その他必要事項について質問紙をプリントし、それに対する実状を書かせ
る。
 B 調査による診断的評価――調査法
 診断しようとする事項を含んでいる資料を集め、それにもとづいて調べたり統計をとったり、それを整理したりし
たものによって評価する方法である。たとえば、児童の読書状況を判断し評価しようとする場合には、児童の読書ノ
ート・読書記録とか、図書館の読書調査とか、読書カードとかいうような資料をもとにして調査し評価する。
 また、ノートの指導をする場合には、事前に児童のノートを集め、その実状を調べて評価する。あるいは、漢字負
担、語い負担などの実状を診断するために、教材の一ページ当たりの抵抗漢字数・抵抗語い数を調べたりするなども
それである。
 C テストによる診断的評価−テスト法
 学習する前に、あらかじめ診断し評価する事項のうち、観察・調査・質問・問答などによっては、診断し評価する
ことが困難であったり、不可能であったりする事項に対しては、テストによって評価する。


 たとえば、要点を読みとる技能を学習する場合、あるいは要旨を読みとる技能を学習する場合には、学習にはいる     P50
前に、要点を読みとる技能、要旨を読みとる技能などの学習技能について、テストによって評価し、どの程度それら
の技能が発達しているかを診断する。その結果によって個人個人の能力の実状、あるいは、クラス全体の傾向などを
明らかにする。(指導例を参照されたい。)
 また、文章や作品の読解指導をする場合、新出漢字、読替漢字、あるいは、新出語句や重要語旬などについて、ど
れだけ読め、どれだけ理解しているかを知って学習指導を始める。そんな時にもテストによって評価し診断する。こ
のように、技能の状況を診断する場合には、テストによるのが普通である。
 しかし、技能だけでなく、言語に関する知識、技能に関する知識などと、技能との相聞関係を診断する場合にも、
テストによるのが便利である。たとえば、敬語の知識・理解と、敬語の使川(技能)との相関関係を知るにも、この
テストが利用できる。
 なお、この場合、市販の学習診断テストを使うことも考えられるが、実際には、学級の児童・学習教材・学習内容
(技能・態度・言語事項)などとぴったりしないものが多い。それは、一般的・標準的すぎるからである。
 D 問答・話合いによる診断的評価――問答法
 学習に入る前、学習する事項、学習する話題・題材などについて、経験や内情報を話させたり、話し合わせたりし
て、その実態・実状を評価する方法である。たとえば、題材に対する興味や関心について話し合う。題材について見
聞したこと、経験したことなどを話し合う。読解指導に当たって、文章や作品について読んだ経験があるか、内容に
ついてどれだけ知っているかなどについて話し合う。その発表や説明や話合いを間いて、その実態・実状を判断し評
価する方法である。この方法は、一人一人の児童の実状が明確につかめないうらみがある。
 これらの方法は、学習への導入法として、学習の興味や関心、学習の必要等を喚起し、学習のレディネス・学習課
題の設定のために、広く一般に行われてきたものである。
 以上、診断的評価の方法のおもなるものについて、その概要を解説したが、これらは独自に使われることも、必要



に応じ、実状に応じていくつかの方法を合わせて使うこともある。                            P51

 4 診断的評価はどのように活用するか

 (1)診断的評価の結果の解釈

 診断的評価の機能・役割は、これまで述べてきたように、その単元で学習する知識や技能、態度などの学習事項、
(学習能力)と、学習の興味や関心や必要などの学習興味(学習態度)とについて、その実態・実状を碓認して、学
習の準備ができているかどうか、学習が可能かどうかを確認し、学習指導への見通しを立てることにあった。したが
って、診断的評価の結果、確認できるものをまず、明確にしておく必要がある。
 ア 学習に必要な技能についての知識や技能の度合いが確認される。――個人個人がもっている技能の実状、使い
  方の特性、クラス内における相対的位置づけ、クラス全体の傾向と実状などがわかる。
 イ 学習に必要な言語知識(発音・文字・語い・文法・表記など)や話題・題材についてもっている内情報が確認
  される。――個人個人の言語知識の実状と内情報の実態、クラス全体の傾向がわかる。
 ウ 学習を有効にし、自主的・精極的学習の基礎となる学習対象に対する学習の輿味・関心・必要性などが確認さ
  れる。――個人やクラスの知的好奇心、疑問・問題・願望などの実状や傾向がわかる。
 エ 学習に必要な態度、学習に必要な方法を、どの程度身につけているかが確認される。――学習の構えやこれか
  らの学習に適用しようとする方法が、どの程度身についているかがわかる。
 オ 学習に対する困難度・問題点などを察知するここができる。
 要するに、個人にとっては、学習興味・学習能力・学習態度・学習スタイルなどについての個性的な実態と、クラ
スにおける相対的な位置づけなどが確認される。クラスについては、それらについての全体的な状況・傾向などがわ
かる。


また、学習を進める上の問題点・難易度・適否などを判断することができる。                      P52

 (2)学習計画のシステム設計

 診断的評価は、それを何に役立てるかによって、評価の機会と、評価の内容項目と、評価の方法とが違ってくる。
 たとえば、単元の学習計画を立てる場合だと、その単元の学習に入る少し前に診断しなければならない。診断する
事項も、単元の話題・主題に関する事項、そこで学習する基本的技能、この単元の前に学習した、その系列上の単元
で学習した事項等になってくる。評価の方法も、質問紙法や調査法、テスト法などが主として用いられる。
 また、学習指導に役だてる場合だと、前の学習時問のあとにやってもいいし、学習に入る直前、あるいは、そのま
ま学習につなげる学習課題、学習というように直結してもよい。診断する事項は、その時間時間に学習する事項を中
心として行えばよい。つまり、行動目標に記述してある技能・言語事項を中心にする。方法は、だいたいテスト法、
観察法が中心になるであろう。
 要するに、診断的評価によって、学習内容に対する
 ア 精神的な興味や関心の度合い
 イ 知識・情報的な内情報の最
 ウ 能力的な基本的技能・基礎的技能の程度
 工 態度的なもの本質的態度・方法的態度の形成の皮合い
 オ 環境的な事項・状況
など、学習計画を立てる上に必要な請条件が明らかになってくる。したがって、単元の学習計画や一時間の学習計画
を、児童の実態に即して、さらに一人一人の能力に応じて貝体的に立てることができる。
 一時間の学習指導計画について言えば、
 ア 一時間の学習単位を決める



   教材の学習範囲と、そこで学習する技能を決める場合に、教材の難易、文字負担・語い負担などが明らかにな     P53
  っている。また、児童の学習技能の実態もわかっているから、適切に学習単位を決めることができる。従来、学
  習範囲を決める際には、教材の難易や児童の能力を考えず、教材の形式、文章の長短などによって範囲を区切る
  ことが多かった。それは必ずしも好ましいとは言えない。
 イ 一時間の行動目標を決める
   行動目標は、学習範囲と、そこで学習する技能と、学習の結果習得する知識・情報や思想・心情など、いわゆ
  る所産によって組み立てられる。したがって、診断的評価の結果にもとづいて、貝体的に、最も児童の実態に即
  したものとして設定することができる。
 ウ 一時間の学習内容を決める
   その学習単位の中で、学習する内容は、学習技能と、発音・文字・語い・文法などの言語事項としての基礎的
  技能である。学習技能も言語事項も、すでに診断的評価の結果、その実態が明らかになっているから、貝体的な
  学習技能・言語事項の指導法を押さえることができる。
 エ 一時間の学習方法を決める
   一時間の学習方法というのは、その時問の基本的な学習活動の組織である。学習技能の実態がわかっているか
  ら、学習活動も易から難へと段階的に組織することができる。あるいは、シミュレーションによる技能学習を計
  画して後に、機能的な学習を試みることも可能である。要するに、学習する教材と、学習する技能と、既習の学
  習活動についての諸情報が明らかになっているから、最も適切な学習活動を組織することができる。

 (3)診断的指導

 診断的評価は、本来児童のためのものである。児童が自分の力で自分を診断し、その実状を知って自己評価し、そ
の結果にもとづいて、自分で学習を計画するなど、自己学習のためのものである。しかし、現状では、教師が児童の


学習を指導したり、学習の計画を立てたりする上に必要な、いみいろな情報を得るために行われている。          P54
 また、診断的評価が、学習の過程で行われる場合には、学習計画を改めたり、学習活動を訂正したり補正したり、
あるいは、学習方法を改善したりする。このように診断的評価にもとづいて、児童の実態に即して指導するのが診断
的指導である。

     三 形成的評価の考え方と方法

 1形成的評価とは何か

 診断的評価が、学習行動を起こす前に行われるのに対し、形成的評価は、学習中連続する学習活動の各過程で行わ
れる。いわば、授業中学習過程で行われる評価である。従来は、学習の評価の行われる機会に着目して、学習前の評
価・学習中の評価・学習後の評価などと言われてきた。ところで、それらの評価の機会でなく評価の機能にもとづい
て名付けたのが、学習前の診断的評価、学習中の形成的評価、学習後の認定的評価(総合的評価)である。だから、
おおまかに言って、学習活動を適して、どの程度能力が形成されたかを評価するのが形成的評価である。
 したがって、学習の目標――行動目標を追求するための学習活動を行う。その学習活動の結果、めがけた学習技能
などが、どの程度形成されたか、どの程度目標に接近できたか、その程度・状況を評価する。もちろん、ここでめが
ける技能は、一時間の行動目標の中に位輿つけられている。その時間に学習する技能である。具体的には、行動目標
の中に示されている、到達基準として示されている内容的事項(所産)である。この所産を基準として評価を行うも
のである。
 児童は、学習活動ごとにその結果を評価し、評価の結果にもとづいて、学習に成功したかどうかを判断する。つま
り、国語技能がどの程度形成されたかを判断する。学習に成功しなかった場合は、なぜ学習に成功しなかったのか、


                                                         P55
その要因を考え、判断し、学習の成功・完成への意欲を喚起する。学習を成功に導くための方法の改善・強化を図っ
て学習を調節するため方策を考える。こうして、次の学習へと進む準備・要素作りを完了する。教師は、評価の結果
によって、学習の指導、あるいは、治療のための贅料・情報を得る。
 要するに、形成的評価は、その時間の学習目標を追求する学習活動の結果、あるいは過程を評価して、児童には、
学習結果の情報、学習調節を行うための情報を与え、教師には、学習の指撃あるいは、学習の治療のために必要な情
報を提供するものである。

 2 形成的評価では何を評価するか

 (1) 評価の対象

 読解における目標を追求するための学習活動は、二つの面をもっている。
 一つは、内容的価値(知識・情報・思想・心情等)を追求する面である。それは学習者が、貝体的に直接的に追求
する面で、何かについての知識を得るとか、情報を得るとかいう、いわゆる「認知面」である。また、美的感党を磨
くとか、感情を育て心情を豊かにするとか、ものの見方・考え方を育て、思想を深めるとかいう、いわゆる「感覚・
感情面」である。これらは、直接、学習者の文化性・社会性・思想性・心惰性・感惰性など、いわゆる人間性を開発
し伸長する面である。
 他の一つは、それらの内容的価値を身につけるために必要な技能や態度、つまり、内容的価値を学習する過程で、
ともに学習する技能や態度である。要旨や主題を読みとる技能、要点を読みとる技能、要点と細部との関係を読みと
る技能、場面や情景を想像しながら読む技能、心理・心情を想像しながら読む技能など、いわゆる機能的な基本的な
技能がそれである。
 また、それらの基本的な技能の学習を通して身につける、漢字を読む技能、語句を理解する技能、文法に従って意


味を理解する技能などもそれである。これらがいわゆる基礎的技能である。                        P56
 これらの基本的技能・基礎的技能は、内容的価値に対する形式的価値である。このような国語の技能を形成するこ
とを通して、思考力を伸ばすとか(創造的思考力・論理的思考力・体制的思考力等)、直観的認識力・分析的認識力
・体制的認識力などを伸ばすとか、また、ことばに対する感覚・意識を育てるとか、想像力を伸ばすとかいうような
面の人間性、つまり、技能性を、間接的に開発し伸長する。
 また、それらの学習活動を適して、箇条書きにする、読みとったことを再構成する、表解する、読みとったことに
ついて話し合うなどの諸技能をも学習する面がある。
 以上のように、学習活動の結果獲得されるものが三つある。その一つは、読みとる知識や情報や思想や心情など、
いわゆる内容的価値である。この内容的価値のうち、知識や情報などに関する面を、特に「認知而」と呼び、感覚や
感情などに関する面を、特に「情意面」と呼んでいる。これらは、普通にまとめて、学習の結果得た「所産」とも呼
んでいる。また、要点を読みとる技能や、語句理解の技能など、学習の結黒得られる基本的技能や基礎的技能を特に
「技能面」と呼んでいる。さらに、箇条書きにする、表解する、構造変換をする、漢字を書く、音読する、朗読する
など、学習の結果できるようになった言語行動がある。これが「行動面」である。
 以上あげた「知識・情報などの認知面」「思想・心情などの情意面」「文字・語い・文法などの基礎的技能、要旨
・主題・要点などの基本的技能を含む技能面」などが、形成的評価の対象となる。
 要するに、形成的評価の対象となるものは、前記のような内部行動であって、学習活動の結果習得されるものであ
る。それは、その時間の学習活動の目標そのものである。評価は、学習目標に照らして行うというのは、このことを
さしているのである。
 ところで、文章や作品を読んで、知識や情報を求めた、心情や考え方が育てられたと言っても、それは学習者の内
面のことであって、それを外部からうかがい知ることはできない。また、それらの知識・情報や忠恕‥心情を学習す
ることを通して、要旨を理解する力、要点を理解する力、段落にまとめて読む力、筋道を立てて理解する力、主題を



理解する力、場面や情景を想像しながら読む力、文学を鑑賞する力などが育てられる。と言っても、これも、どんな     P57
力が、どの程度育てられたかを、外部から想定することはできない。
 そこで、読解学習を適して、どんな知識・情沌・思想・心情が、どの程度学習されたか、どんな国語の技能が、ど
の程度育てられたかを評価するためには、観察することも、測定することもできない、それらの内部行動を、観察し
たり測定したりすることのできる外部行動として表す必要がある。つまり、内部行動を外部行動化する必要がある。
そうすれば、その外部行動を観察したり測定したりして評価することができるようになる。

 (2) 内部行動を間接的に評価する

 ということで、直接観察したり測定することのできない内部行動を、直接観察したり測定したりして評価すること
のできる外部行動に変換する必要がある。以下、その方法について考えてみる。
 @ 言語行動化――話す・書く
 これは、どの教室でも一般に用いているもので、読んで理解したこと(内部行動)を、話したり文章に書いたりし
て、外部行動化する方法である。前者は、読んで理解したことを話す。説明する。解説する。たとえば、理解した概
略を、これこれのことが書いてあると話す。理解した事柄はこれこれだと説明する。描いた場面の様子を話す。読み
とった人物の心情を話すなど、すべて、話しことばによって外部行動化する方法である。
 後者は、読んで理解したことを書く。説明を書く。たとえば、理解した主題や要旨は、これこれだと書く。理解し
た要点を箇条的に書く。想像しながら読んで理解した場面・情景・心情などを文や文章に讃くなどがこれに当たる。
 このように理解したことを、説明したり、具体的に書いたりする。この説明や書いた文を観察したり、測定したり
して評価する。
 A 絵画行動化――絵や図にかく
 これも、よく使われるが、読んで理解したこと、想像したことを絵にかいたり図にかいたりして外部行動化する方


法である。たとえば、読んで理解し想像した場面や情景を簡単な絵にかく。読んで理解した内容を図にかく。読んで     P58
理解し想像した変化や筋道を絵にかく。
 こうして、かいた絵や図を観察したり分析したりして、文章に膏いてある通りに絵がかけているかどうかを調べて
評価する。
 B 具体行動化―−行動する・動作する
 これは、いわゆる動作化と同じである。読んで理解したとおりに所作する、行動する、動作する、作業するなどし
て外部行動化を図る方法である。このほか、パントマイムによる方法、ベーブサートによる方法、OHPで投映して
行う方法などの工夫もある。これらの行動・動作を観察して評価する。
 C 記号行動化――記号・図形を使う
 読んで理解したことを、記号で書いたり、地図に書いたり、構造図にlけいたりして外部行動化を図る方法である。
たとえば、段落の中の要点と細部との関係(抽象と貝体・全体と部分・総括と桐などの諸関係)をそれぞれ記号化し
て示すなど。
 以上列挙したような方法で内部行動を外部行動化すると、そのままでは、観察も測定もできない内部行動を、観察
したり測定したりして評価することのできる対象とすることができる。ただし、内部行動を、そっくりそのまま如実
に外部行動化することは困難であるから、結果的には、外部行動化されたものを通して、内部行動(学習の結果)を
推定することであることを忘れてはならない。

 (3) 内部行動を直接的に評価する

 前に述べたような方法で、内部行動を外部行動化するといっても、微妙な心理・心情、あるいは、感覚・感動のよ
うなものは、これを外部行動化することは容易なことではない。そこで、内部行動を外部行動に変換しないで、それ
を直接とらえて測定評価しようとするのが、内部行動の直接的評価である。


 
 読解によって形成される内部行動は、概略を読みとる、気持ちを想像する、場面の様子を想像するなどというよう     P59
に、そこで働く技能によって、形成される内部行動の型や状況が異なっている。そこで、概略・気持ち・様子などを
理解したり、想像したりするときに働く技能によって形成される内部行動の型・状況を想定して幾通りかの型を設定
して提示する。たとえば、
   はとが、えさをついばみながら、あちこちと歩いている。折から、ひらひらとさくらの花が散りかかる。ひっ
  そりとした公園の真昼である。
を読んで、その場面を想像する。しかし、どんな表象(イメージ)が描けたか、その内部行動を観察することはでき
ない。そこで、その措いた表象を、表現・叙述に即して想定し、幾通りかのパターンを作ってみる。たとえば、
 ア  園でひるごろ、はとがえさを食べていると、さくらの花がひらひらと散ってくる様子。
 イ  さくらの花がひらひら散っている。はとはしきりにあちらこちら歩き回りながらえさを食べている。公園には
  だれもいない様子。
 ウ  暖かい春の日がさしている。満間のさくらの木の下には、はとが一羽いて、しきりにあちらこちらえさをあさ
  っている。そのはとにひらひらとさくらの白い花びらが散りかかる様子。
 読み手の内部に描かれた表象をこんなふうに想定して書く。
 文章を読んだあと、読み手にこれらの文を読ませて、実際に読み手の内部に描かれた表象と一々対応させる。つま
り、ぼくが想像して描いた表象は、@と同じである。わたしが描いた表象はBである。と、いうように、そこに書か
れている表象と、読み手が描いた表象と同じものを選択させる。その上で、その対応の状況によって、読み手の内部
行動の型を推定する。要するに、児童の描いた想像の表象を、あらかじめ用意した文−表象の鏡に写し出してみると
いったやり方である。
 このやり方は、あらかじめ用意した想像して描いた表象の型見本を提示し、それと、自分の内部に描いた表象・内
部行動とを比較対照して、その異同・誤差・適否を明らかにさせて、それを観察して内部行動を推定する。つまり、


測定の尺度を作っておき、それと各自の内部行動とを対応させて、それにもとづいて内部行動を推定する。         P60
 この外、測定の条件を示し、その条件から学習者の内部行動に合うものを選択させる方法、測定の基準を含んだ選
択肢を作成し、学習者の内部行動に適合するものを選択させる方法、測定の基準を品等別に示し、それをあてはめて
みて測定する方法などもある。
 内部行動を直接測定する方法は、従来、テスト法としてさまざまな方法が工夫されてきた。測○×式の選択法など、
その代表的なものである。この直接測定にはいろいろ問題がある。一つは、客観性をもった測定の尺度を作ることの
むずかしさである。二つは、測定の尺度に内部行動を照合することのむずかしさ。また、それが適正に行われたかど
うかの保証が得られないことである。三つは、蓋然性の介入することを防ぐむずかしさである。四つは、測定の尺度
によってかえって学習が行われてしまうことである。気が付かないことに気付かされる。あいまいだったことが、確
実になる。自分の描いた表象よりももっといい表象が提示されると、それに引かれてしまうことなどである。

 (4) 外部行動を直接的に評価する

 外部行動は、直接観察し測定することができるものであるから、評価の基準・方法さえ確立しておけば、比較的、
客観的に評価することができる。そのように直接評価の対象となる外部行動には、「音読」「朗読」「談話」「文章
表現(作文)」「書写」「語の用法」などがある。
 たとえば、「音読する」「朗読する」などの行動では、発音・発声・速度・語として読む、文として読む、間の取
り方、イントネーション・明瞭さ・感銘度など、評価の観点・基準を立てて観察すれば客観的評価が可能である。ま
た、「説明する」「報告する」「考えを述べる」などの行動では、その内容面の適否・価値・説得性などと、その形式
面、技術面の正しさ・確かさ・有効さなどについての客観的評価ができる。

 3 形成的評価の方法


 学習活動の結異学習され形成された内部行動を・観察・測定・評価できるように、外部行動化する方法について考     P61
察を加えてきた。次には、外部行動化された内部行動をどのように評価したらいいか、その評価法について述べる。

 (1) 評価の観点を明確にする

 形成的評価では、それぞれの時間の学習目標(行動目標)をめがけて、いわゆる目標を追求するための学習活動を
行う。その結果、目標に到達できたかどうか、どれだけ目標に接近できたか、その状況を観察し測定して判断する。
それは、学習目標を追求する学習活動を通して、目標とする能力が形成されたかどうかを判断するものである。
 したがって、何を評価するか、評価の観点を明確にしておかなければならない。それは、その時問の行動目標の中
に学習すべき技能として明確に示されている。しかも、その時問の終わりには、到達すべき、牲得すべき技能として
設定されている。一般的にいうと、学習目標の中に示されている学習事項(基本的技能・基礎的技能)である。この
学習事項は、学習指導要領によれば、学習内容として位置づけられている。
 この学習事項の内容は、要点を読みとる技能のような学習活動を処理する技能(処理技能・基本的技能)もあれば、
文脈の中でことばの意味を理解する技能のような、学習活動を支持する技能(支持技能・基礎的技能)もある。これ
らの技能のうち、基礎的技能は、発音力・文字力・語い力・文法力などであるが、一般に行動目標の中には示されな
い。その時間の学習内容として明確に、貝体的に位輿つけておく。
要するに、評価の観点は、その時間に「学習する技能がどれだけ習得できたか」ということである。

 (2) 評価の基準を立てる

 評価の観点としてあげた技能が、一時間の学習の未にどれだけ習得できたかを判断する尺度が評価の基準である。
この基準は、行動目標の中に貝体的に規定されている。
 行動目標は、前に述べたように、@学習の対象(範囲)学習する技能C学習技能を働かせた結果形成される内部


行動を外部行動化したもの(言語行動・内容的価値)の三つの要素によって構成されている。               P62
 上の行動目標の中のCの学習する技能が、前にあげた評価の観点であり、Bが、学習技能がどの程度習得されたか
を判断する基準、評価の基準である。ということは、学習技能が、じゆうぶんに適切に働けば、その結果Bのような
内容的価値が獲得できるということを示している。
 したがって、そこに示された内容的価値が、学習技能が習得されたかどうかを判断する基準・評価の基準になる。
たとえば、知識や情報の読み、いわゆる説明文の読解では、その時問の行動目標は次のように設定される。
 @1・2段落のA要点を読みとって、次のように書くことができる。
  B・名前にはものの形によってつけたものがある。
   ・名前にはものの色によってつけたものがある。
この行動目標では、@が学習単位(範囲)、Aが学習技能で、評価の観点、Bが学習技能が適切に働いて習得すべき
内容的価値で、これが評価の基準である。この行動目標に照らして学習の結果を評価することになるが、評価の観点
は、学習技能「要点を理解する技能」で、「要点が理解されたか」ということになる。評価の基準は、「要点を理解
する技能」が習得できたかどうかを判断する、測定する尺度であるから、この場合「名前には、ものの形によってつ
けたものがある」「名前には、ものの色によってつけたものがある」が、評価の基準になる。つまり、要点がこのよ
うに理解できれば、要点を理解する技能は学習されたと判断することができる。
 このように、理解した内容的価値が、評価の基準となることができるのは、理解の対象が、知識や情報であって、
客観性をもつことができるからである。だれが読んでも、要点はこのように読みとる、読み手によって要点が違うと
いうことは考えられないからである。
 ところが、文学の読みでは、そう簡単にはかたづかない。たとえば、学習目標(行動的目標)を
  @○○の場面で、A争った一郎の気持ちを想像しながら読んで、次の気持ちを含めて書く(説明する)ことがで
   きる。 


    B・くやしがっている気持ち。                                       P63
     ・争わなければよかったという気持ち。
     ・もう争うまいという気持ち。
この行動目標では、@が学習単位(範囲)Aが学習技能で「気持ちを想像しながら読む技能」が評価の観点Bが評価
の基準で、三つの条件が提示されている。@の場面で、一郎の気持ちを想像しながら読んで、その気持ちを、この三
つの条件を含めて書いたり、あるいは、説明したりすることができれば、気持ちを想像する技能が学習されたことに
なる。この三つの条件を決めるのは、貝体的に言えば、その場面で、気持ちを想像するためのキーワードや表現され
ている事柄である。
 気持ちを想像するというようなことは、主観的でしたがって個性的なものであるから微妙な違いがある。とすれば
そのような感覚や感情を客観的なものさしを作って、測定・評価することは困難でもあるし、必ずしも好ましいこと
ではない。そこで、少なくとも気持ちの感じられる語や文に対して反応しているかどうか、また、大多数が感じると
推定される気持ちを感じているかどうかを判断することにしたらいいと思う。それを示したのが、Cの三つの条件で
ある。

 (3) 評価の方法・形態を決める

評価の基準が決まると、次は評価の方法である。この方法には、評価の形態と評価の方法の二つの面がある。前者は、
教師の評価・児童の共同評価・グループ評価・相互評価・自己評価などの形態がある。後者には、見本法・条件法・
選択法・チェック法などいろいろな方法がある。まず、評価の方法について述べる。
 @ 評価の方法
 評価の基準が決まると、次は評価の方法である。評価の方法は、その基準をどのように提示するか、その提示の方
法によって決まってくる。


 ア 見本法                                                   P64
 見本法というのは、評価基準(行動目標の後半に示した言語行動――内容的価値を示した文・表解・構造――や内
容を規定する条件)を、そのまま見本として提示する。あるいは、評価基準を含む評価見本を提示する方法である。
提示された見本と、学習者が学習の結果習得したものを文章にパいたり、表解したりしたものとを比較して、その異
同・過不足・適否・正否などを自分で判断して(自己評価して)、学習結果の状況を明らかにして評価する方法であ
る。
 たとえば、行動目標に示されている言語行動(「名前には、ものの形によってつけたものがある」などの文や文章)
や表解・組立などをOHPで提示する。あるいは板書する。それと、自分の雷いたものとを比べて評価する。その場
合比べる観点をいっしょに提示してもよい。この見本法によって提示する見本の基準性に二つの異なったものがある。
 一つは、理解すべき内容を示すものである。たとえば、前記の「名前にはものの形によって名づけたものがある」
は、読みとるべき要点を書き出したものであるから、「ものの形」によって名づけることが理解されていればいい。
したがって、その書き方は、「ものの形でつけた名前がある」と書いても、要点を理解していることには変わりはな
い。要するに理解した内容が、基準として示される場合には、理解すべき内容が含まれていれば、その書き表わし方
は、必ずしも一致しなくてもいい。
 他の一つは、表現すべき形式(文)を示すものである。たとえば、理解した表現法を評価する場合、「シャベルは
土をすくうどうぐです」を、基準として示すと、その通りの文型で書くことが要求される。これを「土をすくうには
シャベルをつかいます」「土をすくうどうぐはシャベルです」では誤りになる。これは、「シャベルは、何をする道
具ですか」という課題に対して答えた文だからである。
 見本法は、評価基準が見本として具体的に示されるので、最も評価しやすい方法である。しかも、それは評価の理
想とする自己評価を容易にする方法ということができる。この点ではいい方法であるが、その点から見本法を見ると
そこにまた問題が提起される。



 その一つは、学習に不適応の場合でも(学習に失敗した場合でも)評価見本が基準として示されるので、学習を調     P65
節する際に、見本をまねてしまって、調節学習が適切に行われないだろうという疑問が出されることである。この問
題は、低学年のように、学習が単純で簡明な結果が出るような場合に懸念されることが多い。高学年の学習結果の評
価のように、学習結果が複雑である場合には、当然基準の見本に添えて、見本と学習結果とを比較対照する観点を提
示する。だから、学習調節の際に、基準の見本をそのまままねてしまう恐れは少ない。このような見本法の長所・短
所をよく理解した上で採用する必要がある。
 イ 条件法
 前述の見本法の短所を補正するために、「評価基準を要素的に分析し、その要素を取り出して評価する場合の条件」
として提示する。学習者は、それを自分の学習結果とを照合し、その条件を満たしているかどうかを判断し評価する
方法である。たとえば、情報の概略を読みとる学習の行動目標が次のように設定されている。
  ア  文章全体を読んで、情報の概略を理解し二百字ぐらいに書くことができる。
  イ  文章全体を読んで、情報の概略を理解し、次の事項を含めて二百字ぐらいに書くことができる。
    ・いつ・どこで・だれが・どうして・・どうなった・その理由は
 行動目標を、ア のように書いたのでは、評価の基準は「二百字ぐらい」の長さに書くことだけが基準になってしま
って、読みとって理解した内容が適切かどうかは評価できない。そこでイ のように設定する。こうすると、叙述の形
式・長さの基準は「二百字ぐらい」という長さになる。理解した内容の評価基準は、その内容に含めるべき要素を分
析し抽出した「いつ・どこ・だれ・どうした・どうなった・なぜ」になる。これが、評価の基準を示す条件である。
 また、段落の要点を読んで理解する場合の行動目標が次のように設定されている。
   段落1の要点を理解して、次のように書くことができる。
    「あいずには音や音の組み合わせを使って、何かを知らせるものがある。」
 この行動目標では、評価の観点は、「要点が理解できたか」であり、評価の基準は、「あいずには……知らせるも


のがある」という内容的価値・内容的事項である。ところで、この評価基準をそのまま児童に提示すると見本法によ     P66
る評価になる。そこで、この基準、内容的事項を要素的に分析してみると、「あいず」「音」「音の組み合わせ」
「知らせる」という四つの要素が抽出される。
 この四つの要素を、チェックの条件として提示する。児童は自分の書き出した「要点」を、四つの条件によってチ
ェックし、漏れている事項はないか、余分なことはないか、誤りはないかなどを明らかにする。こうして、各自評価
して、学習の結果の状況を自覚する。
 このように、評価の基準を要素的に分析してチェック条件を設定して評価する方法が条件法である。これはよく用
いられる方法である。
 ウ 選択法
 選択法は、児童の学習の結果を想定し、正しい評価基準を含むいく通りかの選択肢を作って、児童の学習の結果と
照合して、それに合った選択肢を運ぶ方法である。たとえば、前の条件法の項にあげた「要点を読みとって書く行動
目標」による評価基準の立て方について考えてみる。評価基準は「あいすには、音や音の組み合わせを使って何かを
知らせるものがある」であるから、
 ア  あいずには音を組み合わせて何かを知らせるものがある。
 イ  あいずは音や昔の組み合わせである。
 ウ  音や音の組み合わせがあいずである。
 エ  あいずには、昔や音の組み合わせを使って何かを知らせるものがある。
のように四つの選択肢を作り、これと、自分が書いた要点とを比べて、同じもの、あるいは最も近いものを選ばせる。
 この選択肢の作り方を工夫することで、学習の結果を相対的に知ることもできる。たとえば、学習の結果を三段階
に分けて評価しようと思えば、選択肢を
 ア  あいずには、音や音の組み合わせを使って何かを知らせるものがある。



 イ  わたしたちの生活には、音や音の組み合わせを使って何かを知らせることがある。                 P67
 ウ  わたしたちの生活には、音や昔の組み合わせを使って何かを知らせる場合がたくさんある。
 エ  音や音の組み合わせを使って知らせる。
のように、学習段階的に設定する。
 ア は、この文章の要旨に照らして読みとった段落の要点である。イ は、要点を含んではいるが、文章の要旨に照ら
して理解した要点ではない。ウ は、段落の中での要点を含んではいるが、事実をあげたにとどまっている。エ は、要
点になっていない。
 選択肢に段階づけがしてあるから、児童がどれを運んだかによって、学習の結果を段階的に知ることができる。ア
を選んだものは、要点を理解していると判断することができる。イ を選んだものは、文章の要点に照らして要点を理
解することのできないものである。この児童は、段落の要点は、文章の要旨に照らして理解すべきことを条件として
読み直すようにする。ウ を選んだものは、まだ、要点とは何かについての理解がじゅうぶんでないものである。
 このように、評価基準に段階をつけておけば、選択する事項によって、学習状況を判断することができる。だから、
学習の結果を容易に類別して、学習の全体を組織化することも容易にできる。また、学習の調節条件の設定や調節を
容易にすることもできる。
 なお、要点を読みとる学習の初歩の段階であれば、ア 要点を含む文、イ 要点を示す文、ウ 細部を示す文などを選択
肢として設定すれば、いっそう詳細に学習の結果を評価することが可能になる。たとえば
 ア  げんかんのブザーが鳴ると、げんかんにだれか人が来たことがわかる。
 イ  わたしたちの生活には、音や吉の組み合わせを使って何かを知らせる場合がたくさんある。
 ウ  音や音の組み合わせは、何かを知らせるあいずである。
 エ  ブザー・ベル・チャイム・サイレンは、音で何かを知らせることができる。
のように設定すれば、少なくとも四通りに学習結果を類別し、四段階に学習能力を発達的に段階づけることが可能に


なる。このような選択法による評価は、                                       P68
評価基準が立てやすい。ア いろいろな評価に適用できる。イ 容易に学習状況を類別化できる。ウ 学習能力を段階化
できる。エ 学習調節条件が設定しやすい。オ 学習結果の状況を認識しやすいなどの長所がある。
 エ チェック法
 評価の観点、あるいは、評価の観点・基準と、その評価の結果を書き込む欄とをもつ評価表(チュックリスト)を
用いて評価をする場合がある。
 たとえば、音読の評価の場合には、横に評価基準を、「拾い読み」「たどたどしい読み」「流ちょうな読み」「味
わい読み」と順次横にとり、縦に児童氏名をとったチェックリストを作り、音読を評価して、それぞれの評価欄のと
ころに記号を記入する。この場合の評価基準は、音読の初歩の段階から、流暢な読みの段階までを、その実態に即し
て発達的に何段階かに区切って示す。
 もちろん、目標が、「語として読む」「文として読む」「すらすらと読む」「味わって読む」「朗読する」などの
場合には、これらをそのまま評価の観点として示し、その評価の基準は、別に「まだ・普通・よい」などと定め、そ
の評価を、あるいはそれを記号化したものを記入してもよい。評価の観点(技能)が、細分化されている場合はこの
方法がよい。評価の観点(技能)が基本的なもので、それをさらに下位技能に分析できるような場合には、その下位
技能をあげて評価基準としてもよい。
 この方法は、観察や内観・内省によって評価する場合に用いる方法であるから、学習の進行中は絶えず観察評価し
て記入する。したがって、一単元の学習が終わるまで、あるいは、数単元の学習をする問、継続的に評価することに
なる。なお、一般には、教師が児童の学習状況を観察し評価する場合に用いるのが普通であるが、児童の自己評価・
相互評価・グループ評価・一斉評価の方法としてもじゅうぶんに用いられる。
 このように、チェック法は、学習の結果変容された内部行動を評価するものではない。学習によって変容された外
部行動−話しことばによる言語行動(話す活動)、書きことばによる言語行動(重=く活動)や貝体的に表される学


習態度などを評価する場合に用いられるものである。言い換えれば、「あらわな行動」の評価として使うべきもので     P69
あるから、同時に多数の児童について評価するというものではない。一人一人の児童について、長い間継続的に実施
すべきものである。
 A 評価の形態
 評価形態には、教師がする評価と、学習者・児童がする評価とがある。これまでは、評価といえばすべて教師がす
るものであった。現在でも一般の教室では、評価は教師がするものと決まっている。それは、教師がいわゆる指導目
標を立て、教授法・指導法を工夫して教え込んだものであるから、教師が指導・教授の結果を評価するのは当然のこ
とであった。それは責任をもってすることでもあった。
 戦後、教授から学習へという方向をたどって、児童の主体的な学習が重んぜられるようになった。その結果、学習
者がみずから学習目標(学習課題)を設定し、学習方法を考え、学習を進めるようになって、学習結果の評価も、学
習者自身が行うようになってきた。
 学習評価の形態も、ここで一変した。教師の主観的な評価から、学習者自身が行う評価へと変わってきた。学習者
自身がする自己評価・相互評価・グループ評価・一斉評価などが行われるようになった。
 ア自己評価
 一般に、目標1計画1行動1評価という過程は、あらゆる行動のモデル過程である。それは、児童の学習行動にお
いても同じである。
 ア  児童が自分で学習目標を立てる(学習課題を設定する)。
 イ  児童が学習計画を立て学習方法を考える。
 ウ  学習方法に従って学習目標を追求するために必要な学習行動を行う。
 エ  学習行動の結果を児童が自分で評価する。
 オ  学習評価の結果によって学習の結果の状況を知る。


 カ  学習結果の状況に応じて、学習を調節する条件を設定する。                           P70
 キ  学習の調節を行う。
 ク  学習に成功し、学習目標に到達する。
という過程をたどって学習が成立する。完了する。この過程は、完全習得をめざす過程で、今すぐどこででも実現で
きるというものではないが、それをめざして実践的研究を進めている。しかし、学習評価は、学習者の賞任において
学習者が行うという原則は、容易に実現可能である。このように、自分で計画し学習した結果を、学習者自身が評価
する形態が「自己評価」である。
 そこで、自己評価を実現するためには、次のような学習の評価過程をたどる必要がある。
 ア 何のために(目標・課題)、何を(学習の内容)、どのように(学習の方法)学習したかを理解している。
 イ 学習活動の結果、目標に到達できたかどうかに強い関心をもつ。
 ウ 学習の結果を評価してみようという意欲をもって、評価の計画を立てる。
  ・評価の観点(学習技能)を明確にする。・評価の退準を立てる。・評価の方法を決める(条件法・見本法など)
 エ 評価をするー評価法を適用する。
  ・評価の基準に照らして、対象を観療する。測定する。・学習の成否の状況を判断する。
 オ 評価によって学習結果の状況を知る(KR)。
  ・学習に失敗したか成功したか、その状況を認識する。・学習に成功しようとする自己完成の意欲をもつ。
 カ 学習に成功した者は学習を進め、学習に不適応のものは、学習の調節条件を考える。
  ・学習に成功するための学習調節の条件を設定する。
 キ 学習調節を行う。
 ク 学習に成功し行動目標に到達する。
この評価の過程では、ア 評価の観点を立てる(行動目標による)イ 評価の基準を立てる(行動目標による)ウ 評価法


を考える(見本法・条件法・選択法など)エ 評価するという評価行動が行われる。こうして自己評価は完結する。       P71
 しかし、実際に指導する際には、評価の基準は、ア 教師が立てて提示する。イ 教師と児童が話し合って立てる。ウ
児童が話し合って立てるなどの過程をたどって、基準の立て方を学習させる。評価の方法も教師と児童が話し合って
見本法か・条件法か・選択法かどれによるかを決める。また、各自評価基準に照らして各自の学習結果を評価する仕
方も、○をつける・×をつける・――を引いて消去するなど具体的に約束を決めておく。特に評価によって、自分の
学習の結果がどんな状況であったかをよく自覚して調節学習の動機を喚起することが重要である。
 このように自己評価がスムーズに行われるようにするためには、自己評価の方法・自己評価の技能を学習させる必
要がある。自己評価をくり返し実施していく問に。
 イ 相互評価
 自己評価は理想ではあるが、一挙にそこまでいくのはむずかしい。ア 評価見本と自分の学習結果とを照合してみて
も、その異同・合否がはっきり認識できない。イ 条件法によって、自分の学習結果を、諸条件に照らして分析しよう
としても容易にできないなどのことがあるからである。
 そんな場合には、相互に交換し合って評価する。自分の学習結果については適切に判断できないものも、他の児童
のものだと適切に判断できる場合がある。また、二人で話し合って評価することもできる。
 ウ グループ評価
 相互評価でもじゅうぶん評価できない場合は、四、五人のグループを作って評価する。評価の観点と評価の基準が
明確に示されれば、基準に照らしてグループで話し合って評価する。一人二人では判断できない場合でも、四、五人
よれば、まず妥当な評価が得られる。
 エ 一斉評価から自己評価へ
 一斉評価というのは、一児童の学習結果をOHPで投映し、評価の観点・基準に照らして、クラス全員で評価する
方法である。この方法は、評価法の学習をする場合に有効な方法である。その場合の標本は・全児童の学習結果を概


観し、パターン化した上で、三通りぐらい運ぶといい。この評価標本を選ぶ場合、学習結果をアナライザーで処理す     P72
れば、その結果を輯型化し組織することが容易にできるから、適切な標本を選ぶことができる。こうして評価の観点
・基準をはっきりさせ、みんなで話し合いながら評価することによって、各自評価法をよく理解する。その上で、各
自の学習結果について、自己評価する。
 また、話しことばの評価法を学習する場合には、テープレコーダーを活用する。評価の観点・基準を板書し、それ
と照合しながら録音の再生を聞いて、一斉に評価し合ってその評価法を学習する。評価法が理解できたら、各自、前
に述べたチェックリストを手許におき、児童の話を聞きながら、評価基準に照らして評価しチェックする。
 そのはか、学習結果を絵・図・記号や表解・構成図などを使って外部行動化した場合にも、OHPでそれらを投映
し、それを評価の観点・基準に照らして一斉に評価することも可能である。この場合の基準は条件法によって設定す
るから、児童との話し合いによって容易に設定することができる。
 最後に、どのような評価を実施する場合でも、評価の結果によって、学習結果の状況を確実に認識・自覚(KRの
確認)すると同時に、つねに学習を成功に導くための、学習調節の条件と、その回路を考えさせることが重要である。
形成的評価では、評価の仕放しでは、能力形成に適切につながらないからである。形成的評価は、能力形成の現段階
の認識、学習目橙への到達状況の認識が中心になるが、それとともに、学習調節への、目標到達への意欲的出発を促
すものでなければならない。つまり、学習調節の動機の喚起、自己完成への意欲の喚起につながるべきものである。
 学習評価に続く学習調節については、次の章に詳細に述べてある。


 W 完全習得をめざす学習調節はどのように行うか                                 P73
 
     一 完全習得をめざして自己評価・自己調節を

 どの児童も学習目標(行動目標)に完全に到達することをめがけて学習を展開する。そのためには、まず、児童が
自分たちの手で、学習の目標を学習の課題として設定する。設定した学習課題を解決するための方法を考えて決める。
そのために必要な学習法はすでに身につけてプールされている。みんなで決めた学習法に従って、学習課題を解決す
るための−学習目標を追求するためのー学習活動を行う。文章や作品を読んだり、文章を書いたりする。
 その読んだり書いたりした学習活動の結果を、学習目標に示された、到達基準・評価基準に照らして、どれだけ目
標が獲得できたか、どれだけ学習目標に接近できたかを、自分で観察したり測定したりして、自分で判断し評価する。
その評価の結果の状況を詳細に知ることによって、これからさらに学習を進める上に必要ないろいろな情報を、自分
の手によって求めることができる。
 自分で立てた学習目標・学習課題は適切であったかどうかを知る。学習目標を杜得する、学習課題を解決するため
の学習の仕方は効果的であったかどうかがはっきりする。学習の結果の状況から判断される技能の働かせ方の適否の
状況がわかるなど、さまざまな情報を得ることができる。
 それらの情報にもとづいて、自分で学習計画を立て直したり、学習の手順を整え直したり、学習の方法を工夫した


り、学習技術を改差したりして、学習の仕直し、学習の調節をする。新たな条件にもとづいて学習の仕直し、調節を     P74
する。
 この場合、教師は評価の手順や方法を指導したり、評価の手準を立ててやったり、児童が自分で学習を調飾するの
を助けてやったり、必要に応じて指導したり教授したりする。そして、児童の自己学習・共同学習・教師の指導・助
言・教授とが調和を保って学習が展開されるように留意する。
 こうして、児量が立てた学習目標に到達できたかどうかを、自己判断・自己評価し、学習の結果の状況へ結果の知
識・KR)を確認する。その結果の状況にもとづいて、さらに学習を進めたり、あらいは学習に成功しなか「た事情
を反省し、その反省にもとづいて、新たな学習調浦の条件を定めて学習の仕直しをする。つまり、学習の自己調節を
する。
 このように、学習の過程で、学習活動―自己評価―自己調節をくり返して、どの児童も、学習目標に到達させる。
そのためには、自己評価・自己調節の方法を学習させる必要がある。
 要するに、児童は必要に応じて、みずからの判断で、学習を計画し、学習を進め、その過程では、みずからの学習
を評価し、調節しながら、丈化の推得・生産・人間性の開発伸長を図っていく。自己開発・自己発展の力を身につけ
ていく。

     二 学習調節のシステムはどのように組み立てられているか
 
 1 学習調節とは何か                                              P75

 「調節」というのは、いわゆる「フィードバック」のことである。このことばは、電気工学で、電気回路の調節に
使われている。比喩的に言ってみると、
 @ 水道の栓を適切にひねって、瓶に水を注ぎ込むことができる。(学習目標・行動目標)
 A 瓶の口の大きさなどから判断して、水道の栓をひねる。(学習活動〜技能を使う)
  ・栓のひねり方に応じた量の水が流れ出す。
  ・水は瓶の口から流れ込む。
 B 流れた水が、瓶の口に入る状況を観察する。(学習活動の結果を観察し評価する)
  ・水が出すぎて、瓶の日から溢れ出る。(評価)
  ・または、水の出が細すぎる。(評価)
 C 水の出方を観察し、その適否を判断し評価した結果(多すぎる、または少なすぎる)にもとづいて、水の出し
  方を調節する必要を自覚する。(学習活動の結果の状況を知る)
 D 水の出が多すぎる場合は、その出すぎると判断した分だけ、栓のひねり方にもどして、栓のひねり方を少なく
  調節する。(調節条件を設定し調節する)
  ・ひねりを少なくした分だけ水は少なく出る。(調節)
 E 水の出が少なすぎる場合は、瓶の口の大ききを考えて、少ないと判断された分だけ栓のひねり方にもどして、
  栓のひねり方を多く調節する。(調節条件を設定し、調節する)
  ・ひねり方を多くした分だけ水は多く出る。(調節)
 F 栓のひねり方が、適切に調節されて(技能の使い方を調節して正しく使う)水は瓶の口の大きさに応じた、適
  切な量で流れ出すようになり、効率的に瓶に満たされる。(学習目標の獲得)
 これが「調節」である。もちろん、最初の栓のひねり方(技能の行使)が適切で、適切な水の量が流れ出すように
操作できれば、それは、注水に成功・適応(学習目標の獲得)したのであるから、「調節」の必要はない。また、調
節が一回でできない場合は、これをくり起すことになる。
 この考え方と方法を、学習に適用したのが「学習調節」である。だから、学習調節というのは、学習活動によって


学習目標を追求する過程や、その活動の仕方を、どのように調節して目標に到達するかということになる。それを命     P76
題的に言ってみれば、「学習活動の結果の状況を判断して、学習が適切に行われていない場合に、その状況に応じて.
学習活動の仕方を調節して学習の仕直しをし、しだいに学習を成功に導くこと」ということになる。

 2 学習制御系(学習のコントロールシステム)を学習過程に位置づける

 これまで、学習の評価と学習の調節とを切り離して考えてきたが、本来これは、評価・調節として一続きの過程と
考えるべきものである。評価のない調節は考えられないし、調節のない評価はその価値が半減する。
 これまで、くり返し述べてきたことであるが、児童が、立てた目標に到達できたかどうかを自己評価し、その結果
の状況を確保する。その評価の結果わかった学習結果の状況にもとづいて、さらに学習を進める。あるいは、学習に
成功しなかった事情を反省し、その反省にもとづいて、新たな学習の条件を定めて学習の仕直しをする。つまり、学
習の自己調節をする。
 このように、児童が学習を自己評価し、自己調節をすることによって、児童の内面の「学習制御系」が強化される
と考えられている。
 そこで、この児童の内面的な学習制御系を強化するには、たとえば、ことばの刺激を受ける。プールされている反
応のパターンによって反応する。反応の適否・正否を、反応基準に照らして判断する。その反応の状況によって反応
のパターンを修正する。そして、新しい反応のパターンを形成する。という刺激→反応→修正→新反応のパターン形
成をくり返すことが重要だと考えられている。
 この児童の内面的な学習制御系を、学習の評価・調節過程として編成し、それを、学習指導過程の一過程として取
り入れて、学習指導過程をいっそう強固な、機能的な、生産的なシステムとすることができる。次にその学習過程を
あげてみる。
  @ 学習目標の設定・・・・・・・・・・・・行動目標―|
  A 目標追求の基本的学習活動の設定・・・・学習活動―|
  B 学習活動の結果の評価・・・・・・・・・学習評価―|―学習制御系
  C 評価の結果に基づく調整・・・・・・・・学習調整―|
  D 学習目標の達成・・・・・・・・・・・・目標獲得―|
学習目標を追求する過程そ、その活動の仕方を、どのように調節して目標に到達するがということになる。それを命
題的に言ってみれば、「学習活動の結果の状況を判断して、学習が適切に行われていない場合に、その状況に応じて、
学習活動の仕方を調節して学習の仕直しをし、しだいに学習を成功に導くことしということになる。

 3 学習の評価・調節過程はどのように編成するか

 学習の評価・調節過程を内蔵する学習過程は前記の通りであるが、その過程について具体的に詳しく調へてみるこ
とにする。
 @ 学習目標を行動日標として設定する。
   たとえば、一時間の終わりに、児童たちが到達できる、獲得できる目標として、行動日標を設定する。
   外国から来た客船について読みとった情報事項を、情報事実・情報意見とに分け、話題を中心にして次のよう
   にして組み立てることができる。                                        P77-78

            |―(百人ものお客をのせることができる)
            |   ↓
            | (だから)
            |   ↓
            | (動くホテルといわれている)       

 (外国から来た客船)―|
            |―(図書室・プール・ゆうぎ室まである)
                ↓
              (だから)
                ↓
              (長いりよこうもたのしくできる)

 A 目標追求の学習活動を設定して学習する。
  (ア)  情報事項を読みとってカードに書く。(一枚のカードに一つの事項を書く)
  (イ)  読みとった情報事項を、情報事実と情報意見とに分ける。(カードを分ける)
  (ウ)  情報事実と情報意見との関係を考えて組み立てる。(「だから」のカードを作って組み立てる)
  (エ)  情報話題を中心にして情報事項を組み立てる。(行動目標に示したように組み立てる)
 B学習活動の結果を評価する。
  ア (ア) の学習活動の結果を評価する
      ア 観点 情報事項が読みとれたか。
      イ 基準 ・お客のこと・ホテルのこと・図書室のこと・プール・ゆうぎ室のこと・りょこうのこと
      ( 条件法による)
      ウ 方法条件法による自己評価・基準ごとにチェックする。
  イ  (イ) の学習活動の結果を評価する
   観点情報事実と情報意見とが桝別できたか
   F基準思ったことと客船のこと(分類法による)


   方法分類法による全体評価−自己評価                                     P79
  ウ ウの学習活動の結果の評価
   観点情報事実と情報意見との関係が押さえられたか
   ◎基準「だから」で結ぶ(見本法による)
   ◎方法見本法によって自己評価
  エ エの学習活動の結果の評価
   観点話題を中心にして情報事項が組み立てられたか(行動目標の内容事項)
   F基準評価見本を示す(見本法)(行動目標に掲げてあるものを提示する)
   方法評価見本と比べる自己評価
   C学習評価にもとづいて、学習活動の結果の状況を知る。
  ア 各自、評価の結果の状況を知る
    学習に成功したもの。(一斉学習では、学習の進度を進めずに、学習を広げたり深めたり発展させたりす
    る)
   F学習に不適応(つまずき)のもの。
    ・  評価基準に照らして誤っているもの。
    ・     〃     一部誤っているもの。
    ・     〃     あいまいなもの。
    ・     〃     足りないもの。
    ・     〃     多すぎるもの、余分なものを含んでいる。
    ・     〃     適切でないもの。
    ・     〃     正確でないもの。


 D 学習のつまずきの要因を知る。                                        P80
  ア 各自、学習に不適応(つまずき)の要因を考える。
  イ 相互に考え合う。あるいは、グループで考え合う。
  ウ 教師が指導する。
  エ 学習に不適応の要因。
   ア  学習課題に対する意識が不明確だった。 イ  学習課謎の意図を誤ってとっていた。 ウ  不注意の読み
    落としがあった。 エ  学習の仕方がよくわからなかった。 オ  学習技術が身についていなかった。 カ 
    筋道を立てて終わりまでよく読まなかった。 キ  課題に応じた読みをしなかった。ク  意味のよくわから
    ない語句があった。ケ  意味を考えながら読まなかった。コ 場面の様子や気持ちがよく想像できなかった。
 E 学習の調節条件を設定する。
  ア 学習のつまずきの要因を考え、学習を成功に導くための読み直しの条件(調節条件)を設定する。
   ア  読み誤ったり、読み落としたり、読みが浅かったりした場合には、それを正しくしたり、補ったり、読み
    深めたりすることができるように読むための条件、つまり、正の強化条件を設定する。 
   イ  必要以上のものを読みとったりした場合、それを削ることができるように読むための条件、つまり負の強
    化条件を設定する。
   ウ  各自、自分の学習のつまずきの要因に応じた、つまずきを乗り越えて正しく読むことができる調節条件を
    設定する。
   エ  同じパターンのつまずきをもつものは、グループを作ってグループごとに調節条件を設定する。
  イ 学習の調節条件
   ア  課題を再認識・再確認して読む。 イ  読み方を明確にして読む。 ウ  前後の関係を押さえながら読む。


   エ  事実と感想・意見との違いを再確認して読む。 オ  接続語や指示語などを押さえ、筋道を立てて読む。     P81
   カ  気持の変化を表す語を押さえて読む。 キ  たとえばとか、このようにとかいうことばを押さえて読む。
   その他、実状に応じた調節条件を設定する。
 F 学習調節を行う。
  ア 各自調節条件に従って読み直しをして修正する。
  イ グループで、調節条件に従って読み直しをして修正する。
  ウ 学現調節の結果を確認する。
 G 学習目標(行動目標)に到達し牲得する。
 以上、学習の評価・調節過程のシステムについて述べた。なお、学習に成功したものの取り扱いについては後に述
べる。

     三 学習の調節条件設定の原則は何か

 学習調節のシステムの中で大事なことは、学習評価の結果にもとづいて、どのように学習の仕方を調節するかとい
うことである。そこで、その調節条件を設定する上の原則的なことを考えてみる。

 1 学習の直後に調節する

 学習の調節は、学習活動が終わった直後に行うのが最も有効であることは、学習心理学が教えているとおりである。
学習活動が終わったら、直後に学習活動の結果を評価する。評価をしたら学習活動の結果の状況を、具体的に知る。
そこから、次の学習活動の動機がいっそう喚起され、学習の意欲が盛り上がる。この結果を知ることが遅くなればな
るほど、学習動機・学習意欲は減殺されると考えられている。
 たとえば、前記(七八ページ)のア・イ・ウの学習活動の結果の評価をしないで、最後のエの学習活動のあとで、


ア・イ・ウの学習活動の評価をし、その結果を知らせるのではもう遅い。その学習活動ごとに評価し、その結果を知     P82
って学習調節の条件を設定し調節するようにする。

 2 学習反応に対する正の強化条件を設定する

 学習刺激(文章・作品を読む・技能を使う)に対する反応(読みとった内容・事項)が、じゆうぶんに整っていな
い場合は、その不十分を補うための条件、反応が誤っている場合は、それを正す条件、前記のアの学習活動で、ホテ
ルのこと、旅行のことなどが読み落とされている場合は、それを読み加える条件を設定して読み方を調節する。それ
が「正の強化条件」の設定である。
 たとえば、前にあげた栓をひねって、水を瓶に注入する例でいうと、「栓をひねって、水の出が少ない場合」は、
その水の出を多くする条件、つまり、栓のひねり方を増すという条件である。また、前記アの学習評価のように、条
件法で評価した場合、いくつかの条件が読みとれていなかった場合には、その条件を満たすための読みの方法・条件
を設定する。これらが「正の強化条件」である。

 3 学習反応に対する負の強化条件を設定する

 学習刺激に対する反応が、適切でなく、過剰であったり、余分のものが付け加わったりした場合、それを取り除く
ための条件、つまり、使う技能に積極的にプラスする条件でなく、使う技能に不当に反応した部分を除くことによっ
て、使う技能に消極的にプラスする条件を「負の強化条件」という。
 たとえば、栓をひねって必要以上に水が出すぎた場合、その出すぎた水の最を減らすための条件、栓のひねり方を
少なくして、水の出を調節し適正にする条件である。また、条件法によって評価した場合、学習結果の中に、評価条
件以外の事項が含まれていたら、それを取り除くための条件を設定して調節するのもそれである。
 あるいは、見本法によって評価した場合、評価基準としての見本と、自分の学習の結果とを比べてみて、見本に示


された事項以外の事項が含まれていたり、見本以上に詳細であったりする場合、それらの事項や部分を取り除くため     P83
の条件を設定して調節する。これらも「負の強化条件」である。

 4 学習反応をパタしン化するために反復する

 学習調節は、学習刺激(学習技能)に対する不適切な反応、あるいは誤った反応を、その刺激の仕方、技能の使い
方を調節して適切な反応の型を形成するために行うものであるから、それを反復することは、反応のパターン化に有
効に働く。このことは、言い換えれば、そこで使う技能に対する適切な反応の型を形成することであるから、いわゆ
る技能形成をめがけて行うものである。

 5 調節条件の個別化・類型化・画一化

 調節条件は、自己学習・自己評価の上に立って、自分で設定するのが原則である。したがって、調節条件も一人一
人の学習能力の差によって違いが出てくる。それが調節条件の個別化である。
 しかし、学習目標によっては、学習の結果に幾通りかの類型のある場合も考えられる。学習反応の型には類型があ
る。その場合には、当然同じような反応の型をもつグループを作り、グループごとに調節条件を設定する。
 この調節条件の設定の仕方によれば、同じような誤りを犯したものは、その誤りの類型に応じた調節条件を設定す
ることになるから「調節条件も類型化される。幾通りくらいの型ができるかは、学習教材と学習技能と、学習者の実
態とによってあらかじめ想定することもできる。これが調節条件の類型化である。
 また、あまり、好ましいことではないが、学習を一線にそろえて、調節条件を同一にして調節することもあり得る。
これが、調節条件の画一化である。


     四 学習の調節条件を設定する                                P84

 1 学習に不適応(つまずき)の要因を知る

 学習の結果を評価すると、一人一人の児童が、評価の結果について、その状況・適応不適応の状況を詳細に知るこ
とができる。そして、その反省をする。なぜ学習に成功しなかったか、このように読みとったのはなぜかというよう
に、学習につまずいた要因を考える。
 その場合、自分自身で考えるのか原則であるが、これも相互に考え合ったり、グループで考えあったり、教師が助
言・指導したり指示したりするなど、その状況に応じて適切な方法をとる。一般に学習に不適応の要因には、次のよ
うなものが考えられる。
@ 学習課題の理解がじゅうぶんでない。
学習課題についての理解がじゅうぶんでないために、何を、どのように学習するか学習法がわからなかったり、誤っ
ていたり、あいまいであったりしたまま学習を進める。
学習課題は、本来児童が自分で設定するのが原則である。したがって、児童が話し合って設定する場合には、学習課
題がよく理解できないために学習に不適応になる傾向は少ない。しかし、教師が課題を設定して学習させる場合には、
課題の意図・精神・学習法がじゅうぶんに理解されないままに学習活動が行われやすい。
A 学習意識が明確でない。
 何について・何を・どのように学習するか、学習意識が明碓でない場合には、的外れの学習がよく行われる。
B 学習技能の使い方がわからない。
  学習課題を設定し、それを追求するための学習活動を決めて学習を闘始するのであるが、そこで使う技能がよく


  理解されていないために、適切な学習が行われないで、つまずくことがあるたとえば、要点を理解する学習を行     P85
 う場合に、要点をどのように読みとったらいいのか、その読みとり方がわからない。文章の概略を理解する場合、
 その概略の読みとり方がわからない。文章を要約する学習を行う場合、その要約の仕方がわからないなどがそれで
 ある。
C 学習技能の自覚が不十分である。
  学習に当たって、どんな技能の学習をするのか、どんな技能を使って学習するのか、学習技能に対する自覚が明
 確でない。ぱくぜんとした学習に終わりがちである。
D ことばの認識が適切に行われない。
  読み加え・読み落とし・読み誤りなどによってことばの認識が適切に行われない。文や文章の中で重要な働きを
 する語、重要な意味をもっている語が把握できない。文型感覚・文法感覚が身についていないために、文の意味の
 理解に抵抗がある。
E 文脈がたどれない。
  文と文との連接関係を押さえ、筋道を立てて、文脈を正しくたどって行かないと理解しにくい。前後の関係を押
 さえて読まない。関係的に読みとらない。そのために理解のつまずきが起こる。具体的には、接続の関係を示す語
 句、並立の関係を示す語句・連体修飾・連用修飾を表す語句と被修飾語との関係、指示する語句と指示される語由
や事柄などとの関係などを押さえて理解しない。
F 文字面だけを読んで文の意味を考えながら読まない。
 文字面だけの表面的な読みに走って、意味や意味の変化・展開のあとをたどりながら理解しようとしない。何につ
 いてどんなことを表しているのか。どんな感じや考えを表そうとしているのかなど、考えながら読まない。
G 文字負担(漢字)が重すぎる。
 昔から文字負担(文字抵抗)が重すぎると、読みの遅進児を作ると言われている。特に漢字負担が重すぎると、


 読めなかったり、読み誤ったりして、ことばの認識を誤ることが多くなる可能性がある。それだけでなく、漢字負     P86
 担が多くなることは、漢語の増加につながるから、読みの遅進児を作ると同時に理解困難をきたす恐れもある。
H 語い負担が重すぎる。
  これも古くから語い負担が童すぎると、理解困難をきたすといわれている。それは、意味のわからない語句が一
 ページに、五語も六語もあると、理解しにくいということである。むずかしいことばがたくさん出てくれば、理解
 困難をきたすのは当然である。
I 文章や作品の内容・構成・表現がむずかしい。
  教材としての文章や作品は、その難易度が児童の国語能力の発達に応じているべきであるが、実状は必ずしもそ
 うなっていない。その内容が高度な知識や情報、恩悪や心情で、児童の興味や能力を越えたものもある。また、そ
 の叙述・表現法がむずかしかったり、文章構成やストーリーの展開などが複雑であったりで、これも嬰出の能力に
 応じていないものがある。それがまた学習に不適応なものを作る要因になっている。
 以上、学習困難をきたし、学習不適応児を作り出す要因を、児童の学習の構え・態度、学習能力などの面から、ま
た教材の難易、その他の面から、それぞれ分析してあげてみた。学習指導の実際に当たって、教師はこれらの要因の
うちのどれが中心になっているかを発見するだけの準備を整えておかなければならない。

 2 学習の調節条件を設定する                                      

 このようなさまざまな要因が働いて、学習困難をきたし、学習に不適応の児童ができる。そこで、その学習に適応
できなかった原因がわかったら、学習に成功して目標を買う得し、学習技能を正しく身につけるためには、どんなこ
とに注意して読み直しをしたらいいかを考えて、調節条件を設定する。
@ 児童は、一人一人学習評価の結果、どこをどのようにまちがえているか、どんなことを読み落としているか、ど
 んなことを余分に読み加えているかなどが詳細にわかる。そこで、その不適切な読み方は、どうして起こったのか


 を反省し、その原因を明らかにする。つまずきの原因がわかったら、それに応じて、どんな点に注意して読み直し     P87
 たらいいかを考えて、各自調節条件を設定して、(読み直し方を考えて)調節読みをする。
  これは、個々の児童が学習結果の状況に応じて、個々に自分で学習の調節を行う方法で、学習課題の自己設定・
 自己学習・自己評価・自己調節・目標到達という学習の流れに沿って行われる。いわゆる学習のコントロールシス
 テムに即して行われる学習となる。
  なお、この場合設定される調節条件というのは、「課題をもう一度確認し直して、何がどう変わったかというこ
 とを考えながら読み直す」「文のなかの『これら』ということばが何をさしているかを確かめながら読み直す」「要
 点と細部はどんな関係になっているかを考えながら読み直す」「気持ちがどのように変わっていったかを考えなが
 ら読み直す」「どうしたので、どうなったというように筋道を立てて読み直す」などという読み直す条件である。
A 学習のつまずき、学習不適応の要因が同じようなパターンの者は、グループを作りグループごとに調節条件を考
 えて設定する。前にも述べたことであるが、普通の学校では、同じ教材で、同じ学習技能を、同じ方法で学習する
 場合には、学習の結果やつまずきに、いくつかのパターンができることは、経験上認められることである。そこで、
 その誤りの類型に応じた調節条件を設定するから、調節条件もまたパターン化される。些通りくらいのパターンが 
 できるかは、学習教材と学習技能と学習者の実態とによってあらかじめ想定することもできる。特に、経験豊かな
 教師には、どの児童はどんな誤りを犯すとか、起こしやすいとか、また、それがどんなパターンであるかを推定す
 ることも可能である。このような場合には、それぞれのグループで話し合って調節条件を設定した上で、調節読み
 をすることになる。
B 教師が調節条件を決めて示す。これは、学習の評価の結果にもとづいて、教師が調節条件を設定してやり、児童
 は、それにもとづいて調節読みをする。
 能力の低い児童では、自分の評価の結果の状況を自覚し、理解することも困難だし、調節読みの条件を自分で設定
 することはなおむずかしい。こんな場合には、教師が調節条件を設定して 板書したり、カードに書いて示したり


して明らかにし、説明を加えて納得させたうえで調節読みをさせる。                          P88
 また、場合によっては、学習単位ごとに、学習のプログラムを設定し、学習評価の過程・評価の基準を示し、そ
の結果に応じた調節条件を示した学習シートを作って学習させる。

     五 学習調節を行う

 学習調節の条件が設定されたら、次は、その条件のもとに調節学習・調節読みを行う。
1 調節条件に従って読む
  各自、調節条件を確認してから読み直す。読み直した結果、誤りやつまずきが確認される。同時に正しい理解が
 得られる。
2 学習結果を修正する
  学習シートやノートなどに記録されている最初の自己学習の結果について、加除し、正誤し修正する。
3 目標到達状況を確認する
  調節学習の類型ごとに、修正した学習シートをOHPで投映する。投映した学習結果ごとに、説明したり、話し
 合ったりして学習に成功したことを確認する。それに従って、同じパターンのものは、それぞれ自分の学習の結果
 を碓認する。
 この調節学習と、その結果の処理に当たっては、次の点に留意して機械的な学習におちいらないように注意するこ
とが重要である。
 @ 学習活動の結果、学習目標に到達できたかどうか、その状況をよく理解していること。どこをどう誤ったのか
  何が余分に加わったのか、どんなことが読み落とされたのか。要点と細分との関係を読み誤っていた。要点と細
  部とを読み誤っていたなどというように、具体的に明確に理解していること。


 A 学習に成功しなかった(学習のつまずき)要因を確かに自覚していること。課題の通りに読まなかった。指示     P89
  語の指示するものを明確に押さえなかった。筋道を立てて読まなかった。早合点した。細かいところに注意して
  読まなかったなど、よく理解していること。
 B 調節条件とそれによって読む読み方を理解すること。設定された調節条件が、何を意味しているか、それに従
  って、どのように読めばいいか、その読み方を知っていることが大事である。
 C 学習の結果の状況をよく知って、「よし、今度こそ成功するぞ」という、自己完成の意欲、学習の意欲を喚起
  することが特に大事である。学習結果の状況の自覚を、いわゆる学習動機の喚起にまで高めること。
 D 学習調節の結果、学習に成功した喜び、満足感を十分に味わせること。劣等感を持たせてはならないこと。

     六 学習に成功したものの学習指導をどうするか

 以上、学習に不適応のものが、どのように学習を調節するかを中心に述べてきたので、次には、学習に成功して、
学習調節を行う必要のないものの学習をどうするかを考えてみる。これは、同じ学習目標・学習内容・学習活動・学
習教材によって、一斉学習を中心としている教室の現状では、避けて通ることのできない問題である。
 ところで、学習に成功したものが、次に学習する事項には、どんなものがあるか考えてみる。きわめて一般的な考
え方であるが、
 @ 次の段階の学習に進む。
 A 学習した結果を再確認するためにさらに読む。課題を変えて読む。
 B 発展的な学習をする。
 C 質的に高い学習をする。学習の深化を図る。
 D 練習的な学習をする。


などが考えられる。@は「展開学習」Bは「確認学習」Cは「発展学習」Cは「深化学習」Dは「練習学習」という     P90
ことになる。
 @は、さらに学習を進めるので、能力に応じた学習が可能になって、最も適切な学習と言える。しかし、現状では
グループ学習、個人カリキュラムによる学習などを取らず、一斉学習が中心になっているから、学習が一線に揃わな
い結果になる。
 Cは、よく教室で行われる方法で、いわゆる児童を遊ばせないためのものであるから、児童の学習意欲のない・あ
まり意味のないものである。ただし、同じ教材でも、観点を変え、課題を変えて読ませる工夫をすればよい。
 B以下は、中心的な学習の流れからみれば、ある意味の足踏み学習になるが、それぞれ能力に応じた学習は可能に
なる。
 現状のように、同一教材を使い、同一のカリキュラムによって、同一時間内で、一斉学習をしているのでは、実際
問題として、@の方法をとることは困難である。自然それ以外の方法をとることになる。では、どの方法が適切で、
生産的であるかを考えてみる。
 まず、@〜Dでは、貝体的にどんな学習活動が行われ、それによって、どんな技能が学習され、どんな価値が身に
つくか、また、そこまでの学習に対してどんな意味があるか、そこまでの学習の過程に対してどんなプラス・マイナ
スがあるかなどについて考察する必要がある。そこで、今は、Cの方法について少し詳しく考えてみるが、質的に学
習を深めるにはどんな方法があるだろうか。
 @ 読みとったものを変換する学習
 この学習では、たとえば、要点を読みとってカードに書いてあるものについて、それが教科書の段落の要点文・キ
ーセンテンスそのままである場合は、それを縮約したり、自分のことばで雷き直したり、あるいは、文型を変換した
りして書く。この学習では、いわゆる構造変換の技能が伸ばされ、理解が正確になったり深まったりする。
 A 読みとったものを概念化したり貝体化したりする学習


 読みとったものが、いくつかの貝体的な事実である場合には、それらの共通な点をまとめて、概念化したり、抽象     P91
化したり法則化したりする。また、読みとった事項が抽象的なものである場合には、それをさらに具体化した事実や
同類の事実をあげてみる。このような学習を適して概念的思考力を育てたり、貝体的思考力を伸ばしたりするととも
に、理解をいっそう深めることができる。
 B 読みとった事項について異体例をあげる学習
 読みとった事項・知識や情報について、具体的な例をあげる。読みとった事項に対応する例をあげることは、理解
をいっそう確かにし深めることができる。
 C 読みとった事項を解説する学習
 読みとった事項そのものについて解説したり、なぜこのように読みとったかを解説したり、読みとった事項を裏付
ける表現、叙述について解説したりする。このように、解説を話したり習いたりすることを適して理解を確かにすることができる。
 D 読みとったことを組織する学習
 読みとった事柄相互の関係を考えたり、読みとったことを関係づけたり、組織したりする。
 最後に上の@について異体例をあげてみる。これは、構造変換による理解の深化、創造性の開発をねらっている。
この方法は、比較的時間もかからず、方法も簡単で、筋道がたっていて効果的な方法である。三年の例、学習の課題
は「シロアリのありづかは、どんな形をしていて、どのくらいのかたさなのだろうか。」で、これに従って読んだ結
果「とうのような形で、手でこわそうとしても、こわれないはどのかたさです。」と、学習シートに書いた。このよ
うに書いた児童がたくさんいる。そこで、他の児童が、調節読みをしている問に、これらの児童は、次の学習課題に
従って学習をした。
 @ 「シロアリのありづかです。」を文の終わりにして書きなおしましょう。
 A 「シロアリのありづかは」を文の中に入れて書き直しましょう。


この課題に対して、児童は、自分で最初書いた文を次のように書き直して構造変換をした。                P92
 @ とうのような形で、手でこわそうとしてもこわれないほどかたいのが、シロアリのありづかです。
 A とうのような形をしたシロアリのありづかは、チンパンジーが手でこわそうとしてもこわれないはどのかたさ
  です。
 こうして、理解を確かにし深める学習をさせれば、学習に成功したものも、別に学習の進度を変えることなく、さ
らに高度の学習をすることができる。要するに、学習に成功した者には、このような学習を計画することによって、
特に学習の進度を進めなくても、学習の過程を変えなくても、児童は、さらに学習を深め広げることが可能になる。

 X 完全習得をめざす授業はどのように設計するか                                  P93

     一 単元のシステム設計をする

 1 単元の決定

 指導する単元は「書いてあることを正しく」、教材は「手のしごと(まえだかつや)」(光村本二年下巻)である。
 この単元は、いわゆる「技能嬰空「書いてあることを正しく」で、「手のしごと(まえだかつや)」は、単元の学
習に使う教材であることを確認する。

 2 単元のシステムを考える

 そこで、この単元を学習する目標(価値目標)と、学習する内容(態度・技能・言語事項)と、学習の仲だちとな
る教材と、学習する方法(学習活動)と、さらに学習の結果を評価する観点などを考えあって、次のようにシステム
化する。もちろん、このシステムは、目標・内容・方法・資料・評価が、相互に有機的関連を持つように編成されて
いる。
 単元の目標は、機能的国語教育の立場から価値目標を立てることとし、その学習の終わりには到達できる、いわゆ
る到達目標として立てる。この単元の中心技能は、内容を正しく理解するための「文章の叙述に即して正しく内容を


読みとる技能」である。そこで、その技能を働かせて、教材の内容「手の機能(仕事)」を正しく読みとった結果身     P94
につく知識とともに、それに対して喚起される興味関心を目標として具体的に書くことにする。これが、この単元の
学習によって児童の人間性を培う内容的価値であり、価値目標である。なお、わたしどもは、いわゆる「技能目標」
を学習の目標としては立てない立場をとっている。技能目標として立てる「技能」は、単元の目標を達成する過程で
学習されるものであるから、それは言語事項とともに「学習内容」の中に的確に位置づけておくことにしている。

  単元のシステム


 単元の学習内容は、教材「手のしごと」を媒介として、単元の学習目標に到達する過程で学習する態度・技能・言
語事項である。そこで、教材「手のしごと」を読んで内容を正しく読みとる態度・技能は、二年生では指導要領に、


「文章の叙述に即して正しく内容を読みとろうとすること(態度)」「文章の叙述に即して正しく内容を読みとるこ     P95
と(技能)」と「文章の内容を考えながら音読すること(技能)」とある。これが、二年生の基本的態度・技能であ
るから、まず、これを内容として設定する。
 次に、言語事項であるが、これは、教材「手のしごと」を読んでみて、そこで、適切に、能率的に学習できる事項
を選ぶ。これは思いつきでなく計画的に選ぶ必要がある。
 指示語は、この教材に提出されているからというだけでなく、「内容を正しく理解する」上に、指示語の指示して
いる事項をはっきりと意識させることが大事であるから運んだ。
 また、内容を正しく理解する上に必要な文型を取り上げているが、これは、「○○に(を)、○○するときは、○
○を、○○する。」という文型である。これは手の仕事を叙述する文型で.くり返し使われている文型であるから、
内容を考えながら音読したり、内容を正しく理解したりする折に適切に指導できる。
 漢字や語句は、教材について確実に指定する。このように、学習内容は、二年生の学習能力と、教材と学習目標と
を考え合わせて適切に設定する。
 学習方法は、単元の学習目標に到達する過程で、態度・技能・言語事項を習得するための学習活動を組織したもの
である。わたしどもは、読解の過程を、直観過程(直観的に読む過程)、分析過程(分析的に読む過程)、体制過程
(体制的に読む過程)の三過程としているので、それぞれの過程で指導する基本的技能を学習するための基本的な学
習活動を選択し組織する。
 学習評価は、単元の学習の読解過程で行う基本的技能を学習するための基本的な学習活動ごとに行うものである。
したがって、単元の目標を分析した、各過程での目標に照らして評価を行うことになる。本来、学習活動の結果を評
価するためには、評価の観点・基準・方法を明らかにしなければならないものであるが、ここでは、評価の観点だけ
をあげた。評価の基準(到達基準)・方法については、単元展開のシステムの中に記述してあるので参照されたい。
 以上の手続きを経て、単元のシステムは編成されたものである。


     二 教材の機能・システムを研究する                                   P96

 完全習得をめざす学習を設計するためには、教材研究は特に大事である。大事だというのは、この教材によって、
どんな知識をどこまで得させればいいかを明確にする。習得すべき知識の限界・限度を明らかにする必要があるから
である。
 また、この教材によって、どんな技能をどこまで伸ばす(どんな内容をどこまで理解させるか)か、どんな文法事
項について、どこまで学習させるか、どんな語句についてどこまで理解させるか、どんな漢字をどこまで読めるよう
にするかなど、学習する技能・言語事項の選択とその習得すべき限度・基準を明確に押さえる必要があるからである。
 さらに、この教材は、どんな過程をたどって、どのように構成されているか、その構造過程をも確かに編成してお
かなければならない。そこに教材研究の新しい領域が考えられる。

 1 教材『手のしごと』 まえだ かつや

@ わたしたちの 手は、朝 おきてから 夜 ねるまで、さまざまな しごとを しています。ゆっくり 休んで
 いる ときが ない くらいです。手は いったい どんな しごとを して いるのでしょう。
A 顔を あらう ときは、手で 水を すくいます。ごほんを 食べる ときは、茶わんや はしを もちます。
 このすくう、もつと いうのは 手の しごとです。
B 自てん車に のるときは、ハンドルを にぎります。てつぼうで あそぶ ときにも、てつぼうを しっかり
 にぎります。手は、にぎると いう しごとも しています。
C えんぴつを もって 字を 書くとき、はんたいの 手は、どう して いるでしょう。ノートや 紙が うご
 かないように、おさえて いますね。手は、おさえると いう しごとも しています。


D けしゴムを つかった 後に 出る くずは、手で はらって きれいに します。ズボンに ついた どろも.    P97
 手で はらいおとします。手は、はらうと いう しごとも しています。
E また、手は、何も して いないようで、しごとを して いる ことが あります。歩いたり、走ったり す
 るのは 足の しごとですが、そのとき、手は どうして いますか。足の うどきに あわせて、しぜんに 
 手も うごかして いるでしょう。手は 体の つりあいを とると いう しごとも しています。
F このほかにも、手には とても たいせつな しごとが あります。
G 友だちを よぶとき、「早くおいで。」ということばだけでも 分かりますが、手を ふると、「早く 来て 
 ほしい。」と いう 気もちが、あいてに よく つたわります。
H けんかの後で、なかなおりの あくしゅを するのも、手の しごとです。そうすると、「もう けんかは 
 よそう。」とか、「またなかよくしよう。」と いう気もちが、よく つたわります。
I また、友だちと わかれる ときは、「さようなら。」と いいながら 手を ふるでしょう。
J このように、手を いろいろに うどかして、気もちを つたえるのも、手の たいせつな しごとなのです。

 2 教材研究の方法

 (1)人間性に培う機能

 この「手のしごと」は、いわゆる知識教材である。読み手に、手はこんな仕事(機能)をするということを知らせ
手の機能に、改めて関心、興味を持たせ、知識を得ることの喜びを感じさせる教材である。
 その知識というのは、「手は、すくう、もつ、にざる、おさえる、はらう、体のつりあいをとるというようなしご
とのはかに、手をふって『早く来てほしい』、あくしゅをして『けんかはよそう、またなかよくしよう』、手をふっ 
て『さようなら』というように気もちをつたえるなどのしごともする。」というようなものである。


 この知識のあらましを理解したり、文章の叙述に即して知識を正しく理解したりすることで、「文章の内容を正し     P98
く読みとる」技能を学習する。

 (2) 国語能力を形成する権能

 @ 「手のしごと」の文章の構造過程
 A この教材によって学習する内容の設定
 次のような教材の構造過程を作成してみると、各段落の構成、つまり、要点と細部との関係がはっきりする。
 前半の各段落では、初めに手の貝体的な仕事が書かれ、それをまとめて、抽象化した「すくう、もつ、にざる・」
というような仕事が述べられている。後半の段落では、初めに貝体的な手の仕事が膏かれ、次に「気持ちがつたわる」
という機能が述べられている。このように構成されている段落が、1〜6まで、7〜11までと、大きく二つの部分
(大段落)に分かれて文章全体を構成している。このうち、1は課題提示、7は話題転換のはたらきをし、2〜6、
8〜10は、それぞれ並立の関係で速接している。最後の11は、8〜10までの段落を総括している。
                                                         P99-100
   (拡大図は画像内をクリックしてください)

 ところで、この2〜6までの小段落の要点をまとめて要約すると、前半の大段落の要点がわかり、後半の8〜10の
小段落の要点をまとめて要約すると、後半の大段落の要点がわかる。さらに、この二つの大段落の要点をまとめて要
約すると、この文章の中心的事項を、明確に押さえることができる。
 そこで、この文章全体を音読しながら直観的に「手の仕事にはすくう、もつ、にぎる・・などがある。」ことを読み
とって、「文章の内容のあらましを読みとる技能」を学習する。
 次に読みとった手の仕事のあらまし(抽象化した手の仕事)をもとにして、その手の仕事ごとに、その手の具体的
な仕事を読みとる。この学習を通して「文章の叙述に即して、正しく内容を読みとる技能、態度」を学習する。
 このように内容を読みとっていく過程で、そこに招き山されている言語事項を学習する。この言語事項は教材研究


をするとき、そこで学習する漢字(新出漢字・読替漢字)、語句(読むために必要な語句、理解語い)、文法(指示     P101
語・文型)なども、文章に即して選び出す。その際、特にそこで学習する必要がある、適切に指導できる、能率的に
学習できる言語事項を選んで計画的に指導する必要がある。しかも、それらについての指導法も明確にしておくこと
が大事である。こうして、この教材によって学習する方法、技能、言語事項を、児童の学習能力の実態に即して、明
確に設定することができる。単元が構成され、教材研究ができると、今度は学習目標細目分類表を作る。

     三 学習目標の分析をする――その手順・方法

 この単元の学習目標は「『手のしごと』を読んで内容を正しく理解し、手の仕事に対する確かな知識を得、関心興
味を増すことができる。」という価値目標である。この日標は、この単元の学習の究極の目標であるから、一気にこ
こまで到達するというわけには行かない。仮りに七時間かけてこの単元を学習するとすれば、一時開あるいは二時間
ごとに、到達基準をはっきりさせた行動日標を立てる。つまり、究極の目標に到達するまでの過程をいくつかに分節
し(学習単位を設定し)、その過程ごとに、そこで到達すべき行動目標を立てる。そして、それらの行動目標を順次
達成していって、最後に究極の単元目標に到達することになる。
 このように、単元の目標を設定し、そこに到達する過程、過程で、それぞれ到達すべき目標を行動目標として設定
して系統化したものが、目標細目分類表である。
 ところで、学習指導システムを、目標・内容・方法とし、それらの連関において目標分析を行うと、容易に、しか
も的確に、手落ちなく各過程の目標を設定することができる。そのためには、縦軸に、単元の目標(価値目標)、単
元の内容(態度・技能工言語事項)をとる。横軸には、読解学習の過程を、直観過程(直観読み)、分析過程(分析
読み)、体制過程(体制読み)としてとり、それぞれの過程に応じた学習単位、学習時間、学習目標(行動目標)を
とってマトリクスを作る。


 その場倉、縦軸にとる態度・技能・言語事項は、教材に即して、異体的に記述する。たとえば、単元のシステムの     P102-103
内容として「文章の叙述に即して正しく内容を読みとること」を「読み加え、読み落としをせず書いてあるとおりに
正しく内容を読みとること」とする。つまり、それぞれの技能・言語事項について、到達基準がわかるように、教材
に即して具体的に記述する。
 なお、すでに作成した「単元のシステム」と「教材の構造過程」とを照合しながら、学習単位を設定したり、態度
・技能・言語事項を設定したりすると、容易に目標細目分類表を作成することができる。
 このような目標細目分類表(左表)を作成すると
@ 読解の各過程(直観的に読む過程・分析的に読む過程・体制的に読む過程)で到達すべき目標として行動目標を
 容易に設定することができる。というのは表を見るとわかるように、読解の各過程に応じて、学習単位を明確に押
さえ、そこで学習する態度・技能・言語事項が、異体的に明確に示されているからである。
A 読解の各過程の行動目標を次々と達成していくと究極の目標(単元の目標)におのずから到達することがわかる。



B 学習内容としての態度・技能・言語事項が、それぞれ具体的に、教材に即してここまで学習させるという到達度、     P104
 到達基準として示されるように、工夫されている。たとえば「指示語の役割と使い方に気付く」という指導要領に
示されている言語事項を、「指示語の指示する事柄がわかる」というように貝体的に示し、さらに、どの学習単位の
中で、どの指示語について学習するかが具体的に明確に示されている。指示事項はこれだと明確にわかるところから
その役割について気付いていくからである。
C 一時間、一時間の学習目標(行動目標)と、学習範囲、そこで学習する態度・技能・言語事項等の学習内容と、
 その内容を学習する方法、学習方法(基本的学習活動)とが明確に押さえられるから、学習指導の全体計画・単元 
 展開のシステムを容易に編成することができる。
 この目標細目分類表ができると、次は単元展間の指導計画・つま り「単元展開のシステム」を編成する。

     四 単元展開のシステムを編成する

 すでに、目標細目分類表を作成する際に、単元を分節して学習単位を設定し、行動目標を立て、指導する態度・技                  
能・言語事項を押さえ、学習時間を割り当ててあるから、容易に単元展開のシステムを編成することができる。が、
ここで新たにつけ加えることは評価の観点・基準・方法である。観点は行動目標に示されている技能、基準は行動目
標に示されている外部行動化した内容事項である。方法は、見本法・条件法などと自己評価・グループ評価・全体評
価などである。
 次の単元展開のシステムは、直観読み・分析読み・体制読みの過程をたどって、九時間かけて学習するように計画
されている。目標も内容もすべて、目標細目分類表によっている。
_                                                         P105-106
   過程        行動目標         △態度○技能・言語     学習活動        学習評価        
直感読み   全文のあらましを読みとって「手の  ○内容を考えながら音  1読むための課題  1基準−すくう・もつ・に
(2時間)  しごとには、すくう・もつ・にざる  読すること       を立てる      ぎる・おさえる・はらう・
       おさえる・はらう・体のつり合いを  ○内容のあらましを読  2内容を考えなが  ・体のつり合いをとる・手
       とるしごとや手をふる・あくしゅを  みとること       ら音読する     をふる・あくしゅする
       するなど、気もちをつたえるしごと  ・新出漢字を読むこと  3読みとったあら  2方法−全体・相互・教師
       がある。」と書くことができる                ましを書く                   _
       二〜六の段落を書いてあるりに読   △書いてある通りに正  1段落ごとに読む  1観点−読み加え読み落と
分析読み   みとって、次のように書くことがで  しく読みとろうとする  課題を設定する   しをせず書いてあるとおり
(3時間)  きる。               こと          2内容を考えなが  に正しく読む技能
       ・すくうは、顔をあらうとき手で水  ○何が雷いてあるかを  ら音読する     2基準−行動目標に示され
       をすくうしごとです。・もつはごは  考えながら音読するこ  3読みとったこと  ている内容事項
       んをたべるとき茶わんやはしをもつ  と           を書く       3方法。
       しごとです。・にぎるは自てん車に  ○読み加え読み落とし  4書いた文を意味   o条件法−○○は、どん
       のるときハンドルをにぎり、てつぼ  をせず書いてある通り  を変えないで違っ    なとき、何を、どうす
       うであそぶときてつぼうをにぎるし  に正しく読みとること  た文型の文に書き    る。
       ごとです。・おさえるはノートや紙  ・〇を○するとき○を  直す         o 相互評価o自己評価   
       がうごかないようにおさえるしごと  ○しますの文型に気付  5読んでわかった  (評価の基準は条件法によ
       です。・はらうはけしゴムのくずを  くこと          事柄を整理する   って教師が提示する
       手ではらったり、ズボンのどろを手  ・指示語の指示する事             児童はそれにもとづいて
       ではらいおとしたりするしごとです。 柄がわかること                自己評価をする)
       ・体のつり合いをとるのは足のうご  ・新しい語句の意味が
       きにあわせて手をうごかすしごとで  わかること
       す。  
                                                             _
分析読み   七〜一一段落を背いてある通りに正  △書いてある通りに正  1段落ごとに読む  1観点−読み加え、読み落
(2時間)  しく読みとって次のように書くこと  しく読みとろうとする  課題を設定する   としをせず書いてある通り
       ができる。             こと          2内容を考えなが  に正しく読みとる技能
       ・友だちをよぶとき「早くおいで」  ○何が書いてあるかを  ら音読する     2基準−行動目標に示され
       と手をふると「早く米てほしい」と  考えながら音読するこ  3読みとったこと  ている内容事項。
       いう気もちがあいてによくつたわる。 と           を書く        o条件法−@どんな時、
       ・けんかのあとであくしゅをすると  ○読み加え読み落とし  4読みとったこと   どうすると、どんな気も
       「もうけんかはよそう」「またなか  をせず書いてある通り  について話し合っ   ちが、どうする
       よくしよう」という気もちがよくつ  に正しく読みとること  て、○○のとき、   Aどんな時、何をすると、
       たわる。・友だちとわかれるときも  ・指示語の指示する事  〇〇すると、○○   どんな気もちが、どうす
       手をふる。・手をいろいろにうごか  柄がわかること     が、どうするとい   る
       して気持ちをつたえるのも手のたい  ・新しい語句の意味が  う文型を作る     B見本法
       せつなせつなしごとです。      わかること       5読みとった事柄   o相互評価o自己評価
                        _            をまとめる                   _
       全文を読んでわかった手の仕事をま  △読みとったことをま  1仕事のまとめ方  1観点―読みとったことを
体制読み   とめて次のように書くことができる。 とめようとすること   を話し合う     整理する技能
(2時間)   しごと どんなとき手でどうする  ○読みとった事柄を整  2表の書き方を決  2基準−行動目標の表解。
        すくう 顔をあらうときは手で水  理して表にすること   める         oさまざまな仕事と、気
        _   をすくう      _              3わかった事柄を   もちを伝える仕事にまと
        手をふ 友達をよぶときは手で               表に整理する     める。
        る   ふって気持ちをつたえる              4まとめた表につ   o 相互評価o自己評価
_                                    いて話し合う                   _
 評価は、学習活動が終わるごとに行うのであるが、ここに示された行動目標についての評価は、一時間の学習のあ     P107
とに行うのが原則であるが。しかし、一時間の学習過程の中に二三の学習活動が組織されている場合は、その活動ご
とに評価する。評価については、学習評価の欄に示されている、評価の観点と基準と方法とを設定する。基準は、行
動目標に示されている内容事項である。つまり、学習の結果そこに雷かれている内容事項の通りにできれば、学習に
成功し、所定の技能が習得されたと判断できる。そこで、評価する場合、この内容事項をそのまま提示するのが見本
法で、それを分析していくつかの条件として提示する方法が条件法である。
 こうして、単元展開のシステムを編成すると、次はこれにもとづいて、本時の授業を設計することになる。

     五 本時の授業を設計する

 以下、完全習得をめざす授業設計の手順・方法について考える。

 1 本時の学習指導システム

 (1) 本時の学習単位(第三、第四段落)教材「手のしこと(まえだかつや)」

 自てん車に.のる ときは、ハンドルを にぎります。てつぼうで あそぶ ときにも、てつぼうを しっかり
ぎります。手は、にざると いう しごとも しています。
 えんぴつを もって 字を 書く とき、はんたいの 手は、どう して いるでしょう。ノートや 紙が うご
かないように、おさえて いますね。手は、おさえると いう しごとも して います。


 (2) 叙述に即して正しく内容を読みとる技能の学習過程モデル                          P108

@ 叙述に即して内容を正しく読みとろうとする意欲を喚起する。−読む課題を設定する。
A 叙述に即して正しく読みとる方法を考える。−課題に対して大事な箇所に線を引く。線を引いたところをまとめ
 て書く。
B 叙述に即して内容を正しく読みとって書く。     C 学習の結果を評価する。
D 評価の結果の状況を自覚する。           E 評価の結果に対し調節条件を設定する。
F 調節条件によって調節する             G 読みとった事柄を確認する。

 (3) 本時の学習目棟(行動目標)

 第三、四段落を書いてある通りに正しく読みとって、次のように書くことができる。
o(にざるというしごとは)、自てん車にのるとき、ハンドルをにぎり、てつぼうであそぶとき、てつぼうをにぎる
 しごとです。
o(おさえるというしごとは)、えんぴつで書くとき、ノートや紙がうごかないようにおさえるしごとです。

 (4) 本時の学習指導過程の編成

 本時の学習指導過程は、この時間に学習する基本的技能である「叙述に即して内容を正しく読みとる技能」の学習
過程モデルを中心として編成する。
 完全習得をめざす授業では、まず、ここまで学習させるという学習の到達度を示すいわゆる到達目標を設定する。
それから目標に到達したかどうかを評価する基準、つまり到達基準を明らかにすることが大事である。ここでは、評
価基準(到達基準)を含む行動目標を設定してあるから、それをそのまま適用すればよい。


 次に重要なことは、行動目標をめがけて学習活動を行ったら、その学習の結果を一人一人適切に評価することであ     P109
る。評価の結果、行動目標に到達できない場合は、その結果を児童一人一人に自覚させ、読み直し、つまり調節読み
をするための条件を設定する。条件が設定できたら、それに従って調節読みをする。こうして評価をしては調節(フ
ィードバック)をする。この評価・調節をくり返すことによって、全員学習内容を習得し学習目標に到達させようと
いうのが、完全習得学習である。
 現状ではたくさんの問題があって、その研究は容易なことではないが、まず、到達目標(行動目標)を設定し、到
達基準(行動目標の評価基準)を明らかにし、評価・調節の方法を工夫し、これらの点から一歩一歩完全習得へと近
づこうというわけである。
 そこで、実際の指導に当たっては、
@ 児童の知的好奇心・興味・関心を刺激し、学習の意欲を最高度に喚起する方法を工夫する。
A 自己学習と共同学習を適切に組織して効率的な学習法を工夫する。
C 評価の結果の状況・情報によって、自己完成の意欲を喚起するなど学習動機を喚起する。
C 自己評価・自己調節の技術、学習過程を活用する技術を習得させるようにする。
E 学習に成功の喜びを味わわせるようにする。
など、取りあえず心がけるべき問題がある。次に学習指導過程をあげてみる。
1 学習目標を設定する
 学習目標は、学習課題として設定する。直観読みの学習ですでに「手のしごとには、にざる・おさえるなどがある」
あるいは「手は、にざる・おさえるなどのしごとをする」ことが明らかになっているのでそこから出発させる。そこ
で「手のにざる・おさえるという仕事はどんなことをする仕事か調べよう」というこの時間の学習課題を設定する。
2 学習方法を話し合ってきめる
 書いてある通りにまちがいなく読むにはどう読んだらいいか話し合って決める。この読み方については前に学習し


ているので、それを思い出させる。初め「にぎる」を勉強してから「おさえる」を勉強する。どんな仕事なのか考え     P110
ながら音読してから、仕事にサイドラインを引く。それからその部分をまとめて書く。どこまでか範囲を限定する。
3 内容を考えながら音読する
 @ 音読して、直観読みをして、押さえた「手は、にぎるというしごとをする。」を再確認する。(ノートに書き出す〕
 A 書き出した「手は、にざるというしごとをする。」と、初めに設定した課題とを結びつける。
4 課題に従って音読して、どんな仕事をしているかわかるところにサイドラインを引く。
5 さらに読み返して、サイドラインを引いた箇所を課題に合わせてノートに書き出す。
 @ 自てん車にのるときは、ハンドルをにざるしごとをします。
 A てつぼうであそぶときにも、てつぼうをにざるしごとをします。
6 評価する。―――@ 「自てん車にのるときは、ハンドルをにぎります」「てつぼうであそぶときにもてつぼう
 をにぎります。」をOHPで投映し、このように書いたものを確認する。
 A 次に、「手でにざるというしごとは、どんなことをするしごとか」(課題)をOHPで投映してこの課題の答
  えになっているかどうかを話し合う。みんなが書き出したのでは答えにならないことを自党させる。
7 調節条件を設定して調節読みをする。
 @ 課題を再確認して各自、自由に音読する。 A課題に合うように答えを書き直す。
8 評価する。―― @ 基準は「どんなとき」「なにを」「どうするしごとをする」の条件に合わせて評価する。
 B 自己評価をする。―自分の書いた文を読みながら、評価基準の条件ごとに赤まるで囲ませる。
 B 評価の結果を確認する。
9 目標に到達できなかった児童は集めて指導して、(さらに課題への答え方を考えさせて)正しい答えを書かせる
 ようにする。
10 内容を考えながら音読する。(第四段落)


 @ 音読して「手は、おさえるしごとをする。」ことを再碓認する。                         P111
 A 話し合って課題を設定する。「おさえるというしごとは、どんなとき・なにが、どうしないように、どうする
  しごとですか。」
11 課題に従って音読し、わかったことをノートに書く。
 @ 音読しながらサイドラインを引く。
 A サイドラインを引いたところをまとめて書く。「えんぴつで字を書くとき・ノートや紙をうどかさないように
  おさえるしごとです。」は評価する。
12 評価する
 @ 評価の基準「どんなとき」「なにが」「どうしないように」「どうするしごと」を提示する。
 A 「OHPで投映した児童の書いた例」を、右の基準で、全員で評価し(基準に従って○で囲んでいく)評価の
  方法を理解する。
 B 各色自己評価する。     C自己評価の結果を確認する。
13 調節条件を設定して調節読みをする。
 @ 調節読みをして修正する。
14 調節読みの結果を評価し確認する。
 @ 評価基準―見本法による。     A 見本に合わせ修正する。
15 第三段落、第四段落を内容を考えながら音読する。
16 学習を終える。
 以上のように、学習過程モデルを中心として、学習指導過程を編成する。到達目標、到達基準は、行動目標とその
評価基準として設定してある。完全習得学習で最も大事な評価・調節のコントロールシステムを、学習指導過程の中
に的確に位置づける必要がある。


 Y 完全習得学習の心理                            P112


     一 完全習得学習とそのシステム

 初めに完全習得学習とは何かについて簡潔に命題的に申し上げます。単元の学習、あるいは一時間の学習では、そ
れぞれここまで到達させるという明確な学習目標を立てて、その目標に向かって学習を進めていく。そして、どの児
童もみなその目標に到達できるように指導するのが完全習得学習です。たとえば、計画された学習内容、学習技能に
ついて、どの児童も完全にマスターさせる、完全に習熟させる、身につけることをねらった学習指導です。
 ところが、実際に学習する児童を考えてみると、いろいろな能力を持った児童、能力差があると考えられる児童が
一クラスの中に組織されています。それは現実の問題として無視することはできません。たとえば、児童の中には、
自己学習をし、自己評価をし、その評価の結果にもとづいて自己調節をして、完全にある技能を習得することのでき
る、自己学習を中心にして目標に到達できる、そういう種類の児童もいます。それから、自己学習だけでは十分に学
習できない、そこに共同学習、言い換えると、児童相互に考え合い協議し合って、学習目標に到達する、そういう児
童もいます。つまり、自己学習だけでは、十分学習できないところは、共同学習によって、いわば、自己学習と共同
学習とによって、初めて目標に到達できる児童もいます。また、自己学習や共同学習だけでは、目標に到達する可能
性の少ない児童もいます。先生が教え、児童が教えることによって、ようやく目標に到達することができる児童もい


ます。ですから、現在のようなクラス構成では、このように異なった学習条件をもった三種類の(実際にはもっと複     P113
雑な)児童がいっしょにいて、同じ学習目標に向かって学習を進めていくことになります。
 したがって、同じカリキュラムによって一斉に学習する中で、自己学習と共同学習と指導教授とがはどよく調和の
とれた形で進行しないと、完全学習は困難です。このことをまず考えておかなければなりません。

     二 完全習得学習過程のシステムとその心理

 (一) 主体的学習

 1 自主的・棟極的態度−学習能力の完全発揮

 このような状況のもとで学習を進めるのですから、大事なことは、すべての学習が主体的に行われるようにするこ
とです。それは、完全習得学習における根本的な本質的な問題です。完全に学習内容を習得する、技能をマスターす
るのですから、いやいやながら、強制されて学習を進めていくようでは、学習は成り立ちません。主体的に学習する
というのは、基本的には自主性を発揮して学習する態度、積極的に能動的に学習する態度、それらに嘉づけられ、保
証されて、それぞれの技能を完全に発揮することができるような学習状況のもとで学習することです。
 そういう状況のもとで学習が進められなければ、すべての児童が一様に目標を達成することは困難だと思います。

 2 学習目標・学習方法・学習行動・学習評価視節

 ところで、どの児童も学習目標に完全に到達させるようにするためには、まず第一に学習目標を明確に立てます。
学習目標が立てられたら、その目標を達成するための学習方法を、児童たち自身が考えて確立します。その方法に従
って自主的・積極的に学習活動を行う。学習活動をしたら、その学習の結果を評価します。評価の基準は児童たちが


話し合って決め、それに従って自己評価をします。評価の結果にもとづいて学習を進めたり、学習調節をしたりする     P114
とその結果、学習目標に到達することができます。
 このような過程をたどって学習させると、児童が十分に学習能力を発揮して、それぞれ学習目標に到達するように
なることが期待されます。

 (二) 目標の自覚−関心・興味・必要・知的好奇心

 ところで、児童たちに学習の目標を明確に自覚させ意識化させるにはどうしたらいいか。これも、これまで実験し
てきたように、学習対象・学習内容に対して、関心をもっている。興味をいだいている。あるいは、それを学習する
必要性に迫られている。必要性を自覚している。そのような関心や興味や必要から出発して学習目標を立てる。目標
を自覚することが第一であります。そのような態度で学習に立ち向かうのが、いわゆる自主的、精極的な態度で勉強
するということです。
 ところが、それは学習の出発に当たって考えられることですが、学習の過程でも、学習が深まるにつれて、内容の
理解も深まってきますから、学習への興味もいっそう高まっています。つまり、二次的興味が喚起されます。学習を
始めるに当たって持つ興味が−主として題材に対する興味ですが−一次的興味であるのに対して、学習の過程で、学
習が深まり、理解が深まるにつれて一段と高まる興味、あるいは、新たに喚起される、開発される興味が、二次的興
味であります。
 学習は、学習前にもっている知識や情報から出発します。ここまではわかっている。しかし、この先はまだ全くわ
からない。この先はどうなるのだろうというように、自分がもっている知識よりもさらに深く、さらに碓かな理解を
得ようという目標を明確に意識するところに、積極的な自主的な学習は行われるものです。また、学習は、その背後
に児童がもっている知的好奇心が活発に働かないと、自発的に、精極的に進めるようにはなりません。


 このように、児童が学習対象に対し、自主的に、積極的に立ち向かって、このように学習しようという目標を明確     P115
に立てることが大事です。ところで、学習に当たって、学習の意欲・欲求を喚起しながら、開発しながら学習を進め
るには、その根底に学習の課題が確立していなければなりません。

 (三) 学習課題の設定の心理

 そこで、学習活動を始める動因となる学習課題の設定が問題になってきます。学習課題の設定となりますと、まず、
教材の学習に入る場合に、説明文ですと、多くは第一段落に課題が設定されていたり、話題が提示されていたりしま
す。物語ですと、初めに紹介語りがあって、物語の人物の名前、性質・性格・生活やその背景の状況などが紹介され
ています。それを読みますと、これから説明しようとする内容についての興味や関心が喚起されますから、そこに学
習の課題を設定する契機があります。そこに注意してこれまで学習課題を設定してきました。また、すでに学習対象
に対してある程度理解し知識をもっている場合には、先はど話しましたように、その理解から出発して課題を設定し
てきました。
 そういうことで、初めに直観的に読んで、文章に書かれている概略を理解して内容の見通しを立てます。次の学習
に入るときには、直観的な学習によって得た知識・理解、そこから学習の課題を設定しました。これらのことはこれ
までにすべて実験してきました。そこで設定する学習の課題というのは、学習の目標をめがけて、目標が達成できる
ように設定しなければなりません。
 最初に立てた目標、指導案に立ててあるような目標−行動目標をそのまま児童たちに提示するわけにはいきません。
そこで、行動目標に到達し、それを牲得するためには、どんな課題を立てて学習したらいいかを考えさせます。
ですから、当然その課題によって学習を進めていけば、行動目標に到達できる、迫ることができる課題を設定するこ
とが大事になります。


 そのために、これまでに理解したこと、すでに持っている知識・経験にもとづいて学習課題を設定してきましたが     P116
その学習課題にもとづく学習によって、行動日標に到達するという意識づけが、これまでは不十分だったと思います。
ですから、当然そこに考えられる学習課題というのは、それを解決すれば行動目標に到達できる、そういう課題を設
定する必要があります。では、その課題というのはどんな課題でしょう。

 (四) 学習課題の心理と論理

 学習課題は、学習能力の発達、あるいは思考・認識の発達に応じて考える必要があります。というのは、結局は学
習課題を設定し、学習課題に従って学習を進めるということは、学習課題に従って考えるということです。学習課題
に従って認識していくということです。ですから、課題を解決するために行われる技能行使の能力・思考・認識の発
達の度合いを考えないわけにはいきません。
 そこで、低学年の思考力はどういう特性をもっているかを考えてみます。まず、思考の特性として、思考は課題が
ないと働かないということがあります。いわゆる思考の課題性です。ただ考えろ、考えろと言っても、思考は有効に
は働きません。学習対象について、どう考えたらいいか、どのように理解したらいいか、学習課題をはっきりもって、
それを解決しようという債極的な意欲が起こらないと、その解決に必要な有効適切な思考は働きません。そこで、当
然そこに示される課題は、それぞれの児童の思考を刺激するものでなければなりません。それが思考のよりどころ、
そこから思考が働くようなものでなければなりません。
 そうすると、低学年の学習課題は、−思考が包括的であるし、貝体的であるから、分析的思考・抽象的思考は困難
である。物に即し、課題に即して考える、たとえば、何かを数える場合、概念で数えることはなかなかむずかしい。
一々指を折って数えるとか、具体物に即して一つ二つと数えるとか、あるいは、Oを雷きながら数えるなど貝体的な
記号を介して数える、これが思考の即物性であります。−それに即して貝体的に考えるようなものでなければなりま
せん。つまり、文章の叙述に即して臭体的に考えていく。そうしないと、書いてある事柄が理解できない。たとえば


情報の学習などで、読む観点を具体的に課題として提示して文章を読ませて考えさせます。そうすると学習が具体的     P117
になってうまく進められます。
 このように、即物的・貝体的に思考を働かせて読むのは低学年ですが、中学年になりますと、そのような即物的な
思考を進めるような課題では、読むことを適して十分に思考を働かせることはできません。中学年になると、抽象的
な理解がだんだん進むようになります。順序的思考・線条的思考から、もっと平面的な思考、場面的な思考へと進ん
でいきます。
 具体的な個々の事実の理解から、それらの個々の事実が共通に表す意味、たとえば、要点と細部との関係を抽象的
に理解することができるようになります。ですから、文章の中のこれこれの事実を読みとりなさいとか、どんな事が
書いてありますかとか、いうのではなく、それらの事実は、どういう意味を表しているかを理解する、そういう思考
が働くような学習課題を設定する必要があります。高学年になると、もっと筋道を立てて考える、論理的に考える力
が伸びてきますから、書かれている事柄が表す意味と、さらにその奥にある書き手の意図や考えまでも理解する能力
が発達してきます。ですから、学習課題も、文章の要点や作品の主題をめがけて学習が行われるような課題を設定す
る必要があります。このことを貝体的に言ってみれば、やがて児童が学習した結果を評価する場合に、評価の基準と
してあげる条件がそのまま学習の課題になるような課題では、能力の発達に合った、適切な思考を進めることはでき
ません。
 このように学習課題を設定する場合には、思考・認識の発達や思考の特性−課題性・一貫性、創造性などに応じる
必要があります。

 (五) 学習方法設定の心理

 1 課題意識の確認


 学習課題が設定されると、今度はその課題に従って学習を進めるわけですけれども、どのように学習を進めたらい     P118
いか、学習の方法を考えます。ところで、課題に従って学習するのですから、その課題が、何についてどのように理
解するのか、課題の内容が十分に理解されていなければ学習は進められません。その課題の内容が十分に理解される
と、それを何としても解決しなければならないという意識、課題意識が明確になります。課題を解決しようという課
題意識がはっきりしてきます。
 その課題意識にもとづいて学習方法を考え工夫します。学習方法を思い出すにしろ、新しく工夫するにしろいつも
そこから出発します。このように、課題意識を明確にした上で学習方法を考える必要があります。

 2 学習方法の工夫

 つぎに学習方法の工夫ですが、児童たちは、すでにある方法で学習しますと、その方法が記憶されます。特に、そ
の方法によって学習した結果、学習に成功しますと、必ずその方法が記憶され、方法意識がはっきりします。こうい
う方法で読んだらよく理解できた、こんな方法で学習したらよくわかったという意識・記憶、さらに学習に成功した
喜びを持ちます。満足感を覚えます。
 ですから、そういう意識・喜び・満足感に嘉づけられた方法が記憶されます。こうして、いろいろな学習法が記憶
されプールされます。そのプールされている学習方法の中から、今必要とする方法を思い出させて学習方法を児童た
ちに決めさせます。
 しかし、今までの学習法、プールされている学習法の中に、これから課題を解決するのに必要な適切な方法がない
場合には、すでに記憶しプールしている既習の学習法と、課題意識とを喚起して、新しい方法を考えさせ工夫させま
す。これが学習方法を設定し工夫する原則です。と言っても、実際には憤れないとうまくいきません。実際に児童が
その学習方法を記憶し保存しているにもかかわらず、教師がそれを想起させ、工夫させて使うようにしないで、せっ
かくプールしている方法を押さえてしまう心配がないわけではありません。


こうして、学習方法を想起させたり工夫させたりするためには、学習に成功したあとで−学習が終わった時に−どん     P119
な技能を使ったのか、どんな読み方をしたのか、どんな学習技術を使ったので学習に成功したのかを反省し、自覚さ
せることが大事です。学習の終わりごとにそれをくれ返します。そうしないと、学習技術・学習方法が記憶され、保
持され.身につくようにはなりません。
 こうすることで初めて、学習活動・学習行動が活発に合理的に行われるようになります。

 (六) 学習行動の心理

 1 学習とは何か
 
 ここで特に学習活動のことを学習行動というのは、行動学、行動理論にもとづいて学習指導の研究をしているから
です。わたしどもは、行動目標の理論を考え、行動目標の設定の方法を考える場合にも、学習方法を考える場合にも、
国語教育のシステムを考える場合にも、その根底に基礎理論として行動理論、ゲシュタルト理論を置いています。そ
れが、機能的国語教育の方法論を進める上の基礎理論にもなっています。
 そこで、単なる方法としての学習活動と考えないで行動理論にもとづく学習行動と考えています。そのほうが生産
的に考えられるからです。学習行動はさらに発展的に言えば、学習は考えることが基礎になっていますから、思考行
動と考えてもいいと思います。また、学習は認識でもあるから認識行動と呼んでもいいと思います。そこで、児童が
学習行動を進めていく上の心理を理解しておかないと、学習行動を十分に進めることができにくいと考えられます。
その点から、もう一度学習とは何かということを明確にしておきたいと思います。
 学習を行動理論的に考えてみます。学習というのは一般に行動の変容であると考えられています。行動の変容とは
何かというと、外部から刺激を受けてそれに反応する。その場合に、いつも同じ刺激を受けると反応も同じ型になる。
つまりパターン化します。この刺激に対する反応のパターンが形成されます。こうして、刺激に対して一定のパター


ンを形成していく、反応のパターンを作っていく、その過程が学習であります。                     P120
 この刺激に対する反応は心的なもの、内部的なものです。文章を読んでーことばの刺激に反応する場合、「雨が降
ってきました。」という文を読むと、その反応のパターンとして「雨が降ってきた」という意味が形成されます。つ
まり、そう理解します。それが心の内部に形成された理解の型、意味の型で、形成された内部行動です。したがって、
形成された行動は心内のもの、内部行動でありますから、それがどんな状況・組織・形式になっているかを、観察し
たり、測定したり、想定したり、想像したりすることはできません。
 つまり、文章を読んで−言語刺激を受けて、こういうことがわかった、こういう知識が得られたという、それが行
動です。ですから、そのように行動を変容する過程が学習です。その学習の結果得られた知識や情報を普通「所産」
と言います。
 このようにいろいろなパターンの行動を作っていく、所産を作っていくことによって行動がしだいに組織され体系
化されていく。知識の体系などというのがそれであります。

 2 学習課題の実現−課題憲織の強化

 そこで、学習行動を進める場合には、学習課題に従って考えていきます。ですから課題の実現とでも言いましょう
か、課題意識が強化されます。課題意識が強化されないと、その課題を解決するのに必要な、たとえば、課題を解決
するために、文章を読むのに必要な技能が十分に適切に働かないと言えます。ですから、学習動機がいちだんと強化
されて、よし、これからしっかり学習するぞという意欲、態度にささえられ、保証された読む技能を働かせないと、
積極的な生産的ないい学習は実現しないと思います。
 これは能力調査をしたときにわかったことですが、自分のもっている能力を、最も有効に積極的に働かせることが
できるのは、明確な目的をもって働かせるときです。何のためにこういうことを調べる、こういう解決をするために
考えるというように目的を明確にしたとき、つまり、課題意識が非常に強くなって、学習意欲が高まったとき、学習


態度の裏づけ、保証があるときであります。                                     P121

 ですから、課題意識を明確にし、さらに強化して学習行動を進める。すると、学習行動は一だんと活発になって、
内部行動の変容も盛んに行われ、所産も増していくことになります。これを行動学では、「内部行動」、あるいは「あ
らわでない行動」と呼んでいます。

 3 内部行動の外部行動化

 ところで、学習によって変容した行動・所産は、内部行動・あらわでない行動でありますから、どのように学習が
成立したのか全くわかりません。つまり、その内部行動を表に出してみなければ、その実態・実状を知るよしもあり
ません。そこで、内部行動を表に出す。表に出して、それを観察したり、測定したりすることができるものにします。
それが「外部行動」「あらわな行動」です。このようにあらわでない行動・内部行動を、あらわな行動・外部行動に
変える、それが外部行動化です。
 外部行動化の方法は、一般に教室で行っているように、たとえば文章を読んだあとで、「どんなことがわかりまし
たか」「主人公の気持ちはどんなでしたか」などと聞いて、わかったこと(内部行動)を「言わせたり」「請させた
り」「書かせたり」します。つまり、内部行動を話しことばの言語行動、書きことばの言語行動として表に出す、外
部行動化します。ことばや文章に書き替えさせます。そうしないとどのように学習が行われたのかがわかりません。
 この話を聞いたり、書いた文章を読んだりして、どのようなことがわかったのか、理解されたのかを推定し想定す
ることができます。内部行動をそっくりそのまま話したり、書いたりすることにはいろいろな障害があります。した
がって表に示された言語行動が内部行動と同一とは言い切れません。したがって、外部行動化された言語行動(談話
・文章)を観察し理解して内部行動(理解した内容)を推定し想定することになります。この場合、学習行動の結果、
理解したこと(内部行動)をすべての児童に話させることは、実際の授業では不可能なことです。よく世間には話し
合いだけで学習を進めていく例を見ますが、これでは一人一人がどのように学習したのか、理解されないままに学習


が進められていきます。これで学習を終わったのでは、どれだけの児童が学習に成功したのか、不成功に終わったの     P122
かが全くわかりません。ですから、学習の結果変容された内部行動(所産・理解)をことばで話すか、文章に書くか
して外部行動化しま塞この外部行動化が、次の学習を指導する第一歩になります。

 4 外部行動化と学習シート

 ところが、学習の結果を、全部の児童が話すことによって外部行動化することは、実際の授業の中では不可能です。
しいて話させれば、時間はかかるし、微妙な違いのある話の評価も困難だし、その結果の処理も適切にはできません。
勢い学習が困難になって収拾がつかなくなります。児童もあきてしまいます。そこで、学習の結果を文や文章に書か
せれば、すべての児童が短時間に内部行動を外部行動化することができると同時に記録することができます。この書
いた文や文章を読んでみれば、すべての児童が、学習の結果どのような理解を得たかを明確に知ることができます。
児童もまた、自分の学習の結果を確認することができます。
 完全学習をめがける学習指導では、この全児童の学習の結果を明確に知るということが最も重要です。学習の結果
が明らかにならなければ、何をどのように指導すれば完全習得できるかがわからないからです。このほか、内部行動
を外部行動化する方法には、劇化する、動作化するというような具体行動化、絵にかく、図にかくというような絵画
行動化・記号で示すというような記号行動化などの方法があります。これまで主として言語行動化の方法だけを取り
上げてきましたが、前述の方法も、内部行動の内容、性質に応じて過当に使い分けるようにします。
 ところで、内部行動を外部行動化するのですから、そのために必要な学習シートの工夫がここから生まれてくるわ
けです。このことをよく考えて学習シートを作らないといいシートはできません。児童は、学習の結果どれだけのこ
とを理解したかをこの学習シートに書き表します。それをもとにして次の学習、学習指導が始まるということを考え
てシートの工夫をすべきです。わたしが、ワークシートと呼ばないでいつも「学習シート」と呼んでいるのは、その


ような本質的な考え方に立っているからです。                                    P123
 学習の結果が、ここに骨Hき表され、それにもとづいて次の学習が計画され実施されます。また、その結果がここ
に書き表されます。こうして学習が進み展開されていきます。つまり、学習を進める上の計画、方法、結果を確かめ、
評価・調節をしたりするための学習シートであります。

 5 学習の深化と評価基準の設定

 学習シートを見ると、学習に成功したものと失敗したものとがわかります。そこで、児童の学習の結巣を取り上げ
て(学習シートに書かれたもの)それについて検討したり話し合ったりする過程に学習を加えていきます。それは、
自己学習では十分に学習できなかった事項について共同学習をすることにはかなりません。この共同学習を通して、
内容を正確に理解したりいっそう深いところまで−たとえば書かれている事柄が表している意味を考えたり、筆者が
言おうとするところを想定したりー理解したりします。また、自己学習では意識的に学習できなかったことばの意味
や用法、指示語や接続語の機能、基本的な文型などについて改めて学習します。
 このような共同学習の機会を作らないと、自己学習だけではなかなか学習を確かにするとか、学習を深めるとか、
いわゆる言語事項の学習を適切に行うとかすることができません。この自分たちが学習した結果を検討し合うという
この学習は、主として児童たちが自分で評価の基準、自己評価の基準を設定し理解するためのものと考えてきました。
が、実は前の学習行動の継続、発展、展開であります。
 前半は自己学習、後半は共同学習です。共同学習をしている間に、ああこれは誤りだ、これでは適当ではない、あ
るいは、これが正しい、こうすれば正しくなると、学習した内容の適否正否を認識します。この正しいものに対して、
自分の学習した結果はどうだろう。評価の基準に照らして自己評価をします。ここで大事なことは、評価の基準がほ
んとうに共同学習の過程で十分に児童に理解されたかどうかということです。評価の基準、つまり、学習の結果この
ような理解に達すれば、それで学習に成功したと判断することができる尺度となるものです。これは実はその時間の


学習目標に示されている内容的事項です。                                       P124
 したがって、この内容的事項は、児童たちが共同学習の結果、これが学習課題に応じた正しい答えだと決めた内容、
課題に応じて正しく理解した内容です。それが評価の基準となるものですから、十分に児童たちに理解させます。
 よく理解されていない基準で、自分の学習の結果を評価することはできません。このことが特に大事です。
 で、これまでは、評価の基準はいつも教師が立てた基準を自分の学習の結果に当てはめて自己評価してきました。
ですから、評価が勢い形式的になってしまいます。それは、ものさしが、どんな長さを示すものかも知らないで、そ
れで自分のせいの高さを計ってみるようなものです。形の上では自己評価をしていますが、ほんとうに尺度の意味、
示すものがわかって、それで自己評価をしているわけではありません。
 したがって、自分の学習結果を形式的に評価してみても、その藁準がどんなものかを理解しないままに行った評価
では、かりに学習に成功したことになっても、また学習に不成功に終わったにしても、その実状を十分に理解するこ
とができません。言い換えれば評価の結果に対して信頼がおけない、自信が持てないということになります。
 いずれにしても、学習の結果を共同で検討する過程で、学習の深化拡充を図るとともに、いわゆる言語事項の学習
が機能的に行われることになります。こうした学習を適して、児童たちは、評価の基準を自分たちで定め、それによ
って自己評価をすることになります。

 6 学習評価の結果の処理とその心理

 そこで、自己評価が行われますと、自分で学習に成功したと判断する児童が出てきます。この学習に成功したと自
覚した者については、何らかの形、方法によって、学習に成功した喜び、満足感を十分に味わわせてやることが大事
です。児童といえども学習に成功すれば、それに満足し得意になることは容易に想像されます。
 この学習に成功したという意識は、もっと勉強しようというように、いわゆるスプリングボードの役目を果たしま
す。そして、次の学習へと進み発展していきます。これが、いわゆる第二の学習動機の喚起ということになります。


それから、評価の結果学習に失敗したもの、課題に対する答えが適切でなかった者もたくさんいます。これら児童に     P125
対しても適切な処理をすることが大事です。
 学習に失敗した場合、普通児童だったら、よし、今度はまちがえないようにやるぞ、今度こそ成功させるぞという、
いわゆる自己完成の意欲が喚起されます。だれでも、まちがったり、失敗したりすれば、あるいは自分の意に満たな
い結果になれば、ようし今度こそと思うのは人情の自然です。このことをよく理解して、学習に失敗した児童を取り
扱うことが大事です。
 この指導に失敗すると、次の学習調節がうまくいきません。自分はまちがったという意識が強調されると、児童に
挫折感を持たせる心配があります。挫折感を持たせてはいけません。しばしば挫折感を持たせると、児童に劣等感、
劣等意識を持たせてしまいます。いったん劣等感を持たせますと、児童は自分にはできないと思い込んでしまって、
学習を投げてしまいます。それでは学習はもう成り立ちません。
 ですから何とかして、君はここまでできた、もう少しでできる、あともうちょっとの工夫で学習に成功できるとい
うように意識づけて、学習調節の条件をいっしょに考えてやるなどして、自己完成の意欲を喚起し盛り立ててやるよ
うに、指導の工夫をする必要があります。
 また、一クラスの中には、前に述べましたように、ほとんど学習のできない児童が何人かおります。いわゆる落ち
こぼれた児童たちです。完全習得をめがける学習指導では、これらの児童を見捨てるわけにはいきません。これらの
児童もそれなりに努力をし、一所懸命に学習をしているのですから、評価の結果−評価ももちろん自分ではできにく
いのですから、教師が適切に指導する必要がありますーの状況についても理解させたり、それに応じ教授を考えたり
する必要があります。一般的にはこれらの児童は、とかく劣等感を持ったり、持ちやすかったりしますから、その状
況に応じて適切に教授する必要があります。
 要するに評価の結果が十人十色であるから、その実状に応じて、自己学習、共同学習、教授を調和のとれた形でシ
ステム化していく必要を感じます。


                                                         P126
 (七) 学習評価の心理

 1 学習の過程における心理

 学習、たとえば、学習課題に答えようとして、読解学習を進めていく中で、児童はいつも、課題に答えるものは何 
だろうか、課題への答えはどのように書かれているのだろうか、果たしてこの事実や意味が課題への答えとして適切
なのだろうか、確かにこれでいいと思うがどうだろう、確かにこれだ、これでいいというように、学習した内容に対
して疑問を持ったり、不安な気持ちになったり、時には、半ば確かだと思いながらも確信が得られず、また、いった
ん確信をもってもその嘉に、果たしてという一抹の不安を持ったりします。
 したがって学習の結果を学習シートなどに書いて、自分の学習の結果を明確に記録すると、それと同時に学習を終
えたという安心感と隣り合わせに不安と疑問と時に確信とが湧き起こってきます。その疑問や不安を解消したり、確
信を豪づけてくれたりするのが評価であります。

 2 学習評価への期待

 つまり、学習の結果の評価にかける児童の期待は大きいものです。学習の結果に対していささか自信を持つものは
評価の結果がそれを保証し裏づけてくれることを願っています。ですから評価してみて、それが正しい、できている
と知った時の喜びは特に大きいものです。時にはそれを誇らしげにことばや態度に示すことさえ珍しくありません。
そしてその勢いに乗ってさらに学習を進めようとする意欲に燃えることは、前にお話した通りです。
 また、学習の結果に不安を感じているものも、一面できているかも知れないといういささかの期待をかけながら、
その状況が明らかになることを望んでいる向きもあります。だれしも自分の学習の結果が誤っていたり適切でなかっ
たりすることを喜ぶものはありません。したがってどの児童も評価が適切に行われることを期待しています。できた


にしても、できないにしても、その正否にかかわらず評価が正確に適切に行われて、それが児童たちに納得できるも     P127
のであることを望んでいます。
 もちろん、現在の実験のように、共同学習の過程で評価基準を自分たちで作っていく場合には、その時すでに、明
確ではないにしても、できたか、誤っているか、適切でなかったかなどの見通しは立っていますそれだけに早く正否、
適否を明確にしたいという心がはやります。

 3 学習の評価と行動目標

 どの児童にも、その時間に学習する内容−内容的価値と技能と言語事項−を習得させる、習熟させるというのです
から、ここまで学習させようとする目標が明確になっていなければなりません。要点を理解する技能を育てるとか、
心情を豊かにするとかいうような高度で、あいまいで、ここまで学習させるという程度、いわゆる到達度がはっきり
していないものでは、完全習得学習を計画することはできません。
 学習目標が、児童の学習能力の発達を押さえ、十分に、適切に分析された、それらのいくつかを−過程的に分析さ
れた目標の一つ一つを完全に習得していけば、単元の目標に到達できるという目標を貝体的に発達的に掲げなければ
なりません。しかも、その目標に到達したかどうかを判断する基準−到達基準が明確になっていなければなりません。
わたしどもは、この到達目標を行動日標として立てることにし、これまで実験を重ねてきました。
 その行動目標は、ど承知のように目標を行動的に記述しますから、それを観察したり、測定したりして評価ができ
るような具体的なものとしてーその目標の中には、その学習の結果、ここまで到達させればいいという到達基準、つ
まり、評価基準を内包しています。今実験している説明文−知識や情報の文章−では、こんな技能を働かせて理解し
た文章の内容(内容的価値)を書く(言語行動化)という、その基準が、貝体的に書かれています。行動目標に示さ
れている内容的事項がそれです。
 だから、そこに示されている内容的事項のように理解できれば、行動目標を達成できたと判断することができます。


したがって、その内容的事項は、行動目標が達成できたかどうかを判断するときの基準になります。それがいわゆる     P128
評価基準であります。
 教師はこのことをはっきりと理解しておく必要があります。しかし、実際の授業では、前に話しましたように、こ
の行動目標をそのまま児童の前に、文章の内容をこのように読みとって理解するのがきょうの学習目標ですと提示す
るわけにはいきません。そこで、その行動目標が達成できるような、学習課題を設定いたします。その学習課題に従
って学習を進めていけば、行動日標が達成できるということになります。
 この行動目標を、学習課題として展開し、それに従って児童が学習を進めるというところで、行動目標と児童との
心的関係が成り立つことになります。ですから、この行動日標の心理というのは、児童が行動目標をめがけて、課題
解決の学習を展開する、それぞれの過程における心的過程を考えてみようということであります。

 4 学習評価の機能と心理

 ここで学習評価と言っているのは、学習を進めていく中で行う評価のことです。ブルームのいう形成的評価(For-
mative Evaluation) のことです。学習の過程で学習するさまざまな技能をしだいに形成していくために、学習行動
ごとにその結果を評価して、学習状況を明らかにしていきます。
 かつては、この評価は教師がするものでした。しかもその方法は、児童の顔色や挙動を見たり、学習の結果を質問
して、何人かの児童に答えさせたり、挙手させたりして、それを教師が観察して判断する。きわめて主観的なあいま
いなものでした。児童の発表するのを聞いていて、いいとか悪いとか、できたとかできないとか判断をその場で下す
だけでした。それを記録しておくなどということはありませんでした。それに応じて、学習がどこまで進んだのか、
どれだけの技能の学習ができたのか、全くわかりませんでした。ただ、ムード的に、一部の児童の学習にささえられ
て授業は展開していくことが多かったように思います。
 しかし、学習が主として教師と児童との問答によって、質問応答によって、あるいは話し合いによって進められて


いた、あるいは現状では、それもやむをえないことだったと思います。このような評価は、教師が児童の学習の結果     P129
についての情報を得て、それで学習指導の展開や進行をスムーズにするための手段に過ぎませんでした。したがって
児童にとってはーそれもどく一部の児童でありますが−学習の結果を教師に認めてもらう、あるいは表彰されるのを
期待するほどのものでありました。
 それが戦後評価研究が進むに従って、評価は教師のも町である以上に児童たち自身のものになってきましたまた、
評価の方法も、教師中心の評価から、学習者である児童が、自身の学習の進歩を自党し認識するためのものとなって
きました。教師の評価からしだいに児童の自己評価へと近づいてきました。
 したがって、評価は教師にとっては、児童の学習の結果についての情報を求めることが中心になってきました。も
ちろん、児童の学習方法や学習結果についての情報を得て、児童の学習能力の実態を押さえたり、児童の感覚・感情
とか、努力とか、そういう人間性にも触れたりもします。が、そういう情報を得て、指導計画を調節したり、学習の
かじ取りをしたり、あるいは学習を進めたりします。また、学習指導の方法を工夫したりします。学習の結果を概観
したり、整理分類したりして後の学習調節のための準備もします。
 こうして、評価は、教師にとっても大事な仕事になってきました。評価をぬきにしては、児童の実状の理解−客観
的な理解はできなくなっています。また、児童にとっても評価は、自己を知るための重要な手段になっています。学
習結果の評価を通して、学習状況を認識し学習調節を行うための資料・情報を得ることができます。

 5 自己評価の心理

 というわけで、学習の評価は、教師中心の評価から児童中心の評価、特に児童の自己評価の方向へと進んでいます。
児童の学習は、学習課題にそって展開されますが、学習課題は児童たちが話し合いによって主体的に設定します。そ
の学習課題を解決するー学習する方法もまた、児童たちがそれぞれ記憶し保持している学習法を想起したり、新たに
工夫したりして、自分たちで決めます。その方法に従って自主的・積極的に学習を進めていく過程で、国語の技能を


伸ばしたり、ことばの力を育てたりしながら、そこに表現・叙述されている、構造化されている意味−知識や情報を     P130
理解していきます。
 こうして、児童は自分たちで課題を決め、学習方法を考え、主体的に学習行動をしてきたのですから、その一切に
ついて児童は責任を感ずべきであります。またそのように仕向け指導していくべきでもあります。この自分の学習の
結果に対して、自分の責任を果たす手段が自己評価であります。自分の行動に亮任を負い、自分の行動の結果の正否
・適否を明らかにするのも児童に課された責任といっていいと思います。
 したがって、児童は自己評価をするためのいわゆる評価の基準や、評価の方法についても十分に理解し信頼してい
るものでなければなりません。評価の基準は原則的には、その時間の行動目標の中に明確に設定してありますが、そ
れを自分たちの評価の基準として再認するのもまた児童たち自身であります。それも、自分たちで共同学習をした結
果その正当性を承認したものであります。それだけに児童たちにとっては権威のあるもの、基準としての価値のある
ものであります。
 こうして、十分に理解した自己評価の基準という物差をあてて自分の学習の結果を評価します。児童にとってこの
評価基準は絶対的であります。それだけにその評価基準は客観性を持ちうるものに限る必要があります。したがって
文学作品の読解鑑賞のように、主観的要素を多分に持っている場合には、児童たちが話し合い、学習によって評価基
準を決めるときに、そのわくを広げておかなければなりません。このことについては、文章の読みの評価のところで、
別に詳細に検討してみることにします。
 ところで、評価の基準が明確に理解されますと、それを物差にして自分の学習の結果を評価することになります。
が、評価の基準をそのままあてはめるのでは、示された基準の見本と、自分の学習の結果を書いた文とを一々対応さ
せて、その異同を判断することになります。このやり方がいわゆる「見本法」による評価です。
 この評価法では、学習に成功している場合には、あとで学習調節をする必要がありませんから、別に問題は残りま
せん。けれども、学習に不適応のものにとっては、基準の見本をそのまま提不したのでは、調節学習をしないで、自


分の誤りを訂正する可能性があります。したがって低学年では別として中学年以上では、この見本法による評価では     P131
不都合なことが起こります。
 そこで、この弊害を除くために、評価基準の内容を分析して、構成要素・分節を取り出して、それを物差とし条件
として、自分で書いた答えを分析し、その正否・適否を自分で判断するようにします。これが、いわゆる「条件法」
による評価であります。
 こうして、自己評価によって、自己の学習の結果の状況を認識し理解します。これはみずからの手で、みずからの
学習状況を町らかにすることです。それだけ児童にとっては強い刺激となり、そこから学習への関心を高めることに
なります。自己評価は、児童の自己学習・自己開発・自己制御に欠くことのできない評価法です。

 6 自己評価と自己認識の心理

 自己評価は自己認識の手段であり、自己制御への道でもあります。説明文の読解の例をとってみると、児童は読む
ことを通して理解する知識や情報の状況はさまざまです。しかし、それぞれの理解がどの程度のものであったかは、
児童にはよくわかりません。いずれも正しくあれと願うだけです。もちろん、中には自信をもっているものもいるで
しょう。できなかったとあきらめているものもいるかも知れません。が、いずれも評価に期待をかけています。それ
が一般の教室です。
 しかし、わたしどもの実験では、前にも話したように、共同学習を通して、学習を深めながら、正しい読み方、つ
まり、評価の基準となるものを、だんだん詳しく正確に理解していきます。したがって、自分の学習の結果は、正し
いらしいとか、誤っているらしいとか、あの点はいいがこの点は不十分であったとか、わたしのは教科書の文章をそ
のまま書いたものとか、わたしのは基準と同じだとか、確かにではないがほぼわかってます。
 それを自己評価によって確かに明確に自己の学習の結果を認識していきます。認識の観点は、評価の基準として示
される条件です。その条件に照らして自分の学習の結果を分析し評価して認識していきます。評価の条件に照らして


一つ一つ条件に引き合わせて正否・適否を自分で判断していきます。全部できていたときの児童の喜びは、いっそう     P132
学習への意欲を高めていきます。勢いに乗ってという感じです。確実に伸ばされた自分の力を、評価によってはっき
りと自覚し認識していく、ここに評価の大事な働きがあります。
 また、評価の基準に照らして明らかに誤っている、適切でない、条件がたりない、余分な内容が読み取られている
条件は合っているが課題に応じた答えになっていないなど、さまざまな誤り、不備・不適切などが、それぞれはっき
りして、自分の学習の結果の認識が、各自確かになってきます。
 こうして、各自自分のつまずきのあとが明確になると、ここに児童の複雑な心理が働きだします。挫折感を感じる
もの、今度こそはと次の学習に期待をかけるものなどさまざまですが、それを児童の能力差や心理の違いに応じてそ
れぞれ自己完成の意欲にまで高めていくところに教師の大事な役目があります。いわゆる第二の学習動機を喚起して
調節学習へと導くところが重要です。

 (八) 学習調節の心理

 1 学習の自己評価と自己調節

 自己評価の結果、学習に成功したものは、そのまま次の学習に進みます。したがって学習を調節する必要はありま
せん。が、学習に失敗したもの、不適応なものは、その不適応の状況に応じて学習を調節して成功に導きます。つま
り、自分で評価によって発見した誤り、その誤りを自分で直し、自分の力をさらに伸ばす、そこに学習調節・自己評
価・自己調節の学習が成り立ちます。これが学習制御(学習のコントロール)であり、その過程が学習の調節回路で
あります。これらの自己調節を進める過程における児童の心理が、学習調節における心理であります。


                                                         P133
 2 自己調節の条件

 児童は、学習の自己評価によって、それぞれどこにどのような誤りがあるか、どこが不十分か、どこが削るべきと
ころかなど、学習結果の状況をそれぞれよく知っています。また、知らされています。その上、前に述べましたよう
に、それぞれ今度こそはという自己完成の意欲をもって学習に立ち向かおうとしています。これがいわゆる学習結果
の知識(KR)によって、自己完成の意欲を喚起するということです。
 そこで、各自の学習能力を十分に発揮できなかった結果をよく分析し考察して、どのように学習を調節すれば、学
習を成功に導くことができるかを考えます。そのためには何といっても、自分の学習の結果がどのようなものである
かを、評価の.基準に照らして正確に詳細に理解していることが大事です。その理解がないと、次にどのような読み
方をすれば正しい読み方ができるかを考えることができないからです。
 というわけで、今度はこんな点に注意して読めばいい、学習課題を再確認して、それに応じた読みをすればいいと
いうことをそれぞれ考えて決めます。これがいわゆる学習の調節条件です。
 ところで、実際の授業になると、自分の学習結果の状況を詳細に理解することは十分にはできません。十分に理解
できなければ、どこをどのように読み直したらいいかを判断することはできません。そんな場合には、これまで、教
師がそれぞれの児童に対して、個別にというわけにはいきませんが、結果の状況をいくつかにパターン化して、それ
に応じた調節条件を設定してやります。しかし、その場合には、児童の納得のいくように十分その条件の意味や方法
を理解させる必要があります。

 3 調節学習の心理

 各自、自分の学習調節の条件が決まったら、それに従って調節読みをします。調節読みは、どのように読んだらい
いか、調節条件がはっきりしていますから読みやすいという利点があります。また、すでに一度二度読んでいる文章


ですから、文章に対する親しみも、ある程度、またはかなりの程度に理解されています。その上自己完成の意欲−よ     P134
し今度こそは正確に読むぞというような自主的な粘極的な態度にささえられて読みます。ですから読みの力も十分に
働きますので、最初の学習よりはるかに読みやすくなります。
 したがって、最初の読みに失敗したものでも、もちろんその不適応の度合いによっても違いますが、調節読みでは、 
成功する可能性がはるかに高くなります。
 こうして、調節学習によって、学習に成功しますと、しかも、それが自己調節によって行われますと、最初の学習
に成功したときと同じように喜びを感じ、満足感を覚えます。もし、調節学習によっても学習に成功しないことが続
くと、前にも述べたように児童は挫折感を覚え、それが度重なるといわゆる劣等感を持たせてしまいます。この点特
に注意すべきことであります。


                                                         P135

 Z 完全習得をめざす読解指導の実際

     一 教材「はやいのりもの」

       「事柄の大体」を正しく理解する完全習得学習の展開

 1 単元のシステム(単元正しく読みましょう教材「はやいのりもの」)一年第一学期


  


                                                                                                         P136-137




                                                                                       P138-139


                                                                                        P140-141





                                                                                        P142-143




                                                                                         P144-145



                                                                                        P146-147



                                                                                        P148-149


                                                         P150-151


                                                                                        P152-53




                                                                                        P154-155



                                                                                        P156-157



                                                                                        P158-159



                                                                                        P160-162



                                                                                        P162-163



                                                                                        P164-165



                                                                                        P166-167



                                                                                        P168-169



                                                                                        P170-171



                                                                                        P172-173



                                                                                        P174-175



                                                                                        P176-179




                                                                                        P176-177



                                                                                        P178-179



 うつくしく 空にひろがるか、みんなに 話して きかせました。                          P180
 そんなに うつくしい ものなら 見たい ものだと、みんなが おもいました。
 「それなら、 こんばん、山の てっぺんに 行って、あそこで うち上げて みよう。」
 と、さるがいいました。
 みんなは、たいへん よろこびました。 夜の 空に、 星を ふりまくように ぱあっと 広がる 花火を 目
 にうかべて、みんなは うっとりしました。
   
(2)学習目標(行動的目標)
   さるの話を聞く場面で
  @ さるが話したことを想像しながら読んで、その様子をさるのことばで、次の条件を含めて話したり書いたり
   することができる。
    o大きな音(ドッカーン)
    o美しく空に広がる花火(肯・赤・黄)
  A 花火の美しい様子や、うっとりしている動物たちの気持ちを想像しながら読んで、花火の美しい様子を、次
   の条件を含めて絵にかいたり、動物たちの気持ちを話したり書いたりすることができる。
    絵・星がいっぱいある。・花火が広がっている。
    気持ちい花火の美しさにうっとりしている気持ち(すてきだなあ・きれいだなあ)
(3)学習内容(△態度○技能o言語事項)
   △想像したり期待したりしながら読もうとすること
   ○場面の様子を想像しながら読むこと


   ○人物の気持ちを想像しながら読むこと                                     P181
   ○場面の様子・気持ちを想像しながら音読すること
   o 次の語句を文脈に即して具体的に理解すること
    oどんなに…oそんなにoそれならo夜の空o星をふりまくようにoぱあっと広がるoうっとり
(4)「場面の様子や気持ちを想像しながら読む」完全習得学習の学習過程モデル
  @学習単位全体を読んで、直観的に粗筋を押さえる
  A分析的に読んで、場面表象や動物たちの心情表象を描く(自己学習)
  B描いた場面表象や心情表象について話し合う(共同学習・学習の深化)
  C話し合いながら評価の基準を立てて自己評価する(学習の結果を評価する)
  D評価の結果にもとづいて学習を調節する(学習を調節する・教師の指導)
  E場面の様子や気持ちを想像しながら体制的に全文を音読する
  F学習目標に到達する
(5)本時の学習指導過程
  この学習指導過程は、(4)の学習過程モデルを中心にして編成してある。
  フロチャートで示してあるので、′簡単に解説しておきたい。
  フロチャートは、中央が児童の学習過程、左端が学習指導の過程、その右側が教師の指導、右端が、児童の学習
  作業というようにシステム化されている。それはそのまま授業のシステムを表している。
   シンボルマークは、国語科の学習の特徴を押さえて、国語科独自のものが工夫されている。
  国語科の学習は、すべて、読む活動、書く活動、聞く活動、話す活動、話し合う活動によって行われる。
  したがって、それぞれの活動をシンボライズしたマークを作成し、視覚的に活動形態がわかるようにした。
  しかも、学習過程は、学習活動を組織・編成したものであるから、シンボルマークの配列がそのまま学習過程を
  示すことができるようになっている。
   長四角の左側の辺が二重になっているのが目標、右側の辺が二重になっているのが方法、平行四辺形が読む、
   台形が書く、長い円が話す、長円の左の孤が二重になっているのが聞く、両孤が二重になっているのが話合い、 
  菱形が評価等の活動をそれぞれ表している。


                                                                                         P182-183



                                                                                         P184-185



                                                                                        P186-187



                                                                                        P188-189



                                                                                        P190-191



                                                                                         P192-193



                                                                                        P194-195



                                                                                        P196-197



                                                                                        P198-199



                                                                                        P200-201



                                                                                        P202-203



                                                                                        P204-205



                                                                                        P206-207



                                                                                        P208-209



                                                                                        P210-211



                                                                                        P212-213



■ 参考図書・論文
oギョームゲシタルト心理学(八木鼻訳)岩波書店
o学習の心理学R・ボージャー外著(能見・中野訳)誠信書房
oシステムの科学H・Aサイモン著(倉井外訳)ダイヤモンド社
oシステム科学高水純一著筑摩書房
o教育工学入門ケイドツドサイモン著(渡辺茂訳)講談社
o教育工学の原理と方法坂本昂著明治図書
o教育評価法ハンドブックB・Sブルーム外著(梶田外訳)第一法規
o実践国語科教育工学入門中沢政雄編著明治図書
o新国語科のよい授業モデル中沢政雄編著明治図書
o講座国語科教育工学中沢政雄(「国語教育科学」二〇号〜二五四号。
国語教育科学研究会)
(国語科の目標・内容・方法・教材・評価・調節・実践理論・授業工学等)
o学習のコントロールシステムとして中沢政雄(国語科研究資料七明治図書)
o読解学習評価の科学中沢政雄(国語情報五巻九号・国語教育科学研究所)
o読解学習調節の科学中沢政雄(国語情報六巻六号・国語教育科学研究所)
o読解の学習評価・学習調節のシステム設計中沢政雄(国語情報七巻六、七号・国語教育科学研究所)


中沢政雄(なかぎわまさお)
 明治40年群馬県に生まれる。
 小・中・高校教諭,東京都指導主事,中学校長,等を歴任。
 現在国語教育科学研究会主宰,国語教育科学研究所長。
 主著に『機能的国語教育j(明治図書),『国語教育近代化の理
 論と実際』(三省堂),『国語科読解の学習技術』『実践国語科
 教育工学入門封漸個譜科のよい授業モデル』(編著,明治図書)
 などがある。
 現住所( 〒154)東京都世田谷区梅丘1−26−12




              完全習得をめざす読解指導の展開               _
              1982年7月初版刊
              1983年1月増補再版
                         著者  中沢政雄
                         印刷所 東洋出版印刷株式会社
                         東京都文京匝:小石川2-17-3
                         発行所 国語教育科学研究所
                         〒154 東京都世間各区梅丘1-26-12
              _          電話 (03)3420-2924 振替東京5-111551